第22話 ウルクが私の悲しみを探ろうとしてくれている?! ありがとう、ウルク……

「えーと、服がボロボロみたいだから、他の服に着替えてみない?」


 洞窟の中に、着れそうな服あったかな。


『一着だけ、ありますね』


『ありがとう、アリーセス』


 アリーセスが教えてくれた。


「でも、私、服なんて……」


「一着だけラミーニアが着れそうな服があるんだ。もらってくれないかな?」


「……貰ってもいいんですか?」


「もちろん」


 まあ、本当は、僕の物ではないんだけど、謝礼しゃれいの一部ということで、一つくらいいいよね。


 そう胸中きょうちゅうで呟きながら、魔法の袋に右手を入れて、ラミーニアが着れる服を探した。


「あ、これかな」


 そう言って僕が袋から右手を引っ張り出すと。


「え?」


 小さい袋から明らかに入りきらないであろう服が一着とり出され、ラミーニアが驚いた表情を見せる。

 魔法の袋という道具があるということを知らなかったようだ。


 取り出した服はワンピースだった。


 ラミーニアが着ていた服もワンピースではあったが、安そうな布切れで出来ている物ではなく、高級感のあるなめらかな触り心地の生地せいちに、しっかりとレースのような装飾そうしょくほどこされていた。


 いたんでいる様子もないので盗賊が着たものではなさそうだ。

 おそらく、金目かねめになると思いとっておいたものだろう。


「……本当に、こんないい物を貰っても、いいんですか?」


 そう言って、僕がラミーニアに服を手渡そうとすると、彼女は驚いた表情を見せた。

 服が立派な物だったので、もらってもいいのだろうかと、躊躇ちゅうちょしているようにも見える。


「いいよ、どうせ僕が持っていても使い道はないし」


 ラミーニアの手を支えるようにワンピースを手渡した。


「ありがとうございます」

 

 ラミーニアはワンピースを両手で抱えて、心から嬉しそうな表情をしている。

 すると辺りを見渡してからこう言った。


「あ、あそこで着替えてきますね」


 すぐにでも着替えたいと思ったのだろう。

 近くに着替えられそうな場所がなかったので、ラミーニアは公衆トイレへと駆け足で向かって行った。


『喜んでくれているみたいだね』


『そうですね』


 アリーセスの返答が、いつもより嬉しそうな感じがした。

 女神として、不幸な少女の境遇きょうぐうい目を感じていたのかもしれない。

 

 でも、もしこの世界の不幸な人々全員に対してそういう感情を抱いているとしたら……


 今の世界リゼラミアの現状を全て見ることが出来るアリーセスにとっては、辛過ぎる世界なんじゃないのか?


 僕ができることで、少しでも気持ちを楽にしてもらえるといいんだけど。


 僕は心からそう願った。

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