第18話 流石に家族の前で口説くのは度胸がいりますよ
このままではあらぬ誤解が生まれそうなので、俺と奏ちゃん(仮)は多くのコスプレイヤーが休憩している適当な壁際に移動することにした。
「あ、これ代行してた分」
「……かな、私は何も知りませんが、奇遇なことに奏さんは知人なのでお渡ししておきますね」
「奏って言いかけてなかった?」
「…………」
成程、そういう感じでいくのか。
半泣き状態であるが、奏ちゃん(仮)は確かに戦利品を受け取った。
「ご本人には後でお金を受け取っておくので、お先に」
そう言いながら、定価をしっかりと俺に支払ってくれる。
この空気をどうしたものかと考えていると、奏ちゃん(仮)が……
「……どうして朝来さんがこちらに?」
限界を迎えたようだ。
「いや、昨日行くといったけれど……」
「…………」
困った。
非常に気まずい。何も悪いことをしていないが……他人のふりをした方が賢明だったかしら。
いや、この幸運を無駄にするのはあまりにももったいない!
「奏ちゃん」
「ふぁ、ふぁい……」
「撮影、して、いい……?」
「……何故ですか?」
弱々しくはあるが、俺を睨みつける奏ちゃん。
「その、きれいすぎるコスプレだし、そういう場だし……?」
「ですよねぇ……」
顔が真っ赤であるが、その辺は理解しているようで。ぎこちなさが気になるけど、ポージングを取り始める。
「こうなるなら美嘉の一眼レフを借りてこればよかった……」
「えっ、美嘉ちゃんも来てるんですか!?」
「うん、違うエリアで撮影してると思う」
「ちょっと着替えて……」
「駄目駄目」
俺はせめて一枚だけでも撮影しようと、彼女の手を優しくつかむ。
「奏ちゃんとの思い出を残しておきたいんだ」
「っ……そ、それは、そ、そうかもしれませんがっ!」
「それに、このコスプレ衣装の作り込み、凄いよ。これ、市販じゃないでしょ」
「これはぁ……姉様が作られた衣装です、はい」
「姉様?」
「あれ、言っていませんでしたか」
初耳だ。
公式の情報は逃さず拾っていたつもりだったが、流石にメインヒロインでないお助けキャラの家族構成までは書かれていなかった。
「姉様は、デザイナーなのです。定期的に奏を使い、衣装の試作をされるのです」
「その一環がこのコスプレってわけか。とっても似合っているよ」
「リア友に見られるとは思っていなかったので……恥ずかしいですよ……」
恥ずかしがる必要はないのだけど、彼女の性格上、自信をもつことは難しいのだろう。
葵や天音にも決して負けない美貌の持ち主で、間違いなくミスコンでも張り合えるんだけどな……惜しい。
どうにか説得してみるか?
「もしかしてミスコンのこと、考えています……?」
「ギクッ」
「やっぱり! やっぱりですかぁ!」
ぽこぽこと拳を優しく叩きつける奏ちゃん。
本機は出していない。そんな節々から感じられる優しさは、よこしまな心を浮かべていた自分に刺さる。
「……どうしてそこまで参加させたいのですか? いぢめですか……?」
それは違う。 いじめなんかじゃない。
確かに……葵や天音のプロデュースを避ける方法で一番簡単なのは、他の人と先に契約しておく……というものだ。
ひと悶着どころではない騒ぎにもなるだろうが、回避自体は可能だ。
それに適当な人を立てるよりも、奏ちゃんを知っている人であれば追及も抑えられるかもしれない。
だけど、そうなのだろうけれど、違う。
「俺は……奏ちゃんと高みを見たい。奏ちゃんの可愛さを知ってもらいたい」
「朝来さん……」
「奏ちゃんこそ、俺の好きな人だって……意思表明したい」
「っ……!」
「葵や天音と相対するのはきっと修羅の道だ、たぶん、それなりに喧嘩もあるし、何よりも俺の独りよがりだ。奏ちゃんにも迷惑をかけっぱなしだ。それでも……俺は誰の文句も言われずに奏ちゃんと一緒に踊りたい、一緒に在りたい」
踊ることは過程にすぎない。一緒にいたい、それだけだ。
が、今の段階では葵と天音がそれを許さないだろう。
だが、ミスコン優勝者とその支援者であれば、横槍は入れられない。優勝者は例年踊っているのだから、流石の二人も止められない。
何よりも二人は共に参加しているのだ、優勝した時点で……文句は言えなくなる。
「熱い言葉ね、妹のことながら自分が赤くなってしまいそうだわ」
俺と奏ちゃんの前に立ったのは、一人の華奢な女性。
高身長であるが、奏ちゃんに似た面影をしている朱色の髪を止めずに残している大人の女性だ。
「湊姉様……!」
「はぁい、私の妹。そして……最近噂のポエマー君?」
「ポエマー……? 最近噂の……?」
「湊姉様、いきなりは流石の朝来さんも付いていけません」
「うふふ、悪いわね」
羽織っている衣装は、見たこともないデザインをしている。
前衛的というのだろうか?
コスプレとはまた違う、ヨーロッパのファッションショーなどでみられるような……赤と黄色の正方形が交互に並び、体にぴっしりと密着した服を着ている。
密着しているためか体の線が強調されてしまう。
彼女ほどの美貌がなければ、到底着着られない衣服だ。
「私の妹がいないと思ったら、熱烈なアプローチを受けているのだから、居ても立っても居られなくなったの」
「湊姉様、そういう時は見守るものではありません……?」
「うふふ、私に一般的な恋愛漫画の王道が通用すると思っているの?」
あ、何となくわかる。
この人は……奏ちゃんのお姉さんだ。
言動や趣味は恐らく違うのだろうが、雰囲気というか方向性は一致している。
「ところでポエマー君、少し……顔を貸してもらえないかしら?」
え、これってまさか……体育館の裏で根性焼きされる流れですか?
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