三、出奔

「クラちゃん、やばいお願い事していい?笑笑」

私のネット名はkuraha。遥という本名を英語表記にして文字を入れ替えた名前。

私は即答した。どんなお願いにも応えてあげたかった。少しでも、なんでもいいから人の役に立ちたかった。

「いいよ!」

すると彼女は焦ったようだった。

「え、ほんとに?やばいお願いだよ?」

少し考えて私が聞き返す。

「どんなお願い?」


数十秒後の返信、それが私の人生を大きく変える言葉だと、その時は知らなかった。

「家に泊めてほしいんだ」

少し驚いたが冷静に考えた。

「大丈夫!多分大丈夫!多分!」

そしたら彼女は困惑していた。おそらく半信半疑だっただろう。

だが私は久しぶりに嬉しさを感じた。

自分の事を理解してくれる人に会うことが出来る。幸せだった。

彼女とは通話をしたりキャスを聞きに行ったりなどの交流があった為、女の子だということは九十八%確信してた。

まぁ、人生どうでもよかった私にとっては男も女も関係ないし、自分は死んだって構わない。死ぬのが本当に怖くなかった。失う物はもう何も無かった。仮に死んだとして葬式代、火葬代が家族にかかるのがざまぁだと思った。

それに向こうはわざわざ『群馬』から来るのだ。

それでただ私を殺すだけだと向こうは損しかないだろう。そんなことを考えてしまった。

別に彼女を疑っている訳ではなかっただろう。

ただシワの少ない私の脳みそがフル回転してそういう思考に至った。


と、その前に私は彼女に問わないといけない。

「私の人生を壊してしまう可能性がある。その覚悟はあるかい?」

もしその覚悟がないなら断らないといけない。だって、彼女が傷つくじゃないか。

こんなに、毎日毎日少しづつ生きる理由を与えてくれた彼女が傷つくのは割が合わないじゃないか。

もしこれを断る事になったとしても傷つけてしまうだろうが、人の人生を変えてしまう恐怖はきっと比にならないぐらい壮絶だろう。

けれども彼女は

「大丈夫。出来てるよ」

安心した。私も覚悟は出来ている。

私達は計画を立てた。


彼女は今お友達の住んでいるマンションのロビーに居るらしい。

だが私には一つ困ったことがあった。

『明日は学校』なのだ。

彼女が来るにしても学校から帰った後では遅すぎてしまう。

外に出るには危ないと家族に思われる時間帯だと想定した。

私達は相談し合い、会う日を明後日、終業式が終わった次の日と決めた。彼女には可哀想だが、一日はネットカフェなどで過ごして身を潜めて貰うことにした。

話を聞くには、彼氏さんとの関係が"親にバレたから"と、ざっくり聞いた。詳しくは会ってから話すと。

私は彼女が心配で正直終業式どころでは無かったが、家に帰ってから少し安心した。

彼女はまだ警察に見つかっていなかったのだ。

つまり、このまま行けば明日会うことが出来る。


私が学校に行っている間は飛行機のチケットなど調べていたらしい。予約も済ませたと言っていた。

私達は作戦を見直した。間違いはない。大丈夫なはずだ。


作戦はこうだった。

私の地元、北見に一番近い女満別空港まで羽田から彼女が飛ぶ。

バスに乗って北見駅まで来る。着く予定は三時。

そこから歩いて私の家まで。

家に着いたら家族にバレないようにこっそり彼女を家に上げる。

それからは一体どのぐらい滞在するか分からない為、家族にバレてしまわないようにトイレやお風呂は一緒に入る約束になっていた。

今思えば家の中の事は欠点ばかりだった。成功するはずない。確実に家族にバレるに決まってる。

本当に、まだ子供だったんだと思う。私も彼女も。


私は三時の予定より四時間早い昼の十一時に駅に着いて待っていた。楽しみで早く会いたくて、家には居たくなかった。

待っている間、時間が経つのが遅く感じた。駅の裏にある図書館で時間を潰した。短い小説を三冊ほど読み終えると、三時二分。予定の時間を越えていた。慌てて本を本棚に戻して駅に並列しているバスターミナルに走った。

彼女を探して居ると、屋内のバス待ち場に座っている彼女らしき人が居た。

いざとなるとどう話しかけたら良いか分からなくて外であたふたしていると彼女が外に出てきてくれた。

間違いない。この子なんだ。大丈夫。

「あいなちゃん…ですか?」

勇気を振り絞って話しかけた。すると

「あ、はい…!」

その返事にどっと安心感が出た。

「よかったぁ~!居なかったらどうしようかと思った!」

本音がポロッと口に出る。

「いやぁー私も来ないかと思ってドキドキしてたよ」

と彼女は優しく笑って返してくれた。

彼女の持っている荷物が気になり、重かったんじゃないかとか色々考えて、遠慮されたけどお客様だからと言って無理矢理持った。

「それじゃ、行こっか」

私が先に歩き出した。

まず彼女はパジャマ姿だった為、私が予め用意しておいた服に着替えてもらった。

その後は少し会話をながら私達は私の家に向かった。

その途中で一度休憩を兼ねてイトーヨーカドーのフードコートで、朝私が作ったお弁当を食べてもらった。

塩っぱそうで美味しくなさそうな卵焼きと、紫が乗ったお米。ただ塩ゆでして花形に型どった人参。たったそれだけのお弁当。

初めて人にお弁当を作ったが、時間が経っていて余計に美味しくなさそうだ。

だが彼女はそんなお弁当を「美味しい」と言って食べてくれた。それが嬉しかった。

道のりは長く、冬だったのもあり道が悪くて六キロ歩くのに普通は一時間半ぐらいで着くはずが、休憩時間も含めて三時間もかかってしまった。


家に着いてからはドキドキだった。家族に気づかれないように家に入る。まず私が先に入って家の中の様子を探る。

お母さんはお風呂、おばあちゃんは仏壇のある部屋でお経を読んでいた。今だ。今のタイミングしかない。そう思い、寒い中外で待たせた彼女に謝り、 私達はこっそり中に入った。誰にも気づかれずに私の部屋に辿り着いた。

だがそこからが問題で、お母さんは私の部屋によく出入りする。

私の部屋は元々お母さんと二人の部屋だったのでクローゼットはお母さんと二人で使っていた。

お母さんは今お風呂。つまり後で部屋に入って来る確率が高い。そこが怖かった。

彼女には毛布に包まってもらって、ベッドから布団が落ちたように見せかけた。

お母さんが今の自室に入り、何とか難を逃れた。

だが私はご飯を食べなくてはいけなかったので、彼女に息苦しくないか聞いて、

「まだ大丈夫そう」

と返事が返って来たのでもう少し布団の中で我慢してもらう事にして夜ご飯の支度をした。

豚肉を焼いて、温め終わった多めのお米の上にキャベツを乗せて焼き終わった肉を上に乗せた。

初めて肉を焼いた。塩コショウで味付けをしたのだがまた塩っぱくなってしまった。料理は難しい。

家族にバレないように器は一つ、箸は二膳用意した。これを部屋に持っていく。

我が家は個食だったため、部屋に持っていくのが当たり前だった。

「ごめん、お待たせ。暑かったよね。」

彼女は大丈夫だったよと優しく言って、二人でご飯を食べた。

塩っぱい肉を二人で交代でゆっくり食べた。

私は途中からお腹がいっぱいになってしまって彼女に食べてもらった。

その塩っぱい肉も彼女は『美味しい美味しい』と言って食べてくれた。申し訳ないと共に有難い、いや、嬉しいと思った。こんな下手くそな料理でも美味しいと思ってくれる人が居るということを知った。

そのあとは部屋の明かりを薄暗くして何があったのか詳しく聞いた。

その話しは数時間もかかる内容だった。


二○十八年

九月二十三日頃かずまとTwitter上で出会う

→九月三十日に付き合う

→十月八日 初めて通話

→十二月二十四日初めて直接会うその日は月曜日だったが

天皇誕生日の振替休日だったため、休みだった。

→二○十九年

三月十六日土曜日

かずまの家に泊まる、親が怪しむ→家庭教師の先生に親が相談→家庭教師の先生が親に日にちをズラしてるのを言ってしまった(九時に塾に行くふりをして、いつもかずまと会っていた)

→そして定期的に会っていた事もバレる。→かずまがあいなちゃんの親の誤解を解くために手紙を書く→親がかずまを責める→お前の親のせいで体調悪化したと言い始める)

→家出直前に中山という本当の苗字を山村に変えるようにゆかちゃんに指示される。つまり警察に捕まりたくなかった(考、仮)。だけど指紋でバレる。(ちなみに下の名前を変えなかった理由としては、あいなちゃんの親が知っていたから)

→三月十七日スマホを親に取り上げられ、かずまとTwitterで知り合った事が親にバレる。

かずまの精神状態があいなちゃんの親のせいで安定しなくなったと言われ、どう責任を取るんだとかずまの幼馴染のゆかに問いただされて、親と離れる事を決心した。そして家出するという結果に至った。

との事だった。

正直ややこしくて聞いただけでは頭の中で処理出来なかったので、メモにしながら説明をしてもらった。


話しによると、かずまの幼馴染のゆかは難病を患っており、余命幾許もない状態らしい。そしてかずまの事が好きで片想いだったが、そんな状態では恋なんてしてられないと思ったのもあり、かずまが振り向いてくれない事に気付き、あいなちゃんにかずまを託した。

その時私はふと思った。『あいなちゃんって騙されやすいのでは。』と。

何故なら私はゆかの存在に違和感を持っていたから。ゆかは小学六年生で、年齢を偽ってTwitterをやっていた。そして話している口調、どこも似ていないはずなのにどこか、かずまに似ている節がある。

私は少し嘘をついてみる事にした。

「実は私も、難病なんだ。もう、長くは生きられないんだよね。」

私史上最大で最低な嘘だった。私はヘラヘラした言葉で続けた。

「本当はこの時期に毎年検査入院なんだ。」

…彼女は泣いていた。私のベッドの上で寝そべりながら泣いていた。大粒の涙が彼女の左目から落ちた。

最低だ。それと共に嬉しかった。他人でも私が居なくなって悲しんでくれる人が居てくれる事を初めて知ったから。

でもまさか、泣いてもらえるなんて思いもしなかったから、それが嘘だと言うことが出来なかった。

『ごめんね』

私は心の中で謝った。


朝になった。昨日の夜は、楽しかったけど罪悪感でよく眠りにつけなかった。

問題が出来た。トイレだ。どうやら彼女は限界らしい。私は一階に降りてタイミングを見計らったがなかなか家族に見つからないでトイレまで辿り着ける気がしない。と思った時、一瞬だが隙が出来た。そして何とか彼女をトイレまで連れていった。が、しかしバレた。お母さんがトイレに入ろうとしたのだ。

その時私は焦ってうっかり玄関から外に出てしまった。そこが問題だった。

数十秒経って家の中を覗くとお母さんとおばあちゃんは焦った状態。トイレが開かないから。

私はもう諦めた。

「ごめん、もう出てきていいよ。」

お母さん達はビックリして

「え!」

としか言葉が出ない状態だった。

お母さん達があいなちゃんを見た瞬間、予想外の反応をした。

「もー!ビックリしたー!」

とお母さん。

「男の人かと思ったわ」

とおばあちゃん。

お母さんは焦りを見せながら笑ってくれた。おばあちゃんは驚き過ぎてそれ以降何も言えてなかった。

お母さんが

「誰?学校の友達?」

と言ってきたので私は心臓をドキドキさせながら「うん。」と嘘をついた。

その後私は部活が一緒の友達、クラスは違うけど最近仲良くなった。と一時しか持たない嘘を重ねた。

だが、それが功を奏した。親の目を気にせずお風呂にも入れてあげられるしトイレも行かせてあげられる。お母さんも怒っていない。むしろ歓迎している雰囲気だった。

朝食はリビングで食べた。その日は何をするか全く決めていなかったので、少し女子力上げようという話しになりお菓子作りをする事にした。伯父から自転車を一台借りて二人で自転車でスーパーに移動した。生チョコを作ろうと生クリーム一パックと板チョコを沢山買って、その帰りにお昼ご飯に五○○円の海鮮丼を買って家に戻り二人で食べた。

そこでも彼女は美味しい美味しいと言って食べてくれた。今まで食べた中で一番美味しいとまで言ってくれた。私はそれが面白かった。普段食べてる物に感謝もした。

それと同時に北海道外に出るのが少し不安になった。不味い物しか食べられないのではないかと心配した。まぁ、暫くそんな機会はないだろうと思った。

生チョコ作りは本当に楽しかった。思い出として作っている間に動画も撮った。彼女は動画には賛成したが恥ずかしいと言って最初の方はあまり映ってくれなかった。途中からは諦めたのかよく喋ってくれるようになった。

こんなに楽しく笑うのは何年ぶりだろうか。幻聴も幻覚もその時は治まっていたような気がした。

その時彼女が、この時間が私を少しずつ変えてくれるような気がした。

毎日消えたい、死にたい、なんて思って自傷行為までしていた私が『生きたい』と思った。


次の日は、二人でカラオケに行った。本当はもっと観光させてあげたかったが、行って楽しい所も無くて結局カラオケということになった。

その中で私が歌った曲のうち一つ、彼女の心に刺さる曲があったらしい。それはボカロの中でもバラードに入る部類だった。私もその歌詞が好きで感情を乗せるのが心地よい歌だった。

どんな曲かと言うと、ロボットの主人公は人間の娘と恋に落ちるが、ロボットには恋とか愛とか理解し難いところがありちゃんと人間を愛する事が出来ない自分が嫌になるが、そんなところも愛してしまう人間の娘の優しさが痛く感じるという曲だった。

私には恋とか愛とか理解が難しいところがあった。ちゃんとした愛し方が分からなかった。そんなところが自分と似ていると思った。

カラオケから出ると、外は生憎の霙。急いで自転車を走らせるも向かい風でなかなか前に進めない上に、視界はどんどん悪くなって行った。帰った頃には髪がびしょ濡れで鼻水が止まらなかった。もっと厚着していけば良かったと後悔した。


その夜の事だった。私は祖母に呼び出された。

「はるちゃん、こんなに長い間人を泊めていたらお金めっちゃかかるんだよね。相手の親も心配してるだろうし。」

相手の親の話しより先に金の話しをされた。本当に祖母のそういう所が気に食わない。

「わかりました。」

苛立ちを隠して落ち着いた声で敬語で返す。

部屋に戻った時すぐに彼女に伝えた。

「もうこの家には泊められないみたい。」

彼女は下を向いて言った。

「そっか…。」

とりあえず私達はゆかちゃんと相談をして彼女を帰す事にした。そして産まれてから一度も北海道から出たことがない私は、とある質問をした。

「あいなちゃんが住んでる所ってどんな所なの?」

彼女は少し考えてから

「んー。なんにもない所だよ」

と笑って言った。

話しを聞いてるうちに私も北海道から出てみたくなった。そして彼女が

「帰ったら親に上手く説明出来るか不安だな」

と言った。その言葉が引き金となり、私はある提案をした。

「じゃあ私も着いて行って一緒に説明するよ!」

この家には散々な記憶しかない。私は何も躊躇わなかった。正直もっと彼女と一緒に居たかった。この三日間は私が今までの人生で一番楽しかったから。

ただただ自分が嫌いで、ただ、死にたくて失う物とかほんと無くて、本当は消えたかったけど、存在してしまったことは変えられないから。

そんな人生が戻ってくるのが嫌だった。この非現実を長引かせたかった。

私達は作戦を考えた。まず、家を四時に出る。カラオケで朝まで過ごす。そして朝になったら駅に向かって歩く。そこからバスに乗り、空港に向かう。飛行機のチケットも予約した。

完璧だと思った。だが盲点だった。中学生なのだ。十八歳以下の年齢では夜八時までしか居られないと店員さんに言われた。仕方ない。八時までは軽く睡眠を取った。寝れなかったけれども。スマホをそこで充電して一〇〇%にしてカラオケから出た。

そこからはなにも考えられなかった。北海道の寒い冬の夜をどう乗り切ればいいのか分からなかった。すると彼女から一つ提案があった。

「ネカフェとか近くにある?」

確かに、そこなら暖かいだろうし朝まで過ごせるだろう。だけど北海道のネットカフェは親同伴、そして親は身分証明書が必要だった。だからおそらく入れないと言う事を彼女に伝えたが、寒さに耐えきれずとりあえずネットカフェまで行ってみることにした。だがやはり入れなかった。

店員さんの

「身分証明書はお持ちですか?」

という言葉にドキッとする。

「あ…すみません、持ってくるの忘れてしまって。」

と返した。店員さんからしたら違和感があっただろう。大きな荷物を持っているのに身分証明書が無いなんて普通おかしい。

それを悟られないようにすぐにそこを出た。

そこからは行く宛が無かった。持ってた私のスマホで近くの公園を検索して一番近くの公園のベンチで過ごした。

なめていた。外の気温はマイナス十度。体感温度はマイナス十四度。しかも今は夜の十時。これからもっと寒くなる。その事を分かって出てきたはずなのに、体の震えが止まらなかった。

「ちょっと移動しようか…。」

二人とも限界が近かっただろう。

「そうだね、どこか室内に入ろう。」

彼女の同意の元、私達は移動する事にした。歩いていても声が震える程寒かった。

歩いているとTSUTAYAが開いているのを見つけたのでそこのトイレに一旦入ることにした。

「TSUTAYAってこんなに遅くまでやってるんだね。」

十一時頃だっただろうか。田舎の店は早く閉まるから夜出歩いた事など親ともしたことが無い。あちこち歩いたおかげで足が痛い。

トイレは入口に入ってすぐだったが、とてつもない暖かさを感じた。

けれども彼女の意見でここに長居するのは危険だと言われたので私はその意見を呑んだ。

少し温まってまた外に出る。…寒い。だがこの寒さを乗り切ったらまた日が昇って多少暖かくなる。あと六時間の辛抱だ。

そう思って私達はまた歩き出した。けれども行く宛がない私達はまた別の公園を転々とした。体が凍りつくのでは無いかと不安になった。そうしてる間に二時間ぐらいが経っただろうか。

「寒いし…お腹空いたね。」

四時に出てきたため、ご飯も何も食べてない。なんなら飲み物すらも飲めてない。

ここから見えるセブンの誘惑に負けた。

彼女はミートパスタを、私はサンドイッチを買った。食べられる場所を探しながら歩いているとマクドナルドを見つけた。

「二十四時間営業なんだね。」

驚いた。こんな田舎でも二十四時間営業の店があるなんて知らなかった。

「そうなんだよね。マックで買った物食べようか」

彼女が言う。

でも私は嫌な予感がした。一つはマクドナルドで買った物を食べないでコンビニで買った物を食べるということ。もう一つは、お店の人に通報されるかもしれないということ。

でも彼女は

「大丈夫大丈夫!飲み物だけ買えば怒られたりしないよ。」

と言うので私は彼女を信じて勇気を振り絞って店の中に入った。

私はパックの中に入ってるサンドイッチを一瞬で食べ終えた。彼女はまだゆっくりパスタを食べている。

すると彼女から一つ提案があった。

「一応住所とか覚えておいた方がいいよね。」

確かにそうだ。

マクドナルドに居る間に作戦を考えておこうという話しになり、考えた。

まず、あいなちゃんと私はこっそり年賀状を交換していたという事にした。次に、私達はその年賀状以降連絡を取っていなく、いきなりあいなちゃんが私の家に訪ねて来た事にした。

そして一応住所を覚えておいた方がいいということで持ってきていたメモ帳に住所を書いて覚えてもらっていた。


その時だった。

「狩野愛奈さんですか?」

後ろから四十代後半~五十代前半の人の男の人の声がした。

振り向かずとも分かった。彼女はあっけらかんとした表情を浮かべていたから。『警察』だ。

終わった。私達おわった。隣の席に居た三人の大学生ぐらいの男の人達はビックリした顔でこっちを見ていた。

事情聴取を受けている間はただただ彼女の心配と、「さようなら」を言えない悲しさで溢れていた。その時も、私は警察の人に聞かれたことに笑いながら答えた。警察の人もきっとおかしい思っただろう。

「なんで家出したの?」

家も学校もクソだからだよ。

「愛奈ちゃんを一人で帰す訳には行かないきがしたので。一緒に。」

本音を七割、嘘を三割。

なるほどね。と適当な相槌を打って警察の人は続けた。

「机の上に書き置きを残して行ったそうだけど、そこに『警察に通報したら死んでやる』って書いたらしいね。どうやって死のうとしたの?」

そんなのどうだっていいだろうが。

「ガラスでもなんでも、そこら辺に落ちてた物で死のうと思いました。」

「じゃあ刃物とかは持ってないんだね。」

持っていこうか悩んだが彼女を心配させたくなかったからやめた。

「はい。」

その後もどうでもいい質問に幾つか答えて終わった。

迎えに来たお母さんの目はまるで唐辛子のように真っ赤で、暴力を振るわれた犬のように悲しげだった。

家に帰ると嫌いなおばあちゃんが抱きしめてきた。いっつもこうだったら今よりマシだったかもしれない。

部屋に戻った。私はシャワーを浴びて着替えた。

服を着たら今度はお母さんが抱きしめてきた。お母さんは泣いていた。

なんて言っていたかは覚えてない私はただ「うん」と言った。


呆気ない家出の終わり方だった。

楽しかった分、私の心の中は空っぽだった。

残ったのは少しの疑問。

私は人の役に立てたのだろうか?


家出が終わって疲れ果ててベッドに倒れ込むように寝た。

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逃避行 @KuRam0321

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