第34話 閑話 アキラ 運命の日

(京極晶side)


 5年前、イギリス出張中だった両親は『ダンジョン・スタンピード』に巻き込まれて亡くなった。


 あの頃は家族仲が冷えきっており、お互いに新しいパートナーがいて、離婚の準備も進んでいて、あとはウチが20才ハタチになるのを待つだけだった。


 そんな状態だったから、大災害のあと連絡がなくても気にならなかったし、ウチからも連絡はしなかった。


 亡くなったのを知ったのはあの日から1週間後、父親の勤め先からの連絡でだった。


 家族仲が悪かったからか、遺体は激しく損傷しているからと最後に顔を見れなかったからなのかはわからないけど、葬儀でウチが泣くことはなかった。


 父親はお金にはきっちりした人で、遺言状を持って来た弁護士さんのおかげで厄介な親族は撃退できた。その上、両親の葬儀や永代供養の墓に入れるまでを手伝ってもらった。


 お礼を言うと、ビジネスだからの一言ですまされた。


 父の友人らしく、今後も何かあれば力になると言ってくれ、今でも季節の挨拶くらいは連絡をしている。ウチの人生でここまで信用できる人は2人目だった。


 物心が付く頃から、男からは変な目で見られ、女からは憎しみの目で見られていることがわかった。


 一度、誘拐されそうになった時、偶然通りかかった武術家に助けられ、その人に二度とこんなことがないように強くなりたいと願うと渋々ながら弟子入りすることができた。師匠は武にしか興味のない人で、修行は厳しかったが変な目で見てくることはなく師匠と一緒にいるのは安心できた。


 そんな師匠は大学を卒業する頃になると、基礎は全て教えた、あとは繰り返し練習せよ。俺は強いヤツに会いに行く。必要があり、縁があればまた会うこともあろう。そんなゲームの主人公みたいなことを言って旅立ってしまった。多分、師匠はこのタイミングまで待ってくれていたんだと思う。


 大学を卒業してからは就職して、セクハラされそうになって、証拠と物理で解決して、退職して、また就職して、セクハラされそうになって………を繰り返していた。


 再就職先を探している時に冒険者の事を聞き、それなりに強さには自信があったので軽い気持ちで受けてみた。それと、もしかしたら、師匠に繋がる何かがあるかもしれないという期待半分くらいの気持ちで……


 同期の受講者を見て肩透かしをくらった。全員を見たわけではなかったが、見た限りでは大した人はいなかった。この人達は自分がモンスターを殺すということが分かっているのだろうか?


 噂でナンパおじさんと呼ばれている人がいると聞いた。またセクハラ騒ぎは嫌なので近づかないようにしよう。


 いつもの嫌な視線が刺さる。何処に行っても同じだと分かっているが嫌なものは嫌だ。最近は訳の分からない自慢話をしてくる奴らもいて、空き時間が苦痛で仕方がない。


 この集団に合わせた実技では退屈かもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。個人の実力の底上げが目的のようで、それぞれのペースで運動できるようになっている。良く考えられていると思う。ただ、超回復を促す薬と言われて渡された謎の液体、確かに効果はすごかったのだが、味だけはどうにかできなかったのだろうか?


 実技の講習で本格的にパーティを組んでダンジョンに潜る事になった。2週間弱同じメンバーになるとのことだ。集団の中に入るのはしんどいけど、あと2週間頑張るかな。そう思っていたんだけど、合流して早々に意味の分からない自慢話を始める男が来た。相手をするのがしんどいのでスルーしていたのが良くなかったのか、勢いが増して捲し立ててくる。そんな時にもう一人男がやって来て空気を読まず挨拶してきた、いや、空気を読んで挨拶してきたのか?今度はこいつの相手をするのかと諦めていると、ん、特に何もない。それどころかいつもの嫌な視線も感じない……???


 ああ、この人はウチのことを人として見てくれているんだ。他の奴らの女としてしか見ていない、金蔓としてしか見ていない、憎悪の対象としてしか見ていない視線と違うんだ。いや、若干女として見ているところもあるが、きちんと配慮して、相手が不快にならないように心を砕いてくれている。


 お礼を言うと少し顔を赤らめていた気がする。照れているのだろうか?


 カワイイ………


 次に来た女からは憎悪の視線を受け、スルーしていると捲し立て男の方へ行った。


 続けて女が来た。その子はさっき助けてくれた人の方へ行き何か話している。ウチの方がスルーされたのは初めてかもしれない。その子を見ていると、なんだか子犬を見ているみたいだ。可愛い。


 最後に来たのは空き時間のたびに意味不明な自慢話をしてくる気持ち悪いヤツだった。嫌な予感がする。


 予感は的中だった。あの人に子供染みた嫌がらせをしたり、訳の分からないことを言い出したり、気持ちの悪い視線で見てきたり……


 あの人も助け船を出してくれるが、それ以上にあれは気持ち悪い行動を繰り出してくる。


 あの人達は講習後、勉強会をしているようでウチも参加させてもらうことにした。座学の先生はすごい勢いで講義を進めるから、聞き逃しても質問するタイミングがなかったから、誰かと相談できるのはすごく助かる。この集まりはいいな、みんなが一生懸命で。それにちゃんとお話するのはいつ以来だろう。マコトの真似をしてあの人をモンドと呼んでみた。驚いた顔をされたので駄目だったか聞いてみたらOKしてくれた、だからウチのこともアキラでいいと言ったら、また顔を少し赤らめて照れていた。


 カワイイ……


 マコトを真似して腕を組んでみた。


 カワイイ……


 マコトを真似して告白してみた。


 カワイイ……


 ああ、エエわぁ……ウチにもっと、もっとモンドの困った顔を見・せ・て

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