第3話 『龍球』の悟

 電光掲示板の数字が次々に流れていく。さっきの騒動でほとんどの人が立ち去ってしまったので思っていたより早く受付の順番が来た。


「本日のご用件をお伺いします」


「冒険者登録をお願いします」


「承りました。身分証明書と必要書類の提出をお願いします」


 車の免許証と一緒に待ち時間の間に書いておいた書類を提出する。


「本日のメイン営業は終了しております。また後日こちらの発行券を登録受付のほうへ提出お願いします」


「はい、ありがとうございます」


 受付のお嬢さんはマニュアル対応に関しては完璧なようですねなどと考えていると


「あ、あの、先ほどはありがとうございました」


「いえ、どういたしまして」


「……」


「……」


 なぜかお嬢さんがこちらからの声掛けを待っているかの表情でこちらを見てくる。数秒ほど見つめあっているとしびれを切らしたのか


「それで査定の結果はどうなんですか?」


「査定?」


「……え、ギルドの監査官ですよね?確かにクレーム対応は少しダメだったかもですがそれ以外の通常受付は完璧だったと思うんですけど」


「???いえ、今日は冒険者登録をしに来ただけですが」


「いやいや、41才で冒険者とかないですよ。それにクレームの時の的確なアドバイスとか、鬼を召喚したこととか」ゴチンッ!!


「ぐぉぉぉ」


 再び鈍い打撃音が響くとお嬢さんは頭を押さえながら乙女が出してはいけない声色で呻いた。そしてやはり背後にはナイスシニアが立っていた。


「お客様、協会職員が失礼いたしました。心よりお詫び申し上げます」


「い、いえ、お気になさらず」


 ジェントルな感じでお辞儀され、ジェントルな声でお詫びされれば、それはもう許すしかないですよね……。


「新たな冒険者は大歓迎です。こちらも十全にサポートさせていただきますのでご無理のない範囲でご活躍ください」


「ありがとうございます」


 これは無理をするなとくぎを刺されたのかな。ギルド職員さんと話していると先ほどの金髪君がやってきた。


「おう、おっさん、助かったぜ。これでダチを治療に連れて行ってやれる」


「それはよかったですね。あと、忠告なのですが、冒険者融資の金利は結構高いので早め早めに返済したほうがいいですよ」


 急いでいた理由はそれでしたか、見た目と言動はあれですが仲間思いの金髪君だったみたいです。これが飲む、打つ、買うな理由ならほっとくつもりでしたが、思ったよりいい子だったので思わずアドバイスしてしまいました。それに金利のことを話したときナイスシニアさんの白髭が一瞬ピクリと動いていました。まぁ、たぶん、いざというときにギルドで動かせる冒険者を増やしておきたかったのだろうなぁ、とか推測してみる。


「アドバイスさんきゅな。俺はチーム『龍球』の悟だ。なんかあったら遠慮なく言ってくれ」


「馬場主水と申します。なにかあったらよろしくお願いします」


 最後に少し挨拶をかわすと金髪君は走り去っていった。


 それにしても


「友達のために怒っていたからあんな髪型になったのかな?」


「「ぶっ!?」」


 僕のつぶやきに対し吹き出す声がカウンターの向こうから聞こえてきた。

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