第6話 から揚げ
講習初日午後1
「今日の実技の担当をする山名だ」
「同じく山口です」
ギルド内のグラウンドで午後の実技の講義が始まるのを待っていると二人の男性と多くのスタッフが大荷物を持ってやって来た。スタッフは早速荷物を広げなにやら機材を設置していく中、不機嫌そうな山名担当官と温和そうな山口担当官が自己紹介をする。
「これより本日の課題を発表する。と言っても今日は講習初日だ、難しい事は言わん」
「これから皆さんにはから揚げを作ってもらいます」
『から揚げ』
鶏肉にころもを付けて高温の油で揚げたシンプルな料理。だがシンプルな料理故に素材の選択、味付け、揚げ方など無限の創意工夫が存在する。そのため、一番うまいから揚げは?と言う話をしたが最後、無慈悲な戦争にまで発展する。
「から揚げの作り方は一度こちらで見本を見せる」
「なので、しっかりと見ておいて下さい」
「ふざけるなっ!!」
担当官の説明を受講者の一人、20くらいの男性の怒鳴り声が遮る。
「俺達は冒険者になるためにここに来たんだ、お料理教室に来たわけじゃねぇ!!」
おっと、俺達とひとくくりにされてしまいました。
受講者の3分の2が同調して騒ぎだす。
「そうだ、実技の講義なら戦闘訓練が普通だろ!」
「黙れ小僧共!!」
一喝する山口担当官と一瞬で静かになる騒いでいた受講者達。優しそうな人ほど怒らせると怖いものです。
「課題さえ終わればあとは好きにしてくれてかまわねぇ。素振りをするでもいいし、その辺の器具を勝手に使ってくれてもいい。なんなら、俺らと組手でもしてみるかい?」
山名担当官がそう言うと、説明を遮った赤メッシュのイケメン君は舌打ちしてからスタッフが設営した簡易キッチンへ向かい、騒いでいた受講者達もそれに続く。
「それでは始め」
山名担当官がなげやりに開始を宣言する。
このままではこの講義の意味に気づいた人や、さっきの騒ぎを我慢した人達が可哀想ですね。
「あの、山名担当官。ひとつよろしいですか?」
「おう、なんだ?」
「まだ、見本を見せてもらっていません」
「から揚げくらい簡単に作れるだろ。皆、調理場へ行ったぜ」
「いえ、全員ではありません」
「しょうがねぇな、付いてこい」
面倒くさそうに返事をした山名担当官でしたが、少し口角が上がっていたような……
簡易キッチンから少し離れた場所に移動すると、何か囲いのようなものにに青いビニールのシートが覆われていた。ガサゴソと何かが動く気配があり自分の予想が当たっていたことを確信する。
「さっさとやっちまうぞ」
そう言うと、覆われていたシートを外し、中にいた鶏を1羽取り出す
「まずは頭を切り落とし、バケツの上に逆さ吊りにして血抜きをする。その間に湯を沸かしておけ」
「血抜きが終わったら、全体が浸かるように湯に浸けて軽くゆする。それを上にあげて何回か繰り返す」
「もう一度吊るして羽を抜く、抜き終わったら産毛のような細かい羽根をバーナーで焼く」
「次は捌いていくぞ、足を関節部分で切り落とす。腹に皮一枚分くらいの切れ目を入れる」
「両足をガッと開いて腿を切り落とす。肩に切れ目を入れ、手羽部分を片手で持って胸肉ごと引きはがす。あとは専門知識がないと難しいだろうからここまでできりゃぁ上出来だ」
そこでニヤリと笑みを浮かべる山名担当官であった。
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