無人島

無人島 1話


私たちは一通の手紙で集まった。


『最後の殺人事件の役者をご招待します』


怪しい文章だが、少なくとも私は手紙が嬉しかった。

同封されたチケットは無人島で6泊7日出来ると書かれている

好奇心が抑えられずに参加を決意したのだ。


港につくと既に9人の役者が集まっていた。


「すみません、皆さまをお待たせしてしまって」

「私たちが楽しみで早く来ていただけです、気にしなくても平気ですよ」

「全員が揃いましたからね、船を出してしまいませんか?」


賛成の者しかいない事体に少し笑えてきつつボートに乗り込む

皆それぞれにリュックサックを背負っていて少し狭い

遠足で沢山のお菓子を詰め込んでいるようなワクワクが伝わる。


「船酔いとか、大丈夫ですか?」

「お気遣いありがとうございます」

「僕は医者なので何かあれば申し出て下さいね」


医者という言葉に皆の目が輝いた


「一人は欲しいよね」

「薬とか持ってきたんですか?」

「酔い止めぐらいは持ってますよ」

「医者でなくても有るよ」


島に着くと大きな館が見えた、そこで寝泊まりするのかと思ったが

中に入れば思ったよりも寝室が足りない

しかし外にはコテージが10個用意されていた


「ベッドもありますし、お風呂もありますね」

「館と違って鍵がかけられるのがいいな」

「一度皆で館に集合しますか」



館は2階建ててメインホールがとても広く中央に机と椅子

律儀に10人の名前が書かれた紙が置かれていた

ある男が提案した


「なぁなぁ、犯人のやつをちょっと困らせないか?」

「というと?」

「適当に席を交換するんだ」

「実は最初に死ぬ事になってて嫌だったりしてない?」

「だったらむしろ歓迎だね、最初が一番インパクトがあって華だ」

「ネームプレートは置いたままで」

「確かに誰の席だったか分からなくなりますからね」


結局少しはトラブルがあった方が何をするのか面白くなる

好奇心旺盛な私たちはクジ引きで席を交換する事になった

もし最初の一人が死ぬとすれば早すぎる展開かもしれないが7日しかないのだ


「私はこちらの席ですね」


医者の彼が座る予定だった席に腰かけた

一斉に食べ始めると男性が一人苦しそうにして倒れた

椅子から盛大な音を立てて転げ落ちたのだ


「こういう死に方するんだ」

「案外あっけないね」

「毒は食事に盛られていたのかな」


淡々と皆で意見する、殺人事件が確かに起きたのに日本人だからだろうか

逃げ出したりヒステリーの声をあげる者は誰一人としていなかった

最も既に出し尽くしたし聞き飽きてはいるので少しほっとしている


「こんなに早いとは思わなかった」

「死因は毒物でしょうな」

「お医者様は触って平気なんですか?」

「慣れていますしここに何時までもあっては腐りますから霊安室に運びましょう」

「私も手伝いますよ」


医者と遺体を一階西側の霊安室に運んで手を合わせた

食事をしていたテーブルに戻って来た


「彼が座ったのは元は誰の席でしたか?」

「僕ですね、フリーカメラマンをしています」

「それで先ほど遺体を撮っていたと」

「死んだ彼は僕とは仕事仲間でしたよ、彼は新聞の記事を書くライターでしたから」

「天国に新聞が存在するならば読みたいです」

「きっと地上と同じような記事ばかりでしょうけれど」


彼が食べたのはパンのようだ

ポテトサラダやスープにステーキそれにデザートのフルーツ

それら全てに手が付けられた様子が無い



「皆さんに疑われる前に言っておきますが、食事の用意をしたのはシェフの私です」

「毒を入れてはいないと?」

「信じて貰えるかは微妙な所ですがね、手紙の送り主から『食事を用意してほしい』と依頼があったのであらかじめ島に来て用意したあとで皆さんと合流しましたよ」


私は自分に用意された食事の続きを食べた

周りも折角だからと最後まで平らげる道を選んだ

嬉しそうにしているのを見るに本当においしいのだろう



「とても美味しいですよ、有難うございます」

「冷凍保存の物が多かったので少し心配でしたが7日間は特に問題は無いでしょう」

「お菓子を持ってきましたが食べる機会が無さそうだ」

「それよりも館の寝室は誰が使います?2部屋しかないようですが」


シェフとカメラマンが手を挙げた


「折角ですから私が使いたいですね」

「僕も使っていいかな?友人の傍にいたいんだ」

「では残りはコテージという事で」

「明日のAM:7時に食事を用意しておきますよ」

「全部が毒殺なんて味のない真似は無いと思いますので楽しみにしていますね」


館から個室のコテージへと移動し、荷物を床に置いて部屋を詳しく確認した

ベッドの下には何も存在せず窓の外には海が見えるのみ

お風呂とトイレぐらいしか無く水を飲むだけでも館に行く必要がある

殺された彼とカメラマンの作った記事をスマホで寝転がりながら見た

シェフの店は調べれば地元の食材を使ったファミレスが出て来た

疲れていたので眠りには早い段階でついていたと思う


皆が寝静まって真夜中に大きな音がした


バン!!!!!!


音に起こされたのでコテージから出てみると隣のコテージから煙が上がっていた

医者が寝泊まりしている箇所で炎がめらめら音を立てている

近づく事すら危ないだろう

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