第2話 歯車

「異常なまでのマナの奔流を感じてきてみれば、何者だ貴様ら」




猫人はそう言いながら尾をしならせる。




「わ、私は――」




ラムゥトは主を守るように前面に立つ。




「主に無礼を働く前に、うぬが名乗るが礼儀であろう」




「はぁん?なんだい石っころがずいぶんと生意気な口をきくじゃないかい」




稲妻よりも眩しい光を放ち、閃光が駆け抜ける。




道端の草、葉は焼け落ちていたが猫人は目を眩ませて佇んでいた。




「にゃんッ」




「先ほどの非礼を亡き物にしろというのであれば目を閉じよ」




猫人は方膝をついて首を垂れる。




「ご主人様の懐刀となりますにゃ」




恭しく頭をあげた猫人は名乗った。




「ホークアイ」




「それが君の名前かな?」




恐るおそる剣と盾を主軸に顔を覗かせる。




カカッ!




「来た!メイン盾きた!」




どこからともなく聞こえる。




「先ほどの閃光――ナイトシーフである私が守護致す!」




黄金の鉄の塊で出来た武具を装着した騎士が参上した。




背筋にひやりと悪寒が走る。




氷ついた場の空気が先日までの貧しい生活を彷彿とさせた。




嗚咽する、というよりは吐気に近い物から来たものだった。




ナイトシーフと名乗る首長族の男にラムゥトは鉄槌の一撃を放つ。




迸る稲妻は盾を中心に同心円状に拡散し、霧散した。


エネルギーは再度、収束し彼の剣に禍々しい光となって備わった。




「無礼者には死を」




首長族の男は目を細めながら言う。




「何勝手に話しかけてきてるわけ?」




剣を収め懐から取り出したクリスタルに稲妻を避雷させる。




「もう勝負ついてるから」




高貴なる出自の首長族の名前はフロム。




幾千幾星霜の敗戦と勝利を得て彼は手にした。




究極の武具、イージス。




イージスは己の盾となり矛となる。




クリスタルを盾の隙間に埋め込むと盾は紫から金へと変色し本来の型を成す。




踵を踏みしめ爆発的な加速度で標的に突貫する。




双を成す巨壁が衝突し反発したかの如く大地は揺れ




天は晴れ雲を穿つ、頭上にはさんさんと輝く太陽。




「晴天の霹靂――」


フロムはそう呟くと




「貴様らを我パーティーに招待しよう」




大仰な素振りでラムゥトと主を迎え入れた。




「すまぬ、貴殿の風貌が故、クロノスの刺客ではないかと履き違えた」




「しかし、遠慮致す」




反射的にラムゥトはフロムを拒絶してしまう。




「といったものの、我主のご意向を聞かねばなるまい」




主は首をかしげながら頷いた




「い、いいと思います。よろしくお願いします」




一瞬ラムゥトのコアが輝いた気がした。




「御意」




「フゥーハハハ!では参るぞ!」




しばらくすると、下卑た野次が飛び交う戦場の様な拓けた場所に出た。




首都モスクボルグの郊外にある草原で漢達は火花をちらしていた。




荒野とも草原ともつかぬその土地は放課後の憂さ晴らしにはうってつけであった。


醜女のゴブリンがせっせと金を集めながら叫ぶ




「青は33倍!赤は2倍!さぁ、はったっはった!」




醜女のゴブリンは笛を吹きながらダフ屋よろしく


賭けの管理に満足せずにフロムからくすねた装飾品を転売していた。


「しめしめ・・・フロムの旦那は見栄と気前が比例しておおきくなりよるわぃ」


独り言のように呟く様は荒野のハゲタカの如く狡猾で醜かった。


だが、この場で誰も咎める者はいなかった。




醜女のゴブリンが笛を吹くと人が郊外に集まり


必然、出店が現れ残飯にかじりつく小魔獣も散見される。


醜女のゴブリンは新参者がフロムに関わることすら癪に障った。


マナの溜まった魔石を結晶化した”アッパー”と呼ばれる粉を密売していた


彼女にとっては好機であった。




義賊を気取り闇雲に悪を裁き善を良しとして路地裏を闊歩する。


「私がヴァレリア・ヴァルキリーよ!」


フロムと双対に成す彼女は伝説の小魔獣の皮で造った”与作”


の銘刀と盾を持つ伝説の侍であった。


ヴァレリアはアッパーをかくると、手に粉が付いたままポッケのクッキーをむさぼった。


ヴァレリアは虚ろな目で醜女のゴブリンに問いかける。


「プカード。アッパーの収益比率は昨月と比べてどうだ」


プカードは馴れた手付きで収納用の魔道具”にかわの麻袋”から”一繋ぎの貝殻”を取り出し、部下に説明を促す。


一繋ぎの貝殻からは僅かな雑音と活舌の良い男性の声が聞こえてくる。


「新規顧客の開拓は視野にいれず、中毒者を対象に純度の低いアッパーを販売することで3割増となっております」




「また、新商品として元のアッパーを高純度にて発売する事で新規獲得も視野に入れております」




つまる事なく言葉を紡ぎ続ける男は名のしれたやり手のコンサルタントの弟子にあたる者だ。


「魔石の需要高等により、来月からの損益分岐点は今年の変動費推移を考慮して100KGから純利益がでる予定となっております」




業務連絡を終えると交信を終了する旨を伝え、一繋ぎの貝殻の機能を終了した。




ヴァレリアは虚空を見つめながら身震いする。




「つまりはどういうことだ」




プカードはまたはじまったと手で顔を覆いながら言葉を選ぶ。




「つつがなく順調であると」




ならばよし、とヴァレリアは黒塗りの大量のスチームを排出する車でどこかへと消えていった。

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