第35話 ランク一位への対策を練る場合
「夕花さんへの対策?」
寮の食堂で晩飯を食い終わった後、ルームメイトの
おかっぱの黒髪をさらりと揺らして小首を傾げる旺次郎に、俺は続けて。
「そう。お前は
「うーん、そうだなぁ」
と、顎に手を当てて考えているこの旺次郎、ナリは小さいが実は競技科の実力者だ。
夕花とも実際に何度か戦っているし、こいつからならなにかヒントが得られるかもしれない、と思って尋ねてみたのだが。
「夕花さんに限って言えば、あんまり戦術を立てたりはしないよね。
彼女、中途半端な行動は全部潰した上できっちりカウンター返してくるし」
想像通りの、しかし期待通りではない答えが返ってくる。
「だから、夕花さんと戦うときは攻略なんて考えないかな。
結局、一番自信のある攻撃パターンで一点突破するしかないから」
「実力で勝つしかない、か」
食堂の椅子にどかっともたれかかる。やっぱり、そう簡単にヒントは落ちてないようだ。
得意戦法の精度を上げる。地道ながら、今のところそれが一番の近道のようだ。
とすると、俺にできることはなんだろう。顎に手を当てて考えていると、旺次郎が興味深げに訊いてくる。
「なに、またファインさんがらみ?」
「ああ。夕花がファインに興味持ってて、ファインもやる気になっててな。
ただ、無策で突っ込ませると流石に呑まれる。伊達に
「だからヒント集めか。でも、相手は夕花さんだよ?」
「それ聞き飽きたわ。俺も薄々思ってはいるし」
安曇野も腐るほど言ってたが、相手はあの雨車夕花だ。そう簡単に攻略の手がかりが見つかれば苦労はないだろう。そうは思っているのだが。
「つっても、なにもせず静観するのは性に合わねえ。せめてなんかとっかかりでも掴めねえかな、と思って」
「健気だね」
「そんなんじゃねえよ。ファイン付きの技師としてやるべき事をやってるだけだ」
「それが健気って言ってるんだけどね」
ぐ、と言葉に詰まる。もう一度言い返そうと思ったが、いい台詞が浮かばず黙り込む。旺次郎はそんな俺の様子をくすりと笑って。
「あ、そうだ。アリス先輩に聞くのはどう? 夕花さんとの試合回数はアリス先輩が一番多いと思うし」
「それ、名案なんだけどな」
「なんだけど、とは?」
「いの一番に夕花とファインがやることを止めてきたのがあの人だからさ。『対策教えてください』とかめっちゃ言いづらい」
「それは……困ったね」
「うん、困ってる」
「なにに、そんなにお困りですの?」
びくっ、と肩が跳ねた。ここに居ないはずの人間の声が後ろから聞こえたから。
まさか。そう思ってゆっくりと振り返る。
するとそこには、見慣れた制服姿の、金髪縦ロールの先輩が仁王立ちしており。
「…………マジかよ」
「ご機嫌よう、宙彦さん、旺次郎さん。MTPの看板娘、アリス・L・C・サンダースがマジで来ましたわよ」
男子寮の食堂に、ザ・お嬢様が現れた。
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