第13話 宝石をしっかりと憲兵に届けるなんて、ウルクは真面目ですね。でも、そこがよいところだと思います

 魔獣との闘いから数時間後。


『そういえば、もう少しで森を出られると思うんだけど、リゼラミアには物を買う制度とかあるのかな? 今後、生活していくのに火と水だけでは限界があるような気もするんだけど』


 リゼラミアの生活がどういう仕組みで成り立っているのかを、まだ聞いていなかった。

 森の中で一生過ごすわけではない。

 

 街を目指しているということは、お金みたいな物はあるのだろうか?

 その場合、何も持っていないと困ったことになる。


『はい、実はこの近くに、宝石などが隠されている洞窟があります。その宝石を売って、当分の資金にしてもらえればと思います』


 不安げな僕をよそにアリーセスはそう言った。

 

 なんとも都合のよい話に聞こえるが……


『どうして、その洞窟に宝石が? 持って行って構わない物なの?』


 さすがに心配になって僕は尋ねた。


『はい、数年前に盗賊達が蓄えていた財宝ですが、最近、その盗賊達が捕まったため、そのまま放置されていた物です』


 そんなことまで分かるのか……


 アリーセスの半全知の力の凄さを改めて実感する。


『なるほど』


 とはいえ、元は盗まれた物。


 女神であるアリーセスからの提案とはいえ、そのまま自分の物にするのも気が引ける……


『それらを警察みたいなところに届けると、何割かもらえるみたいな法律はあるのかな?』


『各王国、法律は違いますが、森を出た近くにあるロワイアントナーガ国では、憲兵に盗品を持っていくと、約一割から三割の謝礼が国からもらえます』


 憲兵ということは、ロワイアントナーガでは軍と警察は一つになっているということか。


『謝礼が一割だったとして、当面の生活資金はそれで足りそう額なのかな?』


『はい、生活資金としては十分だと思います』


 なら欲張る必要はないかな。


『じゃあ、盗まれた人も困っているだろうし、憲兵に届けることにするよ』


『分かりました』


 ◇ ◇ ◇ ◇


 アリーセスに場所を教えてもらい、程なくして洞窟らしき岩の山が見えてきた。


『あそこが、元盗賊達の洞窟です』


『森の出口とそこまで遠くないのに、よく今まで見つからなかったね』


『洞窟の入り口に魔法がかけられていますので、見た目は少しへこんだ岩石にしか見えません』


 たしかに入り口らしきところが見当たらない、遠目では岩山にしか見えない。


『魔法がかけられてるのに、どうやって入るの?』


『それは、ファイの火炎魔法で』


 ためらいもなくアリーセスはあっさりと答える。


『あ、物理的に』

 

 思わず、苦笑する。

 何か開ける呪文でもあるのかと思ったのだが。


『岩石を動かせるのはその魔術師と契約を交わした人だけになっています』


 そんなことを考えていると、アリーセスが補足した。


 なるほど、そういうことか。


「ファイ、あの岩石に火炎魔法をぶつけてもらえる?」

 

「了解しました」


 ファイが火の玉を作り出す。


「火炎魔法!」


 ドーーーン!


 ファイが放った火の玉が岩石にぶつかると、岩が崩壊して、奥へと続く洞窟が現れた。

 中に入ると、十人から二十人ほどの人数が生活できる広さの空間が広がっていた。


「あ、これか」


 洞窟の一番奥に光るものが見えた。


 近づいて見ると、おとぎ話でよく見るような金箔きんぱくで覆われ美しい模様や石で装飾された箱。

 いわゆる宝箱だと分かった。


 その箱を開けると大量の宝石がぎっしりと入っていた。

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