第17話 魔人と初対面ですね。ウルクなら大丈夫ですよ

「一時間か……、何して過ごそうかな」


 まだ、一文無しだし。

 お店で時間を潰すことも出来ない。


 取り敢えず当てもなく街を見て回ろうとした矢先――


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 突然、街道に女の子の叫び声が響き渡った。

 ここからそう遠くない所からだ。


 僕は思わず、叫び声がした方向へと駆け出していた。


『魔の霧が現れました。ファライアを呼び出しておいて下さい』


『了解』


 魔の霧が現れたということは、人間か獣が魔族に変貌へんぼうしたということ。

 獣が魔獣化するには魔人の魔術が必要なので、十中八九じゅっちゅうはっく魔人と思われる。


 魔獣とは以前森で対峙たいじしたが、魔人との対面は初めてだ。

 身体に緊張が走る。


「ファイ!」


 呼びかけるとファイが現れた。


「ウルク殿、戦闘準備は出来ています」


「ありがとう」


『アリーセス、魔の霧の数値は分かる?』


『十です』


 昨日、出会った魔獣十体相当か……

 

 ますます緊張が高まる。


 叫び声が聞こえたのは、この辺りだろうか。


「人が魔人に!」


 路地裏から声が聞こえてきた。

 その声がした方へと急ぐ。


「ここか」


 路地裏に入ると、人間が肥大化したような異形の姿が目に飛び込んだ。

 身長は成人男性の約二倍ほどの高さ、身体から黒いもやがところどころ出ている。

 

 肥大化したためか、上半身の衣類は破れていた。

 その服の破れが異形のしゅが“元人間”だったことを物語ものがたっているようだ。


「……これはヤバいな」


 明らかに人ではない異形の姿に足がすくむ。

 

 精霊の力を使えば何とかなるのか?

 

 今は怖がっている場合ではない、どう戦うのかを考えなければ……

  

 そう自問自答をしていると。


「あなたは?」

 

 突然、背後から小柄な女の子が声をかけてきた。

 魔人に目を奪われて、女の子がいたことに気づいていなかった。

 

 さっき叫んでいた女の子と思われる。

 

 よく見ると、頭から猫のような耳が生えている。

 獣人族の子なのだろう。

 

「大丈夫? ケガはな……」


 ザワザワザワ!


 女の子に声をかけ終える前に、叫び声を聞いて魔人が出現したということを知らない人々が集まって来た。


『ウルク、ファイの魔法で路地裏の入り口を塞いで下さい』


『え? ああ』


 獣人族の女の子、集まってくる群衆ぐんしゅう

 予想外のことが続いて戸惑ってしまった。

 

「ファイ、路地裏の入り口を火炎魔法でふさげるかな?」


「了解しました。現れよ、火の柱!」


 ファイが叫ぶと、火の柱が現れた。


「「「うわ! 何だこれ?!」」」


 集まって来た人々が、炎の柱にはばまれる。


 そうか、野次馬に被害を出さないために。


 みんなを驚かせて申し訳ないが、いたし方ない。

 これで魔人の逃げ場はなくなった。


『……って、僕の逃げ場もなくなったんだけど!?』


『すみません。ですが、勝利すれば問題ありません』


 えー、勝つこと前提!?


 簡単に倒せる相手には思えないが……


『アリーセスがそう言うなら……、勝てるってことだよね?』


『はい』

 

 アリーセスは迷いなく答えた。


 ここは、女神であるアリーセスの言葉を信じるしかないか。


 僕はそんなことを考えながら、戦う決意を固めた。

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