第41話 大好きです!
「僕の願いは、あの日のやりなおし」
「やりなおし……」
誰にも邪魔されず、本当の想いを伝えること。
茶化すこともなく、捲し立てるのでもない。
正真正銘……一世一代の大告白だ。
「夜瞑奏さん、俺は君のことが好きです」
「っ……!」
彼女の髪型が、ぴくんと跳ね上がる。
「奏さんの最後まで俺や湊さんを慮ってくれるその優しさが好きです。繊細過ぎて、時々から回りしちゃう純粋さが好きです。好きなものを全力で好きだと表現する情熱が好きです」
「なっ、ま、また、も、もう――」
「尊いものを目の前にして、饒舌で早口になっちゃう正直さが愛おしい。どんな時だって自分よりも友達の方を優先しようと悩む姿を見て、俺は奏さんを好きになって本当に良かったと思えた。あの日、突然告白した時から変わりません。むしろ、想いは強まる一方で――」
俺は腰を曲げ、奏ちゃんに全力で頭を下げる。
「俺は、奏さんを幸せにしたい、いいや、一緒に幸せになりたい。俺と――付き合ってくれませんか?」
やり直しが上手くいったかは、正直分からない。
こう言っておいて、自分の方が空回りをしているかも……いや、絶対にしているだろう。
確かに、元の世界で、最初は一目惚れだった。
だけど、この世界にやってきて、実際に奏ちゃんとの交流を経て……その『好き』は加速する一方で、どうしても止まらなかった。
そして、ゲームでは知り得ない彼女の過去も知り、それに向き合う姿を見て、一緒に未来を歩きたいと願うようになった。
「か、奏は……未だに、その、わからないことが、いっぱいあります」
ドギマギしつつ、奏ちゃんは俺から少し視線を逸らしたり合わせてみたりと、忙しく視線を動かしている。
「何度聞いても、教えてくれません。好きだから、可愛いから……最初は、困惑がとても多かったです。だけど、一緒に推しについて語って、一緒に電気街を散策して、一緒にコミケで写真を撮って、プリクラを撮って、そして一人だけでは絶対に上がれない高みに……その中で生まれた困惑が、いつのまにか不思議な、別の気持ちに変わってきました」
受け取った幾つもの言葉をまるで実際に抱いているかのように、彼女は両手を重ねて自身の胸に当てる。
「きっと、それを『嬉しい』感情と、呼ぶのだと思います」
「……!」
「そして、それが友人としての嬉しい、とはまた違うのと思います。朝来さんは……最後までダメダメな奏を信じてくれました。絶対に優勝できると言ってくれました。家に来た時も、奏が落ち着くまで、ずっと待っててくれました。もっと、もっとちゃんと感謝したかったのですが……まだ一割だって返せていません」
すぅっ、と深呼吸をする。
「だから、せめてこれだけは逃げないで……きちんと伝えようと思います」
「…………奏さん」
「朝来さん……いいえ、怜音君。奏、もう自分ではどうにもできないくらいに貴方に恋をしています。愛しちゃってます、どうしようもないくらいに」
「!」
その言葉を聞いたとき、世界が停止した……そんな気がした。
「だから、もし、もしも……その、怜音君が、よければ……奏を貴方の彼女に――してもらえますか?」
「……嬉しいよ。こっちこそ、俺を奏ちゃんの……彼女にしてください」
この言葉を、俺はずっと待っていたのだと思う。
欲しい欲しいと思いながらも、いざ耳にすると……ぎこちなくなる。
「で、ですが、これだけは、言わせてください」
「な、なにかな……」
なんだろう、とても怖いというのが……正直な気持ちだ。
「最初、奏は自分をメンドクサイ女だって言ったの、覚えていますか?」
「ああ、そう言っていたね」
「怜音君は、出会った日から今日までいっぱいの愛を奏に注いでくれました。ですが……まだまだ足りませんっ。もっと、もっと奏に愛をくれますか?」
「っ! も、勿論だ!」
「そ、それにっ……奏の愛はもっと深いですっ。怜音君が、どんなにいっぱいの愛をくれても、奏はそれよりも速く……追いつきます。いいえ、追い越しますから!」
「ど、どんとこいだ!」
や、やばい。
成功した途端、急にヘタレだしてしまった。
やっぱり奏ちゃんはとっても可愛いのだった。
◇
信じられない! 本当に奏ちゃんが俺のことを好きだなんて!
だけど……これは夢ではない。
星の降る夜に、奏ちゃんと付き合うことができたのだ。
そう気づくと、途端に恥ずかしくなってきた。でもそれは……対面する奏ちゃんも同じだった。
「あっ、も、もしかして奏、また暴走してとんでもないことを……?」
「え、うん、すっごい嬉しいけど、なんか恥ずかしいというのも……」
「は、ひゃあああ!?」
奏ちゃんは、やってしまった、と言わんばかりに頭を抱えてしゃがみこむ。
「ま、まぁ、俺も、その? 簡単に追い抜かれないように全力を尽くすから、な?」
「うごご……フォローになってませんよぉ……」
「……奏ちゃんが、元気に戻ってくれて……本当に良かった」
「そ、それは奏も同じ気持ちです。怜音君が、これ以上嫌な目に遭わなくて済むと思うと、心がすぅっと、晴れ渡りますから!」
お互いに言い合った後、少しの間、笑いが止まらなかった。
「あ、あの、もう少し……星を見ていきませんか?」
「そうしよう。まだまだ後夜祭は続くのだからさ」
奏ちゃんがもっと星が見えるギリギリの場所へと、走り出す。
しかし、途中で止まり、俺を見て大きく息を吸う。そして――。
「怜音くん! 大好きですからーーーー!」
力強く、そう言葉にするのだった。
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