第14話 魔法の袋をうまく活用すれば、今後の冒険がだいぶ楽になりそうですね

「宝石がいっぱいあるのは嬉しいけど、さすがに全部は運べないな」


 かなり重そうだ。


『そちらに置いてある、魔法の袋を使って下さい』


『魔法の袋?』


 ふと宝箱の左隣に視線をやると、何か特殊に加工された布でできたような袋が落ちていることに気づいた。


『その魔法の袋ですが、袋の中を別空間と繋げられるようになっています』

 

 アリーセスが説明してくれた。


『そんな便利な物があるんだ』


『袋の中と洞窟内の空間は繋がっていますので、その袋を持って行けばこの洞窟内にある物はいつでも取り出せます』


『なるほど。ちなみに今、この袋の中に手を入れたら、どうなるのかな?』


 少し気になった。


『やってみますか?』


 やって危険なことではないようだ。


『そうだね、試しにやってみるよ』


 袋の中に右手を入れてみると。

 突如、僕らのいる場所の真上から自分の手が出て来た。


「うわっ、気持ち悪っ!!」


 客観的に見ると、手だけが空中に浮いている。


『意識して動かすと、空間内の手の位置を自由に変えられます』


 驚いてテンションの上がっている僕とは対称的にアリーセスは冷静に説明する。


『そんなこともできるの?』


 試しに手を握ってみたり、手首からぐるぐる回してみたりした。

 

 本当だ。

 意識すると、洞窟内であれば、空中に浮いている手を自由に動かせた。


「何にしても、これがあれば、宝石を運んで持って行く必要はなさそうだな」


『後は、服も着替えた方がよいかもしれません』


『確かに』


 今着ている服は元いた世界の服。

 洞窟に乱雑に置かれたままになっていた盗賊達が着ていたであろう衣類を見ると、着ている服と明らかに違うことが分かる。


 このまま町に出れば間違いなく浮いてしまうことは想像に難くはない。

 服もありがたく拝借はいしゃくさせてもらおう。


『じゃあ、これなんかどうかな?』


 盗賊のような服は除外して、冒険者に見えそうな服を選んだ。 


『いいと思います』


 アリーセスがそう言うのであれば、変ではないのだろう。 


「なら、これにするよ」


 そう言って着替えようと上着を脱ぎ始めたところ、


「「お、お待ちください!!」」


 と、慌てた様子で、ファイとミューリに着るのを止められた。


「え?」


 見たところ破れている様子もなさそうだが。


「ウルク様に、長い間放置されていた服を着させるわけにいきません。せめて、水洗いをさせて下さい」


 そう言うと、ミューリは一塊ひとかたまりの水を出し、その水の中に服を入れて、洗濯機のように服を回し始めた。


 しばらくするとくるくる回る服の水分がとばされているのが分かった。

 脱水もできるのか。


 更に、水を切った後、ファイが火の熱を利用して服を乾かしてくれた。


「凄いな……」


 戦闘以外にも魔法の使い方があることに感心する。

 

 早速着替えてみよう。

 服に温かみが残っていて、更に洗いたての爽やかさもある。

 

 着心地は最高だった。

 もはや拾い物とは思えない。


「うん、いい感じ! ありがとう、二人とも」


「「どういたしまして」」


 役に立ったことが嬉しいのか、二人とも笑顔で答えた。


 精霊とはそういうものなのか?


 戦闘でも頼りっきりなのに、何か申し訳ない気持ちになる。


 まあ、喜んでしてくれているみたいだから、いいんだけど…… 


「服も着替えたし、そろそろ行こうかな」


 宝石も手に入ったし、あとは森を出るだけだ。

 この三日間、本当に長かった。


『少し待って下さい』


 洞窟から出たところで、アリーセスに止められた。


『ん、まだ何かすることあった?』


 もう森を出ることしか頭になかったのだが。


『洞窟の入り口は、破壊して置いた方がよいと思います』


 そう言われて、ハッとする。


『あ、そうか』


 今後も魔法の袋を使っていく場合、この洞窟に誰でも出入り出来る状態にしておくと、物を自由に持って行かれてしまう。


「ファイ、今度は誰も入れないように、入り口を閉じてもらえる?」


「了解しました。火炎魔法!」


 ドーーーーン!


 火の玉が岩石にぶつかり、凄まじい轟音ごうおんが辺りに響き渡る。

 入り口をとり囲む岩が崩れ落ち、洞窟の入り口が閉ざされた。


『これでいいんだよね』


『はい、これで誰も入れないと思います』


 ちょっと空間の作り方が雑な気が……


 思わず苦笑いする。


 でも、これで色んな物を蓄えて置けるな。


 旅や冒険といえば様々なアイテムが必要になると思われるが、洞窟の広さを考えると相当な量の物を置いておくことが出来る。


 いつの間にか、魔法の袋を活用した巨大な倉庫ができてしまった。

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