悪を暴きて3

「な、なんだ!」


「何者だ!」


 倒れている奴が声を上げちゃダメだろとリュードは思った。

 リュードたちの襲撃に襲う側、襲われる側どちらも驚いている。


 なぜなのか、襲われている側もリュードたちに剣を向ける。

 もはやどっちがどっちか分からないのでかかってくる奴を全員相手する。


 リュードが用いている武器は剣ではない。

 混戦の最中で抜き身の剣を使えば殺さないことは難しい。


 鞘に納めたままの剣でもよかったのだけど今回はちょうど良い武器があったのでそちらを使うことにした。

 鉄鞭という武器で、ざっくり言えば棒状の金属で出来た武器である。


 金属なので本気で殴れば相手を死に至らしめる殺傷能力があるが抜き身の剣に比べれば相手が死ぬ可能性は低い。

 これもまたドワーフにもらったものであり、思いの外軽くて使いやすい。


 お粗末演劇の連中はそんなに強くない。

 リュードの攻撃を防ぐことができず直撃して腕の骨が折れる音がした。


「アンタ、私の顔に見覚えあるでしょ?」


「え……」


 刃先にカバーを付けて殺傷能力を抑えた槍を片手に大暴れするテユノが1人の男の襟を掴んだ。

 テユノはそいつの顔に覚えがあった。


 その男はテユノが騙されている時に行商隊の1人であった男だった。

 やたらとテユノに声をかけてきたのでよく覚えていた。


 しかし今コイツは襲う側としてこの混乱に参加していた。

 よくよく顔を見ていると思い出してきた。


 行商隊も見覚えがあるのは半分ほど。

 そして襲ったやつを見ると行商隊の人として見覚えがあるのも半分ほどいた。


 襲ってきた連中の顔までは流石に覚えていないので分からないけれど襲った側、襲われた側にそれぞれ見覚えのある顔が混在していた。


「お、お前は!」


「覚えてんならそれで十分よ!」


 テユノは襟から手を放して男を槍で思い切り突いた。

 カバー付きとはいえその威力は高い。


 死ぬほどの激痛に男は泡を拭きながら気を失った。


「クッ……何をする!」


「何をするだと?


 本性を表したな!」


 何をすると問いかけたのは行商隊側の人だった。

 その言葉だけでこれがお遊戯会であることがありありと表れている。


 大人しく見ていれば言い訳のしようもあるのにマヌケにも襲った側と一緒になってリュードたちに切りかかるなど浅はかである。

 リュードは切りかかってきた行商隊の男の剣の真ん中に鉄鞭をぶち当てる。


 打撃武器である鉄鞭と剣がぶつかる。

 どちらが丈夫なのかは言うまでもなく、剣が2つに折れて折れた刃が飛んでいく。


 驚きを隠せない行商隊の男だけど当然だろうとリュードは呆れる。

 相手の武器をちゃんと見ることも出来ていない。


 折れた剣を呆然と眺めている男の頭にリュードの鉄鞭が直撃する。

 あっ、ちょっとヤバいかも、とは思ったけれどこんな状況なので多少の犠牲はやむを得ない。


 口から歯が飛び、1回転しながら男は転がっていく。

 丈夫で雑に振り回しても良く、当てるポイントも剣より適当でも大丈夫なので鉄鞭は取り回しやすい。


「あ、あなたたちは何者なんですか!」


 最初は味方だと思った。

 戦いに割って入ってきて襲ってきた連中と戦っているから。


 しかし行商隊もリュードたちと戦い始めて、リュードたちも容赦なく行商隊も倒していく。

 先に手を出したのは行商隊の方であることさらに理由が分からなくて新人商人たちはただ怯えて馬車を守ろうと剣を構えていた。


 瞬く間に襲った側も襲われた側も制圧されていく。

 商品が馬車に乗っていなきゃ隙を見て逃げていた。


 本来賢いなら命が大事だから商品も見捨てて逃げるべきなのだけど新人商人たちはまだ若かった。

 逃げることもできず、かと言って戦いに加わることもできずに見ているしかできない。


 お粗末演劇団にやり手は1人もいなかった。

 ただただ悪いことをするのに抵抗のない人数だけを集めただけのようだ。


 憂さを晴らすように暴れたテユノとロセアの活躍もあって新人商人以外の全員がリュードたちによって倒された。


「お、俺たちをどうするつもりだ!」


「まあちょっと落ち着け。


 何も取って食ったりしないから」


 とうとう自分達の番だと新人商人たちは青い顔で剣を構える。

 構えは悪くないが戦いに関して浅いことは隠せていない。


「そのままでもいい。


 少し話を聞いてくれないか」


 ーーーーー


「ウソだ!」


 後ろでテユノが楽しそうに男たちを縄でギッチギチに縛りあげる中でリュードとロセアが新人商人たちに事情を説明した。

 新人商人2人の名前はアシューダとゴマシ。


 親も商人であり自分たちも商人になるために親元を離れて修行していた。

 境遇はロセアと同じである。


 そしてその途中でシギサに出会って教えを受けながら同行させてもらっていた。

 リュードとロセアがこうして現れた経緯や理由を説明する。


 にわかには信じがたい話にアシューダとゴマシは動揺を隠せない。

 アシューダは声を荒げてゴマシは悩ましげにがっくりとうなだれた。


 これまで親切にしてくれていたシギサが実は2人を食い物にして奴隷にしようとしていたなんてとても受け入れられる話じゃなかった。

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