第50話 パイセン
【水魔法】による牽制で足を止めた餓鬼2体に向かって突進、左手に持ったバールのようなもので左側の餓鬼の足を掬い転倒させ、右側の餓鬼が持っている武器を引っ張り、取られまいと引っ張り返す力も利用し後ろにいる餓鬼足軽へ押し出す。バランスを崩した餓鬼足軽と餓鬼をマコトがまとめて切り刻み、倒れている餓鬼にバールのようなものを打ち下ろして終了です。
2回目の戦闘は僕とマコトが前衛で戦い、周囲の警戒をアキラに行ってもらいました。
後ろを振り向くと、口を開けたまま固まっている浅井さんがいました。
「彼女、どうしたのでしょうか?」
「ちょっと、様子見てきますね」
先ほどの戦闘といい、今回の戦闘といい、いったいどうしたのでしょうか?もしかして、他のパーティと比べてあまりに段取りが悪くて呆れているのでは……
「浅井パイセン、大丈夫ッスか?」
「パイセンゆーな!!」
「あ、戻ってきた」
「あ、アハハハ、風間さんすごく強いんだね。京極さんと馬場さんも……。はぁ、催眠術とか幻覚とかそういうチャチな能力であって欲しかった」
何故か乾いた笑みを浮かべていますが、僕達の実力を認めていただけたようですね。後半の方は小声でよく聞き取れませんでしたが。
「えーと、次は私の番ですね。ただ、皆さんほど強くはないので、魔法を放った後のフォローをお願いします」
という事で、次に現れた餓鬼足軽3体を最初に浅井さんの【火魔法】で攻撃します。
「えーと、これくらい。いや、もう少し。うん、たぶん、これくらいかな。えいっ!」
浅井さんの手元にあったときは小さな火種程度だった火球がモンスターに近づくにつれ大きくなっていき、着弾するころには餓鬼足軽3体を飲み込むくらいに大きくなっていました。餓鬼足軽たちも大きさの変わる火球の脅威度が分からず、とりあえずで避けていたようですが、直撃こそ免れたものの着弾時の余波をもろに浴び大ダメージを負いました。
「浅井さん、止めの魔法を撃てそうですか?」
「あうぅぅぅ…」
集中していたところに僕が話しかけてしまったせいで軽いパニックになってしまったようです。
「パイセン、止めイケるッスか?」
「ゴニョゴニョ……」
「モンドさん、止めお願いしますって言ってます!」
「わかりました」
思わぬ大ダメージで動きが鈍った餓鬼足軽を僕とアキラで止めを刺しました。
この後、入り口が一つしかない小部屋をみつけたので、そこで昼休憩となりました。
「あの、皆さんはなんでそんなに強いんですか?どっかで特殊訓練を受けた戦闘集団とかですか?」
えーと、これは何かのジョークとかですかね?それとも親睦を深めるための話題を振ってくれているとか?
「パイセン、ナイスジョーク!」
「パイセンゆーなし!!あと、ジョークでもないし!」
「ステータスとレベル」
「ステータスの恩恵とレベルアップだとしても、あれはレベル30を越えたベテラン冒険者相当の動きです!」
浅井さん曰く、モンスター討伐は前衛が体を張ってモンスターを止めつつ、中衛と後衛の魔法や遠距離攻撃でサポートし、隙を見て手にした武器で少しずつ削るようにダメージを積み重ねて倒すものらしい。
間違っても、ワンパンでモンスターを倒したり、一人で高速で何度も攻撃を繰り出したり、一人で3体のモンスターの動きを制限しバランスを崩したりしないそうです。
そう言われると、僕達が何だかとても凄いことをしているように聞こえますが、でも実際は
「最初に魔法で牽制して一瞬動きを止めてから行っているので、そんなに難しいことはしていないですよ」
「そもそも魔法はここぞというときのダメージソースであって、牽制にとバンバン使うものではないのですよ」
な…なんだってー!!
講習の時にそういう話しは聞かなかった。マコトとアキラの方を見ても初耳だという顔をしている。
どういうことだろうか?ギルドによって教え方が違うのか?浅井さんの担当官がそういう考えの人だった?
「浅井さんはギルドの講習でその様に習ったのですか?」
「いえ、レベル30のベテラン冒険者からです」
「ああ、ベテラン冒険者の知り合いからですか」
「あ、えーと、知り合いというか、こっちが一方的に知っているというか、どちらかというと憧れの人というか…」
何だか要領を得ませんね。
「パイセン、それって有名な冒険者の人とか?」
「パイセンゆーな!えっと、有名といえば有名というか…」
「えーと、すみません。先ほどから気になっていたのですが、その『パイセン』というのは何ですか?」
「あー、それは…」
「あ、私、一浪してるんです。それで風間さんより一コ上になるので」
一つ年上で先輩になるから『パイセン』ということですね。しかし、マコトはそういうところで人をからかったりしないと思うのですが。そう思いながらマコトの方を見ると、マコトが弁明を始めました。
「えーと、浅井さんが一浪した理由は学費を稼ぐためで、一年みっちりバイトをしてお金を貯めた上で入試を合格する凄い人なんだ。それで尊敬を込めてパイセンなんだ」
「それでも、やめてと言っているのに続けるのは良くないですよ」
「あのー、それはなんと言いますか、本当にイヤというわけではなく、しいて言うなら掛け合いとでも言いますか…。もともと、それが切っ掛けで友達になった様なものですし」
「ああ、そういうことですね。すみません、空気が読めなくて」
「あ、いえ、大丈夫です。そういう注意が出来る良識のある人だと分かりましたので」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
一つ疑問が解消されました。おや、そういえば、何の話をしていたのでしたっけ。
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