異世界ヒッチハイクガイド
前書き
なぜ作品を書き上げる事がかなわないのか?
常々疑問に思ってきたことだ。
多くの場合、一話を書いてみて読み返すと思うことがある。
―――世界観が掴み切れていないと。
なんとなく思いついたことをプロットにまとめてみれば大枠しか埋まらず、細やかなところが描ききれない。没入感が足りない。
この際、認めてしまおう。私には想像力が足りていない。
そして、主に知識面が不足していると。
昔、異世界モノ作家の同人誌で読んだことがある。異世界モノを書く作家は、実際に異世界に行って取材を行っていると。
具体例は伏せられていることが多い。
巷では本当にトラックに撥ねられてみたらしいだとか、実際の殺人鬼に突貫し刺されてみただとか、真偽不確かな情報が錯綜していた。
そのどれも、嘘だった場合、私は現世へ帰ってこれないものばかりなのである。
創作では違うだろう。だが現実で実践するにはなかなか難しい。
そもそもが、取材に行くのだから、帰ってきて作品を仕上げることが前提にある。
正しく、帰ってくるまでが遠足、なのである。
そこで私は、比較的挑戦の難易度が低いものをある程度選定してみた。
先ずは、エレベーター案である。
これは異世界と言うよりも、常世だとか異次元へ行く方法という認識の方が正しいだろうか。ホラー板のオカルトでしかないというのが現状ではある。ただ試行が比較的容易な部類にあるので、とりあえずの一候補と言ったところだろう。
次に、木の根の洞穴に落ちる案だ。
失敗した場合のデメリットが少ない部類なので候補案に追加した。初出は恐らく、ルイスキャロル氏が書いた童話である「鏡の国のアリス」であろう。異世界ではあるが、ファンタジーの方向性が求めているものではないのが欠点と言ったところ。
後はもう神社へ神頼みに行くだとか、そういう方向性しか思いつかない。
情けないことだ。
残るは転移や召喚もあるのだろう。だがそれには、こちら側からのアプローチの仕方に問題がある。図書館でそれっぽい本を探すだとか、深夜のコンビニを徘徊するだとかぐらいしかイマイチ想像がつかないためこれは割愛する。
実際に行動するにおいて、試行の易さが重要になってくる。
面倒な手順が増えるだとか、根本的に求めている方向性を違えると、言うまでもなく目的を見失ってしまう。
手軽な方法で、試せるものから試していこうじゃないか。
先ずは神頼みからだ。
何より手軽。神社へお参りに行き、二、三日様子を見るだけで良い。
というわけで、さっさと一番近い神社へ行きお参りをした。一千五百十五円(いせかいのごえん)を投げ入れて、二礼二拍手。ひょっとして三礼だったかしら、とか思いつつも現在自宅に帰ってきまして数時間。未だ何も起こりません。厳しいですね。
あれから二日経ちましたがダメのようです。
仕方ないので次の案へ移行しましょう。洞穴です……
怪我をしたのでもっと手軽なものに変更。
エレベーターの手順を何度か繰り返したものの、全ての試行で誰も乗り込んで来なかった為リタイア。
図書館にて本探しを始めて三日目。全書架を網羅するもそれらしい本は見当たらず。
図書館にて一か月経過。いい加減飽きてきたのでリタイア。
いくつか楽な手順をこなしてみるもすべて失敗に終わる。
いよいよ、明確に楽な方法へと流されそうな気がしている。
異界
白い世界に居る。壁一つない広大な世界。
白い空と白い地平を隔てる地平線が、三百六十度を囲っている。
私の異世界とは、これほどまでに自由だったのか。
というわけで、成功しました。
経緯を話しますと、どメジャーのトラック衝突法を実行したわけです。
私も悩みました。手がかりが見えないまま、延々とリスクを避け続けた数か月間。しびれを切らしたともいえますが、違います。私は天啓を得たのです。目的の為ならばリスクを恐れていては何も始まりはしないのだと、我が神は言っていたのです。
何やら目的自体を見失っている感も否めませんがとまれ、異世界へは来れました。
どちらかというと異世界と言うよりは異界、常世の部類ではありますが。
なにせ何もない。この広い世界で、私一人という虚無感。死ぬ直前に二億年ボタンでも押してしまったのかという絶望感。
私が求めていたのは、異世界です。
ファンタジーなのです。
そうです。ここには世界と呼べるものはありません。空間。だだっ広いただの虚無空間。帰ることのできない精神と時の部屋といったところでしょう。
剣も魔法もドラゴンも、何もありはしなかった。
実のところ、ここに来てから数週間は経っています。時計も何もないうえ、陽が落ちることも眠ることも出来ないので、実際には判りません。
最初のうちは私も期待をしていました。ここから異世界行の切符を渡してくれる女神やら天使やらが私に接触してきてくれるものだと。結果はご存じの通り、裸一貫で数週間は放置されています。
まだ忘れられているだけと思い込むほうがマシです。
実際はただの地獄なのかもしれないのですから。
人生は上手く行かないものです。自身の想像力を補うために異世界に取材へ行こうとトラックへ身投げした挙句、あの世なのかどうなのかすら分からない虚無空間へ閉じ込められたのですから。
暇すぎて、ひたすら走っています。
運動なんて十年単位でしていない引きこもりのはずが、どれだけ走ろうとも疲れない。
疲れない。短距離走のペースで走り続けているのに疲れない。息もあがらない。そもそも空気を吸わなくても苦しくない。身体との精神とのギャップで脳みそが疲れ果てるばかりです。あたまがこんがらがって、訳が分かりません。後悔も吐き出しつくして出てきません。ただ途方もなく暇でした。
kzkg01 白木兎 @hakumizuku
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