第6話「証言を集めよう」
フェネッカ・ヴィオレッタは事件の黒幕と繋がっていた。それがフェリクスが
考えたもう一つの可能性。
黒幕と繋がっていたフェネッカ。しかし彼女と黒幕の間で何かがあって
フェネッカは相手の作戦を台無しにするべく事件当日にアンジュを庇った。
事件の目的はアンジュの殺害、それが前提となっている場合の話だ。
「それも濃厚だと思います。隣にいたフェネッカさんは老年ですし、小柄。
同じぐらいの目線だったはず…でも、やろうと思えば私だけを押し倒して
生きることだって」
「彼女が死ぬことで相手にとって何か大きな穴が出来るとしたら?」
グリフィスが指摘する。その穴、それは犯人に繋がる何かだろう。
「遺品チェックか」
探偵の頼みとあらば警察も近寄らせてくれるだろうと思ったのだが。
駄目だと拒否されてしまった。頭が固い警官だ。だが人外として鋭い感覚を持つ
グリフィスは警官たちの異変に気付いた。
「お前ら…なるほど、欲に負けたな」
「ッ!」
一瞬、赤い霧に辺りは包まれた。すると警官たちが虚ろな目をして静かに道を
開く。吸血鬼の力を扱えるグリフィス。僅かな時間の洗脳だ。
「時間が無い。急ぐぞ」
部屋の中に入り、遺品をチェックする。見たところ何の変哲もないアクセサリー、
手袋等…。別の袋に紙が入っていた。手袋を付けて袋を開き紙を開いた。
「日時…式典と同じだ」
「女性らしからぬ乱雑な字だな」
「フェネッカさんの字じゃない。彼女の字は少し丸みを帯びているから」
ならば別の誰かが書いたものだ。そこでアンジュは一度人を集めて、スタッフに
あることを頼んだ。数十分後に全員がそれを提出した。その紙を見ながら、遺品の
紙に書かれた字と比べる。すると一人、字が妙に似ている人物がいた。
「―」
「コイツ、犯人かもしれない被疑者って奴かね」
「もう少し証拠を集めるべきだ」
証拠①式典日時の書かれた紙→字が似ている。日時や受賞者順位を知っていたのは
式典スタッフのみ。
が、これは証拠としての力は弱い。なので他にも集めなければならない。
「相手に殺意があるのか、本当に天井が崩れるように細工をしたのか…それを
調べる必要がある」
「でも、それを調べるのは難しいですよね」
「指紋、足跡…それらの痕跡を相手は器用に隠している。が、相手はミスを
している。よく考えろ、アンジュ。ミステリーで証拠集めをする。物品だけじゃ
無いだろ?」
グリフィスはそう指摘する。アンジュもビビッと閃いた。まだ人に話を聞いて
いなかった。とは言っても…。
「仕方ない。全員に話を聞くまでだ」
話を聞いてみた。一人目の話。
第一の質問…事件当時、何処で何をしていたか。
「えっと、それは言う必要ありますかね?話しましたよね」
「そうですね。司会者でした。じゃあ、この質問は飛ばして…」
第二の質問…天井について。
「そう言いますと?」
「天井に上ることって出来るんですか?」
「業者じゃないと。あとは聖職者様も上りましたが、あれは特別ですよ」
「はぁ、なるほど。じゃあ普通は上れない?」
「通路こそありますが、立ち入り禁止となっていて鍵がかかっていますよ」
鍵がかかっている。つまり―
「上る必要があれば鍵を使う必要があると…」
「そうですけど、盗めるわけないじゃないですか。鍵は細工がありまして、
常に機械に情報が伝達されるんです。何時、誰が定位置から動かしたか」
「じゃあ、誰が持ち出したかすぐに分かりますよね」
「えぇ。ここ最近、鍵を持ち出す必要は無かったので誰の名前もありませんよ」
正確には一年ほどの間。話を終えて手に入れたのは本来、天井に上る通路は
立ち入り禁止にされていて、通るためには鍵が必要。しかし鍵を持ちだした
時間や人物の情報は機械に伝えられる。事件の一週間ほど前で準備が完了すると
しても鍵を持ち出した、それは難しい。
「…」
「どうした、青眼」
グリフィスは何か引っかかっている様だ。
「いや、早計だな。次の話を聞こう」
二人目。彼にも同じような質問をしたが似たような答えが戻って来た。だが
この警備員は引っかかるような事を言っていた。
第三の質問…事件の一週間前から当日まで何か怪しいものを見たか。
「あーそう言えば…俺が見たというか酔っ払いが言ってたな」
警備員が夜な夜な巡回していた時に酔っ払いの男に会ったらしい。その男は
酔っているにも拘らず妙にビクビクしていた。話を聞くと彼はこう言ったらしい。
「便所のところに鏡があるんだ。男が一人いてよ!その男、鏡に姿が
映って無かったんだ!!ヒック」
酔っ払いだ。きっと幻でも見ていたんだろうとその時は思った。半信半疑、必要か
どうか分からなかったが警備員は話してくれた。彼が部屋を出てから、アンジュは
まさかなと思いながらグリフィスに目を向けた。
「その通りだよ」
「マジか!」
吸血鬼の特徴の一つに鏡に映らないというものがある。これは重要な証言だ。
しかし少々目撃者の状態が悪い。
「あのぅ…話したいことがあるんですが」
呼んでもいないのにもう一人の証言者がやって来た。若い男は照れ臭そうに
扉の隙間から顔を覗かせた。
「先の警備員さん、酔っ払いのこと話してましたよね。それ、僕です」
「えぇぇぇぇ!」
酔っ払いが自分から話をしに来た。
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