第7話 河童と竜
【正敏父さんが】
「その子は大丈夫だったかな?」琴絵ママンに聞いた。
「そうね。私も気になったけど。助けは来ただろうし、きっと私たちの事は忘れて、あかい河童にあったと思っているから大丈夫よ」
「おい、また河童を使ったのか?現代に妖怪っておかしいだろ?マスコミが来たらどうすんだよ」日向は琴絵ママンに大きな声を出した。
すると、姉の滴がからかい
「戸和の滝であかい河童発見!河童に出会った人にインタビュー!」はやし立てた。「戸和の滝じゃなくて、尾の滝でしょ。もともと、河童や竜・蛇伝説が多いから丁度いいわね。観光客が来ない時期だから道の駅は繁盛するわ」琴絵ママンも参加すると
「ご先祖様を馬鹿にするのか?」日向は機嫌が悪そうに、手に持っていたフォークを人のいないキッチンの方へ投げた。
「お行儀悪いわ、今日はどうしたのよ」
琴絵ママンはなにも無かったようにフォークを拾った。
「子供かよ。見間違いするなら河童じゃなくて竜にしてくれよ」日向はますます興奮した。
「竜って?どうしたの?いつも、どうでもいいような事をいうのに、今回は粘るわね」滴はわざと日向に聞こえる程度の小声で言った。
母親と姉を相手に勝ち目のない戦いをする日向のそばに何気なく正敏父さんが寄って来て「お前も男ならアマゾネス軍団に逆らうな」ぼそっと言った。
日向は正敏父さんの方へチラッと目を向け『あなたの恐れるアマゾネス軍団にさっきからあなたの考えている事が筒抜けです…』と日向は思うと同時に、こういうときは、この恐ろしきアマゾネス軍団の養子婿に入った父親に同情する。
しかし、そんなアマゾネス軍団をサポートし心から愛している薬師である正敏父さんは、自分以外の全員が感取放の使い手と知っているが、その事実を無視して自分の役割を基準に判断する男らしい父親だと日向は思っている。
【九月に入っても下界ではまだ猛暑が続くが】
日向達の住まいは標高が高くエアコンの必要がない地域だ。
ミズナラの葉が一斉に落ちるまで心地よく涼しい風が吹く。実は落ちながらリズミカルな音色を奏でる。
十月の初めの台風が過ぎるとこの山々は恵みで溢れる。
木の実とキノコなど山の幸は豊かだ。熊にキツネ、テン、タヌキ、鹿、野兎、鳥たちと秋は忙しく動き回る。年明けに根雪になるまで、冬仕度で森の住人も同等に忙しい。
普段、感取放の使い手は、環境にさほど左右されないが、何らかの影響でバランスが崩れると大変だ。電気を断つ絶縁環境が必要になる。特に繕い師の日向にとって、地下室が生活のほとんどになることも多いし、命に関わることにもなる。そのために、彼らの浅葱家の作りは特殊だ。
「地下のガス灯のメンテナンスはどうする?地下室の住人の意見を聞こう。雪が降る前にしないといけない、ガスをやめて石油にするか?」
形勢不利な息子を救うべく、正敏父さんがパンフレットを持ち出して来て日向に聞いた。「去年、雪が多くてプロパンガスの供給が間に合わなくて、一晩、眠れない時があったね?」琴絵ママンも心配そうに聞くが「ガス灯の揺らぎが好きだから、そのままがいいな。よく眠れる」日向はさして考えていないように、うわの空で答えている。
そんな日向を見て、滴が「河童の住まいだから気にしなくていいよ」というと、我慢の限界なのか「姉ちゃんの馬鹿野郎!」と日向が怒鳴り始めた。苛立つ日向に配慮をしないで立て続けに、滴が聞いた。
「で、タヌキは何を落としたの?」
「探さずに帰ってきたからわからない」
「な~んだ」と馬鹿にしたようにいい。油に火を注いだ。
「なんだ?!それどころじゃあ、なかったんだ!」
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