四、歪んだ愛

二月十七日

かずまのテンションがいつもよりも低かった。私がLINEしても素っ気ない。私は気になり理由を尋ねるとどうやら私の以前のTwitterに対しての怒りらしい。今はゆかちゃんが選考した仲の良い女子しかフォロワーにいないが、以前に男女混合の歌い手グループに所属して配信をし、尚且つフォロワーの男子と普通に話していたのが気に食わなかったのだろう。

「凄い楽しそうだったじゃん。よかったね。別に俺じゃなくてもいいんでしょ。他の人にも好意寄せてたんでしょ。優しくしてたじゃん。優先してたじゃん。通知も入れてた。俺としたことがないことも他の人としていた。俺がいない時も日常と変わらなかった。俺にだけってことは何もなかった。他の人にも照れてた。」

「信用だって出来ないよ」

「あいなには分からないよ。」

「俺より他の人を優先してたしね。」

「例えば、夜通話出来ないとか言って他の人、男と配信のコラボしたりとか」

「今だってそうなんだと思っちゃうよ」

「陰謀なんていくらでも出来るしね。」

確かにその通りだ。私はかずま以外の他の人と以前は楽しそうに話していた。しかし、好意は寄せていない。それは本当だった。

「確かに楽しかったけど、かずまじゃなきゃ嫌だ。他の人には好意は寄せてないよ。優しくはしてたけど、返信とかはかずまを優先していたよ。確かに最初の頃は通知入れてたけど、付き合ったらかずましか通知入れてなかったよ。確かにそうだね…。かずまがいない時は確かに表面上は何も変わってなかったね。でも…凄く寂しかった。でも、かずまの勉強を邪魔したくないからあえて連絡をしなかった。他の人には照れてると言ってるけど、照れてる度合いが違う。確かにキャスはしてたね…。」

「今は違う。

確かに…信用出来ないと思うけどそんなことしてない。」

「垢を変えた時から新しい垢のフォロワーさんとは話してたけど、その他の人とは話してないし、DMもゆかちゃんとしか話してないし、

そもそもTwitter開いてない。」

私はその通りだと考えた事は認めて謝り、否定はしっかりした。

「そんなことないだろ。誰だって楽しめるんでしょ。寄せてるようにしか見えなかったよ。優しくしてたんじゃん。絶対入れてたよ。そうだよ。照れてる時点で浮気だよ。

そうでしょ。キャスしてたじゃん。楽しそうだったよね。俺よりも他の男だったよね。誰か構ってとか癒してとかさ、誰でもいいってことじゃん。質問箱で「電話していいですか!」って質問にいいって答えてたよね。それ男だったらさ、もう完全にあれじゃん。俺と全然電話しないのに他はいいんだね。」

「別の垢使ってる可能性だってある」

「行動力も覚悟もないでしょ」

「ゆかから凄いサポートされてるでしょ。これやったらいいよとか教えてもらってるでしょ。自分で考えてない事でしょ」

「その時点で本気じゃないよ」

「俺と付き合う前絶対他の人の事も気になってたでしょ。リプとか見れば分かるよ」

「軽い恋愛で良いって事でしょ。付き合えれば良いんじゃない?大体付き合ってから自分縛るのって遅いんだよ」

「本気で恋愛したいなら好きな人が出来る前から好きな人が出来て付き合えた時にほぼ全ての事がその人が初体験となるように自分を縛るよ。俺も幼なじみ達もそうしてるよ」

「恋愛慣れてないとか関係無いでしょ。本気で好きなら慣れてなくても分かるよ。どうするべきとかね。こうしたらダメだろうかとか普通考えるよ。」

かずまは物凄く私に怒ってる。私が悪い。

「そんなことあるよ。ただ単に話せればよかった。好意とか寄せてない。

入れてないよ。確かにキャスは楽しかったけど…かずまより他の男ってことは無かった。

誰か構って 癒してってさ… 私はその頃、かずくんに言えなかったからツイートすればかずくんが見てくれるから敢えてそうしてたんだよ。遠回しにかずくんに伝えてたんだよ…。確かにそれは答えた…。でも、女子だと思ってたし、質問箱に来てもLINE交換しないだろうって思ってた。」

「別の垢なんか使ってない。行動力も覚悟も本気である。」

「確かにサポートされてる。これやったらいいよって…でも、全部教えてもらってるわけじゃないよ。半分くらいは自分で考えて行動してる。

バレンタインもそうだったよ。」

「他の人は気になってないよ。大体、ネットで誰かを好きになったことなかったもん。」

「軽い恋愛でいいとか考えてない。付き合えれば良いとかそういうんじゃない。もしそうなら違う人ともイチャイチャしてるし、すぐ照れたりしない。」

「確かに…それは考えてなかった。付き合う前から自分を縛っていなかった。」

付き合う前から自分を縛らなければいけないのは知らなかった。そんな人周りに存在しなかったからだ。

「話してる時点であれでしょ。そんなこと言われてもさ、あの時のあいなならあり得るんだよ。

だったら俺と通話出来たでしょ。言ってることと行動が違うよ。あのさ…ツイートしたら他の男が反応するでしょ。そのくらい分かれよ。女子だと思ってた。それ男子だったらどうするんだよ。考えが甘いんだよ。」

「信用出来ないって言ってるじゃん」

「行動力も覚悟もほとんど伝わってこないよ。」

「半分は教えてもらってるんじゃん」

「リプを見たらそうにしか見えないんだよ」

確かにその通りだ。私はもう自分の意見を言う事が出来なかった。彼が怖かった。かずまが。しかし、自分なりにかずまを優先してきたつもりだった。毎週かずまに会い、テスト期間や受験前も勉強を捨ててかずまを優先していた。それだけ話したかったからだった。その為、夜寝るのが遅かったし体調もよく崩していた。また、

かずくんが寝てから寝るようにしてたし、自分から終わらせたくなかった。その事も伝えたが、かずまには届かなかった。

「浮気者。嘘つき。最低。」

「もう限界超えてるんだよ」

「こんなに最低で最悪な事されたことねーよ」

「人生で一番辛かったよ」

「何をされても傷は治らないよ一生ね」

ナイフのように刺さる言葉の数々。

「ごめん…」

私は謝る事しか出来なかった。だって私のせいだから。

「ごめんじゃねーよ」

「こんなに最低で最悪な事されたことないから」

「こんなに夜中まで起こさせて昼間倒れるかもね」

かずまは私が謝罪をしてもそう言い放った。私は別の垢を作って他の人と話していない証明をする為に一日中画面録画とスマホを触っていない時は実写の録画をする事を決心した。しかし、かずまやゆかちゃんと話している時は録画をしていなかった。それが盲点だったのだ。

「ずっとじゃないじゃん。信用無くなるよ。本当はゆか以外と話してるんじゃないかって思うよ。」

かずまはそう言った。もうかずまとゆかちゃんしか話してはいけない雰囲気だった。kurahaとさえも…。

私は前回の反省を活かしてずっと録画を続ける。勉強している時や塾に行っている時、学校に行っている時はノートに記録をし続けた。録画をLINEに送るのは凄く時間がかかる。一日の動画を送るのには三時間近くかかっていた。LINEを閉じてしまうと送れないので、あと少しで受験を控えた私には負担が大きかった。寝るのはいつも四時近くだった。かずまと話す為に六時に起きていたので睡眠時間は二時間だむた。そしたら次は既読がつくのに間があると言われた。けれどもたった数秒単位だった。私だって、見れない時間だってある。LINEを閉じてTwitterでゆかちゃんと話している時はずっとLINEを開けない。しかし私は

「そっかそんな事思ってたんだね。」

と返した。自分では気づかなかったけど相手にはそう思わせる事してたのかなと思ったから。

自分が悪いんだ。怒られる度に私は

「ごめんね」

と謝った。

暫くは誰も友達を追加しないでいた。しかし、クミと遊んだ時についノリで交換をしてしまった。事後報告という形にはなるが、かずまに報告をした。

「友達とLINEを交換したんだけど…やっぱり、後日事情を話してブロックした方がいいかな?それかそのままでいいかな?」

少し不安だったが、許してくれると思っていた。しかし、

「交換したってことは交換したかったんだね。友達が他の人にあいなのLINEを教える可能性があるって気づかなかったの?」

怖い。怒らせてしまった。

「友達はそんなことする人じゃないよ。それにちゃんと教えないように言っておくよ」

何より私の唯一の友達だった。その友達を悪く言われるのは私も腹が立った。

「俺がお前の友達なんて信用するとでも思う?」

それもそのはずだ…。かずまは私の事さえも信用していない。それなのに私の友達なんて信用するはずがないのだろう。

「ごめん…ちゃんと聞けばよかったね」

私はかずまの意見に譲歩した。いやするしかなかった。

「すぐに交換するとか何も考えてない証拠じゃん。もうさ、本当に話してても不快になるだけなんだけど。全く信用出来ない」

怖い。怖い。怖い。かずまの口調がどんどん荒くなっていく。

「でも…学校の事で何か聞きたい時に聞こうと思って…聞く人いないから…それに特に話さないから大丈夫かなって思って…」

私はInstagram、LINEなどのSNS上でリアルの友達がいなかった為、必要な情報も教えてもらう事が出来ないから不便であった。登下校もクラスが別のクミと中々会わないため、話す人がいなかった。その為、LINEが便利だと思って帰り道ばったり会った時に交換をしてしまったのだ。だが、そんなの知りもしないかずまは

「ほんと都合いいよね。LINEなんていくらでも保存出来るよ。ネット舐めんな!常に不快なんだけど」

やはりかずまには言い訳にしか聞こえないようだ。

「確かに…少しネット舐めてた…」

ネットを舐めていたのは事実だった。それにかずまやゆかちゃんの事も舐めていたのかもしれない。このくらいなら大丈夫だと…怒らないと

信じきってしまっていた。完全に油断をした私のせいだ。

「そうだよ。ほんと甘すぎ。お前は何がしたいんだよ。夜まで起こさせてさ。やることだってあるのに。不快にさせて。まじなんなん?」

この時時刻は夜中の一時を回っていた。かずまはこの日、二十一時に寝る予定だった。私のせいでこんなに夜中まで起こさせてしまった。私のせいで不快にさせてしまった。私のせいで無理をさせてしまった。

「ごめんなさい。確かにそうだね。ごめんなさい。」

私は謝るのが癖になっていた。毎日のようにかずまとゆかちゃん、さつきさんの誰かに怒られていた。三人の機嫌が良い日なんて滅多に無かった。ゆかちゃんやさつきさんはかずまの幼なじみなので、かずまが苦しんだり怒っていたりする姿が嫌らしく、かずまの完全な味方だ。過去の私に対して

「最低」

「浮気者」

と言っていた。かずまに対しての行動力も足りないと言っていた。私は限界だった。こんなに頑張っているのに…私は三人の顔色を常に伺っていた。

クミと久しぶりに一緒に下校をした。最近は朝はギリギリまでかずまやゆかちゃんと話していたり、動画を送ったりしていたのでクミと登校時間が合わなかったのだ。

私はクミにLINEが出来なくなった事を告げた。それに加えてクミをブロックしなければいけない事を話した。

「なんでLINE出来なくなったの?」

クミは私に不思議そうに聞いた。疑問に思うのも当然だろう。スマホを持っているのにLINEが出来ない人はあまりいない。私はクミにかずまの事を話した。私の事が信用出来ない為、画面録画と日常生活の録画をしている事、かずまが他の人とLINE交換をする事を禁止している事。ありのままに話した。すると、

「それモラハラじゃん。画面録画とか日常生活の録画とか有り得ないんだけど」

クミはかずまの事を有り得ないと言った。しかし、かずまは普段は優しいし私の事を一番に考えてくれる。モラハラではないだろうと考えた。私が信用されなかった事をしたのが悪い、そう考えていた。

「でもそれは私が悪いんだ。それに今幸せだもの」

私は笑ってそう言った。クミはまだ納得していない様子だったが、私が自分を抑えるのは今後の未来の為、そして何よりかずまの為だったのだ。私はかずまを愛しているし、かずまからも愛されている。そう考えていた。

クミと帰り道たまたま会った事から再びよく一緒に登下校をするようになった。私はクミやkurahaとどうしても個人的な連絡を取りたかった。しかし、かずまやゆかちゃんに禁止されており、画面録画もしている。私は良い考えを思いついた。父が以前に使用していたスマホは水没して一切使用出来なくなった私のスマホとは違い、操作する事が可能だ。Twitterのアプリを入れてかずまと出会う前に別垢として使用していたアカウントを使用し、クミやkurahaと話そうと考えたのだ。それに加えて父は以前のスマホは使用しておらず、放置したままだ。私は急いで父の以前のスマホの充電をした。右手でスマホを使用しながら左手で父の以前のスマホの操作をした。自意識過剰だが、両手で文字を打つ自分を我ながらプロ並みだと思った。

ツイートをすると、すぐにkurahaとクミから返信が来る。久しぶりに二人と話して凄く幸せな気持ちになった。ここ最近は自分が悪いのだが、かずまやゆかちゃん、さつきさんに酷い言葉を投げかけられていたので久々の和やかな雰囲気は何とも言えない気持ちになった。暇な時はこの垢にこっそり浮上していた。クミからkurahaへLINEが出来ない理由を話してもらえるように頼んだ。中々この垢には浮上出来ないし、浮上出来るとしたら数分程度だ。かずまやゆかちゃんにバレてしまってはいけない。私がkurahaに直接説明する事は不可能だったのだ。

二月二十一日

この日は合格発表の日だった。結果は合格だった。しかし、元々の志望校では無かった為、複雑な気持ちだった。私は勉強時間が足りずに直前で志望校のレベルを落としたのだ。そしてもう一つ問題がある。かずまとゆかちゃんには女子校を志望するように言われていたのだ。しかし、私が住んでいる所の女子校は偏差値がどこも高く、届かなかった。私はかずまとゆかちゃんに女子校を受験したと言っていたのでいつバレてしまうか不安でもあった。合格してしまえばその学校に決定してしまう。複雑な気持ちだった。合格発表は学校の帰りにあった為、スマホを触っている余裕が無く、かずまに連絡をするのがいつもより三十分ほど遅くなってしまった。かずまから既にLINEが来ていたので急いで返信をした。

「合格発表が学校であったから帰るの遅くなっちゃった…」

私はかずまによそよそしくLINEをする。

「それ朝に言えよ」

どうやらかずまに心配をかけさせてしまったらしい。

「そうだったね、ごめん」

私はかずまにいつものように謝った。

「そもそも後から○○○だったからと言われても信用出来ないよ」

事後報告がいけなかったらしい。

「これからはちゃんと先に言うね」

「あと、今日十八時から家庭教師が来る」

この時時刻は既に十七時四十五分だった。もう少しで家庭教師が来てしまう。私は急いで文字を打つ。

「後からならいくらでも言えるよね。学習しろよいい加減」

「そうかよ」

かずまはそう言った。

「そうだったね…」

私はその通りだと思った。

「変わるっていうの嘘なんだろ。もういいよ。信用しないから。」

「じゃあね」

かずまは私が何度も変わると言っているのに変わらないから嫌気がさしたらしい。もう別れると言ってきた。

「嘘じゃないよ。ちゃんと変わるよ。」

こんなの口だけだ。自分でも分かっていた。

「変わるって言って変われてないじゃねーか。

変わるのが遅いんだよ。」

「もういいよ。ばいばい」

かずまは再び別れようとしていた。

「そうだけど…変わるのが遅いけど…

もう少し待ってほしい。」

「嫌だ…。ばいばいしたくない。」

私はどうしてもかずまと離れたくなかった。

「どんだけ待たせんだよ。」

「嫌だってお前が悪いんだろ。」

かずまは最近私の事を名前で呼ばなくなった。怒ると呼ばない、の方が正しいのだろうか。最近はいつも怒っているので名前で呼ばなかった。

「ごめんなさい。でもお願いします。」

「そうだね…私が悪い。でも、ばいばいはしたくない。」

私は離れたくない気持ちをかずまに一生懸命伝えた。

「お願い…じゃねーよ。都合良すぎんだろ。」

「そうだよ。うるせーよ」

「もう待たないから。ばいばい」

「そもそも自分の立場分かってんのかよ」

かずまには一生懸命伝えても届かなかった。私が悪い。

「どうしても今週だけ待ってください。お願いします。」

「一旦家庭教師が来るからまた連絡する。」

もう十八時を回っていたのでかずまとのやり取りを終わりにする。

家庭教師の先生に高校が受かった事を報告した。すると先生の目から涙が溢れた。私はびっくりした。

「良かった。本当に良かった。おめでとう」

先生は泣いて喜んでくれた。私は先生に沢山迷惑をかけた。先生からの課題もやってこない事が多かったが、叱らずにしっかりと指導をしてくれた優しい先生だった。先生には週一の塾の時間や日付を両親に内緒で勝手に先生とLINEで変更したりしていた。私は先生に対して悪い事しかしていない。複雑な気分だった。しかし、凄く嬉しかった。それと同時に申し訳なさで一杯だった。

家庭教師の時間が終わり、かずまにLINEをするが、返信が来なかった。私はゆかちゃんに相談をしてかずまの怒りが収まる方法を提案してもらった。しかし、その内容が目を見張る内容だった。

「かずまくんに裸の写真を送るのはどう?恥ずかしい写真や動画を積極的に送るのは行動力を示すチャンスだと思うよ」

ゆかちゃんは私にそう言ったが、戸惑った。そんな写真や動画を撮影した事なんて一度もない。しかし、かずまの怒りが収まって行動力を示す事が出来るのなら送ろうと決心した。私はかずまにLINEで写真や動画を送るとかずまの態度が変わった。機嫌が良くなったのだ。やはりゆかちゃんに言う通りにして良かったと思った。私はかずまと平和に過ごしたい。ただそれだけだった。その為なら何でも出来た。

二月二十三日

この日はかずまと会う日だった。私は今日もいつも通り塾に行くと両親に話していた。しかし、受験に合格したのに朝早くから行くのはおかしいと言われたのだ。遊びに行くとは言えなかったので、何とか両親を説得したが、塾に好きな人が居るのではないかと両親は恐らく察したようだった。かずまとは八時に約束だったが、着くのに三十分程度遅くなってしまった。私はかずまに事情を話して何とか許して貰えた。私は一安心した。しかし、帰ってきた後に両親に問い詰められ、付き合ってる人が居るという事を報告した。ネットの人だとは言えない為、塾の人だと嘘をついた。

三月四日

ゆかちゃんの命が危ないとの事だった。どうやらゆかちゃんは頭が良いが故に脳に負担がかかっているようだった。私のせいで最近はさらに脳に負担がかかって仮死状態になったとの事だった。私は母に事情を話して学校を休ませてもらった。こんな時に呑気に学校なんて行っていられないと思ったからだ。私は泣きながら母に語り、何とか休むのを許して貰えた。私はかずまにこまめにゆかちゃんの状況を聞きながら心配をしていた。するとかずまから衝撃のLINEが届いたのだった。

「言わなければならない事がある…多分単位貰えない。退学」

どうやらかずまは学校に通う日数が足りなくて退学になるとの事だった。しかし、私は退学する事なんてどうでも良いと思っていたのでそう伝えると…

「社会はそうだとは思ってくれないよ…?」

「特にあいなのご両親とかね」

確かに私の両親は許してはくれなそうだ。

「社会に認めてもらえなくても私はかずまの生き方、行動…全部尊敬してる。どんな人が否定してもね。」

私はかずまにはっきりとそう伝えた。学歴より重要な物は人柄だ。私は人柄をかずまを好きになったのだから。

「そっか」

かずまは少し冷たげにそう言った。

夜になってもゆかちゃんの状態は変わらなかった。私は眠くなったので少し仮眠を取ろうと思い、かずまにこれから画面録画じゃなくて通常の録画をするので返信が遅れると伝えた。二時間後、

「あいな今何してる?」

「大丈夫?」

「…さすがに遅くない?」

「…やめろよ…」

「おい、」

「これだけ送れば気づくよね?」

「あいな!!!」

その後、かずまからの通話で気付いた。録画をしながらだと通知音しか聞こえない為、LINEが来たことに気付かなかったのだ。私は急いでかずまに謝罪をした。

「ごめん。ずっと録画してたからラインに気付かなかった」

私はありのままに伝えた。

「もういいよ。あいなはそういう人だから。変われないの分かってるから。」

かずまは私にそう言った。

「でも変わる。それに録画してるとラインの通知が表示されないんだ。通話は音が鳴ったから気付いたけど…」

私はかずまに心配をかけてしまったのは申し訳なかったが、仕方の無い事だと思ったので必死にかずまに伝える。

「変わる変わる言って変われてないよね?

俺は表示されるよ」

「設定の問題でしょ」

かずまは私を信用してはくれなかった。私はさすがにムカついた。かずまの設定がどうであれ、私のスマホの設定とは違うはずだ。しかし、ムカついても言い返す事は出来なかった。その夜私宛にゆかちゃんから手紙が届いた。ゆかちゃんはかずまの幸せはもちろん、私の幸せもいつも考えてくれていた。それに気付かされて再び自分の事を責めた。どうして私は二人の望む人になれないのだろう。それが凄く悔しかった。

二日後にゆかちゃんは目を覚ました。安心した。このまま私のせいでゆかちゃんが亡くなってしまったらどうしようかと考えていたから。


三月九日

かずまといつも通りに八時に待ち合わせで友達と遊びに行くと両親に伝えたのだが怪しんだ両親、特に父が外に出さないと言い出したのだ。どうやら両親はこんなに早くから約束しているのがおかしいと感じたらしい。私は何とか両親を説得し、無理やり家を出る。両親は私の事を

「頭がおかしい」

と罵ったが、私はどうしてもかずまに会いたかった。両親はどれだけ怒っているだろうと考えると帰るのが怖かった。私は覚悟を決めて母にかずまと会って貰えるように話した。かずまと母はお互い気が合ったらしく好印象だったようだ。しかし、父は会っていないままなので印象は悪いままだ。父からの交際の反対が続いた。

三月十三日

ゆかちゃんにかずまへ再び裸を送るように催促される。私は送ると答えたものの、送る事に躊躇していた。それがいけなかった。かずまは私が躊躇している間に他の誰かに送ったと考えているのだろう。

「ゆかから聞いたよ嘘つき。」

かずまはどうやらゆかちゃんから私の裸が送られてくる事を知っていたが、送らなかったので嘘つきと言ったのだろう。しかし、誰かに送ったという疑いをかけられるのは良い気がしなかった。

「そっか。でも誰にも送ってないよ」

私ははっきりとそう答えた。

「もう信用出来ないよ。」

「じゃあな」

「嘘をついた事に変わりない」

「ゆかを苦しめるの楽しい?」

「もういいよ。」

かずまは信用出来ないと言った。

「誰にも送ってないし浮気なんかしてないよ。」

「そうだね。変わりはないけど…」

「楽しくない、苦しめたくない。」

私が悪かった。躊躇せずに早く送っていればこんな事にはならなかったのだから。

「うるせーよくそ」

「寝れねーまじで倒れるからな」

「もう本当に嫌」

「あああああああああ」

「もう本当に最悪」

「ふざけんなふざけんなよ!!!」

「イライラする」

かずまはまた怒ってしまった。

「ごめんなさい…」

私は謝る事しか出来ない。

「謝って済むの?いまなにしてんの?」

「もういいやおやすみ」

今日の所は寝る事になった。

三月十四日

「もう苦しめない…幸せにする。」

私はかずまにLINEを送った。

「信じられないんだけど」

かずまから予想通りの返信が来た。

「そうだよね。でもこれでダメだったら…

もう本当にばいばいしていい。それくらいの覚悟を持つ。」

私はこれで私が変われなかったら幸せに出来なかったら別れると言った。それくらいの覚悟を持って接するという意味でかずまに伝えたのだが、伝わっていなかったらしい。

「その考えがうざいんだけど」

「ばいばいしたいなら良いよ。しろよ」

かずまは私が別れたいと解釈したらしい。否定をしたが、かずまは折れなかった。私は本気で好きでかずまの事を考えていると伝えても伝わらなかった。

「言ってる事と行動が違うんだよ」

「本気で好きとか言いながら理解してない」

「お前の言葉とか誰が信じるんだよ」

「嘘つくくせに」

かずまの言う通りだった。私はゆかちゃんに写真を送ると言いながら送らなかった。私は嘘つきだ。その通り過ぎて何も言い返せなかった。

「昨日嘘ついた時点でもう無理だよ」

「よくこの状況で嘘つけるよな。よくゆかを裏切れるよな。裏切ったらゆかの命を奪うことになるっていう状況でさ」

かずまは信じられない事を言った。

「命を…奪う…」

私はかずまの言葉をオウム返しのように返す事しか出来なかった。

「お前がしてることは殺人だよ」

殺人…私は殺人を犯しているのだろうか。私はゆかちゃんの命を奪っているのだろうか。私は唖然とした。

「人殺し」

再びかずまからそう送られてきた。

「自分に自信がなかったんだ。それを送ったところでどうにもならなくてダメだったらどうしようって…こんなネガティブなこと言えなかった送るって言ったのにおどおどしてそんなこと考えてるなんてそれで送ったって嘘をついた…」

私はありのままに伝えた。

「だからその考えがうざい」

かずまはそう言った。だったらどうしろと言うのだろうか。自分に自信をつけるようにしたら良いのだろうか。

「あとゆか見つかったから」

「ベンチで一人で震えながら泣いてたお前のせいでな」

「ゆかと話してくるから暫く待ってろ」

「一人で何かするなよ?」

「特に自殺とか」

「絶対すんなよ」

「浮気もな」

「お前に何かあったら俺もうだめだからね」

「嫌いになったわけじゃないから」

「好きだからさ」

かずまは私にそう言い残して二時間ほど返信が来なかった。

「人殺し」

かずまが私に言った言葉が何度も頭を過ぎった。私がした行為は許されるべきではないだろう。ゆかちゃんとかずまを裏切った私はこれから何をすれば良いのだろうか。そう考えた。

かずまが帰ってきた。どうやら怒りは収まったらしく、暴言を吐かれる事は無かった。

「あいなは今まで何を学んできたの?」

「ご家族がどういう育て方してるの?」

「ただ厳しいだけで大切なものを教えられてないように思えるよ」

かずまは私にそう言った。その通りかもしれないと思った。

「確かにそうだね。私は大切なものを学んできていない。何もかも全部誰にも頼らないで教わらないで自分で考えてやってきた。」

私は誰かに頼るという事をしなかったのだ。

「…正直、それは子供の育て方を知らないよ」

「愛もない。」

「だいたい長時間怒ったら思考能力が低下しちゃう」

確かに私の両親は長時間私を叱る事が多かった。

「そんな家庭にいて誰かを幸せに出来るわけがない」

「本当の愛を知らないんだから」

かずまはそう言った。

「じゃあどうしたらいいの…?本当の愛を知るにはどうしたらいいの?」

私はかずまに聞いた。

「親が変わる以外ない。」

「でもそういう親は変われない」

「離れる以外にないんじゃないかな?」

かずまはそう言った。しかし、離れた所で居場所が無い。

「でも離れた所でどうするの?居場所が無いよ」

どうしたら良いか分からなかった。

「じゃあそれが運命なんだよ。そこまでって事。人によってはそこから進めるけどね。」

私は考えた。両親と離れたい。特に父とは。私の父は声を荒らげて自分の思い通りにならないと怒るタイプだ。反抗期が来る事を許さなかった父は意見をすると反抗だと怒られる。そんな父が交際を認めてくれるわけが無かったからだ。

かずまからお泊まりを提案された。しかし、認めてもらえるわけが無い。私はクミに相談をして協力してもらう事になり、クミと他の友達とお泊まりをするという事で了承を得た。

これから先両親やかずま、ゆかちゃんとどう接したら良いのか考えている中で倒れる事が良いと考える。倒れればかずまやゆかちゃんが心配してくれる。弱っていれば誰からも責められない。責められる毎日から解放される。かずまやゆかちゃん、父からも。私は倒れる方法を検索する。画面録画をしている為、以前用意した父の以前のスマホだ。今思うとこの時点で既に限界を迎えていたのかもしれない。

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