第7話 長髪君と赤メッシュ君
講習初日午後2
「わからないところがあったら、遠慮せず聞いてこい!」
初めて目にするであろう鶏の解体を目の当たりにして固まっていた一部の受講生達は、山名担当官の一声にハッとする。
ここは年長者として最初に動いた方がよさそうですね。
そう思い1歩踏み出すと、同じタイミングで長い黒髪を後ろで束ねたおとなしそうな20くらいの男性と、茶髪で少しぽっちゃり体系な20代前半くらいの男性も動いた。
「こういうのって誰かが最初に動かないと始まらないヤツだと思ったんだけど、余計なお世話だった?」
「そんな事ありませんよ。私も同じような事を考えていましたから。余計なお世話でしたか?」
「いや、問題ない」
気遣いを見せてくれた長髪君に大丈夫なことを伝えると、気恥ずかしそうに返事を返してくれました。
「そうそう!こういう時、最初に動くのって緊張するよね。まあ、僕の場合、早くから揚げが食べたかったからなんだけどね!」
僕達の会話を聞いて場を和ませようとしてくれるぽっちゃり君。それで緊張が少しはほぐれたのか、様子見していた受講者達も動き出しました。
「始める前に、こいつを着ておけ。あと、もう一回手本を見せてやる。ゆっくり説明してやるから、一緒にやってみろ」
皆さんに割烹着を配り、もう一度解体を説明してくれる山名担当官
「頭を落とす時はためらわずにやれ、中途半端が一番ダメだ!気持ちが追い付いていないときは一度獲物から手を放し深呼吸しろ、気持ちを切り替えてから行動しろ!」
「頭を落とされても体はしばらく動くから、しっかり押さえておけ!」
要所要所で的確に入るアドバイスのおかげで皆さん悪戦苦闘しながらも解体は無事終えることができました。
解体した鶏肉をもってキッチンに来ると
「おう、お前ら鶏肉見つけたんだな、いったいどこにあったんだ?結構探したんだけどなぁ」
こちらに気づいた赤メッシュ君が近づいてきた。どうやらキッチン周りをずっと探していたらしい。先にキッチンへ向かった受講者の中には解体場での作業に気づいてこちらに来ていた人たちがいたというのに…
「まあ、いいや。これでこのクソつまんねぇ講義を終わらせられるぜ」
そういって僕の方へと腕を伸ばしてきた。その腕をかわすと
「何やってんだよ、その鶏肉をこっちによこせよ!!」
「なぜ、そうなるのですか?」
「はぁ?俺はどこにあるのか知らねーんだからしょーがねーだろ!!知ってるお前がもう一回取りに行きゃいいだけじゃねーか!!」
「場所なら教えますので、ご自分で取りに行ってください」
「はぁ、いいか、俺が先にキッチンに来てたんだ!だったら俺が先に作るのがスジってもんだろ!!」
さて、どうしたものでしょう?いつもなら適当に相づちを打ち、ガス抜きできたところで妥協案といったところなのですが、そうするとおそらくほかの人たちの方へ行ってしまう。それに僕の方がめんどくさくなってきた。もう、いっそ…
「大丈夫?」
困っていると長髪君が声をかけてくれました。
「話が通じなくて困っています」
「それなら無視すればいい。場所はほかにも空いている」
あっ、目から鱗が…
というわけでサクッと無視して場所移動。なにやら赤メッシュ君が騒いでいるようですが、本日の課題を無事に終えることができました。
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