第15話 無事に森から出られてよかったですね。ようやく、ロワイアントナーガ国にたどり着きました。もちろん、獣人族も愛していますよ

 異世界リゼラミアに来て三日が経ち、ようやく長い森を抜け出せた。


「やっと森から出られた」


 開放感から、思わず声を張り上げた。

 木といい水といい、ラムラグの森の自然はとても綺麗だったが、さすがに三日間同じ景色で、誰とも会わないのは辛い。


 見慣れた森の景色が終わり、今度は草原が広がっていた。 

 少し先には、城らしき高い建物、それを取り囲むように街も見える。


 まだ、日は暮れていないが、今から歩いてあの街に着く頃には一度日が沈むだろう。


『ウルク、お疲れさまでした。あと少しですね』


『アリーセス、ここまで、案内ありがとう』


『お役に立ててよかったです』


 アリーセスがいなかったら、完全に遭難していただろう。


 もっとも、森の中に召喚したのもアリーセスなのだが……


 僕は苦笑する。


 ◇ ◇ ◇ ◇


『日も沈んでいるのに、まだ、こんなに人が出歩いているんだ』


 森を出てしばらく歩いた後、無事に目指していた城下町に到着した。

 日は沈んでいるため、街灯がともり、街の様子が照らし出されている。


 行き交う人々。


 ……いや、人だけじゃなくて、獣人もいる?


『リゼラミアには、獣人もいるんだね?』


 ほぼ人間の姿と同じだが、獣耳が頭から生えている獣人も歩いていた。

 耳の形は猫のような形からウサギのような形の耳まで多種多様だった。 


『あ、それには事情がありまして……』


『事情?』


『獣人は私が創造したのではなく、魔族によって作られた、人間と獣の嵌合体キメラなんです』


『……嵌合体(キメラ)?』


『人間と戦わせるために嵌合体(キメラ)として獣人が作られたのですが、過去の勇者達によって多くの獣人が解放されました。今は人間とも共存していますが』


 共存……


 そう簡単にいくのだろうか?


『元々が敵だったってことは、人間からは嫌われているんじゃない?』


『……はい。特に、魔王軍に家族を殺された人々は、獣人達を嫌っている傾向があります』


 意図せず生まれてしまった獣人を、アリーセスはどう思っているんだろう……


『そうですね……。最初は獣人化させられた人間と動物のことを悲しく思いましたが、生まれてしまった以上は、私が創造した存在として大切にしたいと思いました……」


 言いよどんだということは、受け入れるのに相当な葛藤があったのだろう。


『えーと、お金がないと宿にも泊まれないし、まずは憲兵に宝石を届けないとね』


 これ以上話を続けても、重い雰囲気が続きそうだったので話を切り替えた。


『はい、では、一番近くの憲兵隊支部に案内します』


 アリーセスに案内されながら、 僕はロワイアントナーガの憲兵隊支部へと向かった。



『ここが憲兵隊支部です』


『そういえば、盗難品を届けるということは書類を書くこともあるんじゃないかな? 僕はリゼラミアの文字が書けないんだけど』


 一から学ぶのは、相当大変だ。


『それは大丈夫です。リゼラミアの元々の文字もありますが、勇者の大半が日本人だったため、日本語も公用語になっています』


『そうなんだ』


 ほっと胸を撫で下ろす。

 よく考えたら、精霊との会話も普通に日本語でしていた。


 というか、過去に来た勇者たちは日本人が大半だったのか……


 きっと、アリーセスは日本人に好意的なのだろう。

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