三、違和感

十二月二十四日

初めてかずまとリアルで会った。高崎駅の改札口で約束していたので改札口の方に向かうと伝えられていた服装の特徴を聞いてかずまと思われる人を見つけた。かずまはかっこよくて服装もお洒落だった。それに比べて私は不細工な顔で服も適当に家にあったものを着てきただけだった。恥ずかしくて声が掛けられなかったが、向こうも私に気が付いたようだ。

「あいなだよね?」

向こうも緊張しているのだろう。照れた様子で私に近づいて聞いてきた。

「そうだよ。」

と返しまずは映画館に向かうことにした。緊張して中々話せなかったが、すぐに慣れて映画の感想を言い合った。その後は駅の小さなイルミネーションを見る事にした。歩いていて気づいたことがある。私達はまだ手を繋ぐこともハグすることもしていなかった。どっちもしたかったが、言い出す事が出来ずにいた。しかし勇気を出して言うことにした。

「あの…手繋ぎたいな。あとハグも…」

照れて顔も見れなかったがそんな私を

「可愛い。良いよ!ハグは人混みがない所にしよう」

と言われ手を差し伸べられた。嬉しくて照れてばかりいた。かずまの手は温かくて大きな手だった。

駅の周辺を歩き、ビルとビルの間の人混みがない暗い所に着いた。

「ここでしよう」

とかずまに言われて足を止めた。

「好きだよ」

そう言われながら抱き寄せられた。力強い抱きしめ方と広い背中。当たり前だけどやっぱり男子なんだなと感じた。幸せな気分を感じながら

離れようとすると目が合って口付けをされた。ファーストキスだった。

『あれ普通のキスとは違う』

何故か舌を入れられた気がしたのだ。ディープキスというものなのだろうか。キスをしたことがない私は分からなかった。そしてキスするのも予想外だった私は酷く動揺したが、敢えて聞くことはせずに一日の終わりを迎えた。最寄り駅まで送っていってもらった私は別れるのが凄く寂しかった。しかし、私は時間が無かった。夕飯を祖父母の家でみんなで食べることを約束していたのである。寂しいながらも迎えに来てくれた父と母の元へ急いで向かった。

「遅い!!!約束してるんだからお前のせいで夕飯が遅れてみんなが迷惑かかるんだよ」

父が不機嫌な様子で怒鳴った。時刻は七時頃だった。あまり遅くないのでは?と考えたが…

「…ごめん」

父は食いしん坊な所があるのと時間がいつもよりは遅くなったのは事実だったので素直に謝った。祖父母と両親と夕飯を食べながら会話をしたが、初デートで浮かれていて中々話が頭に入らなかったりもした。幸せな一日だった。

私はあと二ヶ月少しで受験を控えていた。三学期は家庭教師と塾を行き来する日々だった。私は元々家庭教師に教わっていたが、家庭教師が塾講師も併用していてLINEを交換している為、やり取りは主に家庭教師との連絡のみで済んでいた。その為、塾の日付の融通もきいていたので一週間に一回のペースで会っていた。会う度にかずまの嫉妬が激しくなっていくことに気が付いた。私はそれだけ愛されているのだろうと特に気にとめていなかった。 それに会う度に私もかずまへの気持ちが強くなっていく事に気付いたからだ。会えない期間は凄く寂しくなって胸が締め付けられた。会ってからの方が辛い気持ちになるなんて思いもしなかった。

ある日、

「かずまくんのアソコがおかしいんやさ、病気かな?」

ゆかちゃんからとんでもないDMが届いた。

「どういう感じにおかしいの?」

とりあえず詳細を聞くことにした。

「最近ずっとかずまくんのアソコがとんでもないくらい膨れ上がってる…かずまくん苦しそう…」

私はなんと答えていいか分からなかった。ゆかちゃんはまだ小六で性に関しての知識がないのだろう。

「病気じゃないよ。大丈夫だから安心して!」

とりあえず病気じゃないことを伝えて安心してもらうことにした。それにしてもずっと膨れ上がっているというのはどういうことだろう。そう考えていると今度はさつきさんから連絡が来た。

「あいなちゃん。かずまくんもう限界みたいなの…今日ちかねと私が襲われかけて…やっぱりその…怪我してて自分では出来ないし…発散出来ないみたい。私が発散させることが出来れば良いんだけどね…」

襲われかけた…?彼女でも何でもないのに?

私は嫉妬した。それと同時に私が何とかしなければいけないと思った。

「私がやります」

私は決意した。男子が発情するのは仕方の無いこと。爆発して周りの女子を襲ってしまうのも生理現象だと自分に言い聞かせた。ちかねさんやさつきさんを襲ってしまう最悪な結末になることだけは避けたかった。何より私が傷ついてしまうからだ。

「ほんと?よかった…じゃあ次に会う時にしてくれる?」

さつきさんは安心したようだった。

「わかりました。」

私はそう答え、かずまにこの事を伝えることにした。

「あの…性欲が溜まってるの?」

私は直球に聞いた。

「うん。正直ね…怪我してて自分ですることが出来ないし…」

さつきさんの言った通りだった。やはりかずまは辛い現状のようだ。

「あの…私が抜いてあげようか?」

恥ずかしかったが、もう恥ずかしさを捨ててやるしか無かった。

「いいの?じゃあお願いしようかな。」

かずまは遠慮なくそう答えた。正直私は経験をした事がなく怖かった為、かずまが遠慮してくれるのを期待していたが、期待はあっさりと裏切られてしまった。

かずまと会う日がやってきた。いつもよりもさらに緊張していた。

「とりあえず公園に行こう」

かずまの提案から公園に行くことになった。

『どこでさせられるんだろう』

不安を抱きながら公園へ歩いて向かっていった。公園へ着くとかずまに手を引っ張られ公園にあるトイレに連れ込まれた。すると突然いきなりキスをさせられた。いつもよりも長いキスで舌を絡ませてきたので私は戸惑った。不安な気持ちでいっぱいだが、どこか嬉しい気持ちでそのまま身を任せた。初めての事ばかりだったけど体を触られる事は不快ではなかった。むしろ好きな人に触られて気持ち良かった。そしてかずまの男性器を舐めると体液でしょっぱく生臭かった。私は少し吐き出してしまったが、かずまに頭を押さえつけられ無理やり精液を飲まされてしまった。飲み終わると気持ち悪くてフラフラとした足取りで立ち上がった。好きな人の精液とは言え、正直無理があった。その日はそれで終わった。

ゆかちゃんとはいつもかずまとの話をしている。もちろん会った時の話もしているのだが、毎回アドバイスをされる事がある。私の積極性についてだ。私は自分に自信が無く、引っ込み思案な性格だ。男子とどう接したら良いか分からず、受け身になってしまう。話しかけるのもかずまからが多かった。そこを毎回指摘されるが、実行出来ずにいた。

お風呂の中でもどこでもスマホを肌身離さず持っていた。それはかずまやゆかちゃんへの返信を早くするためであった。しかし、その行いに災いが降りかかることになる。私はスマホを湯船の中に落としてしまったのだ。すぐに拾い上げたが、電源がつかなかった。私はスマホが壊れた心配よりかずまやゆかちゃんの返信が出来なくなってしまったことを心配した。その心配は的中した。母のスマホを貸してもらい、Twitterから二人に返信をしたが、翌日の朝になってしまった。

「何かあったのか心配した。その間に浮気してたんじゃないかと疑ったよ。なんで早く言わなかったの?」

まずはゆかちゃんから返信があった。浮気…その言葉が出てくるとは思わなかった。Twitterの人達ともゆかちゃんの言う通りもう関わっていなかったのに。まだ信用出来ていないようだ。かずまはどうやら私に何かあったのかと心配して学校に行かなかったらしい。学校にいかなかったからといってどうにかなるわけでもないのに。そこまで心配されるのは逆に重荷になっていた。スマホが完全に使えなくなった私は両親に新しいスマホを購入してもらった。これで一安心。と思ったが、突然の水没による故障のため、LINEのバックアップがとれていなかった。仕方なく新しくLINEを始めることにした。

「これを機にかずまくんに信用される為に親と家庭教師とかずまくん以外追加しないようにしたら?」

ゆかちゃんにそう提案されたが、正直焦った。友達とLINEが交換出来ないのは辛かった。しかし、信用出来ずに責められる方がよっぽど辛いと思った私は提案を受け入れた。これにより友達との連絡手段は断たれてしまった。これで怪しいことは何も無い。やっと信用される。そう思った。

二月二日

「あいなって結構嘘つくよね…」

かずまから控え気味にそう送られてきた。しかしTwitterも多くの人と縁を切り、LINEも学校の友達さえ追加しなかった私はまだ信用されてないことに腹を立てた。

「そんなに嘘つかないよ…。それに来週テストだし。前は話すとしたらリア友が一人いたけど今は増やすつもりもない。」

私は来週テストが控えており、かずまやゆかちゃん以外と話す余裕もなかった。それに二人以外とは話していなかった。

私はLINEの友達リストをスクショし、一人一人のトークもスクショした。そうは言っても親と家庭教師しかいなくてつまらないLINEだったのだが。

「そんなにってことは嘘つくっていうことだよね…ゆかが、ラムネさん嘘ばっかつくって言ってたよ。それに本当はもっと追加したいんじゃない…?」

嘘はついている自覚はなかった。が、ゆかちゃんからよく嘘つきと言われていた。思い当たる節としたら…

「まあ…体調とか心配されそうだなってことなら嘘ついたことがある。LINEの件に関してはリア友一人はLINE交換したいって言われたら追加するかも。宿題とかも聞きたいし、テストのことも聞きたいし。まあ…追加しても特に用がない限り話さないよ。」

この頃は体調があまり良くなかった。受験生ということもあってか、睡眠があまり取れていなかったのだ。常に頭痛がしていた。それを心配されないようにいつも大丈夫だと見栄を張っていた。しかし、ゆかちゃんに追求されて本当の事を言ってしまうのがオチだった。

「そういうの本当にやめてほしいんだけど。今までに嘘ついたこと、隠してること…隠してしたこと全部言って。処女じゃないなら正直に言って。浮気したことがあるなら言って。嘘だけはやめて。全部言って。」

え?今の話に処女か処女じゃないかなんて関係があるのだろうか?かずまには以前にかずまが初カレだと伝えたはずだ。そして何より私は男子が苦手だった。その事を理解しているものだと勝手に思っていた。それと同時にゆかちゃんだけではなくかずまも浮気を疑っていたんだなと思うと悲しくなってきてしまった。

「そういうことに関しては何も嘘ついてないよ。初カレだし…もちろんそういう行為もしたことがない。浮気もしたことがないし男子は誰も視界に入らないのも事実。私はかずまの為なら何でも出来るよ。」

私は堂々とそう返した。Twitterでも多くの人と縁を切り、残ったのは十五人程度。LINEも親と家庭教師とかずましかいない。もう捨てるものは無かった。自暴自棄かもしれないが、自分のことなんでどうでもよかった。ただかずまに信用されたかっただけだった。

「…一番確実なのは…処女かどうか確認することだけど…」

ああ…もうそれしか確認する方法がないのだな。

「うん。出来るよ。確認してくれた方が私も良いし。」

もうどうでもいいやと思った。こうして私はあっさりと自分の身体を汚してしまったのだ。

二月九日

かずまと会う日の前日だった。

「八時からでも大丈夫になったんだけど…かずまはそれでも大丈夫?」

最近会う時間が少ないとゆかちゃんやかずまに言われたので明日から会う時間を増やす為に家族に嘘をついて家を出る事にしたのだ。土曜日に塾に自習をしに行くと言い、八時から行くと両親に伝えていた。

「俺は大丈夫なんだけど…今親が…」

かずまは大丈夫らしいが、両親がどうやら外出するのを反対をしているらしい。

「親…??」

かずまの両親が渋るのは珍しいと思った。

「今日まで体調不良で休んでいたのに明日遊ぶのはダメだという…笑」

かずまは少し控えめにそう言った。確かに学校は休んで遊びに行くのを許す両親は居ないだろう。

「あー…そういうことか…許して貰えそう?」

私はかずまに無理はしてほしくなかったが、会いたい気持ちが強かった。

「今のところ無理。まあ最悪無断で出るけどね」

かずまは信じられない事を言った。

「無断で…後で凄く怒られそうだね…」

私の両親に置き換えると物凄く怒られそうだ。普通の家庭でもきっとそうだろう。

「そうだね…でも俺は何よりもあいなが好きだから…何よりも優先するって決めてる」

「そのくらいの覚悟は全然あるよ」

かずまはそう言いきった。嬉しかった。かずまが誰よりも何よりも優先してくれる事が。それと同時に自分の日頃の行いを反省した。私は自分の身を守ってばかりでかずまを優先しきれていないと感じた。かずまは約束通り両親を押し切って私と会ってくれた。こんなにも想ってもらえるのは初めてで嬉しかった。自分が情けない…好きな人を第一優先に出来ない自分が。

二月十日

かずまと会った。私達はいつも土曜日にほぼ毎週会っていた。両親には塾に自習をしに行くと嘘をつき、かずまと会った帰りにいつも塾の最寄り駅の新前橋駅まで行き、塾までかずまと歩き、塾までは両親に連絡をして迎えに来てくれるのでそこで別れるのがいつものパターンだ。しかし、私が両親に連絡をする前に塾前で父らしき車を発見した。塾の近くまでかずまと手を繋いで歩いていた。父に見られたかもしれない。パニックになった私はかずまに事情を話し、車を影からこっそり撮影してもらった。写真を見ると父の車ではないようだ。ホッと息をつき、その日は終わった。しかし、胸のモヤモヤは晴れなかった。

二月十四日

今日はバレンタインだ。しかし、平日の為、かずまに会えるのは二日後だった。私はかずまにチョコを渡す為、初めての手作りに挑戦する。私は料理やお菓子作りなどをした事がなく、上手く出来るか心配だった。ゆかちゃんにバレンタインの相談をしながら作業を進めていた。作業をしている為、かずまへのLINEの返信が疎かになっていた。

「何してるの?」

かずまは私にそう尋ねた。

「秘密。でもかずまにとって良い事だよ」

私はバレンタインはかずまにサプライズとして渡したかった為、なるべく隠し通したかったのだ。

「本当に?あいな嘘つくから信用出来ない…」

私はその言葉を見て悲しくなった。今までの行動的に私はかずまに尽くせてないだろう。信用が無いのも分かっている。だが、今この瞬間かずまの為に作業をしている。それなのにそんな事を言われるのは嫌な気持ちになった。

「かずま…土曜日になったら私にそう言ったこと後悔すると思うよ。」

私は少しかずまに嫌な言い方をした。

「でも今までの行動的にね?正直…信用はあまりないよ」

はっきりとそう告げられてしまった。

「でも…私、土曜日のために

ここ数日、一生懸命頑張ってたのに…そんなこと思われてたら…少し悲しくなるよ…。」

「信用がないのはわかってる。でもこれは…信じてほしかったな」

私は思った事をそのまま伝えた。しかし、かずまの反応は酷いものだった。

「頑張ってたと言われても俺はその姿を見てないから知らないし…いきなり、今回だけ信用しろと言われても出来ないよ。

そもそも何をしてるのか分からないんだよ?

既読のつき方が変な時とかあるし…」

「返信もなんか今日遅い時とかもあるし…最近前よりテキトーだと思う時があるし」

「めんどくさくて嫌なやつだと思われると思うし嫌いなら嫌いって言っていいよ」

「飽きられたのかなとか思う時あるし」

私が悪い。かずまにそう思わせてしまった私が悪い。行動で好きだと示さない私が、かずまを第一優先にしない自分が悪い。私はかずまにとにかく土曜日に証明するとだけ言い残した。それでかずまも納得したようだった。次に会う時が勝負だ。私はかずまが好きで好きで仕方なかった。

二月十五日

新しいスマホに変えてからLINEのアカウントが使えなくなったのだが、かずまは私が前のLINEアカウントを使って他の人と連絡を取っているのではないかと考えているそうだ。どうやら前のLINEアカウントを追加出来たからだという。私は何度も否定をしたが、信用してもらえない。どうやら私自身を信用していないというのが正しいらしい。私はLINEやTwitterのトーク履歴をスクショして送った。それでも信用出来ないそうだ。どうしたら良いか分からない…。人に信用されないのはここまで辛いものだとはこの時まで知らなかった。

二月十六日

ついにかずまと会う日が来た。かずまにバレンタインのチョコを渡した。

「ごめん…下手なんだけど…作ってきたんだ」

私は上手く作れなかった為、自信が無く震えた手を何とか抑えながらかずまに渡す。

「ありがとう。これから先ずっと付き合うしこれから少しずつ上手くなればいいじゃん」

かずまは笑ってそう言った。嬉しかった。下手なチョコでも喜んでくれる所とずっと付き合うと言ってくれた事が。かずまとの未来を想像した。この先ずっと居られる未来を。その未来はきっと幸せだと思っていた。

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