悪を暴きて2

「うぅ……」


 リュードの言うことも間違っていない。

 結局他に考えつかねば行き着くのは強硬手段しかなくなる。


「ロセア、お前が決めろ」


 酷なようだけど復讐したいと言うのはロセアだ。

 リュードが勝手に復讐することはないし復讐の方法を決めるつもりもない。


 最終的にどう判断するのかはロセアに任せるしかないのである。

 ロセアは悩む。


 信頼している人に裏切られる経験などしない方がいいのは言うまでもない。

 悪人だったと知って自ら離れるならともかく、襲われて助けられてから裏切られていたと知るショックは大きい。


「……彼らには悪いけどそうするしかないならそうしましょう。


 でもまだ監視は続けて何か掴めそうなら証拠を集めます」


「それでいい」


 みんなもうなずく。

 どっちみち監視を続けていれば新人商人たちが襲われる場面に遭遇することになる。


 それまで尻尾を出さないかと諦めなくても構わないだろう。

 なので交代交代でシギサを監視することにした。


 仕入れてきたものを売り、また商品を仕入れて行商に出るシギサを追いかける。

 こうした時に使えるのが遠視の魔法である。


 リュードはもちろん使えるのでみんなも練習することにした。

 魔法が得意な方であるラストやテユノは割とすぐに出来た。


 そんなに難しい魔法でもないので習得は容易かった。

 ロセアも一応竜人族で魔法は扱える。


 なのでロセアも遠視の魔法を習得することができた。

 ルフォンも苦労したけれど遠視の魔法はなんとか出来るようになった。


 コユキは魔力がないので遠視の魔法を習得することができない。

 みんなのマネをして不満そうにしていたけど、代わりに神聖力を持つコユキにはコユキにしかできないことがある。


 そうやって説得されてコユキも渋々リュードの撫でを要求して収めることにした。


「…………ん?」


「どうしたの、リューちゃん?」


「いや、なんでもない」


 遠視の魔法でシギサを監視していたリュードが首を傾げた。

 何かが見えたような気がしたが一瞬のことで確実ではないのでリュードはルフォンに首を振った。


 ーーーーー


 小国連合で長くやっていただけはある。

 次に向かうところで何が必要なのか正確に把握していて、欲張り過ぎず、かといって足りなくないような量を仕入れていく。


 その一部の売買を新人商人に任せて利益と自信も与えている。

 まるでお手本のようで正体を知らなければリュードも教えを乞いたいぐらいに感心してしまう。


 すっかりシギサを信頼している新人商人たち。

 ロセアは以前の自分を見ているようで悲しさや心が痛むような複雑な顔をしている。


 監視を続けているとシギサは別の国に寄った時に別の商人に新人商人たちを紹介していた。


「あ、あいつは!」


 ロセアはその商人に見覚えがあった。

 それは襲われる前に絶対に高く売れるからと勧められた工芸品を売っていた商人だ。


 売れるかどうかも分からない工芸品でもそれを売ろうとする人の話も売れた話も聞かなきゃ不審に思われる。

 工芸品を売った商人もグルであることは考えてみれば当然のことである。


 となると新人商人たちが襲われるのは時間の問題である。

 新人商人たちも悩んだようであるが信頼しているシギサの勧めならと商品を購入してしまった。


 有り金を叩いてよく分かりもしない壊れやすい謎の工芸品を買わされた。

 こうなると次の展開はロセアと変わらない。


 シギサはロセアの時と同じく目的地を共にする行商隊を新人商人に紹介した。

 新人商人たちは疑いもせずに同行することになり、出発した。


 この時点でシギサと新人商人たちは別れることになる。

 リュードたちはシギサの方は一旦無視して新人商人たちの方を追いかけることにした。


 荷物を運ぶ用の荷馬車までシギサに借りて慎重に工芸品を運んでいる。

 人の多い行商隊に同行して安心して、工芸品がいくらで売れるか期待に胸を膨らませている。


 シギサが騙そうとしている可能性など微塵も考えていない。

 追いかけたながら行商隊を襲撃しようとしている人も探す。


 襲うために隠れていることは分かっているので見つけるのは難しくなかった。

 遠視の魔法で遠くを見ていたラストが道端に隠れる人たちを見つけ出した。


 少し行商隊と距離を詰めてリュードたちは警戒を強める。


「……酷いもんだな」


 なんの捻りもない。

 行商隊が通りかかって道端に隠れていた人たちが襲いかかる。


 そして外から見ているとその戦いはお粗末なものだった。

 言い方は悪いがお遊戯会でも見ているよう。


 襲った方も襲われた方も無駄に大きな声を出して無駄に剣を振り回す。

 切られていないのにまるで切られたように悲鳴を上げて行商隊が倒れていく。


 見るに耐えない。

 渦中に居ると大きな声と倒れていく人で臨場感があって気付きにくいかもしれないが外から見ると酷いお遊びだ。


「いくぞ。話聞きたいから出来るだけ殺さないように。


 だけど骨ぐらいはいいだろう」


 リュード、ルフォン、ラスト、テユノ、ロセアが飛び出していく。

 ロセアも竜人族の中では弱いが全く戦えないわけでもない。


 今は非常に怒りも強く、普段の気弱なロセアはなりを潜めていた。

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