無人島 結末

6日目の静かな朝を迎えて伸びをした

まずは館を訪ねたが誰もいない

一度自分のコテージに戻って風呂場で化粧の具合を確認


そこから出て配達員を探しに行けば

コテージ自体が崖の上から落ちて来た大きな岩に潰されていた

まだ館ではキッチンの火が使えたので最後の一本に火をつける


大きな墓石だと少し笑いながらも彼に捧げた



「さてと」


再び自分のコテージに戻って化粧の具合を確かめる

あまり人生で化粧をしていなかったのでうまく出来ているのは分からない

口紅はどんなに塗ってもやり直しても気に入らなかった


自分に似合わない色だと思ったのだ


館に戻ってキッチンで紅茶を二つ作りメインホールに置いた

紅茶が覚める前にと二階へ上がった

カメラマンの方が死んでいた部屋に入って床をノックした


「お医者様、紅茶が冷める前にいらしてください」


メインホールに戻ると後ろから背中を叩かれた

振り向けば医者がひらひらと手をふった

2人だけの島で彼は不思議そうに言った


「何故気付いたのです?」

「お話は紅茶を飲んでからにしましょうか」

「頂きますね」


温かい紅茶を飲み干すと口紅がコップに付いた。


「まず真犯人は二人いますよね」

「私の他にもいると?」

「農家さんは自殺です、農家って情報も嘘でしょうね」

「証拠でも?」

「テレビも見ないしラジオも聞かないし新聞も見ないと彼は言いました」

「仕事に関係ありますかね」

「彼は一体何で天気予報を見ていたのでしょう?」

「見ていなかっただけではありませんか?」

「だから聞いたんですよ、無農薬で栽培してたんですか?と」

「農薬?」

「使ってましたよと言った瞬間に少なくとも農家は嘘だなと」

「変には思えませんが」

「天気を確認しないで薬を使えば雨で流れてしまうんですよ」

「では他の殺人は?」

「最初に使われた毒はまだここにあります」


指さしたのは名前が書かれた紙だった

他に比べて字が滲んでいたが決定打は他にあったのだ

犯人を困らせてやろうと誰かが言った時に


『ネームプレートはおいたままで』


その台詞は医者から出た


「焦りましたよ」

「ですよね」

「英語教師さんが毒のネームプレートに触ってしまわないかとひやひやしてました」

「トリックには穴がありますよね」

「カメラマン様の殺害は?私のコテージから遠いですが」

「そもそも最初から部屋の地下に隠れていたのでしょう?」

「お見通しでしたか」

「カメラマンの方に線香をささげた時に煙が下へと吸い込まれたもので」


そして刺殺だったのは血で絨毯を汚して切れ目を見当たらないようにする為だろう

煙が溝に吸い込まれていく様は流石に黙っていた

計画の邪魔はしたくなかったのだ


「夜中にどうやって出歩いていたと思いますか?」

「暗視ゴーグルでしょう?島を所有していて手に入らないほど貧乏とは思えません」

「元々、非常用にこの館に置いてあったのです」

「シェフの殺害方法は睡眠薬で眠らせたあとに血を抜いたのですよね」

「どうやって気付いたのですか?」

「腕に注射の針を刺したあとのような『手当て』がありましたから」

「私はずいぶんと拙い犯人だったのですね」

「いえ、気付いたのは私だけでした」

「それは凄い」

「最後くらい素敵な恋をしてみたいと思ってこの島にきて、お医者様が一番かっこ良かったから犯人ならいいなと望んでいたのです」

「私の容姿が好みだったのですか?」

「はい」

「照れますね、何だか」


本当に照れくさそうに医者は頭をかきむしる

目も合わせてられないようだ

けれど不快という感じは無かった


「だから最後に見せる顔を、化粧を頑張ったんですが口紅だけが気にらなくて」

「気に入らない?」

「色ですよ、もっと赤い色が良かったのに」

「それはいい事を聞きました」


医者は鞄から口紅を出した


「何故口紅を持っているのですか?」

「最後に美しいままでいたい方は今までも多かったので」

「お医者様でしたね」

「塗るので動かないで、毒入りですが一言ぐらいは話す時間もありますよ」


厚く塗られた口紅だが自分では分からない


「似合いますか?」


返事はなくキスの一つがあるだけだった

それは全人類の中で最も長い間行われることになる

最後の日からキスを始めた者よりたった1日だけ多かった





1万年後の未来で地球に飛来した宇宙人がついに歴史を解いた


かつて巨大な隕石は身に纏った毒で地球上の生き物を終わらせた

最後まで自殺を選べなかった者は毒の苦しみ長く味わって死んでいったようだ

そして新たに地球の遺跡から発見されたのは地下深くに眠っていた二人の死体


形が壊れないようにキスをしたまま宇宙船に乗せられていた


「博士、この人間はなぜ最後の7日目まで待たずに6日目で終わったのでしょう?」

「かつて死者が天国に行くには『休みの日』が必要と考えられていました」

「推測にすぎないのでは?」


火星から来た博士は頷いた


「今から私たちの技術で生き返らせるんですから、本人に聞くとしましょうか」

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宝者来価の恋愛話・短編集 宝者来価 @takaramonoraika

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