No.25【ショートショート】TikTokでバズった私が、同級生だった《彼女》を殺すまで

鉄生 裕

TikTokでバズった私が、同級生だった《彼女》を殺すまで

『昨日の敵は今日の友』


《彼女》は私にとって敵ではなかったが、友と呼べるほど親しい関係でもなかった。




その日、私はなんの気なしに

【テレビに夢中な我が愛猫】

という動画をTikTokに投稿した。


愛猫との動画は今までも何度かTikTokに投稿したことはあったが、

あくまでも趣味の範疇としてだった。


だが、なぜだかその動画はみるみる再生数を伸ばし、

あっという間に100万回再生を超えた。


その後も私は愛猫との動画を投稿し続け、

私が投稿するたびに、人々は私の動画を再生した。


そして気付いた時には、私はインフルエンサーになっていた。


私は二年間務めた会社を辞め、動画投稿に専念することにした。




それから数ヶ月が経ったある日、とある動画が投稿されているのを見つけた。


『【愛猫との日々】が人気になって、私もめっちゃ嬉しい!!』


そうタイトルがつけられた動画は、

「【愛猫との日々】のサクちゃんは学生時代からの大親友で、

実は彼女にTikTokのノウハウを教えたのは私だ」

という内容の投稿だった




【愛猫との日々】は私のチャンネルの名前で、

サクちゃんというのは私のあだ名だ。


その動画を投稿した《彼女》のことは知っていたし、

《彼女》のTikTokも何度か見たことはあった。


《彼女》はその整った顔立ちとスタイルから

コスプレや際どい衣装を着て音楽に合わせてダンスをする

という動画を中心に投稿していた。


《彼女》の言う通り、たしかに私と《彼女》は同じ中学に通っていた。


だが、三年間同じ中学に通っていただけで、

《彼女》とは顔見知り程度の関係だったし、

もちろん大親友と呼べるほど仲が良いわけではなかった。


そんな《彼女》が突然私のことを大親友だと豪語し、

私の名前を使った動画を投稿したのだ。


そんな投稿は無視しておけばよかったのだが、

なぜだか私はその投稿に憤りを感じてしまった。




昨日までは疎遠だったくせに、私が有名になった途端に大親友気取り


それが無性に許せなかった。




私のTwitterには、

『《彼女》と大親友ってマジ!?』

『《彼女》とは今でも仲が良いんですか?』

『《彼女》とコラボした動画も見てみたい!』

といったDMやリプライが多く届いた。


そんなDMやリプライに嫌気がさした私は、

『《彼女》とは同じ中学校でした!

でも、全然話したことも無かったし、大親友というほどでもないかな~。

《彼女》とはただの同級生です!』

《彼女》との関係について、Twitterにそう投稿した。


その時も、私はほんの軽い気持ちで投稿したつもりだった。


だが、私の投稿は瞬く間に広がり、

それを見た人々は一斉に《彼女》のことを叩き始めた。


『自分がつまらない投稿しかできないからって、サクちゃんを道具にするな』

『サクちゃんに今すぐ謝れ』

『平気な顔して、よくもあんな大嘘つけるよね。恥ずかしくないの?』

『脚や胸を出してるだけのお前の動画なんて、すぐに飽きられるからさっさと止めちまえ』


《彼女》の投稿には、連日そのようなメッセージが送られた。



それから数日が経ったある日、《彼女》は自ら命を絶った。




私のSNSには、

「サクちゃんのせいじゃないよ」

「早くサクちゃんの笑顔が見たい」

「大親友じゃなくても、知り合いが亡くなるのは辛いよね」

「サクちゃんのペースで良いから、また動画が見たいな」

といったメッセージが数多く届いた。


皆はそう言ってくれるけど、私は知っている。


《彼女》を殺したのは、他でもない私だ。




私は、インフルエンサーである自分の影響力を軽く考えていた。




多くの人から届いたDMを読み返しているうちに、

私は過去に送られてきた、とあるDMを見つけた。


「久しぶり!中学校以来だよね?

突然連絡来たから、びっくりしちゃった。

私もTikTok始めたのはつい最近だから、教えられることなんて全然無いけど、

毎日投稿するとかハッシュタグを工夫するとか、

あとは気を引くようなタイトルを考えるのも重要かも!

何かあったら、いつでも連絡してね。

サクちゃんの投稿、楽しみにしてるね!」


DMを最後まで読み返した私は、

『会話を削除する』と書かれたボタンをクリックした。

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