表の顔と裏の顔2
「思ったよりも有名なんだな」
アダまではもう少し距離がある。
シギサはアダ周辺の国をいくつか巡って行商もしているらしいが今リュードたちがいる国まで来ることは少なかろう。
なのにシギサのことを善意で勧める人までいる。
相当やり手であることは間違いない。
「そうですね。
周りもアイツを良い商人としています。
だから……近くにいても気づけなかった」
ロセアは唇をかむ。
偏見なくよく見ていたら気づけただろうかと考えることがある。
実際に騙されるまでは本当に成長させて成功に導いてくれていると思っていた。
裏の顔を抜きにすると商人としての能力はあるし教える能力も高かった。
表の顔としても成功している人である。
「普通に商人としてやっていけているのにどうしてあんなことに手を染めているのか……」
悪人だったか見抜けたかは別にしてなぜ悪事に手を染めてしまったのかは全く理解できない。
商人としての信頼も高く、違法なことに手を出す必要性などない。
まして食い物にするのが新人商人というライバルですらない相手。
お金を搾取してその挙句奴隷に落とすなど卑劣で最低の行為。
いくら頭を悩ませてもシギサの考えがロセアには理解できなかった。
「やめておけ」
「えっ?」
リュードがロセアの肩に手を乗せる。
思考に耽っていたロセアがハッとしてリュードの目を見ると、心配しているような色が見てとれた。
「悪人を理解しすぎようとするな。
理解する必要もない」
ある程度の行動や心理を理解して悪人に対抗することは必要である。
だけど悪人の心を深く理解しようとしてはならない。
悪人は普通の人とは違う。
理解しようとするだけ苦しみ、理解しただけさらに苦しむことになる。
悪に落ちる明確なバックグラウンドでも分かれば違うかもしれないがただ思考を理解しようとしても心が疲れてしまう。
どうせシギサだって浅ましい欲のためだと思っておくのが精神衛生上もいい。
仮に同情できる事情があったとしても許される行いを遥かに超えてシギサは悪行に手を染めている。
「兄貴……そうですね、深く考えすぎないようにします」
周りを騙し続けて良い商人である顔を崩さないシギサは手強そうだとリュードは密かに思っていた。
「まあでもシギサのことを知る必要はあるよな」
これから倒す相手。
どうにも外面は良くてただ暴力的な手段に出たのではリュードたちが悪者にされてしまう可能性がある。
理解はしなくても敵であるシギサのことを調べて情報として知ることはやらねばならない。
少しずつシギサのことを調べながらリュードたちはシギサがメインで活動しているアダに近づいていった。
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