第18話 当面の目標は彼のような強さを身につけることですね

 バッ!


 上空から突如、何かがはためく物音がした。

 

 音の方向へ見上げると。


 大柄の男が空から降って来た?!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 男は見るからに重そうな大剣を振り上げ、雄叫おたけびをあげながら魔人を真っ二つにするかのごとく縦に切り込んだ。


「グウォォォォォォ!」


 魔人が男の大剣で切りつけられ、鈍い呻き声をあげる。


 しかし、これで倒れる様子はなかった。

 少しよろめいたが、すぐに体制を立て直してきた。


「ウォォォォォ!」


 魔人が怒ったように、男に殴りかかる。

 あの図体に似合わない意外にも素早い動きだった。


 ド-ン!


 男が身をひらりとかわし、空を切った魔人の拳がそのまま路盤ろばんを叩き割った。


 かわしたのはいいが、魔人の怒りは余計に増した様子。


「グァァァァ!」


 魔人が叫ぶと、黒い炎の矢が数本現れ、男に向かって放たれた。

 

 ……魔人は魔獣のような肉弾戦だけでなく遠距離攻撃もできるのか。

 

 しかし男は、その攻撃など意にかいする様子もなかった。


「フ―リス!」


 男がそう叫ぶと、かたわらに風の精霊が現れた。


風精霊魔法風壁ウインド・ウォール!!」


 男が魔法を豪快ごうかいに唱えると、小さなつむじ風が集まり大きな風の壁となって、黒炎の矢をあっという間にかき消した。


風精霊魔法竜巻トルネード!」


 今度は大きな竜巻が現れ、魔人の動きを拘束する。


 男は余裕の表情を見せながら、とどめとばかりに大剣を振り上げた。

 

 大剣に光が集まる。


「これで、終わりだ」

 

 ザッ!


 光の集まった大剣を垂直に振り下ろす。

 まぶしい光が辺りを包み視界が一瞬にして奪われた。

 

 やがて、光が消え視界が戻った時には――


 ドサッ!


 と大きな物音がし、切りつけられた魔人が、その場に倒れていた。


「「「おお!」」」


 パチパチパチパチ!


 固唾かたずを呑んで見ていた観衆達が、歓声を上げ拍手をし始めた。

 男の見事な剣技と精霊魔法に感嘆かんたんし、僕も一緒になって拍手をする。


「もしかすると、僕の目指すところは、彼のような強さなのかもしれない……」


 気がつくと、僕はそう口にしていた。


 剣技が使える精霊使いを初めて見たが、動きに一切いっさいの迷いがなく、完成形に近い戦い方に見えた。

 

 僕は男の戦った姿を思い返しながら、できる限り脳裏に焼き付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る