第8話「黒幕判明」

人々は困惑していた。人間だけがここに関わっているだけでなかったのだと、

気が付き、そして信じられずにいる。しかし驚くことに人々はそれをあるがままに

鵜呑みにして納得した。


「そ、それで?事件について、犯人については?」

「上の穴、くり抜いた部分をボンドなどの接着剤でくっつけて任意のタイミングで

崩壊させるなんて人間では不可能でしょう?逆にあるなら教えて欲しい」

「ですけど、仕掛けがあるのでは?例えば、そう、スイッチとか!」


ドルトンの言葉にアンジュは首を横に振った。


「スイッチがあるなら私は気付く。用は爆弾って言いたいんでしょ?無理よ。

爆弾は音が鳴る、それに本体だってすぐに見つけられるはず…それとも

ドルトンさんは爆弾を見つけたんですか?」


見つけていない、ドルトンは言ってその場に座り込んだ。何処か焦っている。

彼は引っ切り無しに額を拭っている。


「それと盲点だったんですけど…天井へ上がるための通路は封鎖されていたんです」


鍵がかかっている扉。開くためには鍵を持ちだす必要があるが、その鍵を持ち出すと

誰が何時持ち出したのか常にモニタリングされているのだ。事件の前日、一週間前

から準備していたとしても記録は残っていなかった。しかし当日、その扉が開いていたのだ。


「そこが抜けてたんだ。扉は閉じていて当たり前。何故なら鍵を持ち出せば

すぐに誰なのか判明するから。その辺りは犯人も理解していたらしいな」


グリフィスがそう付け加えた。すっかり聴衆たちは推理に聞き入っていた。


「扉の鍵穴から血液が検出されたんです」

「え?」


アンジュは赤い液体、血液が入った小瓶を見せた。それを見て、犯人は焦る。

それは調べられたらバレてしまう。


「もう黙ってないで自白したらどうですか?―ドルトンさん」


全員の視線がアンジュたちからドルトンに向けられた。彼はあくまでもシラを

切るつもりらしく何のことだか分かっていないようだ。


「この血液は貴方のものです」

「…だから何だっていうんですか?先生、先生ならば分かるでしょう。血液が

何だっていうんだ!?」

「分からねえのかアンタ。鍵穴に血液が付着してたんだぜ?」

「だから、それが…!」


フェリクスは肩をすくめた。まだ諦めないというのか。


「教えてやる。吸血鬼の中には自分の血液を自由自在に操る力を持つ奴がいる。

ソイツの力量次第で色々だがな…これは俺の考えだ。お前、この時焦ってただろ?」

「はぁ?」

「焦れば集中力が低下する。すると固まっていた血液が早く溶ける。お前は吸血鬼に

なったばかりだから上手く力を扱えていない。あの場所で鍵穴に血液が付着する

ような出来事は起こっていない」


つまり、血液が付着しているということは可笑しいことなのだ。


「私は吸血鬼が犯人だと予想した。ドルトンさん、前日会場近くのお手洗いで

酔っている男の人に会いませんでしたか」

「会いました…だけど、それが一体何なんですか!?」

「彼、銀の懐中時計を落としてしまって拾ってくれないかと頼んだらしいです。

きっとその人、ほろ酔いだったから記憶があったんでしょう。皆さんだったら

頼まれれば拾ってくれますよね?面倒くさいことでは無いですから」


周りの客は頷いた。


「でも、拾ってくれなかったらしいです。穢れたモノを触れないと…」


アンジュは懐からその懐中時計を見せた。それをドルトンに見せつける。


「ドルトンさん、貴方が人間でこの事件の犯人では無いというのなら

触れますよね?さらにこちらも!」

「鏡?」


全員が首を傾げていた。何故、鏡を持ってきたのだろうか。それは吸血鬼が犯人と

いう前提を確信にするための準備だ。大きな置き鏡をドルトンの前に持ってきた。

全員が目を丸くする。


「う、映ってない!?」

「そうです。吸血鬼は鏡には映らない。そう言う特徴があるんです」

「あー付け加えるが、個体差もある。例外があるんだ。映る場合もある。だが

ほとんどが映らない。コイツみたいに人間の血が混じった奴は映る、これが例外の

一つだ」


しれっとグリフィスの正体を公にしてしまったが今、ドルトンは吸血鬼であるという

事実が暴露された。彼は立ち上がり、正体を現した。


「そうですよ…俺は吸血鬼になった。先生の血、それは吸血鬼の美食、最も高級な

食糧なんですよ!!」

「―アンジュ!」


ドルトンは猪のように突っ込んでくる。グリフィスはアンジュを自分の方に引き寄せ

攻撃を躱した。


「本来の能力はそれか」


太く、異形の両腕を見せたドルトン。彼はこの事件の黒幕であると認め、牙を向く。


「オイ、テメェ、何考えてやがる」


フェリクスはグリフィスを睨む。グリフィスはアンジュに目を向けた。


「フェリクス、ここにいる全員を避難させろ。少し、暴れる」

「…チッ、分かったよ。だが首は残しとけよ?俺の手柄にする」

「構わない」


フェリクスは会場にいる人々を外に逃がす。グリフィスはアンジュの顔を見る。


「混血児にとって人間の血液はブースターみたいなものだ。強化剤みたいな…」

「吸血鬼の血液は麻薬みたいな?」

「あぁ…でも、ずっと吸血鬼を殺し、それを喰らって来た。常時飢餓状態…

正直、今も腹が減って仕方がない」


彼はそれを器用に隠しながらここまで生きている。


「俺を憎んでも構わない。俺はアイツを殺して腹を満たす。お前の血を寄越せ」

「…分かった。私、戦えないからそれ以外なら出来る限り力を貸すよ」


アンジュの首筋にグリフィスは牙を突き立てた。痛みはない。

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