第23話 限ってハニー

 ある日、真千子と淳史は人里離れた山林の中で、衛星写真だけを手がかりにタッチ当選者の家を探していた。ふもとで何人かに道を聞きながら進むと突然視界が開け、なぜだか豪華なガツンと一軒家が現れた。すると家の中から人が現れた。彼こそがここの家の主であり、抽選枠タッチに当選した貴之28歳だ。


 家の中に案内され、貴之の妻がお茶を出そうとするが、お茶葉が切れていた。


「こんな時に限ってごめんなさい」と謝る妻。


 豪華な家に住んでいる理由は、昔から林業を営む家系で、自前の山から切り出した木をふんだんに使って、今は亡き父が家を建てたからだそうだ。


 そんな貴之は結婚していて先月、長男が産まれたばかりで幸せだったが、16歳から林業家として山へ入り続けた結果、若くして振動障害という難病の職業病にかかってしまったのだ。


 振動障害とはチェーンソーなどを長期に渡り使い続けることによって、伝達される振動により血管の細胞や神経を痛め、指が蒼白化し動かなく難病だ。まだ若いからと、安全対策を取らずに毎日長い時間働いた結果だった。貴之は、手が動かなくなってなにより辛いのは、産まれたばかりの我が子のおむつ交換できないことだと言っている。


 そんな彼へ淳史はタッチをした。貴之は早速動くようになった手でおむつ交換をしようとするも、赤ちゃんがなかなかお漏らしをしてくれない。しらけそうになる空気を読んだ妻は、赤ちゃんに隠れながら


「こんな時に限ってごめんなちゃい」と言って同席していた一同の笑いを取った。

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