表の顔と裏の顔1

 ウルギアの奴隷の反乱は大きな影響を及ぼしていた。

 そしてビドゥーが死んだことも反乱と影響し合ってさらに大きな影響となっていた。


 ビドゥーという男はウルギアの大貴族でありながら同時に自分も奴隷商人であるというとんでもない悪党だった。

 ウルギア国内における影響力は強く、ビドゥーに頭も上がらない人がほとんどなぐらいである。


 そしてビドゥーが死んだこと、それに加えた奴隷の反乱により奴隷商人全体にも大きな影響が出ていた。

 奴隷商人の庇護や橋渡し役も担っていたビドゥーがいなくなって反乱の鎮圧が遅れ、ビドゥーが持っていた利権を狙う奴隷商人で争いも起きていた。


 なんとさらにウルギアを抜け出した奴隷たちが教会に助けを求めて違法奴隷とされていたことの告発を行った。

 その中心的人物であったビドゥーに対して愛の神と正義の神を信奉する協会が公に非難の声明を出していた。


 あとは王城に赤い鳥が襲来して王様をたしなめたとか嘘か誠か分からない噂も広まっていた。

 もはや混乱はウルギアにだけ留まらない。


 ビドゥーが教会からも非難されるようになってしまったのでリュードを公に探すことも難しくなった。

 安泰とは言えなくてもリュードに対する危険はかなり減ったと言っていい。


 ヒュルヒルを抜けて隣の国に抜け出したリュードたちは順調にウルギアから離れることができた。

 国を出たとも考えにくいだろうし周辺国がウルギアの奴隷に対する態度に一斉に口を閉ざしてしまって協力も得られなくなってしまった。


 そんな噂を聞いてリュードはそういえば愛の神と正義の神になんか聞き覚えがあるなと思っていた。

 ただし完全に安心もできない。


 一応ウルギア国内ではリュードに結構な金額の賞金がかけられているのでリュードを狙う賞金首はいくらかいるようであった。

 でももうほとんどウルギアのことなんて忘れてリュードたちが目指しているのはアダという国である。


 シギサが活動していた国であってウルギアからも離れる位置にある。

 復讐することになってロセアも腹をくくったのか少しずつ能力を発揮し始めた。


 良い店を見つけることから始まって値段交渉や情報収集、リュードにお金を借りて行商も始めていた。

 確実に利益は出している。


 堅実で利益は小さいが損をすることはなくロセアの商人としての能力は決して低いものじゃなかった。

 才気溢れる商人かどうかは商人でもないリュードには分からないけれど気弱な面を克服さえ出来れば商人としてやっていけそうだと思った。


「やったね!


 ありがとう、ロセア!」


「いえいえ、相手がぼったくろうとしたのが悪いんです」


 若い旅人だと見るとカモだとみなしてくる人もいる。

 二度と会うこともなく、その土地の基準が分かっていないので言葉巧みに騙しやすい。


 だからふっかけてきたりぼったくろうとしてくる商人も中にはいるのだ。

 そこでロセアの出番だった。


 的確に物の価値を見抜き相手の言葉に惑わされない。

 ぼったくろうとしていることを看破してしまえば逆にそのことを利用できるカードにできる。


 ロセアはぼったくりを見抜いてそのことを突いて値引きさせた上にルフォンがちょっと目をつけていたものまでおまけさせてみせた。

 馴染みの顔でもない旅人に多少高めに売るぐらいは許容するがふっかけすぎるのはいただけない。


「あんたやるね」


 ロセアが巧みに商人を言いくるめる様を面白そうに眺めていた男性が近づいてきた。


「あいつはあんな小狡い真似ばかりしてるからいつかこんな目に遭うと思ったんだよ」

 

 それでもあいつが変わることはないだろうが、と男は鼻で笑う。


「若いのに大したもんだ。


 どうだい、あんたシギサさんのところに行ってみるつもりはないかい?」


「シギサ……だって?」


「ああそうだ」


 こんなところで思わぬ名前が出てきた。

 険しくなったロセアの顔にも気づかず男は話を進める。


「もうちょい行った国をメインに活動している人なんだが若い人の面倒をよく見ているんだ。


 みんな彼のところで経験を積んでお金をためて巣立っていく。

 俺の甥っ子もそうして今はどっかでやってるらしい。


 手紙もないのは忙しいんだろうけどな。


 まあ、あんたほど才能ありそうなら彼の下で経験積めばもっと飛躍できるだろうさ」


 一瞬シギサの回し者かと思ったが違っていた。

 シギサは表向きやり手で新人商人に手を貸して育成までする評判の良い商人であった。


 男はシギサを良い商人だと思い、善意としてロセアに勧めに話しかけてきたのであった。


「そ、そうなんですか。


 是非機会があったら訪ねてみたいと思います」


 商人として感情を表に出してはいけない。

 シギサの暴言の一つでも口に出そうになったのをこらえ、ロセアは笑顔で男にお礼を言った。

 

 多分この男が直接シギサに繋がってはいない。

 だからこの男に文句を言うのは違っているし、もし繋がっているならそれこそ不審な態度をとってはいけない。


 きっとうまくいくさと再度シギサを勧めてニコニコとする男と別れてリュードたちは宿に戻った。

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