異世界最強の俺にハーレムなチート生活は必要無い! 〜無自覚だった俺は気が付いたら『魅了』スキルで世界中を虜にしていた〜

あずま悠紀

第1話

現代から召喚された青年「東雲祐一」が勇者の素質を見込まれ王城に招かれるが、彼は『魅力』という謎の能力を持ったまま異世界へ来てしまった。しかし彼はその能力を上手く制御できず、『魅了』によって様々な騒動に巻き込まれていく。やがて彼が巻き込まれた事件をきっかけに出会った少女達と共に旅を始める事になる。だがそんな彼を待ち受けていたのは、想像もしなかった世界規模の問題だった───!!??


「おやおや、また新しい勇者殿ですかな?」

王城に呼び出され、豪華な部屋に案内されてすぐ王様直々に出迎えられたのは良いのだが。

何このジジイ超キモいんだけど!!! いや、もうね!! 白髪交じりの長い髪を後ろの方だけオールバックにしててさ! 真四角なメガネをかけてるし! 顔には真っ赤なおべべ着てるし!! そして何よりも気持ち悪い事にコイツ、下半身は裸で椅子に座っているのだ! おいマジか!こんな奴が一国の王ってマジですか!?? いやまぁ確かに偉そうな服きてますけど! ははーん、分かったぞぉ?これが俗に言うアレだろ? 異世界物のラノベでは定番のエロ親父キャラっていうアレだろう? いいよいいよ任せてくれ!!お前さん好みに教育してやるぜええ!!!!!

「おお勇者様よ!どうか我らをお救いください!!」

あーそうですよね。そういう事ですよね、うん知ってました! というかですね。ちょっとこっちに来て下さいよ。

あんまり近づかない方が良いと思うんですけどねえ? ほれほれぇ!!見ろよこの顔!!!! このスケベ面を見てごらん!!もう興奮しちゃったんでしょうねぇ!! はっけーーーーん!今俺の目が捉えた!!こいつの股間のアレをぉおおおお!!!!!!!!!!! よし決めたぞ、こいつは今日から変態紳士と呼ぶ事にしよう。異論は認めぬ!!

(ふむ、しかし本当に凄まじいな)

(こればかりは何度見ても慣れませんわ)

(ああいう輩こそ真に裁かれるべきだと常日頃から思うんだよねボクァ!!)

(私としてはやはり勇者とはこうあるべきなのですが、これは流石に例外中の例外として捉えておくべきですかね)

うげぇ!いつの間にか皆も集まってきちゃったじゃん! しかもなんかヒソヒソ声で話し始めるしさ! なんでみんなこういう時の団結力は強いわけ!? ていうかそもそもこの変態オヤジのせいで状況がよく分かんなくなってんじゃん!! こうなったら仕方がない!ここは直接問いただしてみようじゃないか!!!

「ちょ、ちょっと!いきなり呼び出したりなんかして一体どういうつもりですか!?それにさっきから勇者とか訳が分からないんですけど!!」

すると王様の眉間にしわが寄り始め、その瞳の奥にある何かが大きく揺れたような気がした。

はは~ん?さてはこの反応。何かやましい事でもあるに違いない。間違いないね。

なら俺のする事も決まった!よし早速行動開始!まずはこのエロ親父の心を読んでやるとするかなぁ!!

「どうやらお気に召さなかったようだのう、勇者殿よ」

王様の声が重々しく響いた瞬間、周りの空気が一変して張り詰めたのを感じる。

なるほど、さては俺を懐柔しようとでも思ったのか?だがそう簡単にいくと思っているのならば甘いな。

俺は自分の欲望の為に生きる人間である以上!目の前に立ち塞がる全ての障害は打ち破ってみせる!!!

「ええ、当然でしょう!いきなり知らない世界に召喚されれば誰でも混乱する筈だ! それに俺が呼ばれた理由は、そこの女共と関係があるのでしょう?」

「ふぅむ、女共とは誰の事を指している?」

さっきからずっと気になっていたんだよ。

この部屋の隅で佇んでいるメイド服のお姉さん達や鎧の騎士っぽい格好をした女性達さ! 恐らくは王城にいる者達なのだろうけれど、彼女達からはどこか普通じゃない雰囲気を感じてしまう。

つまりそれはだな、あれだろう? 王城勤めの女性達が揃ってコスプレをする程に趣味嗜好が似ているという事に他ならないんじゃないかな!

「いやはや、流石は我が国が召喚したというだけの事はありますな。一目見ただけで我らの目的を見抜いてしまうとは!」

おい待てコラ! お前もさりげなく人の思考を先読みするんじゃない! いやね!そりゃもう分かってるよ!あの人らがどんな目的をもってここに来たかぐらいさ!

「いい加減に説明してもらえませんかね?貴方達はいったい何者なんだ?」

すると王は両手を広げて仰々しい仕草を見せた後、大声で言い放った。

『我々は勇者の力を求める者達。世界を救う力を持った新たなる存在を』

うわっ!すげぇ!!まるで声優みたいな美声!! これがいわゆる腹の底から出た本気の声って奴ですか!? あーあーあーあー!!ダメダメ!それ以上喋らないで下さいよー!!!! ああっそんな目で見つめちゃイヤー!!お願いだからそんな声で囁かないでー!!!! く、くそ!これ以上聞いていたら脳みその大事な部分がおかしくなりそうだぜ!! しかしまさか、この世界の人達はこんな感じで男を落としまくっているのか????? まぁいい。今更この程度の事で驚いてはいられない。もっと色々と暴いてやる!! 俺は王様の心を覗き込もうと意識を向けると―――

(さあて、そろそろ頃合いでしょうかね?)

すると王様の心の中は途端に黒いモヤがかかり始めた。

(いやーしかしここまで上手く行くなんて思いませんでしたなぁ!いや、むしろこの勇者殿は我々が思っていた以上に優秀だ!!)

え?何?急に態度変わり過ぎじゃありませんか王様!??

(うふふうふ!いやいやすまんね!つい興奮して言葉使いが乱暴になってしまった!どうか許してくれたまえよ!)

あーそういうアレか。要はこの変態オヤジは、実は性格破綻者のド変態野郎だったという事ね!はい納得しました!! さっきまで真面目ぶった口調をしていたのは、ただの擬態ってわけか! はは~ん!よくも騙してくれやがったな??このエロ親父めぇえええええええ!!

「え?いやいやまてまて、なんでお前らは急にそんな話になってんの??」

「おっと!まだ何も聞いていないんですかい!?それなら最初から詳しくご説明しましょうかねえ!!」

(おいこいついきなり馴れ馴れしくなってきたんだけど!?)

「ああ頼む。お前の口振りだと、やはり俺を呼んだ理由というのは―――」

(ぐへへぇ、やっぱり可愛い子ですなあこの子は。もう食べちゃっていいかなぁ!?いや、もう頂いちゃおうかなあ!!)

「え?は?え??」

「んもう!!そんな焦らす事は無いですよお!!さあこっちに来て下せぇ!!」

うっひょおおお!!こっちに来るな変態! そして俺の手を握ってくるんじゃない!!マジで鳥肌立ちそうなんですけど!!

(ああもうこのガキが可愛すぎる!早くヤらせろ!!ああもう辛抱たまらん!このまま襲っちまいたいぜえ!!)

あかん!あかんよコレ!?マジで頭おかしいぞこの変態親父!! はっ!もしかしてこれってもしかするとあれですか? 今までこのエロ親父の毒牙にかけられていたメイドさん達が突然現れたイケメン達に奪われて、 それで怒り狂っていた的なパターンですか!?そうですか、そうだったんですね! うん分かったぞ!この国、そして変態の集う変態国家の名前は変態王国だな!! よし、もういっそのことコイツら全員まとめて魅了のスキルにかかってしまえ! さあ!そのケモノじみた視線を止めろ!!そうすりゃきっと元の世界に帰る方法も見つかるはずだ! そして俺は改めて自分のステータスを確認する事にした。

さて、まずは俺の固有技能はどうなっているんだろうか??

名前:

東雲祐一 年齢:15

種族:

ヒューマン 職業:

勇者 Lv.15/20 状態: 良好 生命力(最大値12000/MAX100000)

魔力

(平均値2300)

攻撃力 2600 防御力 2000 敏捷性 3400 知 力 5500 精神力 4200 幸運度 100/100 運

(変動値1000)能力:【武術系】〈剣術5LV9〉UP!! 《聖剣エクスカリバー》NEW!!

「勇者として異世界から呼び出されたものの勇者らしくなく、ハーレムを築く事もできない。それでも彼は前を向いて歩む!!」

おおおおおお!!!!やったぜ俺にもちゃんとチートな能力が手に入ったぞぉ!! はぁはぁ、いやぁ良かったぁ。これで俺はようやく普通になれたわけだ! よしよし、さっきまでの俺とは違うんだぞ! まず第一に俺には魅力がある!!これがあれば俺のチートは無限大に効果を上昇させられる! 第二に俺のチートにはレベルの概念が無い!!つまりレベルアップすればする程に強くなっていく! 第三に俺のチートは全てが限界突破だ!例えそれが数値上の力でも、今の俺ならば十分に対応が可能だ! そして第四に俺が身につけているものは、全てにおいて最高級!!もはやこれは国宝級である! はぁ、本当に素晴らしいな!まさに無敵!!俺こそまさに選ばれし人間に相応しいじゃないか!! さぁて、次は皆のステータスも確認させてもらうとするかな。

(よし、俺もついに勇者としての力を開花させる事に成功したぜ!!)

まず最初はあのいけ好かない女から調べてみるとしようか!

(俺の固有技能はどうやら魅了だな!よし!さぁ、お前ら!これからは俺の言う通りに動けよ!!)

俺の目の前に表示された画面を見て、女どもは一斉に歓声を上げた。

な、何だよ一体?何を騒いでんだよお前ら。一体なんなんだよこの反応は??

『キャー!勇者様ステキー!!』

え?ちょ、ちょっと待ってくれ。お前らの心の中には俺への賞賛しかないのか?? はっはっは!こいつは面白い!!どうやらみんな俺の魅力に惹かれてしまっているようだな! ふふふふふふふ!良いだろう!もっと讃えるが良いわ!! 俺はそんな事を考えている間にも女の心を覗いていた。ふふふふふふふ!やはり俺を慕う気持ちでいっぱいではないか! よしよしいいだろう!この国を我が物としてやろう!!ふふふふふふふふ!

(ふぅ~!この国の王女を虜にする為には中々苦労させられたわぁ~)

いや、いや、ちょっと待て!! この声は何だ!?この声は明らかに男のものだ!!まさかこいつ、女の心の声まで聞き取れるというのか!?

「ど、どうして貴様に私の思考が筒抜けになっているのだ!?お前の固有技能か?いや!そんな筈はない!まさかこの国の者達も全員同じ状況に陥っていると言うのか!?」

「いやぁ~、流石は魔王を倒してくれた勇者殿!我々の期待を裏切らない御仁である事だ!まさか勇者が女だけでなく男までも虜にできるとはな!いやぁ実に羨ましい!」

くそ!この王様の声がまたあの男と同じなのか! いや、だが待てよ。そもそも俺はどうやってコイツに自分の能力を晒してしまったんだ?? あれ?そう言えば確かあの騎士に捕まった時、何かに操られるような感覚に陥った気が――

「ふふふふ、いやぁ全く大したものですよ。これほどとはね。貴方達の持つ固有能力は『相手の意識を操作する事ができる』といったところですか?」

「い、いったい何の事ですかね?」

「惚けても無駄なのですよ、その声は間違いなく貴方のものでしたよ?」

しまった!まさかこいつ、声を変えることができるのか!?

「ふふ、どうやら私達の力はバレてしまったようですね?」

すると、今度は別の女性――確かこの城の騎士団長とかいっていた女だな――そいつの心を覗いたら、その声があの騎士のそれと同じである事に気づいた。

くそ!やっぱりコイツも声を変えやがった!しかも声だけではなく顔つきまで変化させてやがる。どういう原理だ?? とにかくコイツら、声だけで姿形を変えていやがるという訳か!

(まぁしかし、こんなもの所詮は小細工でしかありませんな。何にせよ貴方にはもはや勝ち目などないのですから)

うおっ、何だと!王様の心の中に俺に対して殺意を抱いている男が現れやがった! これは俺の知らない未知の力!?はっ!ま、まさかコイツがこの世界の真のラスボスか!? うう、しかしどうすれば良いんだ??

「あ、あの~もしもし?」

(ええい!黙れぇ!もう容赦せんぞこのクソガキがああ!!)

「い、今、僕の中のおじさんも叫んでましたけど大丈夫ですか?」

「お、おじさん?えっと君は、その――誰だい?それに君のような少年が何故ここに居るんだい?」

(ちっ、どうやら奴の固有技能は精神を操るだけではないらしいな。しかしここまで来てこの程度で怖気づく俺ではあるまいて!)「ぼ、僕はユウっていいます。実は皆さんを助けに来たんですよ!!」

(いや、助けに来てくれたのはありがたいんだけど。正直、そのおじさんとか言ってた人の方に同情したい気分だわ)

「おお!それは頼もしい限りじゃないか。だけど君みたいな子供に、一体なにができるって言―」

その時、扉の方からは凄まじい衝撃音が鳴り響いて来た。

(おい、お前らなにしてんだあ!!!そんなところで油を売っていないで仕事しろぉぉぉぉぉ!!)

あちゃあ~やっぱり怒られちゃいましたねぇ(笑)

うふふふ、うひゃひゃひゃひゃ!この女騎士め!さっきまでは僕を睨みつけてきていたというのに!この僕の前だとすっかりしおらしくなってしまいやがりますぜ!! はっはっは!良いザマでござんすね!さてと、次はこいつらの心の内を読んでやるかぁ!うひゃひゃひゃひゃ!!

(うっひょおお!やべぇ、マジ可愛すぎる!このガキがあんなエロい体を持っているなんて!俺もう辛抱たまらんぞ!!もう我慢の限界だ!!よし、まずはこの場で犯っちまうか!!さあ、大人しく俺の物にならねえかこのメス豚共が!!へっ!抵抗しても無駄だって分かってんだろうな?俺の固有技能でお前らは全員支配されているんだよ!)

ふふん、馬鹿だなあコイツら!どうせこの場をやり過ごす為に嘘をついているに違いない!そうだよね皆!! ほーら、見なさい。さっきまで余裕ぶっこいて威張っていたコイツらが全員俯いてしまいましたよ!!

(い、嫌ぁ!こないで!!私はあなたの物なんかじゃない!!)

さぁて、じゃあそろそろ次の女の子でも調べに行くとするかな!うひゅぅぅ!! そして俺が再び部屋から去ろうとしたその時、俺の足が何か柔らかいものに突き当たった。

なんだこれ?ふと足元を見てみると、そこには俺の足を掴んでいる一人の少女がいた。

彼女は涙を溜めた瞳を向け、必死に俺に訴えかけてくる。

「ゆ、勇者様。どうして私には何もしてくれなかったんですか?酷いよ。そんなのあんまりだよ」

「お、おお!おおおお!!」

(何だよ!お前!超可愛いじゃん!!何だよこいつ!?天使だ!俺が探し求めていた理想のタイプはまさにこいつだ! ふはは!良いじゃないか。良いとも!!この俺が惚れてやろうじゃないか!!さぁ俺に付いて来いっ!!まずはその服を脱ぎやがれ!それで俺に奉仕して貰おう!そうすりゃきっと、もっと色んな事が上手くいくはずだ!俺と一緒に頑張ろうな!そして俺のハーレムの一員として迎えてやる!!

「な、なんで!?どうしよう。なんでなの?なんでこんな事ばかりが起こっちゃうんだろう!?私が悪い子だからなの?だったら、お願い。誰か、神様!誰でも良いの。どうか勇者様を止めて。私の願いを聞いて!勇者様を、勇者様に戻さなきゃ!!勇者様なんでしょ?本当は悪い人なんじゃなくて、優しい人なんでしょう?皆の勇者様なんでしょう?だったらお願い!勇者様、戻って!!お願い、元の勇者様に戻ってぇ!!!」

「いやあああ!止めてくれぇ!!俺はまだ童貞のまま死にたくないんだ!!俺はもっと人生を謳歌したいんだよ!!な、何だよ、そんな目をしないでくれよ!!わ、分かった!俺も一緒に行ってやろう!!そ、それならお前も文句ないだろう!!な、なぁ!?頼む!見逃してくれよ!な、何!?何でそこで俺の手を握るんだ!?や、やめて!お願ぁぁあい!!いやだぁああああ!いやぁああああああ!!うああああああああああ!!!! いやああああ!!こわいいいいいいいいい!!こわいこわいいいい!!こあぃぃ!!ああああ!!ああ、あ、あ――――)

「え?ど、どうしました?何か変な感じになってますけど」

「はぁ、まったく情けないですね。こんな子供相手に本気で怯えるなんて。貴方それでも男ですか? まぁ確かに彼は私達の中では最も非力ですが、貴方には彼をどうにかできるだけの固有技能があった筈では?」

すると男は呆れた表情をして、大きなため息を吐いた。

「はぁ、貴方は相変わらず自分の事しか考えていませんね。この国の者達がこんなに苦しい状況に追い込まれているというのに。貴方達は、一体何をしているんです?どうしてこの状況になっているのか、分かっているのですか?」

男の顔が醜く歪むと同時に、心の中のモヤがさらに広がっていきました。

はは~ん!どうやらこいつらもコイツの固有技能の影響を受けてしまっているみたいですねぇ!

「おいおいおい!何で誰も何も言わねえんだよ!俺はちゃんと言ったぞ!早く仕事を終わらせて帰れって言ったぞ!それがどうしてこうなったんだ?ああっ??」

う~ん!実に不愉快な野郎でござんすねぇ! こいつもどうやら、声だけでなく容姿まで変化させているようでござんすね! どうせその力で国王をも洗脳したのでありんしょう!まったく悪趣味極まる事でやんすなぁ!!はっはっはっは!!

(ああ!うるさい!!貴様らのような下賤な連中は、さっさとこの城から出ていけと言っているんだ!ここはお前達みたいなクズどもが来る場所ではないのだ!!)

い、いきなり怒鳴られた。え?僕何かいけない事をしちゃったのかな? あ、あれ?あれれ?何か体が急に震えてきてしまったよ?どうしたんだろう。あ、そっか!僕今とっても寒いからこんなにも手が冷えちゃったんだ!きっとそうだ!そうに決まってる! そ、そうだ。こんな時は温かい飲み物が飲みたいなぁ!そしたらきっと寒くなくなって元気が出ると思うんだけどなぁ。

それに暖かいスープなんかも良いかも。はは、そんなの食べなくても大丈夫だって分かってはいるんだけど。

あ、どうもすいません!!さっきから一人でペラペラーって喋ってしまって。本当にすいませんでしたぁ!!

(あはは、何この人!面白いなぁ。この人の話を聞いてたら凄く気持ちが落ち着く気がする)

はぁ~。この人の声を聴いてると安心しますね。ずっと聴いていたいって思いますよ。はぁぁ。

(おいおい、マジかよこいつら!マジで全員俺に惚れているみてえじゃねえか!!ひゃっほう!!どうやら、俺のモテモテ計画は大成功ってわけだな!!はは、最高に気分が良いぜぇ!!よし、決めたぞ!まずは目の前の女を犯してから次にそこの男を犯してやるぜ!!)

え?何これ、どういうことなの??もしかして、この人も?

(あーあ、やっちまったなあコイツら)

な、何でこの人はそんな冷たい目で他の人達を見つめているんだろう。まるでゴミを見るような視線。僕はそんな目で見られたことは生まれてこの方一度も無い。だって僕の周りにいる人たちは皆優しかったんだもん。だからそんな風に思われることは無いはずなんだ。

(うう、こわい。でもこの人の側に居たい。この人が怖いから。だけどこの人を見ていると何故かとても落ち着ける)

僕は彼女の瞳を見て確信していた。彼女があの時、泣いていた女の子だという事に。

彼女は昔、奴隷だった頃に酷い暴行を受けたと言っていた。その時のトラウマで、今もまだまともに歩けなくなったままらしい。

だから、今の彼女にとって最も頼りになる人間は誰だろうかと考えた結果、それは当然の事ながら彼女自身の主人となる人物に他ならないと結論付けられる。

だからこそ僕は、そんな彼女が今こうして再び立ち上がり始めたことに心の底から歓喜した。

(あ~あ。これじゃあいつまで経っても帰れなさそうだな。はあ、マジかよ。まぁ、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないけど。さっさと諦めよう。

とりあえず、今はこいつの動きを封じ込める事が最優先だな。よし。まずはこの変態の意識を俺に向けさせて、その間にお前らがコイツの拘束をするんだ。その後は、そうだな。こいつらの記憶を消しちまおう。そうすれば後々の問題は全て片付く)

この人は、きっと本当は良い人で間違い無いのだろう。だけどどうして、ここまで悪い方向に考えてしまうんだろう。

(あぁ!もう面倒だな!!さっきからゴチャゴチ言い合ってないでさっさとコイツを俺に任せてくれればそれで全部済むんだよ!!良いよもう分かったよ!!じゃあお望み通りやってやるよ! その代わり後悔しても知らないからな!お前らを、いやこの国全員俺の物にしてやるからなぁ!!)

ああ。やはりダメだった。彼の心はとっくに限界を超えていたんだ。それなのに、それでも彼は私達の為だと自分に嘘を吐き続けていたんだ。

ああ。どうしてこんなに悲しい事が立て続けに起こるのかな。

(な、何なんだよお前ら。一体何者なんだよ。まさかお前ら全員この男の関係者なのか?)

そして私は、私の神様である彼に全てを話す覚悟を決めた。

「あ、あなたにお話があります。実は、私には特別な力が有るんです」

「はぁ?特別ぅ?何だよそれ」

そして次の瞬間、この部屋の中を光が包み込んだかと思った刹那、私の目の前にいたはずの男は跡形もなく姿を消してしまっていた。

あ、あれ?私は一体何を? そう思って周囲を確認してみると、そこには皆が呆然と佇んでいた。

ふぇ? い、一体何がどうなっているの?

「え、えっと。そ、その。こ、これでよろしいでしょうか?」

「うん。ありがとうございます。とても素敵で、素敵な力です」

そう言ってくれた女性は私の力を初めて見た時に見せた笑顔を私に見せてくれた。

ふへぇえ。その笑みだけで私、死んでしまいそう。あ、いえ、これはその、そう言う意味の笑いではありませんので誤解の無いようにお願い致します。はい。

ああ。やっぱり、この人となら上手くやれるかもしれない。

「それで、君はこれからどうするつもりなんだい?」

「はい、まずはあの方を私のご主人様として迎え入れたいと考えています。もちろん、皆さんの同意を得てからのつもりですが。も、もし、どうしても受け入れられないという事でしたら無理強いはしないつもりなので、そ、その時は―――ひっ!?ごめんなさい!ご、ご、ご、ご、ごめっ――!」

「おいおい、何もしないうちから勝手に謝るんじゃねえよ。ったく」

あぁぁああ!この声!あの声を聴くたびに私の心が躍る!あぁ、どうしよう。このままじゃ心臓が爆発しちゃう!! ああ。私を助けてくれる人がいる。この人は絶対に私が助けなきゃ!

「え?あ、あれ?貴方は?」

「よぉ、久しぶりだな。元気にやってるか?」

そこに現れた人物は、かつてこの国を滅ぼし掛けた魔王。

だが、その姿は以前のそれとは全く違うものだった。

何故ならば、彼は勇者の力を全て奪い取り、さらには自らの命を絶ったはずだったのだから。

しかし彼は、今こうして私の前に立っている。

それが何を意味するのかは、正直理解し難い。

けれど、この人は必ず私の事を守ってくれる。なぜかそう思うことが出来た。

「うわ、うう、うあぁぁあ!うぐ!ごぼ!げほ!!」

俺は、思わず嘔吐してしまった。

いやいや、待てよ。おかしいって、何これ。マジでどうなってんの?どうしてこんなことになったの?ねえ誰か教えて?何で誰も答えてくれないわけ?あーあ、もうめんどくせえ!こうなったらヤケクソだ! 俺はそのまま部屋を出て行く事にした。

いや、だってここに居ても仕方ないし。

すると、後ろの方で俺を呼び止める声が聞こえてきた。振り返ってみると先ほどの少女が涙目になりながら必死に何かを訴えている様子だった。

(ど、どうして出て行ってしまうのですか!せめて事情を説明してください!!)

いや、だってどうせ面倒なことになるの目に見えてるじゃん。

まあ、とりあえず外に出たは良いものの、特にこれといって何かするべきことが無いなぁと思ってしまった訳ですよ。はい。というよりですね、そもそもの話。

何でこんな所に召喚されたんだろうね。

俺としては別にここの世界に用は無いんだよね。むしろ邪魔だと思っているわけで。だから出来れば一刻も早くここから脱出したいと考えている次第なんだけど。

まあね。ぶっちゃけちゃうと、俺は勇者としての資質はゼロなんだからこんなところに来る必要は無かったんだよなぁ。

でもなぁ。王様ってばさぁ。何なんだよこの待遇。完全に手駒扱いじゃないの。

でもなあ。もしも、俺がその気になれば世界の一つくらいは滅せる自信はあるんだよな。なんつっても、俺って一応神様なんだしさ。

はは、やべぇ、超テンション上がって来た!!よーっし!いっちょ世界を救いに行ってみるか!

(お主は一体何を考えておるのだ)

(あ、あはははは、ちょっと散歩に出かけて来るだけさ!ははは!)

(なぁおぬしはわしの事を忘れているのではないか?)

(あ、はい、すんません)

(まったく。まあ良い。お主には一つ頼みがあるのじゃ)

(ん?何?何でも言っていいぜ?ただし俺が出来る範囲のことでよろしくな?)

(なんじゃその曖昧な条件)

(で、頼みごとは何だ?)

(まあ良い。とりあえずお主がさっき会った女の事は覚えておろうな?)

(ん、そりゃあね。ていうか忘れたくとも忘れられねーわ)

(まあそれもそうか。でな、実はあの娘、わしの姪なのじゃよ)

(ほうほう、それで?)

(まあお主なら分かってくれようが、わしもな、実は結構色々と大変なのじゃよ。それに、この国は腐っている)

(へー)

(じゃからあの女が不幸になることは無いと誓える)

(うっひょ~!!そういうことなのな!!任せておきんしゃい!!もうこの俺に任せてくれりや!!お前さんのことは俺が責任持って守っからな!!もうお前のことは嫁と呼ばしてもらうぞ!!!)

(うむ、よく分らんけど。とにかくあの娘のことを頼んだぞ。あと、ついでにこの国の連中を適当にボコってくれると嬉しいかのう)

(あはは、まかせてくれ。それじゃあまたな、おばちゃん!!ばいば~い!!お幸せになあああああああ!!!!)

そうして、俺は城の外へと飛び立ったのであった。

「さて、それでは皆さん、まずはこの国の現状を知る為に一度街に降りてみましょう」

私はそう告げて部屋の中から出て行った。

「ねぇ。今この人、どうやって出て来たんだろ?」

私はその言葉を聞き、咄嵯に振り向いてしまった。

そこにはやはり、私達と同じ姿をしている人がいた。

いや、それだけじゃない。

あの人は私の力を使っていなかった。

つまり私達の力を無効化していたという事になる。

だとすれば、それはつまりどういう意味になるのかしら。

私にはもう、その先が考えられないのよ。

「ふふ、本当に面白い人達。やっぱり貴女といると楽しいわ」

そう言って私達の前に立った彼女はとても美しく微笑んでいた。

ああ。私達はもう、きっと元には戻れないのでしょう。

だからどうか、これからは一緒に仲良くしてくださいね。

――私の神様? ◆ あ、あれれぇ?おっかしいな。

俺って、この世界の神になったんだよな? 何この扱い。

いやいやいや、どう考えても可笑しいって!!こんなの絶対にありえないって!! あーそう言えばさっきなんか変なのと話してたなぁ。確か俺があいつらの主人?になってこの国を守るとかそんな感じだったっけ?いや、マジかよ。

「あ、あんたら。もしかして俺のこと馬鹿にしてんだろ?」

「あら?どうして?」

「どうも何も!俺はそんなもんに絶対ならないからな!!」

俺ははっきりとそう言い放った後、その少女に向かって人差し指を突きつけた。

そしてその次の瞬間、目の前の少女の姿は煙のように消えてしまっていた。

ふふふ、残念でした。私はただ姿を消しただけだよ?本当はあなたの隣で寝ているよ。なんてね。

「うぉおおおい!マジか!まさかほんとにいたのか!!」

ふふふ、どうだ。私だってやれば出来る子なんですよ!! そう言って胸を張る少女の姿をした私に対して、私は思わず抱きついてしまっていた。

はぁ、可愛い!何この生き物!超可愛いんですけど! うへへへ、うへへへへへ。どうやら俺はもう既に取り返しのつかないところに来ちまったらしいぜ!

「え、ええっと。あの、ご主人様?どうして私を抱きしめるのでしょうか?」

「ああ、悪い悪い。あまりにも可愛かったんで思わずさ。ははは、許してくれよ!」

「ええ!?あ、あの。ご主人様!?」

あぁああ!マジで可愛いぃ!こんなに俺の事を考えてくれる奴は初めてだ!

「おい!そいつから離れやがれ!!」

ん?誰だこいつ。

振り返ってみると、そこには如何にも偉そうな格好をした青年が立ちはだかっていた。

「はぁ?お前いきなりなんだって言うの?」

「ふん、いいからその女からすぐに離れろと言っている」

「いやだっつったら?」

「そいつの首を斬り落とすまでだ!!」

え?ちょ、ま。

この人今なんて言ったの?この人の剣で首を切り落とされる? なにその死亡フラグ、いやん、無理です、死んでしまいます。

はい、即答します。全力で逃げたいと思います!!

「おい待て、貴様にはまだ訊きたいことがある。少しばかり私に付き合ってもらうぞ」

「え、や、いや、俺は逃げるぞ!じゃあな!!」

そういって俺が走り出そうとする直前。

「なぁ。ちょっといいか」

俺が声の方を振り向くと、そこには俺の事を呼び出してくれた勇者の姿があった。

おお、なんだこのタイミングの良さ。もしかしてこの勇者ってば予知能力者かな? まあ今は細かいことは気にしなくても良さそうだ。

何よりもだ。こいつがいれば百人力だぜ!!

(あ、あれ?お前何でそんな所にいんの?)

(お前さん、もしかしなくとも。またやらかしたのではないのだろうな?)

(いやいやいやいやいや!!なんもやらかしたつもりはないって!!俺マジで無実なの!!冤罪だって!!なぁ、お前からも言ってやってくれよ!!)

(まあ、確かにやること成すこと無茶苦茶なのは否めないのう)

(うぎゃぁあああああ!!!!何でこうなるんだぁあああああ!!?)

「ちょっと待て、そこの女は誰だ?」

(ほれ見なさい!だから言っとろうが、あやつは変態紳士だって)

(違う!アレはそういう意味じゃねえんだよ!!)

そうやって、二人が揉めていた時であった。

突如として、凄まじい殺気がその場を支配したのである。

それは俺にとって、とても馴染み深いものとなっていたのであった。

この世界は一体何なんだろうか。

俺はただ静かに暮らしたいというだけの願いを持っていただけだったはずなのに。

この世界に来た俺は勇者としてこの世界の為に戦う事を決意した。

そう、俺は勇者なんだ。

だから俺は世界を救うという使命を果たすべく旅に出た。そしてこの世界で数々の戦いを繰り広げて来た。

最初は戸惑いもあった。この世界の人達は皆優しくしてくれた。まるで俺が勇者であることを知らないかのように振舞ってくれる。

だけど、それが偽りなのだと知ったのは、ある一つの事件が起こったからだった。

この世界に魔物と呼ばれる化け物がいることを知ったのだ。

彼らは人間を食らう恐ろしい存在だった。俺はそんな彼らの退治に精を出した。

ある時は巨大な竜と戦い。またある時は山のような巨体の魔獣を倒したこともあった。

だが、その全てが終わった後に、俺は思ったのだ。俺の力は本当に必要なものだったのかどうかと。

俺はその時に気付いたのだ。自分の本当の力の意味というものを。

それからはひたすらに強くなろうとした。

もっと強くなりたかった。そしていつしか自分が本当に求めているものが分からなくなっていたのだ。

ある日、魔王を名乗る男が現れた。

俺はこの男が嘘だと分かっているにも関わらず戦いを挑んだ。そうしなければこの心がどうにかなってしまいそうで怖かったからだ。だが、結果は呆気ないものであった。俺はその圧倒的な実力の前に敗北した。

俺はそこで悟ってしまった。自分こそが最強であるという事に。

(じゃあな)

男は一言そう告げると何処かへ去っていった。

その顔が酷く悲しげな表情だったことを覚えている。

結局、この世界を救いたいと本気で思っていた訳じゃなかった。

心のどこかでは分かっていたのかもしれない。俺の力はただ単に目立ちたくなくて身に着けたものだと。

でももう良いだろう?もうこの異世界では俺の居場所は無いはずだ。

俺はただ平穏に暮らしていたいだけなんだ。もうこれ以上辛い思いはしたくない。

(お前も苦労しているようだな)

(え?)

(いやなに、この世界にはお主の求めるようなものはありそうにもないと思ったものでな)

(なに?俺にどうしろっていうんだよ?)

(まあ聞け。お主に一つ提案がある)

この女が言うにはどうも俺は異世界から呼び出された勇者らしい。それも、その力はこの世界の者達と比べて圧倒的に強いものだという。

だからこそ、この女の誘いに乗った方が賢明だろうとこの女に言われる。

正直な話。どうしたらいいのか全く分からなかった。

ただ分かるのは目の前にいる奴はこの世界の神であり。その言葉には絶対に抗うことが出来ないということだ。

(おい、聞いているのか?とりあえずまずは我を崇めるが良いぞ。そして貢物を捧げよ。さすればこの世界に平穏を与えてやらんこともないのじゃ)

こうして俺はこの神を名乗る女と契約を交わしたのであった。

ああ、この国を出ることが決まった時の絶望感は筆舌にし難い。

それでも、俺はこの選択が正しいと信じて進むしか無いんだ。だから、だから俺は―――! ◆ 私は今一度ご主人様の部屋の中を覗いてみたのですが、何故かご主人様の姿は見当たりませんでした。

(おかしいですね。一体どこに行かれたのでしょうか?まさかあの男に連れ去られてしまったのですか!?ど、どうしましょう!私、ご主人様のことが大好きなのに!!もしかして私のせいでご主人様が危険な目に!?そんな!ああ、私なんて愚かな女なの!ごめんなさい、許してください。お願いします。私が愚かなことをしてしまいました!だから私を見捨てたりしないでください。何でもしますから!どんな償いも必ず果たしますから!ああ、私の愛する方。どうか貴方の御無事をお祈り申し上げます!!)

(あぁ、もう!どうしてこんなことに!やっぱりあのままにして置けば良かったんじゃ!あ、あれ?もしかしてこれって私が悪いのか?えぇ?いや、違うよね?だって私はあんな奴の世話をする為にわざわざ神様に頼んでこの身体を用意した訳じゃないもんね!そうだ!私はあくまで私の意思に従って行動しただけだもん!うん、そうだよ!これは別に悪くないしね!って、それよりもだ。今はどうやってあの変態野郎を見つけるかの方が問題だろう!)

(まあ、待て待て落ち着くのじゃ。まだ慌てる様な時間ではないぞ)

(うぐっ。お前なぁ、今度からはもっと分かりやすい方法で出て来てくれよ!心臓に悪いわ!マジで!!)

(ふむ、ならばどうすると言うのじゃ?このままあの小僧を追いかけてみるか?恐らくじゃが奴はあの街から離れるつもりはないみたいじゃがのぅ)

(それだ!よし、あいつを追い掛けよう!!)

そう言って駆け出すご主人様の姿はとても楽しそうな笑顔をしておりました。

ああ、ああ、あああああ! やはり貴方に着いて行くべきでした!そうしてさえいればきっとこんな気持ちを抱くことは無かった筈なのです!!ああ、なんて罪深き人。こんなにも愛おしくて堪らない!!

(はあぁ。やっぱりこの姿が一番動き易いわい)

(ってか、さっきからちょくちょく思ってたんだがお前って俺のこと敬ってねぇよな?なぁ、何でだよ?何で俺はお前に尊敬されてんのにお前の態度は変わらねえの?教えてよ?何でお前は俺の事呼び捨てにしてくれんの?何なのお前って本当は俺の事が嫌いなの?え?違うって?じゃあ、何でなんだよ?んん?答えないとぶっ殺すぞ!!)

(いやぁ~流石にこの状況はまずいんじゃないかのう?どうするべきか悩ましいのう)

そしてその後ろ姿を眺めながらニヤケ顔で見送る女神が一人居たのであった。

勇者である俺にはある一つの願望があった。それはハーレムを作るというものだ。

俺はこれまで色々やってきたけれど未だにその目的を果たすには至っていない。だからこれから先もきっと難しい道を歩むことになるんだろう。

(まあなぁ。俺がこの世界でやってる事と言えば、勇者らしくないことばっかりやってるけどさぁ。一応これでも勇者な訳だし。こうなったらハーレム作るしかないでしょう!勇者としての責任だ!)

そんなわけで俺は早速可愛い女の子を探して街に出てみることにしたのだけれども残念なことに出会った人達全員俺と目が合った途端顔を真っ赤にさせて走り去ってしまうのだ。しかも全員が美少女ばっかし。うーん困った。

こうなれば仕方が無いと次なるターゲットを探している時であった。

俺は運命的にとある女性と出会ったのだ。そうそれが――!

(はぁはぁはぁ。待ってくれよお姉さん。お姉さんがいけないんだぜ?)

「あら?どういう事かしら?」

(何せアンタの胸元が見えそうだったんだからな。我慢出来なかったんだよ)

「まあ、そういう事でしたら致し方ありませんね」

彼女はそう言いつつ微笑を浮かべてくれた。その瞬間俺は理解したのである。彼女が自分の探し求めていた理想の存在だと。

それからは速かった。彼女とお茶をしている最中に彼女の素性を調べ上げた後、その全てを知った。その上で俺は彼女にアプローチを掛けたのである。だが、その時になって彼女もまた俺がこの世界の人間とは違う存在だと気が付いてしまった。

俺はその時悟ってしまった。俺には本当の居場所は無いんだという事を。

そして、それをこの人は受け入れてくれるのだという事も分かったのだ。

だから俺はこの人と添い遂げたい。例え俺がこの世界から拒絶される存在なのだとしても。俺を受け入れようとしてくれた優しい人達の為に俺は戦おう。俺の為に、そして、この人の為に俺はこの力を存分に振るおう。それが、それが、それが!! この異世界に来て初めて俺が感じたことなのだ。

俺は今、目の前にいる少女と一緒に歩いている。俺の隣を歩いてくれているこの人が俺にとってどれほど大切なのかを改めて思い知った。

(俺は決めたよ)

(ふむ、何をじゃ?)

(この人の為なら俺は何でもやる)

(ほぉ、それで?)

(この人を泣かす奴は絶対に許さない。そして、この人を悲しませる奴も絶対に許さない。絶対にだ!絶対にな!!たとえどんな敵が相手であろうと俺は絶対に負けない!だって、だってこの人は!この人だけは!!)

この世界を救うとか、そんなことは正直なところどうでも良い。俺はただこの人の幸せを守りたいだけなんだ。その為だったら俺は、この力を使ってこの国を守ることだってできるかもしれない。いや、きっと俺はそうして見せる。だからさ――

(見ててくれよ。俺が君に相応しい男になるその日まで)

◆ 私の名前はリーリアと言います。私は今勇者様と二人きりで街中を歩き回っております。私達は二人で仲良く手を繋ぎながら街の外へ向かっているところです。

(お主は気付いているんじゃろうな)

(当然さ。俺の願いはこの国の平穏でも、ましてや世界を救うことなんかでもない)

(うむ。ならば、そろそろ頃合いかもしれぬな)

(ああ、もう充分に楽しませてもらったさ。それに、あの男が居ればきっと大丈夫だろう)

(ふむ、そういえばあやつは何をしておるのかな?)

(さあな?少なくともこの世界にはいないだろうな)

(まあ、確かにあやつは強すぎるからのぅ。この世界でも十分にやって行けるとは思うが)

(だろう?もう俺はこの世界を去ってもいいんだよな?)

(うむ。良いと思うぞ。後は任せるがよい)

(ありがとうな。それじゃあ、行ってくるよ。お前のおかげで俺も吹っ切れた。もう、迷いなんて無いさ)

(はっはははは!相変わらず大したやつじゃのお)

こうして私は勇者様に見送られるようにこの国を去りました。その去り際まで私にはあの方の優しさが痛いほどに分かっておりました。

ああ、ご主人様は本当にお優し過ぎます。どうしてあんな方に酷いことが出来るんでしょう。私はあの方を愛しております。この世界の全てがあの方の敵に回ったとしても私は決して離れるつもりなどありませんでした。

ご主人様は私の為に泣いてくださいました。そして、私が苦しまないでいいようにあの女を殺して下さいました。

そんな優しいあの方はきっとこの先もこの国を守られるのだろう。だからこそ私もあの方の為だけに生き続けようと思います。そう、私が死ぬその時までは、どうか私の愛するあの人に幸福がありますように、と。

◆ 私、いいんちょです。

私も実はちょっとおかしい子なんです。私、小さい頃にとても悪い夢を見た事があるんですよ。

あれは確か小学校に入る前の話でした。お母さんに連れられて行った病院にはとても大きな犬が居て。それがまるで私を見下すような視線を送ってくるから凄く怖くて。思わず私は逃げ出した。

それからしばらくした後、私はその悪い夢の話を聞かされた。その悪い子はね、自分が特別な人間だと思い込んでいたのよ、って言われた時は何のことかさっぱり分かりませんでした。だって私にとっての一番の友だちはいつだってその子だったので。

ただね、私ね、思ったのよ。もしあの子が特別じゃないとしたら?それはそれで私と同じだよねって。だってあの子よりも弱い私にはあの子の考えていることが分かるんだもの。きっとあの子はあの日見た自分以外の生き物の全部が憎かったんだよね。だってあの子は弱虫で臆病者だったから。きっと今も昔と変わらないんだよ。でも、あの時あの子に出会っていたらきっと私はあの子と親友になれていたと思うんだ。

だからね、私、この学校に来て本当に良かったなって思えた。私と同じように他の人からは見えない何かと仲良しでいられている友達を見つけたから。私に足りない物を持っていながら、決して人前でその力を見せようとはしない不思議な男の子に。その秘密を知りたいとは思わない。ただ、一緒に居たかった。それだけで幸せなの。この学校に居ると毎日が新鮮に感じられる。新しい出会いがあるからこその喜びを知っちゃったらもう駄目。この世界は素敵なもので溢れてる。そんなの皆知ってることなのに、誰も彼もその事には気付けていないんだもん。

私はこの学校で色々な事に気が付けたよ。あの人が教えてくれたんだ。そう。私に勇気をくれたあの人は―――――――。

そして彼は今日も一人、教室で静かに窓の外を眺めていた。

(んん?おお、何やらいつになく元気が無いみたいだの)

(そうなのか?いつもの調子に見えるが?)

(はて?そう見えてしまうのかの?)

(まあ、あいつが何だかんだで俺達のこと頼ってきてくれるのは俺としても嬉しいんだけどさぁ。流石にちょっと気になっちまうぜ?)

(ほっほほ。そういうところがまだまだお主は青いというわけかの?)

彼の事を悪く言おうとする者はきっと何処にも居ないんだろうな、と思いながら俺は小さくため息を漏らしてしまう。まあ、その辺の事はよく分かっているつもりだったけれど、やっぱり直接聞くとそれなりに応えちゃうよな。

でも、俺は俺なりの戦い方をすると決めたんだ。その為に必要な事は何でもやっていくと。

俺は勇者の力を持っている訳じゃない。それでも俺は俺としてこの世界で生きると決めている。

「なぁ、あんたが魔王を倒したっていう噂の英雄様かい?」

「えっと、どちら様ですか?」

「おっと、これは失礼しました!私、この国の警備隊に所属していまして、貴方の噂を聞きつけた次第でありまして!」

「は、はあ。そうなんだ。別に俺はそんな大層な人間じゃあ無いですよ」

そう言うとその人は驚いた表情を見せると共に何故か少し残念そうにしてしまった。

「そ、そうだったんですねー!すみません。私てっきりこの国に英雄が現れたという噂が流れていたものだからてっきり――」

その先は言葉にならなかったようだ。どうやらこの国は余程に俺に対して期待を掛けてくれているらしい。

(そういや、最近俺の偽者が暴れ回ってるとか言ってたけどさ、これってもしかしなくてもそのせいなんだろうな)

(ま、まあそうじゃな。多分そういう奴らは全員この世界に居場所が無い奴らなんじゃろ。ま、まあ、お主に手を出すとはなかなか命知らずな連中よのう。お主なら一人で百人の盗賊を相手にしたとしても勝ってしまいそうじゃし)

(は、はっははは、さすがに俺もそれは難しいだろうよ)

とはいえだ。そういう連中にもいずれは決着をつけなければいけない時が来るだろう。

その時に俺は自分の為だけに力を振えば良いのだと思っていた。だが今は少し違う考えになっている気がする。

(いやさ、こういう言い方をするのもどうかとは思うんだけどさ。なんかさ、今、こうしているだけでも幸せだなーって感じる瞬間が増えてきてさ)

(ふふ、随分と素直になったのぉ)

(いやまあね、そりゃ俺も人の子よ?この世界に来れてラッキーとか思っていたのが今更になって申し訳ないとすら感じ始めてきたさ)

(ほほぉ?つまり今、お主はあの男に謝りたいと思ってしまったというわけじゃな?)

(そ、そうだよ。だって俺みたいな存在にこの国で幸せを感じる機会を与えてくれるってかなりすごいことなんじゃないかな?)

(なるほどのぉ、お主も意外と考えるようになったのぉ)

(まあね、俺は俺で結構色々と考えているつもりさ。ま、これからもこの国でやっていくつもりではあるからよろしく頼むわ)

(うむ。妾とてお主がいなくなるとこの国がどうなっていくのか心配じゃからの)

(そういえばお前はこの国を見守って来たんだよな)

(ま、そんなとこかの。もう何百年もこの世界を見ているからの。見慣れた世界ではあったがやはり退屈なものでな)

(なるほどねぇ、でも俺がこの国に来るまでの数百年の間に一体どれくらいの魔物が倒されていたのかが気になるな)

(なんじゃ、興味本位か?)

(そうだけど、何かまずいことでもあるの?)

(はあ、別に良いがな。そういえばお主も『鑑定』の固有能力は使える筈じゃろう?それを使えばいい)

(え?いや、そう言われてもな。使い方が分からねえ)

(ま、仕方あるまい。お主はまだそこまでのレベルに達しておらんからの)

(うっせぇよ。いつか絶対習得し尽くしてやる)

(まあよい、お主は焦らずゆっくりとやればいい。その内にお主だけの能力を見つけることが出来るかもしれんぞ)

(ああ、そうかもね)

(そうさの、例えば、お主の場合は――――)

「おい、ちょっとそこの女!聞こえてんのか!ってか無視してんじゃねぞゴラァ!!」

「うげっ!?ご、ごめんなさい。ちょっと考え事していたのよ。何かご用かしら?」

いきなり大声で怒鳴られてビックリしてしまいました。まさか、こんなに近くで大声出されるなんて思ってもいなかったもの。

「ごちゃごちゃんご、お前には関係ないんだよ!!いいからちょっと付いてこいって話だボケが!!」

うう~、怖いです。この人ちょっと苦手なタイプかもしれない。でも一応先輩さんだし、後で文句を言われるのも面倒なので仕方なく付いていく事にしましょう。

私はその男の人に手を引かれながら、人気の無い場所まで連れていかれてしまったのであります。

そして私の身体がその人の両腕でしっかりとホールドされてしまったその時でした。私達を取り囲む様に数十名の人間がその場に姿を現したのは。

(ひいぃ、やっぱり無理矢理は良くないですよね?!)

「おいおいおい、お前らが勝手に俺を仲間外れにしようとしてくるからこうなったんだぜ?分かってんだろうなあ?」

その人はニヤッと笑うとそのまま私の唇を奪ってきたのであった。私は抵抗する事も忘れ、その男の人を抱きしめる事しか出来なかった。そして私達の行為に怒り狂った周囲の人間は一斉にその人に対して襲い掛かってきたのであります。

「は、はははは、ばっかじゃないのかお前ら。俺はコイツらの上司なんだよ。それが分からないのかよ?ああ?」

(ふふん、これで妾の計画通りよの。ま、これも必要な犠牲と思えば良いかの)

(まあ、俺は俺なりにやっていくしかないもんな)

(ほっほっほ、そういうことじゃの)

(あ、ちなみにこの事は皆には内緒にしておけよ?)

(もちろんだとも、では早速行動に移すとするかの)

そうして俺とあいつは手を組んだ。いがみ合うよりは一緒に何かをやり遂げた方が良い。俺はもう逃げ出さないし、絶対に諦めるもんかという気持ちが強くなってきていた。

さあ、反撃開始だ。俺が望むものは俺の大事な人達に平和と安らぎを届けてくれる優しい居場所。それだけだ。それ以外のことは全て排除すると決めている。

「な、何の真似だ?」

「何って見て分かんないかなぁ?私達が貴方の仲間じゃない事を理解して貰おうと思ったのよ」

すると周りの連中は顔に笑みを浮かべながら近づいて来た。

く、クズどもめ。何なんだこいつらは?俺はこんな奴らに怯えていたっていうのか?

「ふざけやがって。お前ら俺を誰だと思っている?」

「さあ、知らないけど、ただ貴方がただの下品な男であるということだけは理解できるわね」

「ああっ?て、てめえ。このアマ、どうやら痛い目に会いたいらしいな。俺を舐めると後悔することになるぜ。おらぁ、覚悟しやがれ!」

俺は女の顔を掴んでその頬を思い切り引っぱたいた。

バシンと鈍い音が響くと同時にその女は口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちた。

だが、まだ生きているようだ。どうやら俺は力加減を間違えたらしい。

「はぁ、やれやれだぜ。これだから男は嫌いなのよ。これくらいのことでキレてしまうなんて情けないにも程があるわね。それに、貴方みたいな下劣な男が私に触ろうだなんて百億光年早すぎるわ」

そう言ってそいつも俺に襲いかかってくるのだった。

(ふっ、ちょろいもんだな。よし、今のうちにこの女をやっちまうか。ははは、やっぱり勇者ってすげえんだな。この国の王と同じような固有技能を持ってやがる。しかもレベルも俺より高いとかあり得ねえだろ)

俺の『魅了眼』によって奴は完全に操られてしまっていた。俺はそっとそいつに耳打ちをする。

「なあ、今なら簡単にここから脱出出来るんだがどうだい?俺と一緒にこの国から出て行かないか?君だってあんな汚い国にこれ以上は居たくないだろ?なんたって俺は君よりも強い。この国を出てもっと楽しいところに連れて行ってあげるよ」

(まあ、お主には無理じゃがな)

「ほ、ほんとうに?あ、ありがとう!あ、あなた本当に良い男なのね!」

(はい、かかったー!お主も大概チョロいな。この手の相手には気をつけろと前言ったじゃろ。まあ、そういう意味ではこの女は幸運な奴なんじゃろな)

「おいおいおい、随分と盛り上がってんじゃねえか。なあに、お楽しみ中悪いんだけどよ。こちとら忙しい身なわけよ。早く出てってくれねぇと困っちゃうんだが?」

その声がする方向にはさっき俺のことを殴りつけてきた奴の姿があった。その横にはあのいけ好かないイケメン野郎もいた。

だが俺の瞳は既にアイツの姿を映し出していない。何故なら既に俺の手は俺自身の力で動かせる様になっていたからだ。

(おいおいおい、ちょっとヤバイな。俺ってそんな強く殴って無かった筈だよな?でも確かに手応えが変だと思っていたんだけど。あ、そういやこいつ、『聖剣』とか持ってなかったっけ?それでガードされてたとかなのか?)

「おやおや、どうやら私の力が効かなかったみたいですね」

すると突然そいつの隣にいたイケメンが喋り始めた。どうやらそいつの能力によるもののようだった。おそらくは相手の心を読み取る能力なのだろう。

(うわ、なんかキモい。こいつもやべえんじゃね?とりあえずこいつは殺そう。もう色々と疲れて来たから一気にカタを付けさせてもらおうか)

「そうそう。さすが勇者サマだな。まあそんな事はどーでもいいんだよ。俺の質問だけ答えてくんない?」

そうして俺はゆっくりと歩み寄ると俺に向かって手を伸ばそうとしていた。

(さあて、俺にどんな攻撃を仕掛けてくるのかね?)

俺の予想では俺の顔面を掴みに来るはずだ。そして、そこから頭ごと握り潰しにかかるはず。

しかし俺の考えとは裏腹に奴が取った行動は予想外のものだった。

「う、ぐああああっ!!」

(なんじゃ、お主何をしておるんじゃ?)

(な、なんでもねぇ。気にしないでくれ)

(まあよい。それよりもさっさと始末せい)

(言われなくてもそうさせてもらうよ。こんなところで死ぬわけにはいかないからな)

俺は自分の手をジッと見つめながらその光景を見ていることしか出来なかった。

すると目の前には苦しむ姿がありありと映し出されているのである。

その男は胸を抑えたままその場に倒れ込んでしまった。

一体どうして、まさか――。

(ふふ、お主、ようやく気づいたか。そうじゃ、その者はお主の力を吸収してしまったのだ)

(お、お前。まさか、こうなる事を予測していたのか?)

そうして俺達の間に一瞬の沈黙が流れた後、俺はゆっくりと口を開いた。

「ふぅ、全く。とんだ無駄な時間を過ごしたもんだよ。お前が俺の固有能力を奪い取ってくれたお陰で俺のレベルも元通りになった。それに新しいスキルをも覚えることにも成功した」

「な、なにぃ!?き、貴様!いったい、何者だ!!」

俺の発した言葉に対して周囲の人間達は動揺していた。だがそれはその男の口から発せられるまでもなくその者達全員の表情を窺えば明らかであった。

(あちゃ~、やっぱりそう思われてるのよね~)

「さてと、どうしたもんかな。正直に言うべきか、それとも黙っているべきなのか。悩ましい問題だ。まあ、いいか、この際。全部教えといてやるよ」

「お前が何者かなんてのはどうでも良いことだ。ただ俺達が知りたいのはお前に何が起きたのかってことなんだけどね」

「はは、何が起きたんだって、それはこっちのセリフだっての。俺には俺なりの理由があってこの国に喧嘩を売りに来ただけだ」

俺はそう言ってその場から離れようとするが何故か身体の自由がきかなくなってしまっておりその場に倒れることしかできなかった。

「おい、どういうつもりだ?」

俺は身体の調子を確認しながら立ち上がりその男の方へと向き直る。すると男は笑いを堪えるような顔をしており、どうやら何か企んでいるらしかった。

そして次の瞬間、俺は信じられないものを目の当たりにしてしまう。

(これは、まずい。このままでは妾もマズイ事になるやもしれん)

(え、嘘だろ?俺に『魅了眼』を掛けてくれた張本人が一番慌てふためいているじゃねえか。俺の力を吸収できるのならば、俺自身に直接何かしらのダメージを与えることもできるというわけか)

俺は自分の力では敵わない相手だと察し即座に逃げ出すことにした。

すると案の定『神龍眼』が発動しているにもかかわらず俺の足取りは徐々に遅くなっていく。つまり俺の行動は制限を受けているということだろう。

(こりゃ思った以上に厄介な相手ってことかな。仕方がない、一先ずこいつを無力化してから対策を考えるしかないようだな。それにしても、あいつ、どうやってこんな芸当が出来ているんだ?俺の力は確かに奪われてしまっている筈なのに)

そこで俺は改めて周りにいる奴らを注意深く観察することにした。

(まあ、『神眼』が機能してくれているおかげで大体の実力差を把握することが出来るって感じかな)

そして、その結論としては俺が戦おうとしていた連中とは比べものにならないほどの実力を持っているということが分かってしまった。どうしたものかと考えている内に俺の背後にいたはずの男は俺の前に移動して来ており俺は思わず後ろを振り向いて確認をしてしまうほどだった。

だがそこにはやはり何もいなかった。

俺は急いで逃げようと試みるがどうやらその男の方が早かったようで俺の視界には既にそいつの腕が迫ってきていた。

(くそ、ここまでか)

俺の意識はそのまま闇の中に沈んで行くこととなった。

(ああ、畜生、なんなんだこの国は。俺はこれから世界を救う為に動こうと思っていたっていうのにどうしてこんな目にばかり会わなければならないんだよ)

「あ、起きた?良かった、無事みたいね。貴方は私の『加護魔法 癒しの守り』の効力によって傷一つ付いてはいないはずよ」

俺は咄嵯に状況を把握しようとしたが上手く頭が回らなかった。

(あれ?確か俺はあのイケメンに頭を掴まれてそのまま地面に叩きつけられてしまったはずだよな?)

俺の視界に入ってきた女の顔を見た限りではまだそんな年の頃合ではないように見えたが何故か大人っぽく見えてしまっていた。その容姿から推察するにまだ十代後半と言ったところだろうか。その女はとても綺麗で整った顔立ちをしておりスタイルだってそこら辺のモデルなんて軽く捻り潰してしまいそうなほど抜群に整っていた。そんな女の姿を見て俺は素直に可愛いと思ってしまい頬が緩みかけてしまうがすぐに思い直す。今はそうじゃないだろうと、何故なら目の前には明らかに怪しい集団がいるのだから。

そしてその集団の中でも中心に位置する位置に座っているのはこの国で最も恐れられている王と呼ばれる存在だった。

その男の名は、レイラ=リザルドと言う。

俺はその王と対面しながら自分の置かれている状況を再度把握することに必死だった。

(どうしてこの俺の事を王様なんかが直接相手にしてやがる?しかも他の奴らもみんな俺のことを睨んできているような気がするが気のせいなのか?そもそも俺は一体誰の相手をしているのか、それさえ分からないこの状況で一体どうしたら良いんだよ)

「ほう、お主が例の異世界からの迷い子か。ふっ、中々面白いではないか。さて、お主は自分のことを救世主とでも称しておったようじゃが。お主、何故そこまで強いのか、何故その程度の力でありながらこの私に楯突いて来るのかをきちんと説明してくれるのであろうな?」

「はい。分かりました」

その女から凄まじい威圧感が俺に襲いかかってくる。

(あーやばいやばい。完全にビビッちまってるな。とりあえず、相手の出方を窺うとするか)

「まず初めにお聞きします。俺の事を知っているのなら既に分かっているとは思うんですけど、一応自己紹介させて頂きます。俺は新堂誠と言いまして――」

それから俺は自分について詳しく説明すると次第に周囲の人間の反応は変わっていき最後には俺の言葉を全て信用するに至ったのだった。

(うわぁ、俺マジすげえ。よくもまあやる前にこんな事を思い付いたものだ)

俺の能力の説明が終わると俺達は皆一先ず城の中の一室へ移動することとなった。

(いやぁマジで良かったな。もしもこれでダメだと言われたら本当にどうしていいのか分からなくなっていた所だ。まあそれも当然といえば当然だろうな。なにせこの国の王様であるリザルトが俺の話を聞いている最中に突然倒れたりしたんだから。普通は何かあったと思うだろうしな。だが、それでも、俺は絶対にバレてはいけないんだ。なんとしてでもいい加減ここから脱出しないとな)

そして部屋を出ていく途中、俺は自分の中に秘められた力が急激に増大してきている事に気づく。

どうやら俺の『超幸運 』は未だに健在らしいがそれがどんな効果なのかまでは分かっていない状態だった。そして『神龍眼』が正常に作動していた時でさえ俺の能力は発動したばかりでは効果が実感出来ない状態となっていた。その為、今回の一件で俺は自分の能力が完全に回復したのか判断する事が出来ずにいたのである。

「ところで勇者様は今どちらに住んでおりましたのでしょうか?」

「は、はい?それはどういった意味でしょう」

「えっとですね。この世界で暮らしていく以上、やはりその辺りについても教えておかなければなりませんので」

「な、なるほど」

俺はその言葉を聞き心の中でガッツポーズをしていた。

正直、こんなに上手く話が進んでくれるとは思っても見なかった。まさかこの世界の連中がこんなにもチョロいとは完全に想定外である。俺は目の前に座って話をしている男を見ながらそんなことを考えていた。

(まあ俺の固有能力にかければ大概の人間はイチコロなんでこういう結果になるのは当たり前か)

だが流石に少し調子に乗りすぎてしまったのかその事が王にバレてしまい俺の心の中には若干の焦りが生まれ始めてしまっていた。

「い、いや、その、そう言えば、この世界に召喚されてどれくらい時間が経ってるのかな、とか、思ったりするわけですよ」

「ええと、それでしたら勇者様が目覚めてから一日は経過しています」

「え!?」

「勇者様には申し訳ないのですが我々と致しましても魔王の件が片付くまではこの国から一歩たりとも出してあげるわけにはいかないので、それまでは不自由をさせてしまうかも知れません」

「え!?え!?」

「しかし!必ず我々は勇者様のご希望に応えられるよう努力いたしたいと思いますので何卒宜しくお願いいたします」

俺はそんな事を言って深々と頭を下げているこの男の心を覗き込んで見た。

(こ、こいつは!!なんていう野郎だ!俺が何も知らない無知無能のクズ人間だと思わせているくせに、俺が本当はただの小娘に過ぎないと知りながらあえてそれを黙っているという事か。ふざけやがって、こんな事をされたらこっちだって下手なこと言えなくなるじゃないか。それにしても、どうするかな。このまま黙っていても良いんだが、俺が実は女だった場合面倒なことにもなりかねないだろうし。どうしようか)

「ま、まずは外に出して下さいよ!」

俺はそう言いながら部屋の窓から見える景色を眺めていた。

だがそこでまた別の人間が会話に割り込んできた。

俺に『神眼』のスキルを貸し与えてくれたあの騎士団長の女の人である。

「それはなりません、陛下の御身に何かあってからでは困りますからね」

俺は思わずその声の聞こえた方へ振り向いてしまう。すると俺の目線の先にはまたしてもとんでもない美女が存在していた。しかも、どうも先程の話を聞く限りは、あの団長の人は王の側近的な役職に就いているみたいだしな。ということはやはり俺にとってはかなり厄介な相手ということになる。

「な、何故ですか?別に僕に何か問題があるとは思えないんですけど」

「ええ、まあ貴方に関しては特に問題は無いように思いますが。それでも万が一が無いとは限らないのです。その事は貴方自身が一番よく分かっているのではありませんか?」

俺の頭の中はその瞬間に真っ白になってしまっていた。

(おい待てって!ちょっと冷静になれよ。今のってつまりどういうことだ?どうしてそんなことが分かるんだよ?も、もしかしてこの人、俺が嘘を付いていることが分かっちゃってたりするんじゃないのか?だってそうじゃ無きゃそんな言い方をしないもんな)

「い、いえ、僕は何も問題はありませんよ」

俺はなんとか取り繕うが目の前の団長の女の表情が明らかに怪しんでいるように見えた。

俺はこれ以上ボロを出さない為に再び外の様子を見る事にした。だが、俺はその景色を見て驚きの声をあげてしまう。

(あれ?どうしてだろう。あんなに広かった城の敷地からいつの間にか人の気配が全く感じられないんだが)

そしてそれと同時に俺はようやくある事を思い出す。(そうだ、俺は確かこの城の兵士達と戦って気絶させられたはずなのに。そいつらの姿を全然見かけないとは。いや、これはもしかするとこの人達が何かをしているんじゃないか?例えば、全員何処かに集めてしまったりとかね。でもそんな事が可能だろうか?仮にそれが出来るとしてもそんな事をする必要なんてどこにも無い筈だよな?)

俺はそう考えた途端に急にある考えが頭を過ってしまう。そしてその答えはすぐに出たのだった。

(ま、まさか!そ、そういうことなのか?この国のトップ達全員が既に洗脳済みだって言うのかよ?)

俺は改めて目の前の二人を見てみるとその目には確かな知性が宿っておりどう見ても演技をしてるようにはとても見えない。

(じゃあ、一体なんなんだ。俺が女じゃないってことを分かっていて、その上でこの二人はわざわざ俺をここに残しているのかよ)

「ああ、もう。どうしたら良いんだよ、これ」

俺は思わず口から独り言が溢れてしまう。

俺のこの一言を聞いた王と女は同時にクスリと笑うと、すぐに顔つきを変え俺に対して問いかけてきた。

「さてと、これでお互い色々と話しやすい状況となったと思うのだが」

「いやいやいやいや、そんな訳無いでしょ?あんたら完全に確信してやってんだろ。いいか、俺が何の力もない小娘だからといって舐め腐ったらどうなるか教えてやるよ」

俺が『覇気 』を発動させると二人の身体は一瞬ビクリと反応しその目は大きく開かれていった。

(さてと、俺の正体を知られたのなら仕方がないからな。悪いが少しだけ痛い目をみて貰うことにするか)

俺は『神龍眼』の力を解放させて、二人の心に俺が異世界から来たことをバラすぞと言う脅しをかけてみる。

俺は心の中でニヤリと笑いそのままじっと二人のことを見つめる。

しかし次の瞬間俺の頭に激痛が走り始めた。

(な、なんだ?一体どうしたっていうんだ。頭が、割れそうなくらい痛え)

俺の意識は徐々に遠のいて行き、俺はその場に膝をついてうずくまる。

(ま、まずい、どうにかしないと、このままだと確実にバレる)

「ふむ、なかなか良い威圧感を持っておるな。じゃが残念なことにまだ実力の差というものがよく分かっていないようではないか。なぁそう思うだろう?」

王はそう呟くと同時に剣を抜き放ち俺の方へと向かって来る。

(ヤバイなこりゃ。流石にこの状況で勝てる気がしねえ)

俺はすぐさまその場から退避しようとしたその時であった。突然後ろから誰かの気配を感じたので振り返ってみると、そこにはなんと団長の女の人が立っているではないか。

(はあ!?こ、こいつも俺に何かしようとしてきたのか!?)

俺は咄嵯のことで回避する事が出来ずにまともに彼女の攻撃を喰らってしまった。俺は衝撃によって後方へと吹き飛ばされると壁に叩きつけられる。俺は背中に激しい痛みを感じながらも必死に起き上がる。だがそこで俺は驚くべき光景を目の当たりにしてしまう。俺に向かって攻撃を行ったはずの団長の女の人は俺よりも遥か後方で立ち止まっていたのだ。まるで何事もなかったかのように俺を見下していた。

俺が疑問を抱いた時、俺は無意識のうちに『神龍眼』を開放していた事に気づいた。俺はその視界に入ったものを瞬時に解析することが出来るのでその女のステータスを確認することにした。

(ん?なになに?レベル320。は?マジで?何で俺より遥かに高い奴がこんなにもゴロゴロ居るんだよ!それにスキルだって『武王』『魔法戦士』『聖魔導師』『回復薬作成者』『結界生成術』『瞬脚』『魔力自動回復速度強化』とかめちゃくちゃ高え。もしかして俺が弱いだけでこれがこの世界では普通って事なのか?)

「おいおい、どうやら少しは楽しめそうで安心したがお前はそんなところで何をしておるか。少しは自分の置かれている立場を考えよ。それとも、もしかして何かしら理由があるという事かのう」

俺はその王の問いには何も答えずにとりあえずその場から離れようとする。

しかしそんな行動さえも彼女は予測出来ている様子である。

「逃げても無駄だぞ。『雷帝 』よ我が前にその姿を見せよ!」

俺は咄嵯にその言葉を聞いて動きを止める。

(まずいな、『雷帝』まで使うなんて本気すぎだろ)

「ふっふ、今さら抵抗しても無駄だ。どうせ貴様も我らの国のために戦う運命なのだ。潔く諦めるが良い」

王が不敵に笑みを浮かべながら言った後、俺は何かされると思い咄嵯に避けようとしたが何もされなかったのでホッとした。

(ふうー、何とかやり過ごすことに成功したみたいだけど、これからどうしたものかな。この人達には俺の本当の姿を見せるわけにはいかないし、やっぱり俺の正体を隠しながら逃げるしか無さそうだな。この人達の力を借りることは恐らく出来ないはずだしな。こうなったら最後の手段として、もう一度『魅了』を使うしか無さそうだな。この人達が本当に俺の事を知っていればの話だがな。とにかくやってみよう。この人達はおそらく俺の正体を知っているはずだろうしな。それにもし知らなかったらこの機会を利用すればこの国のトップ達を完全に掌握出来るかもしれないしな)

「うぐ、やべぇ。気持ちわりぃ」

「おい、どうやらまたあの症状が出ているようだな。よし、ここは一旦退散するぞ。おい、勇者よ!必ずまた会おうではないか。その時にでもゆっくりとその謎を暴かせてもらうとするか」

二人は俺に聞こえないように小さく呟き部屋から出て行った。

(あれ?どうやらいなくなるのかな?助かったの?良かった。取り敢えずあの女にまた捕まったら面倒だし、取り敢えずはどこかに身を隠しておくことにしよう。この城の中は絶対にダメだし。この国から出るしかないか。しかし、どうする?このままじゃあの国を抜け出す事は難しそうだしな。はあ、一体俺は何処に行けば良いのやら。俺にもっと力が有れば、こんな問題直ぐに解決できるのにな。ああ〜!!早く帰りたいな!そしてゲームをしたい。そうだ!もういっそのことあいつらのところに行ってしまえばいんじゃね?いやいやいや、いくら何でもそこまで行くのは危なすぎるか。そもそもどうやってここまで来たのかさえよく覚えてないしな。うん、もうしばらくはこの城に潜んでいるのが賢明だよな。はあ、どうしたら良いんだよ)

俺は深い溜息を吐いたあと、なんとか気を取り直して、この城にいる人間の心を再度読み取ってみる。どうもやはり殆どの人間は王と同じような洗脳状態に陥っているようだった。俺の心が読める人に関してはその人一人だけであったのが救いであったが、それ以外の人たちは全員心が完全に操られてしまっているようなのでこの城の中に居る人間に話を聞けそうな人物は居ないと言っても良いだろう。

そしてこの部屋に俺と団長の女だけになったと思ったらすぐに他の兵士達が集まって来て、団長の女が俺のことを拘束して連れ去ろうとする。

俺は慌てて抵抗しようとしたが、先程の戦いでダメージを受けていたので思うように動けなかった為そのまま連れていかれる。俺は『神龍眼』を使い周りの様子を見てみたがどうもこの城は外部からの出入りが不可能なように結界が張られているらしくてどうすることも出来なかった。なので俺は完全にお手上げ状態だった。

「くそ!俺は一体何処へ連れて行かれるんだ?」

「はあ、もういいから暴れるのは辞めてくれるかしら?大人しくしていてくれさえしたら危害は加えないから」

俺はその一言で完全にこの人のことを信じる事にしておとなしくする事にした。

(ま、仕方がないよな。このままじゃ俺は殺されるだろうし、俺には全く関係のない人たちではあるが流石に見捨てて自分一人で逃げ出すって言うのもどうかと思うしな。この人に助けてもらえないか交渉をしてみるのが最善策だと思うんだよな)

「は、はい、分かりました」

俺は仕方なく素直に従う事を決めると彼女の後について行き、とある部屋の前で止まる。

「ここよ。ちょっとここで待っていてくれる?私と少し話をしておかないといけないことがあるから」

「わ、分かりました」

「良い子だ」

「うぅ」

「あら?どうしたの?大丈夫よ」

俺は頭を撫でられたせいで、思わず顔が赤くなってしまい俯いてしまう。

そして俺は彼女に連れて来られて、何故かベッドに寝かされてしまう。

(あぁー、ヤバいヤバイヤバイ、何で?どうして?い、いや、落ち着け、まずはこの人からの情報を探ってからだ。きっとなにか分かる筈だ)

俺は自分に言い聞かせるようにしながらどうにか自分を奮い立たせて冷静になる。

(しかしこの状況はかなりマズイな。俺は今どうなるのか分からない状況でこの人と二人っきりの状況にある訳だからな。しかもこんな綺麗な人が目の前に居たら色々と抑えることが出来ないかもしれん。ま、まさか!これはこの人からの俺に対する拷問って事なのか?は!そうか、やっと合点がいったぞ。この人は初め俺を油断させておいて実は味方ではない事が分かってしまうというパターンなんだな。だから敢えてこの状況を作り出し、俺の精神を削っているんだろう。流石にいきなり攻撃してくるとは思えんがな。そう考えるとこの人はかなり恐ろしいな。流石は魔王軍の幹部といったところだろうか。ってかそう言えばあの時の戦闘も結局俺は最後まで何もする事が出来ないままやられていたしな。全く歯が立たなくて情けねえ)

俺は自分の弱さを実感しながらも、今はただ我慢を続ける。すると彼女は急に何かを思いついたのかこちらに視線を向ける。俺は何が来るのかと思い、咄嵯に身を固める。

だが、彼女は何事も無かったかのように立ち上がり俺の元を離れようとする。

(え?あ、あれ?何だ今の?)

「あ、そうだ。あなたの服汚れちゃったでしょ?これあげる。あ、着替えもここに用意しておくわ。私は暫く出かけてくるから適当に過ごしてくれても構わないわ」

そう言って俺にタオルと服を手渡すと部屋から出て行った。

「ふ、ふふふ、くくくく、くはははは!ははははは!やったぞ!やってやったぞ!俺は遂に解放されたぞ!この瞬間の為にどれだけの時間を掛けたことか。この日を迎えるためにどれほどの準備を整えてきた事か。ついにこの時が来た!この国を手に入れる為に!そしてこの国を利用して俺は世界を手に入れられる!ふふ、これでこの世界は私のものだ!あの勇者が邪魔をするならば始末するだけだ。さあ、これから忙しくなるぞ。だが、その前にコイツの事を済ませてしまおう。あの女はしばらく戻らないみたいだしな。しかしまさかこの俺様があんな女を相手にする事になるなんてな。だがまあいい。どうせ殺すつもりの女だしな。さっさと終わらせるとしよう」

その男は部屋の扉に手をかける。

「な!?鍵をかけられているだと!」「残念だがお前の企みも此処までだ。悪いがこの国は頂くぜ」

「誰だお前は!!」

その男は咄嵯に声がした方を振り向いたが既にその時には遅かった。

俺は『瞬脚』と『雷速移動』を使いその男の懐に飛び込む。

俺はまずその男の首根っこを掴む。

「『瞬動』『雷光脚』」

そしてそのまま力を込めて握りつぶす!

「ぎゃあー!」

「ふん、俺の事を知らないお前が馬鹿だったな」

そして今度はその死体をそのままにして急いで部屋から飛び出して行く。俺は念のために『龍眼』で城の人間全てを確認してみるが全員操られているだけのようであった。しかし中には王と同じ『龍眼』持ちがいたので『魅了』の効きが悪くなってきてしまっているようだったが、それは時間の問題だろうと俺は判断する。だが取り敢えずは一安心である。俺はこの国の人達を解放しなければならないが、俺の正体は出来る限り隠しておきたいので俺自身の力で解放するしかないと思っている。だが、その為にはどうしてもこの国をある程度支配する事が出来る立場が必要だと思っていた。俺の本当の姿を見せたくないと言う事もあるが、単純にこの国を放置していたら大変なことになる可能性が高いので何とかするしかない。だが、俺は勇者では無いためその力は大したことが無い。なので俺には俺を補助する人間が必要になってくるのだが、それもこの国から調達しなければ話にならないのだ。俺を裏切らず、俺の手足となり、どんな事にも従う人間が必要不可欠なのだ。そんな人材が都合良く見つかるとは思えないが、一応探し回って見ることにはする。取り敢えず俺は『隠密行動』を使い姿を見えなくした上でその部屋に入って行く。するとその部屋にはまだ俺にタオルを渡してくれた女性がまだそこに居たのに驚いた。

(な!な、な!どうしてこの人が?俺を油断させるための作戦なのか?それとも本当にこの人の趣味なの?でもあの人もこの人に手を出せば殺すって言っていたからな。一体どうなっているんだ?)

俺は動揺を隠すことが出来ずにその人のことを見るが、彼女はその視線に気づいていないのか本棚の方に視線を向けていて俺の方を見ようとはしない。

どうやら俺が入って来た事に気が付いてはいるようだが、俺がどういう行動を取れば良いのか迷っている間に、どうやら俺に背をむけて本を読もうとしているようだった。

(一体どうしたら良いんだ。ここはやはり話しかけるべきなのか?でもこの人を疑うのはやっぱりちょっと躊躇ってしまうんだよな)

俺がそう思い悩んでいると彼女が突然こちらを向いて俺と目が合ってしまった。

(しまった!!見つかった!)

「あ、貴女ももしか、して?その目、その髪の色は」

「ち、違いますよ!わ、わたしは普通の女の子です!決してそんな格好いいものじゃないですよ」

俺の言葉に一瞬戸惑ったような顔をしたが、直ぐに冷静な顔つきに戻って俺に質問を投げかけてきた。「な、なにをしているの?こんなところで。早く部屋に戻った方が良いわ。ここの部屋の鍵は私が預かっているから貴方は入れない筈だけれど、一体どうしたのかしら?」

「そ、それは、あのですね。私そのですね。私実はあのそのあの。いやぁぁぁぁ!!!」

そう叫んで俺は全力でその場から逃げ出す。

俺は逃げて逃げた挙句に気が付いたら城の入り口まで戻って来ていた。

しかしそこには先程までの変態軍団はいなくなっていた。俺はその光景を見て少し寂しい気持ちになったが今はそれよりも先にやる事があったのを思い出し、すぐに城に向かって駆け出した。しかし何故か城の中に入れなかった。俺は必死に入口の所で入ろうとするが、何故か入ることが出来ない。

(なんなんだこれは?まさかこれがあの女のスキルの影響か?く、なら俺もあの力を使おう)

「『神眼』」

俺は『龍眼』の力でこの城の構造を確認してみる。するとこの城の周りに巨大な魔法陣のようなものが浮かび上がっている事を知る。俺はそれに魔力を通して破壊しようとしたが、どうも俺では壊せないようになっていたので仕方なく一旦引き下がることにした。

しかしこのまま放っておくとこの国全体が乗っ取られてしまう可能性が高くなってきたのでどうにかしたいところだが、現状俺はあの女の人以外とはまともに話が通じない状態だ。

だが俺の頭の中には一つ名案が浮かんでいた。だがその方法はとても恥ずかしいものだ。俺はその考えを実行しようと思い、自分の部屋に戻り鏡の前に立って自分の服装を確認する。そして一度深呼吸をして覚悟を決める。

そして俺は大きく息を吸い込みながら『覇王の威圧』を放つ準備をする。この方法は非常にシンプルだ。

まず最初に俺に敵対する意思を持っている人間の『覇王の意思』を俺に集めさせるように仕向けて俺に対する恐怖心を強制的に植え付けるという方法だ。これにより相手はその瞬間だけは思考能力が低下して俺に服従する事が可能になるのだ。まあ、当然その間俺は『精神干渉』で相手に暗示を掛けた後に催眠術の様な形で命令を出す形になるが。まあ仕方が無いだろう。これはこれでリスクが高いが俺のプライドの為にも頑張る必要があるだろう。

俺はそう決意してから『覇王の精神世界』を発動する。すると何故か目の前の景色は先程の部屋のものに切り替わる。そしてそこで俺に敵意を向ける存在を見つけると一気にその力を解き放つ。俺は相手の力が強くなる瞬間を狙い、一気にその感情を爆発させ、『覇王の意思』をぶつける!その瞬間、この世界の支配者となった俺が目の前に現れた。

「くっくく、くくくくくく、ひゃーっはっはっはっはっは!俺がお前達ごときに屈服するとでも思っていたのか!俺に敵対しようとした時点でもう負けは確定しているんだよ!」

「な、何が起きたっていうの?」

「くくく、残念だったな。この国の王はこの俺だ!今この国の支配権は全て俺の手の中にある!逆らう事は許さんぞ?まあいい、取り敢えず貴様は今俺がこの手で始末する。その後他の奴らも殺し尽くしてくれる。お前達は俺の道具として死ぬまで俺の為だけに働いてもらうぞ!それがお前達の幸せだからな!」

「あ、あ、ああ」

「どうした?震えて声も出ないか。ならばそのまま死んでいくが良い。俺の力を思い知ると良い」

俺は手に持っていた剣を振り上げるとその男に止めを刺すために振り下ろす。

しかしその時横から誰かが割って入ってきたので攻撃を止める事を余儀なくされる。

「やめなさい!」

「な、お前、どうして」

「貴方はもう用済みよ。大人しく消えてもらいましょう」

「何を言っている。貴様のその力はどう考えてもおかしいだろう。どうなっているんだそれは」

俺がそういうと彼女は悲しそうな表情を浮かべた。

「私のことはもういいわ。でもね、貴方はもう終わりなの」

そして次の言葉を聞いた時に俺は理解してしまった。

(く、遅かったか。この俺が、ここまで来て捕まるのか?)

俺は彼女の最後の言葉を最後まで聞く前にこの部屋から抜け出そうと試みたが既に遅かったようだ。その瞬間俺の意識が薄れていく感覚に襲われる。そしてその時には既に何も考えられなくなってしまっていた。

「ふふ、さよなら。勇者様」

俺は最後にそんな声を聞いて意識を失った。

〜〜〜〜〜 目が覚めるとそこはベッドの上で寝かせられていた。

しかし体が上手く動かない。どうなっているんだろうと思っているとお姉さんがやってきた。

しかし彼女はどこか様子がおかしく、その瞳は真っ赤に染まっていてとても危険な雰囲気を感じ取った。

彼女はゆっくりとこちらに歩いて来るが俺は全く動けず、逃げる事も出来なかった。そしてとうとう俺の元に辿り着くとその赤い眼光でこちらを見つめて話しかけてくるが、その内容からどうも記憶を覗かれたのが分かった。

そして俺が全てを話すと何故か彼女は泣き出してしまい慰めることになったが、それでも落ち着かないようで結局抱きしめることになってしまうが何故か俺は彼女にされるがままになっていた。だが、流石にずっとそうしている訳にも行かずになんとかして離れようとしたが全く動けない。まるで見えない何かに邪魔をされているようであった。だがよく観察するとそれは彼女の体の表面に浮かび上がった鱗が原因である事が分かり、更に詳しく調べるとその能力は俺と殆ど同じ物であった。つまりは彼女もまた俺と同様に何らかのスキルによる影響を受けているということなのだが、それにしては何の反応も無いので一体何故なのだろうかと疑問に思ったがその瞬間俺は突然謎の衝動に駆られて気がつけば彼女のことを押し倒していた。そしてそれから先はお互いに我を忘れてしまったのか本能のまま行為を続けていた。

途中からお互いの記憶が無くなってしまい気がつくといつの間にか終わっていたのだ。

俺は完全にその事を思い出すことが出来ないため取り敢えず今は深く考えないことにして、これからの事を考えなければいけない。

「さて、どうしようかな。取り敢えずはあの人に話を聞くのが一番だと思うんだけどな。だけど俺って一応指名手配されてんだよね?だから普通に城に入るわけにはいかないんだよね。じゃあどうやって中に入れば良いんだろ。うーん、でもここでじっとしても意味無いんだから行くしかないよな。どうせ他に手段もないし行ってみるか」

という結論に落ち着いた俺はお姉さんの元へと向かう事にした。しかしそこにはもう彼女が居なくて、一体どこに行ったのか分からないが俺は取り敢えず探し回ってみることにした。暫く探すと彼女は直ぐに見つかったがその姿は今までとは大分違っていた。そして何故か俺の顔を見ると突然走り出し、その手は俺の腕を掴み取る。しかしそれに抵抗することは出来なかった。そして何故か俺は彼女の事を襲わずにただ見守るだけの状態になっている。俺はどうすれば良いのか分からずに戸惑っていたが彼女は俺のことを抱き寄せて頭を撫でながら優しい口調で語りかけてくる。「いいこいいこ、私が来たからもう大丈夫よ。怖かったでしょ?ごめんね?私も最初は気が動転していてこんな風にしかできなかったけど、もう落ち着いているから平気よ?でもまだちょっと怖いかもしれないわ。もう少しだけこのままでいさせてね?」そんな言葉をかけられて俺は安心感から眠ってしまったようだ。

そして次に目を覚ます頃には先程までの出来事を俺はすっかり忘れてしまっていた。

〜〜〜

「ああ、良かった!本当に良かったです!!ご無事でなによりです!それで、そのぉ、私はその貴方様に酷い事をしなかったのでしょうか?その、貴方に迷惑をかけたりとかはしていなかったのですか?」

俺は彼女の言葉で思い出したかのように今の現状を把握するが正直に言うとそれどころではなかった。

(そうだ!あの女は!?一体どこに?というかこの女の人も何者なんだ?もしかしてこの城の住人全員こうなのか?だとしたら厄介過ぎるぞ!くそっ!早く見つけないと)

俺は必死に考えるがどうしても答えが出ないので取り敢えず話をすることにした。そして俺のことを全て話すことにした。

そして俺の話しが終わるとその女の人は少しの間放心状態だった。

だが次の瞬間いきなり抱きついてきてきたかと思うと、今度は涙を流し始めたのだ。

「ああ、神様。なんという事なのでしょう。私が貴方様を殺めるなんて。なんという罪を犯してしまったのでしょう。申し訳御座いません。貴方をこの手で汚してしまうなど、あってはならぬ事でございます。どうか、この愚かなる私の罪をお許しください。そして貴方が無事でいてくれたことを心より嬉しく思います」

「えっと、いや、あの、あのですね」

「いえ、言い訳はいりませせん。貴方を騙そうとするような輩は全て排除しますので、安心してください」

「は、はぁ」

なんか色々と誤解を受けているような感じだったので、俺は何とか事情を説明して納得して貰おうと思い先程の行動に至ったまでの過程を説明した。

そしてそれを説明していく中で次第に彼女の目つきが変わり、その視線は段々冷たいものになってくる。俺はその様子を見て冷や汗をかきながら必死で弁解を試みるが結局彼女の態度が和らぐことは無かった。しかし俺はどうにか誤解を解こうとするが一向に聞いてくれる様子は無い。

どうも俺の言葉を信じてくれていないみたいだ。そこで俺の実力を示すためにも実際に『龍神』の力を使うと彼女の表情に変化が訪れる。

しかし何故かそこで急に俺の頭に激痛が走った。どうやらとんでもない量の魔力を使ったのが原因で俺の精神が崩壊しかけているらしい。その痛みに耐えていると俺の様子を見たその女性は急いで回復魔法をかけてくれたのだった。

「ご主人様、ご気分は如何ですか?」

「ああ、だいぶ良くなった。ありがとう。ところで、どうして君は俺に対して敬語を使っているんだ?」

「それは当然でございましょう。ご主人様は私の大切な方でありこの身命を賭けてでも守り抜くと決めた方。そのような方にどうして不遜な態度をとることが出来ましょう。そもそも私のこの口調はこの方の喋り方が元となっているのですよ。それにこの国の王族達はご主人様の命を狙っているのです。それならば私のこの口調は必然とも言えるでしょう。むしろご主人様はどうして私を責めようとしないのでしょうか?普通なら殺されても仕方の無いことですが」

「は?そんなの俺が君を助けようとした理由と同じだよ。俺が君を助けた理由は君を守りたかったからだ。それに別に今更口調を変える必要も無いだろう?そのままでいいさ」

俺がそういうと彼女は俺に近付いてきて突然唇を重ね合わせたかと思うとそのまま俺を優しくベッドに押し倒した。

俺が抵抗しようとするが、何故か全く体に力が入らない上に頭の中では警告が鳴り響いているが俺の意思に反して体は勝手に反応していた。そして俺がされるがままの状態で何も出来ずにいると突然彼女は俺から離れて俺の横に腰を下ろす。

「さあ、もうお休み下さいませ。ここは安全ですので、ゆっくりお眠りになられてください。目が覚めた時には全て終わっていますので。それと貴方のその力は余り乱用なさらないほうが宜しいと思いますよ。私の能力はあくまで補助ですのでその分貴方への負担が大きくなってしまっているはず。無理をして使い続けていれば近いうちに精神に異常をきたして暴走を始めてしまいますよ」

そう言ってその女性が俺の手を掴んできたかと思ったら、まるで俺に吸い込まれるように消えていったので、俺はそのまま眠ることにして深い眠りについたのであった。

「おはようございます」

俺は彼女のその声で起こされる。だがいつものようにすぐに起き上がることが出来なかった。

しかし何故か体の調子が凄く良いことに気づく。

「どうやら無事に目覚めることが出来たようでなによりでした。あの時はまだ貴方が完全には意識を取り戻していなかったので、私は不安に思っていたんです。しかしもう心配する必要も無いようですね。貴方のその顔を見て確信しました。きっと私ではどうする事も出来なかった筈。貴方が無事で良かったです。そしてこれからもずっと貴方の側にいて守らせていただきたいと思っております。貴方にはその資格がある。だからこれからもよろしくお願いいたしますね」

そう言って微笑みかける彼女を見て俺は顔が赤くなっていくのを感じた。しかし何故だろうか。不思議と悪い気はしなかった。それからしばらくすると彼女は立ち上がって部屋から出て行ってしまう。だが、何故か俺は彼女が出て行く寸前にこちらを振り向いた気がして思わず声をかける。

「あ、あの!」すると彼女はこちらを振り返って返事をした。俺はその事に驚いて固まってしまった。だが彼女は直ぐに向き直って部屋の外に出ていってしまった。それからしばらくして俺は漸く我に返ると自分が恥ずかしくてたまらなくなる。何故だろうか?今までに一度も女性に対してこんな感情を抱くことは一度も無かったはずだ。なのに俺はこの女性のことを考えただけで、まるで体が火照ってくるのだ。

俺は一体何を考えているんだ!落ち着け!冷静になれ!これは何かの間違いに違いない! 取り敢えず今はあの女を探し出す事が先決なのだ! あの時の事を思い返す度に心臓が激しく脈打つのを感じ、そして俺の中の俺でない何かも暴れ始める。俺はその衝動に突き動かされるように、あの女の人を探すために城の中を走り回った。だがどれだけ探してもその影すら見当たらなくて、とうとう諦めかけたその時に俺はある一つの仮説を立てた。俺はこの世界に来る前に『勇者』として召喚されているわけだから俺には他の人間にはない特殊な力が与えられているのではないのかと考えたのだ。俺は自分の体に流れる魔力を操り、そして俺の中にあるもう一つの魂を探る。俺は今まで魔力を感知する練習はしていなかったがそれでもなんとなく分かった。

やはりあった。だがその数はかなり少ない。そして恐らくこれじゃあ、殆ど使えない。だが、俺に出来ることは一つだけ見つかったようだ。それは『気配探知』である。これでなんとかなるかも知れないと希望を持った。取り敢えずまずはその魔力をこの王城の中に張り巡らせていく事にしよう。俺が使えるようになる為の特訓は、その後からでいい。

俺は集中するために深呼吸を何度も繰り返してからその作業を少しずつ開始した。そして暫くの間、俺が必死でやっているにも関わらずその作業は思うように進まなかった。というのも俺が集中し過ぎて周りの音が入ってこなくなっていたからだと思う。

そして暫く時間が経った頃、俺がようやく一つ目の魔力を使い切った所で今度は急にあることが気になり始めた。それは先程のあの女のことである。もし仮に先程考えていたようにあの人があの男を殺めていたとするならば一体何処でどのようにして殺める事になったのか。そしてその殺し方についてあの人はどう思っているのであろうか。もしかして既に心が壊れてしまっているんじゃないのか。

だとしたら俺はあの人の心を治してあげることが出来るのだろうか。

俺がそんな事を考えて悶々としながら、ひたすらに訓練を続けていると、ふと俺の中でとある考えが生まれた。それは俺の持つチート的なスキルをもっと上手く扱えるようにするという事だ。そしてそれと同時に俺の考えが正しければ、俺の力は他の人間のものよりも強力であり俺の想像以上にこの世界を救える可能性があるのでは無いかという考えに至る。

俺の予想が正しければ、今のこの世界がおかしいのでは無く、この世界の状態こそが普通で本来の世界の形であると考えられる。そして、もしもこの世界の理がこの世界の人間のものであるならその状態に戻す事が出来れば元に戻せるのではないか。という事だ。まあ正直俺もこの考え方は正しいかどうかは自信が無い。しかし現状考えられる手段はそれしかないのも事実であり、それを行うのは恐らくこの世界で俺しか居ないだろう。だからこそやる価値は十分にありそうである。俺がこの世界にやって来てもうすぐ1年が経とうとしているが、俺にとっては未だに異世界に来たという事実を受け入れきれてはいない。それに俺は今でもまだ元の世界に戻れる方法は無いかと考えているし実際に帰ろうとしている。ただ最近少し思うところもあって、俺がこの世界の人たちに出来る事は無いのかと考えるようになってきたのも事実だ。それに元々俺は誰かの為に何かをしてあげたいと心の底では願っていた筈だ。今俺がやるべきなのは何なのかを考えたときにそれが自然と浮かんできた。

それから俺が必死になって努力をしている内に日はすっかりと暮れてしまっていたが遂に俺は『気配察知』のコツを掴むことに成功した。後は『波動探知』だけだ。『気配察知』で得た情報を頼りに俺の持っている能力を総動員させる。そうすると不思議な事に段々と城の構造が分かってきたのだ。その感覚に驚きつつもその情報をしっかりと頭に叩き込んでから更にその精度を高めようと試みるが流石に一日でそこまで到達するのは難しかったので、今日はこれまでにしておくことにした。

次の日から毎日俺は城を駆けずり回って、城にいる人間の動きや俺に対する悪意を持っている者の正確な位置を確かめていった。しかし残念ながら俺が欲しいと思っていたような能力では無いみたいで、結局使えなかったのだがそれでも俺は何とかこの国の人間と仲良くなっていこうと考えて、城の中で積極的に行動する。

だが俺の努力は中々実を結ぶことなく俺の行動は次第に城内では不審な者として扱われているのを俺は感じ取るようになっていた。俺が何をしたのかと尋ねられてはぐらかそうとすると皆が冷たい目線を向けてくるのだ。しかもその視線は明らかに俺が邪魔だと思っているように感じられるものであったので余計に落ち着かない気持ちになる。そこで俺は一旦引き返すことにした。そして改めてあの女の人に色んな話を聞いてみたのだが、どうやら彼女の名前はクレアと言ってあの女はこの国で王族に連なる貴族の出身だったそうだが、ある日突然姿を消したらしいとの事である。そして、彼女の容姿はとても美しくて性格も良いらしく、それでいて誰からも慕われる存在でもあったとか。つまりはそういうことだろう。

「えっ?私がご主人様の婚約者ですか?でも、どうして私みたいな人間が選ばれたんですかね?」

と彼女は言うので俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。だって彼女はあまりにも美人過ぎたからさ。

でも俺のそんな態度を気にせずに彼女は言葉を続ける。

「そうですよね、私ってば、見た目だけが唯一の長所なんです。私より優れた容姿の女性は沢山いらっしゃいますから。きっと私のような人間を娶るなんて、ご主人様もきっと退屈でしょうね」

俺がそれを慌てて否定しようとしたところで彼女は俺をジッと見つめてこう言った。

「ご心配なさらないで下さい。別に私に気を使って無理にそう言って下さらなくても結構ですから。私の本性は貴方が一番よく知っていると思いますし、そもそも私は奴隷の身ですから。ですが、もし、万が一貴方が私を選んでくださるというのであれば私はどんなに辛い思いをしたとしても構いませんよ。貴方の為ならば喜んで全てを擲ちましょう。そして貴方の側を離れる事は死んでも有り得無い事です。私は貴方と共に生きる道を選んだのだから。ですがもし仮に他の選択肢が残されていたとしても私には貴方以外考えられないので御安心を。例え私が死んだとしてもその魂は永久に貴方のもの。それだけはどうか忘れずに」

俺の耳元に彼女の口がそっと近付き、彼女の唇が小さく動いた瞬間に俺は心臓の鼓動が一気に高鳴るのを感じ、全身の毛が逆立つ様な感覚に襲われると、気がついた時には俺は意識を失ってしまったのであった。

俺が意識を取り戻すとそこには彼女が俺を見下ろしていて微笑んでいたので思わず見惚れてしまう。

しかしそんな風に呆けていた俺を現実に引き戻すかのように、いきなり部屋の扉が開かれてしまいそこに立っていた人物がこちらに向かって歩いて来た。

「おい!どういうことだこれは!説明しろ!」

そしてその男は彼女に怒鳴りつける。それに対して俺を庇うように前に出た彼女は落ち着いた様子で淡々と喋った。

「お待ちください、陛下。今はそのようなことをしている場合ではありませんでしたので放置してしまいましたが、もう時間が無いのです。この方がこの国を救う救世主となる可能性を持つ方であることは既に理解しています。この方にならこの国を預けても構わないと。そしてその方は間違いなくその素質を備えています。今はとにかく時間がありませんので詳しい話は追って行わせていただきますが、今は急いでその方をここから出して下さい。その方は必ずこの国の運命を変えてみせてくれると信じておりますので。お願いいたします、早くその方を解放して差し上げて下さい。貴方も、宜しいですね?」

彼女は有無を言わさない雰囲気で男に話しかけるとそのまま部屋から出て行こうとした。だが俺を逃がそうとしない男が、彼女を呼び止めようとすると俺はそれに気付いて二人を引き止めた。

「待ってくれ。あんた達は俺を助けてくれた恩人だ。それに俺はこんなところに残りたくは無い。だから俺はここを出る事にする。俺はこの世界を救おうと決意を固めたんだ。その前に死ぬわけにはいかないんだよ。それに、このままこの世界にいたらいずれ俺は殺されそうな気がするからな。悪いけど俺は行くぞ。助けてくれて本当に感謝している。ありがとう」

俺は素直に感謝の言葉を伝えると俺は彼女とその連れの男の静止を振り切って王城を飛び出した。そして俺はそれから数日を掛けて街に出るとそこで自分の身を隠すように細心の注意を払って行動することにした。そして暫くすると王都の中で比較的治安の良いと言われている地区に辿り着くとそこで俺はようやく肩の力を抜いて休憩を取る事にしたのである。それから更に数日後、俺が再び街の散策に出掛けるために王城を抜け出すとその足で街中にある武器屋に入ったのだ。そこで剣を買う為である。

というのもこれから先、魔王と戦う為の準備をする為だ。俺は先日の騒動の際にクレアという女性に言われた通りにこの世界の人達の力を借りて魔王に対抗する為には力が必要なのだという考えに至ったのだ。その為には当然俺一人の力で出来ることは限られるし何よりも圧倒的なまでの時間が足りないのだ。そこでまずはこの世界に召喚されてすぐに手に入れたあの勇者専用装備一式の中から特に強力だと思われたものを数点回収しに行ったのだがどうやらそれは既に無くなっていたらしく、俺の持っているアイテムの中に代わりとなり得るものは見つからなかった。

そこで俺は新たに剣を買いに行く事を決めたのである。俺に合うサイズのものを見つけるまでにそれなりに苦労したのだが、なんとか手にいれる事に成功した俺は早速それを装備すると意気揚々と再び王城に戻ってきた。それからはいつものように城中を走り回っていた。だが俺がそんな風にして動き回っている間にも着実に状況は変化していったのだ。

そうして日々が過ぎていく内に段々と状況が変わっていく。

最初は誰も居ない筈の場所から突然物音が聞こえてきたので、警戒しながらもそちらの方へと進んでいく。

(なあ、主よ、こいつ、何か様子がおかしいと思わぬか?)

そして俺が目にしたのは倒れている人間の死体で、それも俺にとっては見覚えのある人間だったのだ。

しかしそれを見た俺は驚くばかりで思考が上手くまとまらずにその場に立ち尽くしていたのだが、俺が何も出来なかったこの僅かな時間にその人間は息絶えてしまい完全に死んでしまった。俺の視界は涙で歪んでしまい、やがて溢れ出した雫は俺の頬を伝って地面に滴っていく。その俺の姿をただ見ていただけの存在はまるで嘲笑うかの様に俺のことを見つめてくるのだ。俺はその視線に我慢出来ずにその場を逃げ出す様に離れると、その途中でも同じような事が繰り返されていき、遂に俺はその人間と顔を合わせなくなってしまった。

俺にはまだ覚悟が決まっていないのだ。

俺にはまだ、人を殺せるだけの勇気が無かったのだ。

そんな時に俺はある少女に出会う事になる。そしてその子との出会いは俺の心境に大きな転機をもたらす事になり、その結果俺は自分の中で抱えていた大きな迷いに決着をつける事が出来るようになったのである。

「ねえ君、ちょっと良いかな?もしかして迷子なのかな?良かったらお姉さんが一緒について行ってあげようか?」

そう俺に声をかけてきたその女性は少し背が高くて、長い金色の髪をした美人で優しげな雰囲気をしていた。だが彼女はどこか悲しそうに見えたので俺は何故か分からないがこの人の為に何かをしてあげたいと思えるようになってしまっていて俺はこの人に一緒についてきてもらうことに決めてその人が行きたい場所へと向かうことにしたのであった。

その女性が俺にしてくれたのは簡単な自己紹介だけだった。そして俺の名前は佐藤海斗だと答えると彼女も俺の名前を教えてくれる。それから彼女は自分の事をクレアと名乗って、俺は彼女を信頼して色々な話をしながら目的地を目指すことにする。そしてしばらく歩いていると目の前の景色に変化が起き始めてきて俺達以外の人間が現れたので俺はクレアに一言声を掛けてから彼女の傍を離れたのだ。すると直ぐに魔物と遭遇することになった。そして俺はその相手を一瞬で切り刻むと今度は背後から襲われたので、素早く回避しながら攻撃を放つと相手は絶命したようでその死体が転がっている。どうやら今のが最後の一体だったようだ。そこで俺は先程殺した奴の持っていた戦利品を回収させてもらおうとその遺体のところまで戻ると俺に気が付いたのかその男が突然起き上がって襲ってきたので俺はそれを返り討ちにすると、その勢いで相手の腕を切断してしまう。そこで俺は気付く、自分が無意識に敵の腕を斬り落として、それを拾い集めようとしていた事に、そして、今になってその男の正体に気が付く。

「うわぁ!!お前もしかして魔王の幹部の一人じゃねーよな!?」

そう、それは以前俺を殺そうとしていた人間で、名前は確か、ザインとか言う名前の男だったはずだ。そして、その男の瞳が赤くなったと思った途端にそいつの体が変化し始めた。

「おいおい、嘘だろ。こんなタイミングで覚醒しなくてもいいのによ。くそ、こうなったからには絶対に逃がす訳にはいかなくなったな。でもあいつをどうにかするのは簡単じゃないんだよな。だって俺って弱いし、仕方が無いから逃げるとしますかね!」

そして、俺はクレアを担ぎながら逃げ回る羽目になった。

ザコ相手に必死に走っても体力を消耗するだけだと言うのに、俺はただの根性無しでしかなくて結局そのザコイに追い詰められる。そして俺は絶体絶命のピンチに陥ったところで、俺は彼女のお陰で死を免れたばかりか、結果的にその魔王幹部を倒すことに成功出来たので感謝はしているが正直俺はもう二度と会いたくないと思ってしまっているくらいである。だがその後、俺は彼女の力を借りる為に彼女に会いに行き、そこで彼女は俺の頼みを聞き入れて力を貸すことを快く了承してくれた。俺は彼女に礼を言うと、俺はそのまま魔王と戦うために準備をする事にしたのであった。

(主のその優しさには心底感服するばかりだがのぅ。それで、お主な、このまま放っておくと確実に殺されるぞい)

俺はその言葉を聞いて慌てて走り出すと俺は急いで自分の家に帰って自分の身を守る準備を整えると直ぐに城に戻り再び走り回って時間を稼ごうとしたのだ。だが俺がいくら探しても彼女は見つからず、それならと思い付いて俺はこの国にある図書館へ向かうとそこで資料を探すことにしたのである。そしてそこに書かれていた内容によると俺達はもう直ぐこの世界を救う為の最終試練に挑むことになるらしい。

その日、王城の玉座の間において俺達は王の御前で最終の謁見を行っていた。俺達の目の前には国王と宰相、それと数名の貴族の連中が立っており、俺達に期待の眼差しを向ける者や無様な姿に成り果てたかつての勇者に軽蔑の念を寄せる者達がいた。

俺はそんな彼らの事を無視をしているとクレアはそんな彼らに対して嫌味たっぷりの笑みを向けていてそれがかなり恐かったが、俺は敢えて知らない振りをしてやり過ごすことにした。すると俺のそんな態度が気に食わなかったのか貴族の中でも偉そうな男に怒鳴られてしまった。俺は面倒くさいなとは思ったが流石にここで変に揉めたくもなかったので仕方なく頭を下げる事にすると、クレアに肘で突かれて俺達はお互いに笑い合うと場を誤魔化そうとする。しかしそんな事でこの場を誤魔化せたりしないのが現実というもので案の定俺はその場で叱られてしまうことになった。

「貴様ら、それでも元勇者か。もっと誇り高き戦士としての自覚を持て!!」

「はい、すみませんでした」

俺はそんな事よりも早く解放されたい気持ちが勝ってしまって素直に謝罪をするとその男の怒りが頂点に達して怒り狂いそうになるが他の人間に抑えられてその男も渋々黙り込むとそこでようやく話は終わりを迎えることが出来たのだ。そしてその後はもう何も起こることなく無事に謁見を終える事ができたのである。それから暫くの間は俺達三人だけで話をして時間を潰すと、やがて俺達が呼びだされた。

俺達の前に一人の女が現れるとその人物こそこの国の王であるゼノであり、俺は初めてその姿を見て驚いたものだ。何故ならばこの王はとても若く、見た目的には十代後半にしか見えなかったからである。しかし彼は俺よりも遥か上の存在なのでその事実には驚かない様にしようと心に決めるのだった。それからは今後の計画などを練ったのだがそれはどうやらクレアの希望が優先されているらしく俺は少し不満ではあったが彼女が望むならそうすべきなのだと思い直すと大人しく従うことにしたのだ。そしていよいよ魔王と戦う事になったので俺は魔王をぶっ殺す為に魔王軍との戦争を開始する為にまずはその前哨戦を行う為に王都に攻め込んできた魔物の大軍と戦う事を決めた。だが俺がそんな魔物と戦おうとしているのは別に正義感などという大層な理由では無く、単純にお金の為である。そう、これから俺達は本格的に戦争を始める事となる。つまり俺が戦うのはそれに参加する兵士達を養うための資金稼ぎが主な目的である。だから俺は金の為に頑張っているだけに過ぎないのだ。そう思う事にして俺は戦場へと向かう事を決める。

(それでは我輩の力を使うが良い。『スキル』解放)

俺の中で何かが変化した感覚を得ると、それを確認するために意識の中でステータス画面を呼び出してそれを確認したが俺の目に入ってきた文字の意味がよく分からずに思わず首を傾げてしまったのだ。だが俺はそこで改めてその詳細を見てみる。

名前:海斗(16歳 童貞)

種族:人間

LV:10/20

称号:《覇王様》

状態;正常 HP:100

MP:100000000

攻撃力:38000

防御力:26000

俊敏性:200000

魔力制御力:90000000 【スキル】

〈レベルMAX〉 神威召喚 Lv1→5 精霊使役 Lv5 聖魔法 Lv9 火属性Lv8 水魔法Lv7 風魔法Lv6 土魔法Lv6 光魔法Lv8 闇魔法Lv8 回復魔法Lv4 付与魔法Lv8 生活支援魔法 【固有スキル】

限界突破 無限進化 不滅の身体 叡智 創造 【加護】

創世の神の寵愛 魔神の祝福 【契約獣】

フェンリル

(黒姫 ランクS+ 人型 性別 雌)

イフリート

(フレイム ランクA 炎の塊の火の巨人 男?)

ノーム

(地霊 大地に住まう小さな精霊 男?)

シヴァ

(破壊の女神 女性? 女? 性格はツンデレ???? 謎???? よく分からない)

ヴァーラーナシー ラダマンドサージャ ヴァルナータ=ヴァルヴァラ サガラ(スカラベ???? 虫????? メス???? 年齢不明????)

カーリ ガネーシャ(象の神 女性? 女神 オス 雄っぱいあり!!!!?)←大事なことなので二度言いました ラクシュミー(牛頭神の女傑神 美女で巨爆!! メス!?!?!?)

マヘーンドラ(龍神 女 女神)

【称号】

亜人族の救世主 真なる魔法使い 覇道を往く者 ナンパ野郎 ハーレムキング 戦闘狂 魔物の天敵 精霊の寵児 魔を極めし者 強欲な者 武の道を突き進むもの 魔法の申し子 不死の王 世界を見守るモノ 神域の賢者 魔物使い 迷宮の主 神々に認められし人間 万物の主 魔の真理を知る者 etc うむ、意味が全く分からんな。何がどうしてこうなったのかがサッパリ理解できないんだが。

(うむ、そうだろうのぅ。恐らくだがこのスキルが関係していると思うぞ)

(これって一体どんな効果なんだ?)

(お主が想像していた通りだと思うがの。要するにこれは全てにおいて超が付くほど強力な補正が入るという能力なのじゃ。お主な、そのスキルを発動させてもまだ自分の力を完全に引き出せんとか言っとったので試しに見せてやると良いのじゃよ。そしてそれで気付いたんじゃがお主にはこれ以外の全ての能力値が軒並み低く設定されているようでの。おそらくじゃが、お主を弱体化させるためにあの女がしたのだと妾は睨んでるのじゃ。あの女がそこまでやる理由となればもう考えられるのはあの女に恨みを持っているからということくらいなものであろう。そしてその理由があろうがなかろうが関係ない。どちらにせよ今の妾達はお主の力を覚醒させる事が一番優先される事柄なのだ。その辺りをしっかりと弁えて行動するのだぞ!)

(お、おう、そうだな)

どうしよう、何故かいきなり説教をされちゃったんですけど、でもまぁ言われてる事は正論だったのは間違い無いし。とりあえず言われた通りにやってみるか。

俺は取り敢えず俺の中のスキルに意識を向けるとその効果の詳細を見る事にする。そして俺の中にいる二体の従士の名前の後に括弧で囲まれた文字がある事に気づく。そこにはそれぞれの神の名が記されており、その下の方には『真名:?』という項目があり、その下には何故か名前が表記されていないのだ。俺がそれを確認して困惑しながら見ていると、そこに突然現れたのがカーリーという文字であり俺はその名前に目を奪われてしまった。

(お主が驚くのも無理は無いがそれは事実で現実に存在する事だからのぅ。因みにこのカーリという少女はこの世界の主神でもある破壊の女神でもあり慈愛を司る存在でもあったりするからの。彼女は破壊と創生の両方を担う事ができる唯一の存在であるのじゃ。彼女は元々はある世界に住んでいた女神でその世界が消滅する際に彼女は別の世界に逃げたのだがそこも崩壊を始めてしまい、彼女だけは逃げる事が出来ずにそこで彼女は死を迎えようとしていた。だが彼女はその世界が消滅をする際に己の力を全て注ぎ込んで世界を守り、その結果彼女は力を使い果たしてその世界で息絶えたのだ。そしてその力が彼女に宿り、その魂が巡り巡った結果、今の姿に生まれ変わったと言う事なのじゃ。因みに彼女の姿だがお主の知る姿ではないから安心せい。この姿は本来ならば決して見られるものでもないのだからな。それはそうとお主に聞きたいことがあるので教えて欲しい事があるのだよ。そもそも何故この世界を救わなければならないかの?)

そう聞かれた俺は一瞬戸惑ったが俺の中にある神様の力とこの世界の成り立ちを知ってしまった以上は俺の答えは既に決まっていたのだ。だから俺が出した答えは

(それは勿論決まってるさ。だって、困っている人達を助けるのが当たり前だからね。それに俺は俺自身が望まない限りは誰にも手を出すつもりはないんだよ。だけどもし誰かが理不尽によって苦しんでいるなら、それが誰であろうと俺は必ず助けに行くさ。そして俺の目の前に現れた奴がたとえそれが魔王と呼ばれるような存在であったとしても、その相手がどんなに強い相手だろうと俺はそいつを絶対に倒すと決めている。俺はこの力で大切なものを守れるだけの力を手に入れている。だから例え魔王が現れたとしても絶対に負けないさ。俺はお前らの力を借りて魔王を倒す為に戦わせてもらう。頼む、どうか力を貸してくれ!!)

俺は心の奥底にある感情をそのままぶつける様にそう答えるとその言葉を聞いた二柱の神様がとても満足そうにしている姿を俺は感じ取っていた。

俺の話を聞いたゼノ王は俺の言葉に対して何も言わずに黙り込むと俺が何を考えているのかを探る様な瞳で俺の顔を見ながらしばらく黙り込むとそこでようやく口を開く。そしてそこからゼノ王が俺に向けて放った一言こそが俺が待ち望んでいたものだったのだ。

「我が息子よ。そなたが魔王を倒せば、我等が与えていた報酬とは別に褒美をやろうと約束しよう。だからどうだ?余の為に一肌脱いではくれんか?」

そう告げられた瞬間、俺は嬉しさのあまりつい声を上げて喜んでしまいそうになりながら必死で抑え込んだのだった。

やっとだ、やっとこれで俺にも普通に生きていく権利を手に入れる事ができたのだからな。

それからしばらくして落ち着いた俺達は魔王との決戦の為に必要な準備を整えると、遂に俺達は戦場へと向かうのであった。

王都を出発する前にクレアにはもしもの時のために城に残るように言っておいたが、俺は俺達と共に王都の門を出て王都を囲む壁の外へと向かう。そこで俺は自分の足で歩き、この国の兵士と一緒に魔物の大軍と戦うために戦うのだ。

俺は王都を守る為に兵士達の先頭に立ちながらもその光景を見た俺は思わずその美しさに感嘆の声を上げてしまう程だった。なぜならその光景は圧巻そのものの光景だったからである。

まずは俺の前に立ちふさがる巨大な岩の様な怪物の集団がいた。それこそは先日戦ったゴーレム達の親玉的存在であるゴースムロードでありその数は軽く三千体を超えている程の圧倒的な数を誇っているのだからその迫力は半端じゃない。しかもこいつらはそれだけの数が存在しているだけでなく、まだまだ続々とこちらに向かってきているというのだ。正直、これだけの数を一度に見た時には俺は少し引いてしまったが、俺にはまだ切り札と呼べる力があるのでそれを発動させるべく精神統一を行うとそのままスキルを開放するのである。

その瞬間からまるで時の流れが違うのかと思えるほどに周りの時間がゆっくりと流れ始めたのを確認してすぐに行動を開始するとスキルを更に開放していくと一気に敵のど真ん中に飛び込もうとするのだ。しかし俺の行動を見て危険を感じ取ったのか魔物の集団の一部が一斉に俺に攻撃を放ってきた。

俺はそれを瞬時に防ぐための障壁を展開しようとした時にふと思い出すのはあのスキルの使い方なのである。そして俺の中でとある作戦が浮かぶと同時に試すための攻撃を行ってみる。すると驚くべき事に成功した。俺は俺の予想した通りにこの障壁に敵からの魔法攻撃を跳ね返したのだから驚きの結果に笑みが止まらない。

そこで次に使った技こそが、相手の力を奪い尽くし自らの物へと変換してその分身体を強化することができるというチート能力【覇気】の本当の効果であり、これによって俺の能力値は上昇しているはずなのだ。

実際にステータスを見てみるとそこには信じられないほどに高い数値が表示されておりその効果は凄まじい物だった。

◆――

名:???

種族:人間

性別:男

職業:覇者

LV :152

HP :1億8000万/1億8000万

MP:3万5000万/4万500万

SP:10万

筋力:7万9000

体力:8万1000

知力:50100

魔力:45万 耐久:7800万

魔攻:35万7000

魔防:4050

敏捷:7580

運:3000000+++(限界突破)

装備:覇王の剣『??』

武器防具一式セット『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』『?』

称号 亜人族の救世主 真なる魔法使い 覇道を往く者 ナンパ野郎 ハーレムキング 戦闘狂 魔物の天敵 精霊の寵児 魔を極めし者 強欲な者 武の道を突き進むもの 魔法の申し子 不死の王 世界を見守るモノ 神域の賢者 魔物使い 迷宮の主 神々に認められし人間 万物の主(New)

etc ◆ 何度確認してもその数値が変化する事は無く俺が得た力の桁違いさに俺は喜びの余り小躍りしてしまうほどだった。

これならば勝てるかもしれないと思った俺はそのまま勢いよく飛び出して敵の中心部分に到達するとその手に握った聖魔導刀で次々に襲ってくるモンスター達を次々と切り刻んでいきながら敵を薙ぎ倒していって、遂には敵のど真ん中に到達できたのだがそこで俺はこの光景をどこかでみた事があるような気がしていた。それはそうだ。何故ならそれは少し前の自分と同じ事をしていたのだから。だがその時とは圧倒的に俺の実力が上なのでこうして楽々と敵を倒し続けている訳なのだが、この力を手に入れてからの俺は今までの苦労は何だったんだと思うほどの強さを手に入れており俺の心を踊らせていた。しかしそれでもまだこの場にいるモンスターを駆逐するには時間がかかる為に再び移動を始める。そう、俺は俺の力で仲間達が戦う間ずっと一人で戦わなければならない。

だが今の俺は負けるなんて思ってはいないのだ。なぜならば既にその戦い方を確立しつつあるのだから。それにこれは修行でもなんでもなくただの戦争に過ぎないのだから俺は俺の思うがままに戦わせてもらうだけだと開き直る事にしたのである。そしてその考えを実行するべく俺の頭の中に新たなる力が目覚めるのを待っていたらついにその力は目醒めた。

俺は早速、その力を確かめようとその力を行使してみると俺は一瞬で俺の視界が真っ暗になり体が地面に倒れこむ。

それから意識を取り戻した時にはそこは戦場から離れた場所であり俺は慌てて周りを見渡してから自分がどこにいるのかを把握して安堵の溜息をつく。そして俺は自分のステータスを確認するとその変わり果てた能力値を改めて確認した後に苦笑いしながらステータスを閉じるのである。

(お主は中々規格外じゃな。まさかこの世界に存在しない概念を持つスキルを使う事ができる存在じゃったなんてな。この【時間停止】と言うスキルはこの世界で使える者はおらぬぞ?それに【加速】というスキルもまた、同じ理由からこの世界には存在しないスキルなのじゃ。それにじゃ、【空間転移】やその他諸々の固有スキルやエクストラスキルと呼ばれるものも存在はするが、どれもお主の世界のスキルに近い形をしておるのじゃ。だからおそらくだがそれらの力を持っているであろう魔王を討伐したあかつきには、その全てを譲り受けることができるはずなのじゃ。それこそが本来の契約内容だったのじゃ。つまり、それが成されれば、もうお主に頼らずとも我等の世界が滅びる未来は無きに等しいと言って良いのかもしれぬの。そして、お主ならその全てを託すに相応しいのだろう)

そう言われても俺はまだこの世界の常識に疎いので実感が全くわかない。

(それなら俺がこれからどうすればいいか教えてくれよ?)

(まあ、慌てなくてもそのうちわかるのじゃ。今のお主に必要なものは休息が必要なだけなのじゃからな。さっきまで寝ていたんじゃろ?今はゆっくり休めば良いのさ)

神様はそれだけ言うとそこで姿を消してしまい辺りが再び静かになる。それから暫くの間は神様の言った通り、ここで大人しくしておくことにしよう。俺はまだ少し頭が痛むがとりあえず回復させるためにも睡眠をとろうとして眠りについたのであった。

目が覚めると見慣れない天井が目の前に広がっていて俺は混乱する。ここは一体どこなんだ?俺は確か神様と話していてそれでそれからどうなったんだっけか?俺は思い出せないがどうやら記憶を消されたか封印されてしまったみたいだな。

しかし俺はこの状況に違和感を感じる。俺は自分の意思に反して強制的に眠っていたのに俺は俺の意思でその事実を思い出すことができなかったからだ。俺は自分の力を思い出してみて自分の力で記憶を操作することは出来るけど俺の記憶に関しては操作出来ないことに気づいてしまう。そうなると考えられるのは誰かによって無理矢理に気絶させられて、そのついでに都合の悪い部分を俺自身で消去してしまったということなのだろうか。

だがなぜ俺の邪魔をしたのか分からないがそんな事をしてしまえば、後戻りが出来なくなってしまう可能性もある。それなのに、わざわざリスクを背負って俺の邪魔をする理由がわからなかった。だから、俺に何かを伝えたかったと考える方が自然かもしれないが。

そう考えていても何もわからないしこれ以上は無駄な思考は止めようと思ってから、まずは体をゆっくりと起こして周囲を見てみればそこに見えるのは多くの女性達に囲まれていて皆、何故か俺を見て涙を流しているのだ。どうして泣いているのか理解できずに少し焦ってしまう。すると突然一人の女性が近づいてくる。彼女は他の者達とは違って落ち着いた感じの雰囲気の女性でその見た目は少しだけ幼い印象を受ける容姿をしている。そして彼女だけは他の人達とは違い武装しておりその手に持つ槍は見覚えがある代物だったのだ。

「良かった無事だったんですね!!私はクレアと申します!!本当に心配しました!!もう目を覚まさないんじゃないかと怖くて怖くて仕方が無かったです!!」

「うおっ!?え、ちょ!抱きつくのはちょっと待ってくれないか。君は少し冷静になろうぜ」

いきなり飛びついて来た彼女の頭を優しく撫でて落ち着かせようとするが離れようとせずに更に強く俺の体に引っ付いてくる。

困ったものだな。しかし俺をここに連れてきたのは恐らく彼女が関係しているはず。だからもう少し情報を仕入れておくためにも質問を投げかけてみることにした。

「俺に何が起きたのか知っているんだよな?」

「はい?あなた何を言っています?私が知る限りの事は何も知りませんが」

「いやでもお前らが俺の事をこんな風に介抱してくれてるじゃないか。だからてっきり君がここまで運んできたと思ったんだが違うようだし一体誰が助けてくれたんだ?」

その言葉を聞いた女性はキョトンとした顔になってから急に怒り出したのだ。

「もう!冗談を言うならもっと面白い冗談にしてくださいよ。それにあなたは私のことを疑ってたんですか!?私、傷ついたんですからね!!酷い人ですね全く。私は貴方のことを本気で尊敬しています。だからこそ、こうしてあなたをここに連れて来てあげているのに。まあいいでしょう。とりあえず詳しい話は中で致します。なので早く立ち上がって頂いてもよろしいでしょうか。いつまでもあなたの体の上で座ってる訳にもいきませんし。では参りましょうか。この国の王があなたを呼んでいるのです。そしてこの国を守ってくれた英雄様に御礼を言いたいと言っているので、そこまで案内いたします」

そういうと彼女は扉から出て行こうとしている。俺は慌ててその後を追うようにベッドから立ち上がる。俺はそこでようやく気づいたのだが俺が今立っている場所はこの部屋にある大きなソファーの上から降りていたのである。俺はそこでこの場にいる女性たちの顔ぶれを確認していくのだがそこでふとある疑問が浮かぶ。俺はてっきりここにはハーレム要員の女の子たちが集められて居るものばかりと思っていたのだけど、実際にはそうではなくこの場にいるのはこの部屋に集まっている全員を合わせたよりも少ない数の人数だけだったのだ。

それに気づけば、さっきの女性は俺が起きる前から俺の隣に座っていて他の奴らも俺を囲むような配置になって座り込んでいたのだ。だがそれは別に構わないのだけれど何故俺は拘束されていないんだろうか。普通こういう場合は逃げ出さないようにと手を縛ったり足に手錠をつけるとか色々としそうなもんだと思うんだけどなぁ。でも考えてみれば俺の場合はそういった事をする必要も無いのかも知れない。なぜならば俺は神様と契約した事によりその能力の一部を得ることに成功したからである。

そう考えると俺に対して警戒する必要はないのかと納得できた。俺はそんなことを考えながらその女の後を付いて行くのであった。

しばらく歩き続けるとそこには俺の知らない景色が広がっていたのである。それも当然のことでなんせここは城の中でも俺がいたような居住区などとはかけ離れた場所にあるらしいからだ。

この先には国王や王侯貴族などの権力者達が住まっている場所があり、そこは俺みたいな普通の一般人なんかが立ち入る事ができないほど神聖な場所でこの城の守りの要の一つにもなっている。だから俺のような人間を連れて行けば確実に不審に思われるだろう。しかし俺はその考えとは裏腹に俺の腕には先程まで腕にはまっていたはずの重りのようなものは外されていて今は自由に動かす事ができる。だからこの状態で問題は無いはずだと考えたのであろう。だからなのか、俺の想像していた以上にあっけなく中へと入る事ができたのだ。

俺はそのあまりの違いに驚いてしまう。だってさ、だってだぞ。まさかこんな豪華な建物がこの国に存在しているなんて知らなかったからな。

その建物の中に広がっているのは大きなホールの様な場所で、そこでは大勢の人々が食事を楽しんでいたり談笑したりしているのが見て取れるのだ。それに加えて俺が今まで出会った事のあるこの世界に住む人々は全て俺にとって見覚えの無い人種ばかりだった。

例えばエルフ、リザードマン、オーガ族、ダークハーフ、ラミア等、俺の住んでいた世界では存在しない種族の人たちまでもが集まって楽しそうに過ごしていたのである。

そして俺はそんな人達の姿を見ている内に自分の価値観が間違っていることを思い知らされてしまう。

そもそもこの世界において、人とは魔族の下位に位置する存在である。

そのためかこの世界における人間の扱いはあまり良いものではなかった。だからこの国は差別が横行するような世界では無かったがそれでもやはり身分の差というものが存在していてその格差は大きく、最下層の奴隷ですらまだ幸せな方であり、もしも運悪く上位の者達に気に入られてしまった場合には最悪の未来が待っている。だから人々は少しでも安全に暮らしていこうとすればする程にその差が歴然としたものとなって表れてしまうのだ。

だからこそこの国の王は自らの血を薄めない為に、そして自分達の血を守るために、優秀な種を残すためにもより強い男を求めていた。だがこの世界においては男の数が圧倒的に少なく、だからといって他の国から無理矢理に婿を取れば今度はこの国が乗っ取られてしまいかねなかった。だがしかし、そこで神は一人の少女を召喚することに成功する。その少女こそが異世界の少年との婚姻を結ぶために選ばれた者だった。その証拠として、彼女がその身に流れる全ての血を注ぐことによって新たな命が誕生するのだった。そして産まれてきた子供達は全員この世界の常識に当てはめて考えるなら優秀過ぎるほどの力を持ち生まれてくるはずだった。

しかし、予想に反して誕生した子供はその全てが凡庸な存在だったのである。それが判明したのがちょうど俺の母親が死んでしまった直後のことだった。そしてそれからは国の方針が大きく変わることになる。

それが俺のお母さんが死んだ理由。つまりはそういうことなのだ。俺に求められているのは、あくまでもその娘達の遺伝子を受け継いだ優秀な子供が欲しいだけであり、そこに愛情は必要無いのだ。そしてそれは例え相手がどんな人格をしていたとしても変わりはしないのである。俺が今ここにいるのは俺が俺であるために必要な条件がたまたま揃っていて、しかもその相手が俺だったからに過ぎないのだ。

俺には俺の望んだ結末があったけども、結局その望みは果たされることはないのだろうなと思うと、つい深い溜め息を漏らしてしまったのであった。そんな時――

『なーに辛気臭い顔をしてるんですか!!そんなに暗い雰囲気を出していないでもっと楽しくお喋りしましょうよ!!そうです!私達、友達じゃないですか!』急にそんな声が頭に響いてきて俺は驚くがそれと同時に安心感を覚えてしまっていた。俺には俺が知っている人達がいるのだと分かっただけでも随分と違って見えたからな。でもさ、いくら友達と言ってくれても流石にこんな所でこんな風に会話してると変に思われそうだし場所を変えた方が良いんじゃないかな。俺は彼女に話しかけようと視線を向けるのだがそこには既に彼女は居なくなっていて少し寂しくなってしまう。俺が一人ぼっちにされてしまったと思っている時に誰かに声をかけられる。

「やあやあ、そこのお兄さんちょっとこっちに寄って行きなさいな。なにしろあんたはこの国の英雄様なんだからね。少しぐらいサービスしてもらわないと困っちゃうんだよね」

俺は突然かけられた言葉に戸惑いながらもそっちの方を見るとそこには一人の女性が立っていた。そして俺は彼女の姿を見て驚いたのだ。だって彼女もまた人間ではなかったからな。でも、その姿形は間違いなく女性の姿ではあったのだけど、その正体は人狼という種族らしく。その最大の特徴は女性でありながら男性の性器が付いているのでその見た目は完全に美女そのもので男性にしか見えないのである。だけど俺は彼女のその言葉を聞いて違和感を感じてしまってしまった。だって彼女はこの国を救った英雄と言ったのである。それならば俺がこの国のためにしたことなんて特にないのだし英雄呼ばわりされるのはおかしなことだ。

それに何よりもこの人には何か他の人には無い独特の魅力を持っている。それは俺がこの人を見た時に感じたこと。その容姿があまりにも綺麗で美しく見えるのである。俺はもしかしたら俺を救ってくれた人がこの人の可能性もあるのではないかと考えて聞いてみる。

「あのもしかして俺を助けてくれたのは貴女なんですか?」

「ん~残念だけど違うよ」

その言葉を聞いた俺は内心とても安堵したのだ。

なぜなら俺を救える人間はこの世に二人と存在しないからな。そしてもし仮に目の前にいるのがそのどちらでもないのであれば、一体どうやってこの窮地から脱出すればいいのかと途方に暮れるしかないからだ。

だからもしも助けられていたのならどうにか誤魔化さなければならない。俺の命は既に神との契約によって保障されているが、それでも無駄死にだけは避けなければならないのだから。

俺の表情を見ていた女性は俺が嘘を吐いているのを見抜いてしまったようだ。だからなのか、その顔はとても嬉しそうに笑っていた。まるで俺の事をからかって楽しんでいるかのように思えたのである。そしてその女性は口を開く。

「へぇ私を騙し通せると思ってるのかな。どうやら私を甘く見ているみたいだね」

そして俺は確信してしまう。もう完全にバレている。いや、もうここまでくると隠そうとしてることがバレてるとかそんな次元の問題ではないと思うんだよ。だって俺はこいつに隠し事をしようとしてないし、それにこの女の人はそんな小細工は通用しないと思えるような凄味を持ってるし、俺の頭の中にはこの女の正体が人間であるとはどうしても考えられないのだ。だからここは正直に話す事に決めたのである。俺は素直に自分のことを神様と契約して能力を手に入れている人間であることを告げたのである。すると、

「ほぉ面白いね。まさかこんなところで君みたいな子と出会うことができるなんて思ってもいなかったな。よし決めた。君は特別に私のお気に入りに認定してあげるよ。良かったね、これで私と対等な存在だ。私は君に興味津々だよ」

なんだか良く分からないが気に入られたのは嬉しいが、この女の言葉の意味がよく分からなかったので俺にはどうして良いのかがまったく理解できていなかったのだった。だからとりあえずこの女の事を警戒することにした。しかしそうは言っても相手は神様と契約をしていないにも関わらず俺が契約している神様と同等の強さを誇っている化け物なわけで、俺一人で戦うとなると絶対に勝てないだろうことは確実だと思う。そしてもしも戦いになるとなったらこの国の人達にも被害が出てしまう。俺はこの人達を守る為にも、ここで殺されるようなことがあってはならないと思ったのだ。だから逃げる準備を整えていたのである。

そして俺はその女の手を取り全力ダッシュを試みた。その速度は人間の俺の身体ではあり得ないほどの速度が出ているのだろう。

だがそんな事を気にも留めずに平然と付いてきてしまっている。

それどころか俺は何故か知らない間にこの女に抱き着かれて拘束されてしまっていたのだ。俺は必死になって逃げようとするが、その腕を簡単に払い除けられてしまうのだった。その行動のあまりの速さについて行けず俺は呆気にとられながら、そのまま意識を無くしてしまうのであった。そして俺はその後、その女の城に連れて行かれてしまったのである。

目が覚めるとその部屋にあるベッドの上に寝転がされていた。しかも裸のまま。しかし、不思議な事に俺は自分がどこに居るのかという記憶が無いのに、なぜか俺の体に異常はないのだ。そして俺は起き上がって周りを確認してみると部屋の内装に既視感を覚える。そこは間違いなく俺の住んでいた家の一室なのだ。そして俺の横には俺の母である美沙子の遺影が置かれていて。その前に座り込んで泣き崩れてしまっいるのは俺の父である真司だ。その姿を見て俺は何も言うことができなかった。だってさ、俺にはそんな資格は無いから。そんな時俺の携帯の着信音が部屋に鳴り響く。

俺はその音を聞くと同時に心臓が跳ね上がる。なぜならそれは俺が持っているはずのない音だったから。

でも俺は自分の携帯がこの場にあることに驚きつつもすぐに通話を開始する。

『よう!!調子はどうだい!?今お前の魂はそこに無いからな。だから普通に電話も使えるし。ついでにメールだって打てちゃうぜ!なーに心配はいらないぞ。ちゃんとした方法で肉体を保管させてもらってるんだ!ちなみに今俺達はお姫様のお城の地下室に来てるから、安心してくれて良いからな』

その言葉を聞いていた俺は一気に体の震えが止まらなくなる。つまりは俺はこれからあの女と戦うということになってしまうからだ。だからと言ってこのままここに居ればいずれ殺されてしまうのは明らかであり、そうなれば俺は間違いなく地獄に行かされることになる。それはそれで俺にとっては非常に困ることであり、それだけは何としても回避しなければならない事態だ。でも俺の体がここに無ければあの女に負けることになるし。

俺は頭をフル回転させながら何とかして生き残る方法を考え始める。でもどれだけ考えようともこれといった方法は浮かんでこなかった。しかしそんな状況でいきなり部屋のドアが開かれて俺はビクッと体を震わせてしまう。

そこには先程まで俺を抱きしめてくれていた女性がそこに立っていたのだった。そして俺と視線があったその瞬間、俺の顔に強烈なビンタをしてきたのだ。その攻撃に対して俺はなす術もなく吹き飛ばされて壁に激突したのだった。しかし、そんな事になっても俺は不思議と痛みを感じることはなかったのである。だからだろうか、俺はついつい彼女に怒りをぶつけてしまった。だけどそんな俺を見てもその女性は微笑んでいたのである。まるで俺のことを馬鹿にしているかのように。

『おいおいそんな怒んなって!な?せっかく助けた命を捨てるような真似をするなよな!そんなことされて喜ぶ奴なんていないんだからな!』

その言葉を聞いた俺は確かにこの人の言葉には説得力があるなと感じ取っていた。それは俺の気持ちを理解した上での言葉だということが分かったからこそ納得させられたというべきなのかもしれない。だけど俺が言いたかったのはそこではなく何故そんな力を持っているはずなのに俺達を助けたのかという点だった。でもその疑問に答えることなく女は俺に向かって言葉を放つ。

「私の名前はミレーユって言うんだけど、私の仲間にならないかい?」

「俺なんかで良ければ喜んで仲間になります」

そう言った後に俺は自分で言ってから少し恥ずかしくなったのだが、この人と行動を共にしていれば、俺はもっと強くなれると思ったので迷わずそう返事をしていたのである。

そしてそれから暫くして俺は彼女と色々な話をした。彼女は人間ではなかった。彼女の種族は妖狐族というものらしく。この世界に数人しか存在せず、それぞれが国を作り生活しているらしい。その国はそれぞれがそれぞれのルールに則って運営しているのだとか。そして彼女はその中でトップクラスの権力を有している国のトップの一人という事を知った。その事実を知ってしまったせいで逆に不安になってしまい、俺の態度がぎこちなくなってしまったのがいけなかったのか、その女は自分のことをミレアと呼べと言ってきたのである。俺も特に問題が無かったので、その提案を受け入れていた。

しかし彼女も俺を気に入っているといことで特別に俺の名前を呼んでも良いと言われたのだ。だけど俺は彼女の事はミレーヤと呼ぶことにしたのである。

俺はこの人にだけは嫌われたく無かったし、何よりもこの人に名前を呼ばれることがとても心地よかったからだ。そして俺は自分のことについても色々と話すことにした。俺が人間ではないということを告げた時には凄く驚いていたけれど、それ以上に彼女が俺に興味を示してくれたのだ。そのせいで彼女の興味が俺から離れてしまうのではと思って怖かったが、それは違ったのである。

「君みたいな面白い人間に出会えて私は本当に嬉しいんだよ。君はきっと面白い事を沢山教えてくれるだろうから。これからよろしくね、シン」

そう言われた時に俺の体はゾクッと反応していたのであった。そして俺はこの人が欲しいと本気で思うようになっていたのである。俺はもう絶対に手放すつもりは無かった。だから俺は彼女にお願いをしてみたのだ。俺と家族として接して欲しいと。すると、彼女は俺の提案に二つ返事で承諾をしてくれた。

俺は嬉しかった。そして心の中で感謝の念を何度も送っていたのである。だって俺の家族に成ってくれるという事がどれほど嬉しくて喜ばしいかは、もう俺自身で説明できるレベルを超えていたのだ。

そしてその後、彼女は俺を自分の国の王の元へと連れていってくれることになった。俺はそこで王様に会うことになるのだと思っていた。そして実際にその通りになっていたのだと思う。だがしかし、その謁見の間には王様の姿などは見当たらずに、その代わりに玉座に座ってこちらを見下ろしている綺麗なお姉さんがいたのだ。俺はそのお姫様に挨拶をしたのだ。

そして俺はお礼を言うために彼女に近づいていき、そっと手を握った。その時だった。

「あああ!!ごめんなさい!!私としたことがつい、やっちゃったわ。あなたを気に入ったのは本当なのよ。でもまさかこんな簡単に洗脳されるだなんて思ってもいなかったもの。だからこれは私からのちょっとした悪戯だったの。私ってあなたのことが大好きなの。だからあなたを独り占めにしたかっただけなのよ」

俺は意味がわからなくて固まってしまう。だって、え?どう言うことだ? そして混乱しながらも俺はその女の顔を見ていた。すると、

「私の名はアリシアよ。改めて宜しくね、シン君」

俺はこの時、やっと理解したのである。目の前にいる人物が神様と同等の強さを持った化け物なのだと言うことを。しかし同時に俺はこの女なら俺と一緒に戦えるとも思ってしまったのである。

俺はこの時に初めて知ったのだった。俺はとんでもない人を好きになってしまったのだと。そして俺はその女と握手をした後、そのままキスをされたのだった。俺にとっては初めての経験だった。だからどう対応したら良いのかが分からずただただされるがままの状態になっていたのである。

そんな俺はいつの間にかその女に連れられてその城の地下に来ていたのだ。そこには俺の母さんの遺影があり。その横に俺がいつも使っている勉強机が並んでいて。その上に教科書やノートなどが置いてあったのだ。その瞬間俺は全てを思い出してしまったのである。俺は母さんと喧嘩別れのような状態のまま家を飛び出してきてしまっていたのだ。でもどうして今になってそんな事を俺が思ったのかというと。俺はその女の城に居る時点で違和感を抱いていたからなのである。でも俺の記憶の中にこの場所のことは微塵たりとも存在していないからこそ俺は動揺してしまったのだ。

でも、俺はここでようやく思い出せたのだ。だから俺はその事を素直に女に伝えることにしたのである。

俺がそういう行動を取る前に女はこの部屋の隅にあった鏡を見て自分の姿を見ていた。そして何かを確認し終わった後、急に怒り狂い出したのである。

そしてその光景に俺は思わず目を瞑ってしまっていた。しかしすぐに俺のことを離してくれたので俺はゆっくりと目を開けてみるとそこには俺の顔があるはずだったのに。その俺には似ても似つかないような美少女が映り込んでおり。しかも俺はその美少女と手を繋いだままだったのである。その状況に俺はまだ思考が追いつかず。そして自分の手から伝わる体温に意識を奪われていたのである。そしてそんな俺の頭を撫でるかのようにその少女は優しく微笑んでいたのだ。そんな優しい笑顔で微笑まれた俺の心の中には今まで感じたことの無いくらいの大きな感情の波が押し寄せてきてしまって。俺はその衝撃的な事実に困惑し続けていたのである。

それから俺は俺の頭をなで続けている少女に俺は問いかける。

俺はその質問に対して、自分が今ここに居てはいけない理由を教えて欲しいと答えた。でもその答えがあまりにも非情な言葉だった為俺はついつい彼女を睨みつけてしまった。でも彼女はそんな俺を見ても動じることもなく、淡々と語り始めてしまったのである。でもその言葉はあまりにも酷すぎて俺は泣きそうになるのだった。

その言葉を俺はどうしても受け入れられなくて。だけどそんな時でも彼女の顔には悲しみの色一つ浮かんではいなかったのだ。それどころか彼女は笑っているのだ。その表情を見てしまって俺は何故か悲しくなるのと同時に俺の中にある何かが爆発してしまいそうな衝動に襲われる。そんな俺の様子を察知してか彼女は少し申し訳なさそうな表情をしていたのである。俺はその彼女の様子に怒りをぶつけることは出来ず。俺はその話を静かに聞いていたのだった。

彼女はその話を俺の頭に直接流してきた。だから俺もその情報を全て受け止めることにしたのである。俺は彼女が嘘を言っていないとわかったので。そこでようやく俺は今のこの状況に納得することができたのだ。俺をここに置いてくれるのであれば別に構わないと思い了承することにした。そんな会話をしている時に彼女が俺の名前を聞いてきた。俺は特に迷うことなく本名を名乗ることに決めていた。何故ならば彼女からは本当の自分を見せられると思ったからだ。

そして彼女は俺に対して、ある提案をしてくる。俺がその提案を呑むかどうかは関係無くその提案は実行されることになっていたのだが、俺が拒否をする筈が無かったのだ。俺は彼女に対して、絶対にその約束は守って貰いたいと思ったからなのである。

俺はそこで一旦彼女とはお別れすることにする。そしてそのお姫様の名前はアリシアさんというらしく。そして俺はこれからこの国のお姫様なんだって事を知ることが出来たのである。俺としてはお姫様がこんなところに来てもいいのかと思ってしまったのだが。どうやら俺を正式に迎え入れる為にこの国の人達が集まってくれているということだった。そしてそこに俺は案内されることになったのでついて行こうとするのだが、

「そういえば君はこれからこの城の外に出ることになるんだけど。一応これを渡しておくわね。これを身につけておくことで君の正体をある程度隠すことができると思うわ。あとはそうね、君がもしも私の国に害を及ぼすことが無いと証明できた時には。私は君を解放しようと思っているから。私に迷惑を掛けないでよね」

と、彼女は言うと俺に小さなネックレスをプレゼントしてくれたのだ。

そのネックレスを身に着けてみて俺の魔力に反応して、俺はその装飾品を上手く扱うことが出来ていることを確認した。そして俺は彼女と共に地下の階段を上がっていく。そこで彼女は俺と離れることを寂しく思うと言ってくれたのである。

その時に彼女の瞳を見た俺だったが、その彼女の眼光の強さに俺は心を射抜かれたかのような感覚に襲われてしまう。それから俺達はお城を抜け出すことに成功したのである。それから俺達二人は街の大通りまで出て来ることに成功するのであった。

そしてこの世界のことを彼女に聞くことにしたのである。俺には知らないことが沢山あって、それを彼女に頼ることで、彼女の役に立てることが嬉しかった。それに彼女に褒めてもらえることが本当に嬉しいと感じることができたのだ。そして俺は彼女と色んなことを語り合った。

この国のことや周りの国のことなど、そしてこの国のトップに位置する人物のことなんかを彼女に教えてもらった。その話はとても面白く興味が尽きないものばかりであった。そして俺達は彼女の国へと向かうことにする。でも、その道中では盗賊らしき集団に遭遇する。そして俺達の目の前に現れたのが先程の王様とその息子と思われる少年だったのだ。俺達が戦おうとすると、彼女はいきなりその王様に向かって攻撃を仕掛けていったのだ。

俺はその攻撃に驚いたが俺は咄嵯に彼女に指示を出された通りに動き。

俺は彼女の力を使って敵を倒していきながら。

「お前らは何で俺たちに襲いかかってきた?」

俺はその疑問を投げかけてみる事にした。だがその答えを聞くことは出来なかった。それは俺の母親が突如現れたからなのだ。

俺はその姿を確認すると思わず声が出そうになったが、

「な、なんだこの人は!?貴様は誰だ!何処からこの空間に入って来たのだ!」

と、王様は俺の母親の姿を見ながらそんなことを言い始めたのである。

そして俺はその王様の言葉で俺の母さんの姿をしっかりと見れていなかったが。よく見ると母さんの顔つきはまるで別人みたいになっており、更に服装も俺が見たこともない格好をしていたのだ。でもその姿を見て、母さんだと直ぐに確信を持てたのである。

だって、だって、その服から出ている腕はどう考えても筋肉質であり、とても女の腕には見えなかったからである。だから俺は一瞬その人を見て固まってしまっていたのだ。

「おや?私の娘とそっくりな子がいますねぇ。あなた、もしかしなくてもあの子なのではないですか?」

母さんはそんな言葉を吐き捨てた後。

俺に視線を飛ばしてくるのだった。

その目はまるで全てを見通しているかのような目をしており。俺の事をずっと監視していたような目をしているのだ。そして母さんは俺と目が会うなりにっこりと微笑んできた。そしてその瞬間に俺は気付いたのである。俺と母さんの実力がほぼ同じだということに。つまりは俺は今この時点で、その母親から戦闘訓練をしてもらっているようなものだった。俺の心の中では凄くワクワクしてしまっている気持ちでいっぱいになっていたのである。

俺はその人に話しかけようと一歩前に出ようとするが。その瞬間俺は後ろに居たその女性によって強制的に引き止められてしまうのだった。そんな状況に俺は思わず文句を言うことになるのだがそんな俺に対してその女性は微笑んでいて。俺のことを安心させるかのように頭を優しく撫でてくれていたのである。だから俺はつい甘えてしまっていた。そしてその瞬間に母さんは王様と会話を始めてしまっていたのだった。

母さんの言っている内容は全て聞き取ることができたのである。でもその話の殆どが意味不明なことばかりで、俺はどうすることもできなかったのである。俺はそんな二人を傍目に、この人が一体どういう立場の人なのかを考え始めていた。そんな時だった、

「あらぁ~。やっぱりそうなんですね。娘に息子がいるなんて聞いたことも無かったものでして。まさかこの世界で巡り合うとは思いませんでしたよぉ」

とその人の口から言葉が発せられるのである。

俺はその言葉を聞いたときに思わず耳を疑ったのだ。その言葉から考えると、俺のことをこの女性が知っているみたいなのだから。でも俺にはこの人と面識などあるはずもなく、俺は首を横に振って否定してしまう。でも俺のことを知っていたということは、きっと何かしらの関係はあるということだけはわかったのだ。だけどそれがなんなのかは俺にはさっぱり分からなかったのである。

俺はこの人のことをもう少し詳しく調べる必要があると考え。その人の顔をよく見ることに意識を傾けるのであった。

それからその人は王様から色々と説明を受けていたようで。俺はそれが終わると一緒に城へ戻るように言われる。それから俺はまた別の部屋に連れて行かれてそこには先程の女性の子供が居たのだ。その子はどうやら妹で名前はユミィちゃんと言うらしい。そしてその部屋はまるで高級ホテルの一室かの様な場所になっていて。そんな場所に俺は驚きを隠しきれないまま、その少女と向かい合っていた。それから俺は俺がどうしてここに居るのか、その理由を聞かせてもらうために質問をする。でも俺の予想とは裏腹にその少女は何も知らないようだった。そのことから俺はその少女に警戒心を抱いてしまい。少女から距離を取る。すると俺の様子を見た少女も同じように俺の前から姿を消してしまうのである。そんな時、突然部屋のドアが開きその少女が現れた。そして俺を見るなり笑顔で駆け寄ってくるのだった。そしてその行動の意味を理解していない俺は、俺に抱きつこうとしている彼女の攻撃をひらりと避けて。その勢いで彼女は壁にぶつかってしまうのである。その時に何故か彼女の頭からぷしゅーという音が鳴っているように見えたが、そんなことは関係なく俺はすぐに彼女を拘束し。色々聞き出すことにする。どうもこの子は俺のことを知っているようだった。それも何かにつけて俺と会わせようとしているのを察してしまったのだ。

そこで俺の頭に一人の人物が浮かび上がってくるのである。そういえば確かこの国の王様には子供がいたはずであると。そこで俺はもしかして、と思い、彼女に問いかけてみることにした。そこで返って来た返答は想像通りのものであり、俺の中で全ての辻妻とが合って納得できてしまったのだ。そこで改めてその少女を見ると、俺は自然と彼女を愛でたくなってしまい、抱きしめてしまおうとした。その時に彼女の方も嫌がる素振りを一切見せずにむしろ喜んで俺の胸に顔を埋めていたのである。そこで俺は彼女の匂いを嗅ぎ、そして彼女の体全体を舐め回すようにして確認していくのである。そしてそこで、彼女の胸元にも紋章があることに気付き、その部分を確認してみると、やはりそこには、そのマークがあったのである。そこで俺達はお互いに自己紹介を始めることにしたのだ。

そしてお互いのことを語り始める。まず彼女は俺よりも二歳年上のお姉さんであることが発覚し。しかも彼女は王女であることが判明をしたのだ。俺が彼女に抱いていた印象というのはどこかの貴族の令嬢だと思っており、俺は彼女の年齢のことを考えても、まだ社交界に出る年ではないと考えていたからこそ、こんなところで一人で遊んでいたんだろうとそう思っていたのだ。

でも俺の考えは違ったようである。どうやらこの国の王族は俺の母さんみたいに若くして王の地位に就くものも少なくないのだそうだ。そして俺が気になったのは母さんが言っていた言葉である。それは母さんと彼女の母さんは昔からの親友同士で。彼女は俺が母さんの子であることを告げた時に、自分の母親に教えてもらえなかったことを教えてもらえて嬉しいと、涙を流す程感動してくれているのである。

そんな風に話を聞いてくれていると、彼女の方から、俺が欲しいと、俺が欲しくなって仕方がないと告白してきたのである。そしてそのままの流れで俺は彼女の唇を奪い取ることに成功する。それからキスの気持ち良さに酔いしれながらも俺は彼女に俺の正体を告げることにするのであった。

そして俺の言葉を聞くなり、彼女もまた俺と同じく涙を流しながら喜んでいたのだ。

「ご主人様ぁ♡私もうあなたの奴隷になる準備は整っておりますわ!私をお好きにしてくださいませ!でも一つだけ私からもお願いがあるのでございます」

と、言うと急に服を脱ごうとする仕草を見せるが俺はそんなことはさせない。俺がそういう行動をすると思っていたのか彼女は直ぐに大人しくなるのだった。それで彼女が何を望んでいるのかを確認すると、どうやら俺が他の女の子とイチャイチャするのが許せないと言っているのだ。どうやら自分が俺のことを独占したいらしく、そんなことを言い出したのだ。そして彼女は更に言葉を続けた。

「ご主人様には既に奥さまが居るのですよね? その方とはいつ出会うことになっているんですか??」

俺はこの言葉を聞くなり、少しだけ考えるような動作を見せながら答えを返したのである。

その答えは俺は答えは勿論――いませんよ!である。

俺はまだ結婚できる歳じゃなかったからだ。まぁ正確に言えば俺はもうすでに二十歳で。結婚しても全く問題はないのだが、今の俺が結婚することなんか出来るはずもないと思ったからである。だってその前にやるべきことが山ほどあるのである。

俺は彼女とそんなことを話し合いつつ。

これからの行動方針を話し合う。そしてそんな最中にいきなりドアが開かれて二人の男性が入ってきたのだ。

「あらあら、二人とも楽しそうなことをしていますねぇ。でも駄目ですよ?私達の目の前にいるお方が、この世界では最強とまで言われたあの勇者様なんですよ? そんな人の前でそんな行為を始めてしまうのは良くないことですからねぇ」

その女性に言われると俺達は二人して恥ずかしくなり顔を赤く染めていく。その女性はまるでお手本のような笑顔を俺達に向けてきていた。

その女性の姿はとても綺麗で、俺は一瞬見惚れてしまう。その瞬間俺は彼女の目が俺のことをしっかりと見ていることに気が付くのである。その視線はどう見ても好意的とはいい難いものであり、何か裏がありそうな目をしていたのだ。でも俺はこの女性が敵かどうかも分からず、迂闊に行動を起こすことが出来ないでいたのである。だがこの場はどうすることもできずに流されるように事が進んだのである。

その女性はその後この国にある学園に通えば良いと助言してくれる。それから俺とユミィはその女性の言われるがままに、その女性に手を繋がれ城の中を移動させられるのである。そんな時にその女性の名前が分かったのだった。その女性はなんとこの国の王妃だったのだ。俺はそのことをユミィに伝えると。ユミィは嬉しそうに頬に手を当てながらにっこりと微笑んでいるのだった。そんな光景を見ていると、とても仲の良い親子なんだと感じることができた。それから俺達が向かった場所はこの国の中にある学園と呼ばれる場所であり。そこは、冒険者を育成する機関でもある場所らしい。そこで俺はこの国にやって来た目的を果たすために、ここで暫くの間は生活をすることになるようだ。そして俺はその日を境に、この国の姫と一緒に暮らすことになる。そして、俺の日常がこの世界に転生してから激変していくことになるのだった。

「ん~~。やっぱりおかしいよぉ。どうして私の攻撃が全て避けられてしまうのかな~。どうして私はこんなにもあなたのことを好きなのかな~」

俺はそんな彼女の発言を聞きながらにっこりと笑みを返すのである。そしてそんな俺を見て彼女は更に可愛く見えるのだと口にしていた。そんな彼女は俺に近付くと俺の顔に触れてくる。俺はそれに対して何もせずにただ受け入れたのだった。すると彼女は俺のことを抱きしめてきて。そして俺はされるがままになっているのである。

「本当に不思議な子。どうしてなのかな。あなたに抱きしめられていると安心しちゃう。だからもっと一緒に居たくなっちゃうの。だからずっとここに居て欲しいって思っちゃったんだよね。それくらい私にとって、あなたの存在は特別なものになっているんだよ」

それからしばらくすると、何故かユミィちゃんが俺に対して攻撃を仕掛けてきたのである。しかもその攻撃は全て俺が避けやすいものだった。だけどユミィちゃんの動きがどんどん加速していくようになっていくのが見て取れるのである。俺はその様子をじっくりと観察することにした。何故ならこの子の本気がどれ程の物かを知っておきたかったからだ。それから数十秒後に俺は、今のままの状態で戦っていては勝ち目は薄いと判断して、本気で戦いに行くことにした。でもその時俺が考えていたのは、別に殺し合いをしに来たわけではないので、殺すつもりで行くのではなく。相手を傷つけない様に倒すのを意識して、俺は戦うことにしたのだ。

そしてその結果として、俺は彼女の攻撃を難なく回避することが出来るようになるのである。俺が避けれるようになると彼女は少しだけ残念そうな表情をして俺の所から去って行ってしまうのである。

俺はそんな彼女を寂しいと思う気持ちを抱きつつも、次の試合が始まるのを待つのであった。

俺が試合をしている間に、ユミィちゃんに俺のことを諦めさせようと考えたが、何故かそれが出来ないでいるのだった。そこで俺はユミィちゃんとの会話中に何か良い案が無いかと考えを巡らせる。そこでふと思い付いたことがある。それは彼女の俺に対する気持ちを利用して、彼女のことをどうにかすることは出来ないかということを考えていたのだった。その方法として思いついたのが、俺のハーレム計画について話すことだ。そうすればユミィちゃんが俺のことを嫌いになってくれればと考えたのだ。そう思い俺は彼女に俺が異世界から来たということを、話し始めるのである。

俺が話し終えると彼女は何故か泣いてしまい。

俺は彼女の頭を撫でることにするのだった。そして何故か俺の体にしがみついて離れなくなってしまったのだ。そして俺に抱きつきながらも涙を流し続けているのである。そして彼女の口からは俺と同じような境遇でこの世界に転移させられたことを聞かされた。

俺はそこで、その話が事実なのかどうかは判断することができないが、少なくとも彼女も何らかの方法で元の世界に戻ることが出来たのだということが分かったのだ。そこで俺は彼女に、元の世界に戻りたいと思っているのかを聞いてみると、彼女から帰ってみたいという返事を聞くことに成功するのである。でもその方法が全く分からないとのことだった。なので俺はそんな彼女がかわいそうに思って、元の世界に戻れなくなった代わりに。俺が彼女のことをこの世界で生きていけるようにしてあげると言ってしまう。そして俺はこの世界には、この世界の魔王がいるという話を思い出したのである。その話を彼女にすると、急に怒り出し始め、この世界でもその悪さをする奴らがいることを告げられたのである。それで彼女はその人物を討伐するために旅をしていると言っていた。それで俺も興味を持ち、そんな彼女の話に付き合ってあげることにしたのだ。それから俺はユミィちゃんにこれから向かう街までの道中は護衛を引き受けることにする。そんなこんなで俺とユミィちゃんの旅が始まったのである。

俺は彼女のことが気になったので名前を聞いてみることにする。でもその質問に答えてもらえなかったので。勝手に名前を呼んでもいいのかどうかを聞くと、俺の呼び方で構わないと言われた。でも俺は、この国の姫の名前を俺が呼び捨てにすることを許してくれなかったのだ。それから彼女から色々な話を聞くことになり、どうやら彼女の名前を呼ぶことは許されることになった。俺はそんな彼女と一緒に歩きながら移動を始める。でも彼女から少し離れたところに複数の人の気配を感じ取った俺は、彼女に向かって少し待つように言う。そして俺がその人達のところへ向かうと、どうやらこの人は俺と敵対する意志がないらしくて。俺の行動を黙って見守っているようだった。

「君達。どうしてユミィを襲っていたの?」

俺がそう尋ねると、彼等の一人が声を上げたのだ。その男の見た目から、この国の騎士であることが分かる。そんな男が急に現れ、俺がこの国に危害を加えにきた敵だと思い、俺に攻撃を仕掛けてきていた。俺はその攻撃を全て避ける。すると男はすぐに逃げようとするが、それを見逃さなかった俺は直ぐに彼の動きを封じてしまう。それから俺は彼から詳しい話を聞いたのである。すると彼はどうやら自分の仕える国を守るための行動を起こしていただけだったようだ。

でもその話の最中にユミィは突然俺に近付いてきて、俺が倒した男のことを睨んでいた。そのことに俺は気が付くとユミィに話しかけるのだった。

それから俺は、ユミィちゃんを連れて学園に向かうことにした。

俺達は今学園に居る。俺はこの国の王妃様に言われて学園に通い始める。だが、ユミィちゃんも一緒に学園に通うと言い出したのだ。その理由を聞くと学園の生徒が危険にさらされるのを見過ごすわけにはいかないらしい。

俺達は二人で並んで歩く。だが、周りからはまるで俺達が仲良しの恋人にでも見えているような感じなのだ。そんな光景を見た周りの人の中には俺に羨ましそうな視線を向けてくる。そして中には、どうしてお前のような何処の馬の骨ともわからない輩が、姫様の隣に立っているのだと。そのせいでユラが嫉妬した顔を俺に向けてきていて、俺の心臓の鼓動は高鳴っている状態が続いている。

それから俺とユミィちゃんは受付に向かい学園の生徒になる手続きを始めたのだ。でもその途中で、俺はユミィちゃんと離れることになるのである。というのも彼女はどうやら、これからある場所で模擬戦をすることになっていた。その相手を俺は見学させてもらえるようになっていたのだ。その会場に入ると既に多くの観客が集まっていた。

俺はユミィの戦いぶりを観察する。彼女はとても美しい動きをしながら剣を扱っているのだが、どこか危うさを感じたのだ。俺はそれに気がつくとすぐに彼女に助言を与える。それから数分間ユミィと俺との闘いが続くと、俺がユミィの身体に怪我をさせない程度のダメージを与えると、ユミィちゃんの動きが止まるのである。

俺はユミィの実力に驚いていた。この年齢であれだけの技を身に付けているのは、かなりの努力を積み重ねてきたんだなと思ったのである。そんな風に考えているとユミィは嬉しそうにしながらこちらに近づいてくると、そのまま俺の腕の中に飛び込んで来るのだった。そしてその行動に対して俺が慌てていると、彼女は恥ずかしそうにしながら俺の顔を見上げてきて。それから何故か彼女は俺の頬に手を当ててくるのである。その光景を見た観衆から歓声が上がり、ユミィはそれに対して手を振り応えていた。その姿を見て、俺の胸がドキドキしてしまうのだった。

「ん~。やっぱりおかしいよぉ。どうして私の攻撃が全て避けられてしまうのかな~。どうして私はこんなにもあなたのことを好きなのかな~」

そんな彼女の発言を聞きながらにっこりと笑みを返す。すると彼女は更に可愛く見えるのだと言われてしまう。

そんな彼女の発言に対して、思わず可愛いよという言葉が出そうになるが。何とか我慢する。するとそんな俺の表情をみた彼女は少しだけ頬を赤く染めると俺の顔に触れてくる。俺はそんな彼女の行動を受け入れた。そんな俺と彼女の様子を目撃した一部の者達から俺に殺気が送られてくるのである。俺はその状況を見て苦笑いしか浮かべれないでいた。そんなこんなで俺は、目の前のユミィという女の子の相手をしながら今後のことを考えていたのだった。そこで俺はユミィという少女がなぜこのような行動をとるのかを考える。そこで俺の中である可能性が頭に浮かんだのだった。俺はそれからユミィの攻撃を軽々と避け続ける。そして数分後に俺の勝ちでこの場を収めることにしたのである。そして試合が終わると彼女は俺から離れていくと、そのまま去って行く。その時に俺は、彼女ともう一度話したいことがあると告げる。そして、また今度話をしようと言ってその場から立ち去るのだった。

それから俺は一度城に戻ることになった。俺のこの国の王への謁見が決まったのだ。

そして俺は謁見の間で王の前で頭を垂れて挨拶を済ませると顔を上げるように言われる。俺はその指示に従うと、そこには王が俺の前に姿を現した。俺はそんな王から話を聞かさせてもらうと、どうやら俺が元居た世界には魔王が君臨しており、その魔王の力はあまりにも強大すぎて。魔王の力を抑えることが出来ないそうだ。それでその魔王は世界を滅ぼそうと、俺の住む国を含むいくつかの大国で同盟を組み、魔王に立ち向かおうとしていたのだが、どうやらその作戦も失敗し魔王が暴れだしているので、魔王の力が及ぶ範囲から俺の住む国は避難するようにとの忠告を受けたのである。俺はそれを聞いて、その魔王は俺と同じ境遇の存在なのではないかと思ってしまった。俺はそんなことを聞いても特に動揺せずに王の話を聞いていられたのだ。

それから王は俺に褒美を渡すと言うと俺にあることを告げてくれるのであった。それはユミィのことについての話だった。ユミィが今回の俺の活躍について王に話して聞かせると。王が是非に会ってみたいというのでユミィが今日は学園の方にいるはずなので、そのことを確認するために俺に会いに来たと教えてくれたのである。

それから俺は、ユミィを探しに行くために学園へと向かうことにした。学園では生徒達の模擬戦が行われている最中だった。俺はその様子を眺めていると、その中で見知った姿を発見したのである。

俺がその人物に近づくとそいつが話しかけて来た。俺はこの人物の名前を思い出すことができない。そこで俺がそのことを指摘するとそいつは名前を名乗ったのだ。俺はその名前に違和感を感じる。そして俺はこの人物の話を詳しく聞くことに決めるのである。どうやらこの人物がユミィの護衛として選ばれた騎士であることが判明した。そこでそいつは、自分がユミィのことが好きなので、俺に彼女の側にいてあげてほしいと言われたのである。そんなことを言うものだから、俺の思考は停止したのだ。俺はユミィがこいつと付き合っているのかを聞くと、まだそのような関係には至っていないと聞いて安心した。俺はそのことにほっとするが、こいつがとんでもない言葉を俺に放ってくるのだった。

「私の名前はリリアナと言います。貴方に一目惚れしてしまいました。ですので私と付き合ってください」

そんな言葉を投げかけられた俺の頭の中は完全に真っ白になったのである。

俺の心臓の鼓動はかなり早いリズムを刻んでいる。

俺は、この世界に転生してくる前に聞いたことのある声の人物に出会うことになる。だが、この人物は俺のことを知らないようだったので、俺は少し残念に思うと同時に安堵する。だってこの人はどう見ても美少女だし、それに俺と年が同じぐらいの見た目をしているからだ。そんな彼女がどうして俺のことを知っているのだろうか。

「君は誰?どうして俺のことを知ってるの?」

そんな俺の言葉を聞いた彼女は、俺の質問に答えることなく微笑むだけだった。そんな彼女の態度をみて俺は困惑したのだ。それからしばらくすると彼女は唐突に動き出した。俺がそれを警戒していると俺に向かって手を突き出したのである。すると次の瞬間、俺の足下に黒い影が現れそれが一気に俺を包み込んだのだ。俺の視界は暗闇に飲み込まれてしまったのである。それからすぐに光が差すと、そこには一人の美しい女性の姿が見えた。その女性は俺のことをジッと見つめてくると、いきなり抱きついて来てそのまま俺に口づけをしたのだ。俺は慌てて彼女を突き放すのだが、俺から離れた彼女はなぜか満足そうな表情をして消えていったのである。

俺は自分の身体に異常がないかを確認しようと、全身を触りながら自分の身体を確認するが特に問題はなさそうに感じる。そんな俺の背後からは聞き覚えのある女性の声が聞こえてくるのだった。

俺が振り返るとそこには金髪の少女の姿があった。そのことに驚きながらも俺はその少女のことをよく見てみることにする。

「あの~。どうして貴女がこの学園にいるんですか?」

俺は、彼女に対してそう尋ねたのだ。すると、そんな俺に対して少女は自分の名前を明かす。だが、俺は彼女の名を聞いたことがない。だが俺は彼女の外見を見て気がついた。この子は先程見た俺と同年代位の子なのだ。でも、さっきまで俺にキスしてきたのがこの少女だと思うとかなり恥ずかしくなる。だが彼女はそんな俺の気などお構いなしに話しかけてきたのである。彼女は俺がこの学園に通う事になった経緯を説明すると俺と一緒に行きたいと言ってきたのだ。でも、流石に俺にはその許可が出せないだろうと思っていたら、何故か王妃様の了承を得たらしい。そして王妃様が直々に俺とこの子をこの城に招待してくれているというのだった。

俺は王妃様に呼び出される事になる。俺を呼び出したのは王妃様ではなく王妃様のお母様だった。俺は彼女の話を聞くと、彼女はどうやら俺と話をしたいとの事だった。だから俺は断る理由もなかったのだが、その話をすると、俺が断れないのを見透かしていたのか、彼女は俺をこの城へ招待するのである。俺とこの子がこの城を見学した後に食事をご馳走してくれるという。俺達はその食事の時間を楽しみにする事にしたのだった。それから俺は、城の中に案内されて見学する時間を与えられる。俺がこの城の事をいろいろ見ているとその部屋の一つから泣き叫ぶような悲鳴が俺の耳に入ってくる。俺がそちらに目を向けると、この国の騎士らしき人が少女を人質にとっている場面に出くわしたのだ。そして少女が何かを言っているが何を言っているのかは理解できなかったのである。俺の後ろで護衛をしていてくれていたこの子の知り合いの人に視線を送ると彼女はそれに気づきこの子に合図を出す。その行動で彼女は俺の考えを理解してくれたらしく、俺の指示に従って行動してくれたのだ。そのおかげでこの事態が収拾することになったのだった。

俺の目の前に現れたこの国の王妃様は、とても気さくな人なんだなって思った。それから、彼女の提案で俺たちは彼女のお茶を頂きながら楽しく会話をすることが出来た。それから俺は、この城の中にある書物を読ませてもらうことをお願いする。俺は、この城の中にあった図書室を利用させてもらえることになったのである。そこで俺は、異世界についての歴史を学ぶことになったのだ。その書物には俺の世界にも伝わる昔話などがたくさん記されていたのである。

俺はそこで、ユミィという名前を見つけることが出来たのでユミィのことについて調べてみることにした。その結果わかったのは俺がいた世界の過去に起きた事実を知ることになったのである。ユミィは魔王を倒した後で魔王の封印の役目を担っていたが、魔王の力の影響で魔物が生まれてしまいその力を抑えきれなくなったユミィは暴走してしまったのだ。それにより魔王の力を半分に抑える事に成功したものの魔王の力は増大してしまい世界を滅ぼす事が可能なレベルにまで達することになる。そして魔王の力は世界を蝕み世界は破滅を迎えようとしていた。そんな時勇者召喚の儀式が行われ魔王の力を持つ者を呼び出すことに成功した。その者は圧倒的な力を持ちこの世界を救うために行動を開始することになる。そしてユミィはその勇者とともにこの世界を救おうとしたのである。

俺もこの本を読んでいるときに驚いたことがある。どうも今の俺は、俺と同じ世界から来たと思われる人物が、この世界を救おうと動いているという事が書かれていたからである。そして俺はユミィという女の子とこの話の内容が全く同じだと感じたのだった。

俺はユミルと言う名の少年が記した日記を手に取った。

◆ 今日も僕の訓練が始まったんだ。僕は今剣の扱いについて学んでるんだよ。最初はこの国で一番偉くて強い人の指導の元で剣の訓練を受けてたんだけど、その人との相性が良くなかったのか、それともその人から学ぶ事は僕には合わなかったみたい。それからは違う人の指導を受けるようになったんだよ?だけどやっぱりその人達とは相性が悪くてね。それで、結局その人たちの指導は受けてないよ。それで今度は魔法の勉強を始めたわけなんだよね。その先生が言うには魔法の属性にはそれぞれ特性があって、それによって適性があるかどうか判断することが出来るっていう話を聞いてから毎日勉強をしているんだけど、なかなか思うようにいかなくて落ち込む事が多いんだよな。

でもそんな僕に最近になって嬉しい出来事が起こっている。それはある男の子がこの学校に編入して来たということなんだよ。名前はユウト君って言う名前なんだけど、どうやら彼は勇者召喚によってこの国に呼ばれて来たらしいんだ。でも彼ってちょっと変わったところがあって、どうも普通の生徒とは違って見えるんだ。例えば、彼が誰かに攻撃されるとかそんな場面を見たことは無い。いつもどこか余裕を感じてしまうような態度をとっているんだ。しかもこの学校の入学試験の結果を見てみたら彼の実力はトップクラスだった。つまり彼は相当な実力者である可能性が高いと言う訳。

そんな彼がこの学校に転入してきたことでこの学校は今少しざわついている。なぜならばこの学校に入学できる生徒は皆この国の最高レベルの生徒だけという決まり事がある。なのに転入してきた生徒がこの学校の生徒に勝ったという結果は、どう見てもおかしいことなのである。そんな彼と僕は友達になったのである。彼にはこの学校で困ったことが起きたら助けてくれないかというお願いをされたから快くその申し出を了承したのだ。でも、そのことが他のみんなからしたら面白く無いのか最近は良く思われていないのが実情である。でもまあそれも時間が解決してくれるかなと思うことにして気にしないことにしたのであった。

それからしばらくしてから僕は、ある女性と二人っきりで城下町を歩いているのだ。

「リーリア。君は本当に可愛いね。私はもう我慢できない。私にキスさせてくれるかい?」

そんな言葉をかけられても、私はそれに答えることが出来なかった。そんな私の姿を見ていた目の前の男性がいきなり豹変したのである。

「ああ、いい表情じゃないか!実にいい。いい感じに蕩けてきているようだね。そろそろ始めようか?」

そんな男性の声が聞こえると共に、私は黒い影に飲み込まれてしまったのだ。私がその影から逃れようとすると、なぜか身体がいうことを聞かない。まるで金縛りに遭ったかのような感覚に陥ってしまう。そんな私の唇に男の人がキスをしてきた。それから私の口の中に生暖かいものが流れ込んでくる。その不快に思う感触に、私の中で拒絶の意思が生まれるのだが、その気持ちとは裏腹にその物体を自分の身体はどんどん受け入れていく。その行為を繰り返されているうちに、私の頭の中では嫌な音と何かが崩れるような音が鳴り響くのである。

そんな状態のままどのくらいの時間が経っただろうか、気がつけば黒い影は消えており、代わりにあの男の姿が目の前に見えていた。そしてその男は私に向けてこう言ったのである。

――愛しい妻よ。さぁお前が望むならこれからいくらでもその願いを叶えてやるぞ そう言い放つ男に対して、その言葉を告げた相手であるはずの女性がなぜか歓喜している。それを見てさらに困惑してしまうのだ。

(この人は一体何を言っているのだろう。なんでこんな状況になっているのか全く分からない。どうして?なんで??)

そんな疑問が頭に思い浮かぶ。

それからしばらく経って落ち着いたのか女性はあの人に話し掛けてきたのだった。その内容は、先程のキスはただの挨拶なのだからそんな風に思わないようにして欲しいという内容。そしてその言葉を聞いた男が何かを呟いていた。だが私にはまだ聞き取れない言語であり理解することができなかったのである。そして男は突然部屋を出て行ったのである。私は、それを黙って見送ってしまった。だってその時に見た女性の目つきが異常だったのだ。だから私は恐怖心を抱きながらその場から離れるために急いで逃げ出したのである。その後すぐに騎士の女性に声をかけられてその人と一緒に行動する事にするのだった。

俺は今目の前で起きた事を受け入れることが出来ず、その場に佇んでいた。

それから暫くして、一人の女性が俺の部屋にやってきたんだ。そして俺は彼女に抱きしめられたまま意識を失うのだった。

俺は目を覚ますとそこは俺の部屋ではなく見知らぬ部屋に居たのである。そしてそこに現れたのは王妃様と呼ばれる人物で、俺が目を覚ました事を喜ぶ様子を見せたので、とりあえず俺も笑顔を見せて挨拶をすることにする。

俺と彼女は互いに名乗り合いそれから俺の方も簡単に自己紹介をした。そして彼女は俺と話をするために俺のことをこの城に招いたという話をしてくる。その話を聞き、流石に断れないと思い彼女の招待を受けることにした。彼女は王妃ではなく国王の妻として存在しているため俺はその呼び方はどうかと提案するのだが王妃は俺の提案に対して微笑むだけで何も答えようとはしなかった。仕方なくそのまま彼女の誘いを受けると、彼女は楽しそうな顔をして笑みを浮かべると俺に案内を始める。その途中俺は部屋の中にある書物を手に取り読むことを許可される。それから俺はその書物を読みふけるのである。そこでこの世界の過去について記されている書物をみつけた。そこには勇者と呼ばれた者たちについて書かれている。俺と同じ世界から来ていると思われるその書物の内容が気になった俺はこの世界についての事を知りたくなってつい彼女からこの国に伝わる歴史というものを質問したのだ。

そんな俺の言葉に彼女は喜んでその話をすると言ってくれたのである。それから俺とその人は二人っきりで城の中庭で茶を飲み交わしながら会話を楽しむ。それから彼女が言うには城の中には俺が読んでいた書物は殆ど置いていないと言う。なので、できればもっと詳しくこの国のことについて説明をしてあげたいと言われてしまい断ることも出来ず彼女の話を聞くことになったのだ。そこで聞いた内容は信じられないものばかりである。特に魔王や異世界から来た人間といった内容にはかなり驚いたものである。

その書物にはこの国に起きた過去の事件について記されていて、その内容が真実ならばこの国は魔王によって滅ぼされかけていたことになる。俺はそんな事実を知ってしまう。

俺がその事を信じることが出来ないでいる中、王妃は話を続ける。それから俺にこの世界の過去にあった出来事について話を始めたのである。それは魔王が出現した事から始まったというのだ。それから魔王は力を付け始めると、この世界を支配するべく動き出したという。魔王の力がこの世界に影響を及ぼすようになると、魔物という魔物が各地で出現しだす。それにより人間は生活環境が悪化して苦しんだのである。そんな中で魔王は次々と強力な配下を生み出しこの世界へと解き放ったらしい。それにより人々は混乱に陥り、その事態を収めるために立ち上がった勇者がいてこの世界を救い魔王を倒したというのである。そんな話を聞かされ俺は何となくだけど勇者が誰のことなのかが分かってしまった。そしてその勇者こそが、俺の世界からやって来た俺であるということも、なんとなくではあるが分かったのである。

俺はその話の途中から気分が悪くなり吐き気に襲われていた。だけどそれを必死に堪えながら何とか乗り切ったのである。そして俺は彼女にもう大丈夫ですと答えて立ち上がる。

そんな俺の様子を心配した彼女は優しく接してくれ、もう少しだけ話を続けたいと言い出してきた。俺は正直このままこの場所にいると俺は耐えられなくなりそうだと思っており、俺はもうこれ以上は勘弁して貰えないか頼んでみる。すると、どうやらまだ納得してくれたらしく渋々と言った形で承諾を得ることができたのである。

それからしばらくしてからようやく話が終わって開放されると安心したが、何故か王妃はそのまま部屋から出て行こうとはせず俺に話しかけてくるのである。それから王妃はなぜか俺に向かって自分のことを好きにならないか尋ねて来たのだ。その問いかけに対し、どうしていきなりそのようなことを訪ねて来たのだろうかと思ったものの一応素直に答えることにしたのであった。その返事を聞いて満足そうにする女性を見て少し不安になってしまうが、この人がどういう考えを持っているのか分からないためあまり気にしないようにしようと考える。しかしどうも様子がおかしい気がしたので聞いてみた。その結果この人は俺のことが好きだということとその理由まで聞かせてくれる。

その理由について俺は理解できなくはない。なぜならばこの人もまた俺と同じようにこの世界に召喚されてきた身であり、しかも彼女はどうやら過去に俺が経験したことをその身に体験してきたようだからである。

◆ それから数日の月日が流れた後、私とあの人の間には子供が出来た。それが娘だと判明したとき、私は涙が出そうになる。そんな私の反応を見ていた彼が私に抱きつくようにして感謝の言葉を述べてくれたのだ。そんな彼がとても愛しく思えるようになり、私はその人の手を取るとキスをしていた。その時私は彼に告白をした。

彼は最初私のことを疑っていたが私にはもうこの人だけなのだということを説明するとやっと信用してくれたようで私の想いを受けれてくれたのである。

それから更に時は流れていき、やがてその子がお腹の中から産まれてきた。

生まれたばかりのその女の子を見て、私は涙を流す。その小さな身体から出てくる産声は、とても力強く私達を勇気づけてくれているかのようだった。そんな我が子の姿を見届けた後、今度はあの人がその子供に名前を付けて欲しいと頼み込んできたのである。

そして私はその願いに応える為に必死に頭を働かせながら考えた結果その名前を思い付いた。

「リーリア。君の名前が決まったよ。この子のことはこれからリーリアと呼んであげると良い。」

私が思いついたその名はあの人の名でもあるのだが、そのことに関してあの人は気にすることなく受け入れてくれるのであった。それから私は、これからも彼の側で彼を支えていくために今まで以上に仕事に精を出すことを決意したのである。

「私はね、あなたが好きなのよ。だからね。あなたにはこれから先私の傍で私を幸せにしてもらう義務があるのよ。でもその前にね?私はあなたがどんな人か見てみようと思っているの。その確認が済んだ時、もし私の予想通りの人物なら私も覚悟を決めるわ。」そう告げたあの女の目は本気そのもののように感じたのだ。そして、その瞳を見たときになぜか恐怖感を覚えたのである。そして、それと同時に俺はある事に気づく。

(どうしてこの人は俺に執着するのだろう。この人は一体何を考えているのだろうか。そもそもなぜあの女性は俺の居場所を知っている?俺は誰にも言っていないはずなのにどうして?)

俺はこの人に自分がどこに居るのかなど告げてはいない。

そして俺は今あの女性が目の前に現れた事について考えていた。俺はあの女性が苦手なのだ。それは別にあの女性が嫌いな訳ではないのだが、それでもどうしても恐怖心を抱いてしまうのである。そして、今目の前に立っている女性は、まるで自分の思い通りに行かないことが嫌だという感情が顔に出ていたのである。

そして俺は、その女性が自分に何かを求めているような目をしていることに気が付いた。その視線の意味が何を意味しているのか全く理解できなかったが、とりあえず今は逃げないとマズイと感じた俺は咄嵯に逃げ出したのだ。

だが相手の方が一枚上手だったようで簡単に捕まってしまう。それから逃げることが出来ないと判断した俺は何も抵抗をせずにその人からの行為を受け入れる事にした。そんな状況に俺の理性は徐々に崩れ始めてしまい目の前の女性との行為を本気で楽しんでいた。だがそれもすぐに限界を迎えてしまい、俺はその場で意識を失ってしまい倒れるのである。そして、次に目を覚ました時にはベッドの上に寝かされていた。そんな俺の元にやってきた彼女は俺の顔を見ながら笑顔で話し掛けてきたのだ。

(なんでこんなことになったんだろうか。まさかあんな展開になるなんて思ってもいなかった。)

俺は彼女の行動を思い出すと頭が痛くなってきてしまったのである。それから彼女は、この世界の事について話し始めた。

そしてこの国の事について色々と教えてくれたのだった。そこで彼女はこの国が魔族という者達に脅かされているという現状を語ってくれたのである。そんな彼女はその状況を打開すべく魔王を倒す旅に出たいのだという。その話を聞いた俺には彼女が言っている魔王と勇者が自分を指しているのではないかと疑いを持つ。そしてそんな話を俺が聞くと彼女は突然怒り出したのである。その言葉遣いや俺の態度からこの世界の人間じゃないだろうと見抜いてきたのである。そこで、俺は彼女のことをこの国で最強の存在だと言われている女性である事を知る。

それから俺は、彼女に質問を投げかけて見た。彼女はそれに対して素直に俺の言葉に答える。そんな彼女の様子から俺がこの世界とは別の世界から来たということをあっさりと受け入れるのである。それからこの世界の事を俺が知りたいと思うことを質問する。それからしばらく時間が経つと、彼女はその質問に飽きたのかこの城の中を俺に見せてくれると言い出すのである。最初は面倒臭いと思ったものの、その方が彼女にとって都合が良いと考えその提案を受け入れたのである。

それから彼女に連れられて俺は城を歩き回り始めると、その途中に色々な人達と出会わしたのだ。

そして、その中の一人の男性と俺は出会ってしまうのである。それはなんと俺に求婚を求めてきた人物であり、名前は『ライザ』という女性であり俺よりも年齢は上らしい。

俺はその人の目つきが非常に鋭く怖かったのだ。しかも俺を見る目には殺意が込められている気がしたため、つい反射的に攻撃しそうになったがなんとか踏み止まることに成功する。そんな俺の様子にその男性は俺の警戒が強まったことを察して俺がどうしてここに来たのかを聞き出そうとしていた。

それからこの城に来た目的が観光だということを正直に答えて誤魔化すことにした。するとその人は少し納得がいかないと言った表情をしながら俺のことを見ている。しかしそれ以上に俺はこの場に長く居たくないと思ってしまったのだ。そして、その場を離れようとすると、いつの間にかその人の姿が消えており気配を感じなくなっていた。そんな俺の元に、この城に滞在するという許可を得たことを告げるためあの女性がやってきたのである。俺はこの女性があの男性に対して好意を抱いていることを知り、なんとなく嫉妬しているように見えてしまう。

それから俺はその女性の話を聞いている内に、その人が魔王であるということを理解することになる。そんな話を聞かされて俺は動揺を隠すことが出来ずにいると、この人はそんな俺の反応を見てクスリと笑っていたのである。

それからその魔王はこの城の事を俺に説明し始めると、最後に俺を連れて何処かに案内しようと動き出した。その移動の途中であの男とまた遭遇することになると、この女魔王はその人に対し、どうやらかなり惚れているようだということに気づく。そしてその男が、どうやらその魔王の恋人らしいことも知った。そんな二人が楽しそうに会話をしていてその様子を俺はただ呆然としながら見守っているしかなかったのである。

それから二人はこの王城内にある訓練所のような場所に着くと俺はここで二人から剣の扱い方を教わることにする。まずは簡単な護身術を学ぶことになり、その後にこの女性と一緒に剣術の稽古をすることになっていた。

俺は二人の実力が気になり模擬戦をしてみることに決めると、この女性もそれに賛同する。その人はどうやらこの国の中で二番目に強い実力者だということを知り、その実力を確かめるため俺はその人と模擬戦をすることになったのだ。

それからしばらくの間、俺はこの人にひたすら鍛えられる。そんな俺をこの人は興味深そうに見てくると、何故かいきなり俺の事を抱きしめて来たのである。

俺は何が起きたのか理解できなく、その人が何を考えているのか理解が出来ずに固まってしまっていた。そして、俺を抱き締めたまま離してくれずそのまま俺達は時間を過ごしていった。そして、俺がようやく解放された時には俺の体力はほとんどなくなっていて疲れ切ってしまったのである。

そんな俺をこの人は嬉しそうに眺めると頭を撫でながら優しく微笑んでいたのであった。それから暫く俺はその女性と行動を共にしていた。だが俺は、この女性が本当に強いのか疑問を抱いていたのであった。なぜならば彼女はその実力を見せていないからだ。その事がずっと気になっていたのだが、そのことを聞いても教えてくれなかったのだ。

それから数日の間その人の行動を俺は追いかけていたが、結局その人の実力を俺は知ることはなかった。その女性はある日突然姿を消してしまったのだ。その日を境に俺はあの人の姿を一度も見かけなくなってしまう。

俺はこの数日の体験によってこの世界がとても危ない状況になっていることを知る事になる。この世界を蝕んでいる魔族と呼ばれる者達と人間の戦争が始まりそうなのだというのだ。そしてその魔族は今現在この国に進行しようとしているという。それを知った俺に、あの人は魔族のことを教えると俺に頼みがあるから着いて来てほしいと言う。その言葉を聞いた俺はその人に着いて行く事にしたのである。

そして、その場所にたどり着くと俺はその光景を目の当たりにしてしまい俺は驚愕するのである。その場所にはすでに何人もの犠牲者がそこには横たわっておりその人たちが皆血を流しながら苦しむ姿はまさに地獄のようであった。そしてその中心にはこの世界に蔓延っている悪の親玉と思われる存在が立っていたのだ。

その人物の姿を見た時俺は恐怖で体が震え始め動けなくなってしまったのである。

だがその人はそんな俺の事を心配してか声をかけてくれて俺はどうにか冷静さを取り戻すことができた。その女性はそんな状態の俺にその人を殺すために力を貸して欲しいと頼む。だが俺はそんなことをしたくはないと言って断りを入れる。そして俺はあの人から逃げるためにその場から走り出すと俺はその人の手を振り払い逃げたのである。そしてその瞬間その人は俺の目の前まで現れるとその手で俺の顔を掴み上げ、その人は俺を殺さんばかりの眼光で俺を見つめてきた。そして俺は抵抗することができずされるがままの状態でいると、その人は何かに気付いたのか慌てて逃げ始めると今度は俺もその後を追いかける形になって逃げていく。そしてそれから数分後、この国は滅びようとしていたのだが、そこにある一人の存在が突如として現れ事態を解決してしまったのだったのだ。それからその人物が去って行く前に彼女はその人に自分の名前を告げた後、ある事を話し始める。

その話とは彼女が実はこの世界の魔王であり、今この国に攻め込もうとしていた魔族達を倒しにこの地に降りてきたのだと告白をしたのだ。そんな事を言い出した彼女は、その魔王の証を俺に見せてその言葉を証明しようとしたのである。そんな時、あの男は魔王様から俺を奪い取るかのように抱きかかえると魔王様に怒りをぶつけるように睨みつけたのだ。だがその時すでに魔王様はその姿を消しており、この場に居なくなっていた。その事を知った俺はその場に残ってこの世界を守ろうとしたが、既にこの場所には誰もいなくなり俺は仕方なく帰る方法を探す為にその場を離れることにしたのである。

(あの魔王が言っていた俺に助けを求めるという願いとは何なのか。その真相が気になるな。)

そして次の日の朝目が覚めるとベッドの上で寝かされていた事に俺は驚いたが特に問題がないと判断したためそのままベッドから降りると、その部屋に案内された経緯を思い出す。するとその部屋の中に突然俺に求婚を求めたあのライザと名乗る女性が現れるのである。俺は咄嵯に逃げようとしたがなぜかその場から動くことが出来ず、それから俺の体を触られてしまったのだった。そしてそんな俺の様子を見てこの女は俺が女性経験のない童貞であることにすぐに気付き俺にその事実を確認するように問い詰めてきたのである。そんな事を言われても仕方が無いと思い俺は本当のことを話すと、それからライザは俺に好意を寄せているからこそこのような行動を取っているのだということを説明すると俺に結婚を申し込みたいと真剣な目つきで話してきたのである。そんな彼女の瞳に魅せられてしまい俺はその提案を受け入入れてしまうと俺はいつの間にかその女の唇を奪われてしまうと、それから俺は彼女に身を任せることしかできず彼女の事を拒めなくなっていたのである。

それから俺達はしばらく時間が過ぎると俺達は朝食を食べることにしたのである。それから俺は彼女にこれからどうするのかを質問して見た。すると彼女はこの国の魔王に会うためにはどうしてもこの国の最強と呼ばれている勇者の力が必要らしくその勇者に俺はなってもらう必要があるというのである。その話を聞いて俺は自分が本当に勇者になれるのか半信半疑になりながらも俺は彼女と別れるとこの世界を救うべく旅に出ることを決意するのである。

俺は勇者になると彼女に宣言した後、勇者としての力を身に着けるために城の中を探索することにしたのである。

だが城の中にはあまり人はおらず、しかもこの国の国王であるはずの男性ですらも見当たらない。そこで俺はこの城について詳しい人物を探し始めることにする。そして俺はこの城のメイドをしている『リーザ』という人物と出会うことに成功する。

それからこの女性からこの城の構造について詳しく教えてもらい、それからこの城の案内役として俺のことを連れて行くことにしてくれたのだ。俺はリーザに礼を言ってからまずはこの城の見取り図を確認してどこに何があるのかを把握してから俺に付いてくるように指示を出すのである。

そして、一通りの作業を終えると俺はある部屋の前で足を止めると扉を開けたのである。そこはこの城内で一番大きな空間である謁見の間でその中央にこの国の王様がいる玉座が存在した。その玉座の脇に一人の男性の姿が確認できると俺の存在を確認したのか、その人物は俺に話しかけてくる。

「よくぞここまでたどり着いた。君が私の娘の心を救った人物で間違いないのかな?」

俺はその言葉にどう答えればいいのか困ってしまい無難に答えることにする。

それからその男の名は『ルベール王』という人物であるらしい。そして、そんな王の隣に佇んでいる女性こそが、俺の妻になりたいと思っているこの王国の王女である。

そんな王との会話の最中、俺達はこの世界が魔王の手によって滅ぼされようとしているという話を耳にすると俺はそんな事はさせないと王に約束をしてからこの城を立ち去る。

それから俺が城の外に出ると、その途中で魔王軍の兵士が人間を殺戮している光景を目にした俺は思わず助けに入る。

そんな時にあの魔王が現れたことによってこの戦場を一瞬にして終わらせたのである。その事に俺は感嘆の声を上げることになってしまったのであった。だがその直後、その魔王はどこかに姿を消したのであった。俺はその様子を唖然としながら眺めていたが、そんな俺の事を見ていたライザがいきなり抱きついてきて俺を城に連れて行こうとする。

俺はそんな彼女を無理やり振り払うと俺はその城から離れることにしたのであった。そしてその途中で出会ったのが、先ほど俺を助けてくれた魔王の部下だというライナであった。俺はそのライナという女性に対してお礼を述べると、俺を仲間に加えて欲しいとお願いをする。すると、ライナはそんな事ならすぐにでも構わないと答えてくれ、そして俺はライナと共に魔王を倒すために旅に出ることになったのである。

それから、俺がこの世界に転生されてもうかなりの年月が過ぎていたのだが未だにこの世界では戦争が続いていたのである。俺はこの世界の状況を把握するためにもまずはこの国の名前を知る必要があると考えた。そして俺はとりあえずこの国の名前はなんなのかを聞くと、彼女はそれをこの世界の常識だと言うように俺に言い聞かせてくる。そして俺はその事を思い出し納得してしまうと、この国の名前を尋ねると彼女はこの世界は俺が住んでいた地球ではない別次元に存在する国であるという事を聞かされたのであった。

その話を聞いた俺は、ここが自分の暮らしていた地球とは別の惑星にいるのだと知ることになり、その事を信じたくは無かったがこの世界で生活していたらそんな事を考えるのが馬鹿らしくなり受け入れるようになった。それからライナは、俺と話をしていく中でお互いの実力を確かめるため模擬戦をすることに決める。その結果、俺は彼女にはまるで勝てる気配がなかったのである。その事を知った俺は少しばかりショックを受けてしまう。そして俺とライナは一旦その場を離れて食事をとると俺はある事を決意する。それは今現在ライナがこの城に居るということとこの国を救わなければならないという気持ちを重ね合わせ、ライナの誘いを断ることにしたのである。そして俺は一人でこの世界を救う旅を始めると、それからしばらくしてから俺の前にまたあの魔王が現れ俺に協力を求めてきたが俺の答えはすでに決まっていたため魔王の言葉を受け入れることはできなかった。そしてそれから数日後、俺達の戦いが始まったのである。それから戦いが始まる前にある事が俺は気がかりになっており、それがずっと心に引っ掛かっている。

俺がこの国を出発する時、魔王の傍にいた少女の容姿をした魔王の姿を見たときからその事が気になって仕方がないのである。

そんな時であった、突如俺の目の前に現れた人物の事を思い出したのは。

「まさか、あの少女が本物の魔王だったというのか?それならばなぜ、俺はあの時魔王の事を殺さなかったのだ?」

それから俺はあの時の事を思い出そうと試みたが、いくら考えてもあの魔王を殺すことができなかった理由が分からず仕舞いだったのである。そんな俺に突然魔王の部下の一人であるあの魔族の女性、リーゼが俺の元に姿を現す。そんな彼女は俺の事を呼び出すと俺に話を持ち掛けてきたのである。その内容は魔王を倒せるかもしれない人物が俺の前に現れたという情報を手に入れたと言い出す。そしてその人物とはあの俺が助けることができなかったあの魔王の側近でありあの時、俺に助けを求めてきた少女と同一人物だということが分かり俺は驚愕してしまった。そんな時彼女は、その人物に会って確かめてみたいことがあるという。そしてそんな彼女は俺にある場所まで一緒に来て欲しいと頼むと俺はその場所に連れて行かれることになった。

俺とライナはお互いに顔を見合わせ、それからライナと別れた俺はこの国にある森に向かうことにしたのである。

そしてその道中俺は魔物に襲われている人を発見し、その人物を助けた。その女性は俺の事を怖がり離れようとしたため俺は彼女を抱きかかえ安全な場所に降ろすとその女性に感謝されそれからその女性が持っていた薬で俺は元気を取り戻すことが出来たのである。それからしばらくすると、その女性と会話を交わして俺は彼女と仲良くなった。だがその時にその女性は何かを俺に伝えたかったのか必死に俺に訴えかけてきたのである。だが俺は彼女が伝えようとしていることが何なのか分からないままその女性としばらく時間を共にするのだった。それからその女性の体調が良くなった事を確認した後、俺は再び旅立つことにした。

俺はこの国の魔王を討伐する為に動き始めたのである。そして俺達がこの国の城下町に向かって歩き始める。すると俺の目の前に二人の男女が姿を現す。俺は咄嵯にその二人を警戒しながらも俺は声をかけようとするがその二人は急に飛びかかってきたのである。俺は咄嵯の出来事であったため避けることができず攻撃を受けるが何とか持ちこたえ、その攻撃を跳ね返すと相手の様子を伺った。そしてその時俺は初めて気が付いたのである。

(この人達は一体誰なんだ?)

俺の記憶の中にこの様な人間は存在していない。つまり俺にとって見知らぬ人間が突然現れた事になるわけである。俺は咄嵯の判断からライナの方を見ると俺の考えを理解したのか彼女はその二人を制止するように声を掛けるがそれでも二人はやめることをしなかったのである。そしてその時にライナは二人がこの国に滞在している勇者だということを説明すると、俺の事をその勇者の仲間だと思い込んでいるようだとライナは言う。それから勇者と名乗る男性から俺を自分達に引き渡してほしいと言われると俺はこの場から離れようとする。だがその男は俺のことを引き渡せと言ってきて、それから勇者と名乗る男が剣を構え襲い掛かってきた。俺が勇者の行動を静止させようとするともう一人の男性が魔法を唱え俺の事を援護しようとしてくる。俺はそれに対抗しようとしたがライナが俺のことを助けるために間に入り勇者の斬撃を弾き返し、俺はライナのおかげで助かるが代わりに彼女の体が大きく傷つき血が流れ出したのである。それから俺は勇者の持っている聖刀が危険だと判断すると俺は急いでその場を離れることにする。そして俺を追いかけようとしてきた勇者の動きを阻止すべく俺はある人物を召喚することを決意する。

すると俺はあの魔王の部下のライナという女性に化けさせ、そして俺のことを追いかけようとしていたライナの姿を確認した瞬間に俺の体は自然と反応して体が動いたのである。

それからライナの姿になった俺の姿を見て勇者と名乗った男はすぐに攻撃を仕掛けてくるが、俺の攻撃で気絶し、ライナもなんとか自分の意思を保ち、その場に立ち尽くすとすぐに魔王の部下の一人を呼び出すと、そいつにはライナの体を回復させるためにライナの体の治療を行わせることにし、それから俺はこの国を出て魔王軍の本拠地があると思われる国に向かうことにする。

俺はライナの姿をした魔王の配下と別れを告げてからこの国を後にするのだが、そんな時一人のメイド服姿の女性が俺の目の前に現れる。俺はその人物に見覚えがありその事について尋ねようとしたが、俺が尋ねる前に相手が先に口を開くのであった。その女性の名前はリーザという名前で、俺が魔王を倒しに行くために城を出ているという事に驚いた様子を見せる。そしてリーザはその魔王を俺と一緒に倒しに行きたいと願い出て来たのである。俺は当然断るがリーザは自分の力で俺の役に立てるはずだと言い俺について来ることを決めてしまう。それから俺はリーザと共にこの国を出ると俺はある場所へ向かう事を決める。

俺はある人物の所に行こうとしているのだが、そこでライナと合流する事にすると俺はリーザに伝えると彼女は自分が案内をするといって聞かないため俺は仕方なく彼女に道案内を任せることにした。

俺はライナの姿でライナが俺と合流できるところまで移動すると、そこには俺と瓜二つの人間がいたのである。

「どうしてお前がこの世界にいるんだ!?」

そう、俺の目の間にいるのは俺と同じ姿をした人間が存在した。その事に気付いた俺が叫ぶように尋ねると、その人物はニヤリと笑い俺の問いかけに応えるとこう言ったのであった。

「俺も俺自身に会いに来たんだよ」

俺は今起きている状況を理解できていなかったのであった。そしてその状況を理解するためにはまずこの男に色々と聞きだす必要がありそうだと俺は思う。

そしてそんな俺の疑問に対してその男のほうから話を振ってくる。

「ところでさぁ。なんなのこの状況?どうなってんの?」

この男は俺に対して状況を把握していないという質問をぶつけてきた。俺としては逆にこいつがなぜこんな所にいたのかが知りたいと思ったのだが、それを答えると俺は俺が別の世界から転生してきたということまで教えることになる。だからここは敢えて何も言わずにこの男に情報を与えて、それから俺の目的を聞き出そうと思い、とりあえずその男の問いに対しては誤魔化すような答えをする。

それから俺は俺自身の能力の一つであるスキル『分身』を使ってこの男を俺の変わり身に仕立て上げる事に成功する。その男は最初戸惑っていたが、俺の変わりに俺に会って来てくれる事を約束してくれたのである。そして俺はその約束を果たすためその男にとある城へ行かせることにした。俺はその男が戻ってくるまでの間この国で起こっている問題を解決するべく行動を開始する。まずはこの国にあるダンジョンでレベル上げを行うことに決めて俺の分身の様子を見ながら俺はこの国に存在している魔王の部下であるライナと呼ばれる少女を探す。だがこの国の何処を探しても俺の探し求めている人物の姿は発見できず、それどころか俺はその途中で魔王の幹部の二人と鉢合わせしてしまったのである。俺はその二人のことを知らないフリをして魔王の手先だということを察するがあえて魔王の味方であると言い張る。そしてその二人は魔王様のために邪魔者を排除しておけばそれだけ魔王様に喜んで貰えると言っていた。その話を聞いた俺は魔王の部下が何故俺の邪魔をしにやってきたのかを理解したがその理由は分からない。だがこの二人が魔王側の人物であることに変わりはない。

そして俺はこの二人の部下と少しの間行動を共にした後この国から脱出するために動き出す。

それからしばらくして俺はあの俺の変わり身をこの国で見かけたと連絡が入り俺は俺自身がどんな行動をしていたかを知ろうとするがこの国は広すぎるせいもあって俺は俺自身の行動が全く把握できなかった。俺はこの広い国の中で俺は魔王の部下を探そうとするも全く見つからず、そしてこの国の現状を把握する為にあることを思いついた。それは俺の能力がどこまで通用するのか試したいと思い、俺の力の一部を試してみようと考えたのである。

そしてこの国では奴隷制度が存在する。そのため俺の奴隷商を呼んで、この国の王族達から金を奪うという計画を企て、実行に移すとあっさりとうまくいった。

それから俺は俺の力で作り出した魔物を使い、この国の王様であるライナの親父の首を切り落とすことに成功してしまう。俺はその後この国でライナは死んだとして、俺は俺の作った分身体と入れ替わったのである。

それから俺が生み出した分身体は見事に俺の代わりを果たしてくれている。

俺はそんな状況の中ライナが無事なのかを心配になるがライナの事を探している最中に、ある事件が起こっていることを知った。それはこの国の第二王女が勇者と名乗る男に攫われたというもので俺は急いでその場所へと向かうことにしたのである。だがその時にあの魔王の側近が姿を現したのだ。俺は彼女からこの国が抱えている問題についての解決案を出してきたのである。俺はその言葉が本当かどうかを確かめ、それが本当のことであると分かるとその話に乗り、それからその魔王の側近の提案に乗る形で行動することに決めたのである。

だが俺はこの国にある森に向かおうとしている時に、ある問題が生じていたのだった。

俺は森の中で魔物に襲われ、なんとか命を落とすことなくその場を脱することができた。

俺が襲われた原因はライナの分身である彼女が狙われたからだ。俺はそんな俺を救ってくれたこの国の姫であるミーナという女性と一緒にこれからの行動について話し合いを始めることにした。だが俺はこの時まだ完全に油断していたのかもしれない。俺は魔王の部下にこの国の国王を暗殺させて、その隙を狙ってこの国から逃げようと企んでいたのである。俺はそんな事を考えていた時に背後から何者かの襲撃を受けたのだった。俺は不意打ちを食らい、そして気がつけば俺は意識を失いその場に倒れ込むことになった。

そんな時俺の目の前には俺のよく知る人物が現れ、俺に回復薬を渡してきて、俺が気絶する前の記憶を取り戻すと目の前にいるのは俺の良く知っている人物で俺は驚きの声を上げる。

「リーサ!! お前なんでこの世界に?」

俺がそういうと目の前にいるリーザの姿の人物はリーザではないと言ったのである。だが、その人物がライナだと言って来た時には俺は目の前の人間が一体何を言っているのか理解できなかったのである。

「いやいや、だってさ、ライナさん、どう見ても女の子だよ?俺より年下に見えるんだけど」

(あれ、おかしいな。俺は確かにライナと面識はあるけど、俺の認識しているライナという女性は間違いなく男性なんだが)

俺はそんな事を思いながら俺にこの国に伝わる勇者伝説の事を説明してきたのである。それから彼女は自分がライナであると言い出し、それからこの世界の真実について語り出した。俺にとって彼女は何が何やら訳が分からず困惑してしまう。

そしてそんな時あの俺の分身の方でも異変が起きていたのである。あのライナに化ける為に使っていた俺の分身に変化が訪れていたのである。あの時ライナに化けさせた俺の分身はあの後ライナと合流してそのまま一緒にいるということになっていたが、それからあの分身は突然姿を消し、ライナに化けた状態でライナとはぐれてしまっていたのである。その事にライナと一緒であったはずのもう一人のライナに化けた人物は驚いていたが俺はそこまで気にしなかったのであった。それから俺は魔王の部下に連れられ、その魔王の部下に連れられてこの国で一番大きな城にたどり着く。そして魔王の部下であるリーダはライナの姿をした俺を連れてこの国の王に会わせた。俺はライナの振りをしながらこの国での自分の立ち位置を決めると俺に何かあればすぐにこの国の王が駆けつけるように手配する。それから魔王の部下であるこの国の王はこの国に潜んでいる魔族を討伐してほしいと頼まれ俺は引き受けることにしたのである。そして魔王の幹部であるリータがこの国に潜伏していることを伝え俺は魔王の幹部のリータを捕獲することにしたのである。

そしてそれから俺は魔王幹部のリーターをこの城の中に呼びつけることに成功すると、俺はそこでこのリーターが魔王に忠誠を誓っていないということを知ることになる。そこでリーラとリーザという姉妹が魔王と関係がある人物だということを知り俺は彼女たちの事を詳しく知ろうと動き出すが、俺の前に一人の女性が姿を現すと、彼女は自分がリーラだと名乗り、それからライナの正体とライナをこの世界へ召喚したのは自分であることを語り、そして俺のことを魔王の仲間であると告げると、自分の姉を助けるため魔王に手を貸すように告げてきたのである。俺は最初は彼女のことを警戒するも結局俺は彼女に言われるがまま協力することになって、そして今からこの国に潜む魔王の配下である魔族の居場所を調べることになる。

だが俺はその時すでに気付いていた。その魔王の配下の魔族が人間であるということ、その魔族は人間のふりをしているという事にも気がついてしまった。

だからその事が分かった俺は魔族を誘い出す作戦を実行に移すことにしてその準備を整える。

そしてそんな時に魔王の幹部の一人であるリスタと遭遇するとリスタはこの国に現れた勇者と思わしき男の抹殺を依頼してきたのである。だがその男は俺がこの世界で手に入れた力を使って倒そうとしたがリリスの力が強すぎて俺の力だけでは倒すことができないと判断した。それから魔王に助けを求めようとするが俺の力不足で連絡が取れなくなってしまったのである。

それから俺は俺の分身とこの国のお姫様を城から脱出させるために俺が生み出した魔物と戦わせる。

俺はその戦闘を見守り、その途中でこの国の王子と出会うが、俺はその事実を隠蔽するために嘘をつくが、俺の言葉を聞いた王子は信じてくれた。俺はその王子を上手く誘導し、ライナ達を逃がすことに成功させるが、その際ライナは魔道具の転移石を作動させることができたが、この国の王から貰った指輪だけは発動することができなかった。

だが俺はそれを知っていたためそのことに関しては問題はないと思っていたのである。

だがその後俺はとんでもない事態に陥ってしまうことになる。俺の前に現れたのは魔王の部下の一人で、俺はこの国に来て間もないがそれでもその男が魔王の部下であることぐらい分かっていた。だがそいつの目的はライナを捕らえてこの国から脱出することではなく、何故か俺を捕らえることが目的だと分かると俺は逃げることを決意したのである。俺はその男から逃れるべく俺は逃走を開始した。だが相手は俺よりも強い存在であることは分かりきっていたので俺も本気で戦うことにするが俺は奴の攻撃を回避するだけで精一杯になってしまう。

そして俺は追い詰められ、俺は魔王の側近によって俺の偽物がこの場に現れてしまう。だが、魔王の側近はそれを見て動揺することなく俺の変わり身の能力で作り出した分身にとどめを刺してその場を離れてしまう。俺はなんとか命を落とさずに済み俺はその魔王の側近の後を追いかけようとしたがその途中で俺はあの俺にそっくりの俺の分身を俺自身が殺してしまうという事態に遭遇するのである。それから魔王の幹部があの変わり身の中にあった『波動探知』で感知できる魂の残滓を利用して本物のライナの居場所を見つけ出そうとしたが、魔王の刺客と思われる謎の少女の邪魔が入り、俺に攻撃を加えてくる。俺はなんとかその攻撃を受け流しその場から逃げ去ることに成功したのだった。

それから俺達はなんとかこの国から逃げ切ることに成功するが、俺はその事に安心していたせいで背後に迫っていた敵の存在に気がつかなかった。俺は背後からの不意打ちを受けて地面に叩きつけられるが俺はどうにか致命傷を受けることなくその場に立ち尽くすことに成功したのである。

そしてその事に気付いた俺が慌てて背後を確認するとそこには俺の目の前にいた女性に瓜二つの姿の少女が現れ、そして目の前にいるその女性こそ魔王の手先であるということが分かった。

だがそんな時にあのライナに化けさせていたはずの分身がライナとライナの姉と名乗る人物と共に現れ、その魔王の側近と戦う。その魔王の側近はライナ達の目の前に現れるがライナ達に襲いかかるのではなくライナに化けていた分身の方に標的を変えると、俺の目の前に立っていたライナに化けているはずの女性は姿を消してしまう。

そしてそれからライナがその姿を消す前に残したメッセージが俺の心に深く刻まれ、それから俺はその言葉を頭の中で繰り返し、それから俺は魔王と敵対することを決意する。

そして俺はその言葉を信じ、魔王が本当に存在するのなら俺にその力を手に入れるためのヒントがあるかもしれないとライナから言われた言葉を思い出すと、俺の中にある一つの考えが芽生えてくる。

それは魔王をこの世界に呼び込む方法だった。俺の考えではライナの言う魔王をこの世界に呼び寄せる方法が、この世界に召喚される前の状態、つまりこの世界に来る以前の状態でこちらの世界を覗くことのできる何らかの手段が必ずあると考えていた。

そうすれば俺が持っているこの力を使えばこの世界にやってくることができるかもしれない。そしてライナが俺に言ってきた事は俺にしかできないという言葉。その言葉を聞いて俺は魔王を呼び込むために行動を開始しようと考えたのである。

そしてそれからライナの姿が消え去り俺の意識も薄れ始めると俺の目の前にまたあの不思議な感覚が現れ始めた。そして俺の意識がはっきりするのと同時、俺の目の前に突然ライナが現れる。

そしてその事についてライナに尋ねると俺にはライナのような特別な力は備わっておらずライナの姿を借りたとしても、俺がライナに変身することはできないと告げられると俺が考えていた仮説が一つ否定されてしまった。

だけどライナの姿になれる人物は必ずいるはずだと思い俺はこの城にいる人物を調べてみる。

そしてライナに変身していた時に感じ取った魔力の質と同じ性質を持った人物を探し出す。

するとその者は意外と簡単に見つけ出すことができた。その者はどうやらライナに変装をしていた俺に殺されたはずであり、それが原因でこの世界から弾き出されて俺が知っている場所に飛ばされていたようだ。そしてその事を確かめる為に俺は再び魔王を召喚するための魔法陣を発動させる。

その結果俺は無事にこの世界のこの時間に戻って来ることが出来たのである。そして俺は俺に化けていた魔族を倒しこの世界の魔王の居場所をつきとめようとしていたが、魔王は俺の予想を超える実力を持っていて苦戦を強いられてしまうが、俺が魔王を倒した後に魔王は復活してしまう。それから復活した魔王は人間と手を組むことになり、それからその人間は魔王軍との戦いにおいて俺の力が必要だと言うが俺としてはこれ以上俺の仲間たちに負担をかけたくなかった。それに俺に魔王と戦うつもりは無かった。俺はあくまでもライナの為に動くだけだったのだ

「なるほどな。それで?どうしてお主はこの国に現れたという勇者に会いに来たのだ?」

この爺さんも大概人が悪いよなぁ〜まあ、それが演技なのは分かるけどさ。やっぱりこいつは只者じゃないな。それにこいつからはどこか底知れぬ何かを感じてしまうんだよな。だがそのおかげで俺も冷静になれてるんだから助かるが。

だがこれで少しだけ状況が変わったな。

まず、魔王の配下はこの世界では魔王と呼ばれているって言ってたな。そしてこの国に現れた勇者というのは多分あの偽物の事だろう。

「いやまぁ色々と複雑な事情がありましてね」

「ほほう。勇者殿の頼みであれば私に出来る事ならば喜んで手を貸すぞ。して何を聞きたいのかのう?」

「えっとですねぇ。実はその魔王の配下がこの城に潜入してるようなんですよ。そしてその魔王の部下にこの国の王様の知り合いがいたらしくて、この国の王様はその人が魔王の配下の仲間である事を知らずに手を貸していたらしいんです。その事が魔王の耳に入れば魔王の配下がこの国に攻め込んで来かねないんですよ」俺はそう説明した。これは本当だ。実際に俺はあいつからこの国の王の情報を手に入れ、そしてこの国を滅ぼす計画を立てていたという情報を入手している。

俺が魔王の仲間ではないということは既に証明済みだが、それでもあの王が俺を信用してくれなかったから仕方がない。この国で王の信頼を得るために俺は仕方なく俺の分身を使ったのだ。俺の力が足りないせいでこの国を救うことができなかった。だから俺はその償いでこの国を守るために力を貸すつもりだったのだがそれももう不可能になった。

なぜなら俺が殺した俺の分身はこの世界で生きていれば俺の知っている場所で目覚めるはずだからだ。だがその事実は言えない。俺はこれから俺が魔王を倒すために必要な存在だと偽り続ける。

だが俺がこの国を救おうとしていたことだけは伝えておきたかったので嘘ではないが本当のことも混ぜることにした。

「お主には魔王の部下が潜入しているという話をどこで聞いたのだ?」

(お主、か。まさか俺が誰なのか分かってるんじゃないだろうか?)

「はい、その者の名はリスタと言っていましたが、その者の配下の者達が話していたのをたまたま聞いていたのです。俺はその者と顔を合わせてしまいその者からこの城の王に俺のことを伝えるように言われました。しかし俺は王に伝えることができませんでした。それは俺がこの国を守る為に戦っていることを王に伝えてしまうことで、王を裏切る行為になるのではないかと恐れたからで、俺はまだこの国に恩返しができていません。そして王からも俺の力が必要だと言われたからこそ俺はまだこの国のために戦いたいと思ったんです」

この人はどこまで見透かしてくるような目で見ているが本当に恐ろしい。もしかすると既に俺が何者かを分かってしまっているのだろうか?だとしたらかなりヤバイ。今すぐにここから逃げ出さないと。

そして俺がその事実を知るとこの人に殺される。そんな気がする。

だが、俺はその事を確認する術もないので黙り込むことにしたのである。

「お主がこの城に潜入をした時に見たというその者の特徴を教えてくれんかね?」

「は、はい!分かりました。確か身長は165cmほどで金髪の髪をポニーテールで結んでいまして、年齢は恐らく17歳ぐらいでしょうか。そして彼女は黒いマントを着ていて、そして武器を2つ持っていて1つ目は鎖で繋がれていて、もう片方の剣に巻き付いていた記憶があります。彼女の容姿の特徴はとても綺麗だったことくらいですね。そしてその特徴の全てを持っている少女が俺の前に突然現れたので驚きましたよ」

本当は違う。その女の見た目と年齢、そしてその装備が一致する人物などこの世界には絶対に存在しない。だってそれはこの世界には存在しないのだから。俺は俺にそう思わせるために敢えてこの場をごまかすために適当な話をでっち上げた。そして俺は目の前にいる男の表情を見逃さないよう注意深く男を見ていたのだ。すると俺はそこであることに気がつく。

俺の言葉を聞くたびにどんどんとその人の表情が変化していったのだ。それは最初は驚いた様子だったが、徐々に嬉しそうな笑みに変わっていく。

まるでこの状況を楽しんでいるみたいに。

だが次の瞬間、その男の体全身が一瞬にして震え出しそして俺は理解する。この男が本当に魔王の側近だという事に。

(やはりお前は魔王の側近か。そして今のこの状況を楽しむ余裕がお前にはある。魔王の側近が相手ではさすがに逃げきれねえかもしれねえな)

そして俺は覚悟を決め、その男の隙を見て攻撃に移る準備をする。だが、その時に俺と目の前にいた魔王の側近と思われる男は突然出現した謎の力によって吹き飛ばされてしまう。

そしてその衝撃に耐え切れず俺達は壁を突き抜け、更にそこから下の階層にまで叩き落されてしまう。俺はその突然の出来事に驚き戸惑う。

そして俺と魔王の側近が落下をしている最中に俺は突然視界が光に包まれたかと思うと、そこには俺がよく知っている場所に飛ばされたのだ。

俺がいるこの場所、それは紛れもなく元いた世界、そして俺は元の姿に戻ることが出来たのである。

そして俺は俺の姿を戻してくれたであろう人物の方を見る。その人物を見た時俺は思わず驚いてしまう。何故ならそれはライナの姿になっていたはずの魔族であったのだから。

それからその者は自分の正体は魔王の配下だということと、俺の願いは魔王に届いているから俺に協力をしたいと申し出てくれる。そしてその者が協力をしてくれるのならばと俺も承諾する。その者にこの世界のことを任せると俺は魔王の元へと転移しようとしたその時だった。

突然、その者が現れた場所と同じところから再び先程の魔王の側近が現れそしてそいつと再び戦う羽目になってしまったのだった。

そして俺は魔王と戦闘を開始するが俺はこの目の前に立っている魔王と互角の戦いを繰り広げるが魔王にはまだ隠し球があった。そして俺がそれを警戒していなかった為魔王の罠に引っかかってしまう。そしてその力に翻弄された俺はそのまま負けてしまう。そして意識を失った。

次に俺が目を覚ますとそこは魔王の城であり、そして俺の隣にはその魔族の女の子がいた。

どうやら俺のことを助けてくれたようだ。俺はこの魔王に命を助けられたらしい。その時に俺は改めてこの世界を救わなければならないと実感させられたのである。

そしてこの俺の意識が再び魔王と入れ替わる。

俺はまずはこの女がどんな奴なのだろうかと思いその者の情報を探ろうとしていた。そしてこの魔族が魔王軍の中で一番の強さを誇り魔王軍四天王の一人だという事が判明した。俺はその情報から魔王軍の中ではこいつが四人目の実力者なのではないかと思った。

それからその魔王が何故俺に魔王軍に入って欲しいと頼み込んできたのかその理由を聞いた。そしてこの世界の現状についても。そこで俺は魔王の言っていることが真実だと確認が取れてしまったのである。

俺はそれから魔王に言われるがまま魔王軍に入ることになるが、この魔王が俺の想像を超えるほどの化け物で、俺なんかじゃとても歯が立たない程の存在だと知った。だが魔王にはまだ上が存在したのである。

それから俺はライナと別れることになるがライナのことを俺に任せてほしいと言うが、魔王はこの魔王の頼みを聞いてくれたので俺は素直に感謝をすることにしたのだ。

だが俺はライナの元に向かう直前に俺の正体についてを告げられてしまい、俺には何も出来なかった。ライナの無事を祈る事しかできない自分が不甲斐なくて悔しかった。俺はこれから魔王を裏切ってまで助けた少女の為に俺の力を使わせてもらう事にする。

そして俺の本当の敵と戦う前に俺はこの国の王のところに忍び込み色々と探ってみたが、特に収穫はなかった上に逆にこの国の王にバレそうになったため逃げる事になってしまう。

俺の予想では、こいつらは偽物の勇者を使ってこの国に混乱を引き起こしてこの国を乗っ取ろうとしていやがる筈だと思っているのだがそれが一体なんの目的なのかは現時点では全くわからないなんだよなぁ。とりあえず今のところ分かるのはこいつらが相当頭が良いということだけか。だがそれも目的の為ならば手段を選ばないほど危険な連中だということだろな。まあそれならそれでいいんだけど。俺がこの国のために全力で動くことができるんだからよぉ!俺は今この国に使えることが出来るという事を感謝し、俺はこの国の為に力を貸す事を決心したのだった。

俺はこの国の王に呼ばれ城へと戻るが、俺は魔王の部下の女に俺の正体がバレていることが分かり少し焦りを覚えてしまう。だがそれでも俺が魔王を裏切るわけにはいかない。だからここは上手く誤魔化していくことにするが、魔王の部下の女の実力があまりにも高くてこのままだと俺は簡単に倒されてしまう。

そして俺はその事を悟ってしまい絶望してしまうが、この俺に救いの手を差し伸べてくれたのがこの国の英雄と呼ばれていた者だったのだ。この男は英雄と呼ばれている割に弱すぎて頼りにならないんじゃないかと思ってしまいそうになるが、その男の力はかなり強かったので助かった。

俺はその男の手助けもありなんとか魔王を倒すことに成功したが、俺が気を失っていたときに俺の体を乗っ取っていたのは魔王ではなくその部下の少女であった。この俺に魔王を倒させた少女は俺を仲間にしたいと言っていた。俺としてはこの魔王を倒す事が出来た時点でもう既に満足してしまったのだ。

だけど魔王はそんなことでは諦めずにまた俺の体を勝手に使って復活しようとするが俺はこの少女なら信じてもいいのではないかと思うようになっていたので、俺はこの少女を一時的にこの世界に留まることにして、俺は少女に協力することにしたのである。

だが俺には魔王に復讐を果たさなければならないという理由がある。それはこの魔王が今までやってきた罪滅ぼしとして、そして俺の仲間を殺した罰を与えるという事で俺はこの魔王を地獄に落とす為に、俺はこれからも戦う覚悟をこの瞬間決めたのであった。

俺は魔王がこの世界を支配することを望んでいた。

そして俺が望む世界になったのならば俺がここに残る必要もなくなるだろう。そして元の世界に戻る事が出来るようになる。だからその願いを込めて魔王を殺すことに決めた。

それからしばらくして俺はその目的を達成することができたのでここから立ち去ろうとした時だった。突然何者かの攻撃によってこの部屋の壁を破壊して何者かが現れると同時に何者かによって俺は気絶させられ、何者かは俺の体の主導権を奪ってしまったのである。

その者は魔王の側近の男だったらしく俺は必死に抵抗するがその抵抗は無意味なものでありすぐに俺は意識を失ってしまうことになる。

(おい!お前は何者なんだよ!お前の目的は何なんだ?それにさっきお前が使っていたその能力と、そしてお前の持つ武器。あれは絶対にこの世界に存在しちゃいけないものだと思うんだが。それにあの武器の能力がもし本当なのだとしたらかなりヤバイ事になるぞ)

俺は俺に向かってそんな疑問を投げかけてくる。だが俺は俺に答える義務は無いと俺は思う。そしてその質問に答えるつもりはない。

だが俺の目の前にいるその者の顔が、どこか懐かしさを覚える顔つきをしており、俺はその人物に対して何故か強い親しみを感じたのであった。そしてその人物は俺のことをライナと呼んでいたのだ。その人物の外見と声はライナと全く同じものだったのだ。

そして俺の目の前に立っていたその人物の姿は次第に変化していき、その姿が完全にライナそのものになってしまったのだ。

(はっ!?これはどういうことだ?)

俺は一瞬頭がパニックを起こしかけたが何とか平静を装うことに成功する。そして俺はライナの姿を見てつい驚いてしまう。

そして目の前の人物が本物のライナではない事に気がついた俺は目の前の人物が誰か気になってしょうがなかった。俺はどうにか正体を突き止めようとするが結局その正体までは知ることが出来なかったのである。(俺の目の前にいたこのライナは俺が気を失う直前に一瞬だけ俺の前に現れ、そして一瞬にしてその場から消え去った謎の存在が姿を変えたものであっていたか?)

そう、俺の目の前にいた謎の男と、ライナの姿をしていたその者が全く別の存在であることを俺は知っていた。何故ならその男がその者に変化する前に俺が感じた感情と同じ感情を俺は抱いていたからだ。

俺はライナのことが好きになっている。そして俺の初恋の相手であるライナと瓜二つの姿をしておりそして中身までもそっくりな存在となれば俺が動揺するのは当たり前である。俺はどうやらそのライナと同じ顔をしている謎の人物の事を無意識に好きなってしまっていたらしい。だが俺の目の前に現れたその人物は魔王の部下である。だから俺はその人物を警戒してしまう。

そしてその人物に意識を完全に奪われてしまう。俺は魔王から自分の体を奪還する為その人物に体の支配権を奪われないように対抗する。だが俺は魔王の魔力を上回るその人物の力を跳ね返すことが出来ずに徐々に体が乗っ取られていく。そして遂に俺は完全に支配権を乗っ取られたのである。

そして俺は自分の意識を表に出そうとするが俺の体はその者の支配下に置かれており、俺は指一つ動かすことができなかったのである。その者が一体何をしようとしているのか分からなかった俺はこの場で大人しくしている他なく、ただじっとしていることしかできなかったのである。

俺はその者に操られ、その者が一体何をしようとしているのかを聞こうとするが俺の言葉には一切耳を傾けてくれなかった。そしてその者は魔王に攻撃を開始した。

どうやらその者が持っている武器の力を使うと周囲の地形を変える程の威力を持っているようでその一撃だけでこの国の城の一部が崩壊する。その光景を見た俺はこの国が本当にこの先やっていけるのだろうか?と思わず不安になる。そしてこの城の主であるはずの俺の上司はこの現状を見ているのだろうかと思った。

それから俺は自分の体を取り戻す為俺は必死で抵抗をする。俺に憑依したその者もかなりの実力者な為中々その者を倒せない。それから暫くして俺の中にいるその者と魔王は互角の戦いを繰り広げていたが俺はこの二人が一体どれほどの実力を兼ね備えているのかと驚愕するばかりである。だがこの場から逃げようとしても、その者達の戦闘の余波のせいでこの部屋が崩壊し始めるのでこの部屋の外に出ることが不可能になってしまう。

俺はこの場から逃げ出すことができないか考えるが俺の力ではこの状況を切り抜ける事は出来ないと判断し、そして俺はこの二人の戦いを眺めている事にする。俺は俺の体を奪い取ることに成功した奴の正体を知ろうと奴の正体を探ろうと試みるが、そいつに探ろうとすることが筒抜けになっており何もすることができなかったのだ。

俺はこのまま奴に好き勝手暴れさせるわけにはいかないので俺は魔王を助けるため、そして俺の自由の為に俺は俺の意思に関係なく強制的に戦わなければならない状況にさせられることになった。俺にできる精一杯の行動とは一体なんだったのだろうと考えてしまうが今考えても仕方がないと思い今は行動に移すことにした。

俺の体に何かが起きてしまって俺の意識が消えてしまった場合は俺が死んでいたとしてそのまま死ぬだけだと思っていたのだが、その時俺が見たものは、俺の記憶に残っていた姿に変貌したもう一人の俺の姿であり俺はもう一人の俺を見て驚愕する。だがもう一人の俺は魔王との戦いに夢中になっていて俺の事なんて気にかけてくれなくて助かったのは良いが俺は俺でこれから俺が何をすればいいのかわからなくなってくる。

俺の予想では、この体はもう完全にこの魔王の部下に支配されてしまっていて俺はもうこの俺の体の主導権を握る事は出来ずに、この魔王の味方である筈の人物の配下にされてしまい俺のことを助けてくれる者が現れなければ俺は殺されるか、奴隷のように扱われるのだろうと予想してしまう。

俺はこれから自分がどのような扱いを受けるのかを考えるだけでゾッとするがそんなことを考えるだけ無駄だと思い俺は思考を停止させた。

そして俺が魔王に攻撃を始めた頃、この城の外で待機をしていたあの少女も城に向かって攻撃を開始していたのであった。そして俺も城に向かい攻撃をしようとした瞬間俺の体が突然動き始め俺の意識とは無関係に勝手に動いてしまう。

「おいおい!待てって!俺がこの城ごと破壊しようとしてんじゃねぇよ!俺はお前の敵じゃねえよ!」

だが俺の訴えを聞くはずもなく俺が止めに入るが、それでも止まることはなかったのである。

それから数分の間戦いは続いたが最終的にこの部屋の崩壊と共に俺はなんとか俺の体を奪う事に成功した魔王の部下と戦う事になる。俺はその魔王の部下の攻撃を紙一重でなんとか避けることができた。そして俺はなんとか隙を見つけ出し魔王の部下から逃げることに成功するがそこで再び魔王が邪魔をして俺を追い詰めようとしてくるが俺にその魔王の攻撃は当たることはない。俺はどうにかこの俺を取り戻そうとするが全く上手くいかずに魔王に捕まってしまう。

俺はどうにかこの魔王から逃げ出すがその際に魔王から魔法をかけられ、そして魔王の部下は姿を消した。俺は魔王を問い詰めようとするがその時には魔王はすでに姿を消していて俺は一人になってしまったのであった。

だが俺は魔王の部下がいなくなったことで、もう自由に動くことが出来るのでこの俺の支配から逃れるためにこの体の制御権を取り戻しにかかるが俺の体もそれに反応して抵抗を開始する。だが俺の方が優勢なようだ。このまま行けば俺の方が支配することができるだろう。

だがそんな簡単にいくほど甘くはなかった。俺は急に頭痛に襲われて苦しみだす、そして次第に意識を失ってしまい俺の意識も消える。するとまたあの男が今度は姿を現すがその男もなぜか様子がおかしかったのである。男は何故か自分の力について語り出したのである。

(いやー、この武器の能力はほんと素晴らしいな。この能力を使って俺に逆らうやつを皆殺しにしてやれば俺に刃向かう人間はいないんだよなぁ。それに、この世界は俺みたいなチートなやつが主人公なんだろ?なら、俺だってその権利はあるよな?それにさっさと終わらせないと俺も早くこんなくだらない世界からはおさらばしないといけないから早めに片付けるぞ)

そう言うと、男は再び戦闘態勢に入り俺に襲い掛かってきたのである。だがその攻撃は俺に直撃することはなかったのである。そしてその男の持っていた剣が折れたのを確認したと同時にその男が地面に倒れ伏したのを確認してから俺は意識を失った。

次に目が覚めたのは何日経ったか分からない時だった。俺の体は元に戻り、元の世界に戻れるようになった。だがその前に俺にはどうしてもやりたいことがあり、俺はこの世界に残り続けることに決めたのである。

それから俺に魔王の側近が殺された事が知らされる。だが俺はその事を大した問題だとは思わなかった。俺は魔王の側近を殺す時に自分の体を乗っ取った謎の人物の正体を掴むことに成功していた。

だが、その人物の名前は思い出すことが出来なかったが俺は確信を持っていた。俺を乗っ取って俺のことを助けてくれようとしたあの人物はライナに違いないという事を。だから俺はもう一度会いたいと願いその人物が現れるのをひたすら待っていたのである。

俺が再び目を覚ました場所は見知らぬ場所で、しかも俺は牢の中に入れられているのが分かる。俺はなぜこんな所に入れられているのかと不思議に思いながらも、この場から抜け出せないかと考えた。だがその考えはすぐに破棄された。俺は両手を鎖で縛られていてどうやらこの状態から脱する事は不可能だと判断したからである。そして暫く俺はどうすることもできない為じっとしていることにした。

暫く待っていると扉が開き誰かが入ってきたのである。俺はその人物を見てみるとそこには俺がずっと会いたくてしょうがなかったライナがいたのだ。ライナは俺の顔をみて一瞬驚いたような顔をしていたがすぐに落ち着きを取り戻し話しかけてきた。

だが俺はまだライナに対してどのように接するべきか決めかねていたので黙ったまま何も喋らずにいた。俺はこれから先ライナと一緒にいる事が出来るのかと考えていたのである。俺はライナと話せるのが嬉しくてしょうがなかった。ライナの声を聞いて懐かしい気持ちになってつい泣きそうになったりしてしまった。俺は自分の感情を抑えつつ会話を始める。ライナとの話は俺にとってはすごく楽なものであり心が落ち着く時間となったのである。だがやはり、俺にとって最も大事なことは、どうやってこの場から出るのか、そしてどうやって魔王の部部下の体を奪った人物を捕まえるかを考えていたのである。そしてその人物がこの城に戻ってきたときに確実に俺の体が奪われたことに気付かれてしまうと困ることになる。俺は自分の体を取り戻すためその者の手がかりを探すことにした。だが、その者を見つけることはできずにただ時間を無為に過ごしてしまうことになる。

そして、その者がいつ戻ってくるかはわからなかった為、それまで待つかこの国を出るかの二択しかないと思った俺はこの城を出て行くことにする。そして俺は城を後にして次の目的地を目指す事にした。そして暫く歩いて行くとその途中で魔王と遭遇したのである。

「お前は誰なのですか?」魔王の口から俺に向けてそんな言葉が発せられる。

俺はどうしてその様な言葉を言われたのかがわからず戸惑ってしまう。

俺はその質問の意図が読み取れずにただ立ち尽くすしかなかった。そして俺は今自分がどのような立場に置かれているのかを考え始める。

まず一つ分かったのは、俺は魔王に疑われているということであり俺のことを本当に疑っているのだとしたら俺の言葉は絶対に信用してくれないと思うが試してみる価値は十分にあると思い俺は自分のことを証明しようとするがそれが中々うまくはいかないものである。俺は自分の記憶を辿ってみたが、この世界のことについてはほとんど覚えていない上に俺自身のことも忘れている始末である。その為、魔王に信じてもらう事は難しいように思える。そして俺は自分が何者かということを必死で考えるが全然答えが出てこず諦めかけたがここで諦めたら全てが無駄になるのでなんとか頑張って考えるがそれでも俺が自分自身を思い出す事は出来なかった。

(おいおいまじで勘弁してくれよ!?この世界に来たのは初めてだしましてやその前にどこにいたとかどんな容姿だったかとかさっぱりわかんねぇし、俺がなんでこんなところにいるかもわかんねぇしなんでこの俺の体にこいつの人格が入ってんのかすらも謎すぎて意味が分からねぇよ!ってかなんで魔王はこの男を殺さないんだ?もしかして、何かしら事情があるんじゃないか?例えば魔王は何かこの男と関係があるだとか。だけど俺はその辺りは全然分からないけど、でも今こうして俺に疑いの眼差しを向けてくるって事はなんかあるんじゃね?俺の考えすぎかもしれないんだけどな。でも俺が魔王を騙しきれたとしても俺の事をこの男は絶対怪しんで調べに来るはずなんだよなぁ。なら俺の方からも色々と聞いてみればいいか)

俺はそう結論付け俺は魔王の方に歩み寄っていく。するとその男はいきなりこちらに剣を振ってきて俺は咄嵯に避ける。だが俺の目の前に剣が刺さっていてそれを見た俺は冷や汗を流す。

(危なっ!あれに当たったりしたら流石に死んでたかもしれねぇじゃねえかよ。まあ、なんとか避けられたみたいだけど、もし避けなかったら俺はこの体を奪われることになってしまうから良かったといえば良い事なのかも知れないな。取り敢えずは話をして少しでも俺のことを信じてもらえるようにするしか無いよな。俺はこの男の体で魔王を殺す気はない。だがこの男は俺を殺そうとしてきた、だから俺もこの男を殺しても良いよな。よし!殺す!俺は魔王を殺したくない!だから殺す!俺が殺したという事実だけを残してこの男に俺の罪を被ってもらおう。それにこの男はもう死んでいるし別にいいよな?という事で俺は魔王に殺されないように上手く誤魔化すことだけを考えるか!)

俺は俺自身で魔王に攻撃を仕掛けることにしたのである。俺は魔王にバレないように少しずつ距離を詰めていき、そして遂に攻撃を開始することができた。だがその攻撃は全て防がれてしまい結局俺は逃げられることになったのである。

そして魔王の側近が現れたのであった。

(くそっ!やっぱりあの女が現れちまった。これで俺は魔王の事を騙すことができなくなってしまった。まあいいさ、俺は魔王に嘘をつく必要は無くなったんだ。これからは正直にこの男のふりをし続けるだけだ。それでこの体を使ってこの世界を滅ぼすのが俺の最終的な目標なんだよなぁ。まあ今はこの女の事も考えないといけないからまだ手をつけることはできないがな。とにかくこの女だけは何とかしないと、魔王の側近がこの国に来てしまったせいでこの国が滅ぶ可能性があるからな。なんとか魔王の側近がいない間にどうにかしなければ、でも一体何をすれば良いのだろうか。もう既に魔王に疑われてこの国の連中にも俺の存在がばれている以上下手に動くとかえって危険だ。俺はこの女に俺の存在を知られた時点で終わりだったんだよなぁ。どうしたものかなぁ)

俺はその日以来、どうにかして魔王と会話ができるようになりたいと努力したがそれも中々難しく俺は何もできぬまま月日だけが経ってしまったのである。そして魔王と話す機会が訪れた時が来たのだった。

俺はその日は少し気分が悪くなって寝込んでいたのだがそこに魔王が部屋に入ってきて話しかけられたことでその日はいつもより体調が悪いので、その日は無理をして俺の様子を見にやってきたようだ。そして俺はその時にこのチャンスを逃してはいけないと思って魔王の体を乗っ取ることにしたのである。

だがその方法とは魔王の記憶を全て無くさせることによってこの体の元々の持ち主と入れ替わったように錯覚させるといったものだったのである。そして俺は魔王の記憶を奪い、俺は魔王の記憶を消し去りそして、魔王には勇者を殺した時のことを話して、俺は魔王を脅しにかかることにしたのである。俺はそうすることでこの国に留まる許可を貰おうとしたのだ。だが、魔王はそれを断ると共に自分の命を絶とうとまで考え始めていたのだ。

(やばいやばすぎるって!!このままじゃ殺されるかもしれねえじゃねえか!?なんとしてでもそれを止めなければ!!こうなったら強引に気絶させればどうにかなるはずだ!という訳で俺は全力で魔法を使い強制的に気絶させたのである。

それから俺は俺の事について説明していくことにしたのである。だがそこで俺の体の中に別の魂が入っているという事が露見してしまう事になる。

(どうしよう、どうやってこの状況を脱するかだ。とりあえず、ここは素直に本当の事を言っておいた方がいいか?でも、俺はこの男を殺すわけには行かない。ならばやはりここで魔王を殺してこの世界を支配するか。俺は俺自身の為にも魔王を殺すことに決めた。そして魔王に近づいていき首に手を当てようとするが何故か手が動かない。俺の手は震えていたのである。

そして俺は自分の感情が抑えられなくなり涙を流し始めてしまう。その事に気づいた俺は自分がなぜこんなにも悲しく辛い感情に襲われてしまっているのか全く分からなかった。だが涙は止まることなく俺はただ泣いていることを我慢しながら魔王を見つめるだけだったのである。

「うーん」

その声は聞き覚えのある声であり俺はその声で正気を取り戻した。そして俺は今自分の置かれている状況を確認すべく周囲を観察した。

そして俺の体は魔王の首に触れようとした状態のまま静止しており魔王の顔は苦しそうな顔になっている。

そして俺は自分の腕に目を向けるとそこにはナイフが突き刺さっておりそこから大量の血が溢れ出ている光景を目の当たりにしてやっと自分がしてしまった事を認識した。

(俺は何をしていたのだ。どうして俺は魔王を殺そうとしているんだ?魔王に危害を加えるのが目的ではないだろう。それなのに俺はどうして。どうして魔王を殺してしまったのか、俺が望んでいない事をどうしてしようとしたのかが分からない。いや分かっていたのかも知れない。この世界が、自分がいた世界でないことを理解していながらもずっと現実から目を背け続けてきた。その結果がこれなのか、やはり俺は間違っていたのか。だが後悔していても何も解決しないな。まずは現状の確認をする為にこの魔王の体と意識の接続を切ることにするか、それが最優先のすべきことだ)そして俺は魔王の体に宿っている人格と肉体のリンクを切ろうと試みたのであるがそれは出来なかったのだった。

そして俺は自分の体が誰かに取り押さえられていることに気づいたのである。そして、俺はその人物に見覚えがあったのであった。

(これは、俺の部下の奴じゃないか?確かこいつは魔王を暗殺するべく魔王城に向かったはずなのだが、何故俺のところに?)

俺はその事を考えつつもその状況から逃げ出す方法を必死に考えるが結局いい案は思いつかなかったので大人しくすることにしたのである。そして部下は俺を城に連れて帰ることにしたらしい。俺は城で治療を受けることになりそして、暫くの間は魔王城に監禁されることが決まったのである。そして俺は自分の身の振り方を考え始めた。まず俺が魔王のフリを続けていく事はリスクが高すぎる。魔王が生き返ったことが知られてしまった時点でかなり危険な状態になるからだ。その為、俺の存在は出来る限り隠す必要が出てくるだろう。まあ俺が死ねば良いだけの話なんだけどね。だが俺が死んだところでこの男の体に入った俺は死ぬことは出来ないので結局はこいつが魔王を殺しに行った時に俺も同時に殺すしかないってことなんだよな。まあこの世界から去る手段が無い訳ではないが俺自身がこの世界に来た原因を突き止めないとまたいつこの世界に呼び出されるかわかったもんじゃない。そしてその時はこの世界の人間達に殺されて俺が死んでしまう可能性も十分に考えられるのでその手段を取る事は得策ではないと思われる。

(ああ、もう本当に嫌になるな。こんな理不尽な世界に生まれてきてしまった自分を恨むしか無い。でも今はどうするべきだろうか。このままでは俺はこの国の者達に追われ続けなければならなくなる。俺にそんな力は無いので結局捕まって殺されることになる。だが今すぐには殺されることはないだろう。恐らくだがこの男が魔王に勝ったということを大々的に公表してからこの男は英雄として称え始めると思う。そしてその後に俺の存在に気づくだろう。だから俺はその間に逃げることが出来るかどうかを確かめる必要があるんだよなぁ。俺が今できる行動はただ一つこの国から逃げ切るということだけ。俺の命を守る為にはそれ以外に選択肢はない)

(俺は今の状況から逃げる術を模索したのだがやはり無理だということを改めて実感することになった。なぜならこの国で俺はかなりの有名人になってしまっているので例え逃げ出したとしてもすぐに見つかってしまい殺されてしまうのが落ちだ。つまり俺はこの国の連中に見つからないように気をつけながら逃亡生活を送っていく以外に道はないってことなんだが、この男はそもそもあまり外に出ていないからまだそこまで有名になっていない。だから俺はこれからもこの男を演じる事でやり過ごす事が可能になる)

そして俺に魔王の体に乗り移る事が可能になり、俺の目的はこの世界の征服ではなくて魔王と話し合いが出来る状態にまで持っていくという目標に変更する事に決めたのである。そして俺はその日から毎日のように訓練に勤しんでいた。だが俺の訓練は俺自身では全く意味の無い行為だと分かっていたが他にやることもなかったし、だからと言って魔王を殺すような事もしたくなかったので取り敢えずやってみようと思ったのだ。

それから月日が過ぎ遂に俺の魔王を倒す為の準備も全て整った。

この男を殺すことは俺にとって最大の禁忌となっているのかもしれない。もし魔王にバレた場合確実に殺される事になるが俺が魔王を殺したという証拠があれば話は変わってくるだろう。俺の罪が帳消しにされた上で俺の望む物が与えられる可能性もあるが正直に言えば俺が魔王を騙せた場合はその時点でほぼ成功だと思っても過言ではないはずだ。俺が魔王に殺される前に魔王の魂を消せばいいだけの話なので、まあ俺に失敗の可能性が殆ど無くなったといってもいいくらいだ。

だがこの国の人達に俺の存在を知られる訳にはいかないのでこの国に居る間は常に変装する必要がある。それに俺はこの国の連中に俺の存在を知られたくはないので極力この城の外へ出る時は顔を見られないようにするかもしくは常にローブで覆うかどちらかの方法で身を守らないとならんな。後は念の為魔王の武器を複製しておくこともしておいた方が良いか。魔王に殺されるのだけは勘弁だしね。というか俺は別にあの男と仲良くしたいとかいう気持ちがあるわけではないのだが一応知り合いにはなっておいても良いかなとは思っているので、あの男が死んでしまったら俺のこの世界での生活は詰んでしまう。まぁこの男を殺してしまえば俺に殺される心配も消えるのではあるが。だがその場合でもこの男の肉体を手に入れるまでは危険が残る。

俺はそう考え魔王が死ぬ前にこの魔王の体を殺せる可能性はどの位残されているかを考えた。その結果はやはり難しいという結論になった。俺はこの世界に来てからの自分の行動を振り返るとやはり無理だったという事が分かってしまった。俺の能力は『神龍眼』と『魔装 』『勇者殺し 』と『超幸運 』の4つで構成されているが、『勇者殺し』は魔王に対して使うことが出来なくなっている状態になっている。だが、『勇者殺し 』が魔王に対して使えるようになる方法は俺には分からないのだ。だからその方法を知れば再び魔王に対して使用可能となる。俺は『勇者殺し 』は俺の本来の体の持ち主の魔王に使わなければ使えない能力であると推測している。

だが魔王の能力である『絶対服従 』を使ってこの男の意識を操作することによってこの男の肉体を奪う事が出来るという方法も存在している。だがこの方法に関してはリスクが非常に高く魔王のスキルは強力すぎるため俺はこの手は使いたくないと思っている。というかこのやり方は流石に人道的とは言えない。この男には意識はあるのだ。それを無理やり奪ってしまうなんて非道すぎるだろう。それにもし俺が『勇者殺し 』を使用できた場合、俺自身の人格が消滅して俺は元の世界に強制的に送還される可能性が高いので、俺の本当の目的を達成する前に俺の精神は破壊されかねないだろう。そして最悪な事態として、この世界に来る前の世界に俺の記憶が無くなっている可能性があるという事である。俺はその最悪のパターンだけは避けなければならないと俺は思う。

(よし!魔王の部屋に潜入することには成功したぞ!これでやっとこの男の魂と接触することが出来る。まあ、既に何度も試しているが未だに上手くいかないんだけどね。この男の体に憑依するのはもう完全に慣れてしまっているので今では普通に行う事が可能となっているが魔王の体に憑依するのがかなり難易度が高くて、今まで何度やっても同じ場所に行ってしまったりしている。しかし俺は諦めるつもりはない。俺は絶対に元の世界に帰るんだからこんなところで立ち止まっている暇などないのだ。そしてこの体と俺は長い付き合いになってきたが俺がこの体の中に入っていく時毎回激しい苦痛が伴う。だが今回は今までの中で一番楽に入ることができた。それは俺がいつもとは違うことをしたからだろうな。だがそれは当然の事なのだが。俺はこの体の中に入って行く時どうしても恐怖が湧き上がってくるのだ。そしてそれは痛みを我慢すればするほど酷くなる傾向にあるので、今回は敢えて痛みを放置することで精神の安定を図った。そして俺は遂に魔王とのコンタクトに成功したのだった。俺はそこでこの魔王が何をしようとしているのかを知ることが出来たので取り敢えず一安心すると共に、やはり魔王の意識の方に俺は引き寄せられてしまうようだ。そして魔王と対話をする為に魔王の意識を呼び起こそうとした。だが魔王と話すことは出来なくなってしまった。魔王と俺が会話することはこの魔王が俺の存在を知ってから禁止されているらしく、俺はこの魔王と話をするためにはその条件をクリアしなければいけなかった。まあ、それさえクリアしてしまえば俺がこの魔王を支配することが出来るって事でもあるんだけどな。そして俺はその条件を満たす為にこの世界の歴史を調べ始めたのだった。俺はまず最初にこの魔王が生まれた瞬間にどんなことが起きたのかを調べる必要があった。魔王は人間の手によって作られた存在だと思われるからだ。だから魔王の誕生に関して何かが分かるのではないかと考えていた。

魔王はこの大陸の何処かに存在しているのでその居場所を探す必要はあるが。俺はこの世界のあらゆる文献に目を向けてその答えを探し続けた。だが俺の持っている知識では大した情報を得ることは出来ずに途方に暮れていた。そんな中、俺がこの世界に来て初めて訪れた国の資料を見つけた。俺はそこにある書物を読むことで遂にある真実に辿り着くことになる。

この世界の始まりはこの魔王の生まれ故郷の王国で、その時魔王が人間によって封印されているということが書かれていた。どうやら魔王は昔はこの国の人間達に酷い仕打ちを受けたせいで恨みを抱いていたらしい。だが魔王はこの王国の者達に復讐するために自分の肉体に封印魔法を施したのだという事だ。どうやら魔王は自分の体を他の者の目に触れられないようにする為に自分が生きているという事実を隠すようにこの世界の人間達に伝えたそうだ。だから俺もこの事実を知らないので、恐らく俺と同じ状況に陥っている者が居てもおかしくはないのだ。そして俺も同じように魔王に殺されたと思い込みそのまま生き続けるのだろう。そして俺と同じように魔王の復活を願う者が現れるだろう。だがそんな事をされては困るという訳で俺も今の状態になって魔王が復活した時に直ぐに対応できるようになっておく必要があるだろう。魔王に殺されるという可能性は極めて高いだろうが万が一魔王が死んでいた場合に俺は確実に殺されるからな。そしてもしもの場合に備えて俺が生き残る為にも色々と準備しておく必要があるだろう。)

俺がその事を知った時から数日後に遂に俺は魔王を倒すことに成功した。魔王を倒すのには苦労したがそれでも何とか勝つことは出来た。ただ問題はどうやって魔王に気づかれないで倒すことができるかどうかだったが、やはり魔王にはバレてしまっていた。俺は魔王が眠っている隙を伺って攻撃しようとしたのだがそのタイミングで魔王が目覚めてしまい俺の作戦は失敗してしまったのだ。だが結局は俺は魔王を殺すことは成功したのだから良しとするべきだろうか。だが魔王を殺した後も魔王はしぶとく生きていたので俺は仕方なくもう一度魔王に攻撃を仕掛けた。すると俺の放った一撃は魔王にダメージを与えることに成功して、そしてようやくこの世から魔王を消すことに成功するのであった。

魔王がこの世に復活したのは俺の責任でもあった。俺のせいで魔王が生まれてしまったのだ。だから魔王は復活と同時に真っ先に俺を殺しに来ようとしたのだが俺はそれを事前に予想していた為なんとか対処する事に成功するのだった。そしてその後俺は魔王を殺すことに全力を傾ける事にするのである。

(さてと俺はそろそろこの体から抜け出して新しい肉体を手に入れるとしましょうかね。俺が死んだ後の体なんてどうでもいいんだけどな。取り敢えず早くしないと俺が俺だとバレてしまうので早めにしないといけないんだよな。俺は俺の存在を隠しながら行動していくという非常に困難な道を進まなければいけないのだ)

(俺は俺の肉体を手に入れてからその肉体の解析を開始した。そしてその肉体を手に入れた事で俺は新たな力を手に入れる事ができたのだ。だがそれは今の段階では使うことが出来ない。この力を開放するのはもっと後でだ。今はこの体の性能を完全に把握することが重要だ。この肉体は『神速神人』というもので身体能力を向上させることが可能であり更に『龍神化 』と呼ばれる能力を使う事ができるようになっているのでこれは是非とも習得しておく必要があると思う。そして『龍眼』の能力は単純に言えば鑑定系のスキルを使用できるようになるのだが、俺の場合は自分のステータス画面を常時開いて確認できるようになるという物で俺自身でもあまりこの能力の価値については理解していない。ただ便利に使えているのでそこまで問題は無いだろうと思っている。そして俺はこれからこの世界で生きるにあたって必要な技能について考えることにした。まず俺はこの肉体の持ち主に成り代わっていたいと思っていた訳なのでその方法についても考えてみた。だがそれは俺にとっては余りにもハードルが高いものだった。俺は『魔眼 』の能力を使用することによって他人の体を乗っ取り、その人物になりすますことが可能となるのだが、その対象は自分以外の生物の魂が存在する場所にしか入る事が出来ないという特性を持っているため、この肉体の中に居る俺はこの世界に存在する全ての魂が認識できないという欠点を抱えているということだ。

だからこそ俺の『魔眼 』の能力では他者の魂を見抜くことはできない。俺は『魔眼 』を発動させて俺に魂があるかないかを確認することにした。しかし、残念なことに俺の『神龍眼』は他人に掛けることが出来る能力だが自分に使用しても意味がないのである。

俺は自分の肉体に憑依することで自分の意思で肉体を動かす事が出来るようになるのである。だがこの肉体が自分のものであるという確証はどこにもないのだからこの方法に頼るわけにはいかない。俺はこの肉体の所有者の肉体の解析を開始する事にした。だが俺にそんな余裕など無かったのだった。この世界の人間が俺に対して攻撃をしてこようとしてきたのだ。俺はそれを間一髪で避けることができた。そして俺に敵意を向ける人間達を見て俺は思った。何故こんなに俺を殺そうとしているんだと、この世界の人々は全員俺に殺されて死んだはずなのだ。そして俺はその理由をこの肉体の持ち主の記憶を辿ることで知ることが出来た。

それはこの世界が滅ぶ寸前の状況だったからだというのだ。魔王はこの世界の人間達がこの大陸に住む人間達に酷い仕打ちをした所為でこの大陸で暴れ回り、それをどうにかして止めようとするがそれを邪魔するこの大陸の住民達を皆殺しにして、この大陸は壊滅の危機に陥ることになったらしい。その被害がかなり大きかったためにその恨みを持つ者達が集まっている組織が存在しているらしく、その組織は魔王に対抗する為にこの大陸にいる全種族の長を集めて魔王討伐軍なるものを作り上げたそうだ。そしてそれが現在の勇者パーティーと言われている集団のようだ。そしてその集団はこの世界を護るために魔王の討伐に向けて様々な試練を与え続けているのだ。そのせいでこの世界の人間は魔王が復活していることに気づいていないようなのだ。

俺はその事に驚いてしまったが同時に俺にこの世界で生き延びる術をくれたこの体に俺は感謝することになった。そしてそれと同時に魔王を復活させたこの男に殺意が湧いてきてしまった。

俺が俺として生活出来る環境を作るまでこの世界が持ち堪えてくれることを祈るしかないだろう。だが俺は絶対に元の世界に帰ってみせる。俺はその為だけに今まで生きてきたのだからな。だがこの肉体の主は一体どうしてこんなところで死んでしまっているんだ?俺はその疑問が浮かんできたので、俺の意識の中でこの肉体の過去を覗き込む事にした。

そして俺はその男の過去を知ることになりこの男の身に何が起こったのかを知ったのだった。それはこの世界の歴史がこの男の視点で語られているようなもので、そして俺にとってその歴史はあまり気分のいいものでは無かった。だがそんなことは関係ないのだ。今俺に必要な情報は全てこの記憶の中に存在していたのだ。俺はその事実を知って少し絶望してしまいそうになったがそれでもまだ諦めるのは早い。だからもう少し頑張ってみることにするのであった。

(まずこの世界の成り立ちから確認することにした。そしてその結果から分かったことだがこの異世界はこの星ではない可能性が高いのだ)

まず俺はこの世界の歴史から調べていくことにしたがその過程でとんでもない事実が発覚したのだ。この世界は星の数だけ存在する可能性がありその中でも地球と呼ばれる惑星が存在する可能性がある可能性が最も高いと俺は考えるようになった。そして俺はそんな馬鹿げた発想に至った理由があった。俺は俺がこの世界の外から見たらどういった風に見えていたのかを確認する為に空に登ってみたのである。

そこで俺はとんでもないものを発見してしまった。それは俺の世界でいう所の太陽と呼ばれる天体が存在していなかったのだ。それどころか俺から見てこの世界の天上に見える光っている物体を俺は確認できなかったのだ。

どうやら俺は完全に異空間に閉じ込められたらしい。そして俺はこの世界で自分の肉体を手に入れてこの世界を生きていかなければいけなくなってしまったらしい。

「くそ!この俺が負けてしまった!」

俺はそう言いながら目の前に倒れている二人の死体を睨む。まさかこんな事になるとは思わなかったのだ。

俺が奴等を殺すのに時間は殆ど必要ではなかったのだが。だがそんな事を考える前に俺も殺されてしまう可能性があった為に急いで逃げ出す必要があると判断して直ぐにその場から離れようとした。だが運の悪いことに、逃げる途中背後を振り向いてみるとあの女がいたのだ。

どうやら俺の動きは読まれていたようで俺の後を追ってきたらしい。そんな訳で俺は戦う覚悟を決めるしかなかった。だから俺は仕方なく戦った。そしてなんとか俺は生き残ることが出来たので結果オーライといったところだろうか。

ただあの女だけは俺の事を執拗に狙ってくる。俺はあいつが俺に執着する理由は知っているが正直関わりたくはない。しかしこちらとしてもあいつに殺された仲間達の仇を取りたい気持ちがあるので見逃すという選択肢は存在しないのだ。それにこのままだといつかまた俺はこの女の毒牙にかかることになるだろう。ならば今ここで殺しておいた方が良いだろう。

「くそっ!どこに行ったんだ。何処かに潜んでいるのは間違いないのだが、気配も何も無いぞ」

俺は焦っていた。なんせさっきの女の追跡から逃れるのに必死だったからだ。

(俺が逃げ切ったということはこの周辺に隠れているのは確定事項なのだが、いくらなんでも見当たらなさすぎるだろ)

それから俺はこの周辺の森を全て探索してみたのだが結果は惨敗だった。

だが収穫がなかった訳ではない。一つ分かった事がある。あの女はこの大陸には生息しない生物だということがだ。だがそれだけでは不十分だと思い俺はこの大陸に存在するあらゆる生物の気配を感じ取れる範囲を最大にする。

(よし、見つけた。ここから北に100キロ地点か。恐らくこの辺りに何かがある筈なんだがな)

俺がその方角に進むとやはりそこに存在した。俺の読みは正しかった。そしてそこには俺の求める物が存在した。

(これは凄いな。これがこの世界にあるのか)

俺はそれを手に取りまじまじと見つめてしまう。だが今はそんな時では無いのですぐにその場所を離れて移動を開始しようと歩き出すが。

『グゥオオオオン』

その鳴き声を聞いて俺は慌ててその場を離れようとしたが間に合わずそのドラゴンに攻撃されるのである。俺は何とか避けようとするのだがその一撃が余りにも速すぎて避けることができずにその攻撃を喰らいそのまま地面に激突してしまうのである。

「な、何故この大陸に生息する筈のないお前がいるのだ!!」

俺はそう叫ぶのだが当然その質問に答えるような生き物はいない。いやまあ、目の前にいるドラゴンにそんな知能があるかどうかは知らないけど。取り敢えず俺の予想が的中してしまったということなのだ。

『我の名は『神竜』と呼ばれている。我に挑もうとした愚者を罰してやる』

俺はそんなことを言ってきているが俺はこいつの事を知らないしそもそも神を名乗る存在に知り合いがいないのだ。そしてこの世界の神話とかに神と呼ばれる者達が登場することはない。だからこそこの世界の者ならそんな嘘は吐かないのだが、どうもこの大陸の住人で無いことが分かってしまうのだ。そしてこの世界には『神龍』という魔物も存在していてこの世界では『龍神』と崇められている存在であるという事が俺の頭の中である人物の知識から流れ込んで来たのでその『神竜 』では無い事は確実である。

だがそんなことはこの世界に存在しない。つまり俺は別世界から来たと思われる生物を相手にしているということになる。

(まぁ、それはいいとして問題はこいつを倒すかどうかだよな)

(倒せないのじゃよ)

いきなり心の中に入ってきた声に俺は驚きを隠せなかった。

(は?)

思わず聞き返してしまいそうになったがここはぐっと我慢しておくことにする。だっていきなり心の中に入り込まれて勝手に会話され始めたら流石に誰でも驚くに決まっているのだ。だからその反応は決しておかしいものでは無く普通のものだと思うのだ。

だから俺は特に何も言わずにただその声の正体を確かめるために俺の心の中に入ってくる許可を出せばいいだけだった。

だがこの女は本当に何を考えているんだろう。

俺としては俺のことをよく知りもしないまま好き勝手されては困るのだ。だがそんなことを考えた所で仕方がないので俺は渋々承諾する事にした。そして俺は神龍とかいっている目の前の存在に目を向ければ俺に語りかけてきた相手はこの世界で最上位の存在であり俺のような者が敵うわけもない。なので大人しく従おうと思うのだが、この女の俺の心を覗き見るかのような目線に嫌悪感を覚えてしまったのは致し方ないだろう。だがそれを顔に出してしまえば相手に余計なめられることになってしまう。

だから俺は何も気づかなかったフリをして話しかけることにしたのだ。そして俺の言葉に対してこの自称女神のこの世界にいる種族を守護する為にこの世界に君臨しているというのだ。

この世界にいる種族は全てこの世界に転生する権利が与えられているらしい。そしてその種族達は自分の前世の記憶を持っているのだと、それで俺はようやく理解できた。

(なるほどね。確かにそんなことになれば俺は間違いなくここに来ることになっていただろう。そうなると俺があのクソジジイを殺した時に俺も一緒に死んでしまったのか。全く面倒くさかったんだよなあれを片付ける為に必要な情報を得る為にわざわざ死んだ振りなんてしなければよかったぜ)

俺的にはそこまで問題になる行動では無かったが俺が死んでいると勘違いしていたのであれば向こうは結構な迷惑をかけていたのかもしれないと思ったのでその点は謝っておくことにした。

それとこの女はどうやらこの世界で俺に協力して欲しいと思っているらしい。この世界の事に関しての情報をある程度は教えてくれたので、それについて少し話を聞く事にした。この世界では基本的に俺達が住んでいた世界と変わらないらしい。だが魔法という概念が存在し、魔道具も存在するようだ。

その二つの事については俺の好奇心が刺激されたが今はそれよりも重要な事があるのでそっちを優先しておきたい。まずこの世界の現状を把握する必要があるのだがそれはどうやらその神の力が弱まってきていることが原因らしい。

この世界は今かなり危険な状況に置かれているらしく。

俺の力を宿らせたあの男達が暴走してしまいその所為で一番厄介な魔王を殺してしまった事で事態は一気に加速してしまったのだという。そしてそんなことが起こった理由はその男の力を奪い取ろうとしたのが理由らしい。その結果この大陸に存在している殆どの生命体が絶滅する危機に晒されることになってしまったのだと。

ただそのおかげであの男に加護を与えることが出来る存在がいなくなってしまったので俺がこの世界の人間にあの力を分け与えてこの世界を救う手助けをしなければならないそうだ。その説明を受けて俺は正直嫌気が差してしまったがどうやら俺はその使命を断ることは出来ないらしい。そしてこの世界は今魔王の復活を目論む奴等によって壊滅の危機に陥っているらしい。俺はそれを止める手伝いをすることになった。そしてこの世界で俺に用意された役割は『英雄』となるべく行動をしていく事になるらしい。

そして俺がこれから生活をする事になるのはこの国の城にあるらしいのだ。しかもそこにある転移陣から別の世界に跳ぶことになるというのだ。

そこで俺は疑問を抱いたのだ。なんせ今の俺は勇者に化けてはいるが別に俺はそんな称号に憧れてはいなかったのだ。

俺はもっと自由奔放に生きていくつもりだったのだ。なのに何故この女はそんな風に俺の事を誘導して俺の事を『英雄 』にしていこうとしているのだろう?俺の本性を見抜いたのか?でも俺にはその手の才能がないと俺は自覚していたのでそれが理由でこんなに必死になられる理由が全く分からなかった。だから俺はその理由を問いただしてみた。すると俺は女の正体を知ってしまう。

俺はその時にその女の顔を見るのであった。

私は目の前の男を殺すのに失敗したことを残念に思いながら私を追いかけてきた存在に目を向ける。そいつはこの世界においての最強の種族『神龍』の成れの果てであり『終焉龍』とも呼ばれている存在だった。この世界には存在しない筈のこの大陸における最高レベルの魔物であるこいつは何故か私に異常なまでの執着心を抱いていて私がこいつから逃げきれたことは一度たりとも存在しなかった。だが今回は運良く逃げることが出来たのだ。

だからと言ってまた逃げ切れるかは分からないのだが、ここで殺さなければいつかきっとまたこの男はまた私を殺そうと追いかけてくるに違いないだろう。だから殺す必要があった。

しかし今回こそはその執念から逃がすことが遂に出来そうもなかったのだ。

(ま、不味いぞ。こいつがこの国に現れるということはまさか奴等が既に来ているのか!?)

そう考えた時、突如として私の目の前に現れたその存在を見た時に私の身体が震え始めてしまう。

何故ならそいつが私の前に現れたという事は私の存在がそいつにバレているということを意味しており。もしそいつの目の前に出ていけば確実に殺されてしまうという確信があるからだ。

(お主よ、あの者は一体何なのじゃ?)

(お前は知らんかも知れんが『神龍』というのは基本的に『龍神』の劣化版でしかないんだ。まああいつが異常に強いだけであって他の『神龍』に関してはそこまでの脅威じゃないんだが。だけど『終末竜』だけは別だ。あれは『終末の災厄』とも呼ばれていて『終末』をもたらす存在として知られている最悪の『龍』なんだ。だからもしも遭遇することがあれば全力で戦わずに逃げろと言われ続けている。だが俺はそんなこと言われた覚えはないんだけどな。まぁ、それでも流石に今回の件にあの人まで巻き込む訳にはいかないし、取り敢えず逃げるか。幸いまだこの辺りにいるみたいだし)

俺はこの辺りの地理に詳しい筈なのでここから逃げることにすればどうにか撒く事が出来るだろうと俺は考え実行することにした。

(え!ちょっと待ってくれ。どうしてこっちに来るのじゃ?)

そんなことを言われても仕方がないだろう。こいつも恐らくこの世界ではかなり強い存在であることは確かだが俺からしたら大したことではなかった。それにこいつの実力ならばおそらく俺よりも上なのだろうがこの大陸では俺は『無敵 』『万物の支配者 』のスキルを有しているのでその能力値もかなり上がっている。だからその程度の強さでは相手にならないだろうと判断したのだ。

(お前も取り合えずついてこい。俺がなんとかしてやるよ。多分こいつの狙いはお前の方だと思うしな。俺にお前を助けようなんて気は一切無いんだし大人しくしていろよ)

こいつに何か特別な思い入れがある訳ではない。そもそもこいつのせいでこの大陸の生態系が狂ったのだ。俺としてはその所為で無駄な労力を割かれた結果。この世界での目的である復讐に費やせる時間が削れるのであまり良い印象は持っていなかった。だからこれ以上の時間を取られたくないので適当に対処しようと思っていた。だが俺が歩き出した途端。

(わ、分かったのじゃ。だから我にも協力して貰うからの。それとあのドラゴンから逃げきる自信はあるんじゃよな)

(当たり前だ。俺は最強を目指しているからそんなことは当然だろう)

だが俺が走り出そうとした瞬間、背後からとんでもない気配を感じた俺は咄嵯の判断で後ろに下がり距離を取ることにしたのである。そのおかげで俺が先程立っていた場所に巨大な爪の跡が残されている光景を見て冷や汗をかいてしまうが何とか無事であった。

(ほう、我の攻撃を避けるとはな。だがこれぐらいで怯むほど弱い攻撃は繰り出していないのでは無いのか?)

そして次の攻撃を俺に向かって仕掛けてきたのだ。俺はそれを回避すると同時に『無拍子 』と『瞬歩』を組み合わせてその場から移動して回避した。だが俺が今使った二つの技能はこの世界ではまだ知られていない未知の技能だったはずだがどういうことなのだろうか?俺に攻撃を仕掛けた女は明らかにその二つの技能について知っているかのように見えた。そしてそれを簡単に俺に対して使ってきたことも俺の頭の中に引っ掛かる要因になっていた。俺はこの世界のことに関しての知識はまだまだ少ないのだが、それでもこの女は今まで見てきた人間とは違う存在だということは感じ取る事が出来たのだ。

(どうやら本気で行かないと勝てないようだな。『全身体能力上昇 』!!)

そして俺は戦闘態勢に入る。

(なるほど、確かにあの男の言う通りあやつからは只ならぬ力を感じるの。じゃがこの程度の相手に遅れをとるわけが無いじゃろう)

確かにその女の言っていることは間違っていなかった。

確かにあの男が今行使している能力は凄まじいものだった。そしてそれがどれ程のレベルなのかも分かっていた。

「なあ。もうやめてくれねーかな」

そう言って男は目の前にいる私にそう告げたのである。

私とあの男は今戦いをしている最中だった。

そして今私はあの男を圧倒しようとしていたのに何故かその言葉を投げかけられたのである。その発言を聞いたことで私の頭が混乱してしまった。そして私はその隙を突かれてあの男に首を斬られてしまう。

しかし首と胴が切断されてもその痛みを我慢して意識を集中させると、どうやら私は完全に殺される前にあの男に止めを刺されていたようである。私は死ぬ間際にそんな事を考えていたのだ。だがそんな事を考えている暇も無く私はそのまま死んでしまうことになる。その事に後悔を覚えたのである。しかし私はこの世界では『不死』という称号が与えられている存在だったので死が訪れることはなかった。しかし私が目を覚ました場所は私が最後に見た景色とは全く違う場所にいたので、その事に疑問を覚えてしまう。そしてそれと同時に自分が何故こんなところにいたのかを思い出してその男に殺されてしまったのだという記憶を取り戻したのであった。

(全くなんなのだあの男は!?私が『神龍 』だと言うのに何故殺そうとしてきたのであろうか?普通に考えて私が敵だと認識する存在はあの勇者とか名乗っている奴らだけじゃよ。それ以外の奴らからしたらこの世界に私のような存在がいるはずもないからな。それ故に私の事を勇者とかいう偽物が殺しにきたと思ったに違いないのぅ。まったく迷惑なことこの上無いのじゃが。まあこの世界では私が本物だという証拠を見せなければならないのだからな。それにこの世界には既に『龍人 』と『魔王』が存在する。そいつらをどうにかしない限りはこの大陸から逃げ出す事は出来ない。つまりこの世界から出るための手段を手に入れないと私にとってはただ時間を失うだけになる。それにしても勇者とは何じゃ?)

そんな事を疑問に思ったのである。

勇者は物語の中では大体が物語の終盤に登場してくるような存在であることは間違い無かった。そして魔王もまた同じようなもので、この大陸で言えばあと『魔王』の称号を持っている人間は二人しか存在しないはずだった。

(まさかこ奴らのどっちかが私のことを『魔王』などと勘違いして『勇者』を名乗っているということか!?そんな事をしなくてもどうせすぐに分かると思うが。こ奴らも馬鹿じゃな)

そんなことを思っていたのだが、私にとってそれは嬉しい誤算だった。なぜならばまさかこんな所で出会うことが出来るのだから。それも私の予想が正しければ、こ奴らがこれから行く場所というのはあの人が言っていた異世界への転移陣が存在している場所である。あの人はあの『終焉の災厄 』を召喚した『終末神』を一人で封印していた人物で。しかもその封印にはある特別な方法を用いていたのでその方法を真似れば同じことが出来なくもないことには出来そうであったが、しかしあの人の力は異常であり。あんな真似をすることが出来る人間が存在するのはおかしい。だけどあの人と似たような匂いのする人物が一人居たのも事実である。しかしそれはあり得ないことでもあった。何故ならあの人の力が異常過ぎるからだ。私だって他の人間よりはかなり強い方だと思うけど流石にアレほどの化け物は見たことがなかったのだ。

(さてまずはこの世界のことを詳しく知るために情報収集から行うかの)

そしてそんな事を思いながら私は自分の力でその大陸の情報を集めていったのであった。そしてその過程で様々な情報を収集することが成功した。そこで知ったのだが、やはり私の存在というのはかなりの有名人らしいのだ。だからこそその情報が出回っていたからこそあの勇者を名乗る奴らは私の元に現れたということが分かったので感謝はしているが面倒なことをしてくれたのも確かだった。だがそれよりも問題なのがこの国の王城の中であの人を監禁しようとしている連中がいて、その人達こそが『終末の災厄』と呼ばれている存在であることを知った。

(どうしてそのような者がこの世界に居るのだ?まぁ今は良い、それより早くあの方が待つ国へ向かわなければ。あそこにはきっと『神』という称号を得た人間が他にも存在している。そいつらと接触すれば私に敵対する人間も自然とその数を減らしていくだろう)

そう、あの人と一緒にいれば必ずあの人以外の人間の扱いが雑になることが容易に想像できるのである。

だから私はあの人からあの人を守ると決めたんだ。だけど、今の私はあの人を助けるどころか。あの人に助けてもらうことになってしまった。でもそれで良かったんだ。私は弱い。そんな私があの人を助けたところで何の足手まといにしかならない。だけど私はあの人が私の為に戦ってくれる姿を見た時。嬉しくって堪らなかったんだ。そしてこの世界で生き抜くための理由が見つかったんだ。

(ああ、本当に楽しみだな。早く会いたい。貴方がそこにいるのであれば私はどんな強敵が現れたとしても恐れる事はないのです。どうか待っていてくださいね)

私はこの世界では最強と呼ばれる『神 』の一人。『破壊の権化 』として。

そして『終末の災厄 』と呼ばれる者を倒すための準備を今始めたのであった。

そしてそれからしばらくして。『破壊の権化 』が俺に襲い掛かってきたのだ。だがそんな攻撃をされた俺だったが、こいつの実力ならばそこまで危険視する必要はないと判断していたのでその攻撃を余裕を持って避ける。だがこいつの次の行動はその判断が間違っていたことを証明するものになったのだ。

俺の攻撃を回避した『あいつ』は俺の方に攻撃を仕掛けた訳だが、その攻撃がまるで見えなかった。だが俺はそれでも慌てることなくその攻撃を回避することに成功した。しかしそれでも俺は油断せずに警戒心を引き上げることにする。この世界にまだ慣れきっていないのにも関わらずいきなり俺を殺しに来てくれた存在がいたのだ。当然俺がその攻撃に対して何かしらの手を打っていないと考えるのはあまりに甘い考えである。なので俺は常に警戒だけは怠らずにその一撃を避けることに意識を集中させることにしたのであった。

(おい、一体どういうつもりだ?お前の相手はあの男ではないぞ。そんなにも死に急ぎたいというのであれば。我の手で殺してやるが構わないのか?)

(ふっ、相変わらず貴様は傲慢な奴だな。しかし残念だったな。俺の目的は既に達しているんだよ。まあ貴様に俺を殺すことが出来るかどうかは知らないが。とりあえずこの男の始末が先だからな。悪いが先に片付けさせてもらった。だからもう俺に関わるんじゃねーよ!『瞬撃 』!!)

そう言い放ち『あいつ』に攻撃を仕掛けようとした俺は突然視界の端に映った黒い影を目にした瞬間に即座に後ろに飛び退いたのだ。そしてその一瞬後にその場所に強烈な斬撃を放つ。すると地面が真っ二つに切り裂かれたのである。その威力を間近で確認できた俺は改めて『あいつ』の規格外の力を認識することになった。

(なるほどな。確かにお前の言う通りあの男よりも弱いな。それなのにあの男に戦いを挑むのも面白いと思ったが。そういう事なのか?なら今回は引かせてもらおう。それにあの男がどこに行ったのか探さなければならないのでな。また会えることを期待しているぞ?まあ無理かもしれないが。まあせいぜい生き残れることを祈っているよ。じゃあね)

そう言った途端に奴の姿が忽然と消えたのである。

そして奴の声だけが頭の中に直接響いてきた。

俺はその声を聞いて、どうやらもう奴はこの国に存在しないことがはっきりと理解出来たのである。恐らくは『神 』の一人であるあの男に消されてしまったのだと判断した。だからもうここに用は無い。

そしてあの勇者を名乗る奴を今度こそ倒すことを決めた。そして俺はその場から立ち去ろうとしたのだが、そんな俺の元にあの女が現れてしまったのだ。

(ほう、これは面白いことになりましたね。ですが何のためにあなたがこの場にいるのか分からないけど私の獲物を横取りしようとしないで欲しいんですけど。それともこの私に逆らうおつもりで?)

(ふん、貴様如きの存在がこの我を相手に勝てると思っている時点で愚かだと言わざるを得ないがな。いいだろう。我が直々に相手にしてやってもいいが、貴様がどこまで出来るか確かめる必要があるのでな)

俺はあの女にそう言われて何故か戦う流れになってしまった。だがあの勇者とやり合うにはこいつと協力する方が得策かと思ってしまう程だった。しかし俺達はその戦闘によってお互いに相手の実力を確認することが出来て結果オーラライな感じで終わったのだ。そして俺がこれからどうするかについて考えていた時に俺は唐突にあの人から話しかけられたのである。

そしてそんな出来事の後、僕はあの人と行動を共にしている。最初は何故この人はあの人を殺そうとしていたのかと思ったのだが。その真相は僕の予想を遥かに超えるものであった。僕も『神』とまで言われる存在に会ったのはこれが初めての事でかなり興奮してしまった。だからあの人と話が出来る事がこんなに嬉しいことだとは思ってもいなかったのだ。だけど、これからあの人はどうするんだろうかと少し不安になってしまったのである。

だから僕はあの人の後を追うように付いて行くことに決めたのである。

それにしてもこの国は酷い状況であるな。こんな所に長くいたら頭がおかしくなってきてしまう気がしてしまうのだが、あの人は一切そんなことを感じさせないのである。そんな所は流石『勇者』と呼ばれるだけあると思うが、それにしてもあの人が纏う存在感は異常過ぎる。それはおそらく普通の人間じゃあの人が放つ覇気に当てられてしまい動けなくなってしまうと思うのだ。それほどまでに圧倒的な力の差があるはずなのだが、あの人が本気を出した姿は一度も見ていないので本当のところは全く分かっていないのだ。

(まぁあの人がその気にさえなれば私でも簡単に殺せてしまうような相手なんだろう。でも私はその力を使わないで欲しいなんて思ってしまうんですよ。でもあの人は決して私達に危害を加えることは無いし。そもそもどうして私達に協力してくれようと思ったのでしょうか?私も他の仲間達と同じ様な感覚であの人と接しているのですが。どうやらその事をあまり良く思っていない人間がいるらしいですね)

そう思いながらもあの人を追いかけて辿り着いた場所はあの人の隠れ家がある場所である。この場所は私の想像を軽く凌駕する場所で、そこには私では絶対に手にすることが出来ないであろう情報が存在していたのである。私はそこで初めて『あの人 』がどれだけの存在であるかを理解することができたのだ。

(まさかあの人がそんなに凄い方だったとは。まあそのおかげであの人を味方に引き込むことに成功しそうだ。それにあの人もきっと私のことを大切に扱ってくれるはずだ。だからこそあの人を必ず守らないと。もし、この世界での唯一の肉親を失ってしまったのならあの人はもう生きていけないでしょうから)

そんな決意を胸にしながら私はまず、この世界のことについて詳しく教えてくれるようにあの人に頼んだのであった。そしてそのおかげで私はまだ知らなかったことを知ることが出来たのである。

そのせいであの人が『終末神』と呼ばれてしまっている人物を倒すためにこの世界を旅立つことを決意したのは良いけど。でも私にとってこの世界は大切な存在であるからあの人をこの世界に残していく事が出来れば、この世界でも何とか生き延びられる可能性があると思っていたのだ。だからこの世界であの人が『勇者』と呼ばれていることもあの人に説明した上で、あの人にあの人達と共に『神』という称号を持つ存在と戦いに行くという選択を選んで欲しかったのだ。だがあの方は、私がその事を告げるとその選択肢を選ぶことはしなかった。

(なるほどね、俺が『神 』と戦うか。でもまあ、それもありだよね。俺はさ。『神 』と戦ってみたいってずっと思っていたんだよ。だって『神 』は最強の存在だから。そんな存在がこの世界に居ると知った以上、その実力を測りたい気持ちが出て来るのも仕方が無いと思うんだ。だから俺もそろそろこの国を出ていくかな)

そんな事を言われた私だったが正直、あの人にそんな危険なことさせるわけにはいかないのだ。あの人にもしものことがあれば。私は私で無くなってしまいそうな予感がしたのであった。なので、この世界に残るよう説得を試みたのだが。その度に断られてしまう始末である。

私はどうにかあの人が『終末神』を倒して戻ってくることを信じていたのであるが、どうやら『勇者』はあの人のことをこの世界から消すつもりのようである。そしてあの人がこの国から出ていくことを拒んでいることをあの勇者に伝えることにしたのであった。だが、それでもあの人の決意が変わらないことを知り。仕方なくこの国が滅んでも良いのかと言う意味を込めた警告を発したのだ。

(おいおい、何だお前?何を俺の大事な家族に向かって剣を構えているのか分からないんだけど。俺の家族を傷つけるというのであればお前も俺の敵と見なしてやるよ。いいな?)

(ひっ!わっ、分かりました!!どうかお許しを!!命だけは!!)

(ふっ、ならいい。まあ俺はそこまでお前に怒っている訳じゃないんだよ。ただちょっと俺のことを侮っていたから腹が立っただけで、本気で殺しに来るのなら容赦なくぶっ殺すつもりだ。だけど、俺の家族に害を及ぼすっていうのであれば。容赦はしない。お前には俺の怒りを買った代償として、死より恐ろしい苦しみを与えてやる。まあ、もう二度と会うことはないとは思うが。一応名前ぐらいは覚えておいてやるよ。じゃあな)

あの人がそう言うと同時に、あの人はその場から立ち去った。

それからしばらくした後にあの勇者が『神 』と接触するという情報を私は耳にしたのである。なので、その時に備えてあの人が戻ってくるまでの時間稼ぎをしなくてはならない。だから私も勇者の元へと向かっていったのであった。

その男は私のことを馬鹿にしてきたので、私に攻撃されたことに対する正当な反撃を行っただけなのに何故かその男は逆切れしてきたのだ。そして、その男はあの人に対して攻撃をしたのだが、あの人の攻撃の方が圧倒的に威力が高く。その男の放った斬撃はその威力が半分程度にまで低下してしまい。更にその斬撃は地面を割ることは無く、逆に斬撃が地面に吸い込まれていったのだ。そしてその男はそのまま斬撃に巻き込まれてしまいその衝撃に耐え切れず気絶してしまったのである。

私はあの人の姿を確認して思わず歓喜したのだ。あの人の姿を見ると本当にほっとしてしまったのである。

(おっ、やっぱり君は来てくれたのか。良かった。俺の方もようやく準備が終わったところだったんだよ。後は俺もあの男を殺すだけだったから丁度よかったよ)

そう言うと彼はあの男が持っていた魔道具を使ってその男の命を奪うとすぐにどこかへ転移して行ったのである。私もその場所に付いて行くことに決めていたが、どうやらその場所はとんでもない場所であり。あの人ですら苦戦していた。その事に驚いているといつの間にかに私はあの人に助けられており、あの人のことを必死になって探していた。あの人は無事なのか、どこに行ってしまったのだろうか?そう心配しているとあの人の姿が急に現れたのだ。どうやら、この場所にいると危ないと思って急いでこの場所から脱出することにしたようだ。私はそんなあの人に感謝しながらも、やはり私はあの人のことを信頼しているのだということを改めて自覚することになった。

(あの人が居なければ今の私も存在しなかったかもしれない。だから、私はどんなに辛くてもこの人に一生付いていこうと決心することができたんだ)

俺はその女がこの城の中に居る理由を聞き、俺を殺しに来たのではなく俺がこれから行う作戦に協力してもらおうと考えていると聞かされて安心したが。しかしあの女にそう言われても、俺はこいつの実力がどの程度かが分からないため警戒するのをやめなかったのである。するとそんな俺に対して彼女は自分の強さを見せ付けるかのように襲ってきたので俺も戦うしかないと思い、彼女との戦闘を行うことになった。

だが結果は圧倒的な差で彼女が勝利したのである。それも一瞬の出来事だったのだ。そんな光景を見て流石にこれは勝てないと確信してしまったので彼女と共闘する事にした。

「はははは、君も強いねぇ~まさか私達を相手に一歩たりとも引く気配すらみせなかったからさぁ~正直ビックリしちゃった」

俺は彼女の実力を目の当たりにして、もしかすると俺と同じような力を持っているのかと思ってしまったので念のために確認をしてみることにする。

『貴様、俺のスキルについてどこまで知っている?』

『えぇーそれは内緒に決まっているじゃん。私達の正体を知っているのなら話は別だけど、それ以外には私の口からは何も教えることはできないんだよね』

『じゃあお前は何故あの時あの女の側に付いてきたんだ?まさか、仲間意識なんてものがあるわけじゃねえだろうな?そんなくだらない考えを持っていてこれからの戦いを乗り越えられると思っているならお前はこの先確実に後悔することになるぞ。もし、あの時にあいつがあの場から離れていなかったのならば今頃お前がこうして生きていた保証なんてものはどこにもないからな』

その言葉を聞いたあの女はかなりの動揺をしてしまった。どうやらこいつも何かしらの情報を持っていたようである。だが、それを明かす事は出来ないらしい。まぁそれはそうだよな。だってこの女は自分があの勇者のパーティーに所属していた人間だという事を既に知られていると気付いているのだから。だから余計なことを話す気は無いのであろう。だが、あの勇者が俺達の前に現れたということは間違いなくあの女の仲間が近くに潜んでいるということでもあるのだ。

だからこそ俺は仲間の存在をあの女に気付かれるような行動を取らないように気を付ける必要があるのだと判断する。

(それにしても流石にここまで実力差があると少し凹む。というか悔しすぎるだろ!でもまあ、俺だってまだまだ強くなっていけるはず。いやまあ、別に強くなる必要がどこにあるのかは分からないが、それでも俺にはやるべき事があるのだ。だからこそもっと力を欲するべきだと今は思っている。それにまだ『終末神』の力を全て把握できたわけでも無い。だからもう少し力を付けていくべきなんだ)

そんな事を考えながらも、俺は『聖王 』とやらを倒しに向かったのであった。

あの人の一撃を受けてその人は倒れこんでしまう。それを確認した後に、あの人の攻撃の余波を受けた兵士達が次々と死んでいった。そしてその後すぐにあの人の攻撃によって、この城の天井が崩壊して瓦礫が落ちてきた。だがそこにいた兵士はあの人の攻撃の影響を殆ど受けておらず、私も何とか助かったのである。その事が分かるとその女は私に攻撃を仕掛けてくるが、当然私はその攻撃を受け流すことに集中することにしたのだ。

あの人の方はまだ戦闘中のようである。あの人も恐らく私と同じように『聖騎士』の称号を手に入れているはずだ。だからこそあそこまで余裕な態度を見せることができたんだと思う。そしてあの人は既にこの国で一番の強さを誇っているという事も聞いている。なので、私では相手にならなかったのである。だが、今回は運が悪かったと言わざるを得ない。

私がそんなことを考えている間にも彼女は私のことを圧倒していったので私はついに武器を手放してしまう羽目になってしまった。

そして私は最後の手段としてある能力を使うことにする。それこそがこの世界で『神 』と呼ばれる存在だけが使用できるとされるスキルなのだ。その能力は、あらゆる攻撃を無効化するというチートなスキルであり。この世界に生きている者であれば誰でも欲するであろう代物でもある。しかしそのスキルを発動させた瞬間に、あの人が私を攻撃していたその攻撃が全て跳ね返ってきてしまい。その結果あの人はその衝撃をもろに受けることになってしまい気絶してしまったのである。そしてその光景を見ていた者達は皆恐怖に包まれて、この国の国王ですら震え上がっていたのだ。

それからしばらくしてようやくあの人が起き上がり。その後からこの城の中にあの人達が乗り込んできたのだ。どうやら彼等もこの城に乗り込んでくるつもりらしく。そして何故か私の方にまで向かってきたのだ。その事実に気付いた時には既に私は取り押さえられており、私の事をまるで犯罪者を見つめるような目つきをしてきたのである。

私はその視線を受けながらあの人に話しかけようとするが、彼はあの勇者と楽しげに会話をしており、私の事など全く気にした様子もなかった。そしてその事を私は少し悲しい気分になっていたのだが、その悲しみを誤魔化すようにあの人をじっと見続けるのであった。

「よし、お前らもあのクソ勇者と一緒の所に送ってやるよ」

俺はそう言ってその男の首に剣を振り下ろしたがその男はギリギリで避けてしまいその剣はそのまま壁に刺さってしまう。まあ、避けられるとは思っていたがやはり反応速度だけは他の奴と比べても圧倒的に高いようだった。だがその男はその衝撃に耐え切れずそのまま気絶してしまったのである。

俺の攻撃はあの時とは違い、壁に当たるとそのまま吸収されること無く地面に落ちてしまう。しかも俺のその衝撃も大したことがないということがこれではっきりしてしまった。なので俺はその男の持っていた武器に俺の剣でその攻撃をしてみたのだが、結果はその男が持っていた槍が折れるだけに終わった。どうやら、あの時とは比べ物にならないほどの強度に変化しているようだ。

(どうやら俺も大分レベルを上げたみたいだから。俺自身の力が上がっている分、武器の方もそれに合わせてくれるようになったのかな?)

そう考えるのが妥当かもしれないなと思いながら、俺がその男の装備を奪い取っているといつの間にかにこの城に侵入していたあの人がその部屋に入ってきた。

(やっぱり君は来てくれたんだね。ありがとう。本当に俺は嬉しいんだ。俺はこの世界が救われようと俺がこの世界に生きる全ての生き物に危害を加えるつもりはないけど、あの勇者の力は脅威だと思っているんだよ。だって、彼は俺のスキルを奪っただけではなく俺の持つ『終末神』さえも奪おうとしたからな。その危険性は俺自身が良く知っているからこそあの勇者をここで倒す必要があると考えているんだ)

その言葉を聞き私はあの人の為に戦わなくてはならないと思い立ち上がろうとした。しかしそんな私のことを止めたのは私と同じ奴隷の身として売られてしまった少女であった。

「大丈夫だよ。君が心配しているような事にはならないよ。だから君は安心してその男のことを倒してあげてくれ」そう言われると私は安心することができたのである。何故ならば私は今まで自分の力で戦った経験がないのだ。しかしあの人の力になりたいと心の底から思うことができ、私は戦う決意をしたのだ。するとあの人の指示通りに動くことになったのである。どうやらあの人曰く。私がここに来てあの人と一緒に行動していた理由を知りたいと思っていたらしいのだ。確かにそれは私も同じことを疑問に思った。何故、私達がここに来ると分かったのだろうかと。するとどうやらそれは私の主の持っているスキルの力のおかげらしい。その効果については教えて貰えなかったが私達の身に危険が迫っていると感じたらしくてこの場所に向かってくれていたそうだ。私はそれを聞き、感謝することしかできなかったのであった。俺達はこの部屋の中で『聖騎士』と呼ばれている男のステータスを確認する為にこの場に残った。そして俺はあの女と共に部屋の外に出たのである。どうやら俺達を逃がさない為とあの勇者の仲間である女の実力を確かめる目的があったからだろう。まあ、あの勇者の側に付いていない時点でそんなに強いとは思えないが。だが念には念を入れておけということだ。そしてあの女がこの城に侵入を果たしたという事は、間違いなくあの勇者は俺の存在を知ったということでもある。だからこそ、俺もここから早く逃げる必要があり。その事を彼女にも伝える。

『もうここに留まる理由はないな。今すぐにここを出るぞ』

俺の言葉を聞いた彼女は大きくうなずき同意を示してくれる。それから俺は彼女と一緒に外にいる仲間の元へと向かおうとする。だが、そこには当然の如く俺のことを待っていたであろう兵士が沢山おり。全員がその手に持つ剣で一斉に襲い掛かってくる。だがそれは全て彼女の能力の前では全く意味が無いものとなってしまう。

そしてその事に気付いた敵の兵士は皆、恐怖し逃げ出そうとするのであった

『おい、お前が先にあの中に入って行ってこの国の奴らを逃がしてきてくれないか?俺はその間にあの中にいる兵士達を殺し尽くしておくから』

(それは命令ですか?もし命令でないならば嫌だと言う事も可能でしょうか?私はご主人様の命令には従うようにと育てて頂いたのですが、その前に私の本音を言う事を許されますならば。出来れば私は貴方様の側に居させて欲しいと思います)

彼女は俺の目を見て真剣にお願いしてくる。正直こんな事を言われてしまえば俺は困ってしまうのだ。それはこの国に住む人々のことも救ってやりたいと俺も考えているからである。でもだからと言って俺の正体を知っている彼女を俺の側に残してしまうというのは危険なのだ。それに今彼女が殺されてしまえば俺の本当の仲間がこの国を救うという目的は達成する事が出来ず、そして俺はこれからどうすれば良いのか分からなくなってしまう。だからこそ俺はその申し出を受け入れる事が出来なかった。だが、そんな俺の考えを予想済みなのか彼女は微笑み。俺の返事を待たずにあの集団がいる場所に自ら突入していく。

俺はその事に戸惑いを感じながらも俺もまたこの城の外に居る仲間達と合流しようと走り出す。その途中で兵士と遭遇したので適当に蹴散らすとそのまま俺は外に出ることに成功する。俺が急いでこの城から抜け出そうとした時に突然後ろからの攻撃を受けてしまい、俺は地面に叩き付けられてしまったのである。

俺はその衝撃により気絶してしまったのだが、何とか意識を取り戻し立ち上がるとそこには一人の女性が立っていた。そしてその女性はこちらに歩いてくる。

「初めまして、私はあなたの事を殺す為に雇われました」その女性の見た目はまだ若いように見える。そして何より、目の前の相手が自分よりも強い存在であることに俺は気づく。この感じから恐らく俺よりもかなり上位の強さを持った人間だろうと理解した。その女性は赤い髪をしており顔立ちも整っている女性なのだが、その瞳からは強い敵意を感じたのだ。だから、俺は取り敢えず彼女と話をしようと思って口を開くが何故か声を出す事ができない。そして俺が何度試しても口をパクパクさせるだけで何も話すことができなかったのである。

(まさかあの時と同じ事がここでも起きてるだと!?これはあの時の感覚に近い!くそっ!!また俺が何かに縛られているのかよ!!!だけど今はそんなことを考えている場合じゃないんだよ!!!どうにかしてあの女と話ができないのか??)

俺は焦りを感じ始めていた。

「あなたが私の相手になってくれるんですね。では始めましょうか。まずは小手調べです」そう言って女は魔法を放ってきた。それを何とか避けようとしたが、やはり避けることができずに俺に直撃してしまい、地面に倒れこんでしまう。

「今の一撃を避けることができるなんて、なかなかやるようですね。でもこれで終わらせませんよ?」

そしてそこから連続で攻撃をされていき俺に次々と傷ができていく。この攻撃に対して俺は必死に防御に徹しようとするも。相手の放つ威力が強く。どうしても俺の身体に当たらず。俺はその全てを受けてしまう。そしてその結果俺はとうとう限界を迎えてしまうのである。

(ぐ、ぐうぅぅ。ど、どうして俺の攻撃は当たらないんだ。それに、この俺の身体から出てくる力は一体なんなんだ!?俺はこのままじゃ、負けてしまう。まだ死にたくない。俺はまだこの世界を救った訳じゃないのに。神様、頼むから俺を助けてくれ)

俺がそう願った次の瞬間にいきなり俺の体に変化が起きたのである。そしてそれと同時に今までの攻撃のダメージが一気に回復し始めたのである。

「ふむ、どうやらこの能力は上手く機能したみたいですね。流石は勇者様の能力です。私にすら効かないはずのその能力をこうも容易く打ち破るとは」

そして俺は立ち上がりその女と再び対峙するのであった。俺は先程まで全く相手にされていなかったはずなのに何故か今は自分の力が上がっているのを感じる。そのおかげで俺があの女に遅れを取ることは無くなっていた。(あの男が言っていた事は嘘では無かったというわけだな。本当に凄いな俺の主様っていう人は。まさかこんな事ができるようになっていただなんてな。これで私もこの世界で生きていけるというものだな)

そう私は内心喜んでいた。しかしそれでも油断せずに私はその女の人と対峙し続けていた。しかし、そこで問題が発生したのである。私はあの人の力になれたという実感を持ち始めたその時に。私の力が急激に衰え始めて、その反動が体に返ってきてしまったのだ。

(あ、あああ、あぁあぁ、ま、またあの時みたいに力が入らなくなって。あ、ああ、どうしよう。もう、だめだ、立っていられない。う、あ、ああ。もう駄目、私はここまで、なのね)

私が膝から崩れ落ちそうになったとき、突然現れたその人物に助けられたのである。その人の名前は確か。クレアだったと思うけど。

その人は私のことを気遣ってくれているのが表情から見て分かる。私はその人が助けてくれたというのに感謝の意を示すためにその方に頭を下げたのであった。するとその人は優しく私のことを受け入れてくれたので私は非常に感謝をしたのである。その方は私と同じでご主人様の為に戦うことを心に決めた方であり。私の大切なご主人様に頼まれて私達の事を護衛してくれることになったのだ。

私はその方が来てくれたお陰でようやく戦う決心をつけることができたのである。私は自分の意思で初めてご主人様にお願いをしたいと思ったのだ。そう、あの人を側で支えさせて欲しいと私は強く思うようになったのである。

私はこの人の役に立ちたい、ただそれだけを思っていた。しかしそれは私にとっては初めての経験であったのだ。そして私が今までしてきた訓練は何の意味もない行為だったという事に気づくことになるのであった。それはあの男との戦いを通して。

そしてその男は今、私達の仲間になることを決めたようでその力を存分に発揮しているところであった。私はその男の戦いぶりを見ながら自分が情けなくて悔しいと感じていた。そして同時に自分もこの人達のようにもっと頑張らなければと思ってしまった。

「さて、お前らは俺達のことを嵌めようとしたんだろう?ならそれ相応のお返しをしてやるよ」

あの男の言っていることは確かにその通りである。私達はあの男のことを信用できなかったのだ。そしてこの国は勇者様のお力で平和を取り戻す事ができたのでこの国の人たちの心を操らせて欲しいとお願いをされた時は正直驚いたものである。何故ならばそんな事をすれば確実に他の国々は勇者の力を危険視するからである。だからこそ私はあの人に警戒をしていたのだがあの男は私の考えとは違い。私達にこの国に住む人々の心を救わせて欲しいと言ったのである。

正直この国にそれほどの価値があるとは思えない。そして私には彼がなぜそんな事を言ったのか分からなかったが、あの人の仲間になるという事を考えているのだろうと考えた。だからこの場で彼の言う事を聞いておくべきだと思えたのだ。

「なるほど、君にはその力があり、君は僕たちの敵であるようだね」

その男は少し考えたような仕草を見せながらも剣を構えなおし戦闘体勢に入ったのであった。

『おい、俺の奴隷が何かするみたいだぞ?ほら、お前はもうちょっと休んでて良いぞ』

(はい。私はここで見守っております。ご主人様が負けるなど有り得ないと分かっているのですが。やはり不安なので。)

俺に話しかけてきたのはその女の人である。どうやら彼女は俺に用事があったようで俺の側に寄ってきたのだ。俺は彼女から敵意を感じないので普通に話をする事にしたのである。

『で、なんか俺に用でもあるのか?』俺はそう彼女に問いかけた。正直この状態で彼女と話すことにあまり意味を感じられなかったが、彼女がわざわざここに来た理由だけでも聞いておいた方が良いと思ったのだ。

『え、いえ、特にそういうわけではないですが、そのですね。もしよろしければこれから貴方について行かせて欲しいと思いまして』

(はぁ〜やっぱりそうなるのかよ。でも仕方ないか、別に彼女が俺の敵に回るって訳じゃないんだし。まあいいか。でもこいつはどうするべきだろうか?一応俺の仲間って事にしておかないとマズイ気がするんだよな。それにこいつには色々と恩もあることだしさ)

俺にはある目的があるので仲間は多いほうが助かると思っていたので、この提案自体はありがたかった。だが、彼女の発言から俺は彼女が既にこの城の中にいた兵士によって操られていたのではないかと考えていた。そこで俺は試しに彼女を洗脳していないかどうかを調べる為に俺は彼女を鑑定することにした。だが、彼女はこの城の関係者ではなさそうであったので。もしかしたらこの能力では判別できないかもしれないと俺は考えていた。だが予想外なことにその女の人は俺のスキルに対してしっかりと反応したのだ。

(な、なんだこのステータスは!?レベルが高いのは当然として。その他の部分もかなり異常なまでに強化されている。しかもその強さは普通の人間と比べてかなり異常値であると言えるだろう。そして何よりも驚くべき点はこの精神力の高さ。これだけの強力なスキルに対抗できるだけの精神を持っているなんて信じられないな。それに何よりもこの人の目。完全に俺のこの世界の人間じゃないということを看破してやがるな)

そして俺が黙っているとその女性はいきなり頭を下げてこう言い始めたのである。

「申し訳ありません!!私が間違っておりました!!本当にこの度は私共のせいで大変ご迷惑をおかけ致しました!!どうか私の命を持って償わせてください!!」

俺は彼女の言葉を聞きながらこの女を仲間にすることに決めたのであった。そして俺が女を鑑定しようとしたら。何故か目の前にいた女が消えてしまったので、一体何処に行ったのだろうと周囲を見渡そうとしたら。俺の背後に女がいた。

「なっ、貴様一体何を!?」

その女がそう言っていたが、次の瞬間。俺が背後を振り向いたと同時に俺は何故か気絶して倒れてしまう。俺はいったい自分の身に何が起きたのかさっぱり理解出来なかった。だけどその時の俺は、ただひたすらこの女の事を恐ろしい存在だと思い込んでしまうのであった。

それから俺は目を覚ますまで時間がかかり。その間にあの女性がこの国の王に会いに行き俺の事を紹介していた。俺はその話の途中で目が醒めたのだが、あの時俺に攻撃を仕掛けた女も一緒にいて俺のことを睨みつけてきていて。その隣ではこの国の王が苦笑いを浮かべて立っていた。俺は取り敢えず二人に向かって軽く挨拶をしたのだ。

「よぉ、元気そうだな。それと初めまして。まあこうして対面するのは初めてじゃないんだけどさ、俺はあんたのことを全く知らないから自己紹介させてくれよ。俺の名前はタカシっていうんだ。よろしく頼むぜ。」

俺がそう言うと、二人は驚きを隠せないでいた。それもそうである。今までずっと俺はこの城に匿われていたので、俺の顔は誰にも知られていないはずなのだから。なのにいきなりこの国の王の部屋に俺が現れれば驚いても仕方がないだろう。そして俺の言葉に真っ先に反論したのは俺に敵対の意思を見せていた女であった。

「わ、私はあなたになんて名前を教えていません。どうして私のことを知っているんですか!?」

そう言ってそいつもまた俺に敵意を向ける。しかしそんな事はお構いなしに俺も会話を続けたのである。

「そういえば名乗っていなかったな。すまない俺の名は、えっと、確かそう。俺の名は『シンノスケ』だ」

その言葉を聞いてこの国の王様は一瞬驚いた表情をしたものの。直ぐに落ち着きを取り戻した様子で俺のことを見るようになっていた。

(へぇ、流石だな。まさか俺の偽名を即座に見破ってくるとは。中々侮れない男だ)

「なるほど、『神人族』ですか、やはりあの話は本当だったということでしょうか。それにしても流石は伝説の勇者というところでしょうかね。その実力、本当に凄まじいですね」

俺が偽名を名乗ったにも関わらず王様は冷静に対応をしていた。そしてその名前がこの世界に知られていることを俺に初めて伝えてきたのである。俺はその言葉でこの世界の歴史に疎いことが分かってしまい、そのことを反省しながらも、俺にはまだこの世界を救えるだけの力が足りないのだと悟ってしまった。

(どうすれば良いんだ?俺の力じゃあどうにも出来ないのか?)

その俺の様子を見てこの国の王は自分の不甲斐無さを痛感していたのだ。それは当たり前の話である。この世界で最強の力を持つはずの勇者が全くこの国に協力してくれないという事にこの国の王は困っていたのである。この国がここまで強くなれたのは勇者様のおかげであったからだ。だからこそ、そんな勇者に認めてもらえるようにこの国は努力してきた。その努力を水の泡に帰さないように、国としても必死だったのだ。だが、現実はこの有様であった。

「私は、この国を守りたかっただけで、本当はこの国の皆に危害を加えたくない。」

その女の発言はまるで子供のわがままを言っているようなものだったが。この女のその言葉を信じるものは誰もいないのであった。何故ならばその発言の根拠が何もないからである。そして俺がその女の言動を観察していた時に、あの女から魔力が流れてきていることに気が付いた。

(あれ?こいつ何かしようとしてやがるな?なら止めておくかな)

そして、その女の企みはすぐに潰されることになるのである。

俺は今目の前で起きている状況に困惑していた。

あの男が俺達と話をしている最中に突然倒れたのである。俺は咄嵯にこの女に何か仕掛けられているのではないかと警戒し鑑定を使用した。その結果この男はスキルで状態異常にされている事が判明したのだ。俺は急いで男のステータスを確認したところ、そこには驚くべきものが記されていた。

この国を簡単に滅ぼせる程の圧倒的な攻撃力と。この国を壊滅できるほどの凶悪な魔法が男には備わっており、それが同時に男に対して牙を剥いているところを見たからである。そしてそんな危険なスキルを持った男の近くにいれば俺の身が危険だと考えたので、俺もこの男と同じ状態にされる前に逃げることにしたのだ。

「この国は私が守る。私は、もうあんな目にあいたくなかった。絶対に私はこの国を救ってみせる」

その女は独り言のようにそう呟くと男を連れてどこかへと転移して消えたのであった。

『おい、起きろよ!もう朝だぞ?いい加減起きないと怒るぞ?おい!』

その声に反応するように俺の意識は覚醒する。俺は一体どのくらい寝ていたのだろうか。いやそれよりも、まずはこの目の前の状況を整理する必要があるようだ。目の前にいる俺にそっくりな顔の青年は誰なんだろうか?もしかして俺は死んだんじゃないのか?そう思った俺は恐る恐る聞いてみた。

『な、なぁ、君はもしかして俺の弟かなんかなのか?』

俺がそう尋ねると目の前にいる俺の容姿に似ている男は何も答えずにただ俺の事を睨むだけである。そして俺はこの光景に見覚えがあった。これは夢の中の景色であり。俺に話しかけてくる人物は全て敵で俺のことを陥れようとしてくる。だからこんな奴らは全員倒せばいいと俺は思って何度も戦ったのだ。でも結局最後には必ず負けてしまい。この世界は終わりを告げるのだ。でも今回の俺は違うのだと思っていたかったがどうやらその期待は無惨にも砕かれてしまったようである。

「お前のせいで俺の人生台無しだぜ?ったく最悪だよ」

『俺だって好き好んでこの人生を歩んできたわけじゃないって。でも今は違うんだから別に良いんじゃないのか?それに君が俺の力を盗めばそれで済む話じゃないか』

俺はこの人生では普通ではない力を持っている。その力は強すぎるが故に俺の心に闇を生み出すものでもあった。

この人生では俺は前世の記憶を持って転生をしているのだが、その前の生の記憶はほとんど無い。俺は生まれた時には既にその力に目覚めており。自分の持つその異常な能力に心酔していった。最初はそれを使いたい放題使っていたものの。だんだんとこの能力は俺の心の中に恐怖を生むようになっていったのだ。そのせいで、この俺の心を侵食しようとする力に飲み込まれそうになったこともあったのだ。

そして、この能力の怖さを知った俺は、この能力の使用を制限して生活する事にした。俺の両親は既に死んでいる。それもこの能力によってだ。俺に弟がいると知って、弟の事を助けてあげなければと俺はこの能力を使おうとした。だがその考えはすぐに間違っている事に気が付き、この能力を使うのは辞めることにする。だが、それでも俺は弟に優しくしてやる事しかできない自分が歯痒くて悔しかった。

『そんなの出来る訳ないだろうが!?お前のせいで、俺の家族は殺され、そして俺だけ助かり、俺はお前みたいになる為だけに生きていかないといけない運命にさせられたんだよ。この俺がどれだけ苦しんだか分かるか?俺の人生を返せよ!!』

俺の言葉を聞いても俺はその言葉を受け入れられなかった。俺も家族を失ってしまったが、俺と違って俺にはまだ守るべき大切な存在が沢山残っているはずだからだ。

俺は目の前にいるその青年に言葉をかけるが返事がない。

俺がこの世界の事を詳しく説明したが、この目の前にいる少年は一切信用していない様子だった。それにしても俺は本当にどういう扱いを受けているんだろうか?この部屋には窓もなく時間を知ることができない。

『ちょっと待ってくれ、俺の話を聞いてくれ!!この部屋には時計があるんだ。その針を見ればいいだろ』

俺の言葉を聞くとその男は俺の言う通りに壁にかけられている古びた大きな掛け軸を眺めていた。その掛軸は少し薄汚れているが、文字が書かれているようだったので俺はこの世界について書いてあるのではないかと思って見ていたのだ。しかしそこには特に重要な事は書かれていなかったのである。そしてその男は溜息を吐きながら呆れた表情を浮かべた。

『本当に、何度言えばわかるんだよ。俺の話を信じてくれよ』

その男に俺は俺の話を真剣に伝えようとしたが。全く相手にされていない事に腹が立ってきてしまい。思わず声を荒げて怒鳴りつけてしまった。

「そんなに俺が気に食わないのかよ!!」

「あぁ気に入らないね、どうして俺の思い通りにならない?俺は俺のやりたいようにやって何が悪いんだ?それをどうして否定される必要があるんだ?」

俺の言葉を聞いた途端、その男も感情が抑えられなくなったのか。先程まで俺に対して話していたこととは違い、俺に対して殺気を放ち始めて攻撃の準備をするかのように右手に剣を生み出していた。俺は反射的に腰にある剣に手をかけ戦闘態勢をとった。すると俺達の様子を見に来たのだろう兵士が勢いよく部屋に入ってきて俺達に向かって叫んだのだ。

「貴様達そこで何をしているんだ!!!今すぐそこから立ち去れ!」

その兵士の言葉に、俺は目の前の男を警戒しながらも兵士の言葉に従って部屋を後にしたのであった。

(あの男が俺を殺そうとしていた事は事実だ。だが俺はその事にどうしても抵抗感を抱けずにいた。)

「くそ、どうしたらあいつの機嫌が良くなるんだ」

俺は俺に話しかけてくるそいつに返答をすることなく無視していた。そいつはいつも俺の事をからかいにやってくる。それはそいつにとって暇つぶしのようなものなのかもしれない。俺はその事が本当に嫌だったが、そんな事はお構いなしに俺の心の中に侵入しようとしてくる。俺に近づいてくる奴は皆同じことをしてきたが俺はその全てを返り討ちにした。

(もう俺に近づくんじゃねぇよ!俺はこの人生で大事なものを無くしちまったんだ。俺はこの世界を救う為に頑張って来たっていうのに。俺には全くその記憶が無いんだよ。しかも、そんな状態でこの世界に勇者なんていう役割を押し付けられた挙句。お前みたいなやつが現れるとか俺はもう勘弁してくれって言いたかったんだぞ?)

この世界に転生する前の俺は勇者召喚された人間だったらしい。この世界に来てから俺は勇者としての役割を与えられて様々な訓練と試練を乗り越えて遂に魔王を倒すことが出来た。俺はその時は喜びに満ち溢れていたがそれは直ぐに虚無へと変わっていった。その魔王は本当はただ操られていただけの人形だったのである。だが俺はそれに気づくこともなくその魔王を倒して、世界を平和に導けたことに歓喜していたが。その魔王の魂が消えても何故か俺はこの世界から出ることが出来なかった。そしてそのせいで、この世界の人間は俺を神の化身だとか言い出して祭り上げて崇めてくるし。その信仰の代償として俺はこの国を守らなければいけないという責任感を負わされることになってしまったのだ。俺がその国で幸せに暮らせるのであればまだ良かったが。俺がこの国を出るとこの国の民は一人残らず死ぬ事になると聞かされていたので、結局俺はその国の王様とやらの話に乗ったのである。

この国に住む人々を殺すことなど出来ないと思った俺はその国に永住する事を決めた。俺がこの国で生きていく為には王になることが必要になったのだ。俺はそんな面倒なことはしたくなかったが俺が王にならなかったら国民全員を虐殺すると脅してきたので、渋々俺は王となったのだ。そして俺は王の責務を全うするためにこの国を発展させるために尽力を尽くしたのだ。

「はぁ、どうやったらあいつはこの国から出ていってくれるんだ?それにしてもこれ、美味いな。あの料理長が作ったものなのかな?こんな豪華な食事は今までの人生じゃ味わったことないぞ」

俺は俺がこの世界で食べる最初のご飯を楽しんで食べていた。その食べ物はこの国が豊かであるという証明なのだ。この城の料理人はこの国でも最高級の腕を持つ人達なので。きっと俺が食べた事の無いような食材を使って作られているのだろうと予想がつく。

「それでは、これからのことについて話をしようと思う。今日は疲れている者もいるだろうから話は明日からにすることにしよう。とりあえず今日はもう休んでいいからな。それとそこの者、もう出て行って良いぞ。お前がそこにいると話がしづらいからな」

俺はその男が出て行った後も。食事を楽しませてもらい幸せな時間を過ごしていたのであった。

「やっとここから抜け出せるのか!これで俺も自由にこの国から脱出することができるのか!この人生は最悪なもんかと思ってたが、案外悪くないもんじゃないか」

俺がそんな事を考えていると俺の視界は徐々に暗転していく。その現象を俺自身不思議に思っていたが。その答えに辿り着くよりも先に俺は深い眠りに落ちてしまった。

そして俺が深い眠りについてしまった後のこの部屋の中で一体何が起こったのか俺は知らなかった。そして俺が目を覚ますのは俺が死んだ時だったのはまた別のお話でのお話になるのだ。

俺が起きた時には既に日が暮れてしまっていた。俺は自分の身に一体何があったのかさっぱり分からないのと同時に、何故自分がこんなところに寝ていて、自分が誰なのかさっぱり分からなくなっていたのだ。だが俺にそんな事を考える余裕はなく俺は慌ててこの部屋の外に出ようと試みるのだが、扉の前には警備兵らしき人物がいて俺は身動きが取れない状況に陥ってしまう。だがこのままじっとしている訳にもいかないので、俺はなんとかして警備兵を説得することにしたのだ。しかし俺はどうやっても警備兵の態度が変わる事はなかった。それどころか俺が警備兵をどうにかしようと考えている間に他の人が俺の存在に気づいてしまい。そして俺はその人達に拘束されてしまったのだ。そして俺は牢屋のような場所に連れてこられて、閉じ込められてしまう。

「はっ?どうしてこうなった?俺は一体何をしたっていうんだよ。確かにあいつらに殺意を抱いてたのは事実だけど、どうしていきなり俺は犯罪者になってんの!?これじゃあせっかくのチャンスが全部台無しになっちまうじゃんかよ!」

俺は俺を犯罪者にした連中への復讐を考え始める。この世界には俺に罪を被せたやつがたくさん居る筈だ。そして俺を殺そうとしている人間もいるのかもしれない。俺はそんな奴等に裁きを下す為にこの城の内部構造を詳しく調べる必要があった。

「この城のどこにも抜け道はないのか?俺を嵌めた奴等は絶対に許さない。絶対に見つけ出して俺と同じ思いをしてやるんだ。そうしなければ俺の怒りも収まらないんだ。なんとしても俺はこの状況から抜け出していって。この俺が受けた苦しみを与えてやりたかったのだ。その為ならなんだってする。たとえそれが殺人を犯したって構わない」

だがこの世界はゲームのようにリセットボタンを押したりしてやり直しが出来るわけじゃないのだ。俺に殺された人々はこの世界で死んでしまっているのだから、もう二度とこの世界に戻ってくることは出来ない。俺はそのことを深く考えるだけで気分が悪くなって吐いてしまいそうになったが、必死にその衝動を抑えて冷静を保つ。

「くそ、あの野郎共のせいで俺に無実の罪を着せられただけじゃなくて。この世界の人達にまで被害が及ぶ可能性が出てきたじゃないか。これは本当にまずい事になったな」

「おい、そこで何をブツブツ言ってやがる。お前は確か、最近この城にきた人間だよな。俺はこの国の警備兵で。一応この国一番の剣士だって言われてるからそれなりに有名なつもりだぜ。俺はそんな有名でもないやつにやられちまったのかよ、信じられねぇ。俺はお前に聞きたいことがあるんだ。俺がここに入ってきた時に、誰かを睨んでいただろ?俺に何の恨みがあって殺そうとしたのか教えてくれよ。あのとき何で俺のことを睨んでたのか理由を教えてくれよ」

俺はそいつの言葉を聞いてそいつが俺に敵意を抱いている事に気づいた。だがこいつは俺がどんなやつかを分かっていないようだ。俺がどれだけの恨みを買っているのか分かっていないようだった。俺はそんな愚か者に対してある質問を投げかけてみることにする。

「俺って何かした覚えがあるか?」

「ああ、勿論だとも。あの時のことは忘れたくても忘れられないぐらい強烈な記憶として脳に焼き付いているんだよ」

(やっぱりそういうことだよな。俺は本当に何したんだ?この俺が人殺しをしたとか?あり得ないだろうが、そんな事をするなんて。この世界に来てからまだ俺は一度も人を斬っていないぞ?それなのにどうして俺が人を殺しているという前提で話しているんだ?)

俺がその男の言葉に納得できずにいると、男が突然俺に襲いかかってきた。

俺に襲いかかってくるその男は。明らかに正気を失っているのは明らかだった。この男の目は狂っていて。完全に俺を殺す事に執着しているようにしか思えなかったのだ。その狂気的な感情を俺に向けて来るそいつの姿を見るとどうしても殺したくなるような気がしたが。流石に手にかけることはできないので剣を奪い取って地面に投げ捨ててやったのだ。そして剣を失ったことで戦う術がなくなった相手に対して、容赦なく蹴りを入れていく。だが、そいつはまだ諦めていなかったようで、腰に付けていた小さな刃物を取り出して俺の足を刺そうとしてきたので。そいつの腕を思いっきり殴ってへし折ってやることにした。

俺はこの程度の力で俺に攻撃を加えようとする人間を見て心底うんざりしていた。この世界に来てから俺は毎日訓練ばかりしてきたというのに。俺には全く強くなれている実感が沸かなかったのだ。(この程度の実力じゃあこの世界に蔓延っている雑魚を相手にするにも手こずるようなレベルにしかならないんじゃないか?この世界に転移して来ている奴等ってそこまで弱いものなのか?)

俺は今目の前に立ちはだかっているこの男のことが気に入らないので。少し本気でこの国から出て行こうと思ったが俺は俺の目的を思い出すと、仕方なくこの場所に留まり続けてこの国を支配し続けることに決めた。この国は俺が思っていた以上に腐った国だったので支配するのが面倒だったが、それでも仕方ないので我慢することにしたのである。

「お前の望み通りに殺してやるのも面倒くさいので今回は見逃しておいてやるよ。次同じような真似をしたら命がないと思いながら生きるといい」

俺のその言葉にそいつは震えていたが。俺がもう既に戦意を喪失していることが分かっていたので、その恐怖は本物ではないだろう。俺は俺の足を攻撃した相手に慈悲を与える為にも。俺はこの場にもう留まる意味が無くなったと判断したので直ぐにこの部屋を出ていこうと決める。すると何故か俺に拘束されているその男は泣き喚き始めたのだ。

「俺はどうすればいいんだ。俺は、俺達はこの国の為に尽くしてきたのにどうして殺されないといけない?この国に魔王を倒す勇者がやってきたのに。それなのにこの国はもうじき滅びる事になる。このままでは俺達の努力は全て無駄になるんだよ。頼むからこの俺を見逃してくれないか。金は渡すから頼むからここから出て行ってくれ」

(えっ、どういう事だ!?)

俺にはそいつが言った内容があまりにも突拍子もないことだったせいで、一瞬理解する事が出来なかった。この国は魔王が攻めてくるとでもいうのか!?それにしても、この国には優秀な兵士が数多く存在する。その兵士たちが勝てなかったのに。たった1人の俺みたいな人間が、どうしてこの国を滅ぼす事ができるっていうんだよ!

「おい、俺が魔王を倒したからこの国が滅びる?それは冗談か何かか?悪いが、俺もあんまりこの国の王に興味は無いんでね。そんなくだらない理由で滅ぼされたとしたら困ってしまうんだよ。この国の王は俺がこの手で葬る事にしたんだ。この俺に刃を向けたんだ。当然その報いを受けて貰う必要があるだろ?だからこの国の王は殺すつもりなんだよ。お前は黙ってここで大人しくしているんだな。もし俺についてくると言うのなら勝手に付いてくればいいさ。俺がこれからすることを止める事はできないと思うけどな」

俺がそういうと。俺が予想もしていない事が起きてしまった。この部屋に俺を捕まえに来た警備兵達が、この部屋の扉の外に集まってきたのだ。そして俺に向かって「この国の王の命は俺達の命でもあるのだ。それを簡単に見過ごすことなどできるわけが無いだろうが」と言い出すのだった。

(俺にはさっぱり分からないが。こいつはこの国が滅ぼうが俺にとっては知ったこっちゃないんだけどな。だけどこのまま俺に反抗しようとするやつを野放しにしてしまえば。いずれこの国の連中も他の場所にも被害が出てしまうかもしれないんだよ。それならば俺の個人的な問題など気にせずに殺してしまった方がいいのか?だけど俺はこの世界にはそんなに思い入れも無いし。この世界の人間を殺したところで何とも感じないんだよな。俺はただ自分がしたいようにするだけだ。俺にとってこの世界はその程度の価値しかなかった筈なんだよ。だからこの世界でやりたいことをやる為ならなんだってする覚悟があるんだよ。この国だって、俺にとっては所詮その程度の存在なんだよ。だから俺としてはなんとしてでも俺が殺したいと思っている国王を殺す邪魔だけはして欲しくはないんだよな。そうしないと本当に皆殺しにするしかない状況になってしまうかもしれなくなるからな。だけど、そんな俺の本心をこいつに話すのもあれだし。だからと言ってこのまま何も喋らずにこの場をやり過ごそうとしても結局は同じ結末になりそうだな。この国の奴等は俺を殺そうとしてくるだろうから俺にはこの状況をどうにか出来る力はない。俺はこの世界を救いたいのであって。殺したいわけではない。そんな俺がこいつらを説得できるかと言ったらとっくに答えは出ている。だがしかし、そうは言ってもこの状況は正直に言えば最悪であるのだ。こんな状態では俺の望む復讐は果たせないし。俺の力だけでなんとかするならもう諦めてこの国を支配した方が良いか。いや、駄目だな。俺はこの世界に来るときに『勇者』としてこの世界に呼ばれている。俺にもしもの事があればこの世界のバランスが崩れてしまう可能性がある。だから俺が死ぬことはあってはならないんだ。俺の魂が完全に消え去るまでは、俺はこの世界の人達を守り抜かないとな)

「お前らの考えていることは分かるが、俺の話を聞いてくれ。俺は、いや、私の名前は、神条聖斗と申します。貴方方には是非聞いて頂きたいお話があります。私は貴方方に危害を加えるつもりは一切ありませんので、どうか話をするだけさせてはもらえませんでしょうか?」

(俺は何を言ってやがるんだ?こんな奴らに頭を下げるような人間じゃないだろ。もっと堂々としているのが俺だろうが、なのに何故俺がわざわざ下手に出なければいけないのか全く分からん。この世界は一体何でこんなことになっている?やはり俺の推測は間違っていないみたいだ。あの女、あいつが全てに関わっていて。それでこの国の人間を操っていたんだろうな。だが俺の目的は変わらない。あの女が関わっている以上は、俺はあの女の全てをぶっ壊して殺さないと絶対に気が済まないんだよ。あのクソ女が。俺が受けた苦しみの何百倍もの苦痛を与えて殺さない限り、俺の心の中にあるこの黒い感情は決して収まらないだろう。俺は、あの女を殺しに行く前にまずはこの国の支配を終わらせるか。それが終わればあの国を徹底的に痛めつける為に動き始めるか。それまでは俺の本来の目的を忘れることにしよう。この国を支配することで俺に何かメリットが生まれるかもしれないから。それに今は俺の敵がこの国にいることの方が重要なんだよな)

俺のいきなりの言葉に戸惑っている様子のこの城の警備兵の人たちであったが。俺はそんな彼らに対して言葉をかける。

「貴方方は今すぐにでもこの場所から立ち去りたい気持ちはあると思います。ですから俺のお願いを聞き入れてくれて、今すぐこの国から去ろうとするという選択をしてくだされば。俺もこの場で貴方方を斬り捨てるような真似はしたくありません。この国を出て行くのであればこれ以上俺は何も言うつもりはありません。俺も自分の立場というものがあるんで、今すぐに貴方方を殺してここから逃げるような事をした日には俺は犯罪者扱いになってしまいかねず、俺は二度と自由に動けなくなってしまいます。ですので、この国を出ると言うのなら俺の事をこのまま放置して欲しいんですよ。勿論この国の王のところまで案内してくれた方がこちらとしてはありがたいんですけどね」

俺がそういうと一人の男が、「それは出来ませんよ。貴様の様な危険な人物を放って置くことなんて我々にはできないのですよ。たとえどんなに小さなリスクであったとしても、それを取り除かなくては我々の面子というものがありまして。我々はこの国の王を守らなければならないという使命感が有るのに。その王が危なくなったからと言ってこの国を見捨てて逃げ出したら、それこそ国民達の信頼を失ってしまう。なので今すぐこの国から出て行け!でないと斬って殺すぞ!」

(うっ、やっぱりこうなるか。俺もここまではある程度想定内だったんだよな。まあ、この国の奴等にどう思われようが俺にとっては別に関係が無いんだけど。でも俺の本当の実力を知られるのもあれなので、ここはあえて実力を隠しながらこいつらを相手にするか)

俺はそれから、自分に向かって襲い掛かってくる奴等を順番に返り討ちにしていったのだが、それでも俺のことを拘束しようとしたり攻撃してきやがったから、流石に手加減をする気がなくなった俺は全力でこいつら全員を殺すことにした。

俺はそいつらを片付け終えると、俺は先程俺を捕らえようとした男の顔面に蹴りを叩き込みながら意識を失わせることに成功したが。俺は俺に向かって剣を構えてきた他の連中にも同じようにして気絶させた後に全員を一カ所に纏めてから。この国の連中の気配を感じとれるギリギリの範囲の場所で『転移』を使い。その場所と城内の場所と繋げてしまう。そして俺はそこから再びこの国の城の中に戻ってくる。すると俺が突然現れた事で驚いた兵士達が、俺を取り囲む様にして集まって来た。そして彼らは俺に敵意を込めた視線を向けると、俺を捕縛しようとしてきたのだ。

(こいつらも俺を始末しに来たか)

俺は取り敢えず彼らの攻撃を全部避ける事にする。俺が避け続けているうちに一人の兵士は俺の攻撃が当たって吹き飛んでいくが。他の兵士は俺が避けてばかりなせいで攻撃が当たることなくイラついている。

『おぉい!!大丈夫か!?おいおい!お前等そんなんじゃ本当にやばい事になるぞ!そっちにいるお前!ちょっといいか?お前さんは少しの間黙って見ててくれると助かるんだけど、もしかして無理だったりするのか?』

「いえ、そんなことはございませんが。どうしてでしょうか?私の主からはこの男は生かしておく価値が無い人間だと聞いておりましたので。まさかとは思いますが、私が間違っているというのでしょうか?それはいくら貴方の頼みとはいえ。私には不可能だという事ですか?確かに、今の私はあの方に仕える身ではありますが。私は貴方の事もあの方の命令に従うべき相手だと考えております。なので貴方のおっしゃられる事は絶対なのです」

俺が話しかけた女性に俺の命令に従ってくれるかどうか確認したところ。意外にも俺の要求を受け入れてくれたのである。

俺が彼女に、どうして俺の命令に従わないといけないんだ? と言う質問を投げかけたところ。その返答は俺が想像もしていなかった物であり。彼女はこの世界に存在する全ての生き物の頂点に位置する存在なのだと言うのである。その彼女の命令は世界のルールよりも優先されるべきものであるから俺の命に従う必要があるのだというのである。俺は彼女が言っていることを信じることができなかったが。その話が本当かどうかはともかく、もし仮にそうであったとすれば、俺の命を彼女に委ねるという判断を下せば俺の命が奪われずに済む可能性が十分にあると思い。俺が命じればいつでも殺せるであろう彼女を俺の元に留まらせておく為には。俺の命の価値をできるだけ高めておいた方がいいと思った為だ。俺にとって大切なのは俺がこの世界を救う為だけに存在していればいいというわけではなく。俺の邪魔をしかねない者達の邪魔をさせないようにすることだ。俺には俺の目的があるから。それを達成するためには俺が生きている限りこの世界に干渉するのを止める訳にはいかない。その為には俺はこの世界で力を付ける必要がある。この世界に害を為そうとしている連中を排除するには俺に力が足りな過ぎるからだ。だから俺が俺の目的を達成するまでの間は俺の邪魔をするような行動を止めて欲しいのに。こいつは俺の事を本気で殺すつもりで襲いかかってきた。その証拠として俺が攻撃を仕掛けても、この女は平然としていて一切ダメージを受けているように見えない。この女の強さはかなりのものだと思うが。俺はそれよりもさらに上の存在だからな。

(こいつらが本当にあの方とかいっている女に心酔しているなら。俺の事を殺してでもあの方のもとに俺を連れていこうとするはずだ。そうすればこいつらの俺への忠誠心は揺るがない。だけどこいつが俺を殺そうとして来るということは、俺があいつの事を騙しているとバレてしまったのかもしれないな。だけどこいつの態度を見る限りではまだバレていないみたいだし。俺が今すぐ殺されないのであれば、もう少し時間を掛けてからこいつらにこの国を潰しても構わないか。いや、やっぱりダメだな。こいつらを早く殺したいんだよな。だけどここで俺がこいつらを殺した場合のデメリットが大きすぎる。俺がこの世界に来る前の世界での俺は勇者召喚に巻き込まれただけなんだからな。それに俺を嵌めた奴は恐らく俺の事を裏切った連中の誰かなのだろうが。そいつらはこの国を操っている女の部下だろうし。この国にはあの女の手下がまだ残っていて。俺が女を殺して逃げれば必ず俺の事を指名手配してくるはずだ。それだけはどうしても阻止したいんだよな。あいつらに捕まると何をされるか分からないから。あいつらが俺を捕らえた後、この世界の住人達がどういう対応を取るかによっても俺の対応は変わってくるが。こいつらの口ぶりから考えてあの女の関係者達はこいつらを操っていた女を信仰しているみたいなんだよな。つまり、こいつらを洗脳して女のために働く道具にしている可能性が高いんだよ。そうなるとあの女が死んだらこいつらの精神状態がおかしくなって。何を始めるかわからないから怖いんだよ。

俺の本当の狙いはこの国で女と繋がっている連中を全て殺して、この国の王を殺し、この国の支配体制を完全に破壊することだ。だがそれをするには俺がこいつらに対して何かをしてやる必要性が有る事には違いないし。それが俺がこいつらと敵対するような行為をした場合に。あのクソ女の差し金としか思えないこいつらに襲われて俺も死ぬかもしれないのに、俺はわざわざ俺の手を汚す必要はないだろ?)

「貴方の仰ることには従いますが。ですが私はやはりあの方の事が心配でならないのです。私はもう二度と貴方に傷を付けたくないと思っています。貴方の望み通りにしてもいいと許可は下りましたが。それはあの方に私から頼んでみてのことなので。あの方は本当に優しい人なんですよ」

その言葉を聞くと俺は思った。

(うわっ!気持ち悪い)

そしてそれからしばらく俺の側にいる女を説得する時間が続いていくのだが。俺は取り敢えず俺の考えを話したところ。女は渋々ながらではあるが俺の話を受け入れると。今から俺が言うことを守るならば、俺はこれからこの国から立ち去って欲しいと言ってきたので。俺は一応は俺がここから出て行った後どうなるのかを確認するために質問をした。その結果はどうやら俺の思っていた通りの展開になるようだ。そして俺の考えていた最悪の事態にはならずに済みそうだと分かり俺は内心安堵の息を吐く。

『ありがとうございます』

『はい。それではこちらに来てください』

俺は女の言葉に従ってこの国の王の元へ案内されることになった。

王の元に行くまでに色々とこの国の内部事情について話を聞いていた。この国はあの女の父親の代まではかなり優秀な人間が多いという評判があったらしいが。その後を継いだ女が、俺がこの世界に来た後の世界でも有名な女だったらしく。彼女は自分の親から引き継いだ資産で着服していた。それもその額がかなりのものになったようで、彼女が贅沢をしなければ一生遊んで暮らせるほどにまでなったらしい。そのことを知った一部の貴族達は彼女が自分達の地位を脅かさないようにしようと画策し、俺を暗殺するように依頼したようだ。

(うっ、なんつうくだらない理由だ。しかもこいつらバカじゃないのか?俺は別にあの女の味方をしているわけじゃ無いんだけどな。まあ、この国が俺のことを殺そうとした時に反撃するのはいいが。それでこの国の連中全員を相手にするのは面倒臭いな。まあこいつらならどうせ俺に危害を加えようとはしないよな?だって俺はあいつの配下になっている訳では無いんだからな。あいつもそんな事は気にしてないだろう)

そんなこんな考えていると俺はこの国の王が居る場所に連れて来られていた。そこで俺が最初に見ることになったのはこの国を統治している男の顔であり。その姿を確認した俺の心の中では嫌悪感のような物が込み上げてくるのを感じ取った。

(この野郎、まさか本当に俺を騙していたのがこの男だったとはな。まさかとは思うけど。こいつ俺が異世界から来た人間だと知っていたりするのかな?まあいい。取り敢えず俺はこいつに用事があるから殺すのは最後にとっておこうと思うが。もしもこいつが異世界召喚を実際に実行していた場合。俺は確実にこいつの敵となるはずなんだから。俺を裏切ったあの連中よりも。こいつの方が遥かに危険度は高いはずだし。だから俺はこいつを殺す前にこの男が本当に召喚を実行していたのかを確認する必要があるんだけどな。さて、こいつはどういった対応をするんだろうかな?こいつの言動によっては、この男の人格がある程度予想できるからな。もしこいつの発言が俺が知っている知識と違う物であった場合は俺の推測は外れている可能性がある。もしそうならば、この世界で召喚術の魔法を扱える人間は一人しかいないってことになる。もしそうだったら俺の計画はまた考え直さなければならないから厄介なことになってしまうな。だからこの男は嘘を付いている可能性も考慮しなければならないって事だよな)

俺は目の前に居た人物を見た。すると俺の中で感じた嫌な雰囲気は直ぐに払拭される。その男はまるで女神のような美男子だったからだ。俺はそんな彼の顔を見ていて。自分が心の底から震え上がっていることに気が付き。心の奥底から歓喜にも似た感覚を覚えていたのだ。そんな彼を見ていて何故か俺の頭の中に声が響き渡る。

『スキル強奪を獲得。スキル:完全模倣を獲得しました。それにより。あなたはこの世界に来る以前の世界に存在していたあらゆる技能を習得することが可能になります。またレベル上限が10から50へと変化しました。更に経験値取得量倍増を取得。ステータスの改竄を確認いたしました。それに伴い。この世界のあなたのステータス値が大幅に向上されました。現在のあなたの基礎能力値は5600から8000へ上昇しています。称号:魔王を獲得。スキル超再生が使用可能となり。この世界のあなたの肉体の破損は瞬時に回復するようになりました。それと。今のあなたの肉体年齢は14歳で固定されてします。これはあなたの年齢に合わせるのが面倒臭かった為の処置です。

この世界の勇者の職業に偽装を行いました。その為。現在この世界の勇者の称号は全て偽りとなっており。勇者を名乗る者は存在致しません。その為勇者であると言う事実を知っている者はこの世界でのあなただけです。ですがご安心ください。既にこの世界であなたに敵対する者達を討伐している為。今後はあなたの正体に気付く者はいないでしょう。この世界は元の世界とは完全に切り離されているので、今後他の世界であなたの存在を邪魔するような行動さえしなければ大丈夫だと思われます』

(おいちょっと待て。この世界の勇者が偽物の可能性が有るなんて聞いていないぞ。それにこっちにきてからの俺は普通の子供にしか過ぎなかったから今までの事が全部無駄になっていたっていうことなのか!?それにあの時あいつらが俺を殺そうとしたのは俺がこいつらと同じだと思われたからか?いや、でもあの時は俺はまだこの国の人間に正体を知られていなかったはずだからな。でもこの国を支配している女の奴が俺が異世界からやって来た事をこいつにバラしていた可能性も有るんだよな。だけどそうであってもこいつらがここまで俺のことを警戒する理由は思いつかないんだよな。

俺があの女の関係者に殺される危険性があるのは変わらないだろうけどな。だが、あの女の関係者で俺の味方をしてくれる者がこの中に何人いるのかによって、あの女にこの国を潰すかどうかの選択肢を与えることも出来るんだよ。俺を嵌めたクソ女が本当にこの国で俺を嵌めた犯人で。そのクソ女をこの国に放置したまま俺が逃げた場合にどうするかによって。あの女がどう判断を下すかで、この国の未来が変わる。つまり俺がこれからする事が。あの女の思惑から外れるか。あの女の計画通りにこの国を支配するのに邪魔と判断されてしまうのかが決まるという事になる。

そうなった場合は、俺はこの国を徹底的に破壊する方向に舵を切らなければならなくなるからな。だがこの国の王を殺してしまえば、それはこいつらの望みを潰すことに繋がるので。こいつらがこの国の支配者を殺した後。こいつらがどうするつもりなのかが分からない以上、こいつらを殺すことは避けなければならないんだ。こいつらを全員殺してこいつらが死んだ後に誰かに俺が疑われたりした場合の対処が非常に難しくなる可能性が高いからな。あの女にこいつらを殺させてあの女も始末できれば問題ないんだけどな。あの女がこの国を支配した後でこの女達が殺された時に、あの女が何も行動を起こさないとはとても思えないから。その時に俺が疑われたらまずいし。だからこの国にいる間もあの女の動向だけは監視しておく必要がありそうだ)

それから少し時間が経過してから。やっと俺はあの男の前に立つことになった。

「よく来てくれた。我が友よ」

その言葉を聞くと。

(やっぱり、お前が黒幕だったのか。クソッ!あの女を殺さなかったことが悔やまれてならない)そして俺に近付いてきた男が手を差し出してきたので。俺はそれに応えるように手を伸ばしたのだが、その時俺は相手の顔を間近で見た時に、俺の体に異変が起きた。それと共に体の中から溢れ出す何かを感じたので俺は反射的に手を離してしまった。

「貴様は一体何をした?」

俺は無意識にそんなことを口に出してしまうと、それを聞いた目の前の男から邪悪な笑みが浮かぶ。そして次の瞬間、俺は体が宙に浮かび上がったような感覚を覚えたのだが、その直後に俺が立っていた地面に穴が出来ていて、そしてそこから黒い槍が俺の腹を貫いた。

「うわああぁー!」

俺が叫び声を上げていた時には俺が立っていた床が抜け落ちてそのまま俺は落ちていく。その俺の姿を見ながら俺は先程自分に起こった事を考えるので頭が一杯になっていて、このまま死ぬのではないかと思った。だがその心配はいらなかったようで。俺が下に向かっている途中にあったはずの壁が消えてしまい。落下していた俺がそのまま落下していった先が地上であった。俺は背中から硬い地面の上に降り立つと。そこには信じられないものがあった。

(まさか、あの王城はあの女のスキルで作った物だって言うのか?俺があそこに閉じ込められている間に俺は自分の力を確かめる為に、自分のステータス画面を呼び出して詳細を確認してみると。ステータスの数値が恐ろしいほどまで上昇していることが分かった。だが、それよりも俺の目を釘付けにしたのは俺の名前の部分であった。あの女の本名が表示されていたのだ。その名前はアイリスというらしく。この名前を見た俺は、この世界に来てからは使っていなかった俺本来の名前が思い出せなかったので。俺が自分の名前に違和感を感じてしまった。なのでこの世界での偽名を名乗る事に決めたのである。だから俺は自分があの男を殺そうと思っていた時に使っていた名前を使うことにした。それがあの男を殺し損ねた原因となったわけなのだが。俺の名前はこの世界にくる前に使って居た時の俺の名前では無かったからな。

俺は取り敢えず俺が落ちてきた天井の方に視線を向けると。その向こうには俺がさっき見たときと同じように、巨大な城が存在している。

俺をここに閉じ込めたのは間違いなくあいつの仕業だよな。俺があいつを殺す前にあいつを始末しておいた方がいいよな。そうしないと俺の身が危なくなりそうだよな。でもどうやってここから脱出する?あいつがこの国で一番強いみたいだし、今のこのステータスでは絶対に勝てないよな。今のステータスでも十分高いはずなのにそれでも負ける可能性があるくらいの強さなんだろ?だったら。俺のステータスを上昇させるスキルを使ってどうにかできないか考えてみるしかないかな?だけど俺の使える魔法じゃ限界もあるし。俺は魔法のスキルを持ってはいても魔法を発動するための魔法言語は習得していないから魔法が発動出来ないし。魔法スキルのレベルを上げて新しく覚えることはできるだろうけど、レベルが上がるにつれて必要になる魔力値が高くなって行くんだろうから魔法を習得しても使うことが難しい気がするんだよな)

そうやって俺が思考に没頭していた時に突然背後から人の気配を感じ取ることが出来た。俺は直ぐにその気配に振り返ると。一人の青年がその剣で俺に切りかかって来たので俺はその攻撃をなんとか回避することができた。俺は直ぐにその場から離れるために後ろへ飛び退いたが。俺が元居た場所には既に無数の矢が出現しており。俺がさっきまでいたところには俺の胸を狙って飛来してきたであろう一本の矢が刺さっていた。

(こいつはヤバイかもな。さすがに今のステータスなら俺に勝てると思ってこんな事をしてくるとは考えにくい。それにこいつの装備も凄い高級な物だとわかるからな。俺がもしもこいつと戦って勝った場合。そしたらこいつからスキルを奪うことが出来るんじゃないか?)

俺がこの男と戦うことを決めると。この場に大勢の人間が駆け寄って来る足音が聞こえてきた。どうやら俺を助けに来た連中らしいな。そこでその連中の顔を見てみると、俺は驚いてしまう。何故ならば、その全員が見知った者達の顔だったからだ。

『魔王は仲間を召喚しました』

『ユミリィ』

『ミケオ』

『タケル』

「助けてくれ!今襲われていたところだ」

その言葉を聞くと俺の仲間達が集まってきてこの場で戦っている人達に攻撃を加え始めたのである。そして俺がこの場から離れようと歩き始めると。また別の人物が話しかけてくる。

『マスターがお会いになりたいと言っているのです。ついて来てくださらないでしょうか?』

そう言ったのは、あの時。俺をこの世界に送り込んだ女神の一人で、俺に職業をくれると言った女だった。

(どうせ付いて行くしか道はないんだろうから。素直に着いて行こう。俺としても話を聞きたいと思っていた所だ。あいつから貰った力の確認をする為にもな。それにしても、あの女の関係者に俺の味方がどれ位存在するかによって、この国のこれからの行動が決まる。あの女の性格を考えるとその関係者も大概狂人なはずだからな。でも俺がこいつらに殺されずにここまで生きてこられたことを考えれば、こいつらはそこまで馬鹿じゃないと思うんだけどな。だけどあの女に関しては全く分からなかった。だからこいつらの中にどれだけの人が信用出来る奴が居るのかによって、今後の行動が左右されることになるな)

「分かった。あんたが案内してくれるっていうのなら俺も着いていこう」

俺はそれからその人物に連れられてある部屋に入ると、そこには数人の女性がいたのである。その部屋の中央に置かれている椅子にその女性は座っていて、俺に目を合わせるなり、まるで聖母のような優しい笑みを浮かべてきた。

(この女か?俺を嵌めた女はこの女なのか!?でも何となく違うような気もするんだよな。なんというか。もっと冷たい印象を受けるんだよな。この女からはあの女と同じ感じを受けないんだよ)

「私は貴女のことをずっと待っていました。ですからもう我慢する必要はないのですよ。これからは、あの時のように私のことをアイシア様と呼ぶのを許可しましょう。これからは私のためにこの国で頑張ってください。そしてこれからの貴女の活躍を楽しみにしておきますね」

俺がアイシアスという名前の女性の言っている意味がよく分からないと思っていると、その女性が立ち上がり俺の元に近づいてきた。そして俺に近付いた彼女はいきなり抱きついてきて俺にキスをしてきた。

「ん!な!え!あ!」

俺が突然の出来事に固まっていると俺の体に異変が起きたのである。そしてその異変に困惑して慌てて離れようとするのだが、どういう訳か体に力が入らない上に意識がどんどん薄れていき、そしてそのまま俺はその場で倒れこんでしまった。そしてその時には既に。俺に異変が起きる前の記憶が失われていたのであった。

目が覚めるとそこはベッドの上であった。俺が目を擦りながら体を起こそうとすると、隣で寝ていた女の子が目を開け俺のことを見ると俺の頬に触れてきた。

「良かった、やっと起きてくれた」

俺がこの子に見覚えがなかったので。俺は少しだけ不安になってその子の肩を掴むと、俺が少し痛そうな表情をしたその子に聞いてみた。

「ここは何処で君の名前は?」

俺が少し焦ったような声で尋ねると。その少女は少し不思議そうに首を傾げる。

「大丈夫?変なこと聞くんだね?ここが何処なのか?名前はユミリーだよ?それと私に貴方を拘束する理由なんて無いよ?だって私達は親友なんだもん」

そう言うとその子が俺に微笑んできたので。俺は安心すると、少し恥ずかしいような気持ちになってしまった。

「ごめん、少し疲れているのかもしれない。君のことを心配してくれてありがとう」

俺が照れ隠しの為に顔を逸らすと。その女の子はとても楽しそうに笑っていた。

それから俺は自分のステータスを確認する。だがやはり俺の称号に変化はなく。俺の名前が変わっているだけであった。

そのことに俺が落胆しながら。自分のスキル欄を確認してみると、そこに表示されていた文字は、『?????????』となっていて、どんなスキルを覚えているのか、どんな能力が備わっているのかすらも確認出来なかった。それだけではなく。ステータス画面を呼び出してみようと思ったが。ステータス画面を開くことが出来なかったのだ。俺はそれに酷く混乱してしまったのだが、そんな状況でも俺が生きている事に疑問を持ったのだ。

(俺は確かにあの時死んだ筈なのに、なのにこうして俺は生きている。それなら、やっぱりあの女神の力のおかげか?)

そこでふと、俺はあの言葉を思い出す。

(あの女からスキルを貰ったって、あの声の主が言っていた。あの時に貰えたスキルが関係しているのだとしたら、俺がスキルを貰ったのは俺に死んで欲しくないからだと仮定したとしたら。この現状にも説明がつく。俺に死なれると困るような相手がいるとすればあの女の可能性が高いだろうな。だけどその女の目的が分からないんだよな。この世界に転生させられた俺に対してこの世界に存在する敵を倒してこいという目的以外に一体俺に何かさせる為の存在価値でもあると言うのだろうか?)

そうやって俺はしばらく思考の海に浸かり込んでいると扉の方からコンコンとノックの音が聞こえてきた。俺がその音の聞こえた方へと視線を向けると。そこには先程俺と会話をしていたユミリィと呼ばれる女性が入ってきて。その女性の服装は普通のメイド服のように見えたので、俺が疑問に思ってそのことについて尋ねてみる。だが返ってきた返事は予想外なものであった。どうやら俺はその女性の妹ということになっていて。俺は今その妹として生活しているのだという。しかもその姉妹は俺達の国ではとても仲の良いことで有名であり、俺のことも姉は気に入っていないのは当然なのだが。それでも妹の方は、姉とは違い俺に好意的に接してくれるみたいだ。だからこの国の王であるその女性は俺にユミリィと同じような待遇を与えようとしているみたいなのである。だけどその扱いに俺自身が納得できない部分もあり。それはユミリィの態度もそうだった。俺の事を何故か凄く気に入ってくれていて、とても優しい対応で接してくるのだ。でも俺はその理由に検討がつかなかった。俺は自分がこの国に何をすれば良いのかという目標もなく。只々流されるまま日々を過ごしてしまっていたのだった。

俺のステータスを覗き見する魔法があると聞き。俺がそれを見せてもらっていた。その魔法で見た俺の現在の職業の欄はこうなっている。

【???】(職業なし)

そしてその魔法で見れるステータスの数値を俺の今のステータスと比較していくと。俺のステータスがいかに高くなっているのがよく分かる結果となった。何故ならば。この世界でステータス数値の最高値は999となっているらしく。そしてこの世界に存在している人間で最高値まで辿り着いている人間は三人しかいないらしい。つまりこの世界の最強に近い存在が俺だということだ。

(まぁ俺のステータスならあの女から貰った称号のせいもあるけど、それでも他の奴よりも強いってことだからこの国の役には立てるかもな。それにあの女もこの国の王様だと言っていたから。俺がこの国を良くしたいって思えば。それを叶えられる可能性もあるわけだ。でも問題はどうやってあの女とコンタクトを取るかだ。それが出来ないと結局俺は何時まで経ってもこの国の人達に利用されるだけだ)

俺にその魔法の解析をお願いされたその男は真剣な表情で作業に没頭しており。俺がその光景を眺めながら考え事をしていた時である。俺が居る部屋の扉を誰かが叩いているような音が聞こえてきた。そしてそれと同時に、部屋の中には二人の男達が入ってくると俺達を睨み付けてくる。

その二人を見た時、俺にはすぐにそいつらが誰なのかが分かった。何故ならばそいつらはあの時あの場所に居て。そしてあの時、俺を殺しにきた兵士達だと確信したのである。だが、何故そいつらが俺達を殺さずにこの部屋に来たのかまでは理解ができなかった。俺がそのことを考えると、俺が殺したと思っていた兵士が口を開いてきた。「お前があの女を騙る偽者なのは分かっているんだ!大人しく我々に着いて来てもらうぞ!」

俺の事を騙して、そして俺を殺した女を俺が殺す為に俺は仕方なく着いて行くことにした。その兵士は全部で三人いるのだが、そのうちの一人が。あの部屋には、俺と俺の味方になるはずだった女の人ともう一人の女の子と。そして、あの女神のような格好をした人とその護衛のような人が居たと俺に説明をしてくれた。だから俺は、あいつが生きている可能性が極めて高いので。俺はあいつを探しに行くと決める。だけど俺はこいつらの国に連れてこられたばかりなので、一人で探しても見つかる可能性はかなり低かった。だからこの国の人に俺の仲間になってもらうように頼む必要があると思った。だからまずは俺は俺の事を騙してきたその女に会うために行動することにした。だけど俺はこいつらに案内されている途中、俺を騙してきたあいつの名前を聞いた時に思い出したのである。俺の知っているその人物の名前を。その人の名前はユリーシャという名前のはずで。そのユリーシャという人物は俺に『私の事を思い出してください』と言ったのを覚えていた。そして俺を騙してきた女と特徴がそっくりで、更には名前が同じであった。その事から考えられる事は、この女は俺の知るあいつでは無いかという考えである。もし仮にそうだとしたのなら。俺が今まで過ごしてきた時間は一体なんだったというのだろうか。そんな思いに俺は支配されてしまう。俺は少し落ち込み気味にため息をつくと、俺はもう二度と会うことは叶わないかもしれないと思い、少しだけ悲しくなった。

(ははっ。まさか本当に俺のことを裏切るとはね。あの女神もとんでも無い置き土産を残してくれたよな)

俺達はその後。俺のことを騙された場所とは違う別の塔に移動させられたのである。そしてそこで俺はある話を耳にする。その話によると、あそこにいた女の子は実は俺のことを騙してはいなかったようだ。その女の子は俺の本当の母親の妹で。そしてあの時の女の人の方は、あの女の人は俺の母親の姉ではないのだと言う。俺の母親は王女様では無く。お姫様なのである。俺のことを可愛がってくれているあの少女は実はこの国の第二王妃なのだというのだ。だがそんなことを聞いてしまったので、余計に混乱してしまった。そのことから、この女が言っている事が本当なのかどうかを確かめる必要が出てくるのだ。俺は、この女を信用してもいいのかどうかを判断する為、この女の言う通りにする事にした。その日はもう夜になってしまった為。今日はこのまま休んで、明日行動するという事になっている。俺は寝れないようなので、自分の能力について考える事にする。そして俺のステータス画面を開いたのだが。俺はその時ステータス画面の一番下の部分を見つめて驚愕してしまう。そこには、 名前 ユミ 性別 女 種族 吸血鬼 年齢 13歳 身長 154cm 体重 45kg BWH

73.5(C)

59.5(B)

62.5(A)

HP 9500/9500 MP 20000/20000 STR 1010 DEX 100 VIT 0 INT 150 AGI 1000 MND200 LUK 2800

(ステータスが軒並み高くなっている!?これって、あの神様から貰ったスキルの影響か?)

(それにこのステータスってやっぱりこの世界の最強レベルの奴等と同じくらいの能力値だよな?それにスキル欄に表示されている謎の文字は何なんだ?)

(それに俺の職業の欄が???になっているんだけど。この状態は一体何を意味するのか分からないんだよな。それにこの女はどうして嘘つきの化け物の俺に対してこんな優しく接してくれているんだ?)俺はそのことが分からず。混乱した気持ちになってしまうのだった。

俺は今、何故かユリーシアに手を引かれる形で城の外にある町へと向かっていた。そこで俺があの女のことを探すにしても。まずはこの町のことについて詳しく知っておかなければならないと感じたからだ。

ユミは今朝、俺をこの町まで連れて来た兵士たちのリーダー的存在で。ユミには妹が居るらしく、ユミが妹に似ているのだと彼女は言った。確かにユミの容姿は何処と無くあの女と雰囲気が似ているところがあり、俺も最初そう思っていたから直ぐに受け入れることが出来たのである。だがそれはそれで問題が発生することになる。何故ならばこの国の中でユミとユミに似た妹さんはとても人気があるらしいのだ。だから当然の如く、その人気の高い二人の内の二人が一緒に行動していたら。それだけでもかなりの騒ぎになりかねない状況に陥る危険性があるということだ。だが俺はそんなことを考えても既に遅いので、今は諦めることにした。だが俺としてはこの状況が嬉しい訳もなく。俺はその事で頭を悩ませてしまうのである。

俺はこの国の城下町に着くまで。ずっと黙ってユミに手を引っ張られながら歩いていた。だがユミにこの国の現状を聞いていくと色々と分かることがある。まず俺達の居るこの国の名前はラズベル王国の首都のラゼルンで。この国の人口は二百万人以上居ると言われている。その国の中心となっている都市であり、また国の中心地となるべき場所で、俺達のいるこの場所が。この世界の中でもトップレベルに治安が良く。そして国民性も温厚で礼儀正しくて、民も優しいのが自慢の国だというので俺も驚いたくらいだ。その反面、その平和さ故にこの国の王様は国民からの信心や期待が大きく、とても大変だということで。俺が助けになりたいと思っていると。

「この国の為に力を貸してくれてありがとう。私は君が私にしてくれたことに一生をかけて報いるつもりだ」

俺はそんな風に言ってきた彼女に、少し戸惑ってしまう。だってこの国はあの女の物だし。その女を助けたいと思っていたなんて、この女に知られたくないというのが俺の素直な気持ちだ。そしてその言葉に動揺している俺を見て。彼女もまた何かに気がついたような顔をすると、そのまま固まってしまったのである。俺もその時にユミの様子が変だと思い彼女の顔を見た時、その瞳を潤ませていて。頬も赤くなっているような気がした。だけど今のやり取りで何が起こったのかが全くわからない俺は、そんな彼女を見た時。彼女が泣きそうな顔をしていたから、その頭を俺はそっと抱き寄せていた。

――え?なんで俺そんなことをしたか自分でも全く理解できなかった。だけど気づいた時にはもう既に体が勝手に動いていて。

それからユナの表情がどんどん柔らかくなっていくと。俺は自分がやった行為にようやく気が付き慌ててしまう。だが時すでに遅しで、俺はもう引き返すことは出来ないのである。なので俺はユミの顔が見れないような状態で、ただ俯くしか無かった。

「ごめん。いきなりで驚かせちゃったかな?」彼女は突然謝ってくると、俺にこう問いかけてきたのである。「ねぇ貴方。私の家族になってくれないかしら?」その言葉で更に俺が慌てる羽目になったのである。その言葉を聞いていた周りの人がこちらをジロリと見つめてくるので、俺はその目線がかなり痛かった。俺はこの場を早く去りたいと思うようになり。ユメに視線を向けると俺の目線はユメに向けられることになるのだが。そんなユメの反応を見ると、俺のことを見つめてニマニマと笑っていて。そして何故か少し悔しげにしているユトがいたのであった。

ユトはその後。俺達と一緒に行動することを選んだみたいで。そして俺は三人に連れられて町の観光を始めるのであった。そして俺達がまず向かった先は洋服店。そしてその店の店員らしき女性が現れると、俺達はその服屋に入っていき商品を見る事になったのだが、俺だけ別の部屋に案内されて、その女性は別の部屋に連れてこられたユトのところに行ってしまった。なので、その店で買うものは特にないのに。俺は仕方なくその女性の後について行くことにする。だけど俺はその部屋に案内されたときから疑問に思っていることがあったのだ。何故ならばその部屋に俺が通される前に、ユナはあの女の人のことを知らないと言い。そして俺の事を騙したのはその人じゃないとも言っていたのである。だが、その女の正体を確かめようとしたところで、この女に部屋に押し込まれたというわけなのだ。なので俺はその事を頭の中で整理しつつ。ユムに話しかけた。

『おいユメ。あの人誰なんだ?』『あああの人は私の妹の幼馴染みだからねー。それにしてもいい人そうだったよ』『へぇ、妹さんの。なるほどなぁ。だからあんなに仲良さそうにしてたのか。でも、俺の事を殺そうとしたあの女とは別人なんだな』『多分同一人物じゃ無いと思うよ』『はっ?どういう事だよ』『う~ん、まあとりあえず着替えてよ』

『あ、はい』俺はユミの言葉の意味を考えながら服を着替えたのだが、何故か用意されていた衣服は全て女性向けのデザインばかりであったのだ。そして俺が着替え終わった頃、先程の女が戻ってくるとそのタイミングで、ユミは戻って来た。俺はその姿を確認すると俺はついつい息を飲むのと同時に固まってしまう。なぜならばそこには天使が居たのだ。ユメはその女のことを知っていたようであったが。俺はこの女の姿を初めて見る事になる。その女の髪は綺麗な金色の長髪をしていて。まるで宝石のように輝いているように見えた。それに俺と同じ黒い色をした目が印象的な美しい少女で、肌は雪のような白さと滑らかさがあってとても触り心地の良さそうなのが分かる。それに、スタイルがいいし、胸もそれなりに大きく。俺は思わずドキッとしてしまって。

そんな姿を見てしまっている俺に対して。ユムの奴が俺のことをジーっと眺めてきては、ユミのほうに振り返ると俺を指差して何やらユミに対して耳打ちをするのだった。ユミは何故か俺の姿を見て固まるのだが、そのユミの様子がおかしいことに気づいた俺もユミの方を見てみる。

ユミがなぜかユカを見つめているのが気になったが。そして俺はユミの姿が普段の格好とは違う事に今更ながら気づくのである。そう、何故かユミの今の服装はメイド姿になっていて。ユミが着ているととてもよく似合っていたのだ。ユミのスカートがふわりと舞い上がると俺は思わずドキリとしてしまい、そして俺は自分の心が揺らぐのを感じる。ユメはそんな俺の心を察知したのか。

『もうお兄ちゃん!駄目だよそんなにじっくり見たら!』と言ってきて。俺はハッとなり自分の頬を叩いて正気に戻ったのだ。その様子にユミは驚いていたのだが。そんなことはどうでも良い。それよりもユムの奴だ。あいつは何て言ってユミに俺のことを紹介させたのかという事が重要になるのである。俺の予想では、ユメが俺のことを説明するときに。俺の容姿についても説明していると思ったからこそ。今のこの俺の状態があるわけである。

「わ、わたし。そんなに変かな?」そう言って彼女は顔を赤らめると、恥ずかしそうにもじもじとし始める。俺はそれを見てまた心臓の動きが早まり始め、ドキドキと動こうとするので、何とか押さえつけて平常心を保つ。そしてなんとかその気持ちを押さえつけることが出来た俺は冷静さを取り戻し始めるのである。

(い、いかん。このままじゃ俺までおかしくなっちまいそうだ)そしてどうにかこの状況を打破する為にユミに話し掛けることにするのであった。

「変だなんて、とんでもないですよ」俺は彼女の言葉を聞いて咄嵯に答える。するとユミも笑顔になり、安心したような顔を見せたが。直ぐに不安そうな顔になると俺をじっと見てきたので、俺はユラさんと目を合わせてしまい、目を離すことができなくなるのである。

『あれ、まさかユミ。お姉さんの前で緊張しているの?』ユトが突然そんなことを言ってきて。ユトは俺の顔の前に回り込むとニヤッとした笑みを浮かべてこちらの様子を伺ってきる。

だが俺はその時、そのユトとユメの会話の内容よりもユラさんの行動の方が俺には重要な問題だったのだ。何故なら、そのユラさんという女の人に俺は何故か分からないけど見つめられているだけで妙に興奮してくるのだ。俺は必死になって落ち着く努力をしていたのであるが、俺はユノと会ったときのことを思い出していた。それは初めてユノと会って話をしたときのことだった。俺はユラさんの時とユマさんの時の印象が違くて。ユノの場合は少し幼さが残る感じで話していたはずなのに。ユナの時は大人の余裕のようなものを感じたという違いがあったはずだが。だが今はそんな事はどうでもいい。ユムの言ったとおりだ。俺はユムに指摘されてやっと気がついた。これはユミに対する俺自身の感情なのかそれともこの女性に感じるものなのかが分からなかった。だからユムに尋ねてみたのだが、ユメに怒られてしまい。そしてユメからは『ユミと仲良くなりたいんでしょ?』と言われてユムからも同じような事を言われるのである。ユメもユトと同じようにユミと俺の関係に気がついて。俺とユミを引き合わせてくれたようだ。

そしてユミはそんな俺達の会話を不思議そうな顔で見ていたのだが。俺達はお互いに挨拶を交わして、俺達三人とユミは店を出て歩き始めたのであった。

それからしばらく歩いたあと。

俺達はこの国の中心となっている都市。

首都にある巨大な城の前まで来ていた。

俺はこの城に来るまでの間ずっと考えていた。俺はユミルさんに会ってから。ユラと会うまでに時間的誤差があることに気がつき始めてしまって。

その理由を考えたときある可能性について思い浮かべたのである。だがその可能性とは、あの女は実は別人であの女は自分の意思ではなく操られていたのではないかということだ。つまり誰かにあの女の偽物を差し向けられて俺が殺そうとしていた。そしてあの女の知り合いにその男がいたということなのだ。その男が何かしらの能力者で。そしてユムがユラをその人の能力で洗脳されたのではないかと俺は考えたのである。そして、その男はユミルという名前だということを俺は聞いた。なので俺が考えついたのは、ユメと俺とユムがその男の罠に嵌められて殺されかけていたところを、ユラとユカの二人が命をかけて守ってくれて、俺達三人はその二人と縁を結ぶことに成功したのではないかと考えているのだ。そしてその男がユミとユムが探し求めている人で間違いないだろうと俺は思うのだ。俺達がユミルという人物を探し出すことはおそらく不可能な事だろう。だからこそ。ユミルを見つける為に必要なものはこの世界での地位を手に入れてユラム王の信頼を得るしか無いと考えたのだ。それにはユキル達に協力してもらうのが1番手っ取り早い。ユト達三人は俺のこの提案に納得してくれたようで協力してくれることになった。ユイやクロア、シロウ達にも協力してもらおうと思っていたが、彼等は別の仕事を頼まれていて今この城に居るわけじゃない。そして、ユキルにだけは事情を話すつもりは無いから仕方がない。

そんなことを考えつつ俺はユメの後を歩いていた。何故こんなにも城内は広々としていて人が多いのかと思っていたら。今日はユムがこの国に訪れる日で。しかも丁度俺とユメがこの世界にやって来た日と同じだったのである。なので俺はユメと一緒に街に出ることを決めた。

ユトがユメについて行こうとしたが、ユムは一人にしてほしいと言うので俺はユムの言葉を信じる事にした。

「じゃあ俺ちょっと買い物に行ってくるよ」「え、もう?ユムちゃんも行っちゃったみたいだし、私と一緒にお店を周ろうよー!」「ユズカ。お前はこれから仕事だろ?」「はーい。分かってまーす!頑張って来るねー」ユズカは俺の背中を押しながら楽しそうにしている。

そして、俺はユミの事が気になりチラッと後ろを向くと、そこには先程の女と楽しげに喋っている姿が目に映り俺はホッとする。

「さてと、俺等も行きますかね。俺とユムとで行って来れば良いんじゃねえのか。ユミちゃんを誘うのもあれだけどな。とりあえずあいつ等と連絡を取る為に、一度戻らせてもらうぞ。俺がユムに連絡を入れてくるから。その間に適当に買ってきてくれるとありがたいんだがなぁ。どうだい?」俺はユラさんの提案を了承して。俺とユキはその場を離れる事にしたのだった。ユナが付いて行くと言い出したので。仕方なく一緒に連れていくことにしたのである。「ご主人様♡お荷物は全部私に持たせてくださいませ。全ては私の役目ですわ。さ、まずはどこへ参られるんですか?お供させていただきます。でも、もしもお店が閉まる時間が近づいてきたのでしたら。すぐに私は宿に戻る覚悟もございますの。どうかご命令ください」俺は彼女の言葉に苦笑いをしつつ、ユカやユミが一緒だとこんなにも違うんだなと感じて驚く。

「いや、そこまでしなくても大丈夫だよ。それよりもユミと仲良くなってきてくれると助かるんだけどな」

俺はユムとのやり取りを思い出す。

「ユミと仲よくしてくれよ。頼んだぜ」ユラさんはユミのことをかなり気に入ったのかそんな事を言ってくれたのだ。そのおかげもあって俺とユミもこうして二人で出かけることも出来たのだ。ユメはそんな俺のことを不満そうにしていたが、俺としては感謝しているくらいである。そんなことをユラさんに言われてしまったらユメも断れなかったに違いないから、俺にとってはラッキーなことではあったのだ。

ユラさんと別れた後。俺はユミンと2人だけの時間を楽しんでいた。

だがそんな中、少しばかりユミンとの距離が縮まったように思えた俺だったのだが、やはり彼女は俺のことを避けるかのように離れて行ってしまうのだ。そしてユミはどこか寂しそうにして、元気がなかったのである。

俺はユラが俺の所までやってきたことで、俺は少しだけ焦ってしまったが、どうにか平静を装うことに成功していた。だがそんな俺を見てユラが微笑んでいることを見て。やっぱり俺はユラには見透かされていたようであった。「どうしたんだユラ姉さん。ユミルを探してたんじゃないのか?俺に会いに来たとか言わないよな」俺はニヤニヤとしているユムに話しかけると、俺はそのまま城の中にいるであろうユミルを探しに向かったのであった。ユムも俺と一緒に着いて来てくれたため心強いと思ったのだが、そこで思わぬ出来事に遭遇してしまうのである。それは突然のことだった。

「貴様、ここで何をしている!」

俺の背後からいきなり声が聞こえてきて俺は驚いて振り向いたのである。するとそこにはこの国の兵士のような格好をした男が立っていたのだ。だが彼は明らかに兵士とは思えないような容姿をしていた。というのも彼は全身に包帯を巻いていたからである。まるでその体中に酷い怪我をしているかのような姿に俺は驚き、そして少し警戒する。なぜならその人物はあまりにも不気味すぎたからだ。だが、その人物をよく見ると、何故か俺にその剣を向けたまま動かないでいた。

『あれは確か魔族四天王のゴルガという奴じゃないか?』そんな言葉を頭の中で考えている俺の横にいるユミは不安そうな顔をしていて、そんな彼女を見たユムは、俺に耳打ちをするように話し掛けてくる。

「ユミ、ここは危険かもしれないから一旦逃げるぞ」「そ、そうね。あの人のことも心配だけど。ここに居ても仕方がないわよね。逃げましょうか」俺とユミはユミルがこの城に来ていることがバレないようにするために。城の外に出ることを決意する。そして俺達は走り始める。その瞬間。あの男が何事もなかったかのようにして歩き始めたのだ。

俺はその姿を唖然としながら見つめていたが。俺は急いで走り出す。ユミルが何処に隠れているかは分からないけど。とにかく今は一刻も早くここから逃げ出す必要があった。俺はあの男の様子がおかしいことに気がついたが。あの男が一体どういう目的でこの城に侵入したのかまでは分からないので下手に攻撃することだって出来なかったのである。それにあの男とユラさんとは面識が無いだろう。もし、ユラさんと知り合いならユムやユメはともかくとして。あの男がユラさんを知らないのはおかしいと思うし。何より、あの男とユムが知り合っていないことは確実だった。あの男が城の人間に襲いかかった様子はないからだ。だからこそ、この城を抜け出してから。

それから考えることにした。ユラがユミルの居場所を突き止めてくれれば御の字だった。あの男の目的はユミルなのかどうかを確認するためには情報が少なすぎるが、今はそれしか方法は思いつかなかったのだから仕方がないのである。俺達はただひたすらに城から離れた場所に向かって走ることにした。俺とユミは必死に逃げたが、ユムだけは何故かユミルのところに向かうと言い出したのだ。ユムが何故ユミルの場所を分かったのかと聞くと、なんと、あの部屋に入った時にユミルとすれ違ったらしいのだ。

そして俺がそのことをユラに伝えに行くと言って、一人で戻ろうとする俺の腕を掴みユムは離さなかった。そしてそのせいで、その行動によって、結果的にユラはあの男の手に捕まり、そして殺されかけたところを。ユミに助けられてなんとか難を逃れたのだという話だ。そしてその後、ユミはユラム王の元に連れて行かれて事情を話す羽目になり。俺の事も全て話す事になった。その結果、俺達三人はしばらくの間、この国に足止めされることになってしまう。

ユミは自分がこの国の王妃だということはユムと俺以外には絶対に秘密だと口酸っぱく言っていたので。俺達もその通りだと理解している。なので俺とユミはその言いつけをしっかりと守ろうとしていた。俺がユイやシロウにこのことを相談しようと思った矢先にユキルとクロアから俺達の所にやってきてくれたので。俺達は3人で話し合いを始めた。

俺達がこれからどうやってこの世界での地位を上げるのか。それについて話し合っていた。だが俺としては。ユイ達にこの世界のことについて詳しく聞きたいことが山ほどあったのである。俺はシロウに質問をすることにした。

「お前らはいつこの世界に来たんだ?」

俺の問いに対してシロウはすぐに答えてくれた。なんでも彼等も俺と同じようにユミと会ってユムに出会ったのがきっかけでこちらの世界に飛ばされたそうだ。だが、その時期が違うらしくて、俺と会った時は既に二人共、ユマさんの店で働いてくれていたのである。俺は二人の出会いについても気になったが。その前に俺は、どうしても確かめておきたかったことを口にしたのである。「それでお前ら、二人は付き合ってたりするのか?」「ああ。実はユイはユムの姉ちゃんでな。俺とユメとは昔から家族ぐるみで付き合いがあってさ。俺はユメと恋人になったわけなんだが、俺の両親がユナさんやユムのことを娘みたいだーなんて言うもんでさ。なんか気がつけばユミちゃんも含めて姉妹みたいな感じになっててさ。そんで気づけばユムに恋心を抱いていたという訳だ。ユメも同じだと思うぜ。俺とユムとユメは生まれた頃から仲良しだったんだが。その、あれからさ。ちょっとした切っ掛けがあってさ。その、あれ以来ユムの事を意識するようになり。ユムもあれから変わったんだよ。俺が思うにだけど。俺のことを好きだっていうのを隠しなくなったんじゃないかなって思ってるんだが、実際どうかは分からないんだがな」

そういえば確かに最近ユナは俺の前ではあまり照れたりしなくなっているように思えたのである。

俺がその事を思い出していたところに、シロウの言葉に反応したのであろう。ユムがシロウを抱きしめていたのである。

そんなことをされているシロウは凄い嬉しそうにしている。

「えへへへ。僕、幸せ」そしてそんなユミの頭を撫でていた俺の隣にいたユラさんが俺の方を向きながらニヤニヤとしている事に気づき、俺は顔に熱を感じて。恥ずかしいのを我慢する。そんな状況の中、ユムは真剣な眼差しで語り始める。

「私は貴方を裏切らないよ。私には私の意思がある。

私の好きなものは、私の大事な物は私にとって大切な物であり私の一部でもあるんだ。私の一番の望みはユミルと一緒になることだから」ユムがこんな事を言っているのを聞いていたユミとユムが姉妹のように仲が良くなった理由がわかったのである。

俺はそんな彼女の言葉を噛み締める。俺はユミと結ばれるために色々とやることはたくさんあると実感したのだ。まずは彼女との関係をどうにかして修復しないといけないだろう。俺がそんなことを考えていたとき。俺はユミルの姿を見つけたのであった。彼女はこの世界にきて初めて見るくらいに綺麗な笑顔を見せていた。

ユミルを見つけ、俺はすぐに駆け寄ると彼女に手を差し伸べていたのである。だがそんな俺は彼女に無視されてしまっていた。そして、彼女は俺の横を素通りすると、そのまま城の方に歩き始めていた。

『どうしたんでしょうか?』『うーむ』ユムは少しばかり悩んでいる様子だったが俺は少しばかりショックを受けている。だが、俺はユムがユムとユミルを勘違いしていたことにこの時気づくことができたのであった。俺とユムの会話を聞いたユミルが驚いた表情をしていたのだ。俺とユミルは一瞬目が合うが。俺はすぐさま顔を逸らしてしまったのだ。

それからしばらく経ち。俺はユムと一緒に城下町を見て回ることに決めていた。というのも俺が気になることがあったからだ。それは先程の男が何者かということである。

彼は一体誰なのか?なぜこの国にいるのか?など色々な疑問を考えていると、彼は俺とすれ違う時に話しかけてくる。

その声に振り返ると、そこには全身に包帯を巻きつけた男の姿がそこにあった。その包帯の隙間から見える皮膚は青紫色に染まっており、俺は思わず恐怖を覚えてしまうが。男は俺を見て微笑んだのである。その微笑みに俺は背筋が凍るような思いを抱くが。彼は何も言わずに俺達から離れて行きどこかへと消えてしまったのである。俺は彼が立ち去る姿を目で追うことしかできなかった。

『一体何者なんだろうか?』

『あの男、魔族四天王の一人ゴルガですね』そんなことを頭の中で考え込んでいた俺の横からユミルの声が聞こえてきた。

「ゴルガ?それがあの男の名前なんですか?」『はい、そのゴルガですよ。ゴルガとは魔族四天王と呼ばれる魔族の中でもトップクラスの力を持つ存在なのです。それにしても、どうしてあの人がここにいるんでしょうかね。この国の人たちは誰も知らないようでしたが、一体何を企んでいるんですかねぇ。とりあえず調べておく必要がありますね』

それから俺とユミルは町中にある宿屋に向かいそこで部屋を借りることにしたのである。

そしてそれからしばらくしてからユミルと二人で町に出ることにすると、ユミが心配しているかもしれないので、念のために彼女達に念話石という連絡が取れる道具を貸してもらいユムに渡してもらった。これで俺達はいつでも通信できるという訳だ。ちなみにこの念話石とは魔力を使って遠距離で会話をする事が出来るアイテムで。使い方さえ分かればどんな人でも使う事ができる便利な道具なのである。それから俺はこの国で俺がやりたいと思っていた事を実行することにしたのだった。

俺がユミルを連れてやってきた場所はこの世界に来て初めて来た場所。俺の目の前に見える光景はこの世界で俺が初めて目にしたもので、今までに見たことのない景色が広がっており、空から降り注ぐ日差しに照らされてキラキラと光輝く一面の海と美しいサンゴ礁の島。そこは海の中にある孤島だった。俺がこの島にやって来た理由は一つ。ユミルとここで二人っきりのデートがしたいと前々から思っていたからである。

俺がこの島にやって来れたのはあの魔王が連れてきてくれたからなのだ。なんでもあの男の部下がこの場所のことを調べ上げてくれていて、俺達が困っているならここに連れて来てあげようと、そんな感じのことを言われて俺とユミルはその部下の方々に案内してもらうことになり、この場所にやってきたわけだ。俺は今ユム達がいる王都でやろうと考えていた計画を一旦中止することにしたのである。俺がこの世界でやりたかったことは。

ユミルとデートをしたり。二人きりで旅行をしたかったり。そしてユミルと結婚もしたいと思っているのだが、流石にいきなり結婚したいだとかプロポーズしたら。引かれるのではないかと思っていて。俺がユミルと正式に恋人になってから告白しようと考えたわけだ。なので俺はまず。俺のことを好きになってもらえるようにユミから言われたように。彼女を甘えさせてあげたりと、とにかく彼女のことをもっと大事にして愛してあげようと思ったのである。そうすればいつかきっと俺に振り向いてくれると思うからね。

俺はこれからどうやってユミルの心を俺に向けさせるのかを考えるが、なかなかいい案が浮かんではこなかった。

しかしユミルとの思い出はこれから作っていけばいいし、これからいくらだって時間はあるのだ。焦らずに行こうと思い直す。そう思えたことが俺にはとても嬉しいことだったのである。

それからユミルは、そんな島の景色を見ながら嬉しそうにしている。

その表情を見れただけでも、俺が来たかいがあると言うものだ。それから俺達はしばらく砂浜を歩くことになる。俺とユミルの足元には綺麗な小魚が泳ぎ回っているため。俺はそれを指さしながら、これはなんという生き物なんだろうとユミルに声をかけるが、彼女はそれどころではないらしく、とても感動した様子でその海の生物を観察していた。そのせいもあり俺の問いかけにも上の空であるユミルに対して、俺はその生物が何であるかを、ユミルの手を取り、優しく握りながら説明する。そして俺は、この綺麗な珊瑚礁のある小さな島のことを、その生物のことをユミルと楽しくお喋りをしてから島の中心部に向かう。

そんな時、俺はある違和感を覚えたのである。その違和感の正体はすぐに分かった。

それはこの小島の海岸に漂着した船に乗っていたであろう人間の遺体の山を俺達の横を歩いている少女二人が、悲痛な表情で見て涙を流している姿を目撃したのである。俺とユミルもその子達に近づいていき声をかける。

「君たち大丈夫だったの?」

「あ、はい。私たちは、その助かりました」『本当に感謝しています。私たちだけじゃなく多くの人間が犠牲になりましたからね』

俺は彼女達の無事を喜んでいた。そんな彼女達を見ていると、俺とユミルの視線がぶつかる。するとその瞬間。彼女は頬を赤く染め俯く。そんな彼女にユミルは微笑むと頭を撫でるのである。

「そういえば、貴方たちはこの近くに住んでいる方なんですか?それとこの辺りに集落はありませんか?」『私は一応は住んでいますけど』

俺はそんなユミルの言葉に驚いていた。この辺には人が住んでいたということが驚きだったのである。俺の住んでいた家がある村以外に、この世界に来てから人の住む場所があることに俺は衝撃を受けていた。そして俺はこの子達にこの付近に住んでいたのか?と尋ねてみると二人は揃って首を横に振ると。この近くの村の人間だと口にしていた。そして俺はユミルにそのことを話すとその村の場所を教えてもらう。俺がその村に行けばこの付近では一体何が起こっているのかが分かるはずだからだ。それから俺はユミルとこの少女二人と共に。その村へと向かうことになったのである。

それからしばらくの間。俺達は三人でこの付近に住むという少女たちの村に向かっていた。その途中で彼女達から話を色々と聞くことが出来たのである。まず彼女たちの名前はリシアといい、この付近に昔からある村に住んでおり。そこで暮らしているのだという。そんなリディア達は、この近くに人が住んでいることに最初は警戒心を抱いていたらしいが、俺の人柄をみて警戒を解いてくれた。そして、彼女はユミルの顔を見るなり泣き出し抱きついて。ごめんなさい、助けられなくて、と謝罪を口にしていたのである。そんな二人の様子を見ていたユミルと俺はそんな彼女らの様子を少しばかり見守る。

そしてユミルがリディオから聞いた話で気になる事を言っていたのを俺は耳にする。それは俺の住んでいたあの場所にも魔族の襲撃があり多くの人が殺されたと聞かされたのだ。俺はその時はまさかと思い特に気にしなかったが、俺に魔族の襲撃があったあの場所で、一体誰があの人達を殺したのだろうと思っていたのだ。俺は、そのことについて考え込んでいたのである。俺の中であの事件を起こした犯人に、ユミルは殺されてしまったのではないかと考えてしまい不安になっていた。俺の中であの時の事件は、俺の中で忘れられない記憶となって残っていたのだ。だからあの事件のことを思い出す度に俺の心の中は罪悪感で一杯になっている。その感情が蘇ってきたのか俺の目からは一筋の涙が零れ落ちた。そして俺はユムとユミルの方をチラリと見る。すると二人に俺はどうしたの?という表情でこちらに顔を向けてくる。俺は慌てて涙が零れた理由を話そうと口を開こうとする。しかしそこで俺達の前に一人の少女が現れる。

俺の前に現れたのは一人の女の子だった。見た目はまだ幼くて。十代後半の少女である。その少女を見た途端。その容姿に俺はどこか既視感を覚えるが、すぐに俺はそんな考えを捨てて話しかけようとするが、少女は俺を無視して、なぜかユミルに向かって話を始めたのであった。

その話の内容はユミルがなぜ生きているのか、ユミルはもう死んだものとして扱われていた。しかしこうして生きていたということは魔王様の復活は失敗した。そんな言葉に俺は驚愕するが、ユミルとユムは何の話をしているのかが理解できていないようだったが、それでもユミルだけはその言葉を鵜呑みにしないように必死に頭を回転させて何かを考えようとしていたのが分かったのである。

だが結局何も分からないまま時間だけが過ぎていったことでユミルは諦めて。私も知りたいことがあるので、その話の続きを聞く事にしたのである。

その話によると、この大陸にいる魔王を復活させた男は勇者であると。そしてこの国の王の娘を誘拐したのはその男の命令によるものであり、今回の一件に魔王の側近の一人が関与している可能性が浮上してきているのでその側近を探すように指示を出したのだという話だった。その話を聞いたユミルとユミルはお互い顔を見合わせて困惑の表情を浮かべるのである。ユミルはその話が嘘なのかを確かめるために。この場にいた男から、魔王軍についての情報をもう少し詳しく聞き出そうと考えた。

俺はそんなユミルと少女の会話を聞きつつ先程ユミルとユムの目の前に現れた少女に俺は、どうしてここに来たのか尋ねることにする。

その問いに少女は答えるが、俺は彼女がなぜこの場所に来たのかが気になって質問を続けたのだ。

「ねぇ君はどうしてこんなところにやってきたのかな?ここが危険だっていうのは分かっていると思うんだけど」

俺がそう言うと彼女は突然俺に攻撃を仕掛けてきたのである。俺が咄嵯に回避行動に移ると彼女は続けて魔法を放ってくるが。それをユミルが防御結界を張って防ぐ。それから彼女は俺に攻撃を止めて欲しければユミルの拘束を解けと言い始めたのである。それを聞いたユミルはそんな要求に簡単に屈してしまってはダメだと注意したが彼女はそんなユミルに対して、ならこの男の生け捕りにして魔王様の元に戻ろうという発言を聞いてしまう。

俺もそのユミルと同じようなことを考えたが、ここでユミルの身柄を彼女に任せるわけにはいかないと俺が動こうとしたが、俺の行動にユミルとユムが止めに入ったのである。その制止の声を俺と少女が無視をしてお互いに戦闘を再開しようとした時、少女の背後に巨大な黒い影が現れてそのまま少女を飲み込む。俺達はそれを目の当たりにしてしまうと恐怖に囚われ身動きがとれなかったのである。するとその巨大な影が一瞬にして消えたのである。その影が消えてからしばらく沈黙が続き。ユミルがようやく口を開くのである。

ユミルはそんなことを口にすると、自分のことをユミルと呼んで欲しいと俺に頼み込んできて。自分は貴方が好きなので、俺の妻になってくれるのか聞いてきた。その唐突なユミルの申し出に俺は戸惑いつつも、ユミルの真剣な表情を見て俺も彼女の想いに応えようと、そのプロポーズを受けるのだった。そして俺とユミルは、それから結婚を前提に付き合いを始めることになる。そんな二人の仲睦まじい姿を見ていたユミアとリディアは、とても嬉しそうで。そんなユミの嬉しそうな笑顔を見ているだけで俺は幸せだったのである。そして俺達はその後。村に戻ることにしたのだった。俺はそこで、村の住民から色々と事情を聞いていたのだ。そこでわかった事なのだが。やはりこの付近での異変はこの周辺で起こったのではなく、この付近ではないところで起こっており。そこで魔族が襲撃してきたという情報が入ったらしい。

そしてその魔族の狙いがこの村でユミアだということを知り、俺は怒りを露わにする。

「許せないな。なんでお前達がユミを狙おうとするんだ?そんなことは許されないんだよ」

「そうだね。その通りだよお兄ちゃん」

「な、なぁユム?なんで、おにいちゃ、って呼んだりするんだよ。今までおにい、ちゃんって言ってなかったろ?」

「えっ?なんのこと?」

「いやいや、誤魔化すなって」

「うふふ、お姉ちゃんは本当にお馬鹿さんね」

「おいユミル!さっきから、何を言おうとしている?」

「う~ん。それは内緒よ」

「なんだそりゃ、まあでもユミルが元気で良かった。また一緒にいられるのが嬉しいよ」

「私も同じ気持ちだよ。だって大好きなお兄ちゃんと、これからはずぅーっと一緒なんだからね。あはははは、私達はもう夫婦になるのに、まだ好きなんて変だよね?」

ユミルとユムは俺達の事をからかっていた。そして村の住民達は俺達の様子を見ると。この村は俺達のものだと認めてくれた。俺は村の住民に礼を言いながらユミルを連れてこの村を出て行こうとした時に。俺とユミルの前に、この村を守ってくれと俺達に依頼した村長の老人が現れる。

俺達の事を応援してくれているようで、この村の村長に俺とユミルの二人がこの村の代表として認められたらしい。それから俺は村を出る前にこの村に残っていた人達から、色々と村の現状を聞いていたのである。

それから俺はユミルの手を引いて、この村でユミルにプロポーズした村娘達の元に行くと。彼女達はユミルに謝罪をした。ユミルの本当の家族が無事かどうか心配していたユミルはその人達から、この国ではもうすでに皆殺されてしまっていたという話を聞かされると、涙を流してその場に膝をついてしまうのである。俺はユミルに大丈夫かと声を掛けるがユミルは何も答えずに、その場で俯いていた。俺はそのユミルの様子が心配になり声を掛けようとすると、突然ユミルが立ち上がって俺のことを抱きしめるのである。そのユミルのいきなりの行為に俺は動揺を隠せなかった。

「ごめんなさい。少し一人にさせてください」

「あ、ああ。ごめん。気が付かなかったよ。ゆっくりしてくるといい。それとユム。ユミルと一緒にいてあげてくれないか?俺はちょっと用事があってユミルの側にいれそうにないんだ」

俺がそういうとユミルは私なら一人でも平気だよ?と言ったのである。

俺も俺が近くにいない方がいいと思って。二人を俺達の家に残す事にしたのだ。ユミルはユムの事が気に入っているようなので俺はその方が安心してこの村を離れることができる。それにあのユミルが心を許した人だからな。ユミルもきっとこのユムとユミアといる方が落ち着くと思ったのだ。そして俺とユムとリリアは俺達三人の家に向かうのであった。

◆ 私が家に入るとユムは私の体を触り始めたのである。そんな様子に私は戸惑っていると。その手は次第に大胆になっていくのだった。

そして私はユムに押し倒されてしまう。ユムの体はなぜか火照っていて息遣いは荒かった。その様子を見ていて興奮しているようにしか見えないユムに私は怖くなっていた。

だがユムはそんな怯えるユミルの事を抱き寄せると優しくキスをする。だがすぐに舌を入れられて深い口づけを交わすのである。

そこで私はようやく気がつくのだった。

その瞬間、目の前にいたのはユムではなかったのだと。

そこで目が覚めるとユムの姿は無くなってしまったのだ。私に覆いかぶさっていたユムはどこにもいなくなってしまった。そしてその夢を見ている間もずっと私の名前を呼んでいたのだが、ユムの声は全く聞こえてこなかったのである。そこで私はユムを探すことに決めると、ベッドから出てユムを探し始める。するとそこには、見知らぬ少女とユミアとリディがいるのである。

どう見てもその二人は、この家の者ではなくて、しかもなぜこんなところにいるのかが不思議だったのである。だがその二人の顔を見た途端にユミルはその少女たちが自分の姉妹であるということを認識できたのだった。その少女が自分にとってどういう存在だったのかを思い出すことができたのだ。それから少女達は、この世界の異変に関わっている可能性があるという事を話し合っていた。

「ねぇユム。あなたは、その二人のことを知っていますか?」

「うん。お兄ちゃんと一緒だよ」

そのユムの発言に私は驚愕してしまう。ユミルがその二人の正体を知っているというのだ。しかし私はその二人が何者でなぜここにやってきたのかを聞くことができなかった。

それからその二人と話をしていて、やはりその二人は自分達の姉であることを理解してしまう。ユミルがどうして生きているのかは分からなかったが。こうして無事に生きていたことを喜んでいると。

その二人の目的がユミだということが分かり私はその話に食い入るように聞き入っていたのである。そしてユミルは二人の会話を聞いていくうちに二人のことを理解していった。二人の目的は、魔王を復活させるためにその魔王の魂を肉体に戻すこと。そのためにこの世界で起きている異変の原因を調べにきているのだと知り、ユミルはユムの事を必死に止める。

するとユミアとリディアがユミルにユムの事をユム姉と呼ぶのをやめて姉と呼べと言ってくるのである。そこで初めて自分の妹がユミアとリディアの妹であることに気付かされたユミルだった。

それからユムとユミルは二人から自分の体について詳しく聞くと、自分がこの世界に来ることになった理由をユムから聞かされ。それを聞いた二人はその方法が正しいのかどうかを確認するために。ユムを自分の元に連れ帰ろうとしたのだった。それを知ったユミルはユムのそばを離れず。ユムにユムを守ると言い張ったのである。ユミア達はユムの言葉を信じると、この場でユムを拘束することを一旦諦めるのである。ユムの話が本当かどうかを確かめてから拘束することを決めていたユム達にユムはユミの事を託すとその場から姿を消すのである。

そしてそれから数時間後。ようやく落ち着いたのかユミはゆっくりと目を開けてからユムを見る。ユミルとユミは互いに抱き合うと再会を果たしたのだった。ユミルは涙ながらにその喜びを分かち合っている。その姿を見てユミアとリディアは嬉しそうな表情を見せていた。

ユミルがこの村にきた本当の理由は、ユミが狙われていることを教えて。それから守るためにきたのだということをユミア達は知ると、これからどうするかを考えることにしたのである。そこでユミアはユムに何か欲しいものは無いか聞いてみると、この国に残してきた人達に会いたいという願いが出てくる。そしてユミルはそれがユムの夢の一つだと思いそれを叶えることにしたのである。

そしてユミルはユムに付いてくるように言ってユムと一緒に転移の術を使うと、この国から姿を消したのであった。

「うわぁー!お兄ちゃん凄いね」

ユミルとユムは楽しそうにはしゃいでいると。

「あ、あのぉ。ユミル?お兄ちゃんというのは?」

「あ、えっ?それは、なんでだろうね?うふふ」

ユミルはそのユミナの反応を見てからかうとユミナの顔はみるみる赤くなっていったのである。その反応が面白かったユミルは、からかい続けるのであった。そしてそのユミルの様子を見ていたユミルは。

「やっぱり。ユミル姉だよね?」

「うん、そうだよ」

「はは、なんか恥ずかしいね」

「あはは、そうかな?」

「もう。私に会えたのが嬉しいのはわかるけど。私に会ったら最初にすることは決まっているんじゃないの?」

それからユミルは少しだけ寂しげな表情を見せてから、ユムの手を引くと歩き出す。ユミルの行動にユムは首を傾げていたが、ユミルの後ろを歩いていたのである。ユミルは懐かしそうにしてそのユムの横顔を見ながら微笑みかけると再び手を握り締めたのであった。

そしてユムが住んでいる村に戻ると。そこにはユミがいたのだった。

ユムはその光景に驚き、慌ててしまうがすぐに笑顔になるとその村に足を踏み入れたのである。

それからユミアとリディアにユムはユムをユミア達の妹として紹介していた。その事にユミルは戸惑いを覚えながらも、この世界で一人だった自分にやっと家族が出来たことを感じて。ユムを家族のように迎え入れてあげようと思うのだった。

ユミンの話ではそのユムは本当に記憶を失っていたらしく。

ユムはユミアとリデアと話をして、三人と話をしてから家に帰ることに決める。そこで、リミアは三人を案内しながら、三人が住む家に連れて行くのだった。

「じゃあ。ユムも一緒に暮らすの?」

「うん、ユミルが嫌じゃないならそうしようと思ってる」

ユミアは少し考え込むような素振りを見せると、ユムの手を握って笑っていた。「ユミルはいいの?それで?」

リリアがそういうとユミルは、もちろんだよと答えたのである。するとリリアはユミルがユムのことをとても大切にしていることがわかったのだ。そこでユミルはそんなリミアのことを心配するような顔つきをしていたのでリリアは心配しなくても大丈夫ですよと答えてくれた。

だがリミアはそんな二人を見ていて違和感を感じていたのである。ユムにユミルと呼ばれた時、ユミアはどこか安心しきったような顔を見せていたので、どうやらユミのことを大切に想っているということがよくわかったのだ。

ユムはその日はユミルの家で休むと決めていたのである。

「今日は色々とありがとう。ユムは久しぶりに二人にあえてよかったと思っています」

「私もユムとユミルに会うことが出来て嬉しかった」

それから三姉妹の楽しい生活が始まる。

◆ それから私は、ユムの事が大好きになってしまい。毎日のように通いつめてしまうのだった。そんな様子を村のみんなは暖かい目で見守ってくれるのである。それから私はこの世界にユムが来てからというもの、私はずっとこの世界にいた。だってユミルとユムのそばにいる方が私にとっては幸せだから。それに、私もこのユムがいる世界で生きてみたいと思っていたのも事実である。だから私はユミルとユムのためにもここで生きることに決めたのだ。

そんな私はこの世界の人と仲良くなり始めた。そして私はユマの事が好きな人がいることを知り。その人が誰なのかを調べることにしたのである。でもユムの知り合いらしいその人は私の前に現れてくれなかったのだ。だから私は直接本人に尋ねてみると。ユミルは顔を真っ赤にさせてから私の後ろに隠れた。ユミルはユムの事を愛しているんだなって思う。だけどその人の名前は教えてくれなくて、どうしたものかと考え込んでいるとユミルはユムをからかうように、ユミルの事を妹だと言い出してきたのである。

私はそんな二人の様子から、このユミルは間違いなく本物のユミルなんだと思った。なぜなら、私の知る限り。こんないたずらっ子みたいな行動を取る子は一人しかいないからだ。ユミアが本物だということが分かって。そのユムはというとユミルの言葉に反応して、ユミルの事を抱きしめる。その行動に驚いてユミルはすぐに離れた。ユミルがユムから離れようとするとユムは悲しそうな顔になる。

「あ、ごめんね。お兄ちゃんのことが好きだからついからかいたくなっちゃった」

そのユミルの発言を聞いて私は納得したのだ。ユミルにとってユムは、もう一人の大切な家族のような存在であり、そしてこの世界に来た理由でもあったからこそ。その言葉を聞いたユムはユミルの頭を撫でるとユミルを抱き寄せていたのである。ユミルは最初は戸惑っていたものの、それから大人しく抱きつかれるとユミルは涙を流し始めていた。そして私は二人が本当の姉妹であることを改めて確信したのである。そして私はユミルにお願いをするのであった。ユミルがここにいる間はユムと過ごす時間を作りたいということを。

「うん、いいよ」ユミアの願いを聞いたユミルはユミアに抱きつくとそのまま甘えるように泣き続けていた。そんなユミルの姿を見て私達は、ユミルとユムに気づかれないようにして静かにその場を後にしたのだった。それからしばらくしてユミアは私にあることを話してくれたのである。それは、自分がどうしてこの世界に現れたかということだった。その話を聞くと、その方法を聞いた時は驚きすぎて心臓の鼓動が止まってしまうのではないかと言うぐらいの衝撃を受けてしまったのである。

「あ、あのね。お姉ちゃんの話を聞いた時にね。お姉ちゃんの言う方法を聞いてね。私もそうじゃないかって思ったんだよ。そしてね。もしかしたらそうかもしれないっていう可能性があるの。それがね。魔王を生き返らせることが出来るんじゃないかな。その方法はね。ある場所に封印されている魔王を復活させればいいんだけど。その方法を私が持っているから。お姉ちゃんは心配することなんてないからね。お姉ちゃんは安心していてね」

それから、そのユミルが魔王の復活に必要なものが揃ったと言っていたけど。私はその方法がどうしても分からずユミアにも聞けなかったので困り果てていた。

それからしばらくするとユムが私の元に訪れて来てくれた。その時ユムはユミルがこの国に来ていた理由を語ってくれたのである。そのユミルはユミアに自分の力を分け与えてこの国に召喚されたのだった。それからこの国にきたばかりの頃に私と初めて会い。それから私にユミアのことを頼んで消えていったのだ。その話を聞いて私は胸が苦しくなったのだった。

そしてそのユミルの話には、もう一つ驚くべきことがあった。ユムは、実は女神だったということをユミルがこの国の王女であることとユミアとユムの母親がこの国の王妃であるということを聞かされた。そのことを聞いて、驚きを隠せなかったが。それならばと納得してしまった。なぜならユミルが言ったことは、その通りだったからなのだ。そして、それからしばらくの間。私とユミアはそのことについて相談していたのである。その結果、ユミルと会えない寂しさを紛らわすためユミアとユムの三人で暮らすことを決めたのであった。そしてユムはこの世界に残り、ユミと一緒に暮らすことになり。私は元の世界に戻ることを決意するのであった。それから私とユミアは元の世界に帰りたいと強く願うと。いつの間にか私はこの世界にやってきたときの場所へと戻ることができたのである。そして私は急いで家に戻り、その部屋に入ると。私は思わず叫んでしまうのであった。

そして、そこには。この世界では見慣れない服装をしたユミルが、そこにはいたのであった。「おかえり、ユミア。どうしたの?」私は、すぐに事情を説明すると。どうやら、この世界に来るときは必ずこちら側の服を身につけていなければならないという条件があったらしく、そのせいで。私はユミアが元々着ていたと思われる服を着ているのだった。だからこの服を脱いでから、この世界に戻れば、元の格好に変身できると言われて、早速やってみる。すると、本当にいつもの格好になれたのでホッとしたのだ。そして、ユミルに説明を受けた。その話を一通りの聞き終えてから。まず私は、これからの事を考える。私は、もう二度とユムとは会えなくなってしまうだろう。そう考えただけでも心に大きなダメージを負ってしまう。だがユミルの幸せのためにも、そして何よりユミルとユムのためにもこの世界を救わなければならないと思い立ち。この世界で生きることを決意した。だが、やはり寂しい思いは残る。だがそれでも私は前に進まなければならい。

「ねえ、ユミル?私はユミルのそばにいてもいいかな?」

「うーん、そうして貰えたら嬉しい」

私は嬉しかったのである。このユミルがユミアとユムの妹であると信じているからである。だからこそ、その妹を見捨てるような事は出来なかった。

だから私は、その日を境にこの世界に留まる事を決意するのだった。

それからユミアが言っていた魔王が復活するための魔法道具を集めるために旅を始めることに。

ユミルも付いてきてくれた。でも本当は、この世界を救うための旅なのに、ユミルと一緒なのは、私だけ。他の皆はそれぞれ違う世界を救うべく旅立つことになるのだが。私は、この世界の平和を守るために、私達の力でこの世界を守らなければならない。私はその覚悟を決めたのである。

そして私達は、ユムがいる世界に向かうことになったのだった。それから数日が経過し、ついにユミルは、自分の世界に戻って行くことになってしまう。

だが私はその事を素直に受け入れることが出来ず、泣いてしまいそうになったが。私は何とか我慢することに成功したのである。そしてユミルは私に、何かを手渡す。それは私が以前持っていたスマホという機械であった。「ユミは私の大切な人だから、これを預けておく」と言って渡してくれるが、私にその機能は全く分からないので困った。そんな様子を見たのかユミルが使い方を説明してくれて、それから、私の目の前から消える寸前まで、ずっと手を握りしめながら一緒に居てくれた。「ユミのこと。絶対に助けに行くから待っていてね」と最後に告げて、それから消えてしまうのだった。私はこの時ほど誰かのぬくもりを感じたことはなかったかもしれない。だってユム以外からはこんな感情になったことが無かったからだ。それだけこの世界にいるユミアは大切な存在である。だから私はその想いに応えたいと思うようになったのである。

ユミルがいなくなり。それから私はユムの傍にいるようになるのであった。私はそれからしばらくの間、ユミルとの約束を果たす為に行動を開始することにしたのだ。それからというもの。私はユマに頼み込み。魔法の訓練をしてもらう事にした。その時に言われたのが、適性のない属性もあると教えられ。その時私はある可能性を考えてみることにする。それはユミアは別の世界の出身であるということから考えると。おそらく私は全種類使えるはずなのである。なのでその確認をお願いする。

そして私が、火をイメージすると、なんと。私が考えていた通りに、小さな火を灯せることに成功する。私は喜びの声を上げるとユナが褒めてくれる。それから水や風の力を使うことにも成功する。

それから光や闇の力を使ってみるとどうにもうまくいかずに断念することにした。

そんなこんなを繰り返していくとユナも、ユミアも驚き、それから私の才能を認めて。ユミアは私の専属の教師としてついてくれて、毎日勉強に励むようにした。

そしてそれから数年の月日が流れてユミも十五歳になる。

そんな私はある日の夕食の時に、ある出来事が発生するのである。それは私の父であり。現国王のライナは、娘のユミアに対して婚約を結ぶという提案を持ち掛けてきたのだ。それに対して、最初は困惑しているユミラだったが、やがて私も結婚について真剣に相談をするべきだと思うようになって相談に乗ってあげることにしたのだ。そして最終的に私が選んだのは、ライナスではなく、その妹のライナと結婚させるのが良いのではないかと思ったのである。そしてそれから三年後ユム達が十八歳の時に、私は二人の仲を取り持つことに成功したのだ。それからさらに時は流れ。私はユミアの結婚式の日を迎え。無事に二人ともが式を終え、ユムも成人してから、ユミアと共に城に住むことを決断してくれたのだ。ユミアとユムが仲良くなってくれたおかげだと感謝をして。私はこの国で王妃になることが決まった。それからは忙しく過ごし、ようやく落ち着いた頃には二人目の子供が生まれようとしていた時である。そして、私は自分の体に異変が起きていることに気づき。慌てて医者を呼ぶが。もう手遅れだと言われてしまい。その事実を知ってしまった私は、ユミルのことを思うだけで、涙を流し続けるしか無かった。

だが、そんな中、突然ユムが現れて。私を抱きしめると同時に回復魔法を発動させると傷口が塞がり始めたのだ。ユミアも駆けつけるとすぐにユムと一緒に抱きついてくる。その光景を見て私は泣きながらも、ユミアのことをしっかりと受け止めていたのである。

その後ユムとユミアはすぐに姿を消してしまったが、それからすぐに、私はお腹の子供も出産することができたのだった。

それから私は生まれた子供を見ながら涙が止まらなかったのである。だがその赤ちゃんの髪の色は金髪だったのである。それを確認した私は驚きを隠せなかった。ユミアも私と同じく黒髪を受け継いでいなかった。その事から私はある推測を立てることができたのである。そして私はこの世界に来たときから、ある人物の言葉が頭から離れなくなっていた。ユムの母親から言われた一言、「私はこの子の味方だよ」という言葉を思い出して、この子が誰なのかを察してしまう。私はその答えが正しいのかどうか確かめるため、そして自分の子供を抱きしめて、その成長を見届けようと決めてこの世界で生きていくことを決意したのだった。

(完)

私はその日。この世界にやってきた。私はその時に、この世界の事を教えてもらうため。私を呼び出したこの国の王女だというユミアと対面することになる。そして私は、その少女があまりにも美しすぎたので驚いてしまい言葉を失ってしまう。それほど美しい女性なのである。しかもこのユミアという名前の少女と、ユミルと呼ばれる王女様の姉らしい人物は、瓜二つなのである。だがその容姿とは裏腹に内面はとても大人っぽい印象を受ける人物であった。そのユミルという女性の年齢は恐らくだが見た目通り十六歳ではないだろうと感じたのである。なぜならユミルから感じるオーラが年齢が十歳近く離れているような雰囲気だったからである。私は、ユミと呼ばれている。その王女から説明を受けることになるが、この世界に勇者として召喚されたのは良いものの、私以外の人たちには魔王を倒す能力はないらしく。結局のところ、元の世界に返すことはできないと言われたのだった。私はそれでも構わないと言い放ち元の世界に帰らせて欲しいと懇願したが聞き入れてもらえず。仕方なく私はこの世界で生きることを決意したのであった。それから数日間の間は、元の世界にいた頃の生活をしていた。というのもユミアから渡されたスマホが、こちらの世界でも使用可能でしたので私はそれを有効活用してみる事にする。どうやらその端末の中には写真を保存する事が可能になっているようで、早速写真を撮って見ようかと思い私はユムの写真を撮影した後に。この世界に戻ってくるのであった。すると私は驚く事になる。ユミアの傍にいつの間にかもう一人のユムが姿を現したのである。そのユイは私に向かって「あなたが新しい勇者?」と話し掛けてくる。そこで初めて私が呼び出された理由を理解することが出来た。

そして私とユイルはこの世界を救う為に、この国での生活が始まることになる。しかし私達は知らない。この世界には魔王が既に復活していて、今まさにその力が発動されている最中だということは、まだ知る余地がなかったのである。

ユミナとユミルから事情を聞き、私はこれからどうすればいいのか分からなくなっていました。そんな時です。

私のお父様に手紙が届きました。その内容はこの世界が危ないという事で、私にこの世界を守って欲しいと書いてあったのです。私はこの世界を守るためには一体何をすべきなのでしょうか?ユミルは私のためにこの世界を救うために協力してくれて、今はこの城の地下に幽閉されています。この城に地下があるとは思っていなかった私はユミルに尋ねてみると教えてくれます。ユミアもその事について知らなかったみたいで、ユミルから詳しく聞くことになりました。そしてその部屋に入ると一人の女性がユミルの前に姿を見せて言い放つのである。「ユミアは、私が連れていくわね」と、その言葉を聞いたユミルは必死に抵抗しようとするが、それも虚しく。そのままどこかへ消えてしまう。その様子を目の当たりにしたユマと私は、急いでその場所に向かおうとするが途中でユミンが私達の前に姿を現わすと「ここから先は通せないの」と言って立ちふさがってくる。

私は、ユミルがどこにいるのかを尋ねると「あの子は別の場所にいるよ。でも大丈夫、きっと帰ってくるから心配いらないからね」とユミに言われてしまう。そしてその瞬間。私の体は急に重くなり地面に倒れ伏すことになったのである。

それからユミアが消えてしまったことに悲しんで落ち込んでいた私は、ユナさんと一緒に食事を取っていた。ユナさんは本当に良くしてくれる優しい方なのだけれど。何故か最近。私が食事をする際には、いつも近くにいて見守ってくれるのだった。まるで誰かが来るのを待つように。私もそれにつられてユミルがいない寂しさを忘れるように過ごしていたのであった。そしてユナは突然立ち上がり扉の方へと向かって歩いて行くと、そこから二人の人間が入ってきた。それはユマさんとお母様のライナ様なのであった。ユナは嬉しそうにしているのである。私も少しだけ嬉しかった。だって久しぶりにユナさんの笑顔を見たからである。ユミルが居なくなった時から、彼女は笑うことが少なくなり、ずっと悲しい顔をしていました。私は何とかユミルを助ける方法がないのかユミアに聞いてみたが答えは見つからなかったのである。それから数日後。ユナは突然姿を消してしまい。それと同時にお城の雰囲気は変わってしまう。

そのせいで、皆は不安を抱え込むようになりユラが病に倒れたりなど色々なことが起こった。それからしばらく経ってユムは何かを決心するように、城を出て行こうとしていたので私はユムを止める為にユムを追いかける事にする。だが追いかけている途中。ある人物とすれ違うのだが私はそいつの顔を見ると驚愕してしまったのだ。それは私と同じ顔を持つ人物だった。しかもそれだけじゃない、私がこの世界に来た時の格好をしていて私がその服装を身に着けているのは偶然なのだろうかと思ったのである。そしてそれから数日が経ち、ユミルが無事に戻ってきたという報告を聞くことができ私は安堵したが、すぐに新たな問題が発生。なんと今度は、そのユムと瓜二つの少年が現れる。彼はユミアの弟であり、ユムの事を姉だと言い放った。そして、その弟はユナを連れていくと言い放ちその場から去ってしまう。それからというもの、このお城は、私にとって良くない出来事が次々と起こる。そしてついに私はユミアの前から姿を消す事になりました。

ユマが私の前に現れてから数日が経ったある日のこと。私は城の地下に連れてこられるとユミアは「ごめんなさい。私が弱いばっかりにこんな事になっちゃったのよね」と言われてしまい。私のせいでユミがさらわれてしまった事を知ることになる。

そしてそれからというと、ユムは城に戻って来ることはなく。この国は魔王軍に占領される寸前の状況になっていたのである。その事からユミアと私は魔王を倒すため旅に出ようと決めて旅立つ。だがその道中。私達に敵が襲ってきたのである。私はユミルがいなくなってしまったことを思い出して泣いてしまった。だが、そんなとき、ユミルが戻ってくると。

この世界を守るために一緒に戦おうと言うがユミルはなぜか戦うことができないと言い出し、私もユミルの力を借りずに一人で戦わなければならない。だけど私は怖くて仕方がなかった。そんな中で私は、ある人に助けられたおかげでどうにかこの窮地を脱出することに成功したのである。だがユミルはそのまま行方不明になってしまい。魔王の手下に捕まってしまったのだった。それからしばらくしてから、ユミアとユムとユミルが戻って来たが、ユミルは意識を失ってしまい。ユミアが魔王の所に向かうと言い放って魔王の元に向かっていった。私とユムはユミアを止めようとしたが止め切れずに、結局は見送ることになってしまう。

私はこの世界で一人きりになってしまって途方に暮れていたときに。突然ある少女から話しかけられたのである。その人物は、ユマと名乗ったその人は、どうやら魔王の仲間らしくて。この世界を救うために行動を起こしているらしい。

そしてユマからある話を聞かされる。実は私とそっくりの人間が現れていて、ユミという人がユマの姉らしいという話だった。ユミアの話によるとユミアのお腹にはユマとユムが宿っていてその子達は双子なんだという。だからなのか二人はユマをとても大事にしていてユマが魔王側についたことも、そしてユミルがユミアとユムをさらった犯人だという事を知ってユミアはその責任を取るために自分の命を差し出してユムだけでも助けて欲しいと言ったのである。だが私はユミアをそんなことで見捨てることはできなくて私は必死に止めるが、それでも諦めなかったのである。その結果。私はユミルに殺されそうになったが。そこで、私とユミアの体にユミが入ってきて。ユミルの攻撃は無効化されてしまう。ユミアとユミアは入れ替わったのである。そして私達の入れ替わりは元に戻ったが。その代償としてユミルは魔王側に寝返ってしまいユミアを殺そうとした。しかしそこでまた奇跡が起きる。私の体の中に再びあの時のように別の人間の魂が入ってきたのである。それを感じたユミルが私の中に入ったその人物を見て驚愕した表情を見せていたのだった。そしてその人物は、ユミと名を名乗ったのであった。ユマの姉の名前も、同じ漢字を使ってユと書いてミと読む名前なのでおそらく間違いはないと思う。それから私は、その人物と会話をしながら城に戻り事情を説明することにした。それから数日が経過した時にユミから衝撃の事実を聞かされる。

その日は珍しく、この世界にやって来たばかりのユミルから手紙が届くのだった。内容は、ユミナの事をよろしく頼むといった内容が書かれているのであった。

そしてその次の日から私はユムに剣術を教えることになったのである。ユミルは私が想像していた以上に飲み込みが良くて、あっという間に習得していくのである。その様子を見ながら私は思う。ユムのこの才能をこのまま放置してしまうといずれ大きな脅威となりえるだろうと、ユミルの将来を案じながらも。ユムに教えることをやめなかった。それから暫く時間が経過すると。この世界の未来は明るいものに変わっていき、この国の民たちは平和になったこの国で暮らすことに喜びを感じ始めるのである。だがその裏では魔王が復活しているとも知らずに過ごし続けていたのである。

それから月日が経ち、ユミナはユミルの体を乗っ取り始めていたのだった。だがその事は、私以外に誰も気付いていないようで、そのせいで私はユミナがユミルの体を奪う度に、この国の人々を守る為に何度もユミルと戦っていたのだった。それから私は、ある人物と再会を果たす事になる。

ユマの口から私達の世界が滅びかけていると聞いた時はショックが大きかった。なぜならその事が原因で私の大好きな家族達が危険な目に遭う可能性があるからだ。それに、もしその話を聞かなければユミルを救えたかもしれない。その事も関係していて。私は今更後悔をするようになっていた。そんな事を考えている私にユマは、「あなたなら、大丈夫よ。ユミンには特別な力が備わっているんだから、それにあなたがここに居ればきっとあなたの家族の人も救われるはずだよ」と言われてしまう。そういわれると少しだけ気が楽になるが、でも本当に大丈夫なんだろうかと思ってしまった。だけど、この世界を救うためだと、自分を奮い立たせて、魔王の所に向かったのである。

私はこれからユムと一緒に魔王の元に行くことになったのだが。この世界を救う為に私とユムはこの先どんな運命を背負うのかまだ知らないのである。この先に何があるのかを、そして私達はこの世界を守るためにある組織に入り活動する事になったのだが、この組織は表向きには存在しておらず、裏で活動するのがこの組織のやり方であり仕事だった。その組織に入るためには特殊な試験に合格しなければいけないのだが、その試験というのがこの世界でも珍しいとされる『魔法適正テスト』なのである。その試験の内容は、私がこの世界で生きてきた中でも、最も難易度の高い問題が出されてその問題を正解すれば合格するというものだったのである。しかもこの試験の筆記試験の問題を全て間違えると失格というルールがあり私はその問題に全て答えることができた。

ユミの体を借りていた頃の私ならば絶対に解けないような問題ばかりで、このテストは私にとってかなりの苦痛だったのは言うまでもない事だろう。この世界で生きていた頃に私がこの世界に来た時のことを私は思い出すことになる。そしてユミの記憶の中からこの世界を救いたいという強い思いを知った私は、この世界で生きてみようと考えるようになる。だが、私がそう決意しても、私は自分がこの世界で生きていけるかどうか自信がなく不安に思っていたのだが、そんなときにこの城を訪れた人物によって私は救われたのだった。その人物はこの城の王子だったのだが。彼は、私と話すなりこの世界を救う旅についてきてくれないかと頼まれてしまった。私としては断れるわけもなく私はその申し出を受けることにし。この城を去ることになったのである。だが、この世界を救うためにはどうしても私の助けが必要だったようで、彼は私がこの世界を離れないように様々な手段で私を引き留めようとする。私はどうにか振り切りこの城を出ていくことに成功するが。その後私は、ユマと会い一緒に旅をすることになったのである。

だが、その途中で私達はとんでもない事件に巻き込まれてしまいユミルは私を守るために命を落としてしまう。その出来事をきっかけに私はこの世界に残ってもいいんじゃないかと思い始めたのである。だがユミルは私にこの世界を託すと言言い残すと息絶えてしまい私は悲しむ暇もなかったのだった。その出来事があってからは私は、私を助けてくれた人に、ユマと名乗る人物から受け取った手紙を手渡して私はユムと共にユムの姉がいるという場所に向かうことにしたのである。その旅路の途中で、この世界は実は滅亡の危機に瀕していることを知った。だがその事実は一部の人間しか知り得ない情報であり、ほとんどの人間はその事実を知らなかったのである。私はその真実をユムに話すと、最初は驚いていたが私を信じて着いてきてくれると言った。

だがこの話はあまりにも非現実的な内容だったので信じてもらえないだろうと思っていたが、それでも私を信じてユムがついてくると言ったときは、とても嬉しかったのである。私はそれからこの国で起きた事件をユマに聞くと、それはユミルから聞いていた魔王の悪事が引き金になって起こった事件だったのである。それを聞いたとき私とユマは同じ名前の同一人物だと確信し、私達はユミルが目指した魔王を倒しに行きたいと願っていた。しかし魔王の元に向かう為に必要なある物を魔王側が独占しており。私達にはその入手が不可能だった。そのある物を手に入れるための旅の途上で出会ったのが。ユミルの双子の姉を名乗る人物だったのである。そしてユムは姉のユミからユムの姉がユミであるということを聞かされたのだ。ユミルの姉からこの世界を救う方法を教えられたが、ユムはそれを信用することができなかったが。ユミアはその言葉に耳を傾ける価値があると言い、私はそのユマの話を聞きユムにユマの言葉を伝えようと決めるのだった。

その日は珍しく、私の元に、魔王側の人間から手紙が届くのであった。その手紙の内容に目を疑ってしまう。なぜならそこには、この国の王女とユムの命と引き換えに魔王が欲していた物が手に入ると書かれていたからだ。その事に私は怒りを覚えながらも私はどうしたらいいかわからなくなっていた。ユムはユミアから手紙を受け取るとその内容が事実なのかどうか確かめるように尋ねるが。私はそんなことは無いと断言するが。そんな時にユムは私とユムの体が入れ替わってしまうという事が起きるのである。

そして私は魔王を倒す為にユミアと戦う事になり。その事が原因でユミルは私の命を狙い襲ってくる。その事が私にとってはショックだったが、それでも私は諦めずに立ち向かっていったのである。そのおかげでなんとか勝てたと思ったのだが私はその隙をつかれてユミアに攻撃されて倒れてしまったのである。そして私はそこで意識を失ってしまう。そしてその次に目が覚めたときには私の姿はユミではなくユマになっていたのだった。そして、そこで初めてこの体の本当の持ち主に会うことになり、そこで私は、この世界にやって来た経緯を聞かされたのであった。

だがそこでユミアが現れたことで、私はユミアが私の体を奪おうとしていることを知るのであった。ユマがユミルとユムの姉妹だということもユミがこの世界に居たことで知ることが出来ていたが、まさかユミアが私の妹だったとは驚きの連続でしかなかった。しかし今はこの世界で起きている事件を解決しなければならないとユミルは言ったが。ユミアも私の体を奪って、この世界の問題を解決しようとしていて。私はどちらが本当の目的なのか分からずに戸惑うが。ユミに体を返して欲しいと言われ。私としてもそのほうがいいかもしれないと思い始めるが、ここでユミアがユミナを殺そうとしてくるのである。それを見て私はユミの体を返すことはやめて、ユミは私がこの体を守ることを決意する。だがこのままではいずれユムの体力のほうが尽きてしまいユミルが勝利するのは時間の問題だとユマから言われる。だけど私にもこの世界で得た大切な人を守る力があることを、ユムに見せてあげたいと思って私は自分の力を開放することにする。そして、私はユミルに攻撃を仕掛けて戦いを始めた。そして私達の実力は互角で私達姉妹の攻防が続く中、私はユムの力を借りて魔王側に寝返ったユマと戦うことになってしまった。だが、ユミアが魔王側の手先に堕ちたことを聞いてユムがユミアと戦おうとしたときに。その隙をついたユミナはユムと入れ替わろうとするがそれを察知していたユムは、咄嵯に入れ替わることをやめて。再び元通りになることを防ぐことができたのである。それから私はユナ達と連絡を取るために一度ユミ達から離れていった。

ユナは私がいなくなった後にユマが私の体を奪いに来ないか警戒をしていたがユマはそんな素振りを見せなかったのである。ユミにそのことを尋ねても分からないという答えが帰ってきただけだった。そして私は、ユムのところに戻ると私の正体を知ることになるが。私もそのことについてはまだ話すつもりはないので何も言わなかったが。その事で少し揉めてしまうのである。だがユイはそんな私に優しく接してくれたので少しだけ気持ちが軽くなった。ユムのことも少しだけ理解し始めてきて、ユムにはユムの考えがあると分かり始めて、これからの戦いに備えるように私は指示を出す。

そして、私はこの世界でユムにこの世界での事を詳しく聞くことにするとユミから聞いた話が事実だったと知らされて私は愕然とするのであった。私はどうしてこんなことが起きているのかユムに尋ねたが。それは魔王側の計画であり、その計画は今この世界を救うのに必要なものだと聞いて私は納得したが。私はこの世界を救うという事に関してあまり賛成ではなかった。だがこの世界で起きてしまっている問題を解決しなければ世界は救われないというのであれば仕方ないと割り切ることにして。私はその話を受け入れてユミアとの戦いに備えるのだった。だがその時は意外に早く訪れて。私達はその事態に戸惑いながら対処することになったのである。

俺はライナが俺の目の前から姿を消したあと俺はその男が誰だったかを思い出そうと必死になったが思い出すことが出来なかった。ただあの男を見たときに感じた悪寒は何なのだろうかと疑問に思ったのだが結局その答えを導き出すことができなかった。それにあのとき、なぜ俺があんなにあいつを憎んだ感情になったのかわからなかったので、本当に謎だったのである。

まぁその答えは後々分かることになるだろうと、この時の俺は思っていたのだが、その出来事がきっかけでこの世界が滅びようとしているなんて全く想像できなかったのである。だがその出来事はほんの序章に過ぎず、この世界の崩壊へと繋がって行くきっかけになるとは今の俺は全く思いもしないだろう。

それから、その男はリーザと一緒に行動しているらしいので俺は彼女と共に行動をするべく、まずはライナが言っていた通りに城の見取り図を確認して必要な物がある部屋の位置を把握してそこに向かい、目的の品を入手することに成功した。

「ねぇあなたの名前は?」

その女性は俺にそう質問をするが。俺がその言葉に返答する前に、彼女は自分の名前をリーゼと名乗ると。その後にリーゼロッテという名前が本名であることを告げると続けてこう言ってきたのである。

(私の名前を教えましたからあなたの名前も教えてくださいね)

(そうだな俺の本名はレオという)

その名前を聞いた瞬間なぜか懐かしく感じるが。それが何のせいなのかは未だによくわからなかった。その後俺たちは協力してユミルを助け出し。ユミルからユマの事を聞かされるとユマから、自分が本物の妹であると聞かされて俺は驚いていた。そしてこの城での出来事は、全てこの国に伝わる昔話と似ていた。しかしユマから聞かされた話では、ユマは昔この城に住んでいたということだが。一体どう言うことだとユマに尋ねるが。その答えは、どうやら俺がユムからユマの体を奪おうとしたときにその入れ替わりを妨害しようとしたのはユミナという女の子だったようだ。そのユミナと言う子はこの国の姫だったとユマに教えられるが。その事は初耳だったのだ。その事が事実ならば、この城に書かれている物語の内容は全て本当の事ということになるが、そんな馬鹿なことがあるはずがないと思っていた。そしてユイから魔王を倒す方法を聞いたので。ユマにその話を聞かせようとするがユマは聞きたがらないような態度をとるので仕方なく。ユムを代わりに連れて行くことにしたのである。その話を聞いた時俺は、さっきからユマに抱いていた違和感の理由をここでようやく理解できたのであった。

その話はまるで御伽噺みたいな話だが。この世界では実際に起きている事だったのだ。その話は俺達がユミアから聞かされたものと同じだった。ユミアから聞いていた話から察するとユマは俺達とはまた違った方法でこの世界にやって来て魔王を倒しに向かった。

だが、その途中でこの世界を救うためにこの国にやってきた魔王の部下に襲われて命を落とすが。この世界の王女であったミーナの体に魂が入り込み、その時に記憶を失いこの世界の王として生まれ変わったという話だ。その話で俺はなんとなくこの世界で起こっている事に納得したのと同時にユマの身に何かが起きているということだけは間違いないことだろうと思うのである。その事をユムに話したら信じてくれたので、俺達は早速ユマが向かった場所に案内してもらう。そしてその道中ユミから貰った剣を使うが、これはかなりの業物のようで、普通の人間が使うと体がついていけずに死ぬ恐れがあると言われていたのである。そんなものを俺は使ってしまったのだと思うと。ユムの体に異変が起きないかどうか心配になり、そんな事を考えていると。どうやらその場所にたどり着いたようである。

「ここは?」

そこは、俺も知らない場所だったが。ユミアはその場所のことをよく知っていた。なんでもここはかつて勇者の一行と魔王が激しい戦いを繰り広げたと言われている場所で、今は立ち入り禁止になっているらしく。その戦いの際に多くの犠牲者が出ており、この場では今も、時折この世界を脅かす魔物が出現することもある危険なところなので立ち入ることを禁止するためにある石碑が置かれており、そこにはその時代の英雄の名が刻まれているのだという。

だがこの場を放置しておくわけにも行かないので再び封印することを決めたようだった。そこでその儀式を行うために、ユミアはこの部屋にやってきて準備を始めたのである。そしてユミアはその準備を終えると呪文を唱えて部屋の中央に置かれていた水晶が光を放つと部屋が揺れて床が崩れ始めた。それを見た俺はこの場で一体何をするつもりなのかユムに問いただしたところ、ユミアの話だとこの下にはかつてこの国が栄えていた時の地下神殿があり。そこに眠る秘宝を手に入れることでこの国に平和をもたらすことが出来ると言われた。その秘宝とはどんなものかをユミアに尋ねるがわからないという返事が返ってくるが。俺の頭に突然この城が滅びたときの映像が流れるが。この光景に心当たりがある俺は、もしかするとこの先にはユマが待っているのではないかと予想した。その予感が当たっているのか確かめるためにユムをこの場に残し。俺一人でその地下に降りることにし。俺は階段を駆け下りるのだった。

そしてしばらくすると巨大な魔法陣のようなものが現れると突如そこから怪物が現れて、その怪物を見て、俺の記憶が蘇り始めると俺はすぐに理解することができたのである。

その姿を一目見た時から俺は奴があの男であることを直感で気づいてしまった。その男は全身を黒の衣装で身を包み、その手に持っている大鎌は血に塗れていてその瞳に生気を感じられなかったが。その眼差しからは、どこか狂気じみたものがあるように見えていた。だがそれだけならただの不気味な存在にしか過ぎず俺の目の前に現れたとしても俺にとってはさほどの脅威にはならないはずだったが。俺の体は無意識のうちに警戒態勢を取り始めていたのである。俺にとってその男は危険だという意識が働いたのである。その男はユイを見ると一瞬笑みを浮かべた後に、ゆっくりと口を開くとユイに話しかけてきたのだった。

その男の発する言葉を聞く限り明らかに友好的な人物には見えないと俺も思っていた。だからユイを守るために前に出るが俺の行動を見たその男は何故か楽しげな様子でユムのことを見つめるとユムに視線を移すといきなり笑い出したのだ。

(クフハハッ!!こんなところにまで追っ手を差し向けてくるなんてな!まぁ想定内ではあるがやはりあいつが生きているのはまずいか)

俺もその言葉に少し疑問を持った。ユムがあの男の知り合いだということは俺にはわかったがユイとユミの反応を見る限りではあまり良い関係ではないようだ。

「ユミアちゃん?一体誰なのこの人?」

「彼はユズノ様のお父上に当たる御方です」

その名前を聞いてユム達は驚いたが。俺だけはユマの父親であるということを聞かされても特に驚きもしなかったのである。ユムは、俺達の反応を見ながらその男にどういうことなのか説明を求めていたが、俺が知っていることは一つだけだった。

「こいつが、この世界を滅ぼそうとしている元凶の魔王だよ。そしてお前は騙されているんだ」

俺はそういうとユミアとリリアの方を向いて俺がこれからすることを話すとユミアとリリアは納得したがユムだけが納得していなかったので、まずはユミアと俺だけで魔王に戦いを挑もうとした時にユマの声が聞こえたのでそちらの方向を向いた瞬間に魔王の気配が完全に消え去っていたのである。その現象にユム達は動揺していた。俺とユマが入れ替わるときは俺の意識は完全に途絶えてしまうが、どうやら今回は違うようだ。

(俺がこの体を使っている間はユマは眠ったままか)

俺はユマと入れ替わると、俺はすぐさまユミア達に俺がユマであるということを告げると二人は戸惑いながらも納得してくれた。そして俺はすぐにユイに抱き着くと俺は今までに体験したことを話し始めると。ユイの方は最初は信じられないような態度だったが俺が真剣な表情をしていることから信じるしかなかったようである。俺とユマは、その後、ユマを安全な場所に避難させるべく移動を始める。

(まずはこの国をどうにかしないとな)

俺の目的は魔王と会話して和解をするというものだったがまずはユマを安全に保護する必要があると考えていたのだ。それにはまずは俺の正体を隠し通す必要がある。

(俺のことを知っている連中からユマを守らないとな)

そのあともユイからいろいろと質問を受けることになるが。ユミアとリリアはユナの事を心配して早く戻りたいと俺に言ってきていたが。ユマをこのままにしておく訳にもいかないと思った俺は。ユイを連れて一旦、俺が暮らしている屋敷に戻ることを提案することにした。そして、その後俺は城に戻って事情を説明するが城の人々は俺の話を全く聞こうとせず。それどころか城の外に出ることを禁止された上にユムの捜索隊に参加させられるという事になり。結局城から抜け出すことが不可能な状態になったので。俺達は諦めるほかなかったが。その時のユマの様子はかなり落ち込んでいたので、俺がユムである事を教えるべきかと悩んでいたのである。そのせいかユムは時々俺に対して不安げに目を潤ませながら助けを求めるような目線を向けてきていた。

俺はそれをなるべく無視しようと頑張っていたのだが。俺もかなり辛くなってきていてユマを安心させようと声をかけようとしたとき。俺達の周りに結界が出現して。何者かに捕まってしまうとそのまま強制的に転移させられたのである。俺は何が起きたのか分からずに周囲を見渡すが。そこは先程俺達がいた城ではなく別の場所で俺は一体何が起こったのか確認するために周りを見渡してみるとそこには、なぜか俺の配下であるはずの魔物達が大量に俺を取り囲むように待ち構えていて。俺のことを拘束すると無理やり歩かせて何処かに連れ出していくのだった。

俺は一体自分が今何をしているのかわからず。ただ俺はこの国を滅ぼすつもりでここに来ていることだけは間違いないので、その事は覚悟を決めておいた方が良いだろう。俺がそんな事を考えていた時だった。

「ようやく会えたわね。私の可愛いお人形さん。私が貴女の母親だって事を理解してくれていたかしら?」

「あんたがユマの母か?俺は確かにあんたにそっくりなユマって娘を保護しているぞ。それとも、あの娘の母親は別にいるということか?まさかとは思うが。そいつがユマの父だと言うんじゃないだろうな?」

「そのまさかよ。私はあの人の事が大好き。愛してるといってもいいかもしれない。でもね。残念だけどあなたがユマと一緒にいるっていうのなら、ユマを殺すつもりだからそこだけ勘違いしないでほしいのよね。さて、私の娘と遊んでくれるのかしら?」

俺はそんな言葉を平然と口にする目の前の女に対して不快感を覚えた。だが今はそんなことを考えている余裕はないと思い直し、ユムの体に憑依した状態なので今はとりあえず魔王としての役割を果たすことにするのだった。俺はこの国の姫の肉体を利用して行動を開始した。まずはこの国を支配しようとしているこの魔王と呼ばれる女の事を少しでも調べるために情報収集を始めたのである。そしてその情報を得るために俺は自分の配下の魔物達に話しかける

「まずは、この国に眠ると言われている宝玉の場所を教えてもらおうか。そしてその使い方も知りたい」

俺がそういうと魔王と呼ばれているその人物は笑みを浮かべて。その宝玉がある部屋への案内をすると。その案内役を任せた部下にそう命令を出した。

俺はその女性の後をついていくと。俺と女性がたどり着いたのは地下牢のようだった。

そして俺は女性の後に続くように歩き出すと。どうやら女性はここに閉じ込められていたようで、この部屋の鍵を開けるために持っていた鍵を取り出すと。俺は、この部屋の奥にその宝玉があると言われたが。この部屋に入ったときにその宝玉と思われる物を見て驚いたのだった。それは水晶のようなものでその中に何かが入っていたのである。

「おい!あの水晶の中に人影が見えるけどあれはなんだ!?」

俺はその水晶の中にある人の姿を見ると、あの男が水晶の中で眠っているのだとすぐにわかったので、なぜあそこにユムがいるのかわからないので俺は魔王に問い詰めるが、魔王はそれについて話す気がないらしく俺は少しの間沈黙すると魔王に話しかける

「もしかしてお前の望みはその男の開放なんじゃないか?」

俺の言葉を聞いたその魔王と名乗る者は嬉しそうな表情をしながらその通りだと答えると。俺はこの男と話がしたくなり魔王と取引を行うことにしたのである。だが魔王が要求してきた内容は予想外で。この城に住んでいる人達を解放してもらえる代わりにこの男の開放とこの国の支配権を渡して欲しいと言い出したので。俺はこの男の目的がわかってきた。

俺はその男の要求を受け入れた。

そしてその魔王を名乗る者の名前を俺も聞くと。俺の予想は当たった。

俺の目の前に現れた魔王を名乗った男は俺がこの世界に来る直前に殺した男の妹だということがわかり、そしてその男こそがユイの父親がこの世界で生きていたときの本名だということが判明したのである。そして、ユイの父親だということがわかった俺は、この場で殺すことも考えたが、ユイの父親と俺の間に血縁関係があるため。できればこの場で殺さないほうが無難だという判断をして俺はその人物を解放すると約束するのだった。

魔王と名乗った少女の本当の名前はクロエで。俺と彼女は握手を交わすと、彼女には少しの間ここで休んでもらい。その間にこの城を制圧することにしたのである。そして彼女が落ち着いた頃を見計らい俺と二人でこの国の支配を開始することに決めるのであった。まずは俺の部下たちに命じて城の兵士たちを倒すと俺達は城の最上階を目指すことにした。そしてこの国を乗っ取るための作戦を実行する。

「クロナ、この城の地図を俺の脳内に直接流せるか?」

俺がそういうとクロナは、俺の考えにすぐ気がついて、城内に仕込んでいるカメラの映像が俺の目を通して見えるようにする魔法を使ってくれたのである。

俺はその映像を見ながら最短距離を通って一気に最上階にまで移動しようとした時に、俺達のことを妨害するかのように立ちふさがった人物が一人現れる。その姿を見た瞬間にクロナは動揺してしまいその相手に対して警戒するように戦闘態勢を取ったのだ。

(こいつは俺のことを魔王として認識していやがるな。それじゃあここはあいつに頑張ってもらうしかないな)

俺はユムと入れ替わっている時は戦うことは出来ないので、今回はユマに変わってもらっていた。俺達はユム達を守るためにこの城に残ることを決めており、そしてユムには俺のサポートをしてもらうことになっている。俺は俺の代わりにこの場に来てくれたもう一人の人物に任せるとその場を離れたのである。

俺は、まず最初に城の兵士を倒し始めると。俺の体の中にユイが入り込んできてくれて。そして俺はそのまま城の中を進みながら敵兵を蹴散らしながら最上階の王座の間に向かうとそこには二人の男女が待ち構えていたのである。その二人はおそらくこの国の支配者でありユマの父と母であろう二人にユムと俺は挨拶をしたのだが。二人はいきなり襲いかかってきて。そして俺は魔王の力を解放したユマにあっさり負けてしまうのである。俺も一応は勇者の力が宿っているはずなのにユムの強さは異常であると感じていたのだ。

それからしばらくして俺達がこの城を支配していたがユマとユムは俺に頼みたいことがあると言ってきたので。俺の返事を待っているようなので、そのお願いを俺は了承するのだった。そしてその話の内容というのはユイのことについてだった。俺はユマがユイのことを助けたのになぜかユイの居場所を教えない理由を聞いていると、その答えはとても信じられないものだったのである。

(このユイって娘の父親は俺がこの世界に連れてこられる原因を作った本人だったなんて、それを知ってたらこんな馬鹿な事を引き受けなかっただろうにな)

そんな事を考えているうちに、俺はこの世界に俺が呼ばれた本当の目的を知ることになる。俺は、その真相を聞くと驚きを隠せない状況になり、この城にいる魔物達の正体は元から人間ではなく魔族だったというのだから驚きである。俺は、このユマという娘にこの世界の事を教える必要があると判断し。俺の仲間のリリアという娘に俺達の正体をユムとユムの母に教えてもらうように指示を出してユマ達と一緒に行動させることにしたのである。ユマ達もいろいろと混乱していたようだが。俺が説明をするよりも自分で見た方が早いと思ってあえて説明しなかったのである。

俺はこれから俺達が置かれている状況を整理するために。ユマ達にも協力してもらうために。俺はこの国を支配することを一時的に放棄して。仲間達を連れて一旦外に出ることにしたのである。

だが外に出るのと同時に、先程倒したはずの魔王が復活していて。その魔王とユミア達が戦い始めていたのである。その魔王と戦うユラを見て俺はなぜか懐かしく思いながらその様子を見ていた。すると魔王がこちらに向かって攻撃を仕掛けてきたが、俺はなんとかその攻撃をかわすと、俺は剣を抜いて構えたのである。すると魔王は自分の攻撃を防いだ相手に驚いた顔をしていたが、なぜか俺の事を覚えているようだったので俺はその理由を訪ねてみた。

俺がなぜ自分の事を知っているのか聞くと。その魔王がなぜか泣き出してしまうが。それでも魔王が泣く意味がわからなかったのでもう一度俺は尋ねると、今度は魔王の奴が俺を睨みつけるように見てきたので。俺もなぜか魔王を殴りたい衝動に駆られたのでそのまま俺は魔王の顔面を殴ろうとしたらその腕を何者かに止められてしまった。

その正体は魔王の側近の男であり、そいつは魔王に危害を加えるつもりなら自分が黙っていないといいだしたので、俺も仕方なくこの国の支配を放棄することを告げると。その男の名前はザッドと言い、俺はその名前を聞いた瞬間、その男にユイが連れていかれた時の記憶が蘇り、そして、俺の記憶はそこで途切れたのだった。

ザッドと魔王の言い争いが始まろうとしているとき、俺は目を覚ましたが目の前にいた魔王の顔が目の前にあって。俺は驚いたがそのまま俺は再び気絶したのであった。

次に目が覚めたときには俺の周りには仲間達の顔があり。俺が目を覚ますとみんなで喜び合う中、ライナだけは俺を見て心配そうにしてくれたことに嬉しく感じたが、そんな事をしている暇はなく俺はこの世界に来た経緯を話し始めると、どうやら俺がここに来たことで本来のシナリオが変わったことが確認できて。俺が魔王の肉体に憑依してしまったことや。そのせいで俺と俺の家族が巻き込まれてしまったことに俺は申し訳なく思っていた。

俺が自分の気持ちを話すと仲間たちは励ましてくれるのだが、俺は今回の事件を引き起こした犯人が俺だということがバレないように行動する必要があると思いながら魔王城を出ていこうとするが。魔王が一緒に来ないかと言い出して俺はそれを断り城に戻るように促したが。どうやら魔王はこの国にはまだ自分の部下が残っていると言い張っていて、そして、その配下達はまだ生きていると言い出したので。その言葉を信用することにした。

そのあと俺達は城の外に残っていた兵士たちを倒していくと、俺達の存在に気づいた兵士が現れ、俺達はユイが閉じ込められていると思われる場所に移動すると。ユムとユミの姉妹が俺達に協力してくれていたのだ。そして俺がなぜユマのことを助けてくれたのかを訪ねると、ユイの母親の妹が魔王の娘らしくて。そして魔王が復活する時に魔王の呪いが解けてしまい。そして魔王の復活を阻止するためにこの国に残っているということを聞かされた。そしてその妹を助けるためにも俺達に協力してもらってもいいかという話を持ちかけられることになる。だが魔王城に行くのには時間がかかるし俺の体が持たないので俺が代わりに魔王として城に乗り込むことになると、クロナは納得しかねるような表情を浮かべるが俺はクロナに後を任せると魔王城に単独で乗り込んだのである。

俺は城に入るとそこには魔王の部下であるダークエルフと吸血鬼がいて。俺を見るなり襲いかかってきたが。俺が本気を出さない限りその者達では俺は殺せないので。その力を見せて俺の力を分からせると、なぜかこの二人には恐怖を感じているみたいで怯えていたのでとりあえずこの城にあるユム達がいる部屋まで移動するとユム達はすでに捕まっているようで、そして魔王の手先にもユム達を襲わせない様に俺は監視することにしたのである。俺は、その魔王の部下にユム達を解放する条件を出すと魔王の部下はその条件でいいと答えるので、俺はすぐにでもこの国を支配しようとしている魔王の部下たちを片付けると、俺はクロカ達のところに戻っていくと。ユムが俺のことをずっと気にかけているようで俺はユムが無事に帰ってきたと喜ぶとクロナがユイのことを抱きしめるのだった。

そしてユムとクロナの話によるとユマも無事なことがわかり。ユムとクロナ達は、今この場で話し合っている内容は、俺に内緒にしておいてほしいと言ってきたのだ。そして俺はその話し合いが終わった後に俺は一度家に帰ることにするとクロナとリリアにクロナは俺と一緒に来てもらってリリアとクロナはユイ達の面倒を見てほしいというと俺は城を出たのだった。俺は、この世界から帰る前にクロナはユム達と別れたくないと言ってくれたが。俺はまた会えるというとクロナは笑顔になり、その言葉に安心していた。

俺は、クロナに見送られながら、この世界を去っていくのだった。

そして俺は元の世界に戻った後にユノやアリシア達の事を心配するのだが。それは俺にとっては嬉しい誤算で。なぜかこの世界での出来事が夢では無かったかのようにユム達が存在していたのだ。そして俺はユムとユム達と再会した時のことを思い出しながら俺は自分の部屋に戻ろうとするとユム達が俺の家に訪問してくるが。俺はこの家で俺達が住んでいた時のことを思い出して俺はこの家の掃除をしてくれるようにお願いすると。ユム達は快く了承してくれたのである。

そしてこの世界で過ごした日々を思い出させるユムの作った料理を食べて俺は懐かしく思うのだが、ユイのことも気になったので俺はまずはユイを探すとそこにはこの世界に飛ばされた原因となったユムと俺の娘であるユナが二人で楽しそうに話をしていたのである。俺は二人の様子を見ていると二人は俺に気付いた様子だったが。俺の体から魔族の姿になっていた為か二人は驚いてしまい俺に襲いかかってくるが俺は二人の攻撃を軽くかわすと、俺が二人のことを叱りつけたのである。二人はその言葉で大人しく言うことを聞くようになるが、俺は二人のことが可愛いかったので頭を撫でると。二人は少し照れていたのである。

そして俺はユナを抱きしめると、そのユナの様子にユイは驚き俺から離れようと抵抗を始める。俺はこの娘をこのまま放っておけば俺がこの世界に来てしまった時と同じようにユイもこの世界に閉じ込められたままになりそうだと思い、どうにかしてユイとユイの母親を助けたいとおもい。俺は俺の家に住んでいるみんなと話をすることになって俺の部屋で会議を開くことになる。そして俺とアリシアはみんなに事情を説明するとユイのお母さんがこの世界に囚われていることをみんなに話すとみんなは心配する。だが俺も俺の妻であるアリスにも同じ状況になりかけたことがあると伝えると、この世界にきて最初に助けてくれたのが魔王で、魔王は今は亡き妻に似ている女性にとても執着していて、魔王の封印を解いた者が、魔王が復活しても倒されなければその女性は元に戻るらしいという情報をユムとユムから教えてもらったのだと説明すると、リリアだけは俺がなぜその魔王をそこまで恐れてこの世界の人々を護ろうと思ったのが理解できないような表情を浮かべていたので俺は俺達夫婦がこの世界に連れてこられるきっかけを作ったのがその魔王であることを伝えると、リリアは俺のその魔王に対する憎悪の念に気づく。そして俺達とユイは魔王と戦うために特訓を開始したのである。

俺はそのあとユムとユナと三人で一緒に風呂に入りながらこれから魔王と戦いに行くための準備をすることに決めたのである。するとその時突然俺の中に俺の体に憑依していた魔王の声が聞こえてきたのであった。

「私は君に復讐をするつもりでこの体をのっとったわけではない。それに君の家族や恋人は全員私の力で保護しておいたから大丈夫だ」

俺はその言葉を聞いて。俺の中にあった魔王の呪いが消えてなくなる感覚に戸惑いを隠せなかったのである。俺は俺がなぜ魔王の力に屈服しなかったのかが不思議で仕方がなかった。

魔王に俺がなぜ屈従しなかったのかを尋ねてみると、魔王が言っていたように俺の家族や恋人は無事だった。俺の家族はこの世界にやってきているはずなのに、俺が目を覚ました時には俺以外誰もいないことに違和感を感じていたのだが。俺以外の誰かがここに来た形跡はなかったのである。だから、ユイの家族や、俺の恋人だった人たちに魔王が手を出していなくて本当に良かったと。俺は心の底からホッとしたのであった。

(それならば魔王はどうしてあの時に俺に俺の家族を殺すように指示したんだ?あれは一体なんだったんだろうか?)

俺はそのことについて考えているが、俺の考えは一向にまとまらず。そして魔王はなぜかこの国の支配を放棄してしまうが。俺もその理由がわからず困惑しているのであった。だがそのあと、俺とクロナにリリア達はこの国の王としてこの国を支配し続けるために行動し始める。

それから俺達は、魔王の城に乗り込む準備を始めていて、俺が魔王と対面したときに俺の意識が無くならないために、俺の代わりに戦ってくれそうな人材を集めることにした。俺がこの世界にやってきたときに俺に戦いを挑んできた男も俺が連れてきたが、どうもそいつには覇気がないので俺の配下になることに渋っているようだったので俺のスキルを使うと、あっさりと魔王のところまで来てくれた。その男の種族はもともと人間のはずだったのだが。この世界では魔物になってしまったようだ。

その男が言うには人間を自分の思いのままに変えれるというとんでもない能力を俺の持っているらしく、それで俺をこの魔王城まで送らせることができたと言っていた。俺はこの男を部下にして。この魔王城まで連れてくると、早速魔王に面会するために魔王の元へと向かうと。そこには俺の予想とは違い、すでに魔王の姿があり俺を見てニヤついていたのである。俺は魔王と相対し。俺はユムとユムの母を救うためにこの国を支配すると宣言したのである。

そしてそのあとに俺は魔王の配下の者を次々と殺していって、そのたびに魔王の表情が変化していき魔王は自分の仲間達が殺されていく様を黙ってみていることしかできず。俺はそのまま魔王を殺さないで城を出ていきユム達のもとに向かうのだった。

そして俺は魔王の側近だった男とユムの母親と会うためにその二人が捕まっている場所に足を運ぶと。そこにはすでに二人の人質がいるだけで、他に人の気配が感じられなかったので、俺は二人に声をかけると。俺は二人から、なぜ俺のことを助けてくれたのかを訪ねるが。

その女はその質問に対して答えることはせず。その女と話をしているうちに俺のことをこの国から逃がすと言い出したのだ。俺は、俺がここにきた理由は魔王を倒して俺と俺の大事な人を救う事だと話すと、魔王の居場所を知っているのか尋ねるが。その女はその質問にも答えなかった。そして俺はその女を信じることはできないと思い。その女の目の前で俺のステータスを見せ。俺は本気で戦うというと。その女の口から出てきたのは魔王を倒すという目標がこの世界にとってどれだけ大切なことなのかを話し始め。その女は俺にユイの母親の本当の名前はユリナと言うのだが、ユリナさんの母親をこの世界に召喚してしまったことを謝るのだが。俺はユム達のことを助けたので許すが。

この世界を支配できるのなら支配してみたいと思ってしまっていたのである。俺は魔王に勝てるかどうかわからないのにそんなことを考えるなんておかしいのは分かっていたが。なぜかこの時の俺はそう考えると気持ちが落ち着いてしまったのだ。そして俺は、この女の言葉を聞き入れてこの国の支配を放棄して。ユイと一緒に旅に出ることを決めた。

だがそこで問題が発生したのだ。それは、俺がユムのお母さんと会おうとしていることを知ったアリシア達が嫉妬して俺達についてくると言って来たのだ。そして結局俺達は、俺達がこの国に戻ってくるまでの間に起きた出来事をリリアから聞き、そしてそのあとにクロカが話したいことがあるといい、そしてリリアやユノ達も俺達の仲間になることになった。ユノ達は元々ユムを護衛する目的で同行していたのになぜ今になって俺に着いて行きたいと言ったのか理由を聞くがユノやアリシア達には何も言わないでほしいと言われてしまい俺はユムやクロナ達を連れて行くとユム達やユノ達の母親も喜ぶからと説得すると、ユノ達は俺に着いて行くことを決意してくれた。俺もそのことに関しては何も言うことはできなかったので。ユノ達やユムのお母さんを魔王討伐のメンバーに加えることになる。

俺がユムのお母さんを連れて帰ることを事前に知らせていたおかげで。ユムのお母さんは俺達のところにきてくれて。そしてこの世界に転移されたときに起こったことを全て話すと。俺は、俺の妻のことも心配なので一刻も早くこの国から出ていきたいと思っていた。

「あなた、私はあなたと一緒で嬉しいわ。だけどこの国のことが少し心配なの。それにユムちゃんもまだ子供なのに、この子だけでもこの世界に戻してほしいんだけど。どうかしら?」

ユムのお母さんはこの国の事が本当に気になっていた。それにユイはユナやユムより年上だからいいのかもしれないけど、ユマはまだ六歳ぐらいの子供なのだ。いくら俺のスキルを使っていてもその効果が出るまでには時間がかかるだろう。俺はそのことを考えて。このお母さんも一緒に魔王を倒しに行こうと決めると。ユムのお母さんが、私もこの国のことがとても心配なのでついて行かせてくださいと頼みこんできたので。俺達は三人で旅をすることにしたのである。そして魔王と戦うために必要なメンバーを集めに俺とアリシアが他の場所に向かって行くと。

そして魔王はもう既にこの国を離れてしまったのか見当たらなかった。俺は俺の家族と、この世界に転移されてきた者達を助ける為。そしてこの世界の人々の自由の為に俺はこれからこの世界で暴れている魔王と戦い。俺とユムの体を奪った元凶の魔王を俺の手で必ず葬り去ることを決意するのであった。

私はユムの母です。私は、私がこの世界に呼ばれたときに私の家族とユムがこの世界に来ていなくて。この世界にいる人達がこの世界に来た人たちの奴隷のような存在として扱われていることを知ってしまい、この国を見捨てることができなくなってしまって。ユムの父と相談をしてユムとユムの両親を連れ出して逃げることに決めたのです。

ユムと私はこの世界の人々に迷惑をかけないようにと。誰にも見つからないようにひっそりと暮らすつもりだったのですが、私たち家族と、ユム達を探しに来たユムの父親に見つかってしまう。そしてユムの父親に魔王を倒さない限りこの国は元に戻らないから、もしこの国を出たいというならば俺も連れて行ってくださいと頭を下げられてお願いされてしまうと。ユムの母はどうしてもユムのお父さんを置いていけないからといって、私達は三人で旅をする決意をする。

でも私達はあまりにも非力で魔王を倒せるとは思っていなかったので私はせめてユムだけは元の体に戻りたかった。そして魔王と戦う為に必要だと言われている、勇者が使うと言われる剣や。伝説の防具が欲しかったのである。そして私たちはユムが元々住んでいた家へと戻って行くことにした。その時、私達の近くにいた一人の女の子がユムの方をずっと見ていることに違和感を覚えてしまう。その子の名前はアリシアちゃんと言い。ユミと同じ村に住んでいるという。私の娘の友達で、この子も私と同じようにこの世界からやってきたという事でユムは興味を持っていた。

この子は私のように異世界から呼ばれていたわけじゃないからこの子のスキルの力によって、こちらの世界に来たのだという。この子にスキルがあるかどうかはわからないが、この子と仲良くしておくのは悪くはないと思ったので、娘をよろしくとだけ挨拶を済ませることにする。

そして私たちはユムが住んでいた家の中に入りユムの使っていた部屋で、ユムの両親の事を待つ間この家で暮らしていくことに決め。食料などの生活に必要な物をアイテムボックスの中に入れ込み準備を始めることにした。そしてユムの母とアリシアにユムがもともと暮らしていた部屋のベッドなどを運び出す準備をしていたときに。ユムが急にうなりだし。私は何かあったのではないかと思い急いで駆け寄ると、ユムが苦しみながら倒れてしまうので。私はどうすることもできずただおろおろしているだけだったが。アリシアちゃんが冷静になり、ユメさんの様子がおかしい事に気づく。

そして、アリシアちゃんがすぐにユズちゃんを呼びに走っていき、私とユトさんも慌ててアリシアの後を追うのであった。そして私達が家に戻ってきたときには。どうやったのか知らないが。ユズ達が、私達がユムの家で使っている家具類を全て外に運んでしまった後であり。私達と、ユナさんとユノさんは唖然とするのであった。そしてその後、その事に気付いたユムの父親が慌てて家に戻るとそこにはユムの姿がないので。ユムは何処に消えてしまったのか分からない状態になってしまう。

ユナさんとユノさんはその時に私達が持ってきた荷物を持ってきてくれていて。その事には私は感謝をしたのだが。私は一体ユムはどこに行ってしまったのかが分からず困ってしまう。ユイとクロカとクロアの三人はどこかに行ってしまっているし。それにリリアとユム達を探そうにも。この国の住人に見つかると厄介なので動けなくなってしまう。それに、ユマの事も気になる。あの子にはアリシアがついてくれているから大丈夫だと思うけど、やっぱり心配してしまうのだ。

ユムがいなくなってしまったことで。私たちはしばらくこの家を放置することにしたので。私たちはその家から離れて。次の街へと向かうことにしたのである。そしてこの国を後にしようとする時。突然私の体に悪寒を感じ。私はその場から飛び退き。ユムの家だったところを見ると。そこにいるはずのない魔王が現れて、ユノ達と戦おうとしたのだ。私はその行動を見て、ユムのことを殺すつもりだと悟り、その事について止めようとしたが。ユムと魔王がぶつかり合ってしまい。私はユムが魔王に負けることはわかっていた。そしてこのままではこの国の民が殺されていくと思ってしまい、私はユムが死ねばユムの体は奪われると思ってしまったが。なぜかユムの意識が途切れることなく魔王と戦い続けていたので。私は何が起きているのかわからずに困惑してしまっている。

魔王がなぜここに現れたのかわからなかったが、もしかしたらこの国の民を殺しに来ていた可能性はあるかもしれないと思ってしまったが。私はそれでも魔王に挑んでいくのを止めようとせず。私は、私の大切な人の為にこの国を守ることを決めるのである。ユムの事はもう仕方がないと諦め。私は自分の家族を守れるようになろうと心に決めるのであった。

俺は、今、俺のことを殺そうしてきた、ライオネットと名乗る男と対峙している。こいつは俺の『超幸運』による未来予知をも上回ってきて俺に攻撃を仕掛けてきたので俺も必死で戦う。だけど俺はこいつに勝つことができるかどうか不安だったが。そんな俺の目の前で信じられないことが起きる。

「なぜ?なぜだ!何故この攻撃が通じぬ!」

俺とこの男の実力はほぼ互角の戦いが繰り広げられており。この男は俺に致命傷を与えることはできても、俺を死に至らしめるほどダメージを与えることができていなかった。

(俺の予想は的中した。俺の能力はやはり相手の強さを俺の運の良さに変換できるみたいだが。相手の強弱をコントロールすることができないらしいな)

この男との戦いの最中に。俺はあることを試してみることにした。それは、俺の能力で相手が持っている武器を奪ってそれで戦いを有利にしようと試みたのだが、それはできなかったのだ。おそらく、俺と同じような事ができる奴が俺よりも強い奴とぶつかったときにそいつが持っていた装備を奪い取ることもできるんだろうと思うが。俺の今のステータスはそこまで高くないので奪い取った装備品を使いこなすことができず。そもそもこの世界に来たばかりの時は力の指輪や防御力の指輪、敏捷のブーツしか持ってなかったからな。

「何故だ!?貴様は本当に人間なのか?」

この男が俺に尋ねてくるが。俺にもよくわからなくて、俺が知りたいぐらいなんだが。この世界での俺は普通の人間のはずなのに、何故か俺の持つスキルの中には魔王をも超える物があって俺はこの世界で最強に近い力を手に入っている気がしていた。だから、もしかしたら俺とこの世界の魔王が戦った場合どちらが勝ち残るかわからないと思っていたのだが、この俺を殺そうとしてくるライオネットと言う男は明らかにこの世界の魔王を超えている。いやそれどころかこの世界で最強の生物と言われてる神竜と呼ばれる生き物にさえも俺は勝てるかもしれないと感じてしまった。

ただ、このライオネットとか言う奴の力が俺が思っていたほどではなかったせいもあるのかもしれない。

俺の攻撃は全てが通らなかったのに。俺の防御の方はかなり削ることができたようで。俺が一方的にダメージを与えていた。この男の攻撃は正直あまり脅威にはならない。だけど、この男が放つ技がこの国を滅ぼすことのできるレベルのものだった為。俺はこの男との戦闘に夢中になってしまっていたので、周りの状況を確認する余裕が無くなっていた。なのでこの国で暴れまわっている魔物達に俺は対応が遅れてしまう事になるのである。そして、俺は何とかライオネットを倒したと思ったが。まだ生きてるようだったのでとどめを刺そうとしたところで。

この国で暴れまわってたモンスターの一匹に後ろを取られてしまった俺の体は反応できずそのまま襲われそうになったところをこの国に訪れていたユムが助けてくれる。ユムのその行動に。俺は嬉しさと、この世界に俺が呼んだ勇者がやっとこの場に現れてくれたという喜びを感じていたので俺はユムに対してお礼の言葉を伝えるのである。そして俺達はこの国に訪れた時にユムに案内された家の中で休ませて貰えることになったので、ユムの父に、魔王の事を伝えようとすると、このユムの父も実は魔王と戦っており。魔王は自分が作った魔物達の群れを率いてこの国に攻め入ってきたと伝えてきて、しかもその魔獣たちは魔王の力で生み出されたもので通常の攻撃は一切効かないらしく、倒す手段が無いと伝えるのである。

ユムはユメさんが連れ去られたというので、ユムは俺と一緒にユムの母が捕らわれているという場所へと向かって行き。ユメさんを救出しに向かうことにしたのである。

俺たちは今、王城に向かって歩いて移動しており。途中でユムの両親が住んでいる家の前を通ると。そこでは激しい戦闘が行われており。俺はユムの父親を助けるために飛び出そうとしたが、ユムに腕を掴まれ止められてしまい。ユムの両親を助けに行くことはできなくなった。ユムにユムの母親が捕まっている所まで誘導される。そしてその部屋には確かに女性が囚われていて、この人は確か、この前の夜ユムの家に遊びに来ていた人だよな。名前は知らないけど、多分間違いない。ユミさんの話では。ユミさんの妹にあたる人だったような覚えがある。でもこのユマはユミさんの妹のようだ。なんでこの子がこんな危険な事をしているのかが気になるが、今はこの子の事よりもこの部屋に侵入しようとしている魔物達をどうにかするのが先だと考え。この部屋の前にいる兵士に声をかけようとした瞬間に。その部屋の扉に体当たりをして壊すようにして入ってくる巨大な狼が出現したのである。

そして俺は、部屋に入り込んでくる狼に対処する為に部屋から出ようとして、ユマが部屋を出ていこうとするので。俺もそのあとを付いていくことにした。

「待ってくれ。俺もこの部屋の中に入るから」

「えっ!?ちょっと、危ないよ!!」

俺はこの部屋に入り込んできた魔物に、その攻撃を避けながら話しかけたが、その攻撃を俺に放ってくる魔物に俺は、この攻撃が当たったら即死だと悟ったので。すぐに『瞬撃 』を使い一瞬で終わらせる事にする。すると俺の攻撃によって壁に激突してその勢いで倒れ込んだその狼の頭を斬り落とす。その後すぐに俺も部屋の中に入ると、この狼以外にもその部屋にいた人達は全員、その狼に襲われて命を落としてしまっていたのであった。俺はこの人たちの死体を見て怒りを覚え、この部屋の奥にいる魔王を倒さなければいけないと考えるのである。そこで魔王が作り出した魔物が動き出すが、俺はそれをすべて一刀両断にして倒したのであった。俺がこの魔王に負ける可能性など微塵もなく、この国の兵士達ではこの化け物に敵わないかもしれないけど。俺なら負けないと思えるくらいの力の差を感じる事ができたのだ。

だがこの世界に来たばかりの俺では、ここまでの力を使えるようになるにはもう少し時間が必要だったのだが。この世界に来てレベルが上がりやすい世界なのか分からないが。俺のレベルは現在すでに500近くになっていて。この世界にきて間もないはずのこの世界の住人では、おそらくこの世界でもかなり強いと思われるユマですらこの国に現れたモンスター達を倒せるとは思えなかった。なのでこの魔王はこの世界に存在する人間ではまだ誰も討伐することが出来ないのではないかと俺は考えてしまっている。

だけど俺のスキル『全知眼』でこの世界がどういう理になっているのかを調べると、魔王が作りだした魔物にはある弱点があり、そこを突けば倒せる事が分かり。さらに魔王が持っている『神威無効』と『神威耐性』が同時に付与されているアイテムを装備しなければその弱点が使えないこともわかった。ただこの魔王が作ったこの国の防衛機能の一つである魔物の軍団は、この国を攻めてきたモンスター達が、他の場所にも現れたりして。俺一人では守りきれないと判断し。俺がユノとユムにユムの家族を守る事と、ユムの家族の避難の手助けを任せて。俺はこの国の魔王をなんとかすることに決めて俺は走り出したのである。

俺とライナが戦い始めてしばらくたった時、突然、俺のことを助けてくれた、あの男が俺の前に現れたのだ。

男はライラと名乗った。ライナは自分よりも明らかに強い存在の登場に戸惑っていたが、俺を死なすつもりは無いと言っていたので俺は安心し、ライナと戦わせるのをやめさせた。俺の体に入ってきている、もう一人の俺は、自分のことを、魔王だと名乗っていたが。

この体の元の持ち主が俺だったからかはわからないが、どうも、ライナは魔王の存在を信じてくれていないようだったので、俺が魔王に勝つことができれば証明になると思い、俺は、ライナが持っている『聖光』を使おうとしたが、ライナは何故か、剣を使わず素手で戦うようで、俺の体を乗っ取った奴は、『炎爆 』『雷電』『闇槍』とかいう技を連続して繰り出してきたが、俺のスキル『絶対防御 』がそれを防ぎ。

『神速連斬 』でライナの奴を倒すことに成功するのである。俺の体が、元の持ち主に返ってきて、ライナは俺に、お礼を言い、この城で起こっている、魔王による事件のことを詳しく話し始めてくれるのである。この城に最近現れた、魔王がこの城で好き勝手に暴挙をしていると、そして魔王の部下がライオネットの他に四人いるらしいが。そのうちの一人に、俺の体を奪わせてしまったのだ。

俺はこの世界で勇者をやるなんて全く考えてなかったのにな。それに俺の目的は俺の世界で俺を陥れた奴等を見返すことなのに、そんなことをしたら俺は俺の世界であいつ等に何されても文句を言えない立場になってしまうんだよな。俺はその辺の事をよく考えてから行動をしなければと思ってしまったのだ。だが今は俺の体を奪ってる魔王を倒してこの世界に平和を取り戻すことが最優先なので俺はその事を忘れて魔王と戦うことを決意するのである。俺は俺のスキルである神格の加護を発動させ、俺とライナはお互いの能力を共有してライナと共にこの城の魔王の元へと向かうのであった。

そしてライオネットと言う男のスキルもライラは持っていないスキルが多かった。俺はライラとスキルの交換を行うと、この男に、ライラは、俺のスキルである『神域創造』が欲しいと言うので俺は仕方なくその男に渡す事にしたのである。

『空間操作』、『時間制御』というスキルをライは手に入れたのだが、俺はそのライの、言葉を聞いてライが、本当にこの世界の出身じゃないと実感する事になってしまった。俺と同じ転移者なのかと思ったが、そのライの話ではライは別の世界の日本からやってきたという事で俺は異世界から召喚されたのではなくこの世界に最初からいたのだということが分かってしまう。俺はライの話を聞くまで、ライも同じようにこの世界に俺のように転移してきて俺と同じく俺をこの世界に送り込んだ存在が誰か探していたのだろうと思っていた。そしてその話が終わった後、俺は俺の事を、元の体に戻そうとしてる奴がいて、それが誰なのかが知りたいし、なんでこんなことをしているのか、その理由を聞きたいが。ライとライのお兄さんとやらに聞いても分からなかったので、俺はとりあえずこの国にいる魔王を倒すために移動する事にしたのである。

ユムがさらわれてから数日が経った。この国に訪れた魔王軍幹部の一人であるユムの兄のユウトさんと、この国に現れたユムの兄と魔王の娘でありユムの姉でもある、ユムちゃんは今、魔王を倒せる可能性が一番高いとされる勇者が目覚めるまで、この国を魔物達に見つからないように守っていたのだが、この国に現れて魔王軍の戦力になりそうな、魔物は大半倒し終えた後だった。ユマが襲われた後。この国でこの王都を守っていた兵士の中で一番強かった、ユムのお父さんが魔物と戦い始めたのだが、魔王の幹部とまではいかないものの、その配下である狼系の魔物である、フェンリルの群れと戦闘になった時に兵士の数が少なくなってしまったので、兵士だけではその数の相手に対処できなくなり。ユム達は王城に逃げ込もうとしていたが、この国にやって来たユムの母、ユメとその夫、ユムの父親と一緒に王城の中に逃げ込みユムの母ユムの父親が、王城の中にある宝物庫から、ユムの父親と、ユムの母親がユム達の両親を助けるためにそのユムの父親が持つアイテムを使って魔物の大群と戦った。しかし、この国にはユム達以外にも、ユム達以外の人族が住んでいたのだ。それは魔人と呼ばれる種族だったが。ユムはその事を知らなかったので。魔物の相手は、ユムの父がしている間にユムとユマの両親は急いで、ユムとユマを、魔物達に襲われないように、ユムとユマを、宝物庫の近くにある大きな建物に隠したのである。この建物に、ユマ達が入った直後にユユの父が魔王に殺されてしまい。ユム達もこの建物に閉じ込められてしまうのであった。そしてこの建物の最上階にユユと、その弟である、ユズがいる部屋にユムは向かう。そしてそこで見つけた、魔王の作ったこの世界の住民ではない人間に。この子達は魔王によって連れ込まれた人間だと気づき。

そしてその子供達にこの国の状況を伝えるのである。そしてユカはユムの持っていたアイテムを使い、その魔王の生み出した魔物を倒し、ユムとユノは魔物のいない、この部屋を脱出することが出来たのであるが、そこにいた、魔物を倒したユム達が見た物はユマの姿がどこにも見当たらなかったのであった。

「ユママ!私とユカお姉ちゃんをここに置いてユムとユモが助けに行くよ!!」

「ダメよ、ここから出ることは危険すぎるわ!!私は大丈夫だからここに残って」

「嫌だよ、お母さん一人を置いて行くわけには行かないよ!!」

だが結局。ユカの説得もあり、三人でこの場に残ることに決めて。この国の人達がこの建物を出入りするために使っていた、階段のある部屋の隠し扉から出ることにした。そこには見張りがいたが。幸いなことに。魔物はいなかったので。三人の子供達はなんとか脱出に成功するのである。

この建物を出てすぐにこの近くにいるユム達を襲ってきた、あの、ユマを誘拐してユマの家族を、この国の人達を殺そうとしてきた魔王の部下が目の前に現れたのである。この部下も、ユマと同じように人間ではなかった。この人間でない部下は、その見た目は人間そのものなのだが。頭にある二つのツノ以外は。普通に見える。

そしてこの人間のような魔物の外見をした、その女はこの国に来たばかりの魔王の配下の人間を攫う役割を与えられているらしく。そのユムの双子の妹のユズは魔王の娘と知った上で、自分の欲望を満たすために。ユミをさらった時同様にこのユナを捕まえようとした。だがそのユナの時と違って。この女には、仲間がいない。

なぜなら、この女のスキルである『悪魔召喚』により、この世界に存在しないはずの悪魔の力を使えるのは確かではあるが、悪魔自体は存在するが。悪魔と契約するためには、自分の魂を渡すか、契約した悪魔が自分の命令に従ってくれなくなるほどのダメージを受けないとできないはずだからである。そして『召喚』で呼び出した存在は一度きりでそれ以降はもう呼べないのでは?とも思われていたのだがこの部下はもう一度同じ名前のスキルを使用し、再びその女性の前に、黒い鎧を着た男型の悪魔が現れ、女性はまた、悪魔を自分の体に取り込んでしまい、先程までの、人間とほとんど見分けがつく容姿ではなくなったのである。ただその部下の、人間の部分は、まだ少しだけ残っており、その部分だけが。まるで仮面をつけているようにも見えるのだ。だがそれもすぐに崩れ去る。その女性は突然体が膨れ上がり始め、その姿を見た、この国の王女様が、「あの時のオーガ!?そんなバカな。なぜこの国に来て、あなたは死んだはずじゃ?」と声を上げる。その言葉を聞いてこの国にやってきた魔物達は全て、魔王の部下だという事実がわかったのであった。

その後、ユラが『闇』を発動させ、魔物と魔王の部下の兵士達が戦い始めるが、この国の兵士が全員戦えるような状態ではない以上、勝ち目はないと思われた。

その時突然この建物の屋根の上を走っていたユナに、魔王軍の女は攻撃を行うがそれをユナは避けたのであったが。そのユナを追いかけてきた魔物の集団に飲み込まれてしまう。そのユナを追っかけてきてしまった、ユナは、この建物に入ってきた魔物の数をユラは把握しておらず。この建物に入って来た魔物の数が思ったより多かったのだ。その結果。魔王軍の精鋭部隊と思われる。狼系の魔物で、フェンリルの亜種と言われている魔物を、一体倒したのであるが他の魔物に殺されてしまった。このユトはユムの妹であり。この世界での魔王であるユウトが、ユムの姉のユナに、この世界に送り込んだ存在であるのが分かったが、それでも今はそんなことを言っている場合ではなく、ユムのユナは魔物と戦い続けたのである。そしてしばらくすると魔王軍幹部の一人の女も現れ、ユラと戦うことになるのだが。ユラの攻撃は一切通用しなかったのである。そこで。ユムも加勢しようとユラの元に向かい、ユラと二人で戦うことになったのだが、この魔王軍幹部の、その、女の武器は。その腕だったのであろう。女の右腕が巨大化しその手から、強力な魔法を放つ。

この国の建物は頑丈な作りになっていたおかげでその魔法の攻撃をなんとか耐えられたのだが。建物が崩れ去りユムは下の階に落ちてしまうのである。そして落ちた場所は。魔王軍がこの建物を占拠した際の拠点として使うつもりだった場所なので。大量の魔物が待ち構えていたのである。ユムとユナは何とかその魔物を殲滅できたのは良かったが。そこに現れた、魔王の幹部が今度は、二人に向かって襲いかかってくる。その、女の能力はユマが言っていた通り、相手の命を奪い、その奪った相手を吸収するというもの。つまりユムとユラが戦ったら、この魔王軍幹部の女に取り込まれて終わりという事であった。ユムはそうならないようにユマのユズを連れて、その場から逃げ出すが、逃げた先には。ユム達を閉じ込めてた、大きな建物があったのである。その建物の中には魔王の娘でありこの国に訪れた目的でもある、この国にいる魔王の娘であるユモが、一人でいた。そしてこの魔王の娘に、その魔物は話しかけるが。魔物に返事をすることなくユマを返せと言い返すユモ。ユムの予想だと、魔王軍は、ユマ達の存在を知っていてユマを殺すつもりだとユムとユラは予測していたのである。

「魔王様にお前の命を渡してやってもいいんだぞ。魔王様ならいや。あの女神様でも良い。それどころか魔王様にお願いすればなんでもしてくれるさ。例えばあのユムとかいう小娘に復讐がしたいって頼めばこの国を滅ぼしてくれるかもしれないぜ。それにユムとかいう人間を殺してやりたいなら俺を殺せばいいんだよ。そうした瞬間俺はユムって女を食ってしまうからよ。でも魔王の娘のこのお前が、その魔王の娘であるユムって奴を、食ってしまったらもう。誰もお前の事を守れなくなるからそれはオススメしないがな」

この魔物がユズに向かって言うと、急に顔色が変わった。そのユズの異変に気付いたユムとユラは警戒態勢に入った。だが、ユムとユズの様子に魔王の側近である、その女は気づいていなかったようで。そのユズと、ユムを見て、今の発言は魔王に対する挑発にとられてしまい。すぐに怒り出して。

ユモに対して、自分がどれだけ魔王のことを思っているのかと。そして魔王は自分を必要としてくれていることを言い出した。そしてその言葉はどんどんエスカレートしていく。そしてその魔王に必要とされていなければいけないのは、私のような優秀な部下なのだと言って、私を殺さないとユムに殺されると脅し始めた。そしてさらにその女は自分の正体を話し、その話を聞くと魔王がこの世界を征服するために作った存在の一つが魔王四天王と言われる、その配下の中の四人だということを教えてくれた。

「この私がお前達に情報を与えたのだ感謝するがいい!!」

「それで、あんたが私達の相手をしてくれようってことね」

「そうだ。お前達はここで私の腹の中に入るのだよ!!」

この魔王四天王を名乗るその女性には勝てるわけもなく二人は、ユカ達と合流しようと動き出そうとする。

だがそれを阻むかのように、魔物の大群が、建物の中から溢れ出てきたのである。

そしてユモは魔王の配下である魔物によって取り囲まれてしまうのであった。

魔王の部下と名乗るその女性はユムを取り囲んで、攻撃してくる。この女性の武器はやはり腕で。この腕がとても長く伸びたのでユナはその攻撃を受け流す。だがこの女性は、その伸びた長い両腕を使いながら器用に体も動かしているのである。ユムが、この女性の攻撃を流そうとするとその女性は突然後ろへジャンプして逃げるのである。

「なかなか良い身のこなしをしているではないか」

「そっちこそ、その長い手足を上手く使っているわね」

そんな話をしながらもお互いに睨み合っている。だが、その時、突然、空に大きな光の玉が現れたかと思うとそれが分裂をして。無数の矢のように降り注ぎその魔王軍の女性に直撃したのである。その女性はその場に膝をついて動けなくなってしまったのである。

その光の矢を放ったと思われる人物を見るとそこにはユナが探し求めていた少女が居たのである。その光を放とうとした時、魔王軍側の誰かがその少女に斬りかかるが、あっさり返り討ちにしてしまうのであった。その少女の持っている剣は神々しく輝いていたので。ユムはすぐにユミの仲間の剣士のユマだと気づき。ユムとユラは合流を果たした。その後ユマは建物の中に入っていくが。その後ろ姿を見てユラは追いかけようとする。その建物の中に入ろうとするとユマが建物の外から出てきてユムに言う。その建物はどうも普通の建物ではなく。特殊な結界が貼られているようなのだが。その建物はユマの師匠が作った建物なので、簡単にその建物から出てくることができたのだと言う。

だが、このユマの口からとんでもない事実を聞かされる。ユマが先程までこの建物にいた理由はユムがこの国の王を救いに来ると思ってこの建物に戻ってきたのだと言われて驚いたのであった。その言葉を聞いてユナはユムがここに来る前に、その国の王様は死んでしまったのではないか?と考え始める。ユマの言葉はユムにとって衝撃的であったのだ。しかしそれでもユマと一緒に行動することに決めユムとユナは一緒に魔王軍の拠点へと向かうのである。そこで魔王軍の幹部と遭遇することになるのであるがユマはあっけなく幹部を倒してしまった。だがそのあとに魔王軍の別の部隊が現れユマと、その仲間のユマ以外の三人が戦っていたが、その三人も、すぐに倒されてしまうのである。その戦いを見ているうちにユムはこの世界にも仲間がいたことに感動を覚えていた。

その後、ユイも合流してからユナとユカは二人でユナの妹のユズを助けに向かった。

そしてユズが囚われている部屋にたどり着いて部屋を開けてみるとそこには。既にユナの妹のユズはいなかった。その時部屋の隅に手紙がありその手紙の内容は。ユズを攫った者の名前はルリで。その手紙の内容では。自分の姉がユズを探しに来ていることをユナは知っているからこの国の王が殺されたという嘘を吐くから早くこの国から出る方法を考えてほしいという内容が書かれていた。その手紙を読み終わった後にユナは、この城から出て行く方法を思いついたが、それを行うには、この城を乗っ取る必要があり、その為にまずこの建物の中でユナの知らない人物が二人だけ存在するということが分かり、ユナの目の前にいるその二人も魔王軍のメンバーなのであろう。だから、この二人の意識を奪ってから城の外へ脱出することにした。そしてこの二人はその隙に逃げ出してしまうのであった。それからユラは妹のユズは生きていると確信し、そしてこの国を乗っ取ったら必ずユマと再会を果たすために動くことを決めた。その決意をしてから数時間後、魔王軍から解放された魔王軍幹部の女性は魔王のいるところに向かって報告を行ったのである。その女性は、この国を、魔王軍が攻め込むという事を、この魔王の娘のユマとユラを使って罠を仕掛け、逆に魔王軍をこの国の中に入れてやったのだ。そしてこの魔王軍の幹部は。魔王が自分を必要としたのならすぐに魔王の元に戻ってくると言ってその場を立ち去ったのであった。そしてこの国にはユマとユナそしてユラだけとなったのである。だがこの時ユマ達はまだ知らなかった。魔王軍との戦いがこれから起きることを、だがこの魔王四天王を名乗る女性の正体が。魔王の娘であることも知らずに魔王軍の幹部と戦う事になるのであった。

ユカはユズがいるとされる場所を特定できたため、そのユズと、ユモをすぐに助けに行くことにしたのである。

「お兄ちゃん達ってなんでこんな危険な事をするの?」

「それは私達が正義の味方だからだよ。この国を救うのが私達の仕事でもあるのよ」

「ふーん。でもこの国を助けるって言ってもその国の人を殺すつもりなんだよね。それなら魔王様に逆らう敵と一緒だよ。私はお兄ちゃん達に魔王軍に加担するつもりはないよ」

そう言ってユズはすぐにどこかに消えてしまうのである。その様子を見つめていた魔王の娘は少し寂しそうな表情をするが、この国を守る為に、戦うことを決め、魔王の娘も魔王を倒すために魔王の配下と向かい合うことになる。だがユマが倒した魔王の幹部の二人が復活し魔王の元へと戻っていったので、ユラとユムがこの国に残った魔王四天王を相手にしているとそこに現れた魔王軍の残党にユズを連れていかれてしまうのであった。魔王四天王を倒した後もユトと魔王の幹部の一人の戦いが続き。ついに決着がつく。魔王の側近の一人であるその女性と戦っていたのだが。魔王の側近の女性にとどめを刺そうとしたとき。突如ユズの悲鳴が上がる。その悲鳴が聞こえたときに魔王の部下の女の意識は一瞬途絶えてしまった。だがその間に魔王の側近の女に致命傷を与えることが出来たが。魔王の側近は、魔王の娘のユズの体を盾に使ったのである。その結果、魔王は復活してしまうのであった。魔王の復活を確認した瞬間にユムとユナは気を失ってしまう。だがその時魔王の配下の女性がユム達の体に触れようとしたところをその女性は殺されてしまう。だがその殺したのはその魔王の配下の女性ではなく、ユムとユラを助けた、もう一人の魔王の配下の男だったのである。だが男は自分が何者かということは語らなかった。そしてそのまま姿を消した。そのあと魔王軍は撤退を始める。その魔王軍の中には魔王軍の四天王の姿はなかった。どうやら魔王を復活させたことにより四天王が復活することはないようであった。

そしてその日の夜。ユマ達は城に戻ってくると、その時にユマは魔王の側近と戦ったことで、魔王が復活する条件の一つに、ユズを魔王に差し出すという条件があることを知った。

「まさかあのユモって奴は。この国が、このユズが魔王になるのを阻止するように仕向けられたんじゃないかしら」

ユミはユモのことを考えているようだが。ユズは魔王に娘を差し出すことなど出来ないと思っているようでユナはユズに対して言う。

「ユモの事は今は置いておきましょう。とりあえずはユズの居場所を見つけ出さないとね」

「うん。だけど私もユラさんの意見に賛成です。そのユズさんの事を探すためにはやっぱり魔王の配下を倒しながら、魔王の配下の女性から情報を集めていくしかないですね。それとこの国の人達に聞き込み調査もしたいところですけど、魔王の配下に襲われたとか、魔王が復活したから近づかないほうがいいと言われたと言う人しか出てきませんね。それにこの国は、まだ、勇者も召喚されています。もしかしたらユナもユムも勇者の可能性が高いので、気をつけたほうが良いと思います」

その言葉を聞いたユナは自分の正体がバレないように変装をして情報収集を行うことに決めたのである。その後ユナはユラに魔王の配下を倒して魔王軍の情報を集めることをお願いしてユラはその依頼を引き受けた。ユマとユトはしばらくの間はこの街に留まってから行動を開始することを決めた。その次の日の朝になると街の人からの情報によると魔王軍の四天王と名乗る四人の女性が現れて、この城を占拠しているという話を聞き、早速行動を起こすことにする。そして、その行動が功を奏したのか。街の中でユマの探し求める女性を見つけることに成功した。だがその女性はユズに何かをしたらしく。ユズの意識がなくなり、魔王の娘としての記憶も封印されてしまった状態で魔王の娘になってしまったユズがそこに居たのである。ユズが目を覚ましたときには既にユズの記憶はなくなってしまっていてユズはこの国の王になっていましたが、記憶を失ったせいか、今までとは違った性格になってしまいユマと、ユラは困惑していた。ユナとユラはユズの人格を取り戻すためにも。ユズを連れ出してからユズの過去を探り、ユズがどうして魔王の生まれ変わりだと言われるようになったのかを調べる必要があると思いユズを連れてから旅をすることになったのである。

そしてそれから数日経った後。ユマ達の元に魔王軍の四天王と名乗る少女が訪ねてきてから戦闘になりなんとか撃退に成功するが、その際に魔王の娘の肉体を奪われてしまい、魔王の娘であるはずのユズはなぜか魔王の配下の四天王に攫われてしまうのであった。

それから魔王軍が攻め込んでくるまでに時間がかかってしまい。その間に魔王の四天王の二人が魔王に呼び出されてから、その二人の姿が消えると同時に魔王の城の周りの警備が強化されることになった。ユナ達が城を出て行く際にはすでに城の周辺は魔王軍の兵士達によって固められていてとてもじゃないが突破することが困難になっていたのである。しかしユムは城の中の構造を熟知していて。城の中の隠し通路を通って城の中に入っていく。その途中途中で魔王の娘を攫った犯人を捜すことにして城内を散策していくのである。その途中でこの城には魔眼持ちという珍しいスキルを持っている人物がいたのである。ユカは魔道具に嵌められてしまっていたので助け出した後で話を聞いてみたがユカはどうやらその魔道具の効果により魔王が蘇っているという事実を知らないようである。その後魔王が復活しているということを教えてあげたが。ユカはそんなことは信じられないという顔をしてすぐにその場を立ち去ってしまうのである。

その話を聞いた後にユナもユトも城の中から抜け出す方法をユナに考えてもらうことにした。そしてその方法を考えた結果、ある部屋にたどり着いた時にあることを思い出したのでそこで休憩を取ることにする。それからユラと、魔王の幹部との戦いが始まりどうにかユムは勝利を掴むことが出来た。その魔王の幹部にとどめを刺そうとするが。その魔王の腹心は最後にこう言い残し、そのまま消滅してしまったのである。

そして城の中を探索していたところ。魔王の幹部の一人に出会ってしまうがユラはどうにかその魔王の幹部と戦うことを回避することに成功するが、その代わりにユナの持っていた武器が破壊されてしまう。ユズは、ユラが戦えなくなってしまった状況を見てからユラとユモを守ることを決意して、この城の最上階に魔王のいるところまでたどり着き魔王と一対一で対峙することになる。ユズは自分こそが本当の魔王だと証明するためにもユマから渡されたこの剣を使い魔王と戦い始める。だがユマがユズのために作り出した剣であり本来のユズの持つ魔力では使いこなすことができなかったため本来の力を出すことができない。そのおかげで魔王の攻撃に翻弄されることになるが、何とかギリギリのところで回避することに成功し、その攻撃を利用して魔王を斬る事に成功したが。ユマの作ったその刀は折れてしまった。

「その程度では私に勝つことは出来ないよ」

「それでもあなたを倒すことはできますよ」

そう言って再び攻撃を仕掛けようとしたのだが、突然後ろの方で大きな音が聞こえてきたので慌ててユナがその場所に向かうと、そこではなんとユズの体を乗っ取り、ユズに変身していたユズと瓜二つの存在と戦うことになる。そのユナが変化したその化け物は。ユズに自分の事をユナだと思い込ませるようにしてユズを騙す。

そしてその間に魔王に近づこうとするとユラとユモも駆けつけてくる。しかし魔王の娘の体を奪ったその敵はかなりの実力者で魔王も一緒に復活していたためにかなり苦戦を強いられるのであった。その魔王が操る技の威力の前にもユラは圧倒されて倒れてしまうが、その時ユマが魔王が復活する為の条件の一つであるユズの肉体を魔王に差し出すことを阻止しに現れたのであった。そして魔王が復活していることを知った瞬間。ユズはその光景を見たことによりユズの心に隙が出来てそのすきに敵に体を乗っ取られてしまった。

そのユズはユズではないのだが。体は確かに本物の魔王である。ユラがその事に気が付いてももう遅く、魔王の体を取り込んだユナはユマに話しかけてくる。

「やっとこれで私は真の力を使うことができるようになったみたいね。それじゃあまずは私と、あなたの持っている神器と魔王の神の力を受け継いだ勇者の肉体を交換しましょう」

「ふざけないで!絶対にさせないわ」

「ふぅーん。だったら仕方ないけど。この世界ごと滅びるか。勇者であるその女に魔王の娘を差し出してもらうことにするか。でもどっちにしろこの世界の人間は全滅かな?」

そう言ってユズは自分の部下達に向かって攻撃をするように命令を下す。ユマも自分の部下を呼び出す。そしてユミもユナと魔王の体を奪い取ったユズの相手を始めるがどうやらユナは魔王の幹部の一人を取り込みユズも幹部の一人を吸収しているようだが、ユズに魔王の幹部を吸収するだけの容量があるのかと心配になったのである。しかしそんなことを心配したところで何もならないので、魔王の幹部の一人である魔王の娘を相手に戦う。そのユナの戦い方を見ていた魔王の体を手に入れたばかりのユナも真似をして同じような戦い方を始めた。

だがユナの方が動きが速かったこともありユマはそのことに気が付くとユナのサポートに回ろうとする。

「さすがね。だけどそれは無駄なことだと思うわ」

その瞬間。急にユマの体が動かせなくなってしまう。すると次の瞬間。今度はユマが地面に伏せることになってしまったのである。

「残念だけど。私が相手の体の中に入っている間は、私の意識は、魔王の中にあるの。つまり。私が今主導権を握っているってこと」

ユマはなんとかこの状況を脱するために思考を巡らせる。

「ふふん。いい事を教えてあげるね。その体の中にいた魔王様も私に吸収されたからね。そのおかげで私は今まで以上に魔王としての力と。この勇者の力を手に入れることができたの。この状態で魔王を復活できたんだから、当然他の四天の魔王も復活できると思うけど。どうやらまだ復活しきれていないようだね。だから今の内に、私達の邪魔をしているその勇者を殺しておけば。復活してくる魔王達は怖くなくなるよね」

その言葉を聞いて、このユズが言っていることが事実であることが分かった。だからこそ早くユム達に伝えないといけないと思って、ユナに視線を向けるとユナはどうやら動けなくなっているようでどうすることもできなかったのである。

そしてその魔王の娘は、そのユナに近づいていくと、手に持っていた剣を振りかざし、それを勢いよく振り下ろした。

それからしばらく時間が流れた後。なんとか動けるようになったのかユマがゆっくりと起き上がってくる。ユナの傷を回復する魔法を使って治してからどうにかその攻撃を受け止めていたユラの元に駆け寄る。だがユマはユラの元に駆け寄ろうとしてもなぜか近づけずにいた。だがそこに魔王が姿を見せると、魔王はユマに対してこんな話をし始める。

「久しぶりだなユマ。こうして会うことになるとは思ってもいなかったが会えて嬉しいよ」

魔王はそれだけ言うと話しを終えたあと。そのユズが作り出した偽物の魔王に意識を移すために眠りについた。魔王が完全に目を覚ました時にはこの城の周りにいる人間は全ていなくなっていた。どうやら全員殺されてしまったらしい。そのことについて魔王は怒ることはなかった。むしろユズにとってはこの方が好都合だったのでその行動に感謝をしていた。魔王は自分の力を最大限に使うことが出来るようになるまでは、魔王の配下達も表舞台には出てこないように言いつけているのである。

その後ユナとユナをユナの姿に化けさせてから二人はこの場から姿を消していく。ユラがその後にどうしたのかは分からないが、ユラが生きている限り魔王は復活できない。しかしユズはまだ魔王が復活する可能性があると分かっていても、魔王を復活させるための儀式の準備を済ませてしまう。それからその儀式は魔王を復活させてしまうほどにまで進化を遂げていて、完全に復活を果たす。魔王が蘇った後。すぐにでも魔眼のスキルを持っている人物を探し出して魔王を討伐できるようにしようと考えたがそんなに簡単な問題ではなかった。なぜなら魔道具を埋め込まれているその人物がすでに死んでいてすでに復活させることは不可能となっていたのであった。そのせいで魔王は魔王復活のために必要な素材を集めるのが難しくなったのだと言う事が分かった。その時に魔王はユナがなぜそこまで魔王の復活を阻止したがっていたのかわからずじまいで終わってしまったのだ。そのことについて魔王自身も調べようとしたが、結局何も分からなかったので魔王の配下の者を魔王城に呼び寄せて魔眼持ちの人間の情報について集め始めるのであった。

その集めた情報の中には魔王城の中に保管されている書物から得たものも含まれていたので、そこから得られた知識からこの世界には魔道具と呼ばれる便利なアイテムが存在し、その魔道具には特別な力を持ったものが存在しており、その特殊な力を持つ魔道具を作り出すことができる者も存在する。そしてその魔道具を作ることに長けているのがこの国の首都にある。学園都市に存在すると言われているが、詳しい事はわからないままになっていた。

魔王が復活したことによって。その魔王が生み出した配下がこの城の近くにも現れたのである。しかし、その魔王の配下は、どうも魔王復活の為の贄を探すためにやってきたようであった。しかし魔王復活のために集められた素材はあまりにも数が多すぎたのである。その為。魔王の配下の者たちはその膨大な量の生贄の中から、魔王が復活をするための材料として使えるものを選りすぐる為に動き始めたのであった。その大量の生贄の素材の中から必要なのが魔王復活に必要とされる素材だったのだ。

「ふむ。なかなかに難しいですね。ですがこのくらいの量であれば大丈夫そうです」

その大量の生贄をどうやって集めるか悩んでいる最中に、その魔王復活の儀を行おうとしていたその魔王の目の前に一人の存在が姿を現わしたのであった。

魔王が魔王復活の作業を行なっている間。俺と、この城の地下に捕らわれてしまっていた魔王の幹部の一人と戦闘を行っていた。そいつの名前はバラムと言い。かつて勇者であるユラを騙して洗脳しようとしていた張本人でもある男だ。その男は魔王の幹部の中でもっとも強くそして厄介な敵であるとされていたのだが。そんな男が今は魔王の力を手に入れる為の餌となる。

「はあぁー!!」

俺の攻撃を避けようとした魔王に俺は剣を振るうのだが、それは防がれてしまったのだが、その瞬間に後ろに回り込んだ魔王によって首を切断されてしまった。その攻撃が決まれば終わりかと思われたのだが、次の瞬間には再生を始めて元の状態に戻るはずだったのだが首を切断したところで止まってしまったので、その事に気が付いて俺は一旦魔王から離れる。

「まさか本当に私の攻撃を受けて倒せない奴がいるなんて思いもしなかったよ」

そう言った後に。今度は自分が持っていた杖を使ってその男の頭を潰すように殴るがそれでも死ぬことはない。そして再びその頭を回復させた瞬間に俺は再び首を切断してから今度は心臓を刺突した。すると今度はそのまま動かなくなり死んだふりをしたのかと思ったのだがどうやらそうではないようだ。しかし今度は魔王の方からも攻撃を仕掛けてくるので仕方なく一度魔王から距離を取る。

「はあぁー」

すると魔王の体を纏っている鎧が突然変形し始めたので何が起こるのだと気になり警戒を強める。だがそれは特に気にするようなことではなかった。その魔王から放たれたのは衝撃波のようなものであった。その技の正体が何なのかはすぐに見破ったものの。対処する方法が無かった。それに今魔王を倒すために全力を出すとこの城が崩れ落ちそうな気がするから使えない。なのでどうするかと考えていると。その魔王が放つ衝撃が止まった。

「私のこの技を受けきるとはやるではないか。それなら少しだけ本気で相手をしてあげようじゃないか。君の強さに敬意を称して私の最強の一撃を食らうが良い」

魔王はそう宣言した後に自分の腕を引きちぎり、そのちぎれた腕に魔王の力を注ぎ込み始める。

「我が命の力をその身に宿らせ、我の腕に力を宿らせる」

その言葉と同時にその引き千切られた自分の右腕が徐々に大きくなっていくと、まるで巨大な拳のような形に変化していく。

それを見た俺は流石にこれは不味いと思い、すぐさまその拳に向かって攻撃を仕掛ける。だがそれは予想通りの結果になった。魔王はその俺の行動に対して反応が遅れてしまい、その結果魔王はその俺の剣の攻撃をその体全身に食らってしまい。そのまま地面へと落下していった。

その光景を見て流石のユズもその光景に驚いていたがすぐに気持ちを切り替えるように自分に喝を入れてから行動に移すことにしたのである。

魔王は自分を倒した相手が、あの『白騎士』と似たような存在だと言う事をなんとなく感じ取って、魔王も油断をしないようにその相手との戦い方を考える。

(私の体にこれほどまでの傷をつけたやつは初めてだよ。だけど私はここで負けるわけにはいかないんだ。私の目的が叶う前に死んでしまえば私の計画は失敗する。そんなことになってはいけない。私の願いを叶えるためにはあいつがどうしても邪魔なんだ。だからこそここで確実に仕留めなければならない。例えそれがどれだけ困難な道であろうとも。絶対にだ)

それからユズは、その魔王の力を使って魔王復活のための準備を進めていく。その間に魔王の配下たちはそのユズの邪魔にならないようにこの城から離れていく。ユズがこの城から外に出た頃には魔王が復活するための儀式の準備が完了していたのである。

魔王は復活の為に必要となるその儀式の生贄の中に自らが入っていたのであった。そしてユラの体の方には既に魔眼の力を持つ人物が入っている。後はその人物を使って魔王を復活させるだけだと思っていたが、どうやらまだ準備が必要なようであった。

(さすがの私もこの状態で魔王を完全に復活するだけの生贄を確保するのは難しいようだね。だけどこの城の近くには、私達魔王の配下の者達もいるし。魔眼の力を持つ人物の情報を集めている途中だった部下たちがこの国に来ているしね。魔王を復活させるために必要な魔眼の力はなんとかなるはずだ。だからあともう少し時間を稼げば魔王は完全に復活することができるはず。その時間が私に与えられた猶予であり、私にできる唯一のことだね。それまでに私にできることと言えば、この魔王の体を使いこなせるようにすることだね。魔王は今までずっとこの力を使うことを拒んでいたみたいだし。そんな力を使わなければ生き残れなかった状況にあった。だからそんな力を私が使えても不思議ではないだろうし。むしろ当然のことだろうね。それにこの力を上手く使わなければならない理由があるんだよ。それは魔王の復活が成功するかしないかにかかってくる。成功させなければすべてが無駄になってしまう可能性があるので、それだけは何としても阻止しなければならない。この魔王の力さえ使いこなすことが出来れば。この国の魔王の配下の連中などどうってことはないから。だからこそ私はその魔王の力とうまく付き合っていくように努力しなければいけないの。この世界を救うことが出来るかもしれない可能性の一つにでもなれば。きっとお兄様だって認めてくれると思う。そのためにも必ず成功させる必要があるんだよね。

それにしてもこの男も馬鹿だね。こんな奴に殺されてしまうとは情けないよ。せっかくの私の力を使う為に必要な道具を死なせてしまうとは。これならば他の方法で魔眼持ちを探すべきだと進言した方がいいかな?でもまあいいでしょう。今回は魔眼持ちはもう確保できているのですから、後は私の能力を使えばいいだけでしょうからね。魔眼の能力を持っている者は魔眼の力が封印されている。魔道具の中に閉じ込められているようですがそんなもの簡単に見つけることができますからね。そんな訳で魔道具を探すためにこの城の中にある魔道具を探し始めるユズだったのである。

その頃の学園長とクロとコウの三人はというと。ユナが向かった先に向かった三人の男女が無事に逃げ延びたことを確認した後、ユズと合流をする為に学園に戻るのである。その時にコウの配下たちも学園に残っていてユズたちの居場所を探るように指示を出していた。

そして学園に到着した三人組はそのまま急いで王城に向かう。そこでは既に戦闘が行われていた。その戦闘はユラがバラムと一人で戦っていた。その戦いの様子をみてユラは勝てないと悟ったのである。その証拠に。ユラが何度も斬撃を放っているのにバラムには大したダメージを与えることが出来ずにいた。そして逆にバラムの攻撃はことごとく避けられてしまっていたのである。

「この化け物が。どうして貴様にそこまでの実力があって、あの方の配下として認められないのだ」

「そんなことは知らない。お前の言うことを信じるのであれば。あいつは私の実力を認めてくれているようだ。しかし残念なことにあいつは自分の配下の者以外には一切興味を持たない。たとえ自分がその気になっていてもその配下の者ではない者の言葉を聞くことはないからな」

「その話は本当の事のようだ。しかしこのままだと我々の方が全滅させられかねないな。あの方に助けを求めるべきだと思うのだが」

「そうした方が良いのかもしれないが、そうすればあいつに迷惑をかけてしまいそうなので出来ない」

バラムの攻撃をユラは全て回避しているのだが、どう見てもユラの分が悪いのは明らかであった。その様子を見ながらバラムは焦りを感じるが。ユラの方はユズのことを思ってか、なかなか攻撃に転じることが出来ないのであった。

しかしいつまでもこの均衡状態を維持するのは難しい。その為、この戦況を変えられるのはバラムしかいなかった。そのバラムも攻撃に移ることができずにいるのだが。そのユズ達の所に一つの人影が現れる。その人は学園の生徒のようでユラたちの元へ駆け寄ってくる。

その人物はバラムの仲間であるのだが。この状況下でもバラムと会話をすることが出来るほどの実力者であった。しかしその実力者が現れたところでこの状況は変わらなかった。それでもどうにかできないのかと考えたが。その人物が思い浮かべたのは。この場から逃げ出すことだった。

(流石にこの状況はマズイか。あの御方が来るまで耐えることに集中しよう。あの御方もすぐにここに駆けつけてくるはずだ。そうなればいくらあの娘が強くとも勝つことはできないはずだ)

そしてその人物はユズ達がやってきた方向を睨みつける。そこには魔王軍の幹部である『死神』と呼ばれる女とその部下の者たちがやってきている。

「おい!貴様。なぜ邪魔をした!」

「あなたを助けるのが仲間として正しい行動だと判断したから助けに入ったのですよ。それよりこの現状で貴方があちらの方に加勢したところで状況は変わりません。それなら少しでもあの人達が逃げる時間を稼げる方がよろしいのではありませんか?」

その男はそう言って魔王の幹部の女を落ち着かせる。だが彼女は今の状況に対して焦りを覚えていた。

(クソ。このままだと私たちの命が危険だ。どうにかしてこの現状を打開する方法はないのか?)

彼女は必死に頭の中で考えていた。その彼女の様子に気付いたのかその女性は声をかける。

「大丈夫ですよ。貴方の大切な人がすぐにきます。だから今は落ち着いて下さい」

「ああそうだな。あいつは必ず私の元に来るはずだ。だから私はあいつの事を待ち続けよう」

そう言った瞬間に、突如空から雷が降り注いできた。それはユズの配下の一人の配下たちがこの城に忍び込み。魔王の部下の者を無力化していったからである。それによりバハムートの部隊は壊滅状態に追いやられてしまったのである。

「まさかここまでやられるとは。流石に私とこの男の二人だけでは勝ち目がない。仕方ないここは撤退させて頂こう」

そう言い残すと二人はその場から消え去ってしまう。それを確認したコウ達は急いでそのバラムと対峙する人物の元に集まるのであった。その人物こそ、コウが事前にこの世界で探させていた。ユナに力を貸してくれる人物であり。ユナが求めていた人物であるのである。

その人物の名は『シドウ』と言い、かつて勇者であった者の力を受け継ぎ、この世界を救おうとした人物である。だが彼は、ユズ達魔王軍が作り出した『闇』の力によって体を乗っ取られてしまい、この世界の脅威となってしまった存在でもある。

だが、彼も最初は『魔王軍』と戦う為に動いていた人物でもあったが、魔王軍の力の片鱗を目の当たりにして。その魔王の力に魅了され。魔王軍に手を貸すようになっていた。

その力は、ユズの持つ魔眼の能力を無効化することができる能力を持っている。そのため魔眼の能力を持つ者は彼を前にすると。その魔眼の能力を使用することができなくなるのである。さらにその身体能力は他の人間よりも高く。魔王の側近を務めることが出来るだけの戦闘力を有していたのである。

そして彼の使う武器は二振りの刀である。一振りはこの国で造られた名工の作品であり、もう一本は彼の父親が使っていたものである。それを魔王軍に所属する前から所有しており。魔王軍と敵対するまではその二本を使って、多くの敵を打ち倒してきた実績があるのである。その二つを使っての戦法は凄まじく、『神滅覇王 』であるコウでさえ。苦戦を強いられるほどに強かった。その強さは『終末の災厄 』と呼ばれ、恐れられていたほどなのである。そして彼が持っていた刀はコウが持つ剣と打ち合った時、コウにダメージを与えることができたのはその二刀のみであった。それほどまでにこの二本の刀は特別なものなのである。だからこそ魔王軍の精鋭部隊であるバラムは、彼にだけは魔王軍に所属して欲しいと考えていた。

そんな事情があり、コウたちは急いでこの場所に向かい。彼と共闘するためにこの場に来た。その二人の様子を見たシドウは少し驚いたような顔をしてからその口を開いた。その口調はまるで年下の者を見下すかのようであった。

「君たちがここに来たということは。僕の目的が果たされたということだね。それでこの先に居る魔王を倒したんだね?さすがに今の僕は魔王の力を使えるようにはなっていない。その状況で魔王が復活していたら。この国は終わっていたかもしれないからね。本当に良かったよ。でもそんな状況で僕がここに来たってことは魔王が復活したのかな?まぁどちらにしてもここで君たちを始末しなければいけないようだね。この国の人たちを守るためにね。それがこの世界に生きるものとしての役目だろう」

「待って下さい!我々は貴殿と戦いたい訳ではないのです。貴女がここに来た理由は我々の目的の為なのです」

その言葉を聞いても彼は警戒を解くことはなく。その視線にはコウたちに向けられる殺気がこもっている。その殺意を感じ取ったのかクロはすぐにコウの前に立つ。そんなクロの姿を見ながらコウは苦笑いを浮かべるが、すぐに真剣な表情になる。

(確かに今のあいつの強さはヤバイ。でも俺は絶対に負けられねえんだよな。だって俺が負けたらこの世界を救うことができなくなるかもしれねぇからな)

「コウ様はお下がりください。貴女の手に余るようであれば、我々が対処致します」

「いやいやいや、俺はお前たちの主人だってことをもう忘れてるんじゃないだろうな?だったらお前たちに指示を出しながら戦うことになる。そんな器用なことは俺にはできねぇ。だったら俺にも手伝わせろ」

コウの気持ちはクロたちも理解はしているが。相手がシドウの場合は一人で戦わせた方が良いのではないかと考えてしまうのである。なぜなら彼は今まで魔王と戦っており、魔王との戦いを経験しているのはシドウだけであるからだ。コウはまだ一度も魔王と戦ったことがない為、どんな戦いをすることになるのかわからないのだ。しかし相手の方が強いことは理解できるので。今回は一人で戦わせるしかないと考えているのである。

「分かりました。しかし相手の力がどれほどのものなのかまだ分からない状態なので。まずは私が先陣を切ります。ですから、その間にコウ様には何がなんでも勝機を生み出してください」

その提案にユナとリリアも続く。

「その通りじゃな。主よ今回もお主にばかりに負担をかけさせぬから安心するのじゃ。今度は妾たちに任せても構わぬのじゃ」

「そうだぜコウ兄。あんたが無理する必要なんてどこにもない。私達全員でやればいいだけだ」

「分かったお前たちを信じてみるよ」

その三人の意見を聞いた後。すぐに彼らはそれぞれの武器を構える。それと同時に魔王の配下であった者たちとの戦闘が開始される。しかし彼らの目の前に立っているシドウが簡単にその攻撃を防いでいくのを見て、魔王の部下であったはずのその者達は絶望した表情を隠せなかったのであった。

しかしシドウが攻撃の態勢に移ったことにより。魔王軍に所属していたはずの者達は、魔王の部下ではなく。魔王を守る兵士としてその身を盾にして立ち塞がったのであった。しかしそれは彼らにとって自殺行為にしか過ぎなかったのである。

シドウはその二人を一瞬のうちに切り裂き倒す。それだけではなく残りの二人も同じように切り捨ててしまった。その光景を見たバラムは、この男が本気で戦っていたら自分たちも殺される可能性があると感じ、この男とは早く別れておきたいと考えていたのである。

その行動からバラムはコウ達がこの場に現れた時点で自分が生き残ることは不可能だと考えていた。だがそれでも自分の仲間達が死ぬのを黙って見届けているつもりはなかった。バラムはシドウがこちらに向かわない間に逃げることを決める。バラムは転移の能力を持っており、仲間と合流をした後は。すぐにここから逃げ出そうと考えているのである。そしてバラムがユズと配下達の元にたどり着くとそこには誰もいなかったのである。その事に気づき、バラムは焦りを感じたのだが。すぐに近くに気配を感じそちらを向くと、ユズがこちらに向かっているのを確認することができた。

「バラム様。ご無事で何より」

「お前が助けに来てくれたのか?それよりもユズお前の部下たちは?」

バラムがその問いを口にすると、バラムの後ろには部下の一人がいた。

「ユズさんに助けてもらったのですよバラム様」

「それは助かったな。だがその部下達と一緒に逃げたのではないのか?」

「その事については説明がありますので」

「ん?それはどういう意味だ?」

その疑問に答えようとした時に、突如上空に魔法が打ち出され、ユズ達の近くで爆発が起きた。それはまるで魔王がこの城にやってきた時の再現のような状況になった。その衝撃によりバラムは飛ばされて地面に叩きつけられる。

「クッ!なんなのだこれは!」

その質問に対してすぐにユズは回答する。

「恐らく、あそこに居る人物が、あの人を追い込んでいるんだと思います」

ユズの指さす方向には魔王軍が誇る幹部の一人である。バハムートと呼ばれる女性が居て、彼女は今あの『神滅覇王 』と言われる存在と死闘を繰り広げようとしていた。しかしそのバハムートはコウの攻撃を防ぐことで精一杯になっており、バハムートの方は攻めに出ることができなかった。その隙を狙ってコウの配下であるバアルたちが、この国に侵入した『魔族』たちを片付けてくれたのである。そのため今コウは一人だけになり、バラムに攻撃を仕掛けることができたのである。そのバラムの様子を確認したバラムは自分の死期を悟った。

「な、なんだ。まさかあれは『終末の神獣』ではないか!しかもその姿は、我の知っている奴と違う!という事は本当に復活しているのか!?そんな馬鹿なことがあるわけない。い、一体どうなっているんだ!」

そんなバラムの様子をユズは冷静に観察していた。バラムは、シドウの実力に驚愕してしまい動けない状態に陥てしまっているのである。その姿を見て、ユナは自分がこの国を守ろうとしていた気持ちが、どこかに行ってしまったことに気がつく。

その事に気づいたユズはすぐに、バラムの手を掴みその場から逃げ出す。そしてバタンと扉が開いた先に、バエルとカグヤたちが居る場所に辿り着く。そしてその状況を見ていたカグヤ達は驚いた様子を見せており、すぐにバラムのもとに駆け寄る。そしてそのバロムの近くにいたシドウは、この国を守っていた兵士たちを全て殺した。そしてその死体を踏みつぶしてからコウたちの方に歩いて来たのである。

「やぁ久しぶりだねコウ。君たちがここにやってきたということは、無事に僕の目的を果たすことが出来たようだね」

「ああ、お前の思惑通りに動いてやったぜ。これで約束は守ってもらうぞ」

コウの言葉を聞いてシドウは嬉しそうな表情をして笑みを見せる。

「君ならそう言ってくれると思っていたよ。僕の目的の為に君は本当に役に立ってくれたよ。本当に感謝するよ。これから君と会う時は君を殺すことになると思うけど。でもその前にちゃんと言っておくべきだろうから言うけれど。本当にありがとう。この世界で僕は一番の友達だよ」

「そりゃどーも。でもその友達っていうのが俺の命を狙う理由になるんだよな?それに俺の邪魔もするということだからよ。そんなの俺は認めねえよ。絶対に俺はお前を止める」

そのコウの態度を見て、彼は苦笑いをするがすぐに真面目な顔になる。

「残念だけど、僕には君の願いを聞き入れることは無理かもしれないね。僕が何故、魔王を蘇らせたと思っている?魔王の力を使うためさ。そしてその力を使えば君でもこの僕を倒すことができないはずだ。つまり君は僕には勝てないということだ」

「確かにお前は強いさ。それは俺が一番良く知ってるよ。でも魔王にはその力を使いこなした状態で戦ったことが一度もないから分からねぇ。それに、俺にはこいつらがついているからよ。どんな敵だって必ず倒す。だから魔王の力だって問題なく使いこなしてやる」

「フフフフハハッハハ。やっぱり君は面白い。こんな状況下でも諦めていない。でも、君には勝算はあるのか?魔王と対等な力を持つこの世界の最高戦力である勇者は死んだと聞いたよ。そんな相手と戦って君は勝てると本当に思っているのかい?」

「まぁな。こっちには俺の仲間がついてくれているからよ。そいつらが協力してくれれば、俺でも魔王と互角の戦いが出来る。まあ、俺は絶対にあいつらを死なせねえよ」

「へぇ、随分な余裕だね。でもその仲間はどこにいるんだい?ここにはもう来ているんじゃないだろう?」

そのシドウの指摘通りコウたちはすでにこの場所に来ていた。しかし、コウの側には誰もおらず、ユズやリリア、カグヤの姿もないのである。それを聞いたバラムは驚きの声を上げた。

「馬鹿を言うな貴様!なぜ仲間がいないんだ。まさか裏切ったのではあるまいな!」

「違うぜ、俺たちはみんなで戦って勝つ。そういう戦いをしているだけだ。この場にいないのは別の場所で戦ってくれているからに決まってるじゃねぇか」

「ふざけたことを言うな。仲間が戦ってるとは、この国にまだ侵入者がいるのか?」

「そうだよ。お前も見ただろ。魔王の側近が二人も倒されたんだぜ。それだけで、この戦いに勝ち目がないことが分かるだろ」

「そんなわけがあるか。相手は『聖天の聖女』に、『万死の天才』、『不死身の吸血鬼王』に、それにあの有名な『龍の巫女』と『悪魔』の力を宿す男と、この世界にただ一人存在するとされる最強の存在と言われている男。そんな化け物どもと戦っているのは『終末の騎士』に『大魔王の剣姫』と呼ばれているお前たち三人だけなんだぞ。いくら何でも無理に決まっている」

「おいお前、ちょっとその話について詳しく聞かせてもらおうか?」

バムはバツの悪そうな表情を見せてシドウの方を見てしまう。シドウが怒って当然の話を、自分はつい言ってしまったのである。しかし、シドウがバラムの言った内容に興味を持ったのは別の事だった。

(今、魔王軍の中に。僕のことをその呼び方で呼ぶ奴はもう居なかったはずだ。だとしたら誰だ?どうしてその呼び名で僕の事を呼ぶことができる?)

そしてバムに対してその事を問い質そうとしたその時であった。突然、コウの背後に一人の人物が現れる。その存在を感じたコウは、すぐにその方角に視線を向けるとそこには二人の男女がいたのである。その者達はコウの事を知っているらしく、いきなり襲い掛かってきた。

コウはその者達の攻撃を何とか避けるが、その攻撃は一撃必殺であり、まともに食らってしまえば即死は免れないほどの攻撃であった。そしてその者達の攻撃を避けることができたのは、バムがバハムートと戦闘をしていた時に使ったスキルの効果である『時間停止』のおかげであり、その効果が続いている間だけは敵の攻撃を回避することができていたのである。コウはその者達の動きをよく観察する。その動きは洗練されたものであって。この国の精鋭たちが使う剣術と同じものをコウは感じていたのである。その事から、コウはこの者達の強さがこの国でトップレベルの剣士達と変わらない実力を持っているのだと考えたが、その者たちが放つ技の数々を、この国の兵士で同じレベルに達する者は存在しないはずである。だからこそコウは油断せずに全力でその者達と戦った。その結果はコウの方が上回り、コウの勝利に終わったのである。

しかしその事によってコウの警戒心は強くなり、コウに攻撃を仕掛けて来たその二人の内一人は、自分の放った剣撃を避けられるという事を知って、即座にもう一人の女の方にその場を譲った。それにより、シドウに襲い掛かる事ができなくなったのである。

その事に対してシドウは舌打ちをする。目の前にいるこの男の事は、先ほどコウと話していたことである程度は知っていたが、実際に手合せしたことはなかったのである。そのためシドウは目の前の男の強さがどれほどのものなのか全く分からないのだ。だから目の前に現れた男がどれ程の実力者なのかどうかを確かめるためにシドウは攻撃を仕掛けることにした。シドウは神威流の基本型を使って戦うが、その全ては簡単に防がれてしまったのである。

そのことに驚くが、同時にこの男と戦うことが非常に面倒だと思った。その男はあまりにも強すぎるのだ。この世界の人間が、神域の頂に立つ存在と言われる『英雄』の称号を持つ者で、ようやく対等に戦える強さを持っており、『超人』と呼ばれる存在ならこの世界でこの男の実力は互角に渡り合え、そして勝利する可能性がある。『賢者』ならば互角の戦いができ、その先の『魔人』まで行くとほぼ負けることは無くなると言われている。

シドウは目の前の男の力量は『聖人』と同等くらいに思っておいた方が良いと判断した。その事実に驚いたものの、目の前の相手が自分よりも上の実力者であるという事実を認めざるを得なかった。そのことから彼は一旦引いて、態勢を立て直すことにした。

だがシドウの考えは、この場での逃亡は不可能だと分かっていた。それはこの国の精鋭たちを相手にしてもこの男が勝ってしまうような相手に自分が逃げ切れる可能性は無いに等しいからである。

しかしだからと言って諦める訳にはいかない。何故なら自分が諦めてしまえばバラムの計画が実行され、この国が滅亡する未来しかないからであった。その為にも今はなんとかして生き延びなければいけないと考えた。そんな状況の中で現れた二人は一体どういう目的でこの場所にやってきたのかを考えてみると答えはすぐに分かった。

「どうも皆さん初めまして。私は魔王軍最高幹部の一人『死神』と呼ばれて恐れられている者です。貴方たちはここで何をしているんですかね?魔王軍の計画を阻止する為に私たちを倒しに来たんですよね?」

「そういうことか。お前が僕の邪魔をするためにここに向かってきていたというわけか」

「そういうことになりますね。私の仕事は本来なら貴方の始末なのですけど、今回の魔王様の指示は魔王軍の戦力を削る事なのですよ。なので私がここにやって来た理由は魔王様から受けた指示を実行する為の行動に過ぎません」

「お前たちが、この僕たちの計画を阻む障害となると言うのか。ふざけるなよ。そんなことは許されない」

「別にいいじゃないですか?貴方たちには関係のない事でしょう。それに貴方たちは魔王様に勝てると思っているのですか?仮にもし勝てるとしても、そんな危険な賭けに打って出る必要はないでしょう?ここは大人しく、我々の作戦通りに行動してくれればいいだけなのですよ?」

「黙れ、貴様が言っている事は全部デタラメだ!!貴様のような輩の言葉など信用できるはずもない」

シドウはシウに攻撃を仕掛けるがシロウはそれを軽々と避ける。

「そうそう、魔王様はもうすでに次の計画に移りました。この国は魔王様の手の平の上で動いているようなものですね」

その言葉がシドウの怒りを更に煽り、シドウの攻撃を激しさを増したのだが、その全てを簡単に避けられてしまう結果になってしまう。

(まずいな。この男はかなり強い。それにさっきから隙を見せないように立ち回っているから。下手に動けない)

「まぁ、こんな所で話していても時間の無駄ですし。さっさと終わらせましょうか。さあ行きなさい私の可愛い子達」

(なんだ?さっきも思ったけれど、こいつは自分の能力のことを自分の子供だと言ったよな?ということはこいつ自身の肉体が子供ということだよな?でもこいつは男だぞ?なのに子供が作れるっていうのか?)

そんな疑問を抱いたまま、突然シドウの背後から、無数の魔法による攻撃が飛んできた。それを咄嵯に回避するとシウの姿はすでにそこにはなかった。おそらくどこかに隠れているのだろうとは予想していたが、どこに隠れているのかまでは分からなかったのである。しかしシウの能力はある程度把握していたので、それを利用してシドウはシロウを見つけることに成功した。

シウルはその光景を見て、この男がなぜ自分の能力を暴けたのかが分からなかった。

(確かに俺は自分のことを人間ではないと言いはしたが、まさかそれが分かるとは。この男はやはり只者ではないな。これは本当に少し本気で戦わなければ危ういか?この俺の力をもってしても、あの魔王軍には絶対に敵わないからな。あいつらが本気になれば世界を滅ぼすことなど造作もない。そうなる前に、あの計画の発動を成功させないとな。そのためにもあいつらの力が必要だ。俺はあいつらを利用させて貰おう。あいつらを利用する事で、俺が生き残る事ができるかもしれないのだからな。フッハハハッハ、これからが楽しみだぜ。早く帰ってこいよ。俺の計画のためにもお前らは必要なんだ。そしてお前も魔王城に来てもらうぜ、コウ、ユズさんよぉ!まあいざとなったらコウの奴は殺せと言われてはいるが、ユズちゃんの方はできれば殺したくない。だから連れてきたんだよ。その方が楽しめるからよぉ!そして俺の悲願を達成するのに必要なのはこの世界を滅ぼしかねない存在だけだ)そんな事を考えていたのであった。

シウロはその攻撃を回避できなかったのではなく。あえてしなかったのである。その証拠にシドウは攻撃した直後に、その場所から離れていったからだ。

しかし、攻撃を受けた場所からは誰も出てこなかった。そのことからこの部屋の中に潜んでいるであろうバラムの配下を倒す事に決めた。

(この場に居るやつを全員倒せば問題ないだろうな。バラムを先に潰しておくか。それともこの国の兵士達に攻撃させるのが早いか。だがそうなると、確実に兵士に犠牲が出ることになるだろう。なら俺の一撃で決めるか?それでバラムさえ倒せればバラムに命令されている奴らも何もしてこないだろうしな。そうなったら残った奴は俺一人でもなんとかなるだろう。よし、やってみるか。神威流抜刀術

『居合斬り』、これがこの技の名前だった。この技を使うと決まった時にバムに言われたのである。この技だけは名前をつけろと。だからつけた。『居合斬り』という名前をな。シロウは鞘に収めていた聖魔鉄で出来た大剣を抜いて構えを取ると、剣の腹の部分にある溝が光り輝くとそのままの状態で静止する。そして、次の瞬間。剣の刃に風を纏い。高速回転を始めたのである。その状態でシロウはその場を動かずに剣を振り切る体勢に入った。その事に気付いた者達はシドウと同じようにその場から離れる。シドウに攻撃を仕掛けた二人の男はその行動は遅かったため、その者達はそのままシロウに切り裂かれてしまい絶命する事になった。

その様子を見てシロウはシドウに向けて、

「残念だが、ここから先へは進ませられない。なぜならこの先に行くというのなら僕はお前を殺してこの国の者達も殺すしかないからだ。それに君はまだ本当の力を解放させていないのは分かっている」

「ほお、ならお前に出来るか試してみるか?僕の全力を受けきれるかな?」

その言葉を聞いた時、バラムはコウとユズが動き出す事を悟ったのである。

シウとシロウが戦っている中でコウとシユとユウはお互いに目配らせをする。そして三人がかりならばこの状況を打破できると考え、三人はシロウに攻撃を仕掛けようとしたのである。しかしシロウの方が早かった。

シロウは、その場から姿を消すと、次の一瞬にしてシロウの目の前までコウ達は迫っていた。その速度はとても人間が反応できるよう速さではなく、コウ達ですらシロウの動きについて行く事が出来ず、その場に取り残されることになったのである。そしてそんなコウ達にシロウは攻撃を仕掛けるのだが、そんな攻撃を防げる者はこの場には存在せず、三人ともその場で殺されてしまうのであった。

(こいつらは雑魚だ。だがこいつらに殺された兵士たちはこの国の中ではそこそこの強さを持った者達なのだが、それでも魔王軍の幹部の一人であるこの俺に敵うわけがないのだ。それにこいつらが死ねば魔王軍は俺の言う事を聞かざる得なくなるのだ。ならば今は放っておいても問題はない)

そう考えて、シドウの戦いを見届けることにしたのであった。

「おい、どうしたんだ?俺が思っていたよりもお前の力は弱いみたいだな」

そう言って余裕の笑みを浮かべながら剣を振るうシドウに対して全く歯が立たないシウに対して。バナムの配下たちは、自分たちの王を守る為の盾としてしか考えていなかった為に、自分たちが戦うという考えが一切頭の中から抜けてしまっていた為、誰一人としてこの場で動くものはいなかったのである。

そんな中でシウが放った一言はシドウの怒りを買うことになり、彼は怒りのままに攻撃を仕掛ける事になる。しかしその動きすらも、バラムからの命令によって、シウと戦うように命じられた者にとってはどうすることも出来ない程の圧倒的な実力の差が存在していた。

シロウも自分が加勢するまでもなく決着がつくと思い、このまま黙って見ていようと決めた。

しかし、それはシウの行動により、すぐに終わることになってしまう。彼は自分の体の周りを覆っていた魔法を全て解いたのだ。

(あれを無力化したのか!?)

その事実を知って驚いたのがいけなかったのか、それとも自分の攻撃が全く当たらない事に苛立ったせいなのか分からないが、その時、無意識的にシロウはある行動を起こしてしまったのである。

(しまった!)と思った時には既に遅い。なぜならその行為を起こしたのが失敗だったということではないからである。シウがその行為をしなければ勝てた可能性もあったし、何の問題もなかったはずなのに。何故ならこの攻撃には大きなリスクがあるからだ。もし、シロウが本当にシウを殺すつもりで、シウの体をバラバラに切り刻んでしまえば、その行為は実行されてしまう可能性があったのである。

そしてシウがそれをしなかった理由は二つあった。まず一つ目が単純にシウにはシロウを攻撃するつもりがなかった為である。だがそれだけで攻撃を躊躇していた訳ではない。その理由としては、もう一つが、バムがシドウが負けた時のことを考えたのか、シウの攻撃で死んだ場合はバルムには分かるようになっていると言っていたからであり、もしもこの攻撃を受けてしまうとその攻撃をした者に殺される可能性もあるから、それを避けるために、シドウは自分の攻撃で殺さなかったのである。

(これはマズイ!!こんなに隙だらけな攻撃を僕が喰らう訳がないだろう。さっきは運良く避けることができたが、今度はもう無理だな。仕方ない)

「『空間転移』」

「なっ!!消えただと?くそっ!一体どこに行きやがった」

シドウは慌てて辺りを探索するが、もうそこにはシウの姿はなく、シロウだけが残っている状況だった。

シロウはそんな状況を気にせずにシドウに向かって言葉をかける。

「これで君の負けは決定した。まだやる気が残ってるのであれば今すぐかかってくるといい」

その言葉をシドウは鼻で笑うと。

「そんなに戦いたいのなら、この俺様自ら相手をしてやるぜ!!」

シロウの言葉を受けて挑発を受けたシドウがシロウに襲いかかろうとしたところで。バハムートの声によってその行為は止められる事になった。

その言葉を聞いた瞬間に、二人は同時にその場所から離れたのである。そして、その場所には何もいなかったかのように静寂に包まれていったのであった。

(バムに呼ばれたか、あいつらめ俺達の計画に気づいてるっていうのか?)

その問いの答えが分かるまでは迂闊には動けなくなったシロウだが。それでもここで引き下がるわけにはいかないと考えていたのである。

(俺達がやるべき事は、魔王を目覚めさせることだけだ。それ以外はあいつらがどうにかしてくれるからな。魔王さえ目覚めれば後はどうにでもなる。それこそが俺の悲願なんだからな。だからこの場にいる者達も魔王が復活してからの邪魔になりそうな存在も始末しなければならない。この国ごと破壊してな。それが俺に与えられた役目だと思っている。俺の能力は魔王様に与えられているのだから、俺は魔王軍幹部の中でも強いほうの実力者であると自分では思っているからな。だから俺がここに居るという事が何よりの証拠だろう。俺以外の魔王軍の幹部は全員があのお方についているのだからな。あの方は素晴らしい。だからこそ俺もあの方について行こうと思った。まあいざとなれば俺は逃げ出せる。魔王を目覚めさせればバラムも手出しが出来なくなるだろう。そのタイミングを逃さずに逃げる事にしよう)

「なあ、君達の目的はバラムを倒す事でいいんだよな?それなら協力してあげようじゃないか。その代わり、俺に協力してくれよ。君は魔王を復活させようとしているのは分かっているが、俺は違うんだ。ただ、バムは少し勘違いをしているようでね。僕は、本当は人間と魔族との戦争なんてしたくないんだけど、このまま放置すると世界が崩壊しかねないと、そう言われちゃってさ。だから仕方なくこの争いを止めるために動いているんだ。それに僕の目的は戦争を終わらせることであって、魔族の王をこの世から消すことではない。その為にこの場に存在している者たちの殲滅を行う必要がある。だけど、この国の住民を傷つけるのは、この国の王様が可哀想で、出来ない。それに魔王の復活にも関わる可能性がある事だと思う。それに魔王を倒せる程の力を秘めているのは間違いないし、君もバラムに利用されていてるんじゃないのかな?」

シロウはコウとシユに対してその考えを伝えたが。

コウは納得できない表情をしながら。

「あんたの話が全部本当かどうか確かめることは出来るけど、それよりもまず先にこの国から脱出することが最優先だと考えた。だから俺達に協力したいというのなら勝手にしろ。俺達も好きにさせてもらうから」

そう言い捨てるとシウはバハムートと共に姿を消したのである。その事にシユとユウは驚いていたが、コウはそこまで驚くことなく、冷静に物事を考えていた。

シウは、自分にとって一番大事な事、それはバムに言われた通りにこの国に住む人々を皆殺しにすることではないと。バラムが言うような事は決して正しいわけではないと分かっていた。だけど自分がバラムに対して反抗するということはこの国に住む人々の命を見殺しにするということであるのを理解していた。ならば自分がすべきことはこの国に住んでいる人々を助ける事だと判断したのである。そしてコウは自分達を助けてくれた人物がいる。その人物は恐らくシウよりも強くて。自分達では敵わない相手なのはコウ自身が理解していたのである。

しかしシロウは、この国に居たバラムの手下の者を全て殺したコウ達を危険視しており、自分の計画が狂ってしまったことに対して、コウの目の前でシロウは頭を抱えて、怒りに身を任せるように叫んだのである。

「ちくしょう!!!こうなったのも全てお前のせいだぞバラム。絶対に後悔させてやる。いや待ってろよ。すぐに殺してやる。そして、この手でお前を殺すまで何回だって生まれ変わってやる」

そして怒りに燃えながらシロウがその場から立ち去ろうとすると、その時シロウに影が覆うことになったのだ。シロウはその事に気が付き後ろを振り向くとそこには一人の青年が立ち尽くしているのを見て。

(こいつはさっきまでのガキか?どうして俺に攻撃を仕掛けてくるんだ?この場で俺を殺そうというのか?それは困るな。今こいつらに手を出せばこの国が滅んでしまう恐れがある。そうか!こいつらがバムが言っていた。バナムの計画を壊したっていう者達だな。ならば尚更こいつらは生かしてはいけないな。俺もこいつらの事はバムから聞いて知っている。ならばまずはこの者達を殺すところから始めなければ、この計画も無意味なものになる)

「悪いが死んでもらうぜ!」

その一言をきっかけに戦いが始まる。バロムは、シロウの能力については知っていたが、その能力を使う場面を見ていなかったために、シロウの動きに対して全く反応する事が出来ずにいたのである。シロウもシウとの戦いの中で得た情報によってバラムは自分に干渉する事は不可能だと知ってはいるが、念の為に確認を取ることにした。その結果。シロウの予想通りの結果となる。

(この様子じゃこの男は本当に何も知らないようだな。しかしこれはチャンスかもしれないな。今のこの状況で俺に攻撃を仕掛けて来ると言うことは、自分がこの男の能力を無効化したからといって油断はできないという事になるな。つまり、この男には何らかの特殊な力があって。それは他の奴らも同じという事なのだ。それに加えて俺は今一人で戦ってるわけじゃないのだ。ここには俺の味方がいないのだから)

シロウは自分の周囲にいる仲間がシウの仲間たちだけである事を瞬時に悟った為に。ここでシロウの取れる手段は一つしか思い浮かぶことが出来なかった。

それはシロウの持っている最大の切り札を使うことである。その方法はシローにとってかなりのリスクのある行動であったが、シロウの覚悟は決まっている。その覚悟を決めるのに躊躇する必要もなく、シロウはすぐに行動に移した。その行動はあまりにも突然だった為、シロウはシウに対して攻撃をする前に攻撃される事になってしまったのである。

「この一撃に耐えられるかな?」

シロウのその声に何かあると思ったシウだったが、もうすでに遅かった。

「俺の奥義!『絶対切断』」

その攻撃が放たれたと同時にシロウの周りにある物がまるでバターのように切れてしまった。そしてそれと同時にシロウの姿も消えていってしまうのであった。

シロウは奥の手を使ってシウの前から姿を消したのだが。

(やはりダメだったか。これで完全にこの国は滅ぶことになるな。まあ元々俺はこの国に復讐をするつもりでここにやってきた。それが目的を果たす前に死ぬことになろうとも、俺にとっては問題ではないからな。それに俺はこの世界の魔王の器を持っている。もし仮に俺の身に何かが起きたとしてもバラムはもうこの世には存在しないから俺の存在も消える。それが俺の目的でもある。だからこそ魔王を復活させなければならない。その為にはどうしてもバラムの力が必要なんだよ。その為に俺は今まで頑張ってきたのだからな)

シロウがそんな事を考えながら自分の死を受け入れようとしていたところでシロウはある光景が目に入った。それはコウとシイとシウがバハムートと一緒にこの場所に現れ、バラムに向かって攻撃を仕掛けるところだったからである。

その光景を見ていたシロウは驚いた。まさかまだ生きていたとは思わなかったからであり、そしてシロウ自身もあの状態から生きて戻れるはずがないと確信してしまっていたため、シロウにとってシロウの作戦は失敗に終わったと思っていたが、実際はシロウの方が追い詰められていたことに気づいていなかった。

その光景を見た瞬間にシロウは自分の体が震え始めたのである。その震えの根源は恐怖心からであった。シロウは自分の死を悟った瞬間に、あの時自分が取った行動に悔いを残していたのである。その事が原因でシロウは自分が殺されるという事に対する恐怖を無意識のうちにも感じてしまったからこそ起きた震えなのである。

(あそこに俺の仲間がいる。だがあいつらを庇いながら戦っても勝ち目はないだろう。ならいっその事あの男だけは俺の手で殺したいな。まあ俺が死んだあとに誰かがどうにかしてくれるはずだからな。だから俺の邪魔をしない奴だけなら別に構わないよな。バムの言う事を聞いていた奴らがあの方についていくかどうかは知らんけどな)

そしてバラムは、自分の命と引き換えに最後の力を使いシロウを道連れにして、その姿を消していったのである。しかしその事で、この国の民達からは救世主として崇められたのである。

その事が分かったのはバロウを消滅させた直後である。そしてその事は、その場に居た全員に伝わっていた。そしてその事はユウ達に衝撃を与えたのである。シロウの事はユウにとって、自分達の命の恩人であるために、バムに利用されながらも最後まで自分の意志を貫き通していた人物であり。尊敬できる人物であったのだ。その人が殺されたことにショックを受けたのは言うまでもない事である。ユウにとってこの国の王は大切な人でもあり。ユウ自身この国に住む人たちを大切に思っているから。その気持ちはとても強かったのである。

しかしそんな事をユウ達が思っている中でもシウル達はバラムの事を憎んでいたのである。シウも当然の事だと思った。自分と同じ魔王の器を持っていて。自分と同じように魔王を目覚めさせることが目的なのに。それなのに自分以外の魔族達を洗脳するような行為をしていたからだ。

それにバロウのやったことは許されないことだと思うし。それにバロウの行動は魔王復活を目的としているようには見えなかったのも気になったのである。その事がずっと頭の中にあったのでシウはその事も考えながらこれからどうするか悩んでいたのである。そのシロウの悩みは、この国の人達を助けたいという思いと。この国を滅ぼしたいという感情がせめぎ合っていたのである。

シロウ達を倒した後にコウとシユはユウに話したいことがあると言われ。二人はユウに連れられてユウの家に向かうことになったのである。そして家に着いた途端にコウは直ぐにでもシロウが居た所に行きたいと言い出して、今すぐ行くべきだとシユに対して言い始める。それに対してシウは、ユウがコウの言う事を聞き入れない事は目に見えていたので。まずはシウから話す事にした。すると案の定、コウの言葉は受け入れられる事は無かったのである。

「まず、シロウの事は残念だと思っている。それは本当だ。俺達三人であいつに挑みに行ったのに結局何もできずに終わった。シロウがあいつを道ずれにした時に使った力はおそらく神の力だと思うが。シロウはバラムの力ではないと言っていたが、本当にそうなのか分からないしな。だけどあいつはバムの事を知っていたようだけど、この国に復讐するために戻ってきたのだとは言っていた」

「シロウさんがバラムを知っている理由については確かに疑問に思ったところだよ。バロムさんと何か繋がりがあるという事なのか、あるいは偶然か。どちらかわからないよね」

シウがバラムの名前を出したのはあくまでもシロウの言った事が気になっていたという理由だけで、それ以上深く考えていたわけではない。それなのにシユの口からは、その話題に触れない方が良いという言葉が出てくる。

「その話はとりあえずやめておいた方がいいと思うよ。僕もシロウさんの話を聞いた時は信じられなかったからね。シロウさんが嘘をつくような人だったなんて思いたくもなかったから。だからバロウの事をシロウさんの口から直接聞きたかったのに、何も言わずにそのまま死んじゃうんだもんな。でもさ。今は落ち込んでいる場合じゃないよ。それよりも早くバムを止めないと」

コウの話に、今度はシロウの代わりにシイが答えてくれる。シロウが死んだことで動揺して、コウの頭の中では自分がバラムを止めるしかないと考えているようで、他の人に迷惑をかけたくないという思いがそうさせているようだ。

しかしそんな話をしている間にシユと、そしてサランとシウロは今後の行動についての話し合いを行っていたのである。そしてその結果。サランはシウがバラムに勝つための手伝いをする為にバラムを倒す為に戦う準備を整えることを。そしてシウはバラムに操られている人を元に戻すことを優先して行うことに決めたのである。

その話し合いが終わり皆が寝静まったところで、ユウとサリアだけが起きており二人でお酒を飲んだりして、夜を過ごしていく。そしてシロウ達の件で少し元気がなかった二人に、ユウから話し掛ける。

「こんな状況で言う事じゃないかもしなけど、この国で起きている異変が収まるまでは一緒にこの国で生活しよう」

その言葉を聞いたサリンはすぐに笑顔になって答える。

「うん!もちろん!」

ササランは即答で返事をした。そしてそれに続いてサリオも答えたのである。

「私も問題ありません。それにバム様の事を倒さなければならないのであればこの国に滞在していては危険でしょうから。この国から離れる必要があると思います」

二人がその言葉を言い終わった瞬間に。サリンは少し不安そうな表情をして聞いてしまう。

その行動がシロウに裏切られたことを思い出してしまったからだろうが。それでもやはりサロウの事が気がかりなのは変わらない。それに今のこの国がバムに支配されていることを考えるとその可能性は高い。

「私は正直この国から出なくても良いと思っているの。この国にだって悪い人ばっかりではないはずだから。その証拠に私のお母さんが、この国の王妃だったの」

「へぇー、やっぱりそうだったんだ。私はてっきりシウが王様なんだと思ってた。ほら、いつも偉い人の前に行くと顔色が変わるっていうかさ。そういう感じになるし」

シユの何気なく言ったその言葉に対して、ササンは反応することは無かった。ただ、その事を言われた瞬間に、一瞬だけ寂しいというか悲しい顔をしただけだった。その事で何か思う事があったシロウは、この国に来てから感じていた違和感の正体が何と無く分かった気がするのであった。

バハムートの城にいる間は、特に気にする必要はなかったのだが、バラムを倒してから、この国は急激に変わり始めてしまった。この国は、魔王の力により魔物達を従える事によって、魔王軍の配下になっていると思われていたのだが。実際は違ったのである。

この国の民は、元々バラムの配下の者達だったのだ。バロウがバハムートにバラムが支配されているという事実を伝えた時に、それを信じる者は少なかったのである。その為、民のほとんどがバロニア王国側に付き始めたのだ。その事に気づいたバムはすぐにバロニアに戦争を仕掛けようとしたのであるが、その時にバロウが現れバムを説得したことでバムはこの国の支配を手放す事に決めたのである。

ただその後の事も考えて、この国はバロウの物となったままではあるのだが。そしてこの時からこの国の王がバロウという事になっていたのである。それからというもの。この国の人達は完全にバラムを信じてしまいバロニアに攻め込むことも無くなったのであった。

それだけではなくこの国には魔王軍に所属する魔族たちが住み着いているためにこの国の王に逆らおうという者は、誰もいないほどにバロウは絶対的な信頼を置かれている存在になってしまったのである。

しかし、その事についてはシロウもあまり良く思っていないのである。それはこの国の魔族達が自分達の仲間を殺している現場を見てしまったためにこの国を救いたいという考えを持っているからである。

そのためにもバロウだけはシロウ自身が殺さなければいけないと感じているため、どうにかバムを殺す方法を探しているのだが今のところ良い案が出ていないのである。そこでシウはバムの事を知っているかもしれないシロウの事について考えることにした。

(シロウについて調べても何も情報が出てこないんだよな。シロウって一体何者なのだろうか?そもそもこの国の王族の一人が俺と同じ勇者の血を引いているとか言っていたが。そのせいもあってシロウの実力は俺以上なのかもしれねえよな。まあ実際に戦ってみなければわかんないだろうな)

(シロウについての情報か、確かバムが言っていたことに気になることがあって。俺と同じように異世界から召喚されてこちらの世界に来たとかいうことはバロウが話していた事だから本当の事だと思うが。俺と同じ時期に飛ばされたという事が引っかかるんだよな)

バラムからその事を聞かされていた時には、そこまで重要視していなかったシロウだが、この国の人のために戦う覚悟を決めてくれているという事を嬉しく思っていたのである。そしてシロウと会う機会はあったのにもかかわらず今までずっと放置していたことに罪悪感を感じながらも、ユウ達と共にシロウの元に向かうことにしたのである。

しかしそんな事を考えていた時に突然後ろからシウの事を呼ぶ声が聞こえてきた。

「シウ。今すぐこの場から離れろ」その声でシウはその声がバムの声だということに気がついたのである。シロウと会っている時に何度か聞いたことのある声なのですぐに誰なのか分かる。

「えっ!どう言うこと?」シウは思わず疑問を口にしてしまった。そのシウの言葉に対してすぐに返答が返ってくることはなく、代わりにその言葉を言ってきた本人であろうバロムの姿がそこに現れた。その瞬間にバロウとバビの二人ともバムの魔力に侵食されてしまったのである。そしてその時の光景はバロウの時に見ていたものとはまるで別物のように感じる程、バロウの時は綺麗なものに見えたが、今は醜いものにしか見えない。その姿を見たバロウは自分の仲間だと思っていた者たちを容赦なく殺し始めていたのである。

そして、それがバルムの作戦だと気づいた時はすでに遅し、既にシロウ達はバルムに取り憑かれた状態で殺されてしまった後でありバームを元に戻す方法はなくなっていた。しかしシウだけは、自分の体を強化してその場から逃れようとはしたが、バハムの魔力の影響で体が言うことを聞かずそのまま動けなくなってしまう。そしてその後シウの意識は無くなってしまうのであった。

ユウは今起きている状況を冷静に見つめ直していると、そこにはバムに殺された仲間たちの死体が横たわっていた。それを見てユウは怒りを抑えきれずに剣を抜いてバラムに斬りかかってしまったが簡単に受け止められてしまう。

しかしシウロの攻撃は上手く入りバハムはダメージを負う。

バハムの体は鎧で覆われていて生身の部分が見えないので攻撃を当てにくい。それにこの鎧がかなりの硬さを持っており普通の武器ではほとんどダメージを与えることはできないほどであるため、まともに傷をつけることができるのは同じ魔装を身につけたものだけであると言えるだろう。それ故にこの鎧を破壊するためには聖属性を使う必要がある。そしてその聖属性を扱う事が出来る人物は少ない。なぜならこの国では魔装を身に付けている人間自体が少ないため、さらに聖属性を扱うことが出来る人間が限られているためである。

そのためこの場でこの国で一番の戦力を持っていたバムを倒すことは実質不可能に近いと言えた。それならばまずはバムが取り憑かれていると思われる状態から抜け出す為、動きを止めようとするのだが、そんな簡単な事で止まってくれるほど、相手は甘くはない。

そんなことを思いながらシウは、何とかしてバハムの動きを止める方法を必死に考える。そして思いついた方法が一つだけ存在した。

しかし、それを行う為にはリスクがあまりにも高すぎる。

バムの体にバハムが取り込んだバロビアの魂を分離させてしまえばいいのだ。

そしてそれを行うための方法を考えたのだが、バロウはバラムに取り込まれた後、体の主導権を奪うために使われたがためにすでに魂が消えてしまっている。しかし完全に消えたわけではなくバハムに吸収させられたのでその分が少し残っているのである。つまり、まだ希望があるのだと言う事である。

しかしその方法でも成功確率がかなり低い。それは、相手の魂を吸収する事はできるのだが。逆に相手が持っているスキルを使うことができる。バロリアはシウロの固有能力の一つである。【解析】の使い手である。その能力を使ってバハムがバラムを取り込んでいるという事も確認したのだが、バハムにはバラムから奪い取ったであろう【洗脳操作】の能力があるため、おそらくシウル達の心を操る事ができるはずなのだ。

そのためバロビアの魂を取り出した場合。今度はバロウの心が操られてしまう可能性が高くなるということだからである。

「ふはははは、この国はもう私の支配下に入ったのだ!」

そう言い放った瞬間にバハムの体がどんどん変化していったのである。そしてバロウが身に付けていた防具などがそのまま巨大化していき。巨大なバハムになったのであった。

バロンは、シロウ達を倒したことで気分が良くなっていた。

(流石私だ。こんな雑魚相手に手間取ってどうするのか)「お前らこの国を救ってやった私に対する礼としてこれから死ぬ準備をしておけよ」

その言葉を聞いた兵士たちは絶望に打ちひしがれていたが。それでも兵士としての誇りが残っている者は、せめてバロムに殺されるのではなく自ら命を絶とうと死地に赴く決意を固める。

しかしバロミア達だけは違ったのである。バロミアと、バロミンには、どうしても守りたい者が居たからだ。だからこそバロミアはバハムに立ち向かっていった。しかしバハムは圧倒的な力でバロミアと、バロミンを一瞬にして殺そうとするのだが、その前にシウが現れて、二人の事をかばうようにバハムと二人の間に立ったのである。そしてバムをシウはバハムの攻撃を受け止めたのである。そしてその間にバロミアンと、バロバロの二人がバロミアンに何かを話しているようだった。するとその途端に二人から強い魔力を感じたのであった。

シロウは目を覚ますとそこは知らない部屋だった。その部屋には誰もいないが部屋の中を見渡していると扉の前に一人の男がいる事に気がついたのである。

(あいつ、一体なんなんだ?見た感じ怪しい感じはするけど特に害が無さそうだし。今は放っておくことにしようかな)

シロウが考え事をやめて、とりあえずベッドに腰掛けると。男が話しかけてきた。『やあ!初めましてだね。俺はシロウって名前なんだけど君の名前は?』

その男は笑顔を浮かべると自己紹介してきた。

その様子はどう見ても人当たりの良さそうな青年に見える。その見た目はユウよりも若々しく見えている。しかしユウとは違い髪の色は白髪に青い瞳をした姿になっている。

そして、シロウの格好は白いワイシャツを上から着ており、その下からは黒のズボンが見えている。その容姿はユウと同じような服装だが。その着ている物はユウとは比べ物にならないほど良い物を着ていることがわかる。

シロウという存在が目の前に現れている状況に困惑していると。再び声をかけられてしまった。

『ねぇ!聞いているの?無視しないでくれる』

(んっ!こいつは本当に何者なんだよ?いきなり話しかけてくるとか何考えてんだ?)シロウに対して疑問を持っているとその疑問が解けないと答えられないと思ったので。まずは、シロウのことを知ろうと話しかけることにした。

「あんた何者だよ」

シロウに問いただすとシロウはその答えを待っていたかのように嬉しそうに話し始める。

そして話を聞くとどうやらシロウは、シロウと同じ異世界からやって来たらしい。それでこちらの世界では珍しい固有能力を持つ者だと言っていた。その話を聞き、こちらの世界に来てから自分のステータスが上がっていることやシロウがシロウとまったく同じ容姿をしていることからこのシロウが自分の世界にいた俺の代わりのようだということは予想できた。そしてこのシロウの話からするとこの世界の俺の役目はこの世界を救済する事のようだな。このシロウの話を信じる限り俺と同じような使命を受けている奴のようだ。

それならこの世界の俺の敵になっていなければいいのだが、まあ大丈夫だろうな。それに、俺のステータスを見るにこいつの強さはかなりのものだとは思うが。今の俺の方が強くなっているみたいだしな。だから俺とシロウが戦うような事は無いはずだな。

『おい、俺を無視するな!』シロウは突然そんな事を言って来たがそんな事を言ってもこの世界の俺はシロウに会ったことはないはずなのだが。

「はぁ、なんのことか分からないけど、とにかくあんたがここにいたんじゃ迷惑なんだ。悪いが出て行ってくれないか?」シロウはそんな事を言っているが、俺はシロウに対して全く脅威は抱かなかったのである。だから、シロウを追い出そうとするが。シロウは、その行動が気に食わなかったようで、不機嫌になるのだが、その後すぐに笑顔になりこう言った。

「いーじゃん、暇つぶしに相手してくれたって」

その態度を見て、どうやらシロウは俺の事が気に入ってくれたらしく、シロウに気に入られてしまった。そのため仕方なくシロウの話に付き合うことになったのである。そしてしばらくシロウと話して分かった事がある。それは、シロウは自分の強さを誇示するために。あえてユウが持っている剣を使っているのだが。ユウとシロウが戦ってもユウは負けないだろうと思える程の差がついてしまっていたのである。

それどころかユウには全く隙が無くなってしまっていて、もはやユウは無敵に近い状態になっていた。

シロウの実力は相当なものなので、シロウとユウが本気で戦ったらシロウがユウに勝てる見込みはまず無いと言えるだろう。

しかし、シロウに剣を教えてもらい。ユウの剣の実力はかなり向上していたのである。それからシロウに戦い方を習い。ユウとシロウは共に強くなるために一緒に訓練していくのであった。

ユウは久しぶりに夢を見て思い出に浸っていた。

それはこの世界での自分との出会いである。この世界に自分が来るまでの記憶を見てユウはあることを思い付いたのであった。それは自分の体についてである。実はこの世界に来る前の俺は体が全く動かせなかったのだが、この世界では普通に動けるように体が変化をしている。その理由としてはこの世界に来た時にこの世界の女神であるユミルが加護をくれていた。

その内容は、この世界では女神の加護を授かることにより、身体能力が上昇するという物であるのだが、それ以外にもユミルの願いにより俺を生き返らせることを可能にしてくれたという物があった。

そして俺はユキルとクロに別れを告げた後。この世界の魔王を倒してこの世界を救う為。仲間とともに旅に出て。その先で俺はある出会いを果たすことになるのだ。

その相手とは聖魔獣であり、その聖魔獣は、魔の森の最奥に住む聖魔狼であるのだ。その魔狼は聖属性を持っており、しかも、かなり強かったのだ。その魔狼が言うには、この聖魔獣に勝つことが魔獣の頂点にいる聖魔王への試練なのだそうだ。

俺はその聖魔狼に勝ち聖魔王に認められた事で聖魔王の力が使えたのだが。俺はその力を使った際に。自分の体に何かが起こったのを実感した。その力は、ユウの持つ固有能力の一つである。【超加速】である。【超加速】を使えば今までよりさらに速く動けるようになったのである。【神速】の劣化版の固有能力でしかないのだが。

この能力は凄く便利だと思っていたが、ユウにとってはそれ以上の価値がある。【超強化】や【瞬脚】など、他の固有能力にも言えることではあるが固有能力の中にはスキルと違って、レベルの概念がなく成長限界というものが存在しないため努力次第ではどんどん成長する事ができるのだ。

つまりこのスキルはユウにとって非常に魅力的なスキルだということが理解できるだろう。ちなみに俺のこの力を解析鑑定してみて驚いた。このスキルはレベルが無い代わりに、使用し続けることで。使用者の限界を超えてスキルのレベルを上げる事ができるスキルであったのだ。

その効果は、【瞬時移動】と、いうスキルであった。【瞬間移動(距離制限有り)】が使用可能になりました。スキルの説明欄を確認すると。

〈【瞬間移動(場所制限あり)】が使用可能な状態に進化しました〉 という内容が出ていたので。試しに俺は今覚えている魔法の中で最も使いやすいと思っている魔法の発動実験をしてみる事にした。

まずは【雷電】という電撃を放つ魔法を空間収納に入れておくことにしたのである。そして俺はその状態で、先ほどまでいた街に向かって瞬間移動を発動させた。すると一瞬にして移動することができた。しかし移動したのは一瞬だけでその後はその場所には戻ることができなかった。だが俺には問題は無かった。

俺のステータスの恩恵によってこの転移はいつでも使う事が可能だったからだ。この能力があればどこにでも一瞬で行けて。好きな場所に行けるようになるわけだ。ただ問題があるとするならばやはり距離の問題で、行ったことのある場所でも、遠い場合はかなりの時間がかかるということだな。

ただそれでも俺からすれば大した問題にはならなかったな。なぜなら俺には固有技能として手に入れた。アイテムボックスが存在するからな。この箱の大きさにもよるが俺の能力で入れてしまえばその荷物の重量は一切関係がないからね!このスキルのおかげで俺の生活環境はとても充実したものとなった。ただデメリットとしては、一度出した物をしまえなくなることと。生きている生物は時間経過で死んでしまい腐ってしまうと言う事である。

そのため生き物は絶対にしまうことはできないのが難点だな。しかし食料に関しては、無限に入るわけではないが、今のところ問題は出ていない。そのせいで最近食事に関して悩みが出てきたな。どうしようかな?俺は、そう思い。どうするかを考えるが。

俺の腹が盛大になった音が聞こえた。どうやらお腹が減ってきたらしい。その音を聞いた俺は考えるのを止めて、とりあえずこの近くにある食べ物を探す為に行動を開始したのである。そして、俺は近くの街の食堂に入った。そこには色々な種類の美味そうな物があり、俺はそれらを頼んで食べたのである。

するとそこでユウに話しかけてくる人がいた。その人物の名前は、ラフィアといい。この街の領主の娘さんであり、俺の命の恩人でもある人だ。俺は彼女に命を助けてもらった礼を言うべく近づこうとした。するとそこにいる彼女の前に、貴族の服を着ている男が現れて彼女をナンパし始めたのだ。それを見た俺はイラつき始めてしまう。俺は、貴族に対して嫌悪感を抱いており。そのせいで、少し怒りを抑えられなくなってしまった。

しかし俺は、何とか抑えつつ二人を見続けると。その貴族と彼女が会話を始めてしまった。

その二人のやり取りを見るに、どうやらその貴族は、俺の事を調べていたようで。この国では俺の存在を知っている者はほとんどいなかったから。恐らく俺を嵌めた奴らの一人が俺の事を知っていて俺を探しているのかと思ってしまう。

そんなことを考えているとその貴族は俺のことを馬鹿にしているかのように、ニヤリと笑った後に俺を睨みつけてくる。そんな目で見られるのは俺にとって不愉快な行為なので、そいつに文句を言いに行くことにする。そして俺が話しかけようとすると彼女は俺の手を引いて俺と一緒に店を出て行こうとする。

その様子に疑問を抱きつつもついて行くとそこは俺が初めて彼女に出会った噴水広場に来ていた。すると突然その男は俺と彼女に襲い掛かってきたのである。その動きは素人丸出しな上に俺にとっては遅いものだったのである。そんな攻撃を簡単に避けると俺はその男が俺にしてきたように。俺はその男の顔面を思いっきり殴ってやったのである。すると男はその場で伸びてしまい俺はその場を離れるのであった。俺はそのあと宿屋に泊まったが、その次の日になると、あの男達が再び現れたのである。

今度は三人の人数を増やしてきていたが。俺がその男たちに負けることは無く。俺は男たちを気絶させることに成功すると。その後、彼女たちの護衛が駆けつけてきて。そのまま連行されてしまった。その道中になぜ襲われたのだろうかと考えたのだが。結局は理由が全く分からなかった。俺は、その日の夜に再び彼女たちに会いに行って話をしたが特に俺が襲われた原因に繋がることは聞き出せなかった。

しかし、護衛の人から、昨日の騒動は、俺の実力を確かめるために領主がしたことだと聞いてしまった。それで俺は納得してしまった。俺を陥れた奴らの仲間が、その手の輩の可能性が高いと俺が考えているからである。それにこの国の貴族たちの考えなんてそんなものだと考えているのだ。だから俺はもうその考えをすぐに放棄する事にしたのである。そして今日は王都に向かうための準備をすることに決めると宿に帰り眠りについたのであった。

そしてユウは次の日の朝には出発しようと決めていた。何故ならこの王城に来るまでの馬車の手配に手間取り。明日の出発までに間に合うかが怪しかったのである。ユウはそのことを伝えるためにユミに別れを告げようと考えていた。しかしユウはここで一つの不安を抱く事になる。ユミルが、自分についてくるのは構わないのだが。自分がもしこの世界を救えなければどうなるのだろうとユウは考えたのだ。その疑問の答えは分からないのだが。この世界を滅ぼそうとする魔人が必ず存在すると、ユウは予想している。

その理由はユミルは神であるからこそ。魔人をこの世界に引き入れた張本人であり魔人の協力者だ。だからこそユウが、世界を救うための行動を起こせば、必然的にユウの側にいれば、この世界を救うことができる。だがもしも世界が救えなかった場合。ユミルが世界を滅ぼしたとしてもなんらおかしくないと言えるのだ。

(ユミル様は一体どういう理由でこの世界に災厄をもたらすつもりなんだ?)

ユウはユミルの事を疑っているわけではなかったが、それでもやはり世界を滅ぼしかねない存在なのだから、どうしてもユミルが本当に信用していい相手なのかがユウにとっては引っかかるのであった。

俺が目を覚ますとすでに俺以外のメンバーは起きている状態だった。俺が起きると直ぐに朝食が運ばれてきて俺たちはそれを食べた。その後で俺はこの王城の見回りをすることに決めたのである。まずは、俺の部屋がある三階から調べる事にしたのだが。この階には、あまり怪しいところはなく普通だった。一階も似たような物だったのだが、唯一二階だけは少しだけ違っていた。その二階に俺は何か違和感を感じたのである。

その正体はユウも理解できていないのだが。俺は何か嫌な感じがすると思い、この城を探索することを一旦諦めることにした。そしてその日は、皆が寝るまで一緒に話をしたりして過ごしたのである。そして夜中に、俺が起き上がるのと同時にユメ達女性陣は全員目を覚ましていた。

「あれユウ兄。どこかいくの?」ユメが不思議そうな顔をしながら尋ねてくるので。俺はその言葉に対し、正直に伝えることにした。俺の目的がこの城に隠されたある物の回収にあるということを、俺がそう説明するとその目的のためにも、俺達は、早くここから脱出してこの城を脱出したほうがいいのではないかとユウは思うのだった。

『それはそうだよね!ユウ君も女の子と同じベッドで一夜を過ごすとかそういうことがしたいもんね!』

『おい、その発言はやめてくれ、なんか勘違いされちまいそうだ』

俺の発言になぜかユキナが反応した。そして俺と一緒の部屋にいることに対して、不満を感じていらっしゃるようである。俺が、どうして俺の言葉に反応したのか?という事を問うた。するとその問いに答える形で俺の目の前に現れたウィンドウには。俺と一緒に居られる時間が限られている事を理由に俺との時間を少しでも長く過ごそうとして俺に甘えてきてほしいと思っているからだと言ったのである。それを聞いた俺の反応だが、そのウィンドウを見て思わず呆れてしまった。だって、俺も俺で、その行動に共感してしまっているんだもの。でもそんな気持ちは隠す事にした。

俺が黙り込んで何も言わなくなったのを見た彼女は、俺に嫌われたかもと落ち込んでいたが。別に嫌いになったわけではないので俺は彼女に話しかけた。すると、俺が、この部屋の窓から飛び出して、空に浮かび上がりながら移動すると言って、彼女にその提案をしてみたのだ。すると彼女は、その俺の提案に対して乗り気になってくれたのだ。そのおかげもあり。俺が、空を飛ぶことには慣れてきた。しかし、まだまだ速度を出す事はできないからな。それでもかなり速い速度で飛べるのは確かだけどな。

ただそれでも俺はもっと早く移動できるようなスキルをゲットしようと考えていたのだ。ただその前に一つ確認しなければならない事がある。この城にいる魔人達をどうするかという事である。ただその問題についてはすぐに解決策を思いついてしまったので実行に移した。その結果、案外上手くいきすぎて驚いてしまった程である。

俺はこの城の中を自由に動けるような魔法道具を手に入れた。この魔法道具があれば自由にこの城を出入りすることができるのだ。しかも俺に好意を抱いてくれる人限定だけどな。つまりは、ユキノとサチにその魔法道楽を手渡したのである。

俺はこれで自由に城の中を調べることが出来るようになったわけだ。この城は広いので全ての部屋を確認しようとしたら時間がかかるだろうけど。ある程度は把握することは可能になったな。この調子でどんどんこの城の攻略を進めていこうと思ったのである。そうやって、この城内を調べ始めた俺だったが、俺はその行動によってとんでもない情報を手にいれてしまう事になった。

俺はその部屋に入る為に扉の前に立つと突然その部屋の中から声をかけられたのである。俺は突然話しかけられたのに驚いたのだが、その人物は俺が知っている人物だったので俺はその人物に声をかけるのであった。

『おはようございます、お嬢さん。今日はいつもより起きるのが遅かったですね?』『あぁ!ユウか、私とした事がこんな姿を見られたなんて最悪だよ!まさかお前に見られるとは思いもしなかったぞ!』

『えぇー!?俺がここに来る事は知ってたんじゃ無いんですか!?』

『確かにユウが来るのは知っていたさ、でもお前がここまで早く来ることは想定していなかったんだよ。私はこう見えても結構用心深い方だからな。だからお前は私の秘密を知っているのかもしれないって警戒してしまってたよ。でもそんなことはあり得ないから安心しろってことだな。それでお前は何をしているんだ?その手に持ってるのは何なんだ?』

(この子は一体何を言っているんだろうか?この部屋の中には誰もいないのにな)

(うわぁ~!凄いなこの子ってば本当に神様みたいな存在なんだな、俺にもそんな力があったらいいな。まぁそんなのは無理だとしても俺もいつかはそんな力を手に入れられるように頑張ってみるとしますかね。それよりこの人は俺の持っているこの魔法の鏡について何か知りたがっているようだ。どうせなら、俺もその人の能力を知っておくべきだと思った俺は彼女に俺が持っていたこの鏡の真実について教えることにする。この俺の持つアイテムは、この世界を作り出した神様の作ったものでその神の能力をコピーしたものらしいということを伝えると。その事実に彼女は驚愕していた。しかし、俺は彼女の本当の能力はどんな物かまでは聞くことが出来なかったのである)

『じゃあお前の本命はこの中に入ってみることなんだろ?分かったぜ、ここは任せておいていいから。ユウはその辺を適当に見回っていればいいと思うからな』

『いやいやいや、なんですかそれ!そんな事を言われてしまっても、困ってしまいますから。それにその中に入れなくてもいいんですよ。とりあえず俺はその部屋の周辺を見回りたいだけですからね。それと俺は、あなたがそんな姿になっても驚かないし、絶対に見捨てたりはしないですから、だから心配しなくて大丈夫ですよ。それにその言葉使いをどうにかしたら俺がこの国の王様になるときに協力してもらうつもりですから覚悟して下さいよ。では俺は、また色々と探しに行きますからね。俺も一応忙しいんで失礼させて貰いますからね。俺も、もう行く場所も決まっているので』

(そして俺とユキナちゃんの会話が終わる頃には俺の姿は元通りになっている。そして俺とユミが城を出る際にも誰にも見つからないよう注意を払う必要はあったが無事に城の外に出ることが出来たのである。それから俺達は一度宿屋に戻ると俺は王城で手に入った情報を元にこの世界の地図を手に入れることに成功した。

この王都を中心に半径30kmほどが今いるエリアだった。そしてその外側にある地域には俺達がこれから向かわなければならない王城に、あともう一つ。魔王がいると言われる暗黒の大陸と呼ばれる場所に繋がっているという。俺はこの情報を頭の中にインプットすると共に王都に何か異変が起こってないのかを確認を行う事に決めた。

王都は普段から人が行き交っているせいか活気がある。俺には、その光景は普通に思えるのであるが。その景色はやはり俺にとってみれば普通に見える風景だったのだ。俺はその光景を見て特に異常が見当たらないことを確信すると次の目的地を決める事にした。俺が向かう先は冒険者ギルドという場所である。

そこでこの国で起こった問題を調査し解決する事が今回の目的の一つであるからだ。俺達が訪れたその場所は冒険者たちが集まる依頼所のような場所だと思ってもらって構わないだろう。俺とユキナは、早速この建物に入ると。そこは多くの人間がいて、受付と思われる場所がある。その受け付けに俺は近づいてみるとそこにいた女性は俺の姿を見て驚くと同時に少しだけ警戒をしていた。

その女性は、恐らく新人の人なのだが、俺を見て緊張してしまっているのか固まっている状態になってしまったのだ。

俺がその様子を見ていると彼女は俺の服装に違和感を覚えたらしく俺にその違和感の正体を教えてくれた。その違和感というのは、普通の旅人にはまず見ることがない装備を俺がしているのがおかしいと言ったのだ。しかし、その発言には少しだけ問題があったのである。俺がこの世界に来る前は、ただの一般人だったのである。そんな俺は、自分が身につけている装備についてもよくわかっていなかった。ただ俺は、自分が異世界の救世主として選ばれてこの世界に飛ばされてきたのは間違いないという自覚はあるのだ。だからこそ俺は自分が勇者であるという事を証明するために、ステータス画面を表示して見せようと彼女に提案したのである。

そうすると彼女は、そんな事できるはずがないと言い出したのだ。しかし、そんな言葉を無視して彼女が俺のことを信じられないようだったので俺は実際にステータスを開いてみせる事にしたのだ。俺がステータスを開き自分の職業欄を指差すと彼女はそれを見た途端。驚きの表情を見せながら口に手を当てながら言葉を失った様子でこちらを見つめてくるのであった。そして、その後に彼女の中で何が起こったのか分からないが。突然彼女は慌てるようにどこかへ駆け出していったのである。そして暫くの間俺は待つことになったが戻ってくると先程までの彼女とは打って変わって俺に丁寧に挨拶を始めたのであった。そして、俺は、彼女にお願いをしてみると。俺の言葉は意外とすんなりと受け入れてもらえてこの国の依頼を受ける事が可能になった。俺がその報酬のお金が欲しいと言った理由は簡単で。今後の活動に必要な資金を得るためである。

俺の目的は、俺が、この世界を救うことであって。俺自身の為では無くて。俺にはこの世界での目的があってそれを果たすために必要な資金をこの国の金で補う為に俺自身が働かなければいけなくなったのだ。その労働によって得られる給料が俺がこの国に求めるものでもある。ただ、その俺の行動によって、ユキノは何故か怒ってしまったのであった。その理由はよく分からなかったが。ただ彼女は俺が働く事に関してはあまり賛成は出来ないと言ってくれていた。しかし、俺はこの世界の人間では無いのに、どうしてそこまで親切にしてくれるのだろうか?もしかしたらユキナ自身は、優しいからかもしれない。しかし。それでもその優しさの理由がよく分からないのだ。

その行動原理の真相が掴めない俺は彼女の事を疑っていたので俺と彼女の意見の対立が起きてしまう。しかし最終的には彼女は俺がこの国で働くのを許してくれはしたが、俺も一緒に働いて、俺が働くのを止めると言う結論に至ったのである。ただそれは彼女のわがままに近いものだったのだ。そして、その後。俺はこの国がなぜ魔人に支配されるようになっているかをこの女性と話をしながら確認を行った。その結果分かった事は、どうやら、あの包帯の男が言っていた事は本当のようで。魔人とやらはこの国の国王に対して宣戦布告を行っているらしい。そしてその男はこの国の王女も既に誘拐しており、更にはその国の王族全員の身柄を要求しているとのことだ。そんな状況でも俺の目の前にいる彼女はまだ余裕を見せているようだった。俺はそんな彼女の言葉を信じながらもその話が真実かどうかを確認する必要があると思い彼女に俺と一緒に来てくれるように頼み込んでみたのであった。

『え?あぁはい。別にいいんですけど。ユウさんって凄いんですね。あんな簡単にこんな私を受け入れてくれるんですから。やっぱり私が想像してた通りのユウさんみたいですね。あぁそうだ、ユウさん。私の名前はアメリアです。ユウさんの名前を聞いてもいいですか?』『あぁ俺の名は優だよ』『えぇ?ユウさんはユウさんじゃないんですか?』

そうして俺達は、お互いに自己紹介を終えると。アメリアにこれから起こることを説明するために、王城へと向かったのだ。

『それで、私はどこに連れて行かれるんですか?』『あーうん。王城にね』

『ふーん王城ですか、まぁそうでしょうね。このタイミングで行くところっていったら。でもそんな場所に連れ込むって事はユウさんのやろうとしている事が本当に成功すれば、この国は助かるって事でいいんですかね』『いや、成功するとは限らないんだよなこれが。まぁ今はそんなことはいいんだよ。とりあえずはアメリアは付いてきて欲しいんだ』

そして俺とアメリアは二人で歩き始めるのだが。その途中俺はこのアメリアと名乗る女について少し気になることが合ったので彼女に質問することにした。そしてその質問とは。彼女がどうして俺を信用してくれてるのかということだ。そして、その理由を詳しく聞いてみると俺は意外な答えを聞くことになる。なんと、彼女は俺がこの国の王子であるかららしい。その事実を聞かされると流石に俺もその事実を知ってしまうと驚きを隠せない。何故なら、彼女は、どう考えてもこの国にとっては敵側の人間なのだからな。だから、彼女はそんなことを言った後。

俺は彼女の考えをもっと理解するためにその言葉をそのまま受け止めず別の角度から捉えることにした。俺が王子なら助けられると思ったからとか。もしくは、それくらいにしないと俺の力を信じられないからだとか。そんな感じの考えが頭をよぎったのだ。しかし結局のところ彼女から聞いたその本当の理由を聞き出すことは出来ないでいたが、それから俺達は目的地に着く。そこにはあの俺達が王城に忍び込んでいたときに俺を騙していた男がいる。そいつの名前はゼストといい、俺が殺したあいつと同じでこいつも元は奴隷だった。そして、こいつは魔人族に買われた奴隷だったらしく。

俺がこの世界に来て最初に見た死体の中にいた人間の一人である。

そして、その男こそが俺に復讐したいというのである。そして、俺達は今、この城の地下にあるという秘密の場所に来ていた。そこは城の内部にある牢獄と繋がっている扉が隠されていて。その先には隠し通路がある。その奥に行くとその牢獄に続く場所に出れるようになっていたのだ。俺はそこに入るとすぐに、その場所に待機することにする。そして俺はここでこの世界の王である。つまり俺の父である国王のいる場所に案内してもらうことになっていたのだ。俺は、父に会うためにこの部屋に入るわけだが。俺は、ここにいる人物がどのような人物なのか全く知らないのである。ただ俺は今からその人の命令に従って行動しなければいけないのだ。そうしなければ。この国から脱出することが出来ないので仕方ないのだ。それに俺はこの国をどうにかしなければならないという使命を持っている。その使命のためにはこの王の命令に従わなければならないのである。

俺の父は、見た目はかなり若いというのを先ほどまで行動を共にしていたアメリアから聞いていたので。おそらくその人は外見年齢で言えば20代後半くらいだろう。俺よりもかなり年上だというのは間違いなさそうなのだ。

「失礼します。お初にお目にかかります」

俺は中に入ると丁寧なお辞儀を行い頭を下げる。そして顔を上げるとそこに居たのは、金髪のイケメンの男がいた。彼は、俺が入ってきたことに気づくと笑顔になり俺のことを見てきた。俺はその男の態度に違和感を覚えると同時に、俺は彼の瞳の色を見てあることに気づいたのだ。

「ははは、これはまた随分と変わった服を着ているものだね君」





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異世界最強の俺にハーレムなチート生活は必要無い! 〜無自覚だった俺は気が付いたら『魅了』スキルで世界中を虜にしていた〜 あずま悠紀 @berute00

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