第26話 久々の労働と恋心
話は現在に戻って、財団設立3年目のある日、淳史は真千子に働きたいと言い出した。真千子は自主的に何かをしたいと言ってきた淳史を喜ぶも、普通に外で働くことは諸々危険であると考えた。考えた真千子は淳史を遠い親戚としてイカロスの調整部でバイトとして働けるよう手配した。タッチは続けてもらうため、バイトは午前勤務のみとした。イカロスの中でも淳史の素性を知る者は少ないため、真千子はばれることはないだろうと考えていた。
調整部の仕事は、審査が通ってタッチが決定された患者の容態や周辺環境を考え、時間や場所を設定して、交通のチケットやホテルを手配する部署である。
初出勤の日、淳史は同時期に配属された医師ノゾミのかわいらしさに好意を抱いてしまった。彼女はコーディネートされたスケジュールに無理がないかを、医師として助言をする立場として、調整部に配属されていた。
淳史は早速一件目の調整を部長から依頼され、ノゾミと組むよう言われた。その時、部長から
「
淳史は『雲上さん』とは誰かと部長に尋ねると、
「タッチをする人だ。雲の上の存在だから雲上さんだ。」
そう説明をした。それを聞いた淳史は、自分はそんな風に呼ばれていたのだと苦笑いをした。
調整の依頼をされた患者は、抽選枠で当選した全盲の
「拓馬さんがタッチされて視力が戻り、まぶたを開けて一番初めに、家族の顔を見てもらう演出はどうでしょう」と淳史に提案してきた。
患者さん以外に顔を見られてはまずい雲上さんはどうするのかと淳史が尋ねると、
「カーテンの陰から隠れながらやってもらいましょう」と言った。
それではその感動的な場面を僕は見ることはできないと、言いたくても言えない淳史をしり目に、次々と決めていくノゾミを止めることはできなかった。
何とかスケジュールを完成させ、部長からの決裁が下り、全ての手配を済ませた淳史は、久々の労働に心地よい疲労感を得ていた。
タッチ当日、実施されるホテルの広間では、イカロス職員の立ち合いとして真千子とノゾミがその場にいた。淳史も裏口から到着して準備が整いその時が来た。
カーテンの陰から淳史の手が伸びた。タッチが実施され拓馬が目を開くと、そこには妻と娘と孫娘がはっきりと見える。目に入る3人を見つめて
「そっくりだ」 と 、 嬉し 笑い 泣く 拓馬であった。
翌日、ノゾミが淳史に、大変感動的であったと身振り手振りで伝え喜ぶ姿を見せると、淳史は彼女への好意が増したことを感じていた。
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