第5話 え、どうして、自身に対してそんな制限を課してしまったのかって? だって、一緒に喜び合いたいのに、私の操り人形みたいな人間の人生なんて見たくないですよね

 食材は確保できたけど……

 

 いくら新鮮な魚とはいえ、さすがに生でそのまま食べる気にはなれない。

 魚をさばく道具はないため、丸焼きにするのが一番よさそうだ。


『アリーセス、もしかして、火の精霊のファライアにもお願いをすれば、魚を焼いてもらえるのかな?』


『はい、可能です』


 予想通り、出来るらしい。

 原始的ではあるものの、火と水の精霊がいれば、生きていくうえで、かなり助かるな。

 

 それも考えて、アリーセスは火と水の精霊を授けてくれたのだろう。

 今となってはっきりと理解した。

 

 そういえば、さっきのやりとりで、ひとつ気になっていたことが……


 魚をとる時といい、精霊を呼び出す時といい、アリーセスから直接精霊に命令すれば済むことも、先ほどから何故か僕がすべて代弁している。


『少し確認したいことがあるんだけど、ひょっとして、アリーセスは精霊に直接命令をすることはできないのかな?』


『はい、ウルクが予想した通りです。精霊は人間のパートナーとして創造しました。私も精霊達と会話はできますが、その力は人間のみが使用できるようにしました』


 なるほど、そういう法則になっているのか……

 

 けど、それって女神であるアリーセスにとっては、不利な法則になってるよね。


 どうして、自分の力を自ら制限するような真似を?


『私は、人間を人形にしたかったわけではありません。私と同じように創造性を発揮できる存在としての人間と関係を結びたかったので、そのための環境と法則ルールを創りました』


 僕がしゃべる間もなく、アリーセスは話を続けた。

 また心を読まれたようだ。


 要は女神であるアリーセスが人間に過干渉かかんしょうできない法則ルールを創ったことで、アリーセスの操り人形としての人間ではなく、創造性と自由を持った存在としての人間になれたということか……


 まあ、人間にとっては、その方がありがたいんだろうけど。


 もし逆に、アリーセスが人間に創造性や自由を与えることを望まなかったら、リゼラミアの人々は、今頃アリーセスの意のままに動く人形として存在していたに違いない。


 ぐうう!


 凄まじい音でお腹が鳴った。


 考え事をしていたら、更にお腹が空いてきた。

 まだまだ気になることはあるけど、それはそれとして、まずは腹ごしらえをしないとな。


「ミューリ、せっかく捕ってもらったんだけど。この魚達、しばらく水の中に入れておいてもらってもいいかな?」


 火を使って焼いて食べるから、魚を刺す枝でも探すか。


「了解しました」


 僕は水辺を石で囲んで魚が出られないようにした。


「後は、使えそうな枝を数本拾ってと」


 枝は周囲に落ちており、意外とすぐに集まった。


 ただ、魚だけでは味気ない。

 

『アリーセス、食べられるキノコや山菜を教えてもらうことって出来る?』

 

『はい、可能です』


 アリーセスに確認をしながら、食べられるキノコや山菜も収集した。


 女神と会話出来れば辞典もいらないな……

 

 アリーセスと一緒にいれば、辞典がなくても、食べられる物かそうでない物かをすぐに知ることが出来る。


『あ、でも、女神であるアリーセスを辞書扱いなんかしてもいいのかな?』


『もちろん、構いませんよ』


 アリーセス自身がそう言うのであれば、いいのだろう。

 

 何にしてもアリーセスとミューリのお陰で食べ物は簡単に手に入れられることが出来た。

 

 食べ物を食べたい時に食べられる。

 

 森の中で生きてみると、これに勝る安堵感あんどかんはないと、僕は強く実感した。

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