第35話 朝ダン

(風間眞詞side)


 モンドさんの気配がする!!


 目を覚ますとテントの中だった。そういえばダンジョンで一晩過ごしたんだった。


 隣を見るとアキラさんがいる。起きている時は近寄りがたい完璧美人ですが、寝顔はかわいいです。


 アキラさんとは気が付けばとても仲が良くなりました。今ではもう一人のお姉ちゃんです。仲が良くなったきっかけはモンドさんですが、仲が深まったのは共通の話題と共通の敵です。


 クズ男Aとクズ男Bとそのお供。クズ男Aとクズ男Bから下心丸出しの視線で見られ、意味不明なことを延々と聞かされ、お供からは憎々しげに見られ、本当にうんざりです。


 特に最悪なのが、あいつらはどれだけモンドさんに守られているかを全然理解していないこと。モンドさんはダンジョン内でいろんなものを発見します。昨日の宝箱やクズ男Aが何度も踏みそうになったトラップなどを。それをあいつらは【幸運】スキルのおかげとしか思っていない…モンドさん自身もそう思っている節はありますが…


 モンドさんは誰よりもダンジョンを観察しています。ただ見るんじゃなく、よく視るんです。それがあれだけの発見に繋がっているんです。探索中はモンドさんの後ろにいるのでそれがよくわかります。アキラさんと一緒にダンジョン探索のお手本にしています。


 時計を見ると6時過ぎでした。準備を整え、【水魔法】で水を出して顔を洗っていると後ろから眠たそうな声がしました。


「ウチも」


「すみません、起こしましたか?」


「あっち」


 アキラさんは首を振って否定し、テントの外を指さしました。どうやらアキラさんもモンドさんの気配に起こされたみたいです。


 水分補給をしてテントを出るとモンドさんが演武と言うのでしょうか、何かと戦っているような動きをしています。アキラさんも近くに行き同じように動きます。アキラさんのはなんだか決まった形をなぞっているようです。ボクも何かしなきゃと思い、昔やっていたバレエをしてみました。


 30分程体を動かして一息ついていると、モンドさんから声がかかりました。


「マコト、柔軟をしたいので手伝ってくれませんか」


 その一言でボクの顔は赤くなってしまいました。


「モンドさん、いじわるです!」


「すみません、少しからかいました」


 昨日のじゅえるちゃんとそのお姉さんのまりあさん考案の『ラッキースケベ大作戦』のことをからかわれました。からかうことで昨日のことを何とも思ってないとアピールしているようですが、モンドさん、ボクは見逃してはいませんよ。少し視線がボクから外れていることと、耳が赤くなっていることを。


『ラッキースケベ大作戦』

 【幸運】スキルを持った朴念仁を篭絡するため考え出された作戦で、急な強い風でスカートが捲れちゃうのような日常に潜むちょっとウッフーンなシチュエーションを演出することで、スキルによるラッキーと誤認識させ少しの罪悪感を利用し女の子を意識させるという小悪魔的且つ頭の悪い作戦なのである。


「ウチも手伝う」


 アキラさんがモンドさんの背中にお胸を押し付けながら話に入ってきました。むぅ、アキラさんも『ラッキースケベ大作戦』ですか……


 朝ごはんです。と言っても紙パックのプロテインと野菜ジュースとカロリーバーだけなんだけどなぁ。ちょっと寂しく思っているとモンドさんがボクとアキラさんにインスタントの味噌汁を持ってきてくれました。温かい味噌汁を飲みホッと一息つきます。


「そういえば、モンドさん、さっきのあれは何してたんですか?」


「朝食前に軽く体を動かしていました。何かを想定して戦う練習をするようなものですかね。ボクシングで言うシャドーボクシングみたいなものです」


「軽くですか、最後の方はかなり激しく動いてましたけど」


「想定してた相手が強すぎましたね。最初は兎なんかの小動物から始めて、次に鹿や野犬などの中型、熊や虎などの大型、ゴブリンや餓鬼のような人型、で最後がたまに稽古をつけてくれる近所のじいさんですね」


 今まで相手したモンスターや、おそらくいるであろう熊などを想定していたみたいです。でも、それらよりもっと激しく動かなくてはいけないおじいさんってどんな人なんだろう?


「モンドの師匠の名前は?」


 アキラさんも気になったのか聞いてきます。


「たまに相手をしてもらっているくらいで師匠ってほどではないんだけど。確か名前は……渋……渋……」


 名前が出てこないみたいです。


「剛拳轟、知ってる?」


「いえ、初めて聞く名前です」


「そう……上から読んでもゴウケンゴウ、下から読んでもゴウケンゴウ。師匠が良く言ってた」


 クスッ


 思わず笑ってしまうと、少し寂しげだったアキラさんも笑っていました。


 先に食べ終わったモンドさんはキャンプ道具を手早く片付け、焦げ茶の中折れ帽をかぶると見張りを代わりに行きました。


 クズ男Aにさせればと思っていたのが顔に出ていたのか、モンドさんから嫌な事と時間を無駄にすることはまた別ですよ、と言われました。


 キャンプ道具やテントを片付けているとアキラさんが小声で歌を口ずさんでいるのに気が付いた。とある壮大な物語のシーズン5の主題歌の英語バージョンだった。歌が終わったタイミングで同シーズンの後期の主題歌の英語バージョンを口ずさむとアキラさんはパッとこっちを振り向きました。歌が終わったタイミングでアキラさんの方を見ると主人公の決めポーズをしたので、チームのリーダーの決めポーズを返すとボク達は無言で握手した。


 全員の朝ごはんと片付けが終わり、出発の準備ができました。


 今日もモンドさんとアキラさんとでがんばるぞ!

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