第8話 泉の屋

 正敏父さんと琴絵ママンはニコニコしている。折角、おさまったと思った姉弟喧嘩が過熱し始めているのを見て正敏父さんは「まあまあ、仲がいいのはわかるが、そのへんにしておきなさい」



【話題を強引に切り替えた】


「さて、浅葱家の皆さん。二十四時間の換気が万全。それに泉源湧水の池の上に建つ泉の屋だから、気温はある程度一定だし。一階のキッチンの土間には薪で火を起こすかまどがあるから、氷点下マイナス十度の真冬にガスが止まっても一階以上は極端に凍える事はないね。問題は絶縁を意識した環境の地下室だ。地下室の壁は雲母石に囲まれて、強化ゴムのベッドがあるだけ。床と天井を白いすりガラスの水槽で区切って、室内の照明は大丈夫だとしても、地下室にある水槽の湧水をろ過し純水にする循環装置が止まると、日向は睡眠が取れないな」


「真冬だったら、湧水の方が暖かいからいいよ。一晩くらい純水にしなくても大丈夫だろ。俺は繕い師だから」日向が切り替わった話題に乗った。

「そうか?」

「体調が大きく崩れない限り平気だよ」


「今は横浜に避難が出来ないわ」琴絵ママンは心配する。

「お祖母ちゃんがいるから?」日向が聞くと

「お母さん、今は体調が良くないから、ここの地下室と同じ絶縁を意識した環境の部屋はお母さんが使うことが多くて」申し訳なさそうに琴絵ママンは答えた。


「そんなに具合が良くないの」

「あまり良くないな」正敏父さんは重たく言った。

「そうか、どうしようかな?」



【押し黙った日向を無視するように】


 正敏父さんと滴が話し始めた。

「照明はローソクにすれば?酸素の消費量はガスの方が多いじゃないの?」

「おい滴、ガス会社で使用量のメーターをつけて管理してくれるって言っていたのはどうなった?」

「設置ができるって」


「そうか、とにかく二酸化炭素中毒にならないように、換気システムの方を強化した方がいいな?」

「水の中にいれば、二酸化炭素中毒にはならないよ」

「琴絵、純水循環システムはどうだ?」

「そっちも今のところは、問題がないわ」


 父と母と滴が三人で地下室の環境を話し込んでいる。リビング横のガラスの部屋のベンチ椅子に全身を投げ出して、日向は考えた『大切にされているのはわかるが、この人たちは、いつも当事者の僕を除いて話をすすめるな』すると祖母から思惟が届いた。


『感取放が使えても、使えなくても、世の中の親密圏のトラブルは変わらないのよね。家族平和の為によく我慢をしているよ』

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