第22話 覚悟、示します!
「お前から呼ばれたと思ったら、珍しい人選ではないか。どういう風の吹き回しだ?」
放課後、誰もいなくなった部屋に呼び出したのは鉄心だ。
彼が来るのを、俺と奏ちゃんは迎えた。
「こ、こんにちは……夜瞑奏です」
「夜瞑譲か。もしや夜瞑湊氏の妹君だろうか?」
「ひゃ、ひゃい、そ、そうなりますね……」
「ふぅむ。成程、なかなかどうして整った顔立ちだと思った」
……うーん、流石にいきなり鉄心の勢いについていくことは難しいか。コミュ障気味な奏ちゃんなら猶更だろう。
「おい鉄心、抑えてくれ。夜瞑さんが震えている」
「はは、すまなんだ。悪気はない」
「それは俺が言う言葉だがな」
奏ちゃんと対面させるのは、最初はためらったが、流石にわがままは言っていられない。
「盟友、怜音よ。少し耳を貸せ」
「ん?」
鉄心は俺と奏ちゃんを引き剥がし、聞こえないような声で問う。
「驚いたぞ、てっきり葵嬢か天音嬢をサポートすると踏んでいたのだがな」
「色々あった……で今は納得してもらえないか?」
そういうと、鉄心は思う所があるのだろう、ほんの少しの間押し黙る。
「……いいだろう。背景を猥らに問うのは野暮ってもの。だが!」
そして俺から離れて、鉄心は力強く奏ちゃんに問う。びくっ、と震えてしまっている。
「ミスコン優勝の為に俺に頼ったのは、間違いなく佳き判断だ! だが、だがしかし、だ。夜瞑譲、貴様に覚悟はあるか?」
「覚悟……ですか?」
「左様。例年、ミスコンというのは激戦となる。骨肉の争いと言っても過言ではない。勝者が正義であり、敗者には何も残らない」
「……!」
「あのな、鉄心、言い過ぎじゃないか?」
「貴様はわかっていない。ミスコンとは、青春の集大成である。半端な気持ちでは聴衆の心は掴めないし、響かない」
本気度を確かめているのだろう……そう言われると、反論はできない。
「青春の集大成とか、正義とか……申し訳ありませんが、奏にはわかりません」
無言だった俺に反し、奏ちゃんは言葉を少しずつ紡ぎ始める。
「ほう?」
「ですが……こんな奏を応援してくれる人はいます。こんな奏と高みを目指したいと言ってくれる人がいます。だから、奏は、その人のために戦います!」
力強い言葉だった。
少し、涙が出てしまいそうだ。今の奏ちゃんは、最高に格好いい。
「……満点だ、俺は全面的に夜瞑譲と彼女の優勝を希う騎士を助けようではないか」
ほっ、と肩を撫で下ろす奏ちゃん。
「なぁ、盟友よ、もう一度耳を貸すのだ」
「「?」」
俺も奏ちゃんもよくわかっていなかった。
「意外だったぞ、よもや貴様がここまで女性に熱を上げるとはな」
「なっ、お前、それをいつ……」
「あのような特定の個人へ向けたラブレターに近い覚悟を表明されれば、いかに鈍い奴でも気付けないはずがないだろう?」
「ぐぬぬ」
「して、告白はしているのか?」
「……することにはした。だが返事はまだだ」
「ふむ、ほぼ勝ち確のようなものだが……理解した」
悪友は非常に含みのある笑みを浮かべる。悪い奴ではないのだがな。
「盟友よ、お前とて無策ではないのだろう?」
「一応、ある。だが宣伝の仕方とかは、お前の方が得意だろ?」
「俺を頼ってくれて嬉しいよ」
すると、コツコツと鉄心は教壇へ上がる。
「安心するといい、盟友の策と俺の力、そして夜瞑譲の美貌があれば優勝は十分に狙える」
「ありがとうございますっ!」
「ほんと、ありがとな、鉄心」
「言うな。ここからが大変だ。まず何から始める?」
これは決まっていた。
ドブ坂選挙――もとい、アイドル式必勝法……始まりだ。
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