第10話 混浴
【おじい様は厳格に話し始めた】
「それは、私もそう思うよ。だけど、それに意味を問うのは私たちの仕事ではない。先祖の宿命を背負って生まれることの悲惨さに胸を痛めているのは、代々の棟梁たちも同じだと信じている。それでも、そうしてきた理由があるのだろう。守るべきものの存在がある限り、私たちはそうするしかないのだと」
「何を守るっていうのですか?『子々孫々うぶすな神を絶やさず、仙才鬼才に託し縁を背負ふ』ってやつですか?」
応接室に飾られている掛け軸を沼田は指さした。
一緒に来ていた沼田の腰巾着の神牧は、沼田の指さす部屋の奥にある掛け軸を見て「これはどういう意味です?」沼田に聞いたが、沼田は神牧の言葉に耳を貸さずに、興奮気味に、おじい様を攻め立てた。
「それね、それって自体、意味が解らないでしょ。つまり力のあるもの、って神ですか?この時代にうぶすな神って笑わせるでしょ。地域に守り神が必要な時代ですか?」
沼田はため息をつくと
「それに百歩譲って神がいたとして神を守るって大それた考えですよね」突き刺さるようにおじい様を見た。
「神にすべてを託していると言う事なのかもしれない」
おじい様は静かに言った。うつむきがちな神牧はその言葉に顔を上げて、おじい様を見た。
沼田はおじい様の言葉にさらに拍車がかかったように
「千年の昔に神が身近にいたという、途方もない、たわごとに現代人が付き合うなんて可笑しいでしょ」
「そういう事かもしれないが、たわごとかどうかはいずれわかるだろうけど、私は従う事しか出来ない」
「いずれわかるって、千年以上も何も起きなかったのに、今更 何が起きるっていうんです? 集落を特別に守るうぶすな神が生き神として存在して、その生き神は、好きに婚礼は認められないなんて可笑しいでしょう。笑っちゃいますよ。生まれた子は男女とも一人を残し、すべて除籍なんて、今の時代可笑しいでしょ?普通に結婚させて入籍させればいいでしょ」
【息まいている沼田は、少し間をもってさらに強く】
「それに、集落の各家庭には浴室がなくて、集落の浴場は老若男女問わずに集落で生まれた者だけがはいれる混浴施設って何ですか?変を通り越して異様でしょ。過疎化が進んでいる中で多くの人に移住をしてもらわなければならないのに、閉鎖的過ぎるでしょ。集落の中では互いがすべて知っていて、他人の者も自分の物も区別する観念が集落ごと欠落しているのも問題でしょ。そして、それを誰もが知っている。って、変でしょ。互いに助け合っていると言えば聞こえがいいが、監視しているようなものでしょ。
今の常識的に考えても、自分の物は自分の物でしょ。人の物は自分の物ってそれは犯罪者の理論です。警察でも困っていたでしょ。一言、断れば済むものを他人の庭から山菜や植物をとって行ったり、勝手に人の家に上がり込んでくつろいで飲み食いしたり常識的ではないのですよ。新しい人たちが入って来ても、二年ともたずに引っ越していくのは、自分たちの価値観だけで暮らすから、現代の人にはあわない。下界の人間は我々の事をなんて言っているかしっとりますか?」
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