無人島 5話


無人島にきて4日目の朝にはシェフが椅子で死んでいた

眠るかのように穏やかに見える

特に争った形跡はないし机上には食事が用意されていた


「今までで一番の綺麗な死体ですね」

「昨晩にやりたいことが出来ているといいけれど」

「……私はシェフに感謝してこの食事を頂きます」

「いいですね」


生き残った3人で食事をとる


「犯人の検討は正直お二人ともついているのでは?」

「実は分かっていません」

「暗闇の中で銃撃は流石に外部から来ていきなりやるのは難しいですね」

「それを考えるとこの三人の中にいると考えるのが妥当でしょう」

「教師さんが犯人では?」

「しかし私には難しいですよ、銃の用意だってただの教師に出来る事では無い上に力だってありませんから刺し殺すのも厳しいですよ?配達員さんでは?」

「席を見れば私の位置から心臓を正確に打ちぬくの難しいです」


スナイパーでもあるまいし確かに暗闇で心臓を正確に打ちぬくのは厳しい


「たしかアナタは真横にいましたよね」


私に視線が集まった


「そうですね」

「隣の席ですから正確に狙うのであれば一番疑わしいかと。それに爆破の時は隣のコテージでしたよね?」

「中々に面白いけれど爆破に隣とか関係ありますかね?」

「それは……」

「シェフ様を私が殺しているとして、首も綺麗で頭にも怪我が無いのですがどうやって?」

「毒殺したとか」

「昨夜に館へ来るとすれば蝋燭の灯が目立つと思いますよ?」

「明るくなってから来たとか」

「彼は早起きして料理を作っていますから、その時間に私が来て毒を何に仕込むのです?」

「確かにそれを言われると変ですよね」


昼を作ってくれる人はもういないが食材はある

幸い保存食が沢山あったので腐る心配などはしなくてよさそうだ

ガスが止まっていないのでお湯ぐらいは沸かす事が出来る


お茶を3人分いれた


「どうぞ」

「……」

「紅茶は嫌いでした?」

「いえ、もしこれで死んだら単純すぎる最後で嫌だなと」

「毒は入れていませんので安心してください」


紅茶を飲みながら本の続きを読んだ

配達員が興味深そうに聞いてくる


「それは?」

「お化けに襲われる小説です、祖母の家に行き入ってはいけない場所に入ると」

「と?」

「そこには不気味な鬼がいた」

「在り来たりですね」

「オチが実は人間で時代のせいで鬼と呼ばれただけの西洋人だった」

「実際の話はそんなものだったりしますね」

「でも書き手が巧みに時代を隠すから中々に騙されましたよ」

「私も何か読んでみたく成ってきました」

「他にもありましたが一冊は英語でしたね」

「何の本でした?」

「イラストを見た感じだと多分恋愛ですけど、何せ英語?なので読めません」

「私が読みますよ、タイトルぐらい」


英語の先生に教えてもらうために農家が使っていたコテージへと足を運んだ

本のタイトルは『decision』で辞書も無い今となれば難しい

スマホに関してはもう充電が出来ないので使えない


「このタイトルは決断という意味です」


少しパラパラと頁を飛ばしてめくる

詳しい内容まで読みこむ気はない様子だった

そして軽く内容を説明してくれた


「彼女の余命が病気で1年しかないと知って結婚をしない選択をした男の話ですね」

「『しない選択』ですか」

「そして別の女と結婚したようです」

「へぇ」

「最低だと思いますか?」

「詳しい事も聞かずに最低だなんて責めるのは違うかと」


4日目の夜にまだ3人は生きていた


「明日の死体は誰になるんでしょうね」

「死因とか望みありますか?」

「憧れてるのは溺死です」

「中々に苦しそうな死に方ですが、理由でも?」

「人魚姫の話が好きでして」

「男の方では少し珍しいですね」

「人魚にも雄ぐらいいますよ」

「確かにそうかもしれませんね」


カロリーブロックにかじりつく

試合前に食べる事もあったのでそれなりに親しんだ味だ

チョコ味があって大変嬉しい


「おやすみなさい」


コテージに戻ってシャワーを浴びようとしたがお湯はもう出なかった

電気も付く様子が無く諦めてベッドにもぐりこんだ

暗闇の中で外を歩く足音だけを聞いた気がする


5日目の朝になると英語の先生がいなくなっていた


「人魚になったのでしょうかね」

「だとすれば犯人は昨日の会話を聞ける箇所にいた事になりますね」

「配達員のお兄さんを私は犯人だとは思っていませんよ」

「島に誰かまだ残っていると?」

「早い段階で結論は正直出てました」


朝食のあとこれまでの人生で面白かった事を話し合う


「カラオケに行ったら機械壊れて全部100点でた事ありますよ」

「中々点数の高い」

「そちらは何かありました?」

「ペットの猫がいなくなったと思ったら鞄の中にいたとかそれぐらいですよ」

「ありますねぇ」


その後にまだキッチンのガスは使えたのでお湯を作って身体を軽く洗った


「私を気にしないんですね」

「男に襲われても返り討ちにしてきたもので」

「強い方だ」


英語の先生を探しにコテージへ向かうと靴が綺麗にそろえてあり本人はいない

特に隠れるようなところも無かったために死んだという結論になった

争った形跡も無いし靴もキッチリ揃えてある


「何故靴を脱いだんでしょうね」

「人魚にはいりませんから、分からなくはないですよ」

「犯人って誰なのか分かるなら教えて貰えませんか?」

「耳を貸してください」


話をすると彼は驚いていた


「そうだったんですね」

「確信している訳ではありませんが、多分こういう事かと」

「いつ気付いたんです?」

「線香ですよ」

「ああ、そういえばアナタは全てに捧げていましたね」

「私が弔いをしなければ永遠に無いだろうと思いまして」

「まだ線香はありますか?」

「2本だけなら」

「では一本は海に捧げてしまいませんか?」

「いいですね」

「もし明日、あなたが死んでいたら墓に差しておく事を約束しますよ」




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