第2章 五月雨のゴー・アラウンド

第29話 大敗を喫する場合




 圧倒的。ただただ圧倒的だった。




 薄白いボックスの中央に佇むのは、暗色の機影。 

 深紫のインガルスをまとう――――雨車うるま夕花ゆうかは、静かに海を見下ろしている。


 否、正確には――――ゆっくりと静かに墜ちていく、白蒼の機影を。

 バッテリー残量の危険域到達。それに伴う強制ソフトランディング。

 それはつまり、明確な敗北を意味していて。


『……そん、な』


 ファインから漏れるのは呆然とした声。

 携帯端末からバッテリー残量を確認すれば、改めてその事実を理解させられる。

 夕花の残バッテリーは約七割。自身の飛行によってしかメインバッテリーを消費していない。――――言い換えれば、被弾ゼロ。ノーダメージ。


『思った通り。それ以上も以下も無い』


 疲れた様子など一切見せず、世間話のような口振りであいつは言う。

 これ以上無い、強者の余裕だった。ファインはなにも言葉を返せない。

 悔しげに黙り込むファインの様子に夕花は、短い溜め息を吐いて。

 見下すでもなく、侮蔑するでもなく。

 あくまで当然の事実を告げるように。

 FASの頂点――――ランク一位、雨車夕花はその言葉を口にする。




『やっぱり、蒼姉さんには程遠い』




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