悪を暴きて1
アダはこれといって特徴もない小さい国である。
周辺も似たような小さい国であり、そうした国々が集まって小国連合を成して周りの大きな国に対抗している。
シギサはアダを拠点としてこの小国連合の国々を行商するような形で活動していた。
小国連合の範囲内に入るとシギサは有名で、それとなく商人に話を聞いてみると簡単にシギサのことを調べられた。
国の中でどこを拠点にしているのかもあっさりと判明した。
特定の店舗を持っておらず家と商品を保管しておく倉庫をアダの中にある大きな都市に持っていた。
すぐにでも懲らしめたいところであるがここはまだ我慢する。
出来るならシギサを叩き落としてやりたい。
人を騙して奴隷にしていたことを認めさせてシギサという人の積み上げてみたものを崩壊させてやる。
証拠を掴むことで奴隷にされた人たちを助け出すためにギルドが調査したり、その助けにもなる。
けれどそのためにシギサに近づくことも容易くない。
ロセアやテユノは顔が知られてしまっている。
リュードたちでは商人ではないのでシギサに近づくのも違和感がある。
行商人で店舗を持たずに商人メインで取引しているのでお店から近づくこともできないのだ。
とりあえずシギサが今どこら辺にいるのかも簡単にわかったので遠くから観察することにした。
リュードたちがアダにあるシギサの拠点に着いたタイミングでたまたまシギサもアダに戻ってくるところだったのである。
外からシギサの様子を見ていると他の国を回って仕入れてきた商品を倉庫に運び込んでいる。
シギサには仲間が2人いる。
こちらは護衛兼力仕事担当である。
「あれは……まさか」
監視をしていたロセアが険しい顔をする。
シギサはいつもの仲間の他にさらに2人の人を連れていた。
せっせとシギサを手伝って荷物を運んでいる若い男性たちでそれが何であるのかリュードたちにはすぐに分かった。
あの男性たちは次のカモである。
新人であることを利用して周りに協力させて自分も含めて少し稼ぎを出して、最後にはその金も全て搾り取った後は奴隷として売り飛ばす。
シギサにはその金に加えて新人商人を優しく育てる良い商人の評判を得られる。
「助けなきゃ……!」
「いや、待て」
すぐにでもあの新人商人のところに行ってシギサはクソ野郎だからやめておけと言いに行きそうなロセアをリュードが止める。
行ってどうするのだ。
騙されたロセアやそのことを知っているリュードにはシギサが悪人であることは分かっている。
けれどあの新人商人たちにとって今のシギサは世話をしてくれるありがたい存在である。
いきなりロセアが行ってシギサの悪行を暴露したところで信じてはもらえない。
嫉妬や妬みによる妨害行為や敵対商人の戯言と思われるのがせいぜいで、下手すればシギサにロセアのことがバレてしまう。
無理にシギサから引き離すこともできない。
「彼らには悪いけどこれはチャンスかもしれない」
今の段階で彼らを救う方法はない。
けれど1つ良いというか、悪いというか、彼らを救いながらシギサの悪行の証拠も掴む考えが浮かんだ。
「チャンスって何?」
「考えてもみろ。
ここまでシギサのことを聞いて回ったけど悪い噂の1つもない。
相当上手くやっている。
こんな風にコソコソ監視していても尻尾は掴めない」
ちなみに自宅兼倉庫にも見張りを立てていてしっかり守っているので忍び込むのも簡単ではない。
「彼らには悪いが騙されてもらおう」
手をこまねいて見ているだけではどうしようもないならやり方を変える。
「どうするつもりなんですか?」
「このままいけばロセアの時と同じように彼らはある程度お金を稼がせてもらって、それを奪われる商品を仕入れさせられて、奴隷にされるために襲われるはずだ」
毎回毎回方法を変えていては面倒だ。
何度もやっているならおそらく一定の決まったやり方がある。
ロセアの時に取られた方法と同じような方法は取られると推測できる。
きっと物事の最後には奴隷にするために人を送り込む。
「その時に助けてそいつらを捕らえよう」
シギサを捕らえられないならシギサの仲間を捕らえる。
尻尾を掴ませないシギサはまだ悪人と断定して告発できないけれど奴隷にしようと襲いかかってくる連中は明らかに悪人である。
そいつらを捕らえてシギサとの関係を問いただす。
少なくとも新人商人たちが奴隷にされることは防げるし手を組んでいる悪人が捕まればシギサにも痛手を与えられる。
「それより前に証拠を見つけられればその方がいい……けど他に方法がない以上は彼らにも協力してもらうことにしよう。
騙されることは彼らにとって酷なことだけど……他に方法もない」
見ようによっては酷い作戦。
リュードもそのことは重々承知だ。
新人商人をこちらに引き込めたり悪事の証拠が見つかればいいのだけど、どうしてもこうした方法を取ることは難しい。
リュードの作戦なら新人商人が奴隷にされることは防げる。
シギサの悪行を暴くことにも繋げられるし多少心が痛むことを除けば悪くない作戦である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます