第20話 本来は全ての人と対話ができる世界になるはずだったのですが、“悪の種”のせいで世界は一変してしまいました。一人目のヒロインの予感……

「それじゃあ、詳しい話は明日でいいかな? この後、あの魔人を教会に運ばないといけないんだ」


「はい、構いません」


『……ん? 教会?』


 魔人を教会に連れて行ったら、危なくないのか?


『えーと、リゼラミアには、私を信仰する教会がありまして、弱った魔族達は信徒達の祈りによって時間をかけて浄化じょうかされます』


 アリーセスが補足してくれた。


 その信仰されているアリーセスと、直接会話をしているというのは変な感じだが。


 信徒達からしたら、アリーセスと直接会話できるなんて夢のような出来事なのだろう。


 なんか、申し訳なくなる。

 

 残念ながら、僕にはまだその価値が分かっていない。

 

『魔獣を動物に戻した時は、すぐに戻ったけど?』


『魔人の方が人間に戻るのに時間がかかります。また、私と対話のできる勇者の祈りの方が、私の力を多く使うことができます』


『なるほど』


 勇者って凄いな……


 って、まだ勇者ではないけど。


 危うく自分で勇者認定をするところだった。


「それで時間なんだが、午前中は野暮用やぼようがあって忙しいから、午後に自警団本部に来てもらえるか?」


「分かりました」


「じゃあ、楽しみにしてるよ。ウルク」


 そう言い残して、ジークスさんは、魔人を馬車に乗せて、教会へと向かって行った。



「そろそろ、僕もこの場を離れるか」


 グッ!


「ん?」


 誰かが、僕のそでを引っ張っている。

 

「あのー」


 そういえば、ジークスさんの弟子になるという話を進めていたので、獣人族の女の子のことを置き去りにしてしまっていた……


「あ、すみません」


 そう言うと、獣人族の女の子は、袖をつかんでいた手を離した。

 改めて見ると、身長は百二十センチくらいだろうか。


「こっちこそゴメンね。なんか、無視したみたいになっちゃって」


「あ、いえ、一言お礼を言いたかっただけですので……、助けていただき、ありがとうございました」


 そう言って、女の子はお辞儀をした。

 

 よく見ると、ボロボロになった薄い布切れのワンピースを着ていて、お辞儀を終えて上げた顔は、うつろな表情をしていた。


『アリーセス、この子のい立ちって分かる?』


 アリーセスを利用して、むやみやたらに人のことを詮索せんさくするつもりはないが……


 状態を見るに放っておけないレベルに感じた。


『はい、この子の名前はラミーニア。獣人族の村が魔族に襲われた後、闇商人に連れ去られました。魔王軍の奴隷として売られる寸前すんぜんだったところ、連れていた闇商人が魔人化してしまったようです』


『……なるほど……』


 女の子の想像を超えた悲惨な生い立ちに、僕は胸を痛めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る