黒く燃える思い
穴が空くほど窓から外を眺めていた。
リュードというよりもハッタシュにルフォンは気がついた。
遠くに日とは違う赤いものが見えた。
それがハッタシュであるとすぐに気がついた。
驚きに立ち上がるルフォンがハッタシュの様子を見ていると町から遥か離れたところで一度地面に降りて、また遠く離れていった。
何をしていたのか、なぜなのかピンときた。
ルフォンの様子を見て何かがあったとみんなも身構えていた。
「リューちゃん!」
それだけでみんなはすぐに動き出した。
ルフォンがコユキを背負って宿を飛び出して、その後をみんなで追いかける。
コユキが強化支援をかけたルフォンはみるみる間に加速していく。
一陣の風のように駆けていくルフォンは町を抜け、草原を走る。
まだ目には見えていないけど確信があった。
リュードがいる。
そうしてルフォンはリュードと再会を果たした。
みんなもルフォンに負けじと走って重なり合うようにして再会を喜んだ。
「なにそれ!」
ルフォンたちが取った宿に戻ったリュードたち。
すっかり夜は更けてしまったがすでに取っている部屋に戻る分には何の問題もない。
あったことをリュードが説明するとみんな呆れたり怒ったり。
テユノはあの変な鳥ぶった切ってやればよかったと怒っている。
女性が苦手だからリュードを誘拐したなんて話が許されるはずがない。
「虚しく空に魔法放ってればいいのに」
「そうだね。
美しくとか言ってないで海にでも沈んでやればいいんだ」
テユノとラストが冷たく意見を述べる。
リュードを誘拐する形になってしまったのでハッタシュに対する女性陣の評価はすこぶる良くない。
確かに水辺でやったらどうなるんだろうとリュードは思った。
水辺なら影響なく発散できるかもしれない。
でも下手するとそこら辺が温泉になってしまうこともあり得そう。
「倒そうよ」
ルフォンの目も怖い。
倒していいというならそんなお騒がせな鳥倒してしまえばいい。
無視してしまえという気持ちもなくはないが今は怒りの感情も強かった。
決してどうにかしようという気持ちからではない。
「リューちゃんを誘拐して心配かけさせたお礼はしなきゃね」
「確かにそうね」
「そうだね!」
「コユキも激オコ!」
シュッシュッと拳を突き出してやる気を見せるコユキ。
もちろんコユキも心配して怒っているのだ。
非常に妙な理由ではあるがハッタシュを倒す方向性ではまとまることになった。
ただし今ではない。
今現在ヒュルヒルのあるウルギアではリュードはお尋ね者。
捕まる心配は少ないとはいえ、何があるか分からないので騒ぎが収まってリュードのことが忘れられるまで離れているのがいいだろう。
そうしたことはハッタシュも承知してくれている。
長く見積ったって数年もあれば十分。
何十年も離れている必要はないはずだ。
ブラリと旅を続けて気が向いたらハッタシュのところに戻っても間に合う。
「ということですハッタシュのことは後回しだな」
ヒュルヒルが燃えた森になっているのはハッタシュの影響。
神物はここでないと分かった。
なので次にどこか行くのか決めなきゃならない。
火に関する異常な光景が見られる場所はいくつかあるけれどしばらくこんな場所はこりごりである。
ウルギアから離れつつ奴隷制に対して厳しい態度を取っている国でも目指したい。
「……兄貴!」
「どうした?
行きたいところでもあるのか?」
「ここまでたくさんのご恩を受けてきました。
大変心苦しいのですが兄貴のお力を貸して欲しいんです!」
沈痛な面持ちのロセアが床に膝をついてぶつけるほどの勢いで頭を下げた。
「受けた恩は倍にして返せ、そして受けた仇も倍に返せとよく親父に言われました。
受けたご恩は倍以上にして返します。
一生かかっても必ず!
ですがその前に僕は受けた仇を返さなきゃ前に進めないんです」
ずっと胸に残っていた重たい気持ち。
ロセアの目から涙が流れる。
それはシギサに対する怒り、恨み。
何にも気づけなかった自分に対する情けなさ、悲しさ。
何ともないように装ってきたけれど内心では重たい感情が渦巻いて潰れそうになっていた。
この気持ちを何とかしなきゃロセアは前に進めないと感じていた。
けれど今は金もないし、ロセアに力もない。
復讐を果たそうにもロセアには到底出来ないことである。
復讐なんて馬鹿馬鹿しいことにリュードたちが手を貸してくれるかは分からないけれど、ロセアにとって力を貸してくれそうで復讐出来るほどの能力があるのはリュードぐらいであった。
「プライド捨てて、情けなくともそんなお願いをするなんて少し男になったじゃない。
リュード、私からもお願いするわ。
シギサをぶっ殺さないことには私も気が済まないの」
テユノは少し感心していた。
優柔不断でお人好し、争いごとが苦手で気弱なロセア。
そんなロセアの口から復讐がしたいと言葉が飛び出してきた。
闘争本能のカケラもないのではなくそれなりに秘めた思いがあった。
自己の非力を認め他者に助けを求めるのもある種の強さが必要である。
テユノもシギサのことは許し難い。
ロセアが言わなかったらテユノがリュードに頼んでいたかもしれない。
「全てのご恩をお返しできるかは分かりません。
だけど……悔しくて…………僕は」
ロセアは泣き崩れる。
復讐なんて馬鹿馬鹿しいとは分かっているのだけど何もしないでこの胸に渦巻く思いは忘れられない。
今でも黒い感情に気が狂ってしまいそうになるのだ。
「さて、みんなどうする?
俺は……ロセアに手を貸してやりたい」
「そんなの決まってんじゃん?
人を騙して奴隷にするサイテーのクズヤローはぶっ飛ばしてやる!」
「もちろん!
シギサとかいうの許せないよ!」
「むん!」
みんなそれぞれテユノやロセアに同情し、怒っていた。
ルフォンやラストはリュードが奴隷にされたことから奴隷制を嫌っているし、ロセアの涙を見て余計に怒りが湧き上がっていた。
全会一致。
次の目的はシギサの成敗ということになったのであった。
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