真っ赤な鳥にさらわれて1

「ふんふんふーん」


 幸せの光景。

 尻尾を揺らしながらコンロで朝食を作るルフォンの後ろ姿が朝目が覚めると見えた。


 一方外に出てみると燃え盛っている地獄絵図になっているとはとても思えない。

 こうしたコンロも置けるようにデカいテントを買ってよかった。


 デカい分テントを組み立てたりするのは大変だけどその価値はある。


「あっ、ダメでしょ!」


「うん、おいしーよ」


 そっと横から手を伸ばして朝食をつまみ食いするラスト。

 軽くルフォンが注意するけど本気で怒りはしない。


 微笑ましい朝の風景である。


「兄貴は果報者ですね」


 こうした団欒の中心にいるのはリュードだ。

 テントの中に漂う匂いにお腹を空かせたロセアが微笑んでいる。


「そうだな、幸せだよ」


「僕ももっと頑張って兄貴に認めてもらうつもりだったのにな……」


 急にしょんぼりとしてしまうロセア。

 失態続きで何も良いところを見せられていない。


 リュードと別れた時には次会う時には大商人でなくても商人として成功した姿を見せたかった。

 それなのに今はリュードに頼りきりである。


 テユノの方は戦えるので恩返し出来ているけど戦えないロセアは何も出来てない。

 自分の店など夢のまだ夢の話である。


「何いってんだよ。


 まだまだこれからだろう?」


「でも……」


「たった一回の失敗で何諦めそうになってんだよ?


 お前の夢はそんなもんなのか?」


「兄貴……」


「お前は生きてここにいる。奴隷でもなく自由だ。


 生きていれば何度だってやり直せる。


 そしてお前は大きな失敗をして経験をしたんだ。

 つまり次はきっと失敗もしていない奴より上手くやれるはずさ」


「あ、兄貴……」


 ロセアの目から涙が溢れ出す。

 この世界は厳しい世界だ。


 一瞬で命が奪われることも多い。

 でもその代わり命さえあればなんとかやり直して生きている世界でもあると思う。


 ロセアは運良くリュードたちに助け出された。

 奴隷だと好きにやり直すのは難しいけど今は自由の身でもあるしロセアも若くやり直す機会はいくらでもある。


「僕、頑張ります!


 頑張りますぅ!」


「男が泣くな……泣いてもいいから引っ付くな!」


 ロセアは気弱な奴だけど能力がない人ではない。

 頭も良くて金の勘定だってうまい。


 まだまだなところはたくさんあるけど商人として成功できない人じゃないとリュードは信じている。

 リュードの言葉に感極まってロセアはリュードに抱きついた。


「い、意外に力強いぞ……」


 男に抱きつかれる趣味はない。

 リュードがロセアを引き剥がそうとするが力が強くて剥がせない。


 火事場の馬鹿力なのかリュードの腰に手を回して泣いているロセアを引き剥がすことを諦めてリュードはため息をついてロセアの背中をポンポンと優しく叩いてあげた。


「男にもモテるのね」


 複雑そうな顔をしているリュードを見てテユノが面白そうにしている。

 嬉しくともなんともないやいと思うけどロセアに抱きつかれて身動きも取れない。


 その後ルフォンが作る朝食が出来てロセアも泣き止み、みんなで朝食を食べた。

 体を冷やす効果のある食材を使った朝ごはんを食べると体が一気に冷えてくる。


 テントの外に出てみると外は相変わらず赤く燃えていて、熱気にリュードは眉を寄せた。

 テントを片付けて溝を魔法で元に戻してヒュルヒルを通る旅を続ける。


 魔物も出るし周りの景色が変わらないので方向感覚が狂う。

 時間をかけ、自分達の位置や方向を確認しながら進むので進行は遅い。


 なるべく急いでいるけれどさらに2日をかけても予定していた半分のところまでしか移動できなかった。


「スースーするね」


「そうだな」


「うっひぇ……」


 進んできてヒュルヒルの奥にもちょっと近いところに来てしまった。

 暑さもさらに強くなり、ここで少し薬の方を試してみることにした。


 ハッカのようなスーッとする匂いがして、味は強いミントのよう。

 後味はとてもスースーしてコユキにはちょっときつかったみたいだった。


 その分効果はある。

 体がスーッと冷たくなり、これまでで1番暑さを感じなくなる。


 薬ではあるので作り方を知りたいものだとリュードは思った。

 あまり頼るのも良くなさそうだけどもっと効果を弱めて暑いところで使えば旅も多少快適になりそうだ。


 そしてさらにヒュルヒルを進んでいく。

 他国の方に向けて歩みを進めているので最奥まで行くこともなく奥から離れていくことになる。


 やや暑さも和らいできて、あと1日2日順調に進めばヒュルヒルを抜けて他国に抜けられるそうだという見通しがたった。

 領土的には他の国に入っているかもしれない。


 灼熱地獄から抜けられると思うとみんなの足取りも軽くなる。


「ね、あれ!」


「ん?


 デカい鳥……綺麗だな」


 ルフォンが空を指差した。

 上空を大きな赤い鳥が飛んでいる。


 赤くて美しい尾羽が流れるようにはためき、ゆっくりと翼を動かして飛んでいる。

 一瞬襲われるかもしれないと身構えた。


 しかし大きいせいで近く見えただけで鳥は意外と遠くにいるようだった。

 少し警戒しつつも敵意も感じないので先に攻撃でもしなきゃ襲われなさそうなので身を隠すようにしながらもあまり気にしないことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る