第30話 閑話 マコト 運命の日
(風間眞詞side)
5年前の8月最初の日曜日、あの日からボクには2つの目標がある。
あの日は12時前後に地震の可能性があるので備えるようにとニュース速報が流れ、お父さんが慌てて保存食や飲料水を買いに行き、お母さんとお姉ちゃんと私は家の戸締まりや火元の確認、お風呂や空の容器・ペットボトルに水を溜めたりしていました。
お父さんがもう少し遅ければ買えなかったかもしれないと言いながら大量の荷物を持って帰ってきました。
12時になると震度3くらいの地震が本当に起こり、お母さんが今の技術はすごいわね、こんなに正確に地震を当てられるなんてと話しながらテレビの地震速報を確認していました。
テレビを見ていると今、世界全体で地震が起こっていたようで、どの国もその国での12時ぐらいに地震があったようで、世界中がパニックになっていると報道していました。
お父さんは日本に住んでいたらこれくらいの地震はちょっとびっくりするくらいだけど、地震のない国だと神の怒りだと騒ぎ出す人もいるかもねと話していると新たに速報が流れました。
「危険な害獣が大量に発生しています。戸締まりをしっかりとしてください。避難指示が出ているところは荷物は持たず指示に従い速やかに避難してください」
幸い私達が住んでいるところは避難指示はありませんでしたが、みんなで戸締まりを確認しました。
テレビで情報を確認していると海外の様子が流れてきました。逃げ惑う人々に襲いかかる小柄な緑色をした人間に似た形をした生き物が……
「ヒッ!」
私が小さく悲鳴をあげるのと同時に停電が起こり、近くにいたお姉ちゃんに抱きついてしまいました。
お姉ちゃんは優しく背中を叩きながら大丈夫、大丈夫だよと自分も少し振るえながら声をかけてくれました。
私も大分落ち着き、お姉ちゃんを一度ギュッと抱きつくと、もう大丈夫だよと頑張って笑顔で応えました。
しばらくすると外からワンッワンッワンッと犬のロスの吠える声が聞こえてきました。
私達は緊急事態に自分達のことで一杯になり、もう一人の家族の事を忘れてしまっていたのです。
私は急いで玄関に向かい、お父さんとお母さん、お姉ちゃんが引き留める声を振り切りロスの元に向かいました。
ロスは何かに向かってしきりに吠えていました。吠える先に目をやるとそこには小柄な緑色の人の形をした化け物がこっちを見て大きな口をニタリとしました。
「ヒッ!」
私はさっきのテレビの映像を思い出し、短い悲鳴を上げその場にへたりこんでしまいました。
ゆっくりと歩いてくる化け物の姿にただ怯えガタガタと振るえることしかできず、目の前に化け物が迫った時、私…死ぬんだ…と思い顔を伏せ目をギュッと閉じる。
どれくらいそうしてたんだろう?ほんの1秒だったような、1時間くらいだったような……
「もう大丈夫ですよ」
肩に手を置かれ優しく声をかけられる。恐る恐る目を開けるとそこにはジャージを着た体格のいい、優しそうだけど疲れが溜まっているような顔をしたおじさんがいました。
その優しさと疲れをたたえた目を見た瞬間私の胸が高鳴りました。
ああ、この人が運命の王子様……王子………王子?…………おじ様!
うん、この人が運命のおじ様なんだ!
「キャァァァッ!!」
「はぁ、またか……君は早くこの子と一緒におうちに入りなさい」
何か聞こえた気がしたが、今はこの運命に浸っていたい……気が付けば私はロスを抱き抱え玄関に座り込んでいました。
お父さんとお母さんとお姉ちゃんに引き連れられ居間に戻ると、さっきあった出来事を興奮気味に話しました。
お姉ちゃんからはいいよねー、包容力のある年上の人ってと言われ、お母さんからは礼儀正しくって優しそうな人よね、お母さんの子だからしょうがないかなと言われ、お父さんからは今のは危険な目にあったことで起こる吊り橋効果だから気のせいだと強く言われました。
その後は遠くの方から大きな音がするくらいで他には何もなく夜になりました。
お父さんとお母さんが今日はいろいろあって疲れただろう、何かあったら起こすからもう寝なさいと言うので私とお姉ちゃんは一緒に寝ることにしました。
お姉ちゃんは布団に入るとすぐに寝てしまいましたが、私はまだ少し興奮が覚めないのか、布団の中でいろいろ考えてしまいます。
今日の私は怯えてしまい何もできなかった。あの人がいなかったらどうなっていたのか考えるだけでも恐ろしい、でもあの人は助けてくれた。あの人はきっと運命のおじ様。なら、私は、ボクは、あの人の隣に立てるくらい強くならなくっちゃ!
そして、5年後、ボクは冒険者講習であの人に再会した。やっぱりこれは運命!あの人は運命のおじ様!
この運命、ぜぇぇぇぇぇったい逃・が・さ・な・い!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます