第12話 浄化するのも一人ではできないし、私って本当に無力……

「今後は気をつけないといけないな」


 アリーセスによって、魔の霧が近づいて来ることは分かっても、数までは分からないらしい。


『アリーセス、魔の霧が近づいた時に、魔人か魔獣かの区別はつくのかな?』


『いえ、魔の霧の中の状態は把握できませんので、魔人か魔獣かの区別はつきません』


 アリーセスは口惜しそうに答えた。


『そうだよね……』


 それだと、かなり大まかに「敵が来る」としか分からないことになる。

 となると、出現する敵は今回みたいに倒せる敵ばかりでないことも考えられる。


 魔人が近づいていると想定することも必要だ。

  

『魔人に強さの階級みたいなものは?』


『あるみたいです。一番上に魔王、その次に各魔王軍を統率している魔王十二将。また魔人の中でも、上位・中位・下位魔人と分かれているようです』


『なるほど』


 それだけ階層が分かれているとなると敵の数は多いということも瞭然りょうぜんである。


 ただ、さっきの説明でアリーセスは「あるみたい」「いるよう」と断定を避けている。

 断定しなかったのは、魔の霧のせいで、アリーセス自身が把握しきれていないから。

 情報は勇者達から得たのだろう。


『ただ……』


 アリーセスは続けた。


『具体的な分析は出来ませんが、魔の霧の範囲で、勢力の規模はお伝えすることが出来ます』


 そうか……


『もしかして、数や強さと魔の霧の範囲は、比例しているってこと?』


 僕は思いついたことをすぐにアリーセスに尋ねた。


『確実な数値化は出来ませんが、おおよその規模は分かります』


 これは、アドバンテージになる。

 場合によっては、敵わない相手には近寄らないという選択肢も取れる。


『たとえばさっきの魔獣を三として、魔の霧の規模を数値化って出来る?』


『はい、おおよその数値であれば……』


『じゃあ、今後は、数値で教えてもらえる?』


『承知しました』


 一つの懸念が消え、森をぬける足取りが少し軽くなったように感じた。


『後、この魔獣はどうしたらいいのかな?』


『動物の姿に戻れるようにと念じてもらえますか?』


『念じればいいの?』


『はい』


 動物の姿に戻れますように……


うけたまわりました』


 アリーセスが、そう答えると、魔獣の体が光り始め、魔獣の全身を覆っていた黒いもやが薄れていく。

 徐々に、体も小さくなり、元のイノシシの姿へと戻っていった。


『魔獣から戻すこともできるんだ?』


『無条件に戻すことはできないのですが、ウルクの祈り、今回は念じてもらったことを条件に、女神の力を発動させて、戻すことができました』


 アリーセスの力で、直接、元に戻すことはできないということか。


 これも例の法則ルールのっとっているのだろう。


 これがアリーセスが勇者を必要としている理由なのかも。


 どうやら、勇者を媒介ばいかいとして、アリーセスは様々な能力を行使こうしすることができるようだ。

 

 攻撃的な力は使えないとはいえ、女神の力を使えるというのは、もしかして、かなり大きな力なんじゃ……


 勇者として決意する以前に、勇者としての能力は既に与えられている。

 

 何か、どんどん外堀そとぼりを埋められていっているような気がするのは気のせいだろうか?


『狙って外堀を埋めていってるわけではないのですが、ウルクに勇者になってほしいのは事実ですし、そう思われても仕方がないですね』


『あ、ごめん』


 心の声が聞こえるのを忘れていた。

 僕は思わず苦笑する。


 まあ、何にしても、ちょっと失敗はあったけど、大した怪我もなく勝てたので、初めての魔獣との戦闘としては成功だったんじゃないかな。


 僕は自分の経験値が、少し上がったような気がしていた。

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