第49話 あれ、デジャブ

浅井あざいしずくです!よろしくお願いしましゅ!」


「ご丁寧にありがとうございます。馬場主水と申します」


「京極晶…です」


 浅井さんは長い髪をお団子にまとめており、アキラより頭一つ分、マコトより少し背が低いくらいの、けど胸のボリュームは3人の中で一番ある可憐な美少女です。そんな美少女も今は表情が強張り、かなり緊張している様子で、それにつられてアキラも少し緊張しています。浅井さんへの対応は、昨夜、マコトから聞いた話を思い出しながら、出来るだけ丁寧な対応を心がけます。


 昨日の夕方、大荷物を持ったマコトを家に招き入れ、夕食を食べながらその日にあったことを話していました。パルクールの話をした時はマコトも行きたいと盛り上がっていたのですが、前に話していたマコトの大学の友人の事になった時、イヤな気分になりました。


 マコトからの又聞きになりますが、その友人が目をつけられたのが同期生の中でも実力があり、大グループを率いるリーダーであり、パーティのリーダーをしていた男で、女に目がなく、探索中でも自慢話をされ俺の女になるメリットを延々と話していたそうです。戦闘でもいいところだけを持っていき、ドロップの分配も自分が有利なように配分していたそうです。


 なんだか似たような状況を経験したような気がしますが、その友人には助けてくれる仲間もおらず、孤立した状態だったようです。


 最終試験でも周りがまったく信用できず、ダンジョンで泊まる時は一番目の見張りをしたあと一睡もせず、休んでいるテントの入り口にトラップを仕掛けていたほどで、テントの中でトラップが作動した音を聞いたときは恐怖しかなかったそうです。


 テントを片付けている時、忌々しそうに睨んでくるパーティリーダーの男に気が付き、ダンジョンでの徹夜でフラフラになりながらも、二つの意味で気が抜けない最終日を過ごしたそうです。


 そういったことがあり、男性恐怖症に近い男性不信となっているそうです。


 その後は二人して大荷物を持ってきておきながら、寝間着がなく僕のパジャマを奪ったり、寝室を乗っ取られたりで一晩が過ぎました。


 そして今日はパーティの顔見せと、お互いの出来ることを確認するため、前回、徒手空拳を試した遺跡ダンジョンにやって来ました。今回は連携とかは気にしないで出来ることをやろうという感じになっています。


 アキラは今回も素手で挑むようです。ただ前回とは違い指ぬきのグローブをしています。


 マコトは前回手に入れた、忍餓鬼の小太刀を2本持っています。


 僕は昨日買っておいた1mくらいのバールのようなものを装備します。


 浅井さんは講習で使用していたものと同じような防具と小さめの盾とメイスをギルドから借りていました。


「えっ!」


 僕達の姿を見た浅井さんは何かに驚いていました。


「どうかしましたか?」


 浅井さんと話すときは目線の高さを合わせ、必要以上に近付かないように気を付けて話します。


「あ、いえ、何でもないでしゅ」


 やはり、まだ、男の人が相手だと辛いようです。今はこれ以上踏み込まず、マコトとアキラに任せましょう。


「この人たち防具もつけずにダンジョンに入る気なのかな。風間さんが声をかけてくれたのは嬉しかったけど、このパーティで本当に良かったのかな」


 僕とアキラが前衛、浅井さんは【火魔法】を使えるそうなので中衛、マコトを後衛にしたいところですが、浅井さんのフォローということで中衛をしながら後ろの警戒もお願いしています。


「えっ!」


 ダンジョンを進み始めると浅井さんが驚きの声を上げました。


「浅井さん、大丈夫?何かあった?」


 すかさずマコトがフォローに入ります。


「えーと、ダンジョンって危険がいっぱいだから慎重に進むものでしょう。それなのにスタスタと早く歩いて行っちゃうから。講習のときのパーティも慎重にもっとゆっくり進んでいたよ」


「ああ、そういう事ね。大丈夫だよ、ボクもアキラさんもしっかり周囲の探知をしてるし、トラップなんかはモンドさんが見逃さないからね!」


「あ、そういうスキルを持ってるんだね」


 どうやら納得していただけたようです。


 それにしても、思いがけずに他のパーティの事が聞けました。本来はもっとゆっくり進むものなのですね。まぁ、うちの場合、索敵が優秀なのでゆっくり進む必要もないでしょう。他にもいろいろ聞いてみたいですが、そこはもう少し浅井さんの信用を得てからになりそうですね。


「3体」


「後ろは大丈夫」


 しばらく進んでいるとアキラの探知にモンスターがかかったようです。マコトも慣れたものですぐに後ろの状況を教えてくれます。


 アキラが示す方向から棍棒を持った餓鬼2体と木槌を持った餓鬼足軽が現れました。


「それではまずは僕達の実力から見てもらいましょうか」


 アキラの牽制の魔法が飛ぶのと同時にモンスターに向かって突進し、前にいる餓鬼2体の棍棒をバールのようなもので打ち払い、絡めとり武器を取り落としたところへ2体まとめて薙ぎ払い、後ろの餓鬼足軽を巻き込むように吹き飛ばす。バランスを崩した餓鬼足軽をアキラが一撃で沈めます。


 このバールのようなもの、なかなかいいですね。打撃武器として良し、武器の絡めとりに良し、体に引っ掛ければ体勢を崩させるのにも使えそうです。両手に1本ずつ持つのもありかもしれません。


 次は僕とマコトで前衛をして僕達の動きを見てもらい、その次にでも浅井さんの魔法を見せてもらうとしましょう。


 そのことを告げようと後ろを振り向くと、サムズアップするマコトと只々ポカーンとする浅井さんが目に入りました。

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