【第2章】生き神の章
第6話 正常な身体機能を持つ人
【今日は】
日向の父の正敏がいる。昨夜、遅く帰って来た。父の正敏は横浜で会社を経営している。横浜から二時間ほど高速で車を飛ばして来るのである。日向は中学まで横浜にいた。正確には住民票は横浜の自宅にあるが義務教育はほとんど出席せず、病気療養を理由にこの山間の家にこもっていた。
祖母の須磨・琴絵ママンと姉の滴と日向の四人は、思惟で会話する感取放の使い手だ。家族の中で唯一、婿に入った父親だけが思惟で話すことが出来ない正常な身体機能を持つ人である。代々正常な身体機能を持つ家族を薬師と言って尊敬している。
祖母は免疫異常の病気のために横浜の父の元で暮らしている。それは日向が感取放の使い手だけではなく祖先の戸和と同じ繕い師だからだ。繕い師は、異常なほど自己治癒能力が高く他人の怪我や病気などある条件の元で自身に移して治す繕いが出来る。
しかし、祖母の病気は免疫異常なので日向に移した場合、命にかかわる可能性があるので距離をおいている。平安時代に実在した先祖の戸和と代々の先祖の感取放の使い手と繕い師が生き延びる知恵の積み重ねの記憶を引き継いでいる祖母が繕いをせずに横浜の正敏父さんと一緒に暮らすというのでは誰も反対が出来ない。
【正敏父さんがいる時は】
声を出して会話をするので家族での遅いブランチもにぎやかである。
「朝は大変だったな、日向は体力が戻ったのか?」
「疲れたけど、大丈夫」正敏父さんは、ボロボロになったダイビンググローブをつまみ上げ
「危殆を使ったのだって? こりゃすごい、ダイビンググローブをしたまま打ったのか?」と日向に尋ねると嬉しそうに
「おー、突然の事で無我夢中。脱ぐ暇なんかなかった。オレかっこよかったぜ」
「偉かったな、よっぽど強く打ったんだな。弱いとグローブの中で手が粉々になるのだろ?」
「おお、お祖母ちゃんが言っていたよ」
その会話に姉の滴が意地悪いいいかたで「肉団子になるところだった」と言いながら、ブランチのメニューのローストビーフサラダにママンお手製のトマトピューレドレッシングを力強くかけ、日向の顔に飛びちらせた。
「あー!姉ちゃん!やめろよ! 喧嘩を売っているのか?」
「日向が血だらけ!血だらけ!」と、わざと滴が騒ぎ立てると日向は
「くそー、姉ちゃんのバカ」子供のようにふくれた。
「滴!やめなさい」琴絵ママンが止めた。
「それにしても、滝から落ちて来る先に打ち込んだのだろ?その子に当たらなくて良かったな」
正敏父さんが感心するように言うと、日向はとても自慢げに
「そうだよ、丁度、岩に触っていたからそのまま打ち込んだ。多少の怪我なら治せるけど、即死は無理だからね。芸術的だなオレ!」と胸を張った。
すると滴が「危殆が頭に当たれば卵みたいに爆発だ!」卵の爆発を真似て日向の耳元で「ボッむ」と言いながら、姉の滴が揚げ足を取る。
「姉ちゃんはうるさい。とにかく無事だったからいいだろ」日向は拗ねた。
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