3話:木こりのお仕事

 名前:ビルボ・ガッツメン。


 年齢:推定31歳。


 見た目:普通のおっさん。


 職業:木こり。



 色々ある職業の中でも、剣士やヒーラーなどの『戦闘職』は他の一般人に比べて基礎能力がはるかに高く、魔法などの様々なスキルを所有している。

 一方、戦闘職以外の『生活職』の人々は、基本、戦闘には向かない人達ばかりであり、広く『一般人』や『村人』などと呼ばれていた。


 仮に村人が戦闘職の冒険者に喧嘩をふっかけたなら、おそらく10人がかりで突撃しても勝つのは難しいだろう――。

 血筋の違いか、鍛錬の違いか、はたまた場数の違いか。とにかく両者の戦闘力にはそれほどの差が開いているのである。


 ちなみに『木こり』は『生活職』に分類され、ゆえにビルボは勇者でも剣士でもなく、


 ただの一般人――村人であった。


 職業としての戦闘能力は、多少腕力が高い程度で、ほとんど最底辺のはずなのだ。


 それなのに――。


「ばあちゃん、行ってくる」


 今日も家の前にある祖母のお墓に手を合わせてビルボは仕事へと出かけた。


 木こりのビルボのお仕事は、もちろん木の伐採である。


 森の東側に向かい、ビルボは歩を進める。


 てくてくてくてく……。


 ちなみに森の西側は、このあいだ魔王軍四天王の一人とやらが現れて消滅させられてしまった。

 いまでは草木も生えていない、巨大なクレーターと成り果てている。


 木も伐採できず、おかげで商売あがったりである。


「あの近所迷惑野郎め」


 森の道を進みながらビルボはぼやいた。


 最近この森も魔物が増えて物騒になった。

 なのでミンフ村の連中もめっきり近寄ってこなくなり、この森で家をかまえている人間は実質ビルボただ一人である。

 商売敵がいないのはありがたいことだが、肝心の森がなくなってしまっては話にならない。


「魔王軍か。本当になんなんだあいつらは……」


 聞くところによると、魔王軍はたいそう強く、襲われた街はことごとく壊滅状態らしい。

 偉そうな奴(四天王)がこんな辺鄙へんぴな森にまでやって来るのだからその勢力は相当なものなのだろう。


 森を滅茶苦茶にされたとはいえ、ついカッとなって四天王を倒してしまったが、しかしこれはちょっと早計だったかもしれない。

 あとあと面倒なことにならなければ良いが……。


「面倒事はごめんだ。俺は森で静かに平和に暮らしたいだけなのに。頼むから俺の生活圏に入ってこないでくれよ……」


 そんなことを思っていると、まもなく目的地へと到着した。


「さて。このあたりで良いか」


 と、ビルボは巨木の前で立ち止まった。

 お仕事のはじまりである。

 まず木の伐採のために精神を集中――。


「ふうううううううう……」


 そして――。


「ぬんっ!」


 と、軽くチョップをかますと、巨木がまるで大根のようにざっくりと割れて倒れた。


 どしーん。


 ビルボの伐採に斧などいらない。

 彼の手刀でこの世に切れぬものはないからだ。

 むしろ斧なんて荷物になるだけである。


 そしてビルボは木を(チョップで)適当に切り分け、背中に担いで家に持って帰る。


「よし、今日もよく働いたな」


 これで彼の一日の仕事は終わりである。


 そして帰り道。

 その道中のことだった。


「お? こんなところに人がいるぞ」

「マジかよ」


 なんだかいかにも悪役っぽい男達が5人、森の茂みの中から現れた。


 そして非友好的な笑顔を浮かべながら、ビルボの前に立ちはだかったのである。

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木こりのおっさんは森で平和に暮らしたい 恐怖院怨念 @landp90

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