第4話 精霊と仲良くしながら、なんとか森の中でも生きていけているみたいですね

 歩いて三日はかかるという森の中にいることは最悪だったけど、アリーセスと精霊の援護があれば、何とかなりそうなのかな。


 とはいえ、森を抜けるまでは油断できない。

 明るい間に出来る限り進んでおきたい。

  

『じゃあ、アリーセス、さっそく、この森から抜ける道を教えてもらえますか?』


『はい、それでは、ご案内しますね。まずは、左にあるけもの道を進んでください。進んだ先に清流せいりゅうがありますので、そこをしばらく下ってください』


 言われた通り、けもの道を難なく進むと、確かに清流があった。

 清流の幅は五メートルほど、奥には木々が連なっており、手前は砂利道になっている。


「綺麗な水だなぁ」


 水は水底が見えるくらい透き通っていた。

 水面にうっすらと映っている自分の姿を見て、始めて自分の容姿ようしを確認する。


 髪は黒髪で長さはミディアムくらい、服装はカジュアルな白のワイシャツにデニムのジーパンを穿いていた。


『その水は、人が飲んでも大丈夫です』


 あ、飲んでもいいんだ。

 ちょうど、喉が渇いていた。


 というか、アリーセスと会話できると色々と便利だな。


「おいしい!」


 たかが水で大げさかもしれないが、思わず声に出してしまった。


 山の水だからなのか、不安と緊張で喉が渇いていたからなのか。

 身体にすっと染み渡るような感じがして、飲んだ水は格別においしく感じた。


「もう少し歩けそうだな」


 まだ、体力に余力はある。

 しばらく、清流に沿って山を下って行った。


「す、少し休憩……」 


 あれから早く森を抜けたくて黙々と歩き続けたが、二時間ほど歩いたところでバテてしまった。

 息も絶え絶えに、道端にあった、岩の上に座り込んだ。

 

「お腹すいたな」


 歩いている時は気がつかなかったが、休息しているとお腹が空いていたことに気づいた。


『水の精霊ミューリアスを呼んでください』


 さっきの呟きを聞いていたのだろう。

 アリーセスの声が聞こえた。


 精霊はお願いしたら来てくれると言われたが、いざ呼ぼうと思うと、具体的にどうお願いしたらいいのか分からない。


『どうやって、呼んだらいいの?』


『精霊の名前をお呼びください』


 アリーセスはシンプルにそう答えた。

 本当に名前を呼ぶだけでいいのだろうか?


 岩にもたれかかったまま、おそるおそる、精霊の名前を呼んでみた。


「えーと、じゃあ、ミューリアスさん、出て来てもらえますか?」


 すると、初めて現れた時のように水の塊が目の前に現れ、小人に近い姿へと変化した。

 やはり、身体は宙に浮いている。


「謙虚なご主人様ですね。ウルク様。私に“さん”はつけなくともよいですよ、ミューリアス、もしくは、ミューリとお呼び下さい」


 意外にも、フレンドリーな口調である。

 精霊の方が人間よりも上位の存在かと思っていたんだけど、そうじゃないのか?


 対等な関係?

 でも、ご主人様とも言っていたので、人間の方が上位なのか?


 それとも、アリーセスの命で、僕に対しては主人という位置づけなのか。

 いずれにしても、これからは行動を共にするのだから、あまりかしこまった関係にはしたくない。


「じゃあ、今度からは、ミューリと呼ばせてもらうよ」


「はい、それでお願いします」


 ミューリが屈託くったくのない笑顔で答える。

 よかった、仲良くなれそうだ。


 さっきは精霊の存在自体に驚いていたため、よく見てはいなかったが、ミューリの性別は女性に見えた。

 アリーセスには性別がないみたいだったけど、精霊には性別があるのかもしれない。


「どのようなご用件で、私をお呼びに?」


 ミューリが笑顔のまま僕にそう尋ねた。


「アリーセスに言われるがまま、呼んでみたんだけど……」


 何のために呼んだのかは、まだ聞いていない。


『ミューリアスに、水の中にいる魚を捕って欲しいとお願いしてみてください』


 すかさずアリーセスが教えてくれた。 


『あ、そういうこと』


「ミューリ、水の中の魚を捕ってもらえるかな?」


「了解しました」


 ミューリがそう答えると、清流の中からニジマスに似た魚が、こちらに向かって連続で三匹飛び出て来た。

 魚達は、地面の上で元気に跳ねている。


「三匹で足りますでしょうか?」


 ミューリは嬉々とした表情で振り返りそう尋ねる。


「十分です」


 水の精霊って便利だなぁ。


 精霊にこんな雑用をさせていいのかという思いは多少あるが。


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