第9話 後輩の特訓に付き合おうとした場合
本日一限目、FA基礎の真っ只中。
この授業は、赤いアホウドリ型教務AIのアカバっちの担当だ。
他の教科は担当教員がいるのだが、なぜかこの科目だけは教務AIが授業を行っている。
……他の一般教養科目も教務AIで良いような気はするが、そこは大人の事情でもあるのだろう。推して知るべしだ。
というか、二年生にもなってまだ基礎? と思うのは俺だけなのだろうか。
ただまあ、カリキュラムに載ってあるものは受けなければ仕方が無い。
とりあえず今日は、新学期も始まったばかりなので、去年の復習をしているところだ。
『さて、次は……フライトギアの基本構成を振り返る』
教室正面の大きなモニターで、赤いアホウドリアバターが胸を張って言う。
頭に学帽が乗っているのは学校側の茶目っ気だろうか。正直、嫌いじゃない。
『フライトギアは、動力系、伝達系、制御系に分かれた構造をしている』
モニターに、フライトギアをまとった人間のフレームアートが映し出される。
『まずは動力系。GIPを生み出す『ジェネレーター』と、その動力源である『メインバッテリー』。そして、もしものときの安全装置である『ライフライン』の三種だ。ライフラインは他のシステムに絡まない完全独立のユニットだが、便宜上動力系にカウントされる。
そしてこれらは、『バックパック』と呼ばれる背面パッケージに格納されている』
モニターに映った装着者の背面部がクローズアップされる。
角張ったリュックサックのような形状のユニット。あれがバックパックだ。
『次に、伝達系。カーボン素材の軽量装甲である『アーマー』および『ヘルメット』と、その中に着込む『インナーウェア』だ』
次に強調表示されたのは、装着者の全身を包む装甲とボディスーツだった。
『主に装着者が直接身体に装備する類いのものだが、これらの中にはGIPを導通させるファイバーが通っている。ジェネレータから発生したGIPは、伝達系のファイバーを通ってギア全体に行き渡ることになる。
これによって装着者の体型に合わせた無駄のないGIPフィールドの展開が可能となり、軽量作用および斥力場を安定的に運用できる』
モニターでは、装着者の身体をぼんやりと覆うようにGIPが薄白く展開されている。
体表から約三十センチ圏内。これがフライトギアのGIPフィールド展開範囲だ。
『最後の制御系は……センサーやコンピュータ類だな。
コンピュータはバックパック内に、センサー類はインナーウェア各部およびヘルメットに取り付けられている』
アカバっちが各部位を指すのに合わせて、フレームアートの該当部が強調表示される。
『各部のセンサーで感知するのは、装着者の肉体運動と思考による脳波だ。これらをコンピューター部で演算することで、ジェネレーターへ指令を送り、GIPフィールドおよび斥力場の出力調整を行っている。
このシステムのおかげでフライトギアの装着者は、GIPフィールド内の思った場所に思った通りの斥力場を発生させることができる。
……それ以上の詳しいことは、技術科の授業に任せることにしよう』
まあ、制御系の細かい挙動を競技科や運営科の生徒が学んでも仕方ないだろう。
知っていて損はないが、基本的には技術屋の畑だ。
などと思っていると、アカバっちの動きが一瞬止まった。
そして、頭に乗っていた学帽がぽん、と消える。
『定刻のため、今日はこれまで。2-A各自には予習復習を推奨する』
◇
「さー、放課後だ!」
「知っとるわ」
「なにーピコちゃん、やる気ねーなぁ」
今日の授業が終わるなり、
放課後のテンションに合わせてではないだろうが、今日もインナーカラーの緑がケミカルに映えている。
……俺のやる気が無いんじゃなくて、お前の気合いが有り余りすぎだと言いたい。
「今日からサラりん大特訓編なんだけど? 気合い入れてくんない?」
「つっても俺、技術科だし。門外だし」
「まーたそういうへりくつ言うー」
「いや、屁理屈でもねえだろ実際」
フライトアーツスクールには、専門の科が三つ存在する。
安曇野とファインは、フライトアーツの競技者を養成する『競技科』の所属。
一方俺は、フライトギアの技術者を育てる『技術科』の所属だ。
他には、FA競技のショービジネスの側面を学ぶ『運営科』がある。
ちなみに、クラス分けに関しては三科でごちゃまぜだ。
理由は『互いの交流を容易にするため』らしい。
確かに、競技科と技術科の生徒は協力関係になることが多いし、運営科は競技会のマッチアップやイベント開催のために他科の生徒をよく集めてる。そのあたりを考えれば、三科が混ざったクラスの方がやりやすいのかも。
閑話休題。とりあえず俺は技術科であり、FA選手でもないわけで。
「フライトギアのマニューバはお前のが断然詳しいじゃん。メインの教師はお前だろ」
「いーや。バッテリーじゃないんだからメインもサブもありませんー!」
「言っとくけど上手いこと言えてねえからなソレ」
机の横に引っかけていた鞄に手をかけ、席を立つ。
待ち合わせ場所は確か、西岸訓練場だったはずだ。
東西の訓練場は、競技場設備がない代わりに広大なため、複数の生徒が訓練できる。
とはいえ、多くの生徒が自主練で使う場所だ。混み合うときは混み合う。
「ほれ、さっさと行く!」と安曇野にぱん、と背中を叩かれたときだった。
ほぼ同時に、ばぁんと教室の扉が勢いよく開いた。
現れたのは、はつらつ笑顔のプラチナブロンドボブカット女子。
「失礼します! つかさ先輩と空木先輩はいらっしゃるでしょうか!!」
ついこの間も全く同じことがあったなぁ、と思いつつ。
安曇野が「こっちこっち!」と元気よく手を振るのに気付いたファインが、競歩並の早さでこちらに近付いてきて。
「つかさ先輩、空木先輩、こんにちは!」
「……相変わらず元気だな、ファイン」
「ほぁっ!? おほめにあずかり、光栄です!」
「褒めてねえんだよなぁ」
呆れ気味に言った直後、「すばらし!」と声を張ったのは安曇野だった。
「やる気があっていいよサラりん!」
「ほぁっ!? おほめにあずかり、光栄です!」
「ちなみにあたしはちゃんと褒めてる!」
「か、かさねがさね光栄です……!」
照れて若干縮こまったファインの頭を「素直かわいー」と撫でる安曇野。
ちなみにファインの二ーA突撃はこれで二回目だが、なぜかクラスの連中は慣れ始めてる。最初のばぁんには流石に反応していたが、今はもうこちらを気にしてる奴らはほとんどいない。
流石は狭き門を抜けたFASの学生、メンタルは全員太めっぽい。
「というか、こっちに来たのか。待ち合わせは西岸じゃなかったか?」
「あ、いえ、それがですね……」
と、ファインがなにかを言おうとする前に。
いつのまに近付いたのか、ファインの後ろからすっと、身長の高い少年が前に出てきた。
胸元のタイの色は青、つまりは一年生だろう。
すらりとした高身長に目鼻立ちの整った顔、栗色のウルフカット。
見るからにイケメンなのだが、なんというか、こう……全体的に気障ったい感じがする。
そんな少年は、余裕のある身振りで前髪をさらっとなびかせて。
「お初にお目に掛かります、空木先輩」
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